不思議な空間。

 暖かい光に満ち、大気はその場で息を潜め、ただ静寂のみが支配する空間。



 先刻まで居た『闇』とは何もかもが対照的な丸い空間。



 その空間の中心で。



 光の玉が、宙に浮いていた。  



 『―――我が世界へ進入せし者よ―――』



 水色の光を湛え、どう見ても無機物にしか見えないその光の球。



 何処か遠くから響くような声で



 とても近い所で囁いている様な声で



 勇猛な戦士の男を思わせる声で



 優しく美しい女を思わせる声で



 それは俺へと語りかけた。



 『―――お前の心を我に見せよ―――』



 俺の中の『総て』が、その声に応える様に―――沸き溢れる泉の様に俺の内から離れ、また戻ってくる。



 総て。

 怒り、悲しみ、そして泣いた、俺の『罪』。

 笑って、喜んで、そして愛した、皆との『思い出』。





 そして―――『憎悪』―――。





 ああ、何て無力。

                                ―――オレハ―――



 ユリカ。かつて愛した人よ。

                                ―――マモレナカッタヒトヨ―――



 火星に住んでいたA級ジャンパー達よ。

                                ―――ヒトリトシテスクエナカッタ―――



 何故俺は彼らを守る力を持たなかったのか?

                                ―――ナガサレルママダッタアノコロ―――



 何故俺は力を求めなかったのか?

                                ―――キカイハイクラデモアッタトイウノニ―――



 何故あの頃の俺は自分に満足していたのだろう?

                                ―――ゴウマンダッタノダ―――



 今、この身に宿る人外の力でも。

                                ―――キヅイタノハウシナッテカラダ―――



 守れぬものがあるというのに。

                                ―――ソレヲシルノハオソスギタ―――



 俺は―――

                                ―――トガビト―――



 『―――おお、お前は・・・お前は自らを赦せぬのか―――』



 慈しむ様な声が聞こえる。



 『―――お前は未だ囚われている。喪う事を恐れ、何も持とうとせぬ―――』



 声は続く。



 『―――コトワリの芽生えすらも無い―――』



 その声を、最後にして。



 ゆっくり、ゆっくりと。

 

 眠りにつく幼子のように。

 

 意識が遠のいていく。



  ―――さあ、行け―――

  ―――行くがいい。そして、見て来い。我が世界を―――

  ―――お前は自らを赦さねばならぬ―――



 ・・・・・・・・ゆっくりと、堕ちて行く。

 





  Hell and Heaven  〜天国と地獄の狭間〜  第二話

                               作者 ベルゼブブ



    『なんて事だ!私の仲間達は何処へ行った!?』

                                        ―――――ある冒険者の手記



 

    



 ボルテクス界―――

 大きな光の球体を中心とし、その身を『内側に』丸めた世界。

 砂漠と廃墟、そして虚無が広がる世界。





 命という命は、自らの根付く場所を失い、何処かへと飛び去ってしまったらしかった。





 廃墟が乱立している場所から少し離れた場所。

 砂漠に囲まれた地点に一つの建物があった。



 これといった特徴の無い、ともすれば他の廃墟に紛れてしまいそうな建物だ。

 大きな光の球体から放たれる光で、濁った水色に輝く外壁には看板が掛かっている。

 看板には建物の名であったろう単語が書かれていた。

 

 



 『――――衛生病院』  



 

 大半は薄くなっていて、読めないが。

 辛うじて読めたそれにはそう書いてあった。





        ◆



 

 『霊安室』

 そう書かれたプレートがドアで煌々と輝いていた。

 ドアは開け放されていて、中の様子が外からでも分かる。

 



 その霊安室の検死用ベッドの上で、一人の男が膝を抱え、俗に言う体育座りの様な格好で眠っていた。



 

 男は上半身裸であった。

 男の体は鍛えられており、抜き身の剛剣、いや極限まで引き絞られた弓の様な印象を抱かせる。 

 見る者が見れば、この男は戦士だと気付いただろう。 

 それも、出来るだけ遭うのは避けたい凄腕の戦士だと。





 何よりも目を引くのは、体を余す所無く覆う黒い刺青。

 そして、首筋に生えている、本来人間には存在しない・・・角。





 『人間』と分類していいのだろうか?

 少なくとも一瞬で「コイツは人間だ」とするのは抵抗があった。





 と、突然黒い刺青を縁取りながら、淡いエメラルドグリーンの輝線が男の身に走り出した。



 それと同時に、ピクピクと瞼を震わせる男。



 



 ・・・彼に目覚めの時間が迫っているらしかった。







         ◆





 「・・・・うぁ・・・・」



 目に入ってくる光に思わずうめきつつ、俺は目を開いた。

 酷く体がだるい。北斗と24時間ぶっ続けで勝負すればこの様な感じに消耗しているかも知れないなと思った。

 辺りを見回す。

 寒いことや遺体が安置されている事からして―――霊安室だろう。





 とても心地良い・・・だが酷く気分の悪い夢を見た気がする。が、記憶が曖昧だ。

 ・・・その分それを補ってかどうかは知らないが、ハッキリと覚えているのは、山崎の実験に勝るとも劣らないあの痛み。



 

 夢じゃ、無い―――・・・



 

 生きてる分良いとしよう。

 実際、体の感覚には何も支障が出ていないようだった。



 見えるし聞こえる。痛いしだるいし、指の味はしょっぱいと分かった。

 触覚もちゃんと有る。今自分は何も上着を着ていないと分かるのだから―――

 





