終わらない明日へ・・・



 by ACE





 第五話 フィールド消失 〜強襲〜





 目の前に広がる無限の宇宙。
 ただ、星々の輝きは視野の端に映るだけで、視神経を刺激するのは繰り広げられている戦闘の爆光だ。

 アキトは肌で実感する。
 今、自分は戦場にいるのだ、と。
 自ら望んだわけではない。しかし、自分は戦わねばならない。
 友を守るために・・・



 そこでは既にヒエンの駆る漆黒のデルフィニウムが戦っていた。
 四機のテツジンを相手に一歩も退かず、むしろ余裕で戦っているようにさえ見える。

 出撃したストライクに接近する四機のエステバリス。
 四機のうち、最大加速で接近してくる紅いエステバリスが肉眼でも確認できた。

 『九十九!出すぎだぞ!!!』

 接近してきたのはイージス。パイロットは、九十九だ。

 九十九は味方との回線を一旦閉じ、ストライクに回線を繋げた。
 ―アキトを説得しなければ・・・

 「ストライクのパイロット、テンカワ・・・アキトだな?」
 既に知れていることだが、九十九は確認する。
 『・・・そうだ。』
 重い声が返ってくる。声は多少低くなっているが、忘れえぬ親友アキトの声だ。

 「アキト!俺達と一緒に来い!!!お前はコーディネイターだ。お前が地球軍にいる理由がどこにある?!」

 九十九は叫んだ。腹の底から声の限りに、アキトの心に届くように。
 アキトにその叫びに籠められていた思いは届く。
 だが、アキトにも譲れないわけがある。

 『俺は別に軍に加担しているわけじゃない!
  あの艦には友達が乗っているんだ!彼らを守るために俺は戦う。それを沈めようとするのなら九十九、俺はお前とだって戦う!!!』

 アキトも叫ぶ。自分の譲れない思いを籠めて。
 九十九もアキトの友だ。それは昔も今も変わりはしない。

 何故、九十九と戦うことを選び、ガイ達を守ることを選んだのだろうか?

 それはアキトにとって苦渋の選択であったであろう。
 決め手は、九十九が所属する軍、ZAFTだった。
 平和であった―それが例え偽りであろうとも―ヘリオポリスに一方的な攻撃を仕掛けてきたZAFT。
 そんな軍の下に行くことなど、考えられることではない。

 「そうか・・・ならば俺はお前を・・・『何をやっている九十九ぉぉぉ!!!』

 九十九が最後の言葉を言い終わることなく、通信は途絶えた。

 他のエステバリス三機がもうすぐそくにまで来ていた。

 対峙するストライク、イージスの間に割って入ったのは元一朗のデュエルだ。

 ストライクとの間合いを詰めたかと思うと、デュエルは間髪いれずに攻撃を繰り出す。
 右腕にもつビームライフルを乱射する。
 アキトも不意を突かれたが、ぎりぎりのところでフィールドを発生させビームを偏光させた。
 この攻撃でストライクも完全な戦闘態勢になる。
 ビームライフルを構え、デュエルに向けて放つ。
 デュエルはフィールドで偏光させるでなく、悠々回避する。

 「はっはっはっ、ナチュラルにしてはよくやる!だが、遅い!!!」

 機動力を生かし、ストライクの懐に潜り込む。だが・・・

 ―ガゴン!

 元一朗はそのままストライクの胴体を切り捨てようとしていた。
 しかし、ストライクは蹴りでデュエルを弾き、デュエルの一閃は虚空を切る。
 その隙をチャンスとばかりにビームライフルを撃つ。

 今度は回避するでなく、フィールドで偏光させた。

 一進一退だったこの戦いに、バスターとブリッツが参戦する。
 イージスは手を拱いていた。

 バスターは遠距離から射撃し、ストライクの足を止める。
 そこをデュエルとブリッツが攻撃する。
 実によくできた連携攻撃だった。

 しかし、ストライクも負けてはいない。
 フィールドに頼りきらずに、機動力の限りに回避行動を行い連携攻撃をかわす。
 デュエルの一太刀は左腕を掠めたが、致命傷には至らない。

