UC153 4月 27日 静止衛星軌道上 戦略衛星カイラスギリー近傍宙域 暗礁地帯

 すさまじい揺れだった。思わず手近なジャンクにしがみついてしまうほどに。

「びっくりしたな……」

 と、ぼろぼろになって活動不能になったガンイージからもてるだけのものを持って脱出してきたジェスタは
そう呟いて周囲を見回した。よほどの衝撃だったのか、一瞬前までのジャンクの配置とずいぶんと変わっている。

「廃艦か何かがぶつかったんだな。それで爆発も起こして……核爆発でも起こったかもな」

 そう呟くジェスタ。その予想はまさに的中だった。戦闘空域から流されてきたアマルテア級戦艦の残骸がこ
の巨大ジャンクに激突し、残っていた弾薬が爆発。そして、生きていたエンジンが爆発したのだ。今の激震は
それによってもたらされたものである。

 しかし、そんなことは今のジェスタにはどうでもいいことだった。それよりも、早くここを脱出することだ。
機体から持ち出した信号弾、および緊急用のビーコンがあるので切羽詰るほどでもないが、それでも、ザンス
カール側に見つかるとただでは済むまい。何より、あのゾロアットに見つかると確実にやられる。

「あっちもただでは済んでないはずだけどな」

 そう呟くも、撃墜を確認したわけではないのだ。そんな不安を抱えつつ、あちこちに漂うゴミを掻き分けて
漆黒の闇を行くジェスタ。ジャンクの隙間から、外部の光が入ってくるも、やはり全般的に暗い。なので、ハ
ンドライトを持って移動することになるのだが。

「まったくうんざりしてくるな、このゴミは」

 モビルスーツに乗っていたときより、当社比で3倍ほどうっとうしく思える。ゴミを迂回して移動しながら、
気が滅入っていた時だった。何かが、聞こえた。

「なんだ?」

 呟いて、足を止める。何かが聞こえた。空耳か? と思い、耳を澄ませた。すると、また何かが聞こえた。
いや、違う。これは、聞こえるのではない。何より、ここは真空の宇宙。音が聞こえるわけがないし、いま。
パイロットスーツの無線は何も電波を拾ってはいないのだから。しかし、

「……呼んでる? いや、ちがう。これは……泣いている、のか?」

 ジェスタはそう感じた。そして、逡巡してから、それを感じる方角に向けて移動を開始した。そこに何が待
っているのか。ある種の確信と、疑念を併せ持って。


                     *****


 体を圧迫する苦しみを感じながら、フィーナは目を覚ました。一瞬何がどうなっているのかわからなかった
が、すぐに状況を理解した。モビルスーツから脱出してあたりをさまよっていて、そして。

「そうだ。なんだか、周りがゆれて……えと、それから」

 はっきりと思い出した。大きなゴミにぶつかって吹っ飛ばされて、気を失ったのだ。そこまで考えて、ぞっ
とした。生きている、ということは無事だ、ということだ。が、下手をすればパイロットスーツに穴が開いた
り、ヘルメットのバイザーが砕けたりして、窒息死した可能性だってあったのだから。

 運がよかった。そうとしか言いようがない。そう思って胸をなでおろしていると、胸元に抱えたかばんに気
がつく。それを見て、改めて顔を青くした。頑丈なかばんが、ざっくりと裂けている。どうやらとがったジャ
ンクが突き刺さったらしい。中に何枚もの服が入っていたりしたので、クッションになったのだろう。

「……ホント、運がよかった」

 呟くフィーナ。ただし、もうこのかばんの中身はだめのようだ。大きく裂けて、中身もかなり散ってしまっ
ている。服も裂けているようだし。はあ、とため息をつく。まあ、ほとんど私物などないのでまた支給されれ
ばいいのだが。

 そう考えて、フィーナは移動することにした。そして気づく。

「足が……」

 愕然とした。足が、大きなジャンクに挟まれている。気づくと同時にフィーナは手をかけてどかそうとする。
しかし、重い。あまりにも、重い。フィーナの華奢な腕ではびくともしないほどに。

「ちょ、ちょっと。冗談きついわよ。ここまで運がよくって、最後の最後でこんな最悪なオチが待ってるわけ!?」

 動かない。ひたすらに、動かない。それを見て青くなるフィーナ。周りを見回す。うっすらと外部から光が
さすも、基本的に暗い。ゴミに囲まれた、闇の底。そこでたった一人、取り残されてしまった。動くことも出
来ない。

 そこまで考えて、フィーナは頭が混乱してきた。空気の問題もある。しかし、それ以上に、たった一人で取
り残されている、ということのほうが彼女にとっては恐怖だった。幼い頃、たった一人で留守番をしていて、
唐突に両親の訃報を聞いたことを思い出す。宇宙船の事故だった。両親の乗っていた船が、デブリと激突し、
沈んだのだった。そのときの、すべてから取り残され。ひとりぼっちになってしまった恐怖がよみがえる。世
界でただ一人しかいないような、そんな錯覚。

