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 『神木・蟠桃、コスモプロセッサ化計画』
 モニタに映るその文字を見て、一同は無言になった。
 大半は意味を理解できなかったのだろう。理解できたのは横島、令子、土偶羅、そしてアシュタロスの件についても情報を集めていた夕映とコレットのみだ。二人は不安気に横島の袖を掴んでいる。
「ちょっと待てー!」
 まず大声を上げたのは土偶羅。
「コスモプロセッサは、アシュタロス様の最高傑作! 誰にでも作れるものではないぞ!!」
 アシュタロスの部下だっただけに、簡単に言ってほしくないようだ。何度もできる訳がないと繰り返す。
 だが、彼はある一点を見逃していた。
「鈴音って……ルシオラの生まれ変わりみたいだぞ?」
「……なんじゃと?」
 今、この麻帆良にはルシオラの生まれ変わりがいるという事を。
「しかも文珠が使えるから、ある程度の問題はスルーできるんじゃないかしら?」
「ぐぬぬ……!」
 更に令子にも言われると、土偶羅も言い返せない。確かにルシオラの生まれ変わりならば不可能ではないだろう。
「だ、だが、技術はあってもエネルギーが足りんぞ! あれに何万人の魂のエネルギーを使うかは、お前ならば知っておるじゃろ!」
「それは、まぁ、確かに……」
 土偶羅の反論に、今度は令子が言い返せない。そのために蓄えられていた数万人分の魂の結晶をアシュタロスから奪ったのは、他ならぬ令子の前世・魔族メフィストだ。令子はその事を覚えていた。
「あの……横島さん」
 ここでアスナが、横島の肩をつんつんとつつきながら声を掛ける。

「まだよく分からないんですけど、世界樹の力ってエネルギーの代わりになりますか?」

 全員、互いに顔を見合わせてしばし無言になる。
 しばらくしてから土偶羅が出した結論は「おそらく可能」であった。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.171


 地下から出た横島達は、待っていた刀子達に地下で見たものを説明する。
 誰もコスモプロセッサが何なのかが分からなかったが、土偶羅の説明を聞いて大人組はその重大性を理解した。
「大変じゃないの!」
「あんたら、ようそんな落ち着いてられるな!?」
 いつも通りの顔で戻ってきていたアスナ達に、大慌ての千草が声を上げるが、実のところアスナ達はそれどころはなかった。
「いや、なんかすごいってのは分かるんだけど……どうすごいのか、どうヤバいのかが、いまいちピンとこないというか……」
「このアホレンジャー!!」
 この場にはバカレンジャーの内三人がそろっていたりするのである。
 それはともかく、アスナ達はここまでの話を聞いても、コスモプロセッサの危険性を理解できていなかった。横島達は可能かどうかばかりを話し合って、それで何ができるかを説明していなかったのだから仕方がない。
 バカブラック・夕映も名前を知っているだけで、コスモプロセッサが具体的に何をするものなのかまでは分かっていなかった。
「あ〜……要するにだな」
 ここで助け舟を出したのは千雨。彼女は、今の土偶羅の説明を聞いて理解していた。
「要するにだ、コスモプロセッサってのができると……七つの球を集めなくても願いが叶うんだ」
 微妙に間違っていない。
「ドラゴンが出てくるアルか!?」
「むしろ、ドラゴンが出てこなくても願いが叶う……出てこないよな?」
 バカイエロー・古菲を軽くあしらうも、不安さは隠せない千雨。
「つまり、それを使えば私は横島さんと……!」
「アスナ、ズルいでござるよ!」
 そしてアスナはバカレッドであり、六人目の追加戦士バカホワイト・シロが新たに加入していた。
「更に言うとだ、世界樹の力とやらでコスモプロセッサができるなら、多分完成したら毎年願いを叶えられるぞ」
「すっごーい!」
 世界樹の力は一年に一度高まるので、そういう事になる。
 逆にいえば、コスモプロセッサ化の方法によっては毎年それを警戒しなければならないという事だ。それに気付いた刀子とシャークティは、二人して頭を抱えるのだった。特に刀子は「絶対寿退職してやる……!」と心の中で改めて決意を固めながら。


