UC153 6月 22日 地球近郊 エンジェル・ハイロゥ周辺

 シュバッテンをはじめとするタシロ艦隊を撃破した連合艦隊はそのままわずかな時間を休息に費やした後、
大気圏突入に備えるベスパ艦隊への追撃を続行した。全力でモトラッド艦隊、およびズガン艦隊を追う連合艦
隊は戦力こそ損耗していたものの、士気は高くなっていた。それは、目の前の敵の底が見えてきた、と言うこ
ともあったが何よりもエンジェル・ハイロゥによる被害を目にしたことで、戦いに対する覚悟がより深くなっ
たためである。

 それに対し、ベスパの士気は総じて高くはなかった。クロノクルはエンジェル・ハイロゥを手中に収め、覇
権を握ろうと画策していたし、カガチやズガンはエンジェル・ハイロゥの効果が女王の娘たるシャクティ・カ
リンによって発揮され、作戦が順調に行われてはいたことに満足していた。しかし、末端の兵にとってはカリ
スマである女王が裏切り者のタシロの手によってかどわかされ、挙句戦死したと言う報告を受けて動揺し、戦
意が落ちたのである。

 これは効率的に国をまとめるためにマリアを利用したカガチにとっては思わぬ落とし穴であったが、当のカ
ガチはその事実にあまり気づいている様子はなかった。ハードである軍を運用するソフトである人。それを軽
視しているベスパの戦力は見た目の戦力より小さくなっており、厭戦気分がひそかに蔓延していることに上層
部の人間はまったく気付いていなかったのである。

 そんな敵に、連合艦隊は機を逃すべからず、とばかりに攻勢を仕掛ける。マリアのカリスマの強さを分析し、
彼女を失ったばかりの敵の兵への心理的影響。それを考えてのことである。そんな連合艦隊に対し、ベスパも
また兵力を展開し、エンジェル・ハイロゥの防御を厚くしていた。


 巡洋艦エアのモビルスーツデッキ。ビクトリーのコックピットに収まったジェスタはコンソールをいじって
機体を起動させ、映し出されたモニターの光景に目をやって必死に整備を行っているセカンドVを横目に若干
罪悪感を感じていた。先の出撃後、他のモビルスーツの点検、補給を終えて直ぐに出撃を行うことになってい
ると言うのに、余計な仕事をさせている、と言う意識があるためだ。

 しかし、出撃となるとすぐに思考を切り替え、次なる戦いに備えなければならない。なのでジェスタは直ぐ
に視線をセカンドVから正面の宇宙に切り替え、出撃準備を終える。

「あくまでも援護、ね」

 先のブリーフィングで言われたことを思い出す。主力であるリーンホースのモビルスーツ隊。その彼らがエ
ンジェル・ハイロゥの空間に突入できるように血路を開くのが、今回の彼らの仕事だ。いわばおとりである。
とはいえ。敵の主力をひきつけなければならないのでかなり危険なのは言うまでもなく、目立たなければ意味
がない。なのでリーンホースのシュラク隊とともにビクトリータイプを多数運用するハルシオン隊がおとりを
引き受けるのは当然の成り行きと言えた。

「セカンドVがあればもっとうまくいけるんだろうけど」

 そう呟きながら、ジェスタはダッシュパックを装備したビクトリーにビームスマートガンを持たせてカタパ
ルトの下駄を履かせる。

「ジェスタ・ローレック。ビクトリー、いきます」

 そう言ってから機体を加速させ、出撃した。目の前にいくつもの光がちらつく。大気圏を前にして減速して
いるベスパの艦隊に追いついているが故に、敵も迎撃態勢を整えていたのである。そして、逆に追いついてき
たこちらの艦隊を殲滅すべく攻勢を仕掛けてきた、と言うわけだ。

「むしろやりやすいってもんだ」

 ジェスタは呟いて、後続の味方を確認。同じハルシオン隊の隊員のみならず、連邦のモビルスーツ隊も次々
と出撃してきている。それを見てから、ジェスタは機体を加速させて敵の中に突入した。そして真っ先にビー
ムスマートガンを構え、全力射撃を行う。敵の戦闘のゾロアットが、それをかわしきれずに一撃で四散。

 それを皮切りにジェスタは敵のど真ん中にビクトリーを進める。白い装甲のビクトリーは目立つ上に、ジェ
スタは敵に注目をひきつけるためにビームシールドを多用し、ビームスマートガンやオーバーハングキャノン
を使って見せた。その上でエンジェルハイロゥの空域に向けて機体を加速させ、直衛の部隊が動き出したのを
見計らって牽制の射撃を行いながら後退して見せた。

「あまり慣れていないのか? ずいぶんと素直だが」

 ジェスタは追いかけてくる近衛隊のタイヤを背後にしながらそうつぶやく。ジェスタ以外にも周囲にはハル
シオン隊の味方がつき、同じくおとりに徹しているがそれでも敵の動きがあまりにも単純に過ぎる。ジェスタ
はその事実を意外に思った。確かにベスパの人材不足は深刻だし、多くの学徒兵も動員している。が、さすが
に精兵たる近衛に学徒兵がまぎれているはずがないのだ。しかし、実際には単純な陽動にひっかかっているよ
うだ。これは今引っ張り込まれている近衛隊があくまでも実戦に慣れていない、と言うこともあるが、それ以
上につい先日のタシロの裏切りに大して何もできなかったと言う負い目から神経過敏になっているためともい
える。なので、過剰反応してしまうのだ。

 そんな近衛の機体に、ジェスタは機体を反転させて攻勢に出る。それにあわてたのか、ぱっと散った近衛の
リグシャッコーにジェスタは味方のガンブラスターと示し合わせてビームを撃ちながら一機一機追い詰め、潰していく。

 五機いた近衛のリグシャッコーは、二機やられた時点でばらけると危険だと言うことに気付いたようだが、
集結しようとしたところでジェスタはビクトリーを反転させ、エンジェル・ハイロゥに向かう。それに気を取
られた近衛は、次の瞬間。側面から仕掛けてきたライアンらの攻撃に沈む。

「さすが隊長。よく見ている」

 その様子を見てジェスタはそう言った。ライアンらは敵をひきつけながらも艦隊の防衛を行っていたのであ
る。今は少し前に出てきた、と言うわけだろう。そのライアン機にジェスタは片手を挙げて挨拶をしてから機
体を反転させて敵をさらにおびき寄せるためにサイドエンジェル・ハイロゥの領域に突入していった。

 その際背後を振り返って、

「……艦隊にも被害が出ているんだな」

 呟いた。幸い、エアもレオノラも敵の攻撃にさらされていないが、敵の主力モビルスーツ隊の一部がこちら
の防衛ラインを突破し、艦隊に直接攻撃を仕掛けているようだ。もっとも、それはごく一部の戦力に他ならず、
多くの敵は守りに徹しているようだが。こんなところにも、敵の士気の低下が現れているようだった。

 ジェスタは士気が低いのを見て取りながら敵陣深くに切り込みつつ、戦場を駆け回って敵をひきつける。そ
して周囲を見回して、

「フィーナたちは出てきていないか……」

 戦場にフィーナの意志を感じないことにジェスタは怪訝に思いつつ、戦場が順次地球側に移っている事をモ
ニターに表示された警告表示で知ると大気圏突入が間近であることを悟り、機体を後退させることを選んだ。
モビルスーツ単体での大気圏突入も不可能ではないが、あまりにも負担が大きすぎる上に、降下して直ぐにパ
イロットが戦線に参加できるかと言えば、不可能に近い。なので、ジェスタは帰還することにした。

