UC153 5月 1日 サイド2 ザンスカール帝国本国

 長い検査がようやく終わり、三人の少女たちはとりあえず自由な時間を手にすることが出来た。とはいって
も、本質的にここの研究所の「所有物」である彼女たちにはこの施設の外に自分の意思で出る事は許されず、
検査に時間がかかりすぎたため、もう窓の外は日が暮れて夜になっていた。スペースコロニー内では、見掛け
の時間を調整して昼と夜を作り出すため、ミラーの角度でそれをなす。今はミラーが閉ざされ、「河」と呼ば
れるガラス張りの壁にミラーが重なりそれを持って外から光が入ってくるのを防いでいるのである。

 三人はひとまず研究所内の展望室のような休憩室に足を踏み入れ、そこの強化ガラス越しに外の風景を見な
がら、ひとまずため息をついていた。

「今日の検査はいつもより長かったね」

「そりゃ戦場から帰ってきたわけだしね。そのあたりのストレス関係の感情値と精神波の変化を計測するため
じゃないの?」

 うんざりした様子で言ったミューレの言葉に、フィーナは同感だ、とでも言うように答える。サフィーは手
に持ったカップ入りのカフェオレに口をつけながら、特に何も言わなかったもののその顔は十分にその心境を
物語っていた。

「あーあ。せっかく戦場から帰ってきたのにろくに休暇ももらえないんじゃね」

 そう文句を言うのは、ミューレ。手渡されたスケジュール表によると、以前と同じように検査とモビルスー
ツのシミュレーターを使用する毎日ということになる。実機を持って戦場に行ったのに、いまさらなんでシミ
ュレーターなのか、と文句を言いたくもなるが、使うシミュレーションデータはゾロアットのものではなく、
開発コードだけで記されている試作機のもののようだった。

 彼女たちは知らないが、それらの機体は現在ニュータイプ研究所と軍のモビルスーツ開発部が共同で開発し
ているサイコミュ搭載型モビルスーツの試作型のデータであり、彼女たちのサイコミュとの連動データを基に
調整する必要性があってのことである。なお、今回彼女たちが本国に呼び戻されたのも、実機のサイコミュの
データの回収と、テストパイロットの真似事をやらせるためである。

 今後のスケジュールを考えると少し頭が重いが、それでも文句を言える立場ではないことは百も承知だ。な
のでいやそうな顔をしながらも三人は座っていた椅子から立ち上がり、その場を離れることにした。時間的に、
もう食事の時間だ。はっきり言ってここの食事は味気なく、軍艦のそれよりもおいしくはないのだが、食べな
いわけにもいかない。

「あーあ。これじゃスクイードのほうが居心地がよかったよ」

「そうね。少なくとも、みんな優しかったし」

 ミューレの愚痴にそう答えたサフィー。姦しい三人娘ではあったが、ああいう故郷を遠く離れた戦地での任
務となるとやはり少しは心がすさんでくる。そういうところでこの三人の雰囲気というのは、どことなく故郷
の家族や郷愁を感じさせたのだろう。特に、三人に年の近い子供を持つ世代の兵たちは三人によくしてくれた
ものだった。

 それを思い出しながら苦笑するフィーナ。そして彼女は展望室を立ち去る前に一度だけ窓の外に目を向ける。
そこに見える暗い空。単に光がさえぎられることで生じる闇ではあるが、彼女たちにとっては慣れ親しんだ夜
だ。しかし、かなたに星の光が見える宇宙の闇より、こちらの闇のほうがより冷たい印象がある。宇宙は深淵
を感じさせるが、コロニーの夜は拒絶を意味しているようで。これで、町の光がなければ本当にさびしくなる
な、とフィーナはふと思った。
 
「……あいつ。今何してんだろ」

 ポツリと宇宙の闇の中出会った一人の男のことを思い出すフィーナ。敵への憎悪と、家族への愛情の狭間で
揺れ動きながら戦う一人のパイロットを。彼も、かつてこのコロニーに住んでいた。もしかしたら、ジェスタ
とは別の形で出会った可能性もあったかもしれない、と思う。パイロット同士としてではなく、同じコロニー
に住む人間として。

「もしも、を考えても意味はないか」

 小さく呟くフィーナ。そして、彼女は心に浮かんだわずかな迷いを振り払うと廊下の先にいる二人の友人を
追った。今は、目の前の些事を片付けながら人の思惑通りに前に進んでいくしかない。そのことにわずかなも
どかしさを感じながらも、フィーナにはどうしようもなかった。


 UC153 5月 2日 サイド2領海 ズガン艦隊とサイド2連合艦隊の会戦場

 ハルシオン隊が強襲をかけることで、わずかにズガン艦隊の追撃の手が緩みはしたが、それはあくまでも一
時的なものに過ぎなかった。確かに、十一機のモビルスーツが電撃的な強襲をかけ、初撃で艦船を二隻。モビ
ルスーツを二十機近く撃墜したことで先鋒の部隊はひるみはしたが、元々士気が高く、統制の取れたズガン艦
隊の精兵たちはすぐに強襲をかけてきた敵がわずかな数でしかないことを把握し、それを各個撃破すべく分断
するために動き出した。

 それに対し、ハルシオン隊のモビルスーツは自分たちの数が少なく、各個撃破されるとどうしようもないこ
とは熟知していたため、結局のところサイド2連合艦隊の部隊とほぼ足並みをそろえながら撤退戦を余儀なく
された。

 そのプレッシャーは著しい。あらゆる戦場の中でも、敗色が濃厚な中、撤退戦の殿を務めることほどの苦難
はそうはない。あるとすれば、救援の望みがない状態での篭城戦くらいのものだろう。

 ハルシオン隊のモビルスーツは、そのぎりぎりの戦場の中。あえてその場に残ったサイド2連合艦隊のモビ
ルスーツ隊と協力することで何とかその場をしのぐも、それは張り詰めた糸のように危ういものであった。

 ジェスタの目の前で、一つの爆華が咲いた。今の今まで奮闘していたサイド2連合艦隊のジャベリンが直撃
を受け、四散した光だ。その光の照り返しを受けた白いビクトリーはスラスターを一瞬だけ吹かしてその光を
目くらましにして、爆発の光越しにビームライフルを撃った。

 その一撃は外れることなくゾロアットを貫き、自身が撃墜したジャベリンと同じ運命をたどらせる。それを
確認する暇もなく、自機がロックオンされた警告が鳴り響く。が、それ以前にジェスタはその気配を感じ取っ
ており、すばやく機体を旋回させてオーバーハングキャノンを撃ってまた一機のゾロアットを宇宙の藻屑に変
える。

 ヘルメットの下。ひたすらに戦い続けるジェスタは顔が若干青ざめ、びっしょりと汗でぬれていた。戦場に
突入してからの時間は、数えてはいないがおそらく、十時間近くは経っている気がする。ジェスタは計器に一
瞬だけ目を落として、機体の状態をチェック。それによると、推進剤の量が心もとなくなってきていることに
気づく。増槽を装備してきたというのに、だ。

「くそ。ダッシュパックの推進剤がつきかけてるじゃないか。まだビームは撃てるのに……ち! また来たの
か!」

 舌打ちとともに、ビクトリーを後退させるジェスタ。なるべく推進剤を使わないように、省エネルギーモー
ドの機体を設定しているので、AMBACを使って機体をうまく立て直し、自機に狙いを定めた敵機をにらみつけ
る。もう何機落としたのか、数える気さえなくなったゾロアットの赤いフォルムがこちらに迫ってくる。

 その攻撃をシールドで受けつつ、ライフルで応戦する。一応、ハードポイントにはいくつか予備のライフル
を持ってきているが、今使っているライフルはすでに三個目。後、使えるライフルは一丁しかない。