 この件を学園長に連絡した一行は、休む間もなく動き始める。
 向こうも驚いていたようだが、あちらはあちらに任せるとしよう。
 事が事だけに令子は美智恵にも連絡しておいたが、向こうがどう動くかは彼女達にも分からなかった。
 今横島達が考えるべき事は、引き続き鈴音を探し見つけだす事だ。結局隠れ家にはいなかった。やはり今日何かを行うために、どこかで準備をしていると考えるべきか。
「世界樹をコスモプロセッサってヤツにしようとしてるなら、やっぱ世界樹にいるんじゃない?」
「逆に普段通りにしているとは考えられないかしら? 『超包子』にいるとか」
 アスナ達から出たのは二つの意見。
 しかし令子は、どちらも意見にも首を傾げる。
「ねえ、土偶羅。世界樹の力を利用してコスモプロセッサを作るとして、世界樹に手を加えた場合もその力は残るものなの?」
「どうじゃろなぁ? それは世界樹とやらを直接調べてみない事にはなんとも」
「あと『超包子』? 鈴音は魔法使い達に怪しまれてるんでしょ? 堂々と顔を出すかしら? まぁ、表向きは何も悪い事してないんだし、魔法使いが来たら被害者のフリして魔法使いの評判下げられるかもしんないけど」
「やっぱり……」
「美神さんって……」
「そこ、うるさい!」
 ひそひそと話すアーニャとコレットを、令子はビシッと指差した。
「でも『超包子』が開いてるなら、五月さんがいるんじゃない?」
「あ、確かに」
「誰それ?」
「超一味の一人で、『超包子』の料理担当です」
「超一味……」
 説明を聞いた令子は、自分も中学生の頃はそこまで言われる程ではなかったと思ったが、それは置いておいて話を進める。
「そっちも聞き込みに行く価値はあるって事ね」
「はい、もしかしたら居場所を知っているかもしれません」
 それだけでなく、今日何をしようとしているかを聞いているかもしれない。
 もしかしたら五月もいない可能性もあるが、その場合は町全体を巻き込む大規模な何かを企んでいる疑いが浮上するだろう。

 話し合いの結果、一行はここで二手に分かれる事にした。
 世界樹を直接調べに行くチームと、『超包子』に聞き込みに行くチームだ。
 世界樹の方は夕映の土偶羅魔具羅と千雨の『Grimoire Book』が必須なので、主に横島とその『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』達が向かう事にする。
 どちらも場合によっては戦闘になる可能性があるためバランスを考えなければいけない。
 横島、アスナ、古菲、夕映、千雨、アーニャ、コレット、愛衣の横島チーム。
 令子、シロ、千草、月詠、刀子、シャークティ、ココネ、美空、高音の令子チーム。
 それぞれ八人と九人のチームだ。戦力バランスとしては悪くないだろう。
 「子供組・大人組」と言ってはいけない。後者を「子連れ組」と言うのは、もっといけない。
「お姉様と別チームになっちゃうなんて……」
「人数バランスの問題よ。愛衣、しっかりしなさい!」
 別行動する事になった魔法生徒コンビを見て、ふと中学時代の友人を思い出した令子は、スッと目を逸らした。
「調査が終わったら、どこかに集まります?」
「エヴァの家は……遠いかしら?」
「世界樹を挟んで反対側だからねぇ……『超包子』もそうなんだけど」
「どっちも反対側だし、目的地の後に行くなら近いといえるかも?」
 この隠れ家から見れば、どちらも世界樹の向こう側なのだから、そこからどこに移動しても大差が無いという事で、両者ともに調査が終わったらエヴァの家に一旦集合する事になった。

