DADDY FACE

 

時の迷宮  第二話

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し肌寒さを感じさせる朝の光の中、3人の人影がアーケード街を歩いていた。

 

 一人は長身を黒のスーツで包んだ、30代手前の飄々とした感じの男性

 もう一人は中肉中背に黒いロングコートを着た、20そこそこの何処か頼り無い雰囲気を纏った青年

 最後の一人は・・・長い黒髪をツインテールにした、中学生くらいの美少女だった。

 

 暖かそうな茶色のコートを着た少女が、足取りも軽く歩きながら直ぐ後を歩いている青年に話しかける。

 

「しかし、何事も経験だね!!

 意外な事に警察署の御飯は美味しかったなんて♪」

 

「・・・そんな事に経験豊富な娘に、お父さんはなって欲しくないです」

 

「諦めろ、既に手遅れだ」

 

 引き攣った笑顔の青年・・・アキトに、黒スーツの男・・・ナオがこちらも引き攣った笑顔で答える。

 ナオとしても警察で一泊をして感激してる少女を見るのは初めてだろう。

 

 ・・・ましてや、父兄同伴でなんて。

 

「な〜んか、凄く馬鹿にされた気分!!」

 

 自分の意見に、予想外の反応が返ってきたことに機嫌を損ねるお子様・・・ディア。

 両手を振り回して抗議の声をあげるが・・・

 

 しかし、背後の二人はそんな事を気にしていなかった。

 

「あのな・・・娘にもう少し一般常識を勉強させろ。

 だいたい、学校はどうした?

 幾ら義務教育が廃れているからと言って、昨日今日は平日なんだぞ?」

 

「お、俺も被害者なんですよ!!

 大学の授業が押してるのに、こんな日本の最北端に居るんですから・・・グス・・・」

 

 至極真っ当な事を話しながら、現状に涙するアキトだったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

     カランカラン♪

 

「いらっしゃいませ〜

 あら、ナオさんじゃないの?」

 

 ナオの先導に従い、三人が立ち寄ったのは一軒の喫茶店だった。

 モダン調に整えられた店内に、栗色の長い髪をした女性が楽しそうに働いている。

 ウエィトレスと言うよりも、どうやらマスターに近い立場であるらしく。

 その身に着ているものは、エプロンドレスではなく黒いスラックスと白いシャツだった。

 

 そんな格好の女性に、気軽に挨拶をするナオ

 どうやら、顔見知りの店のようだ。

 

「やあ、おはようミナトさん。

 あれ、九十九の旦那はどうしたんだい?」

 

「あの人は月臣さんの牧場に、牛乳を取りに行ってるわ。

 でも、牛乳の仕入れだけにしては遅いわね・・・また、捕まってるのかしら?

 それにしても、変わった組み合わせね?」

 

 気軽に話し掛けるナオに笑顔で応えつつ、テーブルを拭いて周るミナト。

 客席の少なさを見る限り、それほど大勢の客をターゲットにして店を経営している訳では無さそうだ。

 そんなミナトに苦笑をかえしながら、入り口の直ぐ側にある4人掛けのテーブルに座るナオ。

 そして手振りでアキトとディアに座るように呼び掛ける。

 

「ほらほら、何時まで突っ立てるんだ?」

 

「あ、はい」

 

「・・・な〜んか、偉そう」

 

 父親は素直に、娘は不機嫌そうに、それぞれ分かり易い反応を返してテーブルに着く。

 それぞれが身に着けていたコートや背広を、テーブル脇にあるハンガーに吊り下げる。

 

 それを確認した後、ナオはモーニングをミナトに頼み、眼前の二人に注文を促す。

 

「じゃ、俺もモーニングでお願いします」

 

「・・・ちょっと、これってオジサンの奢り?」

 

 メニューを一通り眺め終わり、注文をする前にナオに確認をするディア。

 はっきり言えば、この3人の中で一番のお金持ちは彼女なのだが・・・

 それも桁が違うと言うレベルを超えている。

 

「・・・オジサンじゃなくてナオ、だ。

 ちゃんと名前で呼んでくれるなら、奢ってやるぞ」

 

 その一言が、ナオの命運を分けた。

 

 彼は侮っていたこのお子様を

 彼は知らなかった、隣の父親より余程このお子様のほうが世知に長けていた事を。

 

