終わらない明日へ・・・



 by ACE





 第九話 消えていく光 〜悲劇〜




 艦の誰もが待ち望んでいたものがようやく訪れる。
 待望の救援が来るのだ。
 ナデシコ内に自然と和んだ雰囲気が流れ始める。

 ブリッジも例外ではない。
 むしろ、ストレスの溜まっている彼らが朗報を一番喜んでいる。
 どれだけ気張っていても、士気は落ちていくばかりで頭を抱えていたユリカも、表情から陰りが消えたようだ。

 救援に来たのは先遣隊である三艦、モントゴメリ、バーナード、ロー。
 うち、モントゴメリにはメグミ・レイナードの父が乗艦しているという。
 ヘリオポリスにおいて、家族を失ったメグミにとって、父は最後の肉親である。

 しかし、彼らに神は休息を許さないのだろうか?
 破滅をもたらす黒い影が彼らに、着実に近づいている。



 「艦長、レーダーが!!!」

 焦った声の主はマキビ・ハリ。索敵を担当している彼の仕事はレーダーとの睨めっこだ。
 そんな彼がもっとも早く、この異常に気がついた。

 焦る彼の方を見ると、画像の乱れた円形の液晶画面があった。
 画像には、砂嵐を思わせる荒れが目立つ。
 戦場に長く身を置くものならば、それは見慣れたものとも言える。

 「調整、その他いろいろと試しましたが復旧は無理です。これはいったい・・・」

 ユリカは何故かが理解できた。
 伊達に彼女も大尉をやってはいない。ジャミングが掛けられているのだ。
 無論、味方からジャミングが掛けられる筈がない。
 つまり・・・

 「モントゴメリに打診!敵の接近をすぐに知らせて!!!」

 打ちひしがれ、落胆に身を震わせながらもユリカは叫んだ。
 しかし、時既に遅し・・・
 ブリッジから見えたのは赤い閃光に貫かれた味方戦艦の姿だった。





 ―モントゴメリ内 ブリッジ

 「熱源を感知!その数は5!」

 モントゴメリ内では兵士が忙しくうごめいていた。
 艦長の席に座る男は不機嫌そうな顔で指揮を執り、その横ではスーツを着た男が不安そうに何か呟いている。

 「ナデシコに通信は?」
 「ジャミングが酷く・・・この距離では不可能です。」

 ジャミングか・・・よく敵もよく考えている・・・
 皮肉を込めて敵の手法を賞賛する。
 ナデシコには反転後退の連絡を取りたかった。あの艦にはまだまだがんばってもらわなくてはならない。こんなところで沈めるわけにはいかない。
 しかし、モントゴメリ艦長は希望を絶たれ、さらに表情を険しくする。

 「艦長、識別出ました!5機のうち4機がジンシリーズ、1機は奪われたイージスです!!!」
 「イージス・・・だと?」

 崖っぷちの現状に拍車をかけるような報告がされる。
 もはや艦長の心境は崖から突き落とされたようなものだった。
 どこまでも深い谷を落ちていくように落胆し、希望は谷を吹き抜ける風のように消えていく。