 まずいな、と思いつつも、ジェスタはライフルを撃ちながら敵機のほうに向かう。互いにシールドを張りな
がらなので決め手にならないビームライフルを撃ち、サーベルを抜く。ゾロアットも同じようにサーベルを用
意しながらだったが、

「悪いな、俺の勝ちだ」

 呟くと同時にジェスタはビクトリーに急制動をかけ、旋回させた。その動きについていけないゾロアットに、
バルカンで牽制しながらサーベルの一撃を加えて機体を爆砕させる。

 その光にまぎれながら後退するジェスタ。はじめに突入した空域から、ずいぶんと離れてしまったな、と思
う。周囲には大量のゴミが漂っている。その中に、比較的形を残したクラップ級の残骸を発見し、そこに近づ
いていくジェスタ。爆発の輝きにまぎれてだから、敵には見つかっていない、と確信していた。

 そして、すばやくクラップの残骸のモビルスーツデッキに機体を滑り込ませる。少しでも隠れて、身を休め
ることが出来れば。そう思っての行動だった。

 背後をうかがいながらクラップに進入したジェスタは、今見える範囲にザンスカールのモビルスーツの姿が
ないのを確認し、ほっと胸をなでおろす。その瞬間、機体が揺れた。ぎょっとしたジェスタ。まさか、ここに
敵機が隠れていたのか?

『警戒しなくてもいいよ、坊や。あたしだよ』

「リュカさんでしたか」

 先ほどの振動は、機体に手をかけた感触だったらしい。それで接触回線が繋がり、背後の機体。ガンブラス
ターからリュカの声が聞こえる。その声に、ジェスタは胸をなでおろした。

「リュカさんはどうしてここに?」

『あんただって同じだろ? ちょっと息抜きにね。後、武器がないかって思って』

「ライフル。もうないんですか?」

『ああ。戦場で拾ったジャベリンのやつをちょくちょく使ってるけどね。壊れてるのも多くて、なかなかうま
くいかないんだよね』

 そう言ったリュカの言葉はかなり疲れているようだった。彼女も、ここまで長い時間。戦い続けた経験はほ
とんどないのだろう。

「しかし、敵の数も尋常じゃないですね」

『そりゃザンスカールの主力艦隊だからね。いやってほどいて当たり前さ。さて、と。いつまでもここにいる
わけにも行かないからね。坊や。あんたも水分を補給したらさっさと出なきゃ、出たとたんに囲まれた、なん
て笑えない状態になるよ?』

「それはいやですね」

 ジェスタは苦笑しながらシートの後ろのスペースに詰め込んである戦闘食のパックを取り出し、そこのドリ
ンクをつかむと、急いでストローからドリンクを吸い上げる。きちんと成分調整されているこのドリンクは失
われた電解質、塩分、カロリーもきちんと摂取できるようになっており、これだけで食料となる。が、やはり
味気ないのは言うまでもなく、

「これが末期の食事、というのはいやですね」

『それはそうだね。死ぬ前には、好物を山ほど食べたいもんだ。だから、あたしもまだまだ死ねないね』

 ジェスタの言葉にリュカは大笑いして答える。そして、ガンブラスターが動き出す。それにあわせてジェス
タのビクトリーも動き出し、強く床を蹴り、一度だけスラスターを吹かして一気に加速した。刹那の休息を終
え、ジェスタは再度、戦場に身を躍らせた。


                     *****


 リガ・ミリティアおよびサイド2連合艦隊にとって、現在の戦場はまさに地獄の様相を現しつつあるのだが、
一方のズガン艦隊にとっては、もはや完全な勝ち戦であるのは明白なので、損傷した艦やモビルスーツが大量
に出たとしても、それを横目に見ながら再出撃できるだけの精神的な余裕を持っていた。

 最前線に位置するアマルテア級戦艦、ディンゴのモビルスーツデッキに、今。補給を終えたばかりのモビル
スーツの姿があった。全体的に曲線を描いたフォルムで、黒とピンクという色に塗装されたそのモビルスーツ
は、両肩に挟みのような奇妙な飾りと、胸部に三連メガ粒子砲を持つ機体であった。

 ZM-S14Sコンティオと呼ばれる、ベスパの新型モビルスーツである。癖のある武装が多いため、乗り手を選
ぶ機体ではあるが、対モビルスーツ性能ではずば抜けて高い高性能機でもある。

 そのコンティオが今、ディンゴのカタパルトにスタンバッた。そこに、通信が入る。

『ソゥ中尉。大丈夫なのでありますか? 先ほど帰還したばかりなのでありましょう?』

「かまいはせんよ。せっかくコンティオに慣れてきたところだ。もっと動かさんと、腕がなまるだろう」

 モビルスーツデッキの管制官の言葉に答えるのは、コンティオのパイロット。ジュリアン・ソゥ中尉である。
優秀な成績で士官学校を卒業した彼はやや自信過剰なところもあるが、モビルスーツのパイロットとして非常
に優れた技術を持ち、現在、数少ないコンティオを乗りこなすパイロットの一人でもある。

「それに、例の白いモビルスーツがいるそうじゃないか。地球でクロノクル大尉殿を苦しめたっていうな。そ
いつを相手にするのが楽しみなんだよ。ジャベリンばかりを相手にしていると退屈なんでな」

『中尉。そうですか。では、御武運を。戦果を期待していますよ』

「は。まかせておけ。よし、ジュリアン・ソゥ。コンティオ、でるぞ!」

 そう言って、ジュリアンはコックピットのモニターに写る管制官の、どことなく不安そうな姿に向けて親指
を立ててみせた。それと同時にカタパルトが始動し、コンティオのずんぐりとした機体が加速されていく。そ
して、そのままディンゴのモビルスーツデッキから戦火の交わる戦場に飛び出していった。

「はっ! いい感じだ!」

 乗り手を選ぶため、配備数が限られるというモビルスーツ。その機体を与えられ、戦場を駆ける、というシ
チュエーションは、プライドの高いジュリアンにとってとても快感だった。特に、その機体が極めて強力であ
るというのならば。

 コンティオのコックピットの中で、ジュリアンは獰猛な猛禽の目になるとモニターに映し出されるジャベリ
ンの姿を捉え、舌なめずりをする。

「物足りはせんが、準備運動代わりだ。そら、これでも受けな」

 言うと同時に胸部の三連メガ粒子砲を撃つ。ジャベリンはコンティオの接近には気づいていたようで、その
一撃はかろうじてかわす。それを見てジュリアンは目を細めた。怒りではなく、喜び。ただの的ではなく、少
しでも手ごたえのある獲物であることの喜びだった。

「はっはぁー!」

 コックピット内でそう吼えると、ジュリアンはコンティオを加速させる。それを見たジャベリンはコンティ
オにビームを撃ちながらその側面に回り込もうとする。が、運動性の高いコンティオが相手では分が悪かった。
コンティオは機体を跳ねるような挙動を取らせると一気に間合いを詰め、肩の鋏をくるん、と回転させて、後
ろを向いていた鋏の部分を前に向けさせる。と、その瞬間。そこからビームの刃が伸びて、ジャベリンを串刺
しにした。

 ビームショットクロー。コンティオをコンティオたらしめる、特殊武装だ。そして、乗り手を選ぶ要因でもある。
扱いは難しいが、使いこなすことが出来れば一騎当千の、対モビルスーツ用の死神の鎌になりうる必殺の武器。

 そのビームショットクローで串刺しにしたジャベリンのことなど、ジュリアンはすぐに興味を失い、ジュリ
アンは機体を反転させると、

「さて、ゲリラどもが作った白いやつがいかほどのものか……楽しませてもらうぞ」

 そう言って不敵な笑みを浮かべると、機体を加速させて、戦場のど真ん中に突っ込んでいった。


                     *****


 クラップをでたジェスタとリュカはとりあえず行動を共にすることにした。ただでさえ数が少ない状況で、
分断されたまま行動していることにメリットはないからだ。

「しかし、ずいぶんと後退しましたね」

『敵が深追いしてきてるからね。まったく、粘着質だこと。こんなんじゃ女に嫌われるよ、まったく』

 そんなふうに言葉を交わしたとたん、頭上からビームが降り注いだ。うんざりした様子でそちらを伺うと、
予想通り。ゾロアットが編隊を組んでこちらに襲い掛かってきていた。それを見て舌打ち。と、同時にビクト
リーとガンブラスターは二手に分かれた。