 完璧な連携攻撃にアキトは防戦一方。
 攻撃に転じられないのはバスターの遠距離射撃のため、思うように動けないからだ。
 好機は必ず訪れる。そう信じ、アキトはただひたすら防戦に努める。

 バスターの射撃が一瞬止まる。

 「チャンス!」
 アキトはこれが勝機だと確信し、ビームサーベルを手に取り、デュエルに切り掛かる。
 デュエルはサーベルをサーベルで受け止め、激しい閃光が輝く。

 ―ギィィィィィン!!!
 
 バーニアを噴かせ、力押しでデュエルを後方へ弾く。

 ストライクの背後にはブリッツの姿があった。

 「もらったぞぉ!」
 完璧に後ろを取った状態でサーベルを掲げ、振り下ろす。
 その刃先はストライクを両断し、撃墜する・・・はずであった。

 後ろから発せられる殺気にアキトは即座に反応し、ストライクの体勢を沈み込ませる。

 ブリッツの振り下ろしたサーベルは、アキトの反応速度に負け、エールパックの一部を切り落とすだけに留まった。



 先程まで、デュエル一機を相手にするだけで精一杯だったアキトが、今は三機相手にやや劣勢ではあるが張り合っている。
 アキトは戦いの中、凄いスピードで進化しているのだ。



 回避できたとはいえ、エールパックの一部を破壊されたストライク。
 それでもなお高い機動力で三機のエステバリスと戦う。
 エネルギー残量を示すゲージはどんどん下がっていく。それはアキトの目には入ってはいなかった。

 

 一度崩れた連携を元に戻すには時間がかかるものだが、彼は違う。
 崩された連携とはまた違った攻撃パターンを繰り出す三機。

 進化するアキト。しかし、訓練の差は歴然としている。

 徐々に押され始めるストライク。エールの一部が破壊されているため、完全な動きができず、回避にも限界が来た。

 ―ギュィィィィィン!!!

 バスターの射撃が遂にストライクを捕らえる。
 放たれた閃光はフィールドを貫通し、ストライクを掠める。
 フィールドでやや偏光されていたため、直撃はなかったがアキトは背筋が凍った。

 ―ギュィィィン!ギュィィィン!ギュィィィン!

 動揺してできた大きな隙に、バスターの射撃はますます激しくなる。
 先程まで接近戦主体で戦っていたデュエル、ブリッツも間合いを取って攻撃を繰り出している。

 アキトは背に感じる冷たい汗を感じながら、その攻撃をかろじてかわしきる。
 しかし、それも長くは続かないだろう。

 ―絶体絶命

 実にありきたりな表現だが、アキトの脳裏にはそんな言葉が浮かんでいた。

 



 一方、先行していた漆黒のデルフィニウム。
 ヴェサリウスを護衛するために出撃した数機のジンシリーズを相手にした後、デルフィニウムはその姿をくらませていた。
 ジンシリーズは索敵に専念しているが、一向にその姿を見つけることができない。

 「頃合だな・・・」

 コックピット内でポツリと呟くヒエン。

 その瞬間、ジンシリーズはレーダー上にデルフィニウムを示す点が映る。
 点の現れた場所は、ヴェサリウスの後方。
 防御の一番薄いところだった。

 ―ドゴォォォン!!!