 「くっ、こちらの切り札となるはずだった兵器が脅威になるとはな。
  まさに飼い犬に手を噛まれるといった感じか・・・」

 苦悩する中、先遣隊の一艦”ロー”が赤い閃光に貫かれていた。





 ―ナデシコ内 通路

 アキトは走っていた。体力配分なんのその、全力でハンガーへ続く通路を走る、走る。

 ある一室を通り過ぎようとすると、扉が突然開いた。
 そこから転がり出すピンクの玉、続いて瑠璃色の髪の少女が出てくる。

 「アキトさん?どうしたんですか、そんなに慌てて。」
 「えっと・・・」

 アキトが返答に困っていると、丁度そこへ艦内放送が流れ出した。

 『総員第一戦闘配備!繰り返す、総員第一戦闘配備!』

 アキトは何も言えない。別に意図的に知らせていなかったわけではないが、アキトは自身がエステバリスを駆っていることを言っていなかった。

 「せんとうはいび?この艦は戦闘に入るんですね。」
 「・・・」
 「まさか、アキトさんも戦闘に出るんですか?」

 何か、裏切られたような悲しそうな目でルリはアキトを見上げた。
 上目遣いで見るルリの姿はどこか可憐で、儚くも思えた。
 アキトはその視線は直視できずに応える。

 「ゴメン。俺、行かなくちゃならない。」
 「守るっていうのは・・・そういうことだったんですね・・・」

 それ以上何も言えなくなり、その場を彼は後にする。
 そこにはルリ一人が残され、寂寥感に暮れていた。
 彼は、一度も振り返ることがないままで・・・



 心に大きな穴が開いたような気がした。
 何か大切なものを失ったような気がした。
 大切なものを守るために我が身を戦地に捧げているいうのに・・・
 それが逆に自分を追い詰めることになろうとは・・・

 アキトは自分の選択を悔いた。

 でも、もう引き返せない。
 俺は今できることをするだけだ。
 先に待っているのが、不幸のどん底だと知っていても・・・・・



 そんなことを考えながら走っていると、右腕を凄い力で掴まれた。

 「っつ・・・・」

 溜まらず足を止め、右を振り向くとそこにはこの世の終わりのような顔をしたメグミがいた。
 食堂での件もあり、アキトはメグミを自覚がないにしろ避け続けてきた。
 メグミはアキトを真っ直ぐ見つめているが、アキトは視線を逸らしている。

 情けないものだな・・・俺は逃げてばっかりだ。

 やがて、メグミが口を開いた。

 「アキトさん、戦闘配備ってどういうことですか?
  父さんの、父さんの艦は無事なんですよね?!!!」

 父さんの艦?
 アキトは先遣隊にメグミの父が乗っているということを聞いていなかったため、メグミのいうことが理解できなかった。
 戸惑うが、何より時間がない。
 ここはとにかく早く出撃しなければならない。

 「大丈夫だよメグミちゃん。俺達も出るから!」

 考えるよりも先に言葉が出た。
 その言葉を聞いて、幾分か落ちついたのかメグミはほっとしたような顔をして、アキトをしっかりと掴んでいた手の力を弱めた。
 重ねて言うが、このときアキトはメグミの父が先遣隊に同行していることを知らない。



 「おせぇぞ、坊主!」

 ハンガーに到着すると、そこでは既にパイロットスーツに着替えたヒエンが漆黒のデルフィニウムに搭乗するところであった。
 アキトの存在に気づいたウリバタケが大きくアキトを叱る。
 その声に悪い気はしなかったが。

 「遅れてすみません!」

 アキトも負けじと大きな声で謝罪をする。
 それはほぼ反射的にやったことだが、幾分か整備班ともコミュニケーションが取れている賜物ともいえる。

 「時間がねぇ、さっさと乗れ!」
 「了解!!!」

 ラストスパートとでも言わんばかりに最大速度でストライクに疾走する。
 飛び乗るように跳躍し、コックピットに滑り込む。
 そして、絶妙のタイミングでハッチが閉まった。

 もう少し遅かったら挟まれてたよな・・・

 冷や汗を掻きながら冗談染みたことを考える。多少の心のゆとりも戦闘には必要なことだが。

 ストライクの起動プログラムをオンにする。
 それと同時に、エステバリスの目を思わせるデュアルセンサーがぎらりと光る。
 端末を操作して、異常がないか軽いチェックをしてみるが、流石はウリバタケ班長だ。何一つとして異常はない。