「サフィー、ミューレ。……やだ。そんなの、やだよ。あたし、あたし……」

 そう呟き、周りを見回すも、動くものといえばゴミだけ。それが、フィーナの心にさらに恐怖を植えつける。

「やだよ、こんなの。いやだよ、そんな!」

 わめきながらフィーナは自分を拘束するゴミに手をかけ、なりふりかまわずそれをどけようとする。が、動
かない。まったく動かない。それが、フィーナの心にさらに拍車をかける。恐怖が、孤独が彼女の心をきしま
せる。視界がぼやけてきた。涙が出ていることに、フィーナは気づいていなかった。

「やだよぉ。誰か、きてよぉ……サフィー、ミューレぇ、うっく、パパ、ママぁ……」

 恐怖に心を押しつぶされそうになりながら、フィーナは親友二人に。そして、今は亡き両親に救いを求め続けた。


                     *****


「こっちのほう、だよな」
 
 その泣き声に導かれるままゴミの海を行くジェスタは周囲を見回しながら進んでいき、横を向きながら前進
し、正面を向いたそのとき、顔に何か布がかかった。それを手でつかむ。

「何だよ、この白いぬのぉ!?」

 と、その布を手に取り、それを見てジェスタは正体に気づき仰天した。なぜなら、その白い、三角形の布は。
いわゆる下着。女性用のショーツだったからだ。思わずそれに目を向け、わずかに赤面した後我に返ったジェ
スタはそれを投げ捨てて、

「だぁー! 何をやってるんだ、俺は!」

 叫んで首を振って頭の中によぎったいけない妄想を振り払う。俺の馬鹿。悪いのはみんな若さなんだよ、畜
生。などと心のそこで絶叫するジェスタ。それからジェスタはしばし肩で息をして、自分を落ち着かせると移
動を開始した。今もなお聞こえる、泣き声を目指して。

 そして、見つけた。遠くでうごめく影を。うっすらとさす光が、その姿を浮き彫りにする。手を動かして必
死になっている、黄色いパイロットスーツ姿を。

 その姿を見た瞬間、ジェスタの頭の芯が凍りついたように醒めた。黄色いパイロットスーツ。ベスパのパイ
ロット。つまり、あのゾロアットのパイロット。

 ぎり、と奥歯をかみ締める。つい先ほど死闘を繰り広げ、そして、キリの命を奪った敵。それが、あのパイ
ロットだ。それを思い出した瞬間、ジェスタの頭の中に黒い欲望が浮かぶ。腰の拳銃。それを使って、あのパ
イロットを射殺する。あるいは、何かここいらのジャンクをぶつけてバイザーを砕き、窒息死させる。などな
ど。いくらでも、あのパイロットを殺す方法はある。幸い、あのパイロットは動けないようだ。ならば、ここ
で見捨てて絶望し、窒息死するのを待つ、という方法もある。

 そこまで考えて、ジェスタの口元に醜悪な笑みが浮かんだ。歪んだ欲望に心を支配された、その顔は。悪鬼
のごとき顔だった。

 そしてジェスタは決断した。このまま見捨ててしまえ、と。発狂して、酸欠で、もだえ苦しんで死んでしま
え、と心の底ではき捨ててきびすを返した。その時だった。耳の奥で、泣き声がはじけた。さっきから聞こえ
る泣き声だ。まるで子供のような。一人取り残され、泣きじゃくる子供。それには覚えがある。

「ミラルダ?」

 かつての妹を思い出す。アメリア時代。父が処刑された直後。周囲に迫害されていたころの妹。自分も苦し
かったが、自分より幼かった妹はもっとつらかったはずだ。そのときに、父をしのび。救いを求める妹の泣き
声と、今の泣き声は、同じだった。そして、妹が泣いたとき。自分はどうした?

 それと同時に、母の言葉が耳の奥でよみがえる。

『怖い人には、ならないでね?』

 それを思い出した瞬間、ぞっとした。先ほど、自分を支配していた黒い欲望。苦しむ人間を見て哂い、死を
望むそれ。それは、普通ではなかった。それこそ、母の言った「怖い人」ではないか。ギロチンを見て哂う人
と、同じ。そこまで考えたジェスタはしたうちひとつすると、もう一度先ほどの場所に戻った。

 きっと、自分は間違っている。そう思いながら。


                     *****


 絶望と恐怖が、心を押しつぶそうとしていた。一人で取り残されて、このゴミの奥。きっと孤独なまま省み
られることなく死んでゆくのだろう。惨めに、ゴミのひとつとなって。その恐怖が、フィーナの心をあと少し
で破壊する、その時だった。

 ゴミの流れが少し変わり、同時に。生きているものの気配を、感じた。とっさに我に返り、振り向くフィー
ナ。しかし、彼女に待っていたのは希望ではなく、形となった絶望だった。

