機動戦士ガンダムSEED AnotherEdition

第5話 『崩壊』

 シグーを撃退したランチャーストライクが、コロニーの大地に降り立った。駆け寄るサイ達。コクピットが開き、青い顔をしたキラが機体から出て来る。
「おい、大丈夫かよ、キラ」
 トールの声に頷こうとし、そこで限界が訪れた。腹部から喉まで、急激にせり上がって来る不快感。キラは耐え切れずに地面に這いつくばり、胃の内容物を嘔吐する。
「う……ぐ、ごげ……」
 半ば消化された昼食のサンドイッチが吐き出される。胃が空っぽになっても吐き気はおさまらない。今度は黄色く酸っぱい胃液がこみ上がって来た。
「全然、大丈夫じゃなさそうね」
 キラの背を優しくさするミリアリア。横からカズイが水差しを差し出す。キラは礼も言わずに受け取った。口をすすぎもせず、貪る様に飲み干す。
「はあ、はあ……」
 ようやく人心地がついた。地面に座り込み、荒い息で喘ぐ。その目に、着陸する地球軍戦艦の、白亜の巨体が映った。


 ヴェサリウスの格納庫は喧騒に包まれていた。帰投したジンに整備兵が群がり、機体の点検や応急修理、補給等を行っている。そんな格納庫の片隅で、アスランは奪取したイージスの調整を行っていた。ちなみに、イザーク、ディアッカ、ニコルが奪取した3機のMSは、ガモフに収容されている。
 無言でキーボードに指を走らせる。コーディネイター特有の高速打鍵。機体のデータを引き出し、OSを書き換えていく。複雑な作業ではあるが、決して困難ではない。
「外装のチェックと充電は終わりました。そちらはどうです」
 機体周りの点検を行っていた整備兵の声に、アスランは頷いた。
「こちらも終了だ。しかし、よくこんなOSで……」
 呆れたように呟いたちょうどその時、ヴェサリウスの艦内に甲高い警報が鳴り響いた。
『クルーゼ隊長機、帰還! 被弾による損傷あり! 消火班、救護班はBデッキへ!』
 発着デッキが開き、クルーゼのシグーが入って来る。その姿を見てアスランは驚いた。シグーの左腕は失われていた。艦砲級のビームでも受けたのだろうか、損傷部には融解の痕がある。
 さすがに、クルーゼの技量は一流以上だった。片腕を失いバランスが狂った機体であるにも関わらず、制動索を使う事無く着艦する。
「隊長機が腕を?」
 小さく呟くアスラン。確かにイージス達Xナンバーズの性能は驚異的だ。MSサイズのビーム兵器にPS装甲、それらの稼動を可能とする大容量バッテリー。ザフトの次期主力機であるシグーを、完全に凌駕している。
 だが、それでもありえるのだろうか。いかに機体の性能差があったとしても、『あの』クルーゼがナチュラルのパイロット相手に遅れを取るなどという事が。
(まさか!?)
 モルゲンレーテ工場での戦闘が脳裏をよぎる。もし、あそこにいたのが本当にキラだったとしたら?