 その際、ふと後ろ髪を引かれるような気がしたので背後をうかがうと、巨大なリング。エンジェル・ハイロ
ゥがすでに地球へと降下を始めているのを確認できた。金色の巨大質量が、大気との摩擦で赤く染まりながら
降下していく。その光景はすさまじいものだった。地上から見ているとさぞや壮観だろう。そう思っていると、
エンジェル・ハイロゥからなにか、うめき声のようなものが聞こえてきた。

「な、何だあれは……」

 その怨念にも聞こえる不気味な声に、ジェスタは震えがとまらない。

 ジェスタはこの時点では知らないことだが、エンジェル・ハイロゥには今。祈りをささげる巫女たる役目を
果たす存在は不在なのである。エンジェル・ハイロゥのセンターブロックに侵入したV2パイロットのウッソ
・エヴィンをはじめとするシュラク隊の。いや、ホワイトアーク隊の手によって、キールームにいた少女、シ
ャクティ・カリンは連れ出された後であった。

 しかし、カガチは諦めなかった。彼はキールームで祈ったシャクティ・カリンの祈り。それを機械が記録し、
それをサイキッカーをバッテリーにして擬似的にサイコウェーブを放出させているのだ。が、本物の祈りでは
ないそれを受けて、サイキッカーたちが拒否反応に近いものを起こしているのだろう。それが、ああした怨嗟
の声として現れているのだ。

「……あれを止めるのか」

 ジェスタは機体を加速させ、エアへと向かいながら、そう呟いた。巨大な機械であるエンジェル・ハイロゥ。
いまや、その名前とはかけ離れた悪夢の象徴としての存在を、その巨体を持ってその場に現していた。

 そして大気圏に突入したエンジェル・ハイロゥおよびベスパの艦隊を追撃し、連合艦隊もモビルスーツなど
を収容すると順次ビームシールドを展開すると大気圏に突入していった。

 最後の戦いが、始まろうとしていたことを、大気圏に突入する振動と赤熱する光を前にして、ベスパ、連合
艦隊にいる誰もが予感していた。


 UC153 6月 22日 地球 南アメリカ大陸付近・太平洋

 大気圏に突入したベスパ・連合艦隊は順調に降下を続け、ついに大気圏に突入した。突入したポイントは南
アメリカ大陸近郊の太平洋。時間は夕暮れが近く、西の空は日没を迎え、赤く染まっている。海に沈みかけて
いる太陽は、海の水を赤く輝かせていた。それを、ジェスタはビクトリーから降りて、モビルスーツデッキに
降り立ったところで開いたシャッターから目にした。

 沈み行く太陽。赤く染まる海。そして、潮の香り。初めて見るそれらのものすべてが、ジェスタを圧倒した。

「これが、地球」

 目の前に広がる世界に圧倒されるジェスタ。宇宙から見下ろした地球は、青い球体に過ぎなかった。美しい、
宝石のような星。そのことにジェスタはきれいな存在ではあるが、同時に。宇宙に比べると圧倒的に小さなそ
れに、矮小な存在、と言うイメージを持っていた。

 しかし、地球に下りてきて。その重力を体に感じて、気圧の変化によってもたらされる風を浴び。天に広が
る空を見ると、自分の認識がいかに誤っていたかを実感する。

 地球は、大きい。人というちっぽけな存在とは比較にならないほどに。宇宙生まれのジェスタの知る、コロ
ニーや月面都市といった箱庭の世界とはまるで桁の違う、地球のスケールの大きさにジェスタは感動を覚えていた。

 そして、それはジェスタだけではない。この艦のクルーの大半はスペースノイドで、今回。初めて地球に下
りてきたのである。故に、地球に下りてきたことをジェスタと同じように、外の風景を目にしたことで初めて
実感したクルーたちは、それぞれに手を休め。母なる地球の姿に見入っていたのである。

 
                     *****


 連合艦隊に先んじて地球に降下したベスパの艦隊。こちらは今、大騒ぎだった。と言うのも、元々地球での
使用を前提に設計されたモトラッド艦はともかく、ズガン艦隊に使用されているカリスト級、アマルテア級、
スクイード級の艦船は基本的に無重量空間である宇宙での使用を前提として開発されており、上下左右対称の
構造となっている。となれば、当然。上の部分はともかく、側面と下方のブロックは使い勝手が悪い、どころ
の騒ぎではなくなるのである。

 もちろん、地球に降下することは作戦開始当時から決まっていたこともあり、下準備は整えていたし、設計
当初からコロニー内にはいったときのことなども考えていざと言うときに何とか使えるようにもしているが、
それでも実際地球に下りてきたときに、完全に予定通りに行く、と言うわけではなかったのだ。

 そんなこんなで大騒ぎになっていたベスパ艦隊ではあるが、こちら側でも生まれてはじめて地球に下りてく
ると言うものが大半を占めていていることもあり、自分たちのする仕事に追われながらも、時に手を休めて地
球の風景に目をはせるものも多かった。

「これが、地球なんだ」

 パイロットとして、次の出撃の準備を進めている最中のフィーナであったが、空いた時間を見繕ってサフィ
ーとともに舷側の窓側に赴き、外の光景に目を向けていた。二人とも、窓から見える地球の光景に驚きを隠せ
ない。西の空に、海に沈み行く夕日。コロニー内にも夕暮れは存在するが、偽者であるそれとはまったく違う
本物の夕日に。そして、眼下一杯に広がる海に圧倒される。コロニー育ちの人間にとって、水平線のかなたま
で水が敷き詰められている海という存在は半ば理解の範疇を超える存在だ。まるで、世界の全てが水でなって
いるようにさえ思える。

 なので、二人は窓越しに見た、きらきらと輝く水が圧倒的なスケールで存在している海を前にして、感嘆の
息を漏らすのである。

「すごく広いのね、海って。……ここから、生命が始まったって言うのも、こうして目の前にすると本当のこ
となんだって納得できるわね」

「そうだね。地球が、あたしたちのお母さん、なんだね。外から見たらあんなに小さいのに」

「……ここを、旧世紀の人たちは汚し続けたのね。こんなに大きくて、きれいな世界を」

「そうだね。でも、だからじゃないかな。人に比べて大きすぎるからさ。つい、甘えちゃったのかも」

「そう、かも知れないわね。……ふふ。それじゃあ、人っていつまでも地球の子供なのね」

「そう、だね。だったらさ。人が大人になるってのは、みんながニュータイプになるってことなのかな? こ
の大きなお母さんに甘えなくなるって言う」

「さあ、分からないわ。私たちがニュータイプだってみんな言うけれど。こうして地球を目の前にしたら、地
球が私たちのお母さんって気になるもの。だったら、やっぱり私たちはニュータイプじゃないんじゃないかっ
てそんな気がするわ」

「ニュータイプ、か。訳わかんないね」

「そうね」

 フィーナとサフィーは沈み行く夕日と、赤く染まり、そして紫色に変じてゆく空と海を見ながらそんな会話
を交わした。そして二人そろって完全に夕日が沈み、空が宇宙に似た闇に染まるのを見計らってからその場を
立ち去った。