 目の前に姿を現したのは、白いパイロットスーツ。あれは、友軍のものではない。敵だ。リガ・ミリティア。
ゲリラの兵士。そこまで考えて、兵士としてのフィーナの思考は、絶望を宣告した。相手が正規軍ならば、こ
ちらを捕虜として。あるいは漂流者として扱うだろう。しかし、相手はゲリラ。おまけに、つい先ほどまで戦
っていたし、目の前で仲間を撃墜、殺した相手だ。

「止めを刺しに来たんだ」

 小さく呟いた。先ほどまで感じていた絶望と孤独。それはほとんど消えうせた。が、今度は目の前の逃げよ
うのない終わり。それを思うと、急に身軽になった。体から力が抜ける。これでおしまい。わずか十五年の人
生。こんなところで殺されて終わるのだ。

「ごめんね、サフィー、ミューレ。……マリア女王」

 そう呟いて、フィーナは目をつぶった。そして、待つ。このパイロットが、自分を殺すのを。せめて、苦し
まないように殺して欲しいな、と思いながら。

 そんなふうに目をつぶって、諦念に身をゆだねた黄色いパイロットスーツ姿のフィーナを見て、白いパイロ
ットスーツ姿のジェスタはため息をついた。それと同時に、驚く。目の前のパイロットスーツ姿の相手。体の
ラインから、女性だというのはわかる。(たぶん、さっきのショーツの持ち主)しかし、その体の小ささから、
まだ完全に成熟した女性ではない可能性が高い。そのことを考えながら、ジェスタは彼女に近づいていき、自
分の頭を相手の頭に近づけてヘルメットをつかみ、バイザーを接触させた。

「聞こえるか? ベスパのパイロット」

「え?」

 バイザー同士の振動で話を伝える接触回線。それを開いてジェスタは相手に話しかけた。それに相手は驚い
て、閉じていた目を開いた。驚きの眼差しと、不機嫌そうなジェスタの眼差しが交錯する。そして改めて、相
手が若い。いや、幼い事に気づいた。

(このパイロット。ミラルダと同じくらいか……?)

 やはり、あの時。泣き声から感じたものは錯覚ではなかったらしい。心の底でため息をつきながら、

「無線を開け。でないと話が出来ないだろ?」

「え。で、でも……」

「このまま見捨てられたいのか? どうなんだよ」

「そ、それはいやだよ! で、でも、なんで」

「何だっていいだろ! 早く無線を開けよ」

 いいながら、ジェスタは少女から離れる。なんとなく不機嫌そうで、なにやらぶつぶつといいながら。その
ジェスタに困惑しながら、フィーナは無線のスイッチを入れた。バンドは国際標準規格に合わせる。

「ああ、糞。何だってこんなことしてんだよ、俺は。まったく、仲間の敵だってのに」

 愚痴っている。こちらがすでに聞こえていることに気づいているのかいないのか。微妙だな、と思いながらフィーナは、

「えと。無線、開いたんだけど」

「! あ、ああ。そうか。そりゃあよかった」

 何がいいのか。ジェスタは一瞬焦ってから、そう答えた。それから改めてフィーナの元に近寄ってきて、

「それで、どうなってるんだ? ん、足が挟まってるのか。大変そうだけど……ん? どうした、ベスパのパイロット」

 近づいてきて足元を覗き込んだジェスタに、フィーナは奇異な視線を送った。何をしてるんだ、こいつは。
その目はそう語っていた。

「ここからでたいんだろ?」

「そ、そりゃあそうよ。こんなとこにいたくないもん」

「だろうな。でなきゃ、あんなにわんわん泣きやしないもんな」

「んな!?」

 ジェスタの言った言葉に、思わず赤面するフィーナ。今こいつはなんと言った?

「なんだ。自覚してなかったのか? うるさいくらい、泣き声が聞こえてきたんだぞ?」

「な、泣いてなんかない! 泣いてなんかないもん!」

「泣いてたって。いやってくらい」

「泣いてないよ!」

「泣いてたって」

「泣いてないもん!」

 と、二人は言い合う。ジェスタはともかく、フィーナは顔を真っ赤にしていた。自分で泣いていない、とい
いつつも、その実泣いていたことはうすうす感づいている。が、それを他人に。よもや敵に指摘されるとはい
そうですか、と認めるわけにはいかないのだ。そんな必死な様子のフィーナを見て、ついジェスタは笑いをこらえる。

 昔、幸せな家族であった時代。よく、妹がこういうふうに強がったものだった。泣いていたのに、泣いてな
い、と言い張るその姿。それを思い出した。

「はいはい、わかったわかった。泣いてない、泣いてないんだろ? ほら、わかったから落ち着け、ベスパのパイロット」

 そういって、ジェスタはフィーナの頭をぽんぽん、と叩く。それが妙に癇に障るフィーナ。じっとジェスタをにらみつけて、

「フィーナ」

「ん?」

「フィーナ・ガーネット。あたしの名前。……ベスパのパイロット、なんて名前じゃない」

「ええと、ガーネット、でいいのか?」

「フィーナでいい。姓で呼ばれるのは好きじゃないから」

「そっか。俺はジェスタ・ローレック。ジェスタでいい」

 そう、自己紹介をする二人。しかし、打ち解けた、とは少々いいがたい。相変わらずフィーナはジェスタに
警戒のまなざしを向けるし、ジェスタはジェスタで相手が少女、ということもあってはっきりとは憎めずとも
仲間を殺されたわだかまりは消えない。