 それを追って、ゾロアットも二手に分かれる。ビクトリーに二機、ガンブラスターに一機。それを確認しな
がら、ジェスタはスラスターを吹かせて機体を流しつつ、周囲をうかがう。いい塩梅に、艦の残骸が流れてい
る。それを目にしたとたん、ジェスタはビクトリーをそちらに向かわせた。その後を追う二機のゾロアット。

「よしよし、いい子だ」

 呟いて、後ろからビームを撃ちこんで来るゾロアットに向けて、AMBACを使って機体をその場で反転。後ろ向
きで飛行させ、敵に向き直るとオーバーハングキャノンを撃つ。その反撃に一機のゾロアットがかわしきれず、
爆発。ジェスタはそれを見ながら、オーバーハングキャノンを撃った反動を利用して機体の軌道を若干変更し、
最小限のアポジモーターの噴射で艦の残骸の後ろに回りこむと、マニピュレーターからワイヤーガンを発射。
それで艦の残骸に取り付いて機体を静止させる。

 その上でトップリムを分離させてビームシールドを展開させる。そして、機体は艦の残骸を蹴らせて上に流
した。

 ビクトリーの後を追ってきたゾロアットは、艦の残骸の後ろに回りこむと同時にビームを乱射。そしてすぐ
にシールドを張るトップリムに気づき、ビームを撃ち込む。その次の瞬間、ゾロアットは下半身だけのビクト
リーの、脛のハードポイントに取り付けた予備のライフルのビームに貫かれて撃墜された。

「なるほど。便利な使い方が出来るんだな、ビクトリーってのは」

 感心しながらトップリムと再合体し、ビクトリーはモビルスーツ形態に戻る。それから艦の残骸から離れ、
はぐれたリュカはどうなったのか、と探してみると、すぐ近くに飛んできていたリュカ機を発見。

『驚いた。あの二機をもうやったの? いつの間にそんなに腕を上げたのやら』

「ビクトリーがいい機体だからですよ。量産も順調に進んでいるようですし、すぐにリュカさんも乗ることになりますよ」

『私はガンブラスターのほうが……何!?』

 そう話をした瞬間、怒涛のごとく大量のビームが降り注ぐ。そして、二人はそちらに目を向けた。その目に
見慣れないモビルスーツの姿が映る。

「なんだ、あのピンク色。蟹のつもりか?」

『坊や。新型だよ、気をつけな!』

 声を上げると同時にビクトリーとガンブラスターは散開しながらピンク色のモビルスーツ、コンティオに牽
制のビームを撃ちながら散開する。それに対し、コンティオは旋回しながら胸部のメガ粒子砲を一斉射。それ
を回避しながら、ジェスタはオーバーハングキャノンを撃ちはなった。

 それを、コンティオは回避しながら、両肩のショットクローを回転させ、そこからビームを撃ちだして来た。
一瞬それに驚いたものの、ジェスタは冷静にシールドでビームを受け止める。わずかに機体が後方に流れたが、
それをスラスター噴射で押しとどめ、

「ち、本当に推進剤がなくなりかけてるじゃないか」

 と、舌打ちした。それと同時に、敵機に目を向けて、その向こうに見えるガンブラスターを確認。その動き
から、リュカが接近戦を仕掛けるつもりなのだとわかった。胸部のメガ粒子砲。両肩のビーム。それらから、
この機体を砲撃戦仕様だと判断したのだろう。

 ジェスタはそれを支援すべく、機体を派手に振り回しながらライフルやオーバーハングキャノンで応戦。そ
れにコンティオはシールドで防いだり、飛び回って回避して同時にこちらにビームを撃ちはなってくる。そし
て十分にビクトリーに注意をひきつけたときに、リュカのガンブラスターがしたの方角からサーベルを抜いて
強襲をかけた。

 とった。それを見たジェスタはそう思った。しかし、次の瞬間。コンティオの両肩の鋏が射出された。なん
だ? と驚く間もない。二つの鋏は同時に鋭角に軌道を変えると、片方の鋏がサーベル状に形成したビームで
ガンブラスターのサーベルをなぎ払い、もう一つの鋏が、側面からビームを撃つ。それをまったく予想できな
かったガンブラスターは当然、かわすことが出来ず。

「リュ……」

 愕然と目を見開いたジェスタの目の前で、胴体を撃ち抜かれたガンブラスターは爆発した。その爆発に巻き
込まれまいと加速したコンティオ。ジェスタは、その姿をキッとにらみつける。

 目の前で死んだ、二人目のチームメイト。その死に責任を感じるほどジェスタは傲慢ではない、が、先ほど
まで会話していた知人を目の前で殺されて平然とはしていられなかった。

「貴様ああああ!」

 絶叫し、ジェスタはビクトリーのオーバーハングキャノンを連射した。それをひらりひらりと回避するコン
ティオ。その運動性は、ゾロアットより上だ。それに、

「こいつ、いい腕をしてる!」

 今の回避運動を見ただけで、相手がエース級だということは理解できた。と、同時に冷静になることを自分
に言い聞かせる。そんなジェスタのビクトリーに、

「さあ、今度はお前だ、白いやつ!」

 コックピット内でジュリアンがそう叫びながら胸部メガ粒子砲とビームライフルを撃ちながら、同時に両肩
のショットクローを放出。

「またあの鋏か!」

 それを見て、ジェスタは機体を加速させた。ライフルをクローに向けて、撃つ。が、それはよけられて、な
おかつもう一つの鋏がビームを撃ってきて、さらに本体が接近しながらライフルを撃つ。

「糞、なんて厄介な武器なんだ、あの鋏!」
 
 ジェスタはあわてて機体を後退させながらそう叫んだ。あの鋏は単独であれば高度に発達した現代のモビル
スーツ相手では荷が重いであろうが、格闘戦能力が高く、火力も存分にある本体の補佐として使うと凶悪な威
力を発揮することをジェスタは理解した。そのビクトリーに、コンティオは二機の鋏と本体の連携を行いなが
ら次々とビームを放ち追い詰めていく。しかし

「こいつ……俺をもてあそんでいるのか!?」

 鋭く攻めながらもどこか逃げ道を作られているように見えるそのコンティオの攻撃を見ながらジェスタはそ
う叫んだ。周り中から降り注ぐビーム。シールドでそれを受け、ライフルを撃ち返し、オーバーハングキャノ
ンで本体を狙う。が、それらはすべてコンティオのパイロットの手のひらの上で遊ばれている。

「なめやがって!」

 歯を食いしばってうなるジェスタ。そんなジェスタをからかうように、コンティオは正面に機体を停止させ
てライフルをこちらに向け、

「ほら、どうした白いモビルスーツ。こんなものじゃないだろう、もっと楽しませて見せろ!」

 コックピット内でジュリアンはそう叫びながらライフルを撃つ。それをシールドで受け止めるジェスタ。そ
のビクトリーに、背後からクローが迫る。ビームが放たれた。

「ちぃ!」

 舌打ちとともにスラスターを吹かして回避。しかし、

「糞、ホントに推進剤がそこをついたのか!」

 機体管制のバイオ・コンピューターがジェスタの脳に直接そのデータを送ると同時に、警告のアラーム音が
コックピット内に響く。ダッシュパックの推進剤が底をついたのだ。ジェスタは即座にダッシュパックを破棄
しようとして、思いとどまる。そして腰のスラスターを全力で吹かせてビクトリーを突進させる。

