終わらない明日へ・・・



 by ACE





 第六話 消えるエステバリス 〜奇襲〜




 ―アルテミス
 辛くも、四機のエステバリスを退け、ようやくアルテミスに辿りつくことのできたナデシコ。
 ドッグに固定され、ブリッジ要員はやっと肩の荷を降ろすことができた。

 「艦長、アルテミス側から臨検官の入艦が要求されています。」

 コンソールに座るハーリーがユリカに告げる。

 「許可しちゃってください。」

 ユリカは完全にリラックスしていて、天真爛漫モードだ。
 真面目なとき、天真爛漫のとき。あまりのギャップに周りは動揺―というより笑い―を堪えられない。

 緊張の糸がプッツリと切れて、ブリッチにいる全ての人間が気を緩めていた。
 そんな気の休められる時間はあまりにも早く終わりを告げる。

 ―ジャキ

 ブリッジに侵入してきたのは、武装した連合の兵士だった。

 「ちょ、ちょっとどういうことですか?!」

 天真爛漫モードで慌てふためくユリカ。

 「おとなしくして頂こうかな?ミスマル大尉。」

 と、一人武装をしていない、高官の制服を着た男がユリカの前に歩み出る。

 「こんな一方的に・・・説明を求めます!」

 ジュンが高官に向かってそう憤る。某マッドサイエンティストが出てきそうな展開であるが、残念ながら彼女はまだ登場していない。

 「我が要塞司令の命令だ。素直に従ってもらおう。」
 「司令と話をさせてください!」
 「君達に行動の自由は認められていない。」
 「しかし!」
 「貴様らキョアック星人の手先か!?」

 鼓膜が破れそうになるほどの大声―本人はこれが標準らしい―でガイが会話を遮った。

 一瞬意識の飛んだ一同だったが、意識を取り戻した兵士はすぐさまガイに銃を突きつける。
 「くっ・・・」
 流石にこれには黙らざるを得ない。悔しそうに食い下がるガイであった。



 ブリッジに軟禁を強制されるユリカ達。

 しかし、何故彼らは軟禁されてしまったのだろうか?






 ―???
 「ふふふ、私の出番のようね。」

 白衣を纏った金髪の美女。
 かのマッドサイ・・・いや、説明好きな女性科学者、イネス・フレサンジュの登場だ。

 本編で登場できるかどうかが怪しいのでご登場していただいた。
 「本編で出さなかったら新薬の実験台になってもらうわよ。」
 ・・・一応、語りの声は聞こえない設定なので返答しないで頂けますか?
 「あらそう?」
 と、とにかく説明の方をよろしくお願いします(汗
 「わかったわ。説明しましょう!」
 説明できると知った瞬間に表情が好転し、うれしそうにホワイトボードを持ち出すイネス。
 いったいどこから出てきたのだろうか・・・
 「説明してほしい?」
 いや結構です。

 「何故ユリカさん達は軟禁されたのか?
  まず、注目すべきは彼らの所属の違いね。
  ユリカさん達ナデシコのクルー全員は『大西洋連邦』に所属しているのに対し、アルテミスは『ユーラシア連邦』所有の要塞。
  必然的に、中で働いている人間はユーラシア連邦所属となるわね。
  地球連合軍がZAFTに対し劣勢な原因の一つもいえるわ。
  一枚板ではない連合。統制足らずの連合は、統制が完全に取れていると言っていいZAFTに、このような面でも負けているのよ。
  また・・・

  <中略>

  ・・・と、いうことね。
  アルテミス要塞司令の思惑はこう。
  「ナデシコとエステバリスを手中に収め、それを手柄に本土へ復帰する。」
  こんなところかな?」

 六時間にもわたる説明は終わった・・・おっつぁん、真っ白に燃え尽きたよ・・・





 ―ナデシコ内 ハンガー
 エステバリスの足元には数人の武装兵士が銃を構えている。
 アキトはコックピット内で篭城の構えだ。

 『パイロット!おとなしく投降せよ!』

 モニターの向こうにいるであろうアキトに兵士は投降を促す。
 映像通信はストライク側からブロックが掛かっているため、モニターの映像は見えない。

 しかし、アキトにこんな脅しは通用しない。

 「煩い!その気になればお前らを踏み潰すことだってできるんだぞ?!」

 今度は逆にアキトが兵士を脅迫する。
 すると、アキトの前にもう一つモニターが点灯した。

 『これを見ても同じことが言えるか?』

 そこに映っていたのは銃を突きつけられ、恐怖に顔を歪めるラピス達だった―ガイだけは下を向いてぶつぶつ何か言っている―。

 「くっ、卑怯な・・・」

 口元を引きつらせ、悔しがるアキト。
 叩きつけるようにコックピットの開閉スイッチを押し、アキトは脅迫に屈した。

 ストライクを降り、兵士の誘導に従いながら歩き出すと視界の端にヒエンの姿が映った。
 禍々しい殺気を放ち、周りの兵士を威嚇し、高官と見られる男を―バイザーで視線は見えないが―睨んでいる。
 耳を澄ますと話し声が聞こえてくる。