 しかし、それでもジェスタはフィーナの足元を覗き込み、足を挟むゴミを触ってその大きさを確認。

「こりゃ一人じゃ難しいな」

「だからここから出られないんでしょうが」

「だな」

 そう言いあって、ジェスタは瓦礫に腕をかける。そして、腕の力だけではなく、足の。全身のばねを利用し
て瓦礫をどかそうとする。それを見て、フィーナが驚きのまなざしを向けた。

「何してんだよ。お前も力を入れろよ」

「え? でも」

「助かりたいんだろうが!」

 瓦礫の撤去のため、バイザーの下の顔に汗を浮かしながらそう叫ぶジェスタ。その声を聞き、フィーナは押
し黙る。そして、自分の足を挟む瓦礫に手をかけ、ジェスタと同じに全力を出して瓦礫をどかそうとする。

「っく! 重いな!」

「軽かったらもう抜け出してるわよ!」

「そうだな!」

 叫びながら、二人であわせて力を入れる。ぐらり、とわずかに動いた。それを確認し、二人は顔を見合わせ
る。少なくとも、少しは希望が出てきた気がする。

「よし、タイミングを合わせてやってみるか」

「タイミングを? うん。そうだね。……合図は、任せていい?」

「了解。じゃあ行くぞ。……せーの」

「せーの、ふん!」

 二人はそう、息をあわせて一斉に力を込めた。全身の筋肉がうなりを上げ、二人の力が一瞬、瓦礫に叩き込
まれ、先ほどより大きく動く。が、それでも、瓦礫はどかなかった。ゆっくりと、またもとの場所に戻りつつ
ある瓦礫。二人の力が緩んだからだ。ああ、とフィーナの体から力が抜ける。そこに、

「よし、もう一丁!」

「え? あ、うん!」

 そう叫んだジェスタが、もう一度力を込めた。それにあわせてフィーナも。全身の筋肉が引きちぎれるんじ
ゃないか、と思うくらいに力を込めて、そして。ぐらり、とさらに大きく動いた。その瞬間に、フィーナは瓦
礫をつかんだ手を支点に、体を引っ張りあげた。そして、

「う、うわわ」

 スポン、という音が聞こえそうな勢いで、足が瓦礫から開放され、上に向かって飛んでいくフィーナ。一瞬
面食らうも、すぐに腰のエアガンを使ってうまく勢いを殺して、近場のガラクタを蹴って自分の視点から言っ
て上のほうに。先ほどまで下であった位置に向かっていく。そして、ジェスタのそばに降り立った。

「よかったな、開放されて」

「う、うん。でも、すごく疲れた。……筋肉痛になるかも」

「俺は大丈夫かな。訓練のときはこれの比じゃなかったから」

「そう? ……あの」

「なんだ?」

 そうフィーナは言って、口を閉ざした。ジェスタは少し怪訝そうな顔をする。その顔を見て、フィーナはや
はり罰の悪そうな顔になる。

「……ありがと。助けてくれて」

「……気まぐれだよ。気にすんな」

 言いにくそうに礼を言ったフィーナに、ジェスタはそっぽを向いてそう答えた。それに、やはり気まずそう
な様子になる。いくら、今共同作業をして、自分のことを助けてもらったとはいえ、殺し合いをしたばかりの
間柄なのだ。和気藹々と話せる間柄ではない。

 気まずい沈黙が、二人の間に横たわる。なんとなく、動くに動けないのだ。この微妙な空気が(真空だが)
二人を縛るし、丸腰のフィーナに対し、ジェスタはパイロットスーツの腰のホルスターに拳銃を携えている。
なので、やはり互いに動きにくいのである。

 ちらり、とフィーナの目が自分の腰にいったのを、ジェスタは見逃さなかった。拳銃を見ている。奪うつも
りなのか、それとも警戒しているだけなのか。フィーナの顔色を伺い、奪うつもりではないことはわかった。
少しジェスタはフィーナに目を向け、彼女がワイヤーガンくらいしかもっていないことを悟る。

 なるほど。これなら拳銃を警戒するはずだ、と思ったジェスタは、ため息をついた。それが聞こえたフィー
ナは、ぎょっとして

「な、なによ」

「ここで千日手をやりたくもないしな……」

 いって、拳銃を抜くジェスタ。それを見て身をすくませるフィーナ。その反応を無視し、左手で大きな瓦礫
をつかむと、右手の拳銃を何もない虚空に向ける。そして、引き金を引いた。ハンマーがカートリッジレスの
弾丸の尻を叩き、次々と銃弾を闇に向けて撃ちだす。それを呆然と眺めるフィーナ。

 そして、フィーナの見る先で拳銃は全弾撃ちつくされ、引き金を引いてもハンマーが空打ちするだけになっ
た。それを確認したジェスタは拳銃をその場で投げ捨てる。樹脂製のコンパクトな拳銃はそのままゆっくりと
流れていき、闇に消えていった。