 『行けるか?』

 上部にあるモニターからウリバタケの最終確認が来る。
 無論、確認など必要ないが、ウリバタケなりの気遣いを無視はできない。

 「勿論ッス。」
 『上出来だ。よし、暴れてこい!』

 話すうちにストライクはカタパルトに固定され、発進シークエンスが始まる。

 『アキト、無茶しないでね!』
 「わかってる。」

 管制担当のラピスとの会話が最後。
 モニター越しにウインクして見せるラピスに、苦笑して応えるアキト。

 準備は整った。

 『エールストライク、テンカワ機発進どうぞ!』
 「テンカワアキト、ストライク、行きます!」

 カタパルト上を火花を上げて滑り、アキト駆るストライクは戦場へ赴いた。





 ―モントゴメリ内 ブリッジ

 「艦長、ナデシコがこちらに接近してきます!ナデシコより、機動兵器が2機発進。敵と接触します。」

 モントゴメリのオペレーターが現状を報告する。
 平然を装ってはいるが、内心突然の敵に恐怖しているのだろう。
 この報告に、モントゴメリ艦長は難しい顔をしていた。

 「来てしまったか・・・」

 隣ではレイナード外務次官が安堵しているのが見える。
 彼は、娘に会うまで死ぬに死に切れない気持ちでいた。

 「こちらのデルフィニウム部隊はどうなっている?」
 「護衛に回った10機中既に8機が撃墜されております・・・」

 モントゴメリ艦長にとって、もはやこれ以上ない絶望のどん底だった。





 ―戦闘宙域

 先行していたヒエン駆るデルフィニウムは既に戦闘を開始していた。
 4機のジンシリーズ相手にまったく引けをを取らず戦う漆黒のデルフィニウムの姿はもはや見慣れたものとも言えた。
 戦う姿は芸術を思わせる華麗さがあり、それでもなお余裕を感じられる。

 いつまでもその光景に見惚れているわけもなく、アキトは先遣隊の護衛に向かう。
 画面の片隅に映るバーナードとローの残骸がアキトの心をちくちくと痛めるが、歯を喰いしばって衝動を抑えた。

 バーニアを噴かして残った艦に近づくと、アキトは最も出会いたくない相手と遭遇してしまった。

 「イージス・・・九十九、なのか・・・」

 画面の中央でストライクの行く手を阻むような格好を取る赤い機体。
 また、出会ってしまった。
 今度こそ、どちらかが命を落としてしまうのか?
 それとも・・・

 『アキト、俺はお前を連れ戻してみせる。』

 九十九は諦めがついていなかった。
 北辰には、従わぬ場合自分が彼を討つと言ったが、実際にそう簡単に諦めることはできない。
 それは彼が軍では滅多に見せない意地だった。

 「変わらないな、九十九。その諦めの悪さは・・・」

 しみじみと感嘆を述べるアキト。
 感傷に浸っている場合にではないのはわかっているが、ユキナのこともあって少し昔のことを思い出してしまった。
 それはアキトの決心を揺さぶるほどに・・・
 しかし、アキトの決心が崩れることはなく、再びイージスを睨んだ。

 『行くぞ!!!』

 掛け声と共にイージスは瞬時にストライクとの間合いを測る。
 その間合いは九十九の絶好の射撃距離。

 ギュィィィン、ギュィィィン、ギュィィィン!

 立て続けに3本の緑の閃光がストライクを襲う。
 その狙いは完璧に捕らえたもので、ストライクの腕と足を貫くはずだった。
 アキトは瞬時にフィールドを張ってビームを偏光した。
 本来、実弾を逸らすために開発されたディストーションフィールドだが、それはビームを偏光することも可能とした。
 ただし、実弾に比べ、ビームに対してフィールドは脆く、偏光角も小さいため、うまくビームを逸らすには高い技術を要する。

 かくして、ストライクを捕らえたはずの3本の閃光は明後日の方向へ飛んでいき、ストライクが報復の射撃をする。
 イージスは人間では不可能な機体の身のこなしであっさりビームを避けて、ストライクに射撃を続ける。

 ビームはアキトの動きを先読みするかのように、ストライクを確実に捕らえるがそれをフィールドを使ってぎりぎりのところで避ける。
 しかし、完全に避けられているわけではなかった。
 よくストライクの機体を見てみると、装甲の至る所に焼き焦げた跡が見られる。
 そう、ビームはぎりぎりのところで避けられているように見えたが、実際はストライクの装甲をじわりじわり蝕んでいたのだ。