 それに対し、コンティオは後退しながら胸部三連メガ粒子砲を一斉射しつつ、側面と背後からショットクロ
ーで攻撃を仕掛けてきた。そのタイミングにあわせて、ジェスタは機体をベイルアウトさせた。

 その場に取り残されながらも、オーバーハングキャノンを撃つダッシュパック。三連メガ粒子砲の下をかい
くぐりながらコンティオに向かうボトムリム。そして、上半身だけになったビクトリーは背中のスラスターを
ふかして上からコンティオに襲い掛かる。

 オーバーハングキャノンのビームをシールドで受け止めたコンティオは、直後。突進してきたブーツの直撃
を受ける。それと同時に、三連メガ粒子砲の直撃を受けたダッシュパックは爆発、四散した。さらに、シール
ドに突っ込んだ形になったブーツもまた、その場で爆発。その爆発でコンティオは左腕と左足を損失した。

「なにぃ!?」

 そう叫ぶジュリアンに、上方からビクトリーがサーベルを抜いて襲い掛かった。それを見たジュリアンはシ
ョットクローで迎撃しようとしたが、

「その手品は見飽きたんだよ!」

 叫ぶジェスタが、二本のサーベルを束ねてそれを振るう。そのとたん、サーベルの長さが実に三倍近くまで
伸び、ショットクローと本体をつなぐワイヤーを断ち切り、同時にコンティオの胸部を深々と切り裂いた。

 コンティオの胸部が火を噴く。大きくのけぞったコンティオは、その次の瞬間。胸部から一気に爆発した。
それを見たジェスタは、肩で息をしながら敵を討った、と小さくガッツポーズをとる。しかし、ジェスタは気
づいていない。機体が爆発する直前、大きくのけぞったコンティオの頭部が吹き飛び、その下から脱出ポッド
が放出されたことを。その脱出ポッドの中で、

「くそぉ! 白い奴! やってくれたなぁ! よくも、よくもぉ!」

 と、血走った目でもはや何も写さなくなった全周囲モニターをにらみつけ。コントロールシリンダーに拳を
叩きつけたパイロット、ジュリアンがいたことも。

 ジェスタは知ることもなく、トップファイターに変形すると、このあたりもまたベスパの制宙圏になりつつ
あることを悟り、スラスターをふかせて敗走を続けた。

 そしてそれからさらに数時間後。敗走を続けるサイド2連合艦隊への追撃戦を、ズガン艦隊はついに打ち切
ることになる。それまでに、最終的にサイド2連合艦隊は実に七割近くの戦力を損耗することになり、ハルシ
オン隊もまた、リュカを含む四人のパイロットを失うことになった。

 それに対し、惨憺たる有様のサイド2連合艦隊を尻目に、ズガン艦隊は傷ついた同胞を引き連れて、本国に
凱旋することとなったのである。


 UC153 5月 4日 サイド2領域 サイド2連合艦隊集合地点

 撤退していったズガン艦隊がこれ以上追撃する様子がないことを確認したサイド2連合艦隊は、参加してい
た艦艇の中でかろうじて旗艦能力を有していたラー・カイラム級戦艦を中心にしてとりあえず集結した。そし
て、被害状況を確認。

 その有様は、惨憺たる状況だった。自航能力を有している艦こそ全体の六割以上あるものの、生き残ってい
る船の中で戦闘能力を有している艦はその半数以下。はっきり言って、三割の損失で戦力は瓦解しているとい
ってもいいのが実情であるのに対し、サイド2連合艦隊はもはや全滅した、といっても過言ではなかった。

 そんな状況のサイド2連合艦隊を前にして、ハルシオン隊はとりあえずライアンのヘキサを中心に集結し、
ライアンが比較的状態のいい艦に連絡を入れ、ひとまず部隊のモビルスーツを受け入れてもらえるように交渉
した。そして、生き残った七機のモビルスーツが状態のいいサラミス改級巡洋艦の甲板に降り立ってモビルス
ーツから降り、パイロットも艦に収容されることになった。

 ジェスタはビクトリーから降りて、自分の愛機を。そして、僚機たちの姿を見て、思わずため息を漏らした。
無事な機体など一つもない。あのライアンのヘキサさえ、片腕を失っている。そのほかの機体も、大なり小な
り損傷をしており、この撤退戦がいかに過酷なものだったのかを物語っていた。

 そのことに背筋が凍る思いを感じながらも、ジェスタはサラミスの艦内に、クルーたちの指示に従いながら
入った。

 サラミスに入ったハルシオン隊のパイロットたちに待っていたのは、労いの声と援護に対する感謝の声だった。
正直なところ、高々十一機のモビルスーツの支援など、この一大艦隊戦のさなかではまさに焼け石に水に
過ぎなかったろうが、もっとも過酷なときに身をなげうって支援をした、という事実は敗戦で疲れ果てていた
彼らにとってとても力になることだったのだろう。
 
 そうやって人に喜ばれるのも、自分たちの奮闘が少しでも役になったというのも、うれしくはある。が、や
はり。戦友が命を落としたのは堪えた。

「どうした、ジェスタ」

「マジクさん……」

 欝な気分になっていると、マジクがそう声をかけてきた。どうした、と聞いてきたとはいえ、マジクもジェ
スタが落ち込んでいる理由など承知しているだろうが。

「今度はリュカがやられたことで落ち込んでるんだろ、お前」

「はい。……また、目の前でやられましたからね……やっぱり、堪えますよ」

 その言葉にマジクは眉間にしわを寄せた。そして、一言「そうか」とだけ答えた。そのマジクの様子を見て、
ジェスタは恐る恐る尋ねる。

「あの、マジクさん。その、マジクさんと」

「ん? ああ、違う違う。あいつと俺はそういう関係じゃない。年が近かったから、仲はよかったけどな。あ
くまでも駄弁る仲だよ。男女の関係にゃなったこたあないさ」

「そうだったんですか?」

 意外そうな顔をするジェスタ。マジクは女好きだし、リュカとは仲がよかったのでそういう仲だと思ってい
たのだが。どうやら本当に違うらしい。

「俺のポリシーとしてな。モビルスーツ乗りの女とは付き合わないって決めてんだよ。だから、あいつは初め
っから眼中になかった。友人としては好きな女だったけどな」

 言って、苦笑するマジク。その目は、「モビルスーツに乗ってなかったら口説いてたかもな」と語っていた。
そして、ジェスタはため息をついて、周りを見回す。この艦のクルーも、ハルシオン隊の生き残りのパイロッ
トたちも。皆疲れ果てた表情で、思い思いに体を投げ出していた。無論、大量の怪我人も出ただろうし、その
怪我人の治療などにも当たらなければならないので休める時間などはほとんどないだろう。

 しかし、それでも。一つの山場を越えた兵たちは、研ぎ澄まし、磨耗した神経をつかの間の休息で少しでも
癒そうと、疲れた顔を隠そうともせずその体を休めていた。

 ジェスタもそれに習い、体を無重力に投げ出し、目を伏せる。あまりにも疲れ果てていたため、神経が昂ぶ
り眠ることは出来そうになかったが、ただ目を伏せるだけでも余計なものが脳に入ることがなくなり、気持ち
が安らぐ気がした。


 UC153 5月 6日 サイド2 ザンスカール帝国本国

「だぁー! つっかれたぁー!」

 と、大声を張り上げるのは、ミューレ。今、ミューレはニュータイプ研究所に備え付けられている、大型の
シミュレーション筐体でモビルスーツのシミュレーションを他の二人と合同でしていたのである。そして、今。
仮想データの中、フィーナが操るモビルスーツにミューレ機が撃墜され、することがなくなって筐体から出て
きたのである。

 そして、ミューレはむくれながらその目を筐体と繋がっている巨大モニターに向ける。その先には、シミュ
レーションデータとして構築されているサイコミュ搭載型モビルスーツが二機。一騎打ちを繰り広げていた。