「これで、安心しただろ」

「な、何やってんのよ、あんた」

「何言ってる? こっちの拳銃におびえて震えてるから、仕方なく捨てたんだろ。……少なくとも、今は二人
しかいないんだ。拳銃見ておびえられたり、奪おうとされたりするよりは捨てたほうがいいだろうが」

「そ、そりゃそうかもしれないけど。でもねえ」

「いいだろ。別に。お前に損はなかったんだから。文句言うなよ」

「な、何よその物言い。えらっそうに!」

「うるさい! 子供は黙ってろ!」

「あたしは子供じゃない!」

「どう見ても子供だろうが! 泣いてたくせに」

「だから泣いてないっていったでしょ!」

 そういって二人は真正面からにらみ合う。そしてしばらく黙って視線を交錯させていたが、ほぼ同時にふう、
と肩から力を抜いて、

「やめた、ばかばかしい。ここで言い争っててなんになるんだか」

「そうね。おまけにくっだらない口げんか。……ガキじゃないんだから。この辺でやめときましょ」

 二人は互いにそういいあい、同時に表情を崩した。少なくとも、今すぐ殺しあったり、取っ組み合ったりし
そうな空気は霧消した。そして、とりあえず、この暗礁空域から外に出るまでの間は協力するように互いに口
裏を合わせてその場から移動することにした。

 ジェスタが先頭に立ち、移動を開始する。といっても、ほとんど方角もわからないのでかなり適当だが。そ
れに、フィーナは特に文句も言わずについていく。彼女としては、わけがわからなかった、ということが強い。
なぜ、自分を助けたのか。はっきり言って、自分のことなど無視することも出来たはずだ。というより、普通
ならそうするだろう。友軍の兵士ならばともかく、敵の兵を助けるためにわざわざ近寄ってくるなど、どう考
えてもおかしい。しかも、だ自分は目の前で仲間を撃破した敵なのだ。

 そこまで考えて、ふと思い出した。あの機体を撃破した直後の、ガンブラスターの気迫を。膨れ上がる怒り
と、憎しみと、悲しみ。あの時、それに飲まれて自分はおびえたのだ。それは今でもはっきりと思い出せる。

 だから。フィーナは無意識のうちに、口を割っていた。

「どうして?」

「なにがだよ」

 振り向きもせずに、瓦礫を迂回しつつ返事をするジェスタ。そのジェスタに、続いて言葉を投げかけるフィーナ。

「どうしてあたしを助けたの? あたしは敵なんだよ? それも、あんたの仲間を殺した。……気づいてない
かもしれないけど」

「うちの部隊を困らせてくれた三機のゾロアット。お前たちだろ?」

「……気づいてたんだ」

「当たり前だ。あんなに強いパイロットがぞろぞろいてたまるか」

 不機嫌そうにそういって、ジェスタは一度だけ振り向いた。フィーナの目には暗いので表情は見えなかった
が、すごく機嫌が悪いのは、わかる。

「それに、前に俺を落としたの。お前だろ」

「! ……やっぱり、あのときの」

 ポツリと追加したジェスタの言葉に、さすがに驚くフィーナ。それを聞き、ジェスタはやはりあのときに見
えた幻影はただの幻ではなかったのだ、と思った。続いて、

「正直言って、仲間を。キリさんを殺したお前は、憎いよ。あの人には、訓練生時代からずっと世話になった
からな。……賭け事が強くて、陽気な、いい人だったよ」

「……そうだったんだ」

 死者を悼むその言葉に、ジェスタにとって自分が落として死なせた人物が、相当親しい人物であったことが
よくわかる。だから、余計にわからない。なぜ、その仲間を殺した自分を助けたのかが。

「だから、一度はお前を見捨てようと思った。いや、それどころか。銃で撃ち殺したり、ジャンクで殴りつけ
てバイザーを割ってやろうかとか、そんなことも考えた」

 低い声で言うジェスタ。それを聞いて、ああ、そうだろうな、と納得するフィーナ。もし、自分がサフィー
やミューレをこのジェスタに殺されれば。間違いなく、自分は彼のいったことを実行するだろう。なのに、ジ
ェスタはそれを行わず、自分を助けた。この違いは、どこから来るのだろうか。

「けどな、そのときに。お前の泣き声が聞こえたんだよ」

「……泣いてないもん」

「俺には聞こえたんだ」

「…………」

 ジェスタの言葉に、あえてこれ以上反論は出来なかった。冷静になって考えれば、きっと自分は泣いていた
だろうから。恥ずかしいしみっともないので認める気はなかったが。

「それでな、妹を思い出した。お前と同い年くらいの妹がいるんだよ。……いじめられて、泣いてた」

「そうなんだ」

「それに、な。母さんが。俺が、パイロットになるって言ったときに、こういったんだよ。『怖い人にはなら
ないで』ってな。……もし、あの時。俺がお前を殺したり、見捨てたりしたら。俺は二度と妹の顔も見れない
し、戦争が終わってから。家にも帰れない。……だからだよ。お前を見捨てなかったのは。だから、お前のた
めじゃない。俺のためなんだよ」