 そして、彼は思い知った・・・ディアの報復は容赦が無い事を、だ。

 

「へ〜、ナオさんのお奢りなんだ♪(ニヤリ)

 じゃ、このジャンボパフェとトロピカルジュースとホットケーキをお願いね。

 ほら、パパもこの機会を逃さずに食べる食べる!!」

 

「良し、なら俺はサンドイッチにハンバーガーのセットと・・・」

 

「・・・お前等、やっぱり親子だよ」

 

 テーブルに倒れ伏し、静かに涙を流すナオだった。

 その隣では、余りに若い親子に驚きつつ、ミナトが笑いながら注文を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、結構美味しい♪」

 

「確かに・・・素材も良いけど、調理の腕も確かだな」

 

「だろ? 俺のお気に入りの店の一つだからな」

 

 運ばれてきた大量の料理に舌鼓を打つ親子に、自慢気にナオが話し掛ける。

 どうやら支払いについては、ツケにでもする事にしたみたいだ。

 しかし、早朝からこれだけの量を食べるこの親子も・・・何を考えているんだか。

 

「それで、聞きそびれていたけど・・・結局、あの岬になんの用があったんだ?」

 

 サングラスを取り、ハンカチで汚れを拭き取りながらナオがアキトにそう尋ねる。

 口調は穏やかだ、その目は笑っていなかった。

 

「・・・俺も、詳しい説明は受けてないんですよ。

 ディア、結局あの岬の大岩になんの用事があったんだい?」

 

 珈琲を飲みつつ、ディアに今回の目的を尋ねるアキト。

 

「う〜んとね、ナオさんに説明しても分かんないと思うから話さない♪」

 

「おい・・・」

 

 流石に険しい顔付きになるナオ。

 そんなナオの凄みにも、何処吹く風でジャンボパフェをパクつくディア。

 逆に隣に座っているアキトの方が、二人の間に漂う雰囲気に戸惑っている始末だ。

 

「ほらほら、何中学生相手に凄んでるの?

 そんな事してると、ミリアさんかメティちゃんに告げ口しちゃうわよ?」

 

「う、それは・・・困るな〜」

 

 直ぐ横手にあるカウンターから様子を伺っていたミナトが、険悪な表情をしているナオにストップを掛ける。

 ミナトの発言に出ていた2人が余程苦手なのか、ナオが放っていた怒気は一瞬にして収まった。

 

 そして、気を落ち着かせるように一口珈琲を飲み、ナオが語りかける。

 

「・・・ただな、あの岬で先日変死体があがったんだ。

 お前達は先日まで東京に居た事は裏が取れてるし、実際被害者との接点はまるで皆無だ。

 だからこそ、別段拘束はしんかったんだが。

 ここ1ヶ月の間にそんな事件が4件続いてる、犯人の手掛かりはまるで無しなんだ。

 だから、お前達もあの岬には―――」

 

 その真剣な口調は、本当に目の前の若い親子を心配しての事だった。

 それが分かるだけに、流石のディアも神妙な顔でナオの言葉を聞いている。

 

 しかし―――

 

 

 

 

「ああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 魂の叫びが、静かな雰囲気に満たされていた喫茶店に響き渡った。

 その大声に驚いて、ミナトが洗っていた皿を取り落としそうになる。

 

「ど、どうしたのパパ?」

 

「・・・今日の最初の講義を落とすと、留年決定だ」

 

 壁に掛けてある、シックな木目調の掛け時計は、現在午前10時を指していた。

 ちなみに、講義開始は9時半からだった。

 

「・・・ま、長い人生そんな事もあるよな」

 

 絶望に彩られたそのアキトの顔を見て・・・

 流石にナオの口からも、慰めの言葉しか出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アキトがミナトの店『白鳥』で悲鳴を上げる一時間前―――

 

「母さま、結城の情報網に引っ掛かっていたんですけど、姉さまと父さんは警察署で一泊したみたいですよ?」

 

 携帯電話で誰かと連絡を取っていた少年・・・ブロスが、後部座席で不機嫌な顔をしている女性にそう伝える。

 緑色の髪をショートカットで揃えた美女は、それを聞いて不思議そうに首を傾ける。

 

「・・・確か、アキトの奴が受けている講義があったんじゃないか、今日は?」

 