 「ほう、『瞬神の飛燕』殿ではありませんか。」

 内心ではかなり怯えているのだろう、声が少し上ずっている男。

 「これは何の真似だ?」

 静かだが、何か大きな恐怖を感じる低い声。
 心臓を直接握られるかのような緊張が体を迸るのがわかる。

 「我らユーラシア連邦の栄誉のためですよ、英雄殿。」
 「・・・俺を英雄などと呼ぶな。」

 英雄、瞬神の飛燕、これらはヒエンがもたらした功績によるものだ。
 ヒエンはもともと素性の知れない軍人で、本当の名前すら知れて居ないのである。
 ”ヒエン”とは彼の仮の名に過ぎない。


 彼が表舞台に立ったのは、第一次大気圏外防衛戦のときであった。
 当時、連合軍はジンシリーズに徹底的に苦しめられ、その大気圏の防衛網が破られれば連合軍は敗戦まで敗走し続けただろう。

 そんな窮地に現れたのは漆黒のデルフィニウムだった。

 漆黒のデルフィニウムは、今まで完全に太刀打ちができなかったジンシリーズにそれは圧倒的な力を持ってして戦った。
 勝利を確信していたZAFTはその存在に恐怖した。
 そして、その恐怖は、第一次大気圏外防衛線は連合の勝利という形を成し、プラントを覆うのであった。

 連合とZAFTの戦いで、それは連合軍の初めての勝利。
 敗戦を覚悟していた極地において、彼の存在はまさに英雄そのものであった。
 デルフィニウムの限界を超えたその機動力から『瞬神の飛燕』という二つ名を得るに至る。


 閑話休題





 ―アルテミス要塞宙域 ZAFT軍北辰部隊所属ローラシア級ジンシリーズ運用艦ガモフ

 通称アルテミスの傘と称される連合が誇る無敵要塞。
 無敵の所以はその防御力の高さからだ。
 「全方位光波防御帯」という特殊な防御兵器を擁し、敵の攻撃を悉く退けていたのである。

 ガモフから発進する黒い機影。
 それは陥落不能の無敵要塞をたった一機でもって破壊するために発進した。
 やがてその機影は宇宙の闇へと溶け込んでいった。





 ―アルテミス要塞
 ごごごごぉぉぉん!!!

 通常、戦場にいるのならば爆音は決して珍しいものではない、むしろ耳慣れているものだ。
 しかし、アルテミスで働く軍人達にとってはそれはあまりに意外な音だった。

 光波防御帯に絶対の自信を持ち、敵と戦うことを忘れ、完全に規律の乱れていたアルテミス。
 対応はことのほか大きく遅れることとなる。



 「馬鹿な!防御帯を突破されたというのか?!」

 要塞司令は哀れなほどに慌てていた。
 絶対の自信を持っていたものを潰されるということのショックは計り知れないものなのだろう。

 「識別出ました!敵は奪われたエステバリスのうちの一機、ブリッツです!!!」

 ブリッツエステバリス。隠密行動・奇襲を目的として造られたこの機体は次世代ステルスシステム「ミラージュコロイド」を装備している。
 このミラージュコロイドはレーダーの類は無論の事、光の反射を完全にブロックし、肉眼でも確認することはできない。

 ブリッツはミラージュコロイドを纏い、アルテミスに侵入。以後内側より光波防御帯の発生装置を破壊すること。
 光波防御帯が消え次第、総攻撃を掛けナデシコをいぶりだす。

 これが今ZAFT軍の作戦概要だ。



 「脆いな・・・こんなのが無敵要塞などと称されていたとは片腹痛いわ!」
 アルテミス要塞のあまりのあっけなさに、ブリッツパイロット秋山源八郎はぼやく。

 『光波防御帯の密度低下を確認!これより攻撃を開始する!!!』

 ZAFT軍の一斉攻撃が始まる。
 敵の攻撃が防御帯に接触するたび、大地は呼応し、アルテミスの統制を乱す。



 「こ、これはいったいどうしたことだ?」
 ヒエンとの会話の最中に起きた大地の振動。
 いくら戦闘離れしたといえど、軍人である彼らはその振動が敵の攻撃であるということは察しがつく。
 「司令部、おうと・・・ごふっ!」
 突如とし、ヒエンが男を殴り飛ばした。

 「ふっ・・・」

 口元を緩ませ、静かに笑うヒエン。

 ―どかっ!ばきっ!ごきぃっ!!!