 着陸したアークエンジェルからタラップが下り、5人の士官と下士官、そして10数名の銃で武装した作業員が姿を現す。
「ラミアス大尉、ご無事で何よりでありました!」
 先頭で生真面目に敬礼する女性士官――ナタルの姿を見て、マリューも僅かに口元をほころばせる。
「あなた達こそ、よくアークエンジェルを。おかげで助かりました」
「いえ、当然の事をしたまでです。ところで」
 ナタルの視線が、キラ達に向けられる。
「あの少年達は一体?」
 ナタルの問いに口ごもるマリュー。
「ああ、彼等は……」
「へえ、こいつは驚いたな」
 突然、横合いから声をかけられて、マリューはそちらへ顔を向けた。紫のパイロットスーツを着た長身の青年士官がこちらに歩いて来ていた。おそらくはシグーと戦闘していたメビウスのパイロットなのだろう。端正な顔立ちだが、やもすれば軽薄ととられかねない笑みを浮かべている。
「地球連合軍第7軌道艦隊所属ムウ=ラ=フラガ大尉だ。よろしく」
「第2宙域第5特務師団所属マリュー=ラミアス大尉です」
「同じくナタル=バジルール中尉であります」
 互いに敬礼を交わして名乗りあった後、フラガが切り出した。
「乗艦許可を貰いたいんだがね。俺の乗ってきたフネはザフトに落とされちまってね。この艦の艦長は?」
 重い口調でそれに答えたのはナタルだった。
「艦長以下、艦の主だった士官は皆、戦死されました。無事だったのは艦にいた下士官と工員のみ、ここにいるのが全員です。私はシャフトの中で運良く難を避けられました」
「そんな……」
 思わず呟くマリュー。薄々予想はしていたが、直接に告げられると重い責任がのしかかってくる。
「という事は、現在は私がアークエンジェルの責任者というわけね」
「は、そうなります」
 マリューのような技術士官が艦の指揮を執るのは異例だが、前例が無い訳ではない。元々、大西洋連邦軍は技術士官に対しても兵科士官と同様の指揮系統(ライン)を認めており、そのための訓練や教育も行っている。
「了解しました。フラガ大尉、貴官の乗艦を許可します」
「ん、了解。ところであれは?」
 キラ達に親指を向け、フラガが言う。
「ご覧の通り、民間人の少年です。襲撃を受けた時、何故か工場区にいて私がストライクに乗せました。名を、キラ=ヤマトといいます。彼のおかげでジンとシグーを撃退し、あれだけは守る事が出来ました」
「ザフトを撃退した、あの子供達が……?」
 マリューの返答に、ざわめくクルー達。その中で、フラガがそっと尋ねる。
「俺はアレのパイロットになるヒヨッコ達の護衛で来たんだがね、連中は?」
「丁度、彼等が司令ブースで艦長に着任挨拶をしている時に爆破が起きましたので、共に――」
 ナタルの沈痛な声に、軽薄そうだったフラガの顔が一瞬だけ重々しく引き締められた。
「そうか」
 その一言だけを口にすると、フラガはゆっくりした足取りでキラ達に近づく。
「な、何ですか?」
 警戒の声を上げるキラ。フラガはそれには答えず、さりげない口調で爆弾を投げ込んだ。
「君、コーディネイターだろう?」


「機体本来のOSについては君達も既に知っての通りだ。使い物にならない」
 ヴェサリウスのブリッジに、クルーゼの声が流れる。傍らにはアデスが直立し、戦術モニターを挟んだ反対側にはミゲル、オロール、それにアスランの3人のパイロットの姿がある。
「なのに何故、この機体だけがこんなに動けるのかは分からん」
 モニターに映されたストライクの姿を見、クルーゼは続ける。アスランは小さく頷いた。
「だが我々がこんなものをこのまま残し、放っておく訳にはいかんという事ははっきりしている。捕獲できぬとなれば、今ここで破壊する。戦艦もな。全力出撃だ。侮らずにかかれよ」
「「「はっ!」」」
 クルーゼの声に敬礼するパイロット達。その後にアデスが続ける。
「ミゲル、オロールはただちに出撃準備! 指揮はミゲルが執れ、ガモフからもマシューが出る! 今度こそ息の根を止めてやれ!!」
 アデスの声に、ミゲルとオロールは弾かれたような勢いでブリッジを後にする。
「アデス艦長、私も出撃させてください!」
 アスランの訴えに、だがアデスは首を横に振った。
「今回は譲れ、アスラン。ミゲル達の悔しさも、貴様に引けは取らん」
「し、しかし――」
 なおも食い下がるアスランの肩を、ミゲルが叩く。
「我慢しろよアスラン。ラスティの仇は、俺が取ってやるさ」