 TYPE-28と表記された機体と、TYPE-37と表記された機体がそれぞれすさまじい勢いで画面上を駆け回り、壮
絶な一騎打ちを繰り広げる。何度も繰り返しているシミュレーションだが、毎度毎度すごいと思う。ミューレ
自身、TYPE-29と表記される機体を操って戦うのだが、いつも初めに脱落する。そのたびにここのスタッフた
ちの冷たい視線にさらされるわけだが、

「あんな砲戦仕様の機体でどうしろってのよ。初めっからこっちの打つ手がわかってんじゃ話にならないじゃ
ん」

 と、愚痴る。いつもいつも初めにミューレ機が脱落するのは、ミューレの使う機体が大出力のビーム砲で狙
撃するために特化した機体だからである。実際の戦場ならばともかく、初めから手の内が知られているシミュ
レーションでそんな狙撃をしたところで、並みのパイロットならいざ知らず。フィーナとサフィー相手に通用
するはずもない。なので、結果的にミューレのモビルスーツはいつも初めの段階で撃破されるのである。三つ
巴の宿命か、最も組みしやすく、危険度の高い相手が集中的に狙われるわけである。

 そうこうしている内に、大出力のビーム兵器を持ったサフィーの機体が、汎用性を徹底的に高めたフィーナ
の機体に白兵戦に持ち込まれ、最終的にはフィーナ機が多少の手傷を負いながらもサフィー機を撃墜した。

 そして、二人の分の筐体もハッチが開き、奇妙なパイロットスーツを身に着けた二人が姿を現した。灰色の、
ぱっと見た目は普通のパイロットスーツなのだが、あちこちにプラグを接続する端子があった。そして、それ
はミューレが身に着けているパイロットスーツにもあるものだ。

 これは、彼女たち三人の体調の変化。そして、脳の様子や精神波を観測し、それとサイコミュの連動をチェ
ックするための機器である。彼女たち三人も、それくらいは想像がつくし、おそらく、今シミュレーションで
使った機体の同型機。もしくは、その改良機の開発のデータのために行っているのだろう事も理解はしていた。

 まあ、考えても不愉快なだけなのでゲーム感覚でシミュレーターに臨み、それなりに楽しみはしていたのだ
が。それでもミューレとしては圧倒的に不利な条件で戦い続けなければならないのは正直ストレスがたまっていたわけで。

「はーい、これであたしの十八連勝♪」

 筐体から降りてきたフィーナが、そう言ってVサインをする。それに対し、ミューレはがるる、とうなりな
がら近づいていき、サフィーは若干悔しげに口元を曲げていた。

「せっこいよ、フィーナの機体ばっかすっごく早いじゃない! あんなの捕らえきれないよ!」

「ホント。フィーナの機体。強すぎるわ。何であんな動きが出来るのよ……」

 口々に二人が文句を言ってくる。それに、フィーナも唇を尖らせて反論。「そんなのあたしのせいじゃない
でしょ」と。シミュレーションをするたびに言い合うことなので、もはや恒例行事に近い光景である。

 だが、この二人の言うこともあながち言いがかりというわけでもない。フィーナが扱う機体は、二人が言う
ように、まず「速い」のだ。これは、シミュレーションデータからの手ごたえでいえば、機体の出力に対する
重量が極端に軽いように思える。出力重量比がかなり小さいのだ。これは、機動兵器であるモビルスーツとい
う存在にとって恐るべき武器になる。そして、それだけではない。固定兵器はほとんどなく、一般的な兵装だ
けで固められたこの機体は、トリッキーな戦い方は出来ないが、逆に言えば基本に忠実な戦い方に専念するこ
とが出来、それがフィーナの性に合っているのだ。

 サフィーが使う機体は、独立分離行動が可能なサブフライトシステムを兼ねる強力なビームキャノンを装備
しており、そのキャノンとの連携攻撃を可能とし、本体もまた意外に小回りがきくので対モビルスーツ戦では
かなり強いのだが、それでも機体のウェイトが邪魔になり、接近戦では今ひとつ決め手にかけるように思える。

 そして、ミューレの乗る機体に関してははっきりいって、この三人の目から見れば問題外だ。モビルスーツ、
というよりは、移動砲台、モビルアーマーというカテゴリーに分類したほうがいいだろう。少なくとも、対モ
ビルスーツ戦に投入するような機体ではない。しかし、実際の戦場ではアウトレンジから一方的な狙撃が可能
なので、ミューレのようなきわめて優秀な狙撃のスキルを持っていれば恐るべき狩猟者になるだろう。

 しかし、これらは汎用性にかけるし、何よりも使用するパイロットに合わせた畸形的な兵器であるといえる
だろう。「兵器」というくくりでいえば、ある意味完全な失敗作だ。サフィーやミューレでは使いこなせても、
他のパイロットではまず使いこなせまい。

 それらを踏まえて考えて、なんだかんだいって、一芸に秀でた機体よりも、汎用性を追及し、すべての機能
を煮詰めて作り上げた高性能機が最も優れた兵器となるんだな、と思う。

 そんなことを考えていると、スピーカーから声が聞こえてきた。

 それによると、しばらく三人の予定はなく、自由時間を与える、とのことだ。ただし、外出するには許可が
要るし、行き先の予定もきちんと知らさなければならず、おまけに門限まで定められた。そこまで言われ、か
なりげんなりしたものの、とりあえずめったに許されない外出の許可がでたのはうれしかった。

 ひとまず三人はそのことに驚きながらも、喜びを隠し切れない様子でシミュレーション室を後にし、パイロ
ットスーツから適当な私服に着替えに行った。そして、着替え終わってから

「でさ。どこ行く? やっぱり、何かおいしいものを食べたいんだよね、ボクは」

「そうね。私も同じ意見。どうせ、私物とかは買えないんだから、食べないと損よね」

 ミューレの言葉にうんうんと頷くサフィー。それをきき、フィーナは苦笑しながら同意する。ただし、と付け加えて、

「その前にさ。中央広場に行かない?」

「中央広場? なんで?」

 フィーナの言葉に首をひねるミューレ。その言葉にフィーナはふふん、と笑い、

「あのさ。なんでも今日、中央広場で恩寵の儀があるんだって」

「恩寵の儀? ああ。ズガン艦隊が凱旋してきたものね。それを労う形で行うわけね」

 フィーナの言葉にポン、と手を叩いてサフィーはそう答えた。それに、ミューレも「おお」と口に出した。
恩寵の儀、とは、女王マリアが中央広場にてじきじきに姿を現し、そこに来た国民に言葉を投げかける儀式で
ある。映像越しにではなく、遠目ではあってもじきじきに女王にお目にかかれるだけあって国民にも人気の儀
礼である。もっとも、暗殺の危険性なども考慮し、近衛隊がじきじきに警備するなど、きわめて警戒厳重では
あるが。フリーパス、というわけではないが、きちんとしたIDさえあればそれを参照することで恩寵の儀に
は出席が可能である。そして、三人娘は軍から発行されているIDがあるので恩寵の儀への出席の資格は十分
に有している。

「そ。せっかくの機会だし、女王陛下のありがたいお言葉を戴きに参りましょう。ってこと。いやかな?」

「そんなことないよ。女王陛下のご尊顔をこの眼で見られるチャンスなんてボクたちには滅多にないもんね。
この機会を逃したら、次はいつになるやら。だから、ボクは大賛成だよ?」

「私も賛成よ。ザンスカールの国民で、それも従軍していて一度も恩寵の儀にでていないなんて、ある意味恥
だもの。結構スクイードでもそのことをいわれたしね」

 三人がスクイードにいたころ、恩寵の儀に一度も顔を出したことがない、というとかなり驚かれた覚えがあ
る。それだけ、ザンスカールの国民にとって。特に、軍役につくようなものにとって、恩寵の儀とは特別な意
味を持つのだろう。