 ヒエンの周りを固めていた兵士は構えていた銃を発砲する間もなく殴り倒される。
 そして、彼の次の標的は―アキトを連行しようとしている―兵士達だ。

 ―ひゅっ

 風を感じた。
 一歩で近づいてきたかのように兵士達の付近にヒエンは現れる。
 呆気に取られている兵士達の顔に同じ軌道で拳を叩き込み、死んだように倒れこむ兵士達。
 兵士の目には漆黒の影が目の前をよぎったに過ぎなかった。

 「・・・殺したんですか?」

 目の前で起こった状況の把握を優先し、自我を必死に保つアキト。
 体が恐怖で震えているのは仕方ないことだ。

 「少し、眠ってもらっただけだ。行くぞ、アキト君。」

 踵を返し、彼はデルフィニウムの下へと向かった。
 アキトはふらふらと立ち上がり、ヒエンの後に続く。





 「光波防御帯突破されました!!!!!」

 ついに、アルテミス陥落のカウントダウンが始まる。
 CICが悲鳴を上げるように現状報告する。

 「ば、馬鹿な・・・」

 司令官の目は虚ろな色を灯している。
 アルテミスは防御を失えば、武器を積んでいない戦艦のようなものなのだ。

 「デルフィニウム隊を出せ・・・」

 デルフィニウム隊とは名ばかりの部隊。
 配備されているのはたったの五機、しかもパイロットは全員素人だ。
 はっきり言って、出すだけ無駄な死者を増やすだけということは目に見えている。

 「りょうか・・・いえ、待ってください!」

 先程まで悲鳴を上げていたその声は、かすかだが希望を持っている。

 「これは・・・漆黒のデルフィニウム、『瞬神の飛燕』です!!!」

 司令部には今まで冷たい雰囲気が立ち込めていた。
 しかし、この報告を聞くやいなや、その雰囲気は180度変わった。



 「来たか、黒の英雄。手合わせ願うぞ!」

 漆黒と漆黒の戦いが始まる。

 互いにバーニアを最大出力まで上げて、両者は激突する。
 すれ違いざまに、これまた互いにライフルを放つ。
 ビームは干渉し合いあらぬ方向へと飛ぶ。

 攻撃後の反応はヒエンが遥かに上回っていた。
 しかし、機体性能は完全にブリッツが勝っている。
 デルフィニウムがヒエンの反応に追いつくまでの時間と源八郎が反応し、ブリッツが動き出すタイムラグは本当に僅かだ。

 速かったのはブリッツ。

 ビームライフルをエネルギー消費を気にしないフルオートにして連射する。
 デルフィニウムの反応スピードでは絶対に避けられない攻撃だ。

 「くっ、流石にエステ相手では・・・リミッター解除、全システム機動スピードに集中。持ってくれよ、相棒!」

 飛躍的にデルフィニウムのスピードが上がり、ビーム全ての回避に成功する。

 段違いのスピードに源八郎は驚きを隠せない。

 「デルフィニウムであれだけの動きができるのか?くっ、瞬神の名は伊達ではないと言ったところか!!!」

 サーベルを発生させ、デルフィニウムに追いつく。
 そして、切り掛かる。

 ―ごん!

 デルフィニウムは突如機体を反転させ、長細い機体を棍棒のように扱いブリッツに叩きつける。
 瞬間的にフィールドを発生させ、直撃を避けなければ今の一撃でブリッツは沈んでいただろう。



 アキトはナデシコ発進のための護衛に徹していた。

 「沈めぇ、足つき!!!」

 ナデシコを狙うのはデュエルとバスターの二機。
 フィールドを全開にし、攻撃のほとんどはナデシコには当たらない。
 しかし、歪曲されたビームはアルテミスに当たり、アルテミスの陥落を促す。

 「落ちろぉぉぉ!!!」

 バスターが腕に持つ、二丁の異なったビームライフルは二つを連結させ、対艦長距離ライフルとなる。
 その威力はナデシコのフィールドを軽く貫くほどに高い。

 「させるかぁ!!!」

 ナデシコとバスターの間合いに割って入り、バスターの攻撃を弾くストライク。

 「ちぃ、敵さんながら、グゥレイトォ!!!