 夜が明けたら、リガ・ミリティアが攻勢をかけてくるだろう。そして、それを迎え撃つことになる。

 戦争の終結が、目前に迫っていることを感じ取った両軍の陣営は、嵐の前の静けさ、と言う言葉どおりに最
後の激突に向けて力を溜め込むための、最後の休息に入った。


 UC153 6月 23日 地球 南アメリカ大陸近郊、太平洋

 連合艦隊もベスパの艦隊も夜が明けた後始まるであろう決戦に向けて夜を徹してその準備に当たった。特に
整備士たちの仕事は、モビルスーツを大気圏内用装備に換装したり、設定を変えたりする必要性があるせいで
恐ろしく負担がかかった。しかし、これが最後の戦いである、とそれぞれ檄を入れることで皆疲労をおして仕
事に励み、夜が明けることにはほとんどのモビルスーツが出撃可能となっていた。

 それにパイロットたちは深く感謝の念をこめると同時に、ほとんどの者が初めてになるであろう大気圏内に
おける戦いに備えてシミュレーションなどを入念に行い、万全の準備を整えた。その上で、艦隊全体に艦体司
令であるムバラク大将、およびジン・ジャハナムから訓示があり、その後。レーザー通信で各艦で通信のやり
取りを行い、最後の戦いの打ち合わせを終了した。

 巡洋艦エアのブリーフィングルーム。今この場にいるのは、エアのパイロットだけであるが、レーザー通信
を使ってリアルタイムでレオノラとも通信が繋がっており、そのパイロットたちもライアンからの話を聞く姿
勢をとっていた。

「諸君らもすでに理解していると思うが、これが最後の戦いとなる」

 大真面目な顔をしてそういうライアン。それを、みなは静かに聴いた。この言葉は、このブリーフィングル
ームとレオノラのパイロットだけではなく、二つの艦の艦内に響いていた。

「我々の役割は、本命の第二次攻撃部隊のために先制攻撃を仕掛け、敵を撹乱。ひきつける役割だ。まあ、い
つもどおりだな」

 ライアンの言うとおり、エアとレオノラのパイロット。ハルシオン隊の隊員たちに与えられた役割は露払い
である。本命中の本命であるV2を擁する攻撃部隊のサポートを行うと言うのが仕事だ。聞けば、V2のパイロ
ットは今、キールームに立っていた女王の娘とともに行動しており、彼女をエンジェル・ハイロゥに送り届け
てエンジェル・ハイロゥを鎮めて見せると言う。

 正直な話、エンジェル・ハイロゥといういかがわしい機械を鎮めるよりも破壊したほうがいい、と言う意見
のほうが強かった。確かにエンジェル・ハイロゥには民間人のサイキッカー二万人がいるが、彼らをあえて見
殺しにしてでも、エンジェル・ハイロゥを排除したほうが結果的に被害は小さくなる、と言うものだ。これは
非情な意見ではあるが、軍と言う組織の性質上、必要な判断でもあった。しかし、結果として採用されたのは
V2パイロットとシャクティ・カリンのエンジェル・ハイロゥを鎮めて見せると言う意見であった。

 これはムバラク提督が妙にウッソ・エヴィンという少年を買っている、と言うこともあるがやはりエンジェ
ル・ハイロゥのサイキッカー二万人を見殺しにする、と言うことに嫌悪感を抱いたから、と言うこともあるだろう。
奇麗事だけで世の中を渡っていけるはずがないのは分かっているが、ここまできてあえて汚れ役をにな
いたくない、と言う思いを、戦場で戦う子供の姿を見てみなそう思ったのだ。

「だが、お前たちのことだ。このような事は簡単に成し遂げるだろう」

 ライアンはそう言って力強い笑みを浮かべる。

「俺がお前たちに言うことは唯一つだ。ここまできて死ねば、ただの損だぞ? これが終われば俺たちは勝利
の美酒を味わうことが出来る。分かっているな? コロニーや月の酒じゃない。地球の酒を浴びるほど飲める。
それも、勝利と言うスパイスつきでだ。これを逃すと、一生悔やむぞ?」

 にやりと笑ってそういうライアン。それを聞き、ブリーフィングルームのパイロットだけではなく、全艦の
クルーたちも顔をほころばせ、それぞれに手を打ったり口笛を吹いたりした。ライアンが言った、地球の酒。
それはこの時代、最高の珍味として知られていた。当然だ。コロニーや月では、作られた穀物、ブドウなどと
いった材料もそうだが、それと同時に水なども地球産のものとは比較にならないほどの低品質である。確かに
生産技術が上がってきてはいるが、それでも「地球」と言う生態系が生み出すそれと比べるべくもないのが実
情である。

 なので、「高級酒」と言えば地球産の酒類なのである。が、当たり前のことだが、地球で生み出された酒を
宇宙に運び出すには莫大なコストがかかる。なので、その値段は高くつくのだ。故に宇宙育ちの人間の多くは
めったに地球の酒を口には出来ない。

 しかし、ここは地球だ。宇宙に比べて、圧倒的に安価な値段で地球産の酒を入手することが出来る。その辺
りをライアンは言っているのだが、これは見事にクルーたちの戦意の向上に貢献したようであった。最後の戦
い、と言うことで緊張していた多くのクルーたちは、ライアンの言葉を聞いてリラックスし、それぞれに死ね
ない理由、というものを再確認。そんな部下たちの顔を見て、ライアンは叫ぶ。

「さあ、貴様ら! 生きて、勝って帰って勝利の美酒がのみたいか!」

「サー、イエッサー!」

「声が小さい!」

「サー! イエッサー!!」

「よし、もう一度!」

「サー! イエッサー!!」

「よし、諸君。では行くぞ! ベスパどもを軽く蹴散らして、ぶっ倒れるまでアルコール漬けになるぞ!」

 そういうとライアンは踵を返した。向かう先は、モビルスーツデッキ。それに、ブリーフィングルームに集
っていたパイロットたちも、その顔に覇気をみなぎらせて続く。そして、それはパイロットだけにとどまらない。
艦内の随所で、上がりっぱなしのテンションを抱えてクルーたちがこの戦いに勝つために気合を入れていた。

 パイロット全員がパイロットスーツに着替え、そしてモビルスーツデッキに向かった。ジェスタもまたモビ
ルスーツデッキについたが、自分の乗る機体がどうなるのだろうか、と一瞬逡巡し、不安げに周囲を見回した。
そこに、

「ああ、ジェスタ。安心しなさい。ぎりぎりでセカンドVは間に合ったから」

 その声に振り向くと、少々やつれ気味のニケの姿があった。それに軽く驚いたジェスタが周囲を見回すと、
あちこちで疲労困憊の整備士の姿がある。無理もない。最後の決戦に備えて夜を徹して整備などを済ませてい
たのだ。おまけに、宇宙での活動になれきっていたクルーたちに、地球上の1Gでの作業は不慣れであり、余
計に疲れたのだろう。

 その上で、セカンドVの修理も並行して行ったのだ。正直、ニケたちも間に合わないんじゃないか、と思い
ながら作業を行っていたほどである。が、それを成し遂げたのだから彼女たちの手腕と職業意識の高さたるや
すさまじいものである。

