機動戦士ガンダム0153  〜翡翠の翼〜


   プロローグ


 人類が宇宙を生活の場へ移し、すでに一世紀が過ぎた。
 
 人は宇宙に浮かべたスペースコロニーや月面に築いた都市。果ては木星圏にまでその生活の版図を広げ、そ
こで生まれていき、そして死んでいった。

 宇宙という新天地を迎え、更なる発展を遂げた人類ではあるが、そこでも人はかつて地球上で生きていたこ
ろと変わらずに武器を取り、そのエゴを貫くために争うことをやめようとはしなかった。

 かつてジオン・ダイクンは人は宇宙に出ることで革新を迎え、争いをせずにすむように進化すると唱えた。
しかし、皮肉なことにそのジオンの名を冠する国が、人類最初の宇宙戦争を勃発させた。

 それからおよそ七十年の年月が流れ。

 宇宙は今、各コロニーが自治を行い。それが結果的に、各コロニー間に諍いをもたらして宇宙戦国時代を迎
えることとなった。

 そんな中、宇宙世紀147年。サイド2のコロニー、アメリアに置いて、アメリア政庁第三勢力議会の政治
武闘組織ガチ党の党首、フォンセ・カガチは自らに敵対する勢力の、贈収賄で起訴された首班グループをギロ
チンにかけるという暴挙を持って敵対勢力を黙らせ、政権を手中に収めた。

 そして、カガチはかつて市井の占い師であり、今やマリア主義を掲げ、一大勢力となった宗教集団の教主と
もいえる存在となったマリア・ピァ・アーモニアを女王へと向かえ、アメリアにおいてザンスカール宣言を唱
え、ここにマリア主義を報じる一大国家。ザンスカール帝国が誕生した。

 カガチはスペースコロニーアメリアが月から一番遠い距離にある立地条件を利用し、(というより、この立
地条件だからこそカガチは自らの足場としてアメリアを選んだ)自らつながりのあった木星船団、および木星
の自治政府と取引し、ヘリウム3の取引を行い、それにより莫大な利益を上げ、それはザンスカール帝国の国
力をただの一コロニー国家、という枠に収まりきらないほどの強大な国家へと育て上げ、結果的にフォンセ・
カガチとマリア・ピァ・アーモニアはザンスカールの国民から絶大なる支持を得ることになる。

 そして、ザンスカール帝国はアメリアにあった地球連邦海軍戦略研究所、通称サナリィの一部門を接収し、
それを母体にB.E.S.P(弾道研究と宇宙偵察部隊本部の略)通称べスパと呼ばれる独自の軍を編成し、地球へと
侵攻を開始した。それに対し、もはや形骸と化していた地球連邦軍はろくな抵抗もなさず、ラゲーンはザンス
カール帝国のイエロージャケット(パイロットスーツの色が、スズメバチを連想させる黄色であったため、こ
の呼び名が定着した)の手に落ちる。

 一方で、宇宙世紀139年。かつて地球圏で行われた木星帝国の侵略に端を発する、数々の騒乱に危機感を
覚えた民間の有志たちが、自らの社会に入り込んだかつての木星帝国の残党などの危険分子から身を守るため
に、かつて木星帝国と戦火を交えた宇宙海賊たちの残党を中心とした民間抵抗組織、リガ・ミリティアを結成。
 
 リガ・ミリティアは特に、木星帰りの男であるフォンセ・カガチが主権を握り、ギロチンという狂気を見せ
付けたザンスカール帝国を明確な敵と判断。その軍事力に対抗するためにビクトリー計画を発動させ、かつて
のサナリィのスタッフや巨大企業たるアナハイム・エレクトロニクスの協力をこぎつけることでモビルスーツ
の開発を進め、それを軸とした抵抗運動を繰り広げていた。

 宇宙世紀153年。

 宇宙はまた、新たなる戦火を迎える。