 という訳で、両チームは移動を開始。それぞれ目的地へと向かう。
 先に到着したのは横島達。距離が近いというのもあるが、世界樹はバス停で降りてすぐの場所にあるというのも大きい。
 到着した世界樹前広場は、観光客でごった返していた。流石は麻帆良祭最終日だ。横島達は迂回をして世界樹に近付く。
「近くで見ると、結構強い光だが。これ、夜になったらどうなるんだ?」
「というか、去年より光が強い気が……」
 それぞれ今年初めて麻帆良祭に参加する横島と、小学生の頃からずっと参加し続けているアスナの感想である。
 古菲達麻帆良組も、アスナの感想には概ね同意のようだ。若干約一名「なんで去年まで木が光る事を疑問に思わなかったんだ……!?」と頭を抱えている千雨がいたが。
「この木をコスモプロセッサにするって、どうするのかしらねぇ?」
「何か装置を組み込むのかな?」
「そんな事したら木がただじゃ済まないんじゃない?」
 アーニャとコレットはこんなに近くで世界樹を見るのは初めてだが、光っているのは魔法の力によるものだと分かっているので落ち着いたものである。
「土偶羅さん、その辺りはどうなんですか?」
「まぁ、下手に手を加えると世界樹の力を落とすのは確かだろうな。おい、小娘。お前のアーティファクトで木全体をスキャンできるか?」
「小娘言うな。まぁ、できるけどよ……」
「では、頼む。わしは木に溜まっているエネルギーを調べてみる」
 千雨は全体を見るために少し離れた場所からサーチするので、ここで一旦別行動となる。念のために古菲とコレットを一緒に行かせる事にした。
 残りの横島達は人混みを避けて世界樹に近付いて行く。世界樹前広場は観光客が多かったが、世界樹の根元に近付いていくにつれて人が少なくなっていった。
 これほどの木ならば記念撮影などのために根元に近付く者もいそうなものだが、到着する頃には横島達以外はいなくなっていた。
「これ、もしかして魔法で人払いしてるのか?」
「そうみたいです、お兄様。弱いものですから、一般人にしか効かないでしょうけど」
 愛衣の分析によると、魔法使いや援軍には効かず、力の無い一般人だけを近付けさせないもののようだ。
 それを聞いたアスナと夕映は、どこか得意気である。横島との修行の賜物だとでも考えているのだろう。
 アスナについては、単に彼女の『魔法無効化能力』のおかげなのだが、本人がそれを忘れているようだ。
 それはともかく、夕映に抱えられてここまで来た土偶羅が彼女の腕から下り、世界樹に近付く。根元も葉程ではないが光っており、土偶羅の目も照り返しで光っている。
 横島達は調査を手伝う事はできないので、アーニャと愛衣はホウキに乗って世界樹を調べ、鈴音達がいた形跡が無いかを探ってみた。
 横島は手頃な根に腰掛け、アスナと夕映はその両隣に座った。休んでいるように見えるが、横島は周囲への警戒は怠っていない。

 それから何事もなくアーニャとコレットが戻ってきて、土偶羅の調査も完了する。その間、周囲の動きも特に無かった。辺りは静かなものだ。
 アーニャとコレットも、それらしい人影も人がいた形跡も見つからなかったと言っている。
 千雨に連絡してみたところそちらも既にスキャンが終わっており、結果は「細工は何も無し」だったそうだ。
 地面に魔法陣が仕込まれている事も分かったが、そちらはコレットに見てもらったところ人払いの結界のためのものだったらしい。
「人間界にこんな木があったとはの〜。確かにこれならば、コスモプロセッサのエネルギー源になりうるぞ」
 そして肝心の土偶羅の調査結果だが、「世界樹を利用したコスモプロセッサの製作は可能」というものだった。
 しかし、それ以外の情報は全く無いため、ここで情報は途切れてしまった。次に行くべき場所が分からない。
 仕方なく横島達は、レーベンスシュルト城に戻る。令子達が新たな情報を得ている事を期待しながら。


 一方、『超包子』に到着した令子達はというと――

「気に入ったわ! あなた、東京で店を出す気があるならいつでも連絡して! 協力するから!」

――五月の料理を気に入った令子が、彼女に名刺を渡していた。





つづく


あとがき

 超鈴音に関する各種設定。
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。







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代理人の感想 
千雨ちゃんホント便利だよなあ。
というか3-Aでは他に替えの利かないオンリーワンだわこの人w




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