「家族が……いるんだ」

「お前はどうなんだよ」

「いないよ。あたしは孤児。パパもママも、小さいころに事故で死んじゃった。それで、施設に行って。適性
検査でニュータイプなんて言われて。研究所につれてかれて、パイロットになったの。そこで会った友達と一緒にね」

「ニュータイプ? アムロ・レイか?」

「だれ、それ」

「ガンダムのパイロット」

「ああ、どこかで聞き覚えがあると思った」

 ジェスタの言葉に納得するフィーナ。正直、あまりこういう方面には興味がなかったので、覚えてはいない
のである。それを聞いて渋面になるジェスタだが、あえて突っ込みはしない。

 そして、そうこうしている間にジャンクがだんだんと途切れてきた。そして、広いところに出る。ジャンク
の塊の、出口にたどり着いたのだ。広い宇宙を前に、安堵の息を吐く二人。

「それで、どうしてゲリラなんて入ったの? 待ってる家族。いるんでしょ?」

「お前こそ。戦争なんて何でやってるんだ。まだ、子供だろ」

「……言ったでしょ。あたしは孤児で、他に行くところもないからやってるの。それに」

「それに?」

 遠くに目をやって言った言葉に、フィーナは軽く笑みを浮かべてジェスタのほうに顔を向けて、続ける。

「あたしが戦うのはね、マリア女王のため。あたしが戦うことで、女王陛下のためになるんなら、戦いたいの。
それがあたしの、あたしたちの戦う理由」

「女王の? ばかばかしい。女王なんて、カガチの操り人形じゃないか」

「っ。そうかもしれない。でもね、女王陛下は、優しい人なんだ。あったかい人なんだ。あんたなんかに、そ
れはわかんないよ」

 家族が、帰りを待つ人がいる人間にはわからないよ、と胸のうちで呟く。そんなフィーナのほうを見て、ジ
ェスタは目を細めた。女王マリア。確かに、あの演説で見た女王には、人を包み込むような包容力や、心に直
接伝わる暖かさというものがあった。あれは、そういうものに縁がない人間ならば、一発で魅了されてしまうだろう。

 カリスマではない、強烈な母性。それが、女王マリアの魅力。おそらく、このさびしがり屋の少女はその温
もりを盲目的に求めているのだ。それが、少し哀れに思えた。

「それより! あたしの質問に答えてないでしょ!」

「ああ、そうだな。俺が戦う理由、ね。……ギロチンを。止めたい。それじゃだめか?」

「なによ、それ。馬鹿馬鹿しい。リガ・ミリティアの理念じゃない、それって」

「そうだな。なら、何でリガ・ミリティアはその理念を掲げるんだ?」

「ヒューマニズムでしょ。残酷だって。だから、それを掲げるんじゃない」

「……だろうな。傍から見たら、そう見えるだろうな。でもな」

 そういって、ジェスタははっきりとフィーナのほうに目を向けた。その目を見るフィーナ。気圧された。
そこにある、ジェスタの目は、あまりにも強い。息を呑むフィーナに、ジェスタは続けた。

「身内をギロチンにかけられれば、そんなこともいえなくなる。俺の父さんは、何の罪もないのにカガチのプ
ロパガンダのために生贄にされたんだよ。偽の証拠をでっち上げられてな。それで、殺されたんだ」

「それは……気の毒だけど」

「気の毒? 確かにね。そういうことは簡単だろうけどね。自分の身内が。愛する家族が、観衆の目の前で、
見世物みたいに首を落とされる光景を目の当たりにして普通にはいられないさ。なにが、尊い犠牲だ。ふざけやがって!」

 そう叫んで、唇をかんだジェスタは近くのジャンクの塊を殴りつけた。その反動で、体が流れるが、それは
すぐにエアガンで補正する。

「復讐、なのね。戦う理由は」

 若干の失望を含ませて言うフィーナ。そこには、わずかながら嫉妬も含まれている。それはおそらく、彼女
自身も自覚していないであろうが。だがそれを感じ取ったジェスタは、苦笑しながら

「否定はしないよ。父さんを理不尽に殺されたんだ。憎まないわけがない。けどな、それだけじゃない。さっ
き言ったろ? 妹がいじめられたって」

「うん」

「あれも、そのせいさ。父さんがギロチンにかけられて。それから俺たちがどれだけ苦しんだか。周りに味方
は一人もいない。これまで仲良くしてた友達も、近所の人たちも。みんな手のひらを返したように敵意をむき
出しにして。……地獄だったよ、あのころは。俺も、妹も、母さんも。いつもあざだらけだったよ。家はぼろ
ぼろ。生きる希望も何も失って。自殺だって考えたさ」

 その言葉に、言葉を失うフィーナ。ジェスタの言った言葉に、うそはない。それが分かるのだ。絶望すら乗
り越えた、底まで落ちた人の闇。それが、ジェスタの言葉から、にじみ出る。それはけして偽りで出せるもの
ではなかった。

