前へ 次へ
 
 ネギの頭の中でここまでで得た情報、元々持っていた知識が組み上がっていき、急速に一つの形を取り始めた。
 のどかがぶつぶつと呟き出す彼の肩を叩くが、反応は無い。思考に没頭しているようだ。
「世界樹の力は、コスモプロセッサのエネルギー源になり得るけど、それだけではコスモプロセッサはできない……」
 そのため鈴音は、どこかに世界樹をコスモプロセッサ化するための儀式場を用意していると思われるが、今のところ見つかっていない。候補だった地下にも何も無かった。
「究極の魔体モドキは、両面宿儺の技術が使われているかもしれない……でも、それだけ……?」
 究極の魔体オリジナルを造ったのはアシュタロス、コスモプロセッサも造った悪魔だ。鈴音は、その部下・ルシオラの生まれ変わりだという。
 どちらも当人を知らないネギはこう考える。アシュタロスとルシオラは本当に互角の知識と技術を持っていたのだろうか、と。
 ネギは学園長から送られてきた画像を見てみる。
 横島はこれを見て「究極の魔体モドキ」と呼んだそうだが、ネギにはそれが「両面宿儺モドキ」に見えた。これが光れば両面宿儺そっくりになると。
 ネギはこう考える、これは鈴音の究極の魔体の技術と、フェイトが京都で得た両面宿儺を合わせたものではないかと。
 これは鈴音とフェイトが何かしらの形で協力関係にある事を意味するが、これに関してはネギも自分を誤魔化すのを止めた。
 担任教師として鈴音は悪い子ではないと信じているが、状況証拠を見る限り二人には何らかのつながりがある。そこから目を背ける訳にはいかないかった。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.174


 だが、そこで思考を止めてはいけない。
 鈴音とフェイトのつながりを認めた上で、鈴音を信じるのだ。彼女はフェイトの陰謀に賛同している訳ではないと。
 何か理由があるのだ。あの両面宿儺と究極の魔体を合わせたモドキが必要な理由が。
「マジックアイテムは作れる……呪紋処理を施せば……」
 そしてもうひとつのピース。ネギだからこそ、幼い頃からのマジックアイテムコレクターである彼だからこそのピースがここに加わった。
 無論、マジックアイテムを作るには専門知識が必要だ。魔法薬を作る程度ならばともかく、呪紋処理を施したマジックアイテムの作成なんてネギにもできない。
 その点鈴音は、茶々丸制作にも関わっているのだ。その手の知識は持っていると考えていいだろう。
 もしかしたらチャチャゼロ、茶々丸、さよ人形が姉妹であるように、究極の魔体モドキも彼女達のイトコかハトコになるのかもしれない。
「! いや、本当に有り得る。あれがマジックアイテムでもある可能性……!」
 その閃きが一筋の光明となって、彼の中で形になろうとしていた絵図を明るく照らした。
「そうだ……! 鈴音さんはコスモプロセッサを作るためにこれまで準備をしていた。そのための世界樹だったけど、それだけじゃ足りなかった。鈴音さんの計画には、魔法技術が必要だったんだ!」
 逆に言えば、彼女の計画は魔法技術を用いたものであるという事だ。
 魔法技術を使って儀式場を用意するならば……ネギの脳裏に一つの方法が浮かぶ。
 魔法の儀式といっても地面に描いた魔法陣ばかりではない。たとえば特殊なマジックアイテムを、特定の位置に配置する事によって効果を発揮するというものもある。
 この「特殊なマジックアイテム」というのは、魔法力だけ持っている物体に呪紋処理を施してそういう効果を持たせるのだ。

「……そうだ! そうだよ!」
 ここまでうつむいたネギが、顔を上げて勢い良く立ち上がった。
 見守っていた皆があっけにとられている間に、ネギは更に言葉を続ける。
「世界樹コスモプロセッサ化の儀式場、それを構成するパーツは……究極の魔体モドキだ!!」