「すみません。お手数かけさせて」

「ま、それがあたしたちの仕事だものね。一応、間に合わなかったときのためにあんたのビクトリーも完全な
状態にしといたけど、それも無駄になったわね」

「ビクトリーも?」

「ま、その辺りはばらしてハンガーとブーツを予備にするって手もあるからいいんだけど。……ジェスタ。セ
カンドVのことだけどね」

 肩をすくめて言っていたニケだが、にわかにまじめな顔をしてジェスタに向き直った。そのニケの言葉に、
ジェスタは息を呑む。

「残念だけど、完全な状態には出来なかったの。フレームが歪んでたから、完全な状態にするにはやっぱりオ
ーバーホールが必要なのよ。でも、今回はそんな時間と手間がなかったから、ちょっと強引な方法を使ったのよ」

 言って、ニケは携帯端末を取り出し、その画面をジェスタに見せた。ジェスタが見た画面上には、セカンド
Vの概略図が描かれており、そのあちこちに赤く塗られた箇所がある。

「これが損傷箇所ですか?」

「そ。結構ひどいでしょ? ったく、だから試作機はダメなのよね。……って愚痴ってる場合じゃないわね。
んでね。時間がなかったから、もう強引な手を使ったのよ。で、結論を言うと、この機体。ベイルアウトでき
なくなったのよ」

「ハンガーとブーツの切り離しが出来なくなったんですか?」

「そ。コアファイターのフレームが歪んでたからね。それも、ドッキングブロックが。だから、その辺りを矯
正するために強引に固めちゃったわけ。それに使ったのが、ハンガーとブーツなの。ハンガーとブーツのドッ
キングブロック辺りの締め付けを強くして、その上でテープとか補強剤で固めたの。そのおかげで何とかフレ
ームのゆがみはごまかせたし、機体剛性もアップした。けど、結果として分離は出来なくなっちゃったのよ。
ハンガーに固定した状態で、あたしたちの手でやれば出来るけど、戦場での分離は出来ないと思って頂戴」

「そうですか」

「それともう一つ。ミノフスキードライブの接続基部も、補強剤とかで強引に固めちゃってるからとりあえず
の剛性はアップしてるけど、根本的なダメージは抜け切っていないの。だから、剛性アップの分普段の75パー
セントよりは上の出力の、大体80パーセント前後で使えるけど、それ以上になるとまったくどうなるか分から
ないのよ。下手をすればそこから火を噴くか、それともユニットが外れるか……だから、絶対にリミッターの
解除はしないこと。いいわね?」

「わかりました」

 ニケの説明を聞いて深刻な表情をして頷くジェスタは、ハンガーに固定された状態で聳え立つセカンドVの
巨体を見上げる。外見上は分かりにくいが、確かにドッキングブロック周辺に補強した跡が見える。そして、
同時にセカンドVに施されている追加武装に目が向いた。

「あの装備は?」

 言って目線で示したのは、セカンドVの両腰についているパーツだった。見た感じ、ビーム兵器のようだが。

「ああ、あれね。VSBRよ。V2アサルトの余ったやつをもらってきたのよ。セカンドVにだったら使える
だろうってね。んで、メガ・ビームキャノンとスプレービームポッドをつけてるから、火力だけならこの艦隊
の中でもトップクラスだから」

「ごてごてしすぎですね。防御力は変わらないみたいですけど」

「ごめん。アンチビームのリアクティブアーマーとIフィールドジェネレーターもつけたかったんだけど、間
に合わなかったの。出力の問題もあったし」

「いいですよ。こいつで出られるだけで俺は満足ですし」

 すまなさそうに言うニケにジェスタは笑顔で答えた。事実、機体のフレームに歪みがある、と聞かされた時
点でもう最後の出撃に間に合わないんじゃないかと思ったほどだったのだ。だから、セカンドVで出撃できる
だけでもありがたいと言える。そんなジェスタの姿にニケはほっと息をついて、

「じゃああたしたちの仕事はここまで。あとはあんたががんばる番。ジェスタ。言うまでもないと思うけど」

「分かってます。皆さんががんばってくれたんです。無様なことは出来ませんし、命だって捨てられません。
ここまできて死んだら馬鹿馬鹿しいですしね。だから、大丈夫ですよ。俺は、生きて帰ります。家で待ってる
家族のためにも」

「うん。いい返事だ。なら、安心した。じゃあいってきなさい」

「了解しました」

 サムズアップサインをしてきたニケにジェスタは敬礼を返し、セカンドVの足元に走っていった。その際、
周囲にいる疲れ果てた整備員たちにも軽く声をかけながら機体によって、足元のコントロールパネルを操作し
て乗降用のワイヤーを引っ張り出し。それに足を引っ掛けて上っていく途中、周囲を見回すとニケがライアン
と話している姿を見た。二人とも朗らかな顔で話をしている。おそらく、今このひと時だけ、パイロットと整
備士ではなく、夫婦の会話をしているのだろう。そんな二人も、ジェスタがセカンドVのコックピットに到着
したときには敬礼を交し合い、別れていた。

「隊長も、これが終わればようやくレナちゃんの元に帰れるんだもんな。そりゃ、気合も入るよな」

 そう呟いてジェスタは微笑む。そしてコックピットシートに体を預けた。パイロットスーツの機能と合わせ
て、体を固定する狭苦しいシート。これまで何度この席に着いたのか、もう考える気も起こらないほどに体に
なじんだそれに深く腰掛けて感慨深く思う。

 これが、最後の出撃なのだ。この戦いに勝とうが負けようが、おそらく。二度とこのシートに座り、戦場に
出ることはあるまい。自分の命を。運命を預けてきた相棒。その相棒に包まれているこの感覚は格別なものだ。

「ありがとうな、セカンドV。これまでずっと一緒に戦ってきてくれて」

 言って、コンソールを指でなでる。パイロットスーツのグローブ越しなので、その感触は味わえないがそれ
でもこうするとセカンドVの鼓動を感じることが出来る気がする。

「でも、これが最後だ。俺とお前のすべてを出し切って、必ず生きて帰るぞ」

 力強い笑みを浮かべてジェスタはコンソールから手を放し、コントロールシリンダーをつかんだ。それと同
時にコックピットを機体に収納させる。機体が起動し、バイオ・コンピュータがジェスタの思考と同期を始め
る。それがジェスタの意識を拡大し、機体と一体化したような感覚が現れる。その上でサイコミュも起動した。
サイコ・ウェーブが緩やかに放射され、それがジェスタの「目」や「耳」として機能する。世界が広くなった
ような、なんともいえない不思議な感覚に、ジェスタはしばし浸った。

 モニターが光をともし、周囲の光景がはっきりと現れた。それを確認してから、ジェスタは機体を動かす。
いつもどおり、ジェスタが一番手なのだ。だから、迷うことなくジェスタはセカンドVにカタパルトの下駄を
履かせた。

 開いたシャッターから、外の風景が見える。その先に見えるのは、蒼穹という名にふさわしい、青い空。生
まれてはじめてみる天然の青い空に、少し感動しながらも今からその中で戦争をするのだと言う生臭い現実に、
つい苦笑した。そのままジェスタは口の中で「さて」と呟くと、

「ジェスタ・ローレック。ハルシオン隊一番機。ガンダム、セカンドV。行きます!」

 その声に答えるように、セカンドVの機体は一気に加速され。厚い大気に包まれた地球の青い空に向けて打
ち出された。そしてミノフスキードライブユニットを駆動させ、そのまま一気に大空を駆ける。青い空に、白
いモビルスーツの姿は映えた。雲を貫き降り注ぐ太陽光を反射し、その姿はまさに天駆ける騎士であった。