 フラガの言葉は、その場の空気を凍りつかせた。
「はい」
 ただ一言、そう答えるキラ。とたんに、兵士達がキラに向けて銃を構える。
「やめろよ!!」
 それを見たトールが、キラを庇って前に出た。
「コーディネイターでもキラは敵じゃねえよ! さっきの見てなかったのか!?」
 懸命に訴えかけるトール。サイやミリアリア達もそれに倣う。
「銃を下ろしなさい」
 それを見たマリューが、静かな声で命じる。
「そう驚く事でもないでしょう? ヘリオポリスは中立国(オーブ)のコロニーですもの。戦火に巻き込まれるのが嫌で、ここに移ったコーディネイターがいたとしても不思議じゃないわ。違う、キラ君?」
「ええ、まあ。僕は第1世代のコーディネイターですから」
 第1世代コーディネイターとは、ナチュラルの両親から産まれたコーディネイター、つまり受精卵の時に直接の遺伝子操作を受けた者の事を言う。これに対し、親がコーディネイターでその能力を引き継いで生まれたコーディネイターは、第2世代や第3世代と呼ばれている。
「すまなかったな。確かめたかっただけなんだが、とんだ騒ぎにしてしまって」
 さすがにバツの悪そうな表情で頭を掻くフラガ。
「ここに来るまでの道中、これのパイロットになるはずだった連中のシミュレーションを結構見てきたが、奴らノロクサ動かすのにも四苦八苦してたもんでな」
「…………」
 無言で俯くキラに、マリューが話しかける。
「キラ君、悪いけどストライクのパーツの搬入を頼むわ。艦に部屋を用意させるから、それが終わったら休んでちょうだい」
「……分かりました」


 ヴェサリウスのカタパルトから、1機のジンが発進する。通常のマシンガンでは無く、両手両足に大型のミサイルランチャーを装備した、どこか歪で禍々しい姿。D装備と呼ばれる、拠点攻略用の重爆撃装備だった。
『オロール機、発進完了。ミゲル機、カタパルトへ』
 続いてミゲルのジンが発進する。こちらはジン用のビーム兵器である特火重粒子砲を装備している。
「よし、ハッチ閉鎖」
 2機の発進を確認したカタパルト士官が指示を出したその時、背後から鈍い駆動音が響いた。
「何だ?」
 振り向いた彼の目に映ったのは、ハンガーの拘束を強引に外し、動き出したイージスの姿だった。
「なんだ、おい、あれも出るのか!? 聞いてないぞ!!」
 慌てて避退する整備員や誘導員。それを尻目に、カタパルトへと進むイージス。当然、カタパルトの機能は停止しているため、2、3歩助走をつけた後で床を蹴り、その反動で艦外に飛び出す。充分にヴェサリウスとの距離が開いたところでスラスター点火。最大戦速で先行したミゲル達を追う。
(確かめなければ、あの機体――ストライクのパイロットを)
 イージスのコクピットの中、アスランは小さく呟いた。


 一方、アークエンジェルのブリッジでは、マリュー、フラガ、ナタルの3人が、善後策を協議していた。
「ストライカーパックの回収が終わり次第、ヘリオポリスからの脱出を開始しますが、当然ザフトは待ち受けているでしょうね」
 マリューの言葉に、フラガが頷く。
「連中、まだ何機かジンを残しているはずだ。クルーゼの野郎に一矢報いた以上、次は形振り構わず俺達を潰しに来るだろう。あのガキどもはどうすんだ? 出てきゃ、ド派手な戦闘になるぞ」
「シェルターが閉鎖されている以上、私達に同行してもらうしかありません。それに、ストライクの力も必要になると思うのですけど……」
「あの坊主は了解しているのかい?」
 フラガがそう指摘した時、今まで黙っていたナタルが提案する。
「今度はフラガ大尉が乗られれば?」
「おい、無茶言うなよ!あんなモンが俺に扱える訳無いだろう!」
 思わず大声を上げるフラガ。
「あの坊主が書き換えたOSのデータ、見てないのか?バリバリのコーディネイター用に調整されちまってる。俺達ナチュラルがどうこう出来る代物じゃねえよ」
「で、では元に戻させれば。とにかくあんな民間人、それもコーディネイターの子供に、大事な機体をこれ以上任せるわけにはいきません」
 ナタルの再度の提案に、フラガは薄く笑って手を上げた。
「そんでノコノコ出て行って、的になれっての?」
「「…………」」
 沈黙するマリューとナタル。2人にも分かっていた。今までの戦闘で自分達が生き延びてこれたのは、単にストライクの性能だけではなくキラ=ヤマトという少年の力によるものだという事を。
 八方塞の状況を再確認し、重く沈むブリッジに、不意にアラートが鳴り響いた。
「コロニー全域に電波干渉!!」
「Nジャマー数値増大!」
 オペレーター席のチャンドラとパルが叫ぶ。この事が意味するのは、つまり――
「チィッ!やっぱこっちが出て来るまで、待つ気はないのかあの野郎!!」
 思わず立ち上がり、悪態をつくフラガに、ナタルが尋ねる。
「敵はまた、コロニー内で仕掛けてくるつもりでしょうか!?」
「ああ、楽だぜえ。こっちは発砲出来ない、向こうは撃ち放題だ!」
 唇を歪めてそう答えると、マリューに向き直る。
「ラミアス大尉、指揮を取れ!君が艦長だ!」
「私が!?ですがフラガ大尉の方が先任の筈ですが?」
 同じ階級の場合、先のその階級へ任じられた者が上位に立つ。古代ローマの時代から変わらない軍の伝統だったが、フラガは首を横に振った。
「確かにそうだが、この艦の事は分からん」
「了解しました。大尉のMAは?」
「駄目だ、まだ出られん」
「ではフラガ大尉には戦闘情報所(CIC)をお願いします」
 マリューはそう答えると、ブリッジに詰めるクルー達を見回す。
「アークエンジェル発信準備!総員第一種戦闘配置!!」
 よく通る声が、艦橋に響いた。