「じゃ、決定だね」

 にぱあ、と笑顔を見せていうフィーナ。その笑顔を見て、サフィーとミューレも相好を崩す。最近、どこか
元気がなかったり、たまに影を見せていたフィーナの心の底からの笑顔を前にして、安心したのだ。なんだか
んだいって三人の中心は、フィーナなのだから。

 そして、三人は研究所の庶務課に外出許可を提出に行き、あっさりと許可を得た。それに少し驚くも、「早
めに行かないと儀式に間に合わないぞ」という言葉に面くらい、さっさと研究所を後にした。

 三人娘は研究所を後にすると、リニアトレインとバスを利用して中央広場に向かった。その際、街の雰囲気
がなにやら険悪なことに眉をひそめた。殺気立っている様子があるし、以前よりも自警団や憲兵隊のパトロー
ルが多めに回っているのだ。そして、三人娘も何度か検問を受け、IDの表示を命じられた。まあ、正式に軍
から発行されているものなので問題はなかったが、さすがにこの年で軍のIDを持っていることに軽く驚かれた。

「なんか空気が重いね、やっぱり」

「そりゃ二日前に空襲を受けたばかりよ? それで呑気にしてたらまるっきり馬鹿じゃない」

 ミューレの言葉に答えたのは、サフィー。彼女の言うとおり、今から二日前。ズガン艦隊が凱旋してくる直
前に、ザンスカール帝国の本国に空襲があったのである。それを行ったのは、彼女たち三人にも縁が深い、リ
ガ・ミリティア。その、リーンホースを中心とした部隊であった。(正式に言えば、旧リーンホースと拿捕し
たスクイードを元に建造した改造戦艦、リーンホースJr.というが)

 その空襲によって、港ブロックに損傷を受け、さらにさまざまな軍施設に攻撃を加えられるという結果とな
ったのである。三人娘のいた研究所も、軍の施設の中にあったが、幸い。基地そのものは空爆されたものの見
た感じ病院にも見える研究所は爆撃されずにすんだのである。とはいえ、近くが爆撃された瞬間は彼女たち三
人をもってしても肝が冷えたが。

「リガ・ミリティアか。アレだけの兵力しか持たないのに、ホントにたいしたもんだよね」

「敵ながら天晴れ、ってとこ? でも、あんまり大きな声で言っちゃダメだよ。ボクたちだってしょっ引かれ
ちゃうぞ?」

 フィーナの言葉に、ミューレは人差し指を立て、まるでめっ! と言いたげな様子で言った。それを見て、
軽く噴出しながら、三人は町を歩く。かつて、自由に出歩けた時代とはまるで違った印象受ける町ではあるが、
それでも、やはり生活臭を漂わせる町というのはいい。

「でさ。恩寵の儀の後はどこ行こうか。てきとーに町をぶらつくってしか言ってないけど、それって自由にし
ていいってことだよね?」

「ん。そういえばそうだね。……これまでずっとあたしたちに対する締め付け、かなりひどかったのに、急に
どうしてだろ」

 と、首をひねるフィーナ。確かに、妙である。この三人は、ザンスカール帝国のコロニー内で見つかったニ
ュータイプ能力の片鱗を見せた子供たちの中で最も高い能力を示した貴重なサンプルである。なので、その管
理はかなり厳しかった。

「他に研究対象が入ったから、じゃないかしらね。小耳に挟んだ限りだと、タシロ艦隊の生き残りとか、ズガ
ン艦隊の傷病兵の中に、そういった人がいた、なんて聞いているわよ?」

「そういえば、何人か研究所に入ってきた人がいたみたいだね。顔とかは見てないけど」

 サフィーの言葉に頷くミューレ。二人の言うとおり、ここ最近。ニュータイプ研究所に何人かの被験者らし
い人が入ったらしい。おそらく、そちらのほうにかかりきりになり、三人のサンプルとしての価値が暴落した
のだろう。なんか悔しい気もしないではないが、どちらかといえばやはりうれしいほうの思いが強い。

 そんなふうに雑談しながら、三人は交通機関を乗り継いで目的地である中央広場にたどり着いた。中央広場
は万単位の人を収容できる巨大な広場である。そして、そこはザンスカール帝国の政庁の中枢である宮殿が存
在するところでもある。ゆえに、元々警備が厚い場所であるが、今日のような大量の人を集めるイベントの場
合、いつもよりもなお大目の警備がしかれることになる。

 そこで、IDの提示が求められたので三人はそろってIDを提示し、問題なし、と判定された。そのとき、
やはり門番をしていた兵士たちは三人がこの若さでれっきとした軍役についていることに驚きを隠せないよう
だったが。

 そして三人は中央広場の、恩寵の儀の参加者の人だかりにまぎれた。といっても、三人は時間的に遅かった
せいで一番後ろのほうだが。しかし、そんなことも気にならないほどに、三人はそろって驚きに目を剥いてい
た。

「うっそ。アレってビクトリーじゃない! それと、あの機体。確かガンイージとかいう……リガ・ミリティアの機体よね!?」

 中央広場に飾られている二機のモビルスーツ。オリーブグリーンに塗られたスレンダーな機体と、白と青を
基調にした騎士を思わせる美しい機体。それらを見て、三人は大きく口を開いて驚きの声を上げた。その声に、
驚いた周囲の観衆が振り向いて、

「どうしたんだい、嬢ちゃんたち。あの反乱分子のモビルスーツのことを知っているみたいだけど」

「ええと。こう見えても軍人さんだから、ボクたちはアレを見たことがあるんだよ」

 若干不審の目で見てきた彼らに、そう言って胸を張るミューレ。そんな彼女に胡散臭い目を向けたものの、
ここにいるということは、身元がしっかりしているということなのであながちうそでもない、と判断したのだ
ろう。そのことに突っ込まれはしなかった。

 しかし、三人もそれ以上は何もいいはしなかった。驚きはしたが、下手に目だって変な目で見られてはたま
らない。せっかくの自由時間。憲兵にとっつかまってそのまま研究所に送り返されては何のために出かけてき
たのかわからない。

 とはいえ、耳を澄まして周りの声を聞いていると、事情は把握できた。それによると、あの二機のモビルス
ーツのパイロットは投降し、マリア主義に宗旨替えをした、とのことだ。そのことをサフィーとミューレはあ
っさりと信じたようだが、

(リガ・ミリティアのスタッフがそう簡単に宗旨替えをするかしらね?)

 現実に出会い、話したジェスタというリガ・ミリティアの闘士を知っているだけに、フィーナはそれを信じ
る気にはなれなかった。そんな風にひそかに悩んでいると、観衆のざわめきが急に収まってきた。それで、フ
ィーナは恩寵の儀が始まることに気づいた。

 フィーナは考え事をやめ、儀式に集中することにした。フィーナが視線を向けた先。宮廷の閲覧のための壇
上がライトアップされ始めた。初めて来たフィーナらにも一発でわかった。あそこから、女王が姿を現すのだ、
と。それを確信して、三人は。観衆は、皆期待に胸を躍らせる。

 そして、期待のとおり。女王マリアが、姿を現した。その壇が盛りあがってきて、下から女王マリアが姿を現す。
演出としては陳腐ながらも、女王が持つ独特の神秘的な空気。カリスマが、そんなことを吹き飛ばす。
観衆のほぼ全員が、感嘆の息を漏らした。三人娘も、例外ではない。

 そして、女王の姿を見ると同時に、その場にいた観衆の多くがマリアの名を呼び、警備の兵はザンスカールの名をたたえた。

 そんな人々の声を受けながら、女王マリアはその場で大きく手を広げると、声を上げた。

「サイド2の人々よ。ムッターマ・ズガンの艦隊は汚れきった地球連邦軍と反乱者たちを討ち滅ぼしました。
この勝利を祝福し、ザンスカールの旗の下に暮らす人々の繁栄を願い、あまねくマリアの元に集う一人一人に
永遠の幸福を願い恵みをたれましょう」