「いや。リガ・ミリティアの人たちに助けられなかったら。あと一週間もたたずに、俺たちは一家で首をつっ
てたよ。間違いなくね。……今でも、ギロチンにかけられた人の遺族が何人も心中しているらしいし」

 その言葉に衝撃を受けるフィーナ。そんなこと、知らなかったし、考えもしなかった。人の関係は、個人に
完結しない。人は繋がり、そして。それが仇となることも、ある。特に、スペースコロニーという狭い世界だ。
逃げ道などない。IDで管理されているため、どこに引越ししようとも「ギロチンにかけられた者の身内」と
いうレッテルははがれることはなく、結果的に人の悪意を一身に受けることになるのだ。

「だから、戦うの」

「ああ。そうさ。これ以上、ギロチンは、やらせない。それが、家族を守るためにもなるしね」

「家族を?」

 不思議に思う。もう、地獄から逃げ出したのならば、家族を守る必要などないだろうに。

「ギロチンを使い続ける限り。俺たちは悪夢からは逃げられないんだよ。分かるか? 何度でも、何度でも夢
の中で父さんの首が落とされることを。それが、俺の首になることもある。妹の、母さんの首が落ちる夢だっ
て数え切れないほど見た。……おまけに、ザンスカールはギロチンの放送を地球圏全体に流すんだぞ。地球で
だって、ギロチンを使った。俺の家族が、ギロチンの悪夢から逃れるには、もう。戦うしかないじゃないか」

 フィーナを見て、言い切るジェスタ。それを聞いて、フィーナはまるで自分が弾劾されているような錯覚を
覚えた。興奮していたジェスタだったが、しかし。肩から力を抜いた。

「悪い。お前のせいじゃないよな。ギロチンは、カガチのせいなんだし」

「女王陛下が……」

「ん?」

「女王陛下が、止めてくれるよ。絶対。今は無理かもしれない。でも、いつか。平和が訪れたら、女王陛下が
きっと止めてくれる。マリア女王の優しさは、うそじゃないもん」

「それは……」

 ひざを抱えて言ったフィーナの言葉に、ジェスタは言葉を続けることが出来なかった。言いたいことは分か
る。映像で見ただけだが、女王マリアは優しく。聡明な女性だ。おそらくギロチンを忌避していることだろう。
だが、止められないのだ。女王マリアも、所詮はザンスカール帝国というシステムのひとつに過ぎないから。

 しかし、この少女にあえてそれを指摘する気はなかった。自分自身、ギロチンを砕いて家族を守りたい、と
いう思いと同時に、カガチが、ザンスカールが憎い、という思いも強くあるのだから。人に対して、えらそう
に説教できる身分ではない。だから、自分の信じる人を信じようとかたくなになる少女にこれ以上何もいえな
かった。

 ただ、フィーナのそばで漂う。それしか出来なかった。

 そして、しばらく二人は静かにその場にいた。互いに、考え事をしていたのだ。戦争という現実。人の死。
孤独、恐怖。考える材料は、いくらでも転がっている。それらが渾然一体となって、二人の頭の中でぐちゃぐ
ちゃに混ざり合う。

 二人は、そうして互いを意識しあいながら、それでもこれ以上何も話すことなくたたずんでいた。そして、
唐突にフィーナが頭を上げた。

「きた。サフィーとミューレ。あたしを見つけてくれた」

「見つけたってビーコンを拾ったのか?」

 確かに救難信号は放射している。が、それはあまり強くはない。少なくとも、目視できない距離のモビルス
ーツが拾えるほど強くはないのだ。しかも、ここは戦闘空域。残留ミノフスキー粒子は濃いため、救難信号は
さらに弱くなる。しかし、フィーナはすっくと立ち上がると、自信満々に

「あたし、勘は鋭いから。……サフィーとミューレを間違えるもんか」

 そういって笑みを浮かべるフィーナ。そして、目を遠くにやると、光るものが見えた。それが、テールノズ
ルの輝きだとジェスタにも分かると、驚きの目をフィーナに向ける。

「ほらね?」

 そういうと、遠くにちらついていた二つのテールノズルがこちらに接近してくる。その姿がはっきりと見え
てきた。赤い塗装の、曲面を描いたフォルム。ゾロアットが二機。そちらに向けて、フィーナが手を振ると、
ゾロアットが手を振った。

「あは。来た来た」

 そう喜びの声をあげる中、ついにゾロアットが二機。二人の下にたどり着いた。そして、センサーアイがカ
バーを開き、その目がジェスタの姿を捉える。

 まずいな。そう思うジェスタ。今や、自分の運命はこの二機のゾロアットに握られている。この場で殺され
るも、捕虜になるも。即死か、あるいはギロチンか。この二択だった。ならば。

 そう、覚悟を決めて口元に笑みを浮かべるジェスタ。工作用のナイフがある。これで首を掻っ捌けば、少な
くともギロチンはない。そんなジェスタのほうに振り向くフィーナ。フィーナはじっとジェスタのほうを見つめて、