「これで、最後か」
 最後のパーツ(どうやらストライカーパックらしい)を収めたコンテナを前に、キラは小さく息をついた。疲労が澱のように積もっているのが実感出来る。これが終わったら取り合えず休もう。熱いシャワーを浴びて、ゆっくり眠って、そして――
(そして、どうなるんだろう?)
 今度は、不安がこみ上げてくる。アークエンジェルと行動を共にすれば、また戦闘に巻き込まれることになる。でも、シェルターが封鎖されている以上、逃げ出す事さえ出来ない。
「何で、こんな事に?」
 何が悪かったのだろうか? あの時、見知らぬ少女なんて無視して、トール達と一目散にシェルターに逃げ込めば良かったのだろうか? 自分自身の下卑た想像に、さらに俯くキラ。と、その耳が新たな爆音を捉えた。
「こ、今度はいったい?」
 慌てて上空を振り仰ぐキラ。スクリーンに映ったのは、外壁に風穴を開けて侵入してきたジンの姿だった。ジンが装備している大型のランチャーやミサイルを目にし、キラは顔色を失う。
 迷っている時間はなかった。あんな武器をコロニーの中で使われたらどんな事態になるか、火を見るより明らかだ。
「くそっ」
 足元のコンテナを開け、ストライカーパックを取り出す。今度のパックは左肩のアーマーと左腕に固定する小型のシールド、そして背負われたストライクの全高ほどありそうな大剣から成り立っていた。
「<ソードストライカー>、剣か。今度はあんな事無いよな」
 ランチャーストライクがヘリオポリスに与えた損害を思い起こし、思わず身震いする。同時に、シグーとの戦闘で味わった苦痛と恐怖が込み上げてきた。それを振り払うかのように大剣――対艦刀(シュベルドゲベール)を抜き放ち、跳躍。
「戦うしかないんだ、今は」
 萎縮する自分の心身に、キラはそう言い聞かせた。


「アークエンジェル離陸!ヘリオポリスからの脱出を最優先とする!戦闘ではコロニーを傷付けぬよう留意せよ」
 マリューの命令と同時に、345メートルの巨体が離陸する。ほぼ同時にコロニーの外壁が爆発する。コロニーの中に躍り込む数機の影。
「MSの機影、4機確認――っ!?い、1機はX303イージスです!!」
 CICに詰めるトノムラの報告に、ブリッジ中が息を呑む。
「もう実戦に投入してくるなんて……!」
「今は敵だ!」
 苦い声で呟くマリューに、フラガはあっさり言い放つ。
「対空戦闘用意!艦尾ミサイル発射管、全門開け!対空ミサイル(コリントス)装填!」
 ナタルの指示に、だがマリューは頭を振る。
「PS装甲に実体弾は効かないわ!主砲を使って!」
「了解、主砲発射準備!」
 ナタルの操作と同時にアークエンジェルの左右の船体その基部が展開し、225センチ連装ビーム砲(ゴットフリート)がせり上がって来る。
「主砲レーダー連動、焦点拡散! 撃てェッ!!」
 裂帛の気合と共に極太の光条が4本、放たれた。