 究極の魔体モドキは、『田中さん』よりもはるかに大きな力を持っているだろう。しかもあのサイズだ、呪紋処理を施す余地はいくらでもある。
 そう、「儀式パーツ」にする事ができるのだ。
 もしかしたらフェイトとの協力は、究極の魔体モドキを儀式パーツとして作るために必要だったのかもしれない。
 しかもあれだけの力があれば、儀式パーツでありながら巨大ロボットとして動かす事ができるだろう。
 この手のものは特定の配置にしなければ効果を発揮しないが、究極の魔体モドキならば自分の足で移動する儀式パーツになり得るのだ。
 世界樹というエネルギー源と、究極の魔体モドキというそれ自身も強大なエネルギーを持つ儀式パーツ。
 それらを全て使って儀式を行う事によりコスモプロセッサを再現する。
 それこそが鈴音の「世界樹コスモプロセッサ化」計画だと、ネギは結論付けた。
 ここまでの推理を興奮気味に説明するネギ。
 そのほとんどが彼等には理解できないものだったが、ネギが落ち着いたのを見計らい、まき絵が小さく咳払いをしてから質問を投げかける。
「ネギ君、ゲームでもそういう話があるから重要アイテム集めてイベント発生〜ってのはなんとなく分かるんだけど……それじゃあ、鈴りんの計画って、もう失敗したって事?」
「……えっ?」
「横島さんが一体壊したって話だったよね? 究極の魔体モドキ」
「あっ……」
 この手の儀式パーツは、数を揃えて特定の配置をしなければ効果を発揮しない事が多い。
「え〜っと、予備がある可能性は?」
「そのモドキ、一個なんぼやねん?」
「さ、さぁ……?」
 お金という事で皆の視線があやかに集まったが、彼女は首をぷるぷると振る。見当もつかないというのが正直なところだ。
 のどか達も、それほどのものを予備でもう一つというのは流石に無理があるのではと考えた。
 ならば安心かというと、そうでもない。ネギの顔色はまだ優れない。
 彼の脳裏には、欠けた儀式パーツを補う方法が浮かんでいた。おそらく学園長やエヴァンジェリンもすぐに同じ考えに至るだろう。
「でも、それだけでは阻止とはいきませんね」
「どうして?」
「この方法自体、その場に儀式場を作る代わりでしかないんです。つまり、本来の方法であればパーツは必要無いんです」
「魔法使いなら代わりになれるって事?」
「はい、優れた魔法使いなら。その場で儀式を行う必要はありますけど……」
「鈴りんでも?」
「鈴音さんは分かりませんが、フェイトなら確実にやれると思います」
 そう断言するネギ。フェイトについては、これまで見聞きしてきた彼の行動からの推測だが、間違ってはいないと確信していた。
「じゃあ、ネギ君はどんな風に儀式をすると思うんや?」
「そうですね……」
 まず、エネルギー源となる世界樹を中心にして儀式場を作るだろう。
 究極の魔体モドキは、横島が破壊したものも含めて六体。それぞれを頂点として、世界樹を中心とした六芒星を描くというのが本来の計画だったと考えられる。
 そして欠けた一体の分を補うのは……フェイトだ。
 中央で儀式を行う者が必要だが、これは鈴音の役目だろう。コスモプロセッサはアシュタロスの技術。それに関する知識と技術は鈴音しか持っていないと思われる。
 だとすれば、欠けた究極の魔体モドキの代わりを務めるのはフェイトしかいない。
「つまり……僕らが狙うべきはその一点、儀式場を完成させようとするフェイトだ!」
「なるほど、儀式場が完成しなければコスモプロセッサも完成しない、か」
「ネギ、その予想合っとんのか?」
「多分……いや、ほぼ間違いなく!」
 この推測は、十中八九合っているだろう。コスモプロセッサの力と規模を考えると、これ以外の方法でできるとは思えないのだ。
「つまりフェイトを止めたら、ネギ君達の勝ちって事だよね!」
「あ、それ分かりやすい!」
 説明を理解した少女達は、既に勝った気になったのかはしゃぎ始める。
 ネギ達男子陣は流石にそこまで楽観的ではないが、やるべき事がハッキリして少し気が楽になっていた。
 カモはただ一匹フェイトに拘り過ぎているのではないかと考えていたが、彼はネギの父ナギが活躍した東西の大戦の原因。ネギが拘るのも無理はないだろうと、あえては口は挟まずにいる。
 
「フーっ……若いねぇ」
 タバコの煙を吐き出し、ニヒルな笑みを浮かべたオコジョは携帯電話を手に取る。
 手はいくつ打ってもいいのだ。横島達が鈴音を目標に動き、ネギ達はフェイトを目標に動く。
 打つべき「他の手」は、他の者達に任せてしまえばいい。
 という訳で、カモが早速学園長に連絡。先程までのネギの推理と、ネギパーティの行動方針を伝えるのだった。


「美神さんも相当なものでしたが、ネギ先生もなかなか……」
 学園地下の司令室にて、学園長からの説明を聞いた明石教授が唸った。
 彼も究極の魔体モドキを儀式パーツとして利用する手段については気付いていたが、欠けた一つをフェイトが補うところまでは考えが至っていなかったのだ。
 カモからその話を伝えられた学園長は、フェイトならば可能だと太鼓判。ネギの推測通り他に手段は無いと判断した。
 現在他の魔法先生達は魔法界から緊急輸送されてきた『対非生命型魔力駆動体特殊魔装具』の搬入と、それを用いた防衛作戦『学園防衛魔法騎士団』の準備に奔走している。
 これは元々の麻帆良祭最終イベント『学園全体かくれんぼ』を急遽変更したものだ。
 司令室に数枚残されているチラシも、その手の技術を持った魔法生徒を呼び出して急遽作成してもらったものだ。
 なお、ポスターに描かれているのはまほら武闘会にも参加していた高畑とリカード、そして参加者ではないエミリィ・セブンシープとテオドラ皇女である。時間が無かったため急遽集められるメンバーだけとなった。
 アリアドネーのエミリィも参加してもらっているのは、彼女達が学園関係者としてイベントに参加していると思わせるためでもある。彼女は魔法騎士団候補学校の制服姿なので、同じ制服を着ている者達は皆学園関係者だとみなされるだろう。
 なおテオドラは自分もやりたいと言い出しただけだ。彼女は立場的に前線に立たせる訳にはいかない。
「魔装具の搬入は間に合いそうかね?」
「問題ありません。むしろ用意した数が多過ぎるぐらいですね」
「設営は?」
「問題の無い部分は一般生徒にも手伝ってもらっていますが、間に合います」
「うむ」
 あと一時間もしない内に参加希望者が設置したばかりのイベント本部に殺到するだろう。
 この作戦は鈴音が一般人にも危害を加えるようならば破綻してしまうが、それに関しては学園長