 見事に攻撃を弾くその姿に、三郎太は遂にその言葉を言ってしまった・・・

 だが、弾かれたビームはアルテミスの外壁へと直撃し、大きな爆発を起こす。
 ただそれはアルテミスにとって致命的な一撃となる。

 爆発は新たな爆発を誘発し、さらにその爆発はさらに誘爆を引き起こし・・・
 そんな連鎖反応で、アルテミスの外壁はずたずたになってしまう。

 丸裸のアルテミスにとどめともいえる太いビーム光が突き刺さる。

 そして・・・

 「フィールド出力全開!総員対ショック態勢!!!」

 ドゴオオオオオオオオオオオン!!!!!!!
                                     ゴゴゴゴゴ・・・・
       オオオオオ・・・・
                    ガガガ、ガガガガガガ・・・・


 最後に、一面が火の海で埋まるかのような閃光を放ち、崩れ行くアルテミス。
 これがかつて、無敵を誇っていた要塞アルテミスの成れの果てだ。



 「現状報告を願います・・・」

 爆発が収まるとそこには焼け野原が広がっていた。
 ユリカは重い口を開いていった。

 「周囲に機影なし・・・あ、アキトは?」

 震える唇を精一杯動かし、搾り出すように言うラピス。
 そこへ、レーダーに反応が出る。

 「あ!艦長、反応あります!!!」

 反応は二つ。デルフィニウム、ストライク共に無事だった。 
 しかし、二人の無事な生還に歓喜したブリッジの人間は誰一人ある反応に気が付かなかった。

 二機の反応が出たポイントで検出された物質、”ボース粒子”の反応を・・・気付くことは決してなかった。





 あとがき
    _  ∩
 ( ゜∀゜)彡 グゥレイト!!
   ⊂彡   グゥレイト!!

 どうもこんにちはグレイトACEです。

 語り部とキャラが話すというのは使いたくなかったのですが、
 使ってしまいました・・・
 嫌いな方には迷惑が掛かったかもしれません。申し訳ありませんでした。
 しかし、これは不可抗力なんです・・・
 電波が俺を呼んでいる!!!
 そんなこんなで名言”グレイト”も出演(?)しました。

 ではでは、今回はこんなところで・・・
 乞うご期待!!!

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

ついに言っちまいやがったぜぇぇぇぇぇっ!(爆)

まぁそれはあまり関係ないので感想へ(ぉ

 

サーバー管理なんかでも「一次防火壁が厚い所のオペレーターは危機意識が薄い」といいますが、

まさに今回はそんな感じですな(笑)。

それにしてもブリッツが源八郎さんかぁ・・・・いかにも「あまりもの」って感じで哀れ(爆)。

 

それとボソン粒子は一般に言う「物質」ではないので(詳しいことはググるなりなんなりして調べてください)、

表現の際には気をつけたほうがよろしいかと。

 

 

誤字その他

 

>悔しそうに食い下がるガイであった。

「食い下がる」というのはまだ諦めてない状態になるわけで、単に「下がる」とか「引き下がる」じゃないかなと。

 

>ブリッジに軟禁を強制されるユリカ達。

軟禁は基本的に強制される物なので(自発的なものなら「謹慎」ですな)意味が被ってます。

「軟禁される」でいいでしょう。

 

>その大気圏の防衛網が破られれば連合軍は敗戦まで敗走し続けただろう。

間違いと言うわけではないのですが、これも意味が重なっててあまりよくありません。

「最後まで敗走を続けただろう」「敗走を続けたまま終戦を迎えただろう」とか。

 

>漆黒のデルフィニウムは、今まで完全に太刀打ちができなかったジンシリーズにそれは圧倒的な力を持ってして戦った。

「もってして」というのは「〜〜をもって」「する(して)」という二つの言葉を並べただけでそれ自体独立した言葉ではありません。

この形は普通「圧倒的な力をもってしても」など、否定形のときにしか使わないんです。

「する」は動詞ですから「戦う」という動詞が直に繋がっている以上、必要無いんですね。

この文章の場合なら「圧倒的な力を持って戦った」でしょう。

なお「もって」を漢字で書く場合は「以って」と書きます。

たとえば「ゆえん」を「所以」とも書くのは「以ってきたる所(それを原因として結果こうなる)」という文意からで、

そう言ったことをあわせて覚えておくと間違いが少なくなるかと。

 

> ―アルテミス要塞

場所や場面を示すためにこういう表記を用いるなら、本文と最低一行は離して置いた方がいいかと。

くっついてるとナレーションだかなんだか逆に分かりにくいです。

 

> 爆発が収まるとそこには焼け野原が広がっていた。

表現に関してはあまり言いたくないんですが、宇宙空間で「焼け野原」はないかなぁと(苦笑)。

「残骸」とか、「崩壊した小惑星」とか色々言い方はあると思います。