 アークエンジェルの砲撃を、だがザフトのMSは散開してあっさりと回避した。
「オロールとマシューは戦艦を、アスランは俺の援護だ!無理矢理ついて来た根性、見せてもらうぞ!!」
 素早く指示を出すと、ミゲルは向かってくるストライクに重粒子砲を向ける。
「そーら、落ちろっ!!」


 目の前のジンが手にした大型のランチャーが自分を狙っているのに気づいたキラは、ストライクへに回避軌道を取らせる。ほぼ同時に放たれた荷電粒子の矢が、一瞬前までストライクが存在していた空間を貫く。
 外れたビームはそのまま直進、中央シャフトと地上とを結ぶ支柱(アキシャルシャフト)に命中した。
「ああっ!!」
 悲鳴を上げるキラ。その一撃で切断されたシャフトは地上へと落下、蛇のようにのたうつと市街地を押し潰す。
「コロニーに当てるわけにはいかない!どうすれば!?」
 さらにジンが第二射を放つ。キラは咄嗟に対艦刀のビーム刃を展開すると、それでジンのビームを受け止める。ビーム同士が干渉を起こし、強烈な閃光と衝撃が周囲を揺さぶる。
「これ以上、やめろーっ!!」
 続けざまに放たれるビームを全て切り払いながら、キラは叫んだ。


「敵機、直上から突っ込んできます!!」
「弾幕射撃開始!!」
 命令と同時に、アークエンジェルの全身に装備された75ミリ対空機関砲(イーゲルシュテルン)が一斉に火を噴く。だが、鈍重なD装備のはずのジンは、忌々しいほど巧みな運動で火線をかいくぐって射点を確保、次々とミサイルを放つ。
「迎撃、間に合いません!」
「面舵40度、全速!!」
 巨体を震わせ、回避機動を取るアークエンジェル。だが、到底全部はかわせない。続けざまの衝撃が艦を揺さぶる。
「クソッ!照準、マニュアルでこっちによこせ!!」
 言うなり、フラガの指がピアニストの繊細さと力強さでコンソールの上を走る。それに連動して2基の主砲砲塔が旋回、仰角を取り、発砲。絶妙のタイミングで放たれたビームが、離脱するジンを1機捉える。
「うっし!」
 拳を握り、小さくガッツポーズを作るフラガ。だが、その表情が一瞬で引きつる。撃墜されたジンは当然の事ながら地表に墜落、そこで推進剤と弾薬に引火し、大爆発を起こしたのだ。
「これ以上、コロニーに損害は与えられないわ!」
「ではどうしろというのです!?沈められろとでも!?」
 マリューとナタル、2人の叫びが艦橋内に響き渡った。


「く、なんて奴だ」
 手にした大剣で、亜光速に達するビームをことごとく迎撃しながらこちらに突撃して来るストライクの姿に、ミゲルは戦慄を覚えていた。と、ストライクが左肩のアーマーの、翼状のパーツを手に取る。一瞬でビームの刃を展開させたそれを、ストライクはミゲル機目掛けて投げつける。
「当たるかよ!」
 十分な余裕を持って回避するミゲルのジン。だが、それは牽制に過ぎなかった。ストライクの左腕のシールドに内蔵されたロケットアンカー(パンツァーアイゼン)が射出され、ジンを捕らえる。
「うぉぉぉっ!?」
 圧倒的なパワーで引きずられるミゲル機。そこに振り下ろされる対艦刀の一撃。
『ミゲルッ!!』
 横合いからアスランのイージスが、手にしたビームライフルで援護射撃。この密着状態にもかかわらずストライクのみを狙った正確無比の一撃だった。直撃こそ避けたものの、ストライクの斬撃は大きく空を切る。千載一遇の好機。
 重粒子砲の砲門を、ストライクのコクピットに突きつける。回避も防御も不可能な、文字通りの零距離射撃(ガンフー)
「俺の、勝ちだ」
 だがそのトリガーが引かれる事は、ついに無かった。背後から飛来した<何か>がジンに命中、たまらず体勢を崩すミゲル機。先ほどストライクが投擲したウイング――ビームブーメラン(マイダスメッサー)が大きく弧を描いて帰還、ジンの両足を粉砕したのだ。
「ば、馬鹿なあぁァァッ!!」
 絶叫するミゲル。最期にその目に映ったのは、振りかぶられた対艦刀の放つ閃光だった。