「自殺。考えてるでしょ?」

 その言葉に、息を呑む。見抜かれている。そして、フィーナは振り返ると、

「サフィー、ミューレ。悪いんだけど、この人。見逃してくれないかな? 敵だけどさ。命の恩人でもあるん
だ。だめかな?」

 そういうと、ゾロアットは二機。首をめぐらせて、顔を見合わせた。そして、肩をすくめて見せる。わざわ
ざモビルスーツにボディランゲージを取らせるとは、芸が細かい。ジェスタは場違いながら、そんなことを思
った。

「ありがと、二人とも。……ってことで、あたしはここでおさらばさせてもらうね? 一応、これで貸し借り
はなしってことで」

「ああ、十分だよ」

 笑みを浮かべて、手を振る。それに答えて、フィーナも手を振った。そして、目の前のゾロアットが一機。
コックピットハッチを開いたので、そちらに向かうフィーナは、最後に一度振り向いた。

「ジェスタ、だったね? ……今度会うときは戦場。そのときは、容赦しないんだから」

「ああ。そうだな、フィーナ。今度こそ、勝って見せるさ」

「うん、その調子。じゃね」

 最後にフィーナは指鉄砲を作り、「ばーん」と、それでジェスタを撃つ仕草を見せた。それを見てジェスタ
は苦笑。同じように、指鉄砲を撃ち返してやる。それを見て、お互いに笑いあって、そして。フィーナはコッ
クピットに消えた。それを見送るジェスタ。

 そのジェスタの前で、ジェスタを巻き込まないようにゆっくりとジャンクから離れた二機のゾロアットは、
ある程度距離をとったところで機体を反転させると、メインスラスターを噴出させる。そして、離れていくさなか。

 信号弾を、放った。数発の信号弾は、救難信号。国際規格のそれを、ゾロアットは放っていった。

「別れの挨拶が救難信号ね。ありがたいこった」

 それを見送って、肩をすくめるジェスタ。あっという間に離れて行ったゾロアット。もう、その姿は見えな
い。おそらく、あの信号弾を見つけた友軍機が来るだろう。救難信号を打った、ということは、そういうこと
だ。おそらくカイラスギリーをめぐる攻防戦はリガ・ミリティアに天秤が傾いたのだ。

「フィーナ、か。……今度会うときは戦場、ね。なるたけ、会いたくないなあ」

 仲間を殺したパイロットだ。憎い、という感情もある。が、あの少女の人となりを知ってしまったので、ど
うにも憎みきれない。生の感情というのは、手に余る。それを実感するジェスタ。やれやれ、と肩をすくめた。
仲間が来るまで、どれくらいの時間がかかるか分からないが、なんとなく。孤独感に苛まれる気はしなかった。


                     *****


「よかったの? あれで」

 信号弾を撃ったサフィーが、シートの後ろにしがみつくフィーナにそう言った。それを聞いて、フィーナが
申し訳なさそうに頭をかいた。

「ごめんね、こんなことさせて」

「いいわよ、別にたいした手間でもないし」

「それで、結局うちは負けたんだ」

「ええ、見事に負けたわ。スクイードが白兵戦に持ち込まれたの。だから急がないと。早く戻らないと、帰還
する船に間に合わなくなるかも」

「それはやだなあ。この期に及んで捕虜なんて、絶対ヤダ」

「私も同感」

『ボクも同感だよ』

 接近してきたゾロアットが手をかけて、接触回線を開いた。それに、

「ミューレも。心配かけさせてごめんね」

『うん。ホント、心配したんだよ? なんか、フィーナの思考がぐちゃぐちゃでさ。位置がつかみにくかった
んだもん。冷や冷やしたよ』

「そうよ、フィーナ。すごく心配したのに、いざ迎えにいったら、ねえ?」

「な、何よ。その変な目は」

『そーだねぇ。なあんかさ。敵のパイロットとくっちゃべってて。いい雰囲気だったじゃん』

「あんたらね、殺し合いした仲で、んな雰囲気になるわきゃないでしょ」

 呆れた様子で言うフィーナ。が、実際のところ、ジェスタという少年に少しも心惹かれなかったか、という
とノーといわざるを得ないだろう。あのような状況だから、ではなく、心に深い闇を抱えながら、迷走しなが
らも前を向くその姿勢。ジェスタのその意志は、ひきつけるものを感じる。

 そんなことを思い出していると、

「やっぱり」

『怪しい、よねぇ?』

 と、サフィーとミューレが言ってくる。どうやら、この二人と本格的に舌戦に突入しなければならないらし
い。今度あったら覚えていろよ、と思いつつ、やはり。顔を知り、言葉を交わした相手とは殺し合いはなるべ
くしたくないな、と思いもするフィーナだった。





 

 

代理人の感想

うーむ、見事なまでにガンダムだ(笑)。

芸がない感想ですが事実そうなんだからしょうがない。

これもまた二次創作。楽しませていただきました。