 『腕を上げているな、アキト!』

 イージスの攻守は完璧だった。
 正確無比な射撃。それでいて回避行動にも全くの隙が見出せなかった。

 「っつ・・・随分と余裕だな、九十九ぉ!」

 アキトは負けじとストライクを操る。
 既にその操縦技術は並みのコーディネイターを遥かに凌駕している。
 訓練を積んだ九十九をここまで追い詰めるのはアキトだからできることかもしれない。

 「負けられないんだよ、俺はぁぁぁ!!!」

 苦しみまぐれに放ったストライクの一撃は、イージスのコックピットを捉えた!
 九十九は突然の性格な射撃に驚愕し、大慌てで回避行動を取る。

 『ちぃ!』

 このとき、イージスのビームの雨が一時的だが間を見せた。
 必死のアキトはこの間を逃すことなく、的確な射撃を実行する。

 「こんチクショォォォ!!!!!」

 攻守逆転。
 攻撃に転ずるストライク、そして、回避に転ずるイージス。

 しかし、アキトは戦いに夢中になるあまり、あることを忘れていた。

 『アキトくん!モントゴメリが!!!』
 「なっ!!!!」

 モニターからはユリカの悲鳴が聞こえた。



 場面変わって、多少時も戻って、ヒエンサイド。

 「くっ、これは想定外だった・・・」

 コックピット内で愚痴を溢しながら4機のジンシリーズを相手に戦うヒエン。
 何かにイライラしているようにも見えるが、今までそのようなことはなかった。
 幾度となく多数のジンシリーズを相手とって戦ってきたヒエンは4機という数に負けることはまずない。
 彼は戦いを急いでいるのだ。
 しかし、いったい何故なのか?

 「どけ、どけ、どけ、ど けぇぇぇ!!!」

 確実に何かに焦っている。
 普段は絶対に出すことのない大声を出し、いつもの冷静沈着な彼はなりを潜めている。

 彼が焦るに連れて、デルフィニウムの動きにキレがなくなっていく。
 西欧の騎士を思わせた彼の戦い振りは今や野獣の戦いになっていた。

 荒々しくバーニアが唸りをあげ、禍々しいオーラを纏った拳を振りかざす。

 ドゴォォォォォン!!!!!

 「1つ!」

 漆黒の影がテツジンの赤いボディーを通り過ぎると、時間差を置いて大爆発が起きる。

 ゴゴォォォォォン!!!!!

 「2つ!」

 影が宇宙の闇に溶け込んだように思うと、次の瞬間には全く別の場所から爆発の火花が開く。

 バコオオオゥン!!!!!

 「3つ!」

 最大戦速で宇宙を駆ける漆黒のデルフィニウムは、もはや誰にも止められない。

 「ラスト!」

 残ったたった1機のマジン。
 その背後に音もなく(宇宙では音は伝わらないが)に現れる。
 目で捉えることはできないのはもちろん、レーダーでもデルフィニウムを捉えることは叶わなかった。

 ドッグヲォォォォォォン!!!!

 「・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 荒れた息を整えながら、デルフィニウムの動作確認を行う。
 落ち着かない手つきで端末を操作し、各バーニア、エンジン回りの駆動チェック。
 しかし、デルフィニウムはヒエンの高い操縦技術に対応できるほど性能のよい機体ではない。

 「ちっ・・・」

 あまりの損害状態にヒエンは拳を握りしめた。
 右スラスター、タービンエンジン、正・準の電気配線、稼動プログラムの処理率低下、エトラセトラエトラセトラ・・・
 挙げれば限がないほどだ。
 幸いだったのは、酸素タンクへの損害が軽微ということ。
 酸素欠乏で窒息死する心配はない。
 しかし、当然ながら戦闘の続行は不可能である。

 「この機体も限界だな・・・」

 原型を留めているだけでも奇跡的とも言えるデルフィニウムの機体は、今にも崩壊しそうにギシギシと嫌な音を立てる。
 それはまるでデルフィニウムが苦痛に泣き叫んでいるように聞こえた。