「そうですな、私の覚えている出欠表の通りですと・・・今日の講義に出れなければ、留年確定です」

 

 何故かアキトのスケジュール表を暗記しているプロスペクターが、リムジンの運転をしながらそう告げる。

 そして、緑の髪の美女―――リョーコの決断は早かった。

 

「確かあの講義の教授はウリバタケだったな・・・『不幸』な目にあっても因果応報かな」

 

 日頃から何かと悪い噂が絶えず、実際にそれだけの悪行を重ねている教授の顔がリョーコの頭に浮かぶ。

 そして、その言葉を聞いたブロスは肩を一つ竦め、何処かに再度電話を掛けるのだった。

 彼としても父親の苦悩と、姉の機嫌を損ねる位なら、他人がどうなろうと知った事では無いと考える性格であった。

 

 ・・・本当に良い性格をした親子である。

 

「あ、僕ですけど〜

 ちょっと病院に一人運んで欲しいんだ。

 うん、『今から』事故にあうから」

 

 勿論、使えるべき主人とその母親に運転手が文句を言うはずも無かった。

 

 

 

 

 

 

「・・・やっぱり恐いよ、この親子」

 

 比較的まともな感性を持つリョーコの友人は、遥か北海道で『事故』に合う事が決定された教授に哀れみを覚えた。

 でも、止め様とはしないんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、いい加減立ち直れよ!!

 大丈夫だって、留年の一つや二つ社会勉強だと思えばさ!!」

 

「留年は別に良いんですよ。

 ただね、その事について凄く怒る知り合いがいるんです」

 

 肌寒く感じる風を全身に受けながら、アキトは虚ろな瞳で例の岬から大岩を見ていた。

 あの後、落ち込むアキトを喫茶店から連れ出したディアが、再びこの大岩に行くと駄々をこねたのだ。

 それを見て、流石に気の毒に思ったのか・・・ナオは二人を連れてこの岬へとやって来た。

 

「その年であんな大きな娘がいるんだぞ?

 後はド〜ンと構えて、父親らしいところを見せなきゃ駄目だぜ!!」

 

「・・・そうですね、こんな事で落ち込んでたら駄目ですよね」

 

 実際、この程度で落ち込んでいてはディアや息子のブロスに付き合うことは不可能だ。

 

「うん・・・そう、だからさ、この際あの大岩とその周辺を・・・うん、宜しくね♪」

 

 男二人が友情を深めている背後で、なにやら娘は携帯で連絡をとっていた。

 弾む愛娘の声を背に、アキトは強く生きようと自分に喝を入れていた。

 自分が留年をする最大の原因はその娘にあるのだが、このお人好しはその事を責めるつもりは無いらしい。

 

 ある意味、大人物とも言える。

 ・・・悪く言えば「親馬鹿」の一言で終ってしまうが。

 

「おい、お嬢ちゃん。

 あまり俺から離れるなよ・・・って、何してるんだ?」

 

 ディアの右腕に着けているリストバンドから浮かぶ立体映像に、不思議そうな顔をするナオ

 それとは逆に、愛娘の表情に嫌な予感を募らせていくアキト

 

「えっとね、買収終ったから。

 後は好きなようにさせて貰うニャン♪」

 

 アキトは悟った、何時もの理不尽が始る、と

 ナオは悪寒を感じた、そのディアの不敵な笑みに

 

「ログオン権限はアドミニストレーターで、セイフティ解除!!」

 

「ま、待つんだディア!!」

 

 何とか娘の行動を止め様とするアキトの努力を嘲笑うかのように、ディアは最後の言葉を紡いだ・・・

 

「ターゲット、目の前の大岩♪」

 

  ――――――!!

 

 無音のまま赤い線が突如、大岩と空を結んだ

 上空の雲は、その赤い線が放つ高熱により円状に穴が開いていた

 

 ナオはその非常識な光景に呆気にとられ

 アキトは両手を頬に当てて声にならない絶叫を上げた

 

 しかし―――

 

 超高熱のレーザーに襲われながらも、大岩に変化は無かった。

 いや、その大岩の上空で見えない壁に遮られるように、レーザーは止まっていたのだ。

 

「な、何か効いてないような・・・いや、全然効いてないよ!!