                     *****


 地球に降下したベスパの艦隊は、降下と同時に上昇をかけた。少しでも高いポジションを取ることが重力下。
大気圏内での戦闘で有利になることは、旧世紀の戦闘機同士の戦いから変わることはない。それを熟知してい
たベスパ艦隊は、見事に連合艦隊の頭を抑えることに成功した。

 これは、連合艦隊が高度を甘く見た、と言うわけでも、のんきに見過ごしたわけでもない。降下と同時にベ
スパ艦隊の頭を抑えようとしたのはこちらも同じだったが、あいにく。艦の建造の基礎からミノフスキードラ
イブユニットを組み込むことを前提にしたザンスカールの艦船と比べると、連邦系の艦船はあくまでも後付の
ミノフスキードライブユニットに過ぎない。なのでどうしても艦の性能で劣ってしまう。故に、結果としてな
すすべもなくベスパ艦隊に頭を抑えられることとなったわけである。

 そのことを踏まえて、ムバラク提督は「頭を抑えられましたな」と苦渋の表情で呟き、自分たちを見下ろす
形になるベスパ艦隊を見て悔しげにしたと言う。

 そのザンスカール艦隊もまた、連合艦隊の頭を抑えた上で地上用装備に換装した各モビルスーツ部隊の出撃
準備を完了させていた。ズガン艦隊は特に大変だったようだが、それでも事前の打ち合わせどおりにうまくし
てのけたのはやはりザンスカール帝国の軍隊の練度が高かったおかげであろう。そして、その士気もまた。こ
こまできたら腹をくくるしかない、と思ったようで、総じて先よりは高くなっていた。

 そんなベスパ艦隊の戦艦。ダルマシアンのモビルスーツデッキに、自分の新しい。そして、最後の愛機にな
るであろうモビルスーツの前にたたずむ少女たちの姿があった。フィーナとサフィーである。二人はそれぞれ
の機体の前で、メカニックマンから機体についての最後のレクチャーを受けていた。すでにシミュレーション
も済ませているし、まあ、言ってみれば最終点検のようなものだが。

 メカニックマンから最後の話を聞いてから、フィーナはふと思い出したように聞いてみる。

「そういえば、ここに来ていたっていうニタ研の人はどうしたんですか?」

「ああ、彼女ね。この二機のサイコミュの調整を済ましたら直ぐにエンジェル・ハイロゥに向かって行ったよ。
色々と忙しそうな人だったしね」

「そうですか」

 まあ予想通りだな、と思いつつフィーナはそう返事をする。そして、「がんばれよ。お嬢ちゃんたち」と言
って朗らかに。そしてどこかやるせない様子でメカニックマンは二人の前から去っていった。女王マリアの逝
去。そして、自分より年下の少女を戦場に駆り出している現実に憤りを感じているのだろう。その様子が彼の
言動から見え隠れしていた。そんなメカニックを見送ってから、フィーナはため息を軽くついて、

「じゃあ、いこっか。サフィー」

「そうね、フィーナ」

 そういいあって二人そろって自分の機体に向かった。サフィーは灰色に塗られたやや大型のモビルスーツ、
ゲンガオゾに。そしてフィーナは黒と黄色に塗られた、どこかベスパの名のごとくスズメバチを連想させるカ
ラーリングの機体、ディーヴァに。

 二人とも、機体の前にある昇降機につくとそれを操作した。そしてコックピットのある胸部の位置まで上昇
すると、機体の外側にあるハッチの開閉装置を操作してコックピットハッチを開け、シートに身を預ける。一
度目を閉じて深呼吸。真新しいシートが少しばかり体になじまないが、そんなことも直ぐに忘れる。

「……これでおしまい、か。長かったのか短かったのか、よく分からないな」

 フィーナはサイドパネルをいじり、次いでコントロールシリンダーに手をやって機体を起動させながらそう
呟いた。初めてモビルスーツに乗った三年前。それから今にかけて、数え切れないほどの回数、このシートに
座ってきた。それもこれでおしまい。そう思うが、フィーナとしてはさしたる感慨も沸かなかった。ただ、「
ああ、もう終わりか」と思うだけだ。その先にあるものが何もないので、ただ。むなしいだけ。そう思いなが
らフィーナは機体を起動させた。機体に命が吹き込まれる感覚を、バイオ・コンピューターやサイコミュを通
じて実感しながら、フィーナは軽く目を伏せてシートにもたれかかって呟く。

「結局、流されるだけ、なんだよね、あたしは。……何やってんだろうな、ほんとに」

 ディーヴァのデュアルセンサーが一瞬、毒々しい赤い光を放つと、機体のインテークから空気が漏れる音が
響く。それと同時にディーヴァが動き出す。そして、その傍らのゲンガオゾも。二体の巨人が動き出す光景は、
まさに圧巻だった。周囲にいるメカニックたちも、各々のモビルスーツに向かうパイロットたちも、他の機体
に比べて何か違う空気をまとう二機の機体を前に少しではあるが、畏怖を感じているように思える。

「さて、と。とはいっても、もう戦争はする気が起こらないんだよね」

 そんな艦内の光景を見ながら、フィーナはそうこぼした。サフィーと二人。語り合った結果、でた結論はも
はや戦争をする気は起こらない、と言うものだった。二人にはもう戦う理由はない。しかし、こうして二人は
そろってモビルスーツに乗って出撃する準備を整えている。だからこそ、フィーナはコックピットの中で申し
訳なさそうに顔をゆがめてから、

「みんな、ごめんね」

 と一言こぼしていた。もはや、二人にとって戦争は終わっていた。これから二人が行うのは、もはや戦争で
はない。それをおくびにも出さず、二人はそれぞれの機体をカタパルトにではなく、側面のハッチに向かわせ
る。通常、八本あるカタパルトではあるが、現状で利用できるのはそのうちの二本のみ。なので、カタパルト
を使わずに発進できる機体は皆こうしてハッチから自力で出撃するのである。

「フィーナ・ガーネット。ディーヴァ、でます」

 そう短く言うなり、フィーナはディーヴァを発進させた。その直ぐ後にサフィーのゲンガオゾも続く。二人
は艦から発進すると、艦隊から発したほかのモビルスーツたちと同じようにはじめは直進するが、それらの機
体が直ぐに下にある連合艦隊向けて進軍するのに対して、二人は機体を降下させずにそのまま直進させた。

 そして、そのまま進んでから一気に上昇をかける。ミノフスキードライブによる大推力を誇るディーヴァと
ミノフスキーフライトシステムを搭載し、本体そのものも大推力を持つゲンガオゾ。その二機が、その性能を
余すことなく発揮して主戦場である高度から遠く離れた大気圏上層部を目指して上昇していく。二機の機体は
まるで青空に吸い込まれていくように、上昇をやめることはなかった。無論、その動きに気づくものも多かっ
たが、あいにくな事に敵が迫りくる今。唐突に離脱した二機の機体を追跡する暇があるものはいなかった上に、
ベスパのモビルスーツの中でも大気圏内での空戦能力を有した上で大推力を持つこの二機を追撃できる機体は
存在していなかったのである。

 故に、フィーナとサフィーの二人は半ば敵前逃亡にも近い、戦線離脱を敢行したのである。二人は戦場から
離れたところから、この戦いの趨勢を見届けることを選択したのだった。