 「・・・えっ・・・!?」







 思わず驚きの声が口から零れ出た。

 無い。ついさっきまで上半身を覆っていた黒いパイロット・スーツが―――無い。

 下半身のスーツはしっかり残っていた。だからと言って上半身が如何にかなる訳でもないが。

 だからって上半身だけ着ていて下半身だけ素っ裸だったりしたらそれはそれで問題だが。

 ともかく、上半身は素っ裸であった。



 

 『異常』は、それだけではない。



 

 自分の体を、余す所無く刺青が覆っているのだ。

 刺青といってもそう派手な物ではなく、ただ黒いラインが図形を為しつつ体を左右対称に走っているだけなのだが。 

 その刺青のラインを縁取るようにエメラルドグリーンの輝線―――ナノマシンの輝線に似ている―――が輝いていた。







 更に驚いたのは。







 首の後ろに角が―――立派な黒い一本角が生えていた事だった。







 







 「・・・・・・(きっかり二秒)うおぉぉぉぉぉぉ!?」





 

 北辰の襲撃や北斗の奇襲、ルリ達の夜這いからゴートの布教まで慌てず騒がず対応してもうすっかり『驚き』の神経が磨耗してしまっているアキトだったが、これには驚くしかなかった。

 まぁ、自分にいきなり角が生えたり刺青が彫られていたりしてるのに驚かない人物が居たらそれはそれで見てみたいが。

 

 

 (何だこれ!?付け角!?・・・痛!引っ張っても取れない・・・・て言うかこれ、首の骨から生えてないか・・・!?)



 

 引っ張ってもその角は取れない。

 試しに、ほぼ全力で角を殴ってみる。 



 「―――――!」



 痛い。ものすっごく痛い。

 何が痛いってもう銃弾が骨を貫通してついでに内蔵を貫きながら脳に達したような。

 とりあえず表現が出来ない様な訳の分からない悲鳴―――少なくとも日本語には如何頑張っても聞こえない―――を上げるアキトだった。

 



      ◆





 「状況を整理しよう・・・・」





 痛みで涙目になりつつそう呟くアキト。

 別に周りに人は居ないので声を出す必要はない。のだが、今の彼は100人が見て100人が「取り乱している」と判断するであろう状態。

 今、正常な判断を彼に求めるのは些か酷だ。



 

 単に自らを落ち着かせようとしているだけかも知れないが。 





 「そう・・・俺は、遺跡に強制ジャンプさせられた」



 

 一つ一つ、言葉を噛み締めつつ搾り出すアキト。

 





 今ルリたちは何をしているのだろうか?

 またルリ達に会えるのだろうか?

 



 グルグルとその言葉が頭をよぎる。

 

 ボゾンジャンプで帰る事が出来るかどうかさえ分からないのだ。

 一度はラピスとのリンクを辿って還ろうか、とも考えたのだが、出来なかった。



 まず第一。CCが無い。

 ジャンプのトリガーとなるCC。それが無ければジャンプそのものが出来ない。

 いきなり大前提が崩れてしまった。





 第二に、リンクが断絶している。

 これではジャンプ出来たとしても、何処へ飛ぶか分かった物ではない。







 ―――お手上げである。







 「その後、ブローディアのコクピットじゃない妙な黒い空間に投げ出されて、そこに出てきた妙な二人に何かをされて」



 



 それでここに居た・・・

 

 状況整理が終わり、一息つくアキト。

 



 ・・・待てよ?





 そこでふと、引っかかるものを感じる。

 



 静止。

 



 自分は大切な何かを忘れている。

 とても大切な何か。

 掛け替えの無い・・・何かを。









 ・・・ブローディアは?







 大切な大切な、二人の家族達を乗せた・・・己の愛機。

 見回しても、有る訳が無い。

 二度目だが、ここは『霊安室』だ。ロボットが着陸できるような場所でもないし、そもそも入れるかどうか。





 

 そんな。

 



 ディア。





 ブロス。









 居ても立っても居られない。

 





 開いていた扉を通り、アキトは外へと飛び出した。













 あとがき



 起承転結・・・書けてる方が本当に羨ましいです。

 他の方の作品を見て絶望的な差がある気がしてならないベルゼブブです。こんにちは。



 自分はまず最初にプロットを書き、それから骨組みとなる文章を書いて、 そして肉付け――校正とか

 「ココはこうした方が良さそうだ」と思う事などをするんですが、それでは不味いんでしょうかねぇ・・・

 取り合えずまだまだ修行が要りますね。



 さて、次は戦闘。

 動きが遅いです・・・自分の文才の無さを痛感します。

 このペースでは何時終ることやら。 



 どうか次の作品も読んでやってください。

 ご意見、ご感想お待ちしております。

 それでは、また今度・・・







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代理人の感想

起承転結というか序破急と言うか・・・・

いちばん簡単なのは「一つの話の中で主人公が一つの目的を持ち、それを果したところで区切る」ことですね。

ロボットアニメやヒーローもの、時代劇ならその回の敵なり悪人なりを成敗するのが目的ですし、

恋愛ものなら恋愛の葛藤が一つ生まれたり解決したり別れがあったりというあたり。

ノクターンをSSに落とし込むなら多少のアレンジを入れて「最初の戦闘をこなす」「ピクシーと出会い、助ける」

そして最後に「フォルネウスを倒す」などが各話の主軸としてはいいかなと。

要するに文章量で区切るんじゃなくて、話のいいところで区切るのがコツってことですね。