 「ナデシコ。おいナデシコ聞こえないのか?」
 『ガガー・・・エン・・尉・・・ら、ナデ・・・ピー・・・』

 ジャミングがまだ完璧に解消されておらず、通信もままならない。
 そんな些細なことでも、今のヒエンには多大なストレスを与えた。

 ぎりっ・・・

 自然と顎に力が入り、歯がすれる音がコックピット内で悲しくこだまし、
 苛立つヒエンを鬼気が包み、それに怯えるかのように通信が突然回復の兆しを見せる。

 『ヒエン大尉!大丈夫ですか!?』

 荒れ一つなく、今までジャミングが掛かっていたのが嘘のようなクリーンな映像が入る。

 「俺は大丈夫だ。それよりもストライクはどうなっている?」
 『現在イージスと交戦中!敵残存戦力はイージスだけとなりました。
  これよりナデシコは大尉の収容に向かいます。』
 「俺の収容は後でいい。それよりも、モントゴメリだ!」
 『いや、しかし・・・』
 「艦長に繋げ!俺が直接進言する。」
 『りょ、了解。』

 すごい剣幕で管制を怒鳴りつける。
 今までになく、ヒエンは熱くなっている。
 何か、予感を感じているのだろうか?
 数秒もしないうちにモニターにユリカの顔が映る。

 「艦長!急いでモントゴメリの援護に回ってくれ!敵が来る!!!」
 『ど、どういうことですか?』
 「いいから!急げ、急ぐんだ!!!」

 気押しされ、モニター回線を切るのも忘れてユリカは大慌てで新たな指示を出す。
 戦場においての勘であろうか。ユリカはヒエンの言葉に従い、ナデシコはモントゴメリに進路を向ける。

 ここで、回復したレーダーに目を向けたユリカは絶句した。

 「ストライクがっ・・・」
 『艦長?どうしたんだ!!?』
 「モントゴメリの護衛範囲を大きく外れています!ここで敵の増援が来たら・・・!」

 その先は言わずともわかるであろう。
 今やモントゴメリは裸同然なのだ。

 『遅かった、か・・・』

 モニターの向こうでヒエンが絶望しているのがユリカには即座にわかった。

 「大尉?!」
 『敵増援だ。たった今肉眼で確認した・・・』
 「!!!」
 『すまない・・・俺が動けていれば・・・』

 低く、希望を失った声。
 しかし、ユリカは諦めてはいなかった!

 「ストライクに通信繋いでください!急いで!!!」
 「了解!・・・通信行けます!」

 敵はコーディネイターだ。
 その統制はよくできており、動きは実に早い。

 敵の増援は既にモントゴメリを捕らえていた。





 ―ナデシコ内 ルリ&ユキナ軟禁室 時間をやや遡り・・・

 プシュッ

 外から鍵の掛けてあるスライドドアが開き、絶望に打ちひしがれた少女がゆらりと現れる。
 幽霊のような少女の出現にルリとユキナは身を震わせた。

 「な、何よ、アンタは!」

 身を引きながらも負けじと声を張るユキナ。

 「あなたに用はないの・・・」

 冷たい声で言い放つ少女はメグミだった。
 たった一言で、ユキナは何もいえなくなる。それほど、今の彼女は禍々しいともおどろおどろしいとも言えるオーラを纏っているのだ。