                     *****


 連合艦隊は艦首を天に向け、一気に上昇をかける。厚い大気を貫いて上昇するが、元々航空力学にそってい
ないその巨体は、ミノフスキードライブを利用してもうまく上昇しない。そのせいで敵に頭を抑えられ、こう
して遅れて雲を引き裂き、上昇をかけるしかないのだ。

 そして、そんな艦隊から、モビルスーツが発進していく。ジャンヌ・ダルクを発するV2アサルトを筆頭に、
次々とモビルスーツが大気圏内用の装備を整えて出撃していく。そのモビルスーツ隊は二手に分かれていた。
まずは上昇をしてから、敵部隊に側面から先制攻撃を仕掛ける第一攻撃部隊と、その打撃で乱れた敵の中を上
昇しながら突っ切っていき、本命の一撃を敵陣に叩き込んでエンジェル・ハイロゥに切り込む第二次攻撃部隊。
V2を筆頭とするシュラク隊の各機はこの第二次攻撃部隊に属し、ジェスタをはじめとするハルシオン隊は第
一攻撃部隊に属していた。

 厚い大気を切り裂き、ミノフスキードライブを駆動させて青い空を舞うセカンドV。その機体を操りながら、
ジェスタは機体各部のセンサーが拾う厚い大気の重さというものを感じ取っていた。それが、機体にいやでも
重力の重さとはまた違った、重量感と言うものを感じさせる。

「これが地球の重さってやつか」

 空気抵抗がもたらす重さが機体を束縛する。ミノフスキードライブによる圧倒的な空戦性能も、航空力学に
沿っているとはとてもいえないモビルスーツと言う人型兵器と言う縛りの中では完全に発揮されない。とはい
え、それはあくまでも宇宙に比べたら、の話であって大気圏内であってもセカンドVの優れた空戦能力が損な
われるわけではないのだが。

 とはいえ、パイロットの意識としては、やはり機体が重く感じ、動きが鈍っているように思える。それはジ
ェスタの意識がシャープになっているからなのだが、本人はそんな自覚よりもやはり、機体が鈍いことが気に
なる。しかし。

「風を体に感じたら気持ちがいいのかな」

 と、そういうふうにも感じてしまう。こんなときなのに、と思ってその思考を直ぐに頭から追い出して、ジ
ェスタは機体に空気を押しのかせ、機体を上昇させた。ふう、と一度息を吐くとジェスタは視線を鋭くさせて、
前方を。上のほうに目を向ける。すると、ベスパ艦隊を発したモビルスーツたちが二手に分かれて次々と降下
してこちらの艦隊を目指して進軍してるのが見える。それを確認しながら、ふとジェスタは

「ん。フィーナ?」

 あの中から、離脱していく光が確認できた。普通なら見逃してしまいそうなそれを、ジェスタはサイコミュ
が拾ったフィーナの意識を知覚することで認識する。それを感じ取ることで、フィーナとその友人。サフィー
が戦線から離脱したことを理解した。もう、二人とも戦争をする意志がない、といいことだろう。

「ザンスカールが勝てば軍法会議ものだろうに」

 言ってから、ジェスタはさらに機体を上昇させる。そして敵の姿に目を向けて、火器管制を立ち上げた。タ
ーゲットスコープがモニター上に現れる。

「……なら。一番槍は俺がもらう」

 ジェスタはそうつぶやくと同時に、ウェポンプラットフォームのメガ・ビームキャノンを全力で発射した。
とたん、大出力のメガ粒子が砲身からほとばしり、敵モビルスーツ隊の中枢を貫いて一気に十機近くのモビル
スーツを吹き飛ばした。それに合わせるように、下のほうの第二次攻撃部隊からもう一閃のメガ粒子が大気を
貫き、敵を焼く。V2のメガ・ビームライフルだ。こちらの破壊力は、メガ・ビームキャノン以上だった。連
合艦隊を目指し、密集隊形をとっていたベスパのモビルスーツ隊。そのもっとも密集した地点を狙い撃ったメ
ガ粒子は、実に三十機近くのモビルスーツを一撃で破壊し、そのまま大気を焼いて敵艦隊にまで到達したのだ。

 その二発のビームの威力にジェスタは感嘆する。この二撃で、敵がひるんでくれたらいいが。そう思った矢
先だった。敵モビルスーツの中盤辺りに属する、大きなキャノンを背負ったモビルスーツ、ゴトラタン。それ
がメガ・ビームキャノン発射体勢になると全力で斉射したのである。膨大な量のメガ粒子が砲身から放出さ
れる。それは、下から観測したとき。まるで太陽が迫ってくるようにさえ見えた。

 そのメガ粒子が、ゴトラタンから見て下にいたベスパのモビルスーツ数機を焼き尽くしながら、上昇をかけ
るリガ・ミリティアのモビルスーツ隊に迫る。それを目撃した瞬間、V2パイロットウッソ・エヴィンは即座
にメガ・ビームライフルを撃ち返す。迫りくるメガ粒子の暴牙に高出力のビームの槍が突き刺さった。しかし、
その一撃の威力が足りなかった上に、収束しすぎていたメガ・ビームライフルのビームはゴトラタンのメガ・
ビームキャノンのビームを防ぐことは出来ずに、撃ち負け。結果的に収束されていたビームを拡散させてしま
った。

 とっさにV2はミノフスキードライブユニットを全力駆動させ、ユニットから大量のメガ粒子を吹き出した。
それが全長一kmの光の翼を形成し、V2の背後のモビルスーツはビームの雨の惨禍を逃れることは出来た。し
かし、その更に下に展開する艦隊はそうは行かなかったのだ。高度の概念がある重力下において、頭を取られ
るとはこういうことなのだ。上に対する有効な防御策を持たない艦は敵からの先制攻撃を受けることになる。

 降り注ぐメガ粒子の雨。それが艦隊を直撃した。多くの艦がビームの直撃を受けた。中にはブリッジに直撃
を受け、一撃で戦闘不能に陥る艦もあった。そして、被害を受けた艦の中に、艦隊の旗艦であるジャンヌ・ダ
ルクも存在していた。後部のエンジンブロックに直撃。一撃で反応炉が誘爆こそしなかったものの、そのダメ
ージは深刻だった。損傷したエンジンを切り離すことを、ブリッジ内でジン・ジャハナムは提案。しかし、ム
バラクはそれを拒否し、損傷したエンジンを武器にすると宣言。特攻の意思をあらわにしたのである。

 ムバラクは艦の若い人員に退艦を指示。それから艦を特攻させるべく生き残ったエンジンを最大出力で駆動
させ、敵艦隊に向けて直進させる。その指示を出しながら、ムバラクは隣のシートに座るジン・ジャハナムの
姿をうかがった。が、そこに彼の姿はない。そのことに軽く驚きながらも、ムバラクはまだ彼が何かをするつ
もりなのだと悟り、その存在を忘れることにした。そして艦はそのまま敵に斬りこんでいったのだが、最終的
に。そのブリッジをこちらの艦隊に切り込んできたモビルスーツ隊の攻撃にさらされ、破壊されてしまうことになった。


 降り注ぐビームが艦隊を直撃する光景を目の当たりにしたジェスタたちは思わずその場で体をこわばらせた。
ここからははっきりと確認することは出来ないが、艦隊全体に降り注いだビームの雨。それを、エアなりレオ
ノラなりが受けなかったとは言い切れない。それが、彼らに恐怖を感じさせた。帰るべきところ。自分たちの
母艦が、沈んでしまう。失われてしまう。その恐怖を。