 デルフィニウムの放ったミサイルはヴェサリウス機関部に直撃する。



 「機関部にダメージ大!エリア3から7までに甚大な被害が出ています。」

 デルフィニウムの奇襲は成功した。
 ヴェサリウスのブリッチは、優勢を一気に覆されたのが効き、慌しくなる。

 「隊長、これ以上は危険です。」

 そんな混乱の中、二人の人間だけは毅然とした態度で落ち着きを払っている。
 ヴェサリウス艦長、と、言わずとも知れた北辰だ。

 「仕方があるまい。撤退だ。」

 鼻で嘲笑しながら北辰は離脱を指示し、 ヴェサリウスから撤退命令代わりの信号弾が放たれる。



 信号弾の光を確認した四機のエステバリスの反応は様々であった。

 デュエルとバスターは完全に撤退命令を無視し、ストライクと戦闘を続行。
 ブリッツは、動きを止め、元一朗と三郎太を帰艦するように説得。
 イージスはスキュラに変形し、何か動きを見せる。

 「九十九?!何をする気だ?」

 スキュラが猛烈なスピードでストライクに迫る。
 アキト回避しようとした。
 しかし、ストライクは沈黙したままピクリとも動かない。
 先程までの機敏な動きが遠い昔のことだったかのように、ただ宇宙に浮いているだけの鉄の塊と化したストライク。
 アキトの耳に入ってきたのはブザーの音。
 ブザーは前々から鳴っていたのだが、必死のアキトに届いたのは今更のことである。
 音源の方を向くと、モニターに映っていたのはエネルギー残量を示すゲージ。
 出撃したとき、そのゲージは緑色をしていたが、それは灰色でエネルギーの残量がないことを指している。
 慣れない長期戦にエステバリスの方が参ってしまったようだ。

 ―ガシン

 スキュラの4つの爪でストライクを捕獲した九十九。
 アキトは虚ろな目で目の前に移る紅い機体を見つめていた。
 もはや、完全に動けず、フィールドも張れないエステバリスは無様である。

 スキュラはストライクを捕獲した状態でその場を離れ始めた。

 『九十九、何をする気だ?』

 九十九に繋がれた回線。モニター越しに映るのは源八郎だ。

 ―ピッ

 九十九は無言でその回線を閉じた。そして、再びアキトに語りかける。

 「アキト、何もZAFTに入れとは言わない。兎に角、お前はこっち側に戻るんだ!」

 アキトは応えようとしない、というよりも応えられなかった。

 しばし、二人を包む静寂。
 静寂を破るのは、アキトでも九十九でもない、第三者の介入によるものとなる。

 ―ガガン!

 何かがスキュラに衝突、いや突撃してくる。
 衝撃に、両コックピット内は激しく揺れた。

 「ヒエンさん!!!」

 アキトを救い出したのは漆黒の影。

 「ここは退け!」

 イージスに通信を送りながら、威嚇でライフルを放つ。

 「ちぃ!!!」

 撤退するイージスを後ろから討とうとはしない。
 ここで再戦したところで、勝機はないからだ。



 二機は帰艦し、辛くもナデシコは危機を脱することが出来た。
 そして、やっとのことで連合軍の要塞、アルテミスに到着する。

 しかし、そこでは別の危機が待ち構えて居ようとは誰も想像できなかったであろうか。





 あとがき
 真冬が近づいています。寒さで凍りそうなACEです。
 今回は、前回の失敗を考慮し、完全なシリアスものとして書き上げました。
 種原作で、この話は初のガンダム同士の戦いで盛り上がったものです。
 情景描写を苦手としているので、戦闘の風景を書くのには苦労しました。
 しかし、一応は形になったと思うのでひとまず安心です。

 物語はこれからどんどん加速します。そしてどんどん原作から離れます。
 アキトはキラとは違った成長を遂げ、終末のときそれはどんな影響を及ぼすのか?
 それを書くまで決して投げ出さず、執筆を続けたいと思う今日この頃であります。

 


感想代理人プロフィール

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代理人の感想

寒いですねー。この間ついに暖房を入れてしまいました。

さて、話のほうですが・・・いい感じですね。

ギャグとかの練習は日常パートでやれば滑ってもどうにかなりますし、戦闘はシリアス一辺倒でもいいでしょう。

戦闘の合間にギャグを挟んでさまになる人もいますがそれは単に上手いから。

鳴れないうちは(慣れてからも自信のない人は)やらない方が無難ですね。

 

後月臣の名前は「元一」ですね。

間違えてる人多いんでお気をつけて。