 メグミの眼中に既にユキナの姿はない。その黒い炎を灯した瞳に映ったのは、ホシノ・ルリの姿。

 全くの無音でルリに近寄ったため、まるで突然ルリの前に現れたかのようにルリの前に立つ。
 恐怖に身を震わせながら、ルリは彼女を見上げた。

 「一緒に、来てもらうわよ。」

 吐く息も黒く染まっているように思えてしまう。
 負のオーラに当てられてルリは声が出ず、頭を横に振って拒絶の意を示した。

 「来なさい。」
 「待ちなさいよ!」

 メグミがルリに手を伸ばそうとしたところにユキナが立ち塞がった。
 ユキナ自身恐怖を隠せず、ガタガタ震えているが、思考よりも先に体が動いたのだ。

 メグミはそんなユキナに全く意に介さず、邪魔な壁でも見るかのような目をユキナに向ける。
 またその視線の恐ろしいことか・・・
 今の彼女は人外の存在と言えよう。

 一睨みでユキナを黙らせ、ルリの細腕を凄い力で掴むメグミ。

 「時間がないの。急がないと父さんが・・・」
 「痛い、痛い・・・」
 「あんた達コーディネイターが母さんを奪ったのよ!!!
  あんた達は!あんた達は私から父さんまで奪うっていうの?!」

 このとき、ルリは気がついた。
 彼女は心に傷を負っているのか、と。戦争が彼女の心を傷つけたのだ、と。

 彼女は戦争を終息に導くべく、プラントでアイドル的存在となっている。
 しかし、彼女自身は戦争とは離れたところで生活していたため、戦争について全くの無知だったのだ。
 彼女は彼女なりに必死に勉強をして、知識はある。
 だが、絶対的に彼女には経験というものがなかった。
 こうして戦争で心に傷を負った人間を見ることも初めてのことだった。

 「早く、早くしてよぉ!」

 先ほどのダークな雰囲気とはうってかわり、ダムが崩壊したかのような感情の奔流。
 ルリは抵抗の術を失っていた。

 メグミは乱暴にルリは引張って部屋から引きずり出した。
 彼女が目指すはブリッジ。



 ―ナデシコ内 ブリッジ

 「父さんは、父さんは大丈夫なんですか!?」

 突然の来訪者。
 彼女は悲鳴を上げながらブリッジに押し入ってきた。

 「レイナードさん?落ち着いてください。」

 メグミをなだめるのはジュン。
 しかし、メグミは聞き入れようとはせず、叫ぶ。

 「この娘を、この娘を使って父さんを守ってください!」
 「レイナードさん、大丈夫です!我々が全力でお父上を守りますから、お部屋の方へ。」
 「アキトくん!モントゴメリが!!!」

 そのときだった。
 ブリッジから見えたのは、バスターが対艦ライフルを構えているところ・・・
 その無機質な銃口から放たれたのは、眩いばかりの光の筋。
 光はモントゴメリを紙でも貫くように、いとも簡単に貫いた。

 そして、レイナード外務次官を乗せたモントゴメリは、娘メグミ・レイナードの目の前で宇宙の塵と化した。





 あとがき

 「サー!こちらACE伍長であります。Action所属の投稿作家、読者様にナデシコと種の素晴らしさを伝えるため、
  今日も元気にパソコンに向かっております!」

 ACEです。

 遂にスイッチが入りました。メグミフレイの黒の計画が、今始まる!!!
 とは、なかなか行きそうにありません。すみません・・・

 種原作において、フレイはこれを機に変わってしまわれて、策略の下、キラに接してきました。
 しかし、それではメグミの性格と大きく外れてしまうので、自分が吟味した上で変えて行きたいと思っております。
 どうかご理解のほどを・・・

 では、今回について。
 今回についてだけ言えば、原作とほぼ同じで退屈であったかもしれません。
 ギャグを入れる隙もなく、シリアス一本なものとなり、書いた自分も楽しめることはできませんでした。
 しかし、この話は各キャラ―特にヒエン・ルリ・メグミ―の我がSSにおいての個性を確立するために必要な話であったのです。
 自分の経験不足もあり、バラエティー要素を盛り込めなかったことを、深くお詫びいたします。

 では、乞うご期待!!!

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

うむ、今日の失敗も不満も全ては血となり肉となる。

精進せいよっ!

 

・・・は、まぁこっちにおいといてさらに追い討ち(おい)。

てにをはが間違ってたり抜けてたりするところが10ヶ所近くありました(修正済)。

こういったケアレスミスは読み返すことでかなり防げると思うので気をつけてくださいね。

ではまた。