 全員、機体をその場にとどめ、下の光景を。自分たちの母艦の無事を確かめようとする。が、敵は直ぐそこ
に迫っており、そんな暇は与えられない。そのことにジェスタは忌々しげに顔をゆがめると同時に、無線のス
イッチを開いた。

「隊長! 後退してください! 艦隊を、エアを。守ってください!」

『何を言っている、ジェスタ』

 ジェスタは叫びながら機体を上昇させる。そして、こちらに向けて降下してくる敵部隊にスプレービームポ
ッドを撃ち放つ。雨あられと放たれたメガ粒子の散弾が、敵モビルスーツ数機を弾き飛ばした。

『そうですよ、隊長。奥さんを守らないと』

 そう言って、アンがライアンのヘキサに近寄り、接触回線でそう語りかけた。その言葉に、ライアンが一瞬
息を呑む。それを好機と見たアンは、畳み掛けた。

『シシリー! ボッシュ! カリーナ! あんたたちは隊長と一緒に降下して、艦隊の防御に専念しなさい!
敵は勢いに乗って直ぐに艦隊に襲い掛かる。それから、私たちの家を守りなさい!』

『アン! お前、何を』

『了解しました!』

『イエス・マム!』

『はいはい。せっかく手柄を立てられるかな、って思ったのにな』

 アンに指名された三名のパイロットたち。ヘキサ一機にガンブラスター二機が、アンの言葉に従った。そし
て、三機のモビルスーツがライアンのヘキサに取り付くと、

『では副隊長。隊長は私たちが責任を持って連れ帰りますので』

『ご安心を』

『私たちの代わりに手柄を立ててくださいね、さ、いきますよ、隊長』

『お、おい。お前ら。ええい、分かったから放せ。この状態で敵に襲われたら何も出来んぞ』

 焦った様子で言うライアン。彼の言うとおり、味方の機体に押さえ込まれたまま敵に襲われたらひとたまり
もないだろう。今は、ジェスタをはじめとするハルシオン隊のほかの機体が敵に積極的に攻撃を仕掛け、敵を
近づけていないが、それも長くは持たない。敵の位置はこちらから見て上にいる。つまり、敵は降下してきて
いるということだ。なので、敵がこちらに侵攻してくるとき、重力よる加速を持って進軍することができる。
そんな敵を相手にして、防ぎきるのは不可能であろう。少なからず、敵はこちらの防衛網をぬけて艦隊に迫る。
下にいる相手より、上にいるほうが圧倒的に有利なのだから。

 そのライアンの言葉に、しぶしぶ三機は手を放す。そして、

『ではアン。攻撃隊の指揮はお前に任す。俺はお前たちの厚意に甘えさせてもらうことにしよう。……帰った
ら、何か奢ってやる。だから、死ぬなよ、お前ら』

『何!?』

『そいつは聞き捨てなりませんや』

『いいんですかぁ? 奥さんに怒られますよ?』

『楽しみにしてますよ、隊長』

 などと、ライアンの言葉に口々に返す隊員たち。その声に、気負いもなければ気後れもない。そのことにラ
イアンは安心すると、『後は任せた』と言い残すとヘキサを反転させて降下していく。そのついでに、こちら
のラインを突破した数機の敵機を追撃し、撃破していく。それに、残りの三機も続いた。

『ってことは何? 私たちは何も奢られないってこと?』

『損したねえ』

『副隊長。代わりに奢ってくださいよぉ』

『あー分かった分かった。分かったからさっさと行きなさい』

 最後に愚痴をこぼして言ったので、アンはかなり投げやりにそう言い放ち、その場で反転すると、ヘキサの
デュアルセンサーを上方に向けて、

『さて。隊長に後を任されたんだ。みんな、気合を入れていくよ! いいね!』

『『了解!』』

 アンの号令にハルシオン隊の生き残り。合計五機のパイロットが声を合わせて返事をした。そして、ジェス
タのセカンドVを先頭にした編隊を組むと、一気に敵を蹴散らし、押し返すために進軍を再開した。


 モビルスーツデータ

 LM314V24 V2アサルトガンダム

 頭頂高 15.5m  本体重量 12.3t  全備重量 19.1t  ジェネレーター出力 7510kw

 武装 頭部バルカン×2・ビームサーベル×2(2)・ビームシールド×2・ハードポイント×10
    Iフィールドジェネレーター×2・VSBR×2

 LM314V24はLM314V21V2ガンダムに追加武装として製作されたアサルトパーツを組み込んだ機体である。
 アサルトパーツとは、その名のごとく敵の中に突入し、突破口を開くための形態で、それゆえに火力と防御
力の双方にバランスよく強化されたユニットを装備している。
 まず、攻撃装備としては両腰のハードポイントに装備しているVSBRが挙げられる。これはかつてサナリィが
開発した、小型モビルスーツの傑作と呼ばれ、連邦軍もわずかな数を量産、運用したモビルスーツ。F91が装備
していた可変速ビームライフル、VSBRそのものである。ただし、大幅に小型化されているが。そのため、一撃
の最大威力こそF91のそれに劣るが、それ以外の面において言えば、すべて劣りはしないどころか優れた特性を
持っていると言えるだろう。一説によれば、V2に搭載されているサイコミュと連動し、オールレンジ攻撃も
可能であるといわれているが、実際にそうして運用されたケースは報告されておらずこの話については推測の
域を出るものではない。
 そして攻撃装備でもう一つあげられるのが、メガ・ビームライフルである。このメガ・ビームライフルはビ
クトリーが使用していたビームスマートガンをもとに開発されたビーム兵器で、この時代のモビルスーツの携
行兵器としては間違いなく最強である。(ザンネックキャノンやゴトラタンのメガ・ビームキャノンはもはや
携行兵器の域を超えているので除外)このメガ・ビームライフルはバレル部分とコントロール部が分離する形
になっており、普段はその分離状態で脚部のハードポイントに接続する形になっている。そして使用するとき
になると、この二つを合体させ、その上でバレル部分がスライドして展開し、モビルスーツの身長ほどの長さ
の砲身をあらわにし、絶大な威力のメガ粒子を放出するのである。
 この二つの攻撃装備により、V2アサルトはきわめて強力な攻撃力を備えるモビルスーツとなった。しかし、
攻撃力だけに特化したバスター装備とは違い、アサルト装備はさらに防御力にも主眼が置かれている。
 アサルト装備の防御用装備として真っ先にあげられるのは、両肩のIフィールドジェネレーターである。こ
れは強行偵察仕様のLM314V16Stが装備していたもののアップデータヴァージョンでV2用に再設計されたもの
である。LM314V16StのIフィールドジェネレーターはビームシールドのIフィールドと相互干渉することで不
具合を起こすと言う欠陥があったが、V2アサルト用のIフィールドジェネレーターにそんな不具合はなく、
Iフィールドを展開しつつシールドを使用可能なように改善されていた。とはいえ、後付のパーツであるため
強度的なもろさがあり、歩兵用の対モビルスーツ用火器で簡単に破壊されたりしたようである。そして、相変
わらず負荷がかかることで冷却が間に合わず機能停止する欠陥はどうしようもなかったようで、ビームの直撃
を受け。過負荷がかかったときに、冷却が間に合わず。そのまま破損したこともあったようである。結局、開
発期間を急ぎすぎたために完全なものを作ることは出来なかったようだが、この機体にとっての防御装備とし
てはIフィールドジェネレーターは実験的な要素が強かったため当てにはされてはいなかったようである。
 ついで挙げられるのが、機体の各所。腰の部位と足の部位に装着された金色の追加装甲である。これはかつ
てFA-010SフルアーマーZZガンダムに施されアンチビームコーティングの発展型の技術で、メガ粒子の直撃
を受けることで瞬時にプラズマ化して機体とビームの間に幕を作り、ビームを受け流す効果を持つ。このシス
テムはF-97に装備されていたABC(アンチビームコート)マントの技術を応用したようである。
 最後に挙げられるのが、メガ・ビームシールドである。これは大型の実体シールドに、三基のシールドビッ
トを装備した防御用装備で、シールドビットを展開し、ビームシールドを展開した場合、艦船用のシールドと
同等の防御力を示す優れた装備で、シールドビットを展開していなくてもIフィールドをまとっているため、
普通のシールドとしても扱える代物である。ただし、このメガ・ビームシールドはエネルギー消費が半端では
なく、ビクトリーで運用した場合、シールドを展開したとたん、ほとんどの電力を食われ、まともな戦闘機動
すら出来なくなる始末であった。この、欠陥兵器にも見えるメガ・ビームシールドをV2メインパイロットの
ウッソ・エヴィンは自在に操り、防御用装備としてだけではなく、正面に対してメガ粒子を飛ばしたり、シー
ルドビットをサイコミュを通じて操り、巨大ビームサーベルとして扱ったという報告もある。その際、背中の
ミノフスキードライブユニットからあふれる光の翼とそろって振るわれ、一瞬にして十機近くのゾロアットを
粉砕したと言う。とはいえ、この装備もまた、V2パイロットの技量とセンスの甲斐があってこそ有効な兵器
として機能しただけであり、実際にはかなり使い勝手の悪い兵器であったことは確かであろう。