 凄いよパパ!! ほらほら!! キラー衛星の攻撃を防いでる!!」

 

 大好きなパパの戦闘コートの裾に取り付き、嬉しそうな声を上げるディア

 

「わ〜、だからそんな武器を振り回しちゃいけないって言ってるだろ!!」

 

 そんなディアに、流石に悲鳴の様な声で注意をするアキト

 

「大丈夫、ここら辺一体とあの大岩は買収済みだから♪

 私が自分の所有物に何をしようと勝手でしょう?」

 

「・・・お前等、一体何者だ」

 

 一連の事態に、流石に驚きを隠せずうめくような声で親子に詰め寄るナオ

 

 言い訳をするべきか、それとも詳しい説明をするべきだろうか?

 そうアキトが悩んでいる時、彼は視界の片隅に・・・徐々に膨らんでいく赤い光球を見つけた。

 その光球は衛星軌道からの攻撃を受け止め、なおかつ溜め込んだモノだと直感する。

 

 そして彼の不幸慣れをした勘が叫ぶ、アレは自分達を狙っている、と。

 

「ナオさん!! 取りあえず逃げましょう!!」

 

「はにゃ?」

 

 愛娘を小脇に抱え、そのまま常人には絶対に不可能な速度でダッシュをするアキト!!

 

「お、おい!!

 ヤバイんじゃね〜のか、あの赤い光の球はよぉぉぉぉぉ!!」

 

 アキトが見ていた物に、ナオも気が付き急いでアキトの後に続く!!

 アキトには到底及ばぬものの、その動きは実に鍛えられたものだった。

 

 そして・・・

 

    キュドッ―――

 

 超高熱の光球により大きく抉り取られる岬・・・

 海水の蒸発する蒸気爆発と、岬の抉り取られる衝撃を背に受け三人は前方に凄い勢いで吹き飛ばされる。

 

 

「ま、またこんな目に会うのか〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 涙目になりながらも、腕の中の娘を守るために必死に受身を取るアキト!!

 

「凄い凄い凄い!!」

 

 親の心、子知らず―――を、地で行くようにアキトの腕の中ではしゃぐディア

 

「アキト!! テメー、もう一度そのお子様に教育をしなおしとけ!!

 それが嫌なら世間に放置するな!! そんな危険人物はよ〜〜〜〜〜〜!!」

 

 最後に、ナオの絶叫が崩壊し続ける岬に響いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、分かりました、じゃ、引き続き情報収集をお願いしますね〜」

 

「何か分かったのか?」

 

 息子の不機嫌そうな顔を見て、何か事件が起こったのかと問い質すリョーコ

 親友イツキは昨日の酒が残っているのか、今は快適なリムジンの座席で熟睡中だ。

 

 ・・・なんだかんだと言いながらも、この女性も良い度胸をしている。

 

「はい、岬の一つが消滅しました」

 

「・・・なんか、原因はウチの娘としか思えない破壊規模だな」

 

 流石にちょっと引き攣った顔をするリョーコ

 

「その破壊の10分前に、姉さまの会社がその周辺を買収してますからね〜

 まず、犯人は確定でしょ・・・プロスペクターさん、目的地に急いで下さい。

 このままだとパーティに参加し損ないそうですから」

 

 珍しく、秘書を急かすような事を言うブロスに、リョーコは少し目を細める・・・

 

「・・・結局、お前もディアとアキトと一緒に遊びたいんだな?」

 

「勿の論ですよ」 

 

 そう言って、楽しそうに笑う息子さんだった。

 

 

 

 この家族が揃った時、その地は地獄と化すのだろうか?

 いや、なんだかそれは決定事項と思える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― オマケ ―――

 

「ねえねえ、母ちゃん・・・どうして父ちゃんが入院したの?」

 

「ツヨシ・・・理由は聞かないで。

 お母さんも呆れているんだから」

 

 まさか、学生の盗み撮りに夢中で車に跳ねられたなんて言えない・・・言えないわ。

 

 

 

 

 

 

 

後書き

おお、続編が出ましたね(他人事)

いやいや、やはり破壊をする時は派手にしないとね〜(他人事)

それにしても、大分キャラが変わってきてるなブロス(やはり他人事)

これを機に、少しは独立した個性をもって欲しいですね(本当に他人事)

ではでは〜次も頑張って下さいね〜(最後まで他人事)

 

 

 

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