 そこまで言うと、マリアは一度言葉を途切れされる。そして軽く目を伏せ、

「子は母より生まれ」

 いいながら、広げていた手を自らの胸に抱き寄せ、

「マリアの元に集い、遊べ」

 そう宣言すると、マリアはサイド腕を広げた。まるで、今胸を抱き寄せたことで引き寄せた宇宙の精気を、
その場で解き放つように。

 それとともに、マリアの後ろから強烈な光が放射された。それはもちろん、演出の光だ。しかし、マリアの
もつ独特の雰囲気が、それをまるで後光のごとく錯覚させる。さらに、フィーナらからは見えなかったが、観
衆の最前列にいる病人やけが人が、その光を浴びて感動の声を上げ始めたのだ。彼らは、次々に体が治った、
病気が治った、などと言い、立ち上がってはマリアに向けて涙交じりの感謝の言葉を投げかける。そして、そ
の場にひざを折り、祈りをささげ始めた。

 それは、徐々に周囲に伝染していく。その場の雰囲気が、そうさせるのだ。これはある種のマインドコント
ロールではあり、宰相フォンセ・カガチの演出効果がそうさせているのだが、これを成功させるための鍵は、
当然。女王マリアという絶大な威力を誇るカリスマあっての話だ。

 フィーナら三人も、その空気に飲まれ、涙を流したりその場に膝を折ったりこそしなかったものの、女王の
言葉に。その優しい空気に触れて、とても安らかな表情になる。来てよかった。心のそこから、そう思う。

 しかし、その思いも長くは続かなかった。しばらくの間、女王は両手を広げたままその場にたたずんでいた
のだが、だんだんと顔色が悪くなっていき、呼吸が荒くなってくる。そして、マリアの後ろからさす光が途絶
えるとほぼ同じタイミングで、ふらりとふらつくと、倒れ掛かったのだ。無論、女王の御付の侍女が女王を支
え、女王はそのままふらつく足取りで下がっていく。

 それを目の当たりにした観衆たちは、口々に心配の声と、不平の声を上げる。女王が体調を崩したことで、
不安になったのだ。

「女王陛下、大丈夫かな」

「わかんないけど、ずいぶんとお疲れのようだったね……」

 と、ミューレもフィーナも心配そうに声を出す。すると、壇上にて、女王が姿をけした入り口の脇に控えて
いたマントを羽織った義眼の老人。フォンセ・カガチが前に進み出る。そして、カガチは大きく両手を広げる
と、大声を張り上げた。

「人々よ! 静まれ! 静まれ!」

 そういうと、次にカガチはこぶしを振り上げ、力強い声で続ける。

「マリア・ピァ・アーモニアはいつでもここに立たれお恵みを下さる! 故に! マリア復活を願って女王の
心を脅かすものたちをギロチンにかける!」

 そこまで叫ぶと同時に。恩寵の儀の雰囲気が一変した。最前にいる兵たちが、こぶしを振り上げて「反逆者
をギロチンにかけろ!」と叫ぶと、それにあわせて先ほどまでマリアが立ち、恵みを与えていた壇上に、冷た
い輝きを放つ刃を持つ、ギロチンが姿を現した。

 そして、それを目の当たりにした瞬間。すべての観衆が、まるで熱病に浮かされたように口々に「反逆者を
ギロチンに!」「反逆者を殺せ!」と、老若男女関係なしに叫ぶと先ほどまで安らかにしていて、マリアの身
を気遣っていた優しい人々が、血を望み、人の死を望む悪鬼のごとく存在に早変わりしていた。

 その突然の変化に、三人娘は体をこわばらせた。なぜ、こうなるのか。それが、わからないのである。だか
らといって、周りの人に聞く勇気を、三人は持ち合わせていなかった。何もいうことも出来ず、体をこわばら
せる三人。その三人の目の前に、ギロチンにかけられる哀れな生贄が姿を現した。

 そして、その姿を見て愕然とした。

「な、タシロ司令!?」

「うそ、どうして!?」

 口々にそう叫ぶフィーナたち。その目が捕らえるのは、三人の処刑囚。そのうち二人は、リガ・ミリティア
のパイロットスーツを着ているので、この鹵獲されたモビルスーツのパイロットなのだろう、と想像がつく。
だが、最後の一人。壮年の男は、タシロ・ヴァゴ。戦略衛星カイラスギリーの総司令にして、艦隊司令であっ
た男だ。彼は、後ろ手に兵士に押さえつけられながら、自分がギロチンにかけられることに異を唱えていた。
その気持ちは、わかる。確かに野心家ではあったが、愛国心を持ち、国のために、国民のために。軍務につい
て身を粉にしてきた男の行き着く先が、ギロチン台とは。夢にも思わなかったに違いない。

 タシロという男の人となりを、一応は知る三人はさすがにこれはひどい、と思った。

 特に、ギロチンにかけられようとするタシロに、容赦なく浴びせられる罵声の数々。反逆者、処刑しろ、ギ
ロチンにかけろと、彼が守ろうとした国民たちが、口角から泡を吹き出しながらそう吼えるのだ。病的なまで
の狂気をその目に帯びて。

 それを見て、三人は怖くなった。知らず知らずのうちに、一歩、二歩と下がる。

「おかしいよ、こんなの。ひどすぎるよ、絶対。タシロ司令は、一生懸命だったんだよ? 女王のために、国
のためにがんばったんだよ? なのに、みんな。こんなこと言うなんて」

 涙目になって、ミューレは呟く。それは、フィーナもサフィーも同感だった。失敗に対する処罰。これ
は、当然だ。タシロは確かに、カイラスギリーを失い、本土防衛にも失敗した。だから、そのことで処罰を受
けるのは、信賞必罰の定めからして、何らかのペナルティは受けなければならない。それが、組織というもの
だ。だが、これはやりすぎだ、と三人は思った。

 いくらなんでも、見世物としてギロチンにかけられるほどでは。信じていた国民たちに、その死を狂的に望
まれなければならないほどに、彼は罪深いというのか? 彼は、国民に。国に裏切られなければならないのか?
そんな疑問が、フィーナの頭に浮かんでは消えていく。

 そして、がたがたと震えながら、後退するさなか。突然、展示してあった二機のモビルスーツが動き出した。
それを目の当たりにして、観衆たちの態度が一変する。熱病に浮かされていたような空気は霧散し、今度はモ
ビルスーツが動き出したことでパニックを起こし始めたのだ。

 そして、逆に三人はそれを目の当たりにして冷静になった。三人は顔を見合わせると、頷きあい。一斉にき
びすを返すと走り出す。

「……とんだ休暇になっちゃったね」

「ホント、そうね」

 これはえらい騒ぎになるぞ、と思いながら、三人はひたすらに走り出す。その背後から、モビルスーツのパ
イロットの叫び声が聞こえてきた。その内容は、予想通り。ギロチンに対する反対声明であった。その気持ち
は、わからないでもない。たった今、目の当たりにしたギロチンという名の狂気。それは、恐ろしいものだっ
た。ギロチンが、ではない。そんなものであっさりと導き出される、血に飢えた人の狂気が、だ。

 そして、フィーナはジェスタのことを思い出していた。ジェスタが言っていた言葉の意味を。その意味を、
初めて理解していた。

 そんな、逃げる三人の背後で、モビルスーツによってギロチンは破壊され、パイロットが交代する。捕まっ
ていた二人のパイロットが、戒めを解いてパイロットを交代したのだ。