 ZMT-S33S  ゴトラタン

 頭頂高 15.9m  本体重量 11.1t  全備重量 24.9t  ジェネレーター出力 6170kw

 武装 頭部ビームカッター・ビームトンファー×2・ビームシールド×2・ハードポイント×2
    メガ・ビームキャノン・六連ミサイルランチャー×2

 ベスパが開発した試作型モビルスーツで、一機だけが戦線に投入された。この機体のコンセプトは遠距離砲
撃戦闘能力と、格闘戦力を同居した機体、と言うものである。
 先に開発されたZMT-S29Sザンネックは確かに優れた機体であったが、あくまでもこの機体は超長距離砲撃だ
けに特化した機体で、運動性、機動力、格闘戦能力のすべてを犠牲にした機体であった。故に、遠距離攻撃で
は無類の強さを発揮するも、懐に飛び込まれるとなすすべもない、と言うことが開発途中のシミュレーション
データから明らかとなっており、それに対応する必要性に駆られることになる。それに対して出された答えが、
このゴトラタンである。
 ゴトラタンはメガ・ビームキャノンにジェネレーターを内蔵し、独自のスラスターやアポジモーターを装備
させることによって本体とは別のユニットとして建造することで、本体は格闘戦能力に優れた機体に仕上げる
ことができた。そのシステムは、ゲンガオゾのそれに近くもあるが、ゲンガオゾよりも軽量な機体は圧倒的な
格闘戦能力を示している。頭部のビームカッターや両腕に装備されたビームトンファーなど、独創的な武装の
多くはいかにも実験機、と言う感じがするがそれでもこの機体の機動力と運動性から繰り出される攻撃の数々
はすさまじく、ビクトリータイプをものともしない高性能振りを発揮していた。
 なお、余談だがこの機体はZMT-S34Sリグ・コンティオとおなじ開発陣によって開発された機体のようであり、
両機とも手の甲の部分のおなじタイプのビームシールドを装備していたようである。
 そしてこの機体の最大の特徴であるメガ・ビームキャノンであるが、その設計思想そのものはけして真新し
いものではない。かつての第一次ネオジオン紛争時においても、メガ粒子砲を内蔵したサブフライトシステム
の一種として開発されたメガライダーと呼ばれる機体があったが、これがメガ・ビームキャノンとおなじ設計
思想によるものであるといえる。とはいえ、メガライダー自体、MSN-100百式が使っていたメガバズーカランチ
ャーにジェネレーターと自航能力を身につけた代物なので、根本的にザンネックキャノン級のビーム兵器にジ
ェネレーターと本体の邪魔にならないようにスラスターを取り付ける、と言うメガ・ビームキャノンとおなじ
ものと言えるのだが。
 メガ・ビームキャノンは独自にジェネレーターを内蔵しているため、モビルスーツが撃つものとは思えない
ほどの大出力のビームを撃ち、その威力は戦艦の主砲を上回るものであったと言う。そして、このメガ・ビー
ムキャノンはまた、砲身だけを取り外し、それだけでも運用が可能である。その際は、ゴトラタンの頭部ビー
ムカッターの部位をキャノンにコネクトし、そこから電力とメガ粒子を装填する必要がある。その際、ためる
ための時間がかなりかかるようであり、あまり実戦で使うことは考えられておらず、あくまでも万一の非常用
の機構であるようだ。
 このように、格闘戦能力と砲戦能力の両立を目指して作られたゴトラタンであるが、その実。砲戦用モビル
スーツとしてはザンネックには遠く及ばない機体になってしまったのは皮肉な話である。
 と言うのも、ザンネックが最強を謳われるザンネックキャノンを運用できたのは、あくまでも機体に備え付
けられている二基の巨大粒子加速器があるが故にである。これのおかげで十分に加速されたメガ粒子は常軌を
逸した破壊力と信じがたいほどの長射程を得たのである。が、ゴトラタンのメガ・ビームキャノンはあくまで
も通常のビーム兵器の延長上にあるものに過ぎず、破壊力こそあれどそのビームの射程そのものはさして長い
わけではない。
 さらに言うならば、ザンネックがそのザンネックキャノンを有効な兵器として運用できたのは機体に備え付
けられたサイコミュのおかげである。このサイコミュがパイロットの認識力を拡大させ、はるかかなたにいる
敵の姿をはっきりと認識。その上で火器管制と連動し、超長距離の敵にピンポイントでの狙撃を可能とさせた
のである。
 が、このゴトラタンにはサイコミュは装備されておらず、あくまでも通常のバイオ・コンピューターによる
パイロットのアシストにとどまっている。なので、ザンネックのように超長距離の敵の姿を認識する、と言う
離れ業をすることも出来ない、あくまでも中距離戦闘用のモビルスーツにとどまることになった。
 とはいえ、純粋に格闘戦用モビルスーツとして評価した場合、このゴトラタンは非常に優れた機体であり、
その機体に強力なビーム兵器を組み込んだ、と考えた場合、この機体は非常に優れた兵器となるのである。



代理人の感想

・・・・・・・アン、今回こそ死亡確定か?(爆)

本来はいい事じゃないんですが、冨野系作品だと人が死なないと話が進まないからなぁ(苦笑)。

どうしても誰が死ぬんじゃないかと先読みしてしまいますね。

 

後首実検というのは、死んだ敵が誰なのか改めることであって、

例えばフィーナ達が本人なのかを確かめるというならあれでいいかと思いますが、

TK-POさんが意図したような表現ならおそらく「踏み絵」というのがよろしいかと。