「うわぁぁぁーっ!!」
 キラもまた、コクピットの中で絶叫しながら対艦刀を振り降ろした。15.78メートルに達する長大な刃が、ビームと質量という二重の破壊力でジンの装甲を粉砕する。
 左肩から右脇腹まで、絵に描いた様な袈裟懸けの一太刀。真っ二つに両断された機体は、そのまま爆散する。
「はぁッ、はぁッ、はぁッ……」
 荒い息をつくキラ。だがその目は、モニターに映る赤いMSから離れない。それが、あの時モルゲンレーテの工場から奪われた機体――イージスである事に、キラは気づいた。ならば、乗っているのはまさか!?
 急接近してくるイージス。慌てて回避行動をとり、向き直る。
『キラ……キラ=ヤマト……』
 不意に、イージスから入る通信。近距離用のレーザー回線だ。聞き覚えのあるその声に、キラは硬直した。
『やはりキラ、キラなのか!?』
 あの桜の下での別れが脳裏をよぎる。モノクロームの残映を突き破り、突如として目の前に現れた親友に、キラは思わず叫んだ。
「アスラン!?アスラン=ザラ!?」


 またもや、アークエンジェルの主砲が火を噴く。強力なビームが、ジンの機体を引き裂いた。
「これで、終わってくれ――」
 だが、ナタルの願いも虚しく、事態は最悪の展開を見せる。衝撃でジンのミサイルが誤作動を起こし、断末魔の機体から次々と発射された。そしてそのほぼ全弾が、あろうことか中央シャフトへと吸い込まれていく。
 爆発爆発爆発爆発――この瞬間、度重なる暴虐に懸命に耐え抜いてきたコロニーが、ついに限界を迎えた。先程から歪み、軋んでいた中央シャフトが、苦悶に身を震わせると、真っ二つに折れたのだ。
「ああっ!」
 小さく悲鳴を上げるマリュー。
 破局(カタストロフ)が始まった。


 その光景は、キラとストライクからもはっきりと見えた。
「ヘリオポリスが――」
 コロニーが崩れていく(・・・・・・・・・・)
 支えを失った外壁は、回転による遠心力に耐え切れず、構造体にそって分解する。地表に線が走ったかと思うとあっという間に亀裂へと成長し、深淵へと向けてぽっかりと口を開いた。
 嵐が巻き起こる。建物が道路が自動車が――何もかも一切合切が、砕け散り、舞い上がり、暗黒の宇宙へと吸い出されていく。
 MSもその例外ではない。乱気流が機体を揺さぶり、大量の土砂や流出物が叩きつけられる。バーニアを全開にしてもなお、全く機体のコントロールが出来ない。
「うわああぁぁぁーッ!!」
 キラは悲鳴を上げた。制御を失ったストライクが気流に押され、外界に引き摺り出される。
『キラ!!』
 アスランの叫びと共に、キラとストライクは漆黒の闇の中に放り出された。





















 後書き

 どうも、神聖十字軍です。
 正月に買ったエースコンバット5を、ようやくクリアーしました。前作に引き続き、イーグル系列の充実には狂喜乱舞。好きなんですよ、あの機体。
 で、後2日でOG2、そして2月下旬には無双4……ACEは、ちょっと後回しです。
 話は変わりますが種運命、なんか見る度に執筆意欲が下がるんですが。Zでアムロが最後までガンダム系列の機体に乗らなかった意味、スタッフは分かってるんですかねえ。

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

「グレンダイザーで、兜甲児が最後までマジンガーZに乗らなかった意味」という言い方もありますな。

(や、先の休日はグレンダイザーをLDでマラソンしていたもので(笑))

もっともスタッフ全員が分かっていても嫁が分かってなければ無理だとは思いますが(爆)。

それにしても「ひどい原作は二次創作の原動力」とも言いますが、種デスに関してはそれすら当てはまらないのかなぁ(笑)。

 

それはさておき、原作どおりにミゲル退場。

今のところはまだまだ原作準拠です。

でも、細かい気配りがあるだけでこんなにも違うもんですなー(笑)。

見習え、嫁。