 そんな中、上空から音が聞こえる。なんだ、と思い見上げる三人の目の前に、コロニーの中を飛ぶ一機のモ
ビルスーツの姿が。

「アレは、シャッコー!? 制式採用されたんだ」

「そうみたいね。もう迎撃に来るなんて、ずいぶん早いわね」

 そう呟いたのは、フィーナとサフィー。そして、三人は次の瞬間、目を疑った。なぜなら、飛んできたモビ
ルスーツ。シャッコーの制式採用タイプ、リグシャッコーは動き出したビクトリーに対し、問答無用で両腕に
構えたビームライフルを撃ちはなったのだ。まだ、避難も完了していないというのに。

「な、何考えてるの、あのパイロット……」

 フィーナは呆然と呟いた。信じられなかった。人が密集している場所で、街中で、ビームを撃つ。その、も
はや非常識をぶっちぎった狂気の沙汰に。降り注ぐビームを、ビクトリーは後退しながら回避する。が、避難
はまだ完了しきっていない。撒き散らされるメガ粒子。アスファルトの破片。そんなものが周囲を舞って、何
人もの怪我人が続出した。

 後退していたビクトリーが、バランスを崩しその場で座り込む。そして、そのビクトリーに対し、リグシャ
ッコーは情け容赦なくビームを放った。その光景を、信じられない、という目で見る三人娘。彼女たちの。い
や、軍人の常識から考えれば、それはありえない風景だったのだ。

「あいつ! エンジンが爆発したらどうなるかすらわからないっての!?」

 青ざめて絶叫するのは、ミューレ。彼女の言うとおりだ。現代のモビルスーツは、核融合エンジンが昔のタ
イプとは違い、下手にエンジンブロックなどに直撃を受けたら、内部のプラズマ化したヘリウム3の膨張爆発
ではすまず、最悪核爆発を起こす可能性すらあるのだ。

 そう。下手をすれば、今のリグシャッコーのビームを受けたビクトリーが核爆発を、この場で。ザンスカー
ル帝国のど真ん中で引き起こしたかもしれないのである。そうなればどうなるか。旧世紀末に行われた第二次
大戦の、核兵器の惨禍。それと同じことが街中で起こった挙句、コロニーのど真ん中にとんでもないサイズの
大穴が開き、結果的にザンスカール帝国は滅亡することになる。

 たった一機の、自軍のモビルスーツの軽挙で。それは、どうしうようもないほど笑えない話だ。

 モビルスーツのパイロットとして、あのリグシャッコーのパイロットの軽挙に憤りを感じるのは、至極当然
のことだといえよう。

「どこの馬鹿よ! あんなキ○ガイにあんな物騒なもの手渡した阿呆は!」

 顔を赤くして叫ぶフィーナ。その視線の先で、なおもリグシャッコーはビームを撃つ。それに対し、ビクト
リーはしばし防いでいたが、バルカンで反撃。そして、それにひるんだ隙を逃さずにスラスターから火を噴い
て飛んで逃げ出した。それを追ってリグシャッコーは飛び去り、なおもビームを撃ちまくる。

「うそ、でしょ」

 思わず呟くサフィー。三人の視線の先、ビクトリーを追うリグシャッコーがめくらめっぽうに撃ちまくった
ビームが、次々に着弾していく。それは、町の建造物に直撃し、家を破壊し、火事を起こす。それと同時に、
飛び散ったメガ粒子を受けた人々が、命を落としていく。

 その光景を、もはや怒る気力すらなくした三人は呆然と見ていた。守るべき町。守るべき人。それを、自ら
の手で破壊していく、モビルスーツ。先ほどのギロチンのショックも醒めやまぬ中、三人は身をこわばらせて
そこに棒立ちし続けていた。避難誘導の声を聞き、警報が流れるのに気づくまでは。

 それを耳にした三人は、とりあえずもといた場所。ニュータイプ研究所に戻るしかなかった。まさに、最悪
の休暇だった。逃げ出したリガ・ミリティアのモビルスーツに連動するように、マリアの恩寵の儀を妨害する
ために繰り出された連邦軍の部隊がサイド本国に強襲をしかけた挙句、強奪したカイラスギリーのビッグキャ
ノンを用いて再度の出陣のために展開しつつあった艦隊を焼き払ったことも含めて。

 まさに、悪夢のような一日であった。



 MSデータ

 ZM-S14S コンティオ

 頭頂高 16.1m  本体重量 10.9t  全備重量 21.8t  ジェネレーター出力 5960kw
 武装 ビーム内蔵式ショットクロー×2・胸部三連メガ粒子砲・ビームサーベル×2・ビームシールド

 ZM-S14Sコンティオは対モビルスーツ戦を考慮して作られたモビルスーツである。それた特に顕著に現れてい
るのはコンティオ最大の特徴ともいえる武装、両肩のショットクローであろう。
 この武装は鋏状の部位にメガ粒子砲を装備しており、そこからビームを撃つことが出来るほか、サーベル状
にビームを固定することも出来る。そして、そのクローを射出し、ワイヤー付ではあるが、遠隔操作による多
角攻撃。いわゆるオールレンジ攻撃を行うことも出来るのである。このシステムは専用の制御プログラムと、
標準装備されるバイオ・コンピューターによるコントロールがはいるため、かつての「ニュータイプ」専用装
備であるファンネル系の武器とは違い、単純に「使う」だけならば誰にでも可能であった。
 それと、コンティオ自体。推力が高く、運動性も高く、同時に格闘性能も高いこともあり、ショットクロー
との連携はきわめて強力な武器となっていたが(というより、高性能化した小型モビルスーツの前に、単独で
運用されるビット系の兵器はあまり優位性を持たないので、このショットクローは格闘戦能力に秀でたコンテ
ィオ本体の格闘戦の補助装備として考えられていた)、格闘戦を行いながらのショットクローの制御はきわめ
て困難であるようでそれを実戦で扱えるパイロットはごく限られていたようである。事実、原作でもクロノク
ル以外にはその直属の部下の数名程度にしか配備されていなかったようで、ある意味兵器としては完全な失敗
作であるといえる。
 なお、ビームシールドの構造が、制式採用機とカイラスギリーに配備された試作機とでは違っており、試作
機は手首にビームシールドを展開する構造になっているが、これではマニピュレーターを保護できないため、
制式採用機では肘の部分に変更されている。


 ZM-S22S リグシャッコー

 頭頂高 15.9m  本体重量 8.2t  全備重量 18.5t  ジェネレータ出力 5960kw
 武装 ビームサーベル×2・ビームシールド・ビームファン×2・ビームストリングス×3
ハードポイント×4

 ZM-S22Sリグシャッコーは、ZMT-S12Gシャッコーのデータをベースにして作られた、シャッコーの制式採用機
である。ただし、頭部の形状が大幅に変更されたり、大型のバックパックを装備するなど、試作機とは大幅に
改修が施されているため、まったく違う形式番号が与えられることになった。
 数々の固定武装を搭載し、オプション武装も多岐にわたって設定されたこの機体はきわめて汎用性が高く、
ゾロアットに代わる次期主力モビルスーツとして期待されていたが、終戦までに生産ラインが整わず、結果
的に少数配備となってしまった哀れな機体でもある。ただし、その少数配備された機体は期待通りの性能を発
揮したようであった。
 原作の劇中では、地上ではビームローターを展開するなど機体の柔軟な運用を物語る描写がなされたり、近
衛隊がカスタム機を運用する際、アインラッドと連携して見せるなど、使い勝手は非常によかったようである。
 なお、非常に優れた機体バランスから、この機体のデータを基に新型モビルスーツの開発も行われていたよ
うであるが、残念ながら、タシロ・ヴァゴが主導していたその計画は終戦までには間に合わず、ザンスカール
帝国、いや。この時代最強となるはずであったその機体は、試作機の建造すら間に合うことはなかった。

 

 

代理人の感想

うーむ、相変わらず雰囲気の描写が上手いですねー。

ぶっちゃけ原作にあったイベントを第三者の目から見た再構成にしてるだけなんですが、

それを丁寧にやるだけでまるで別物になっています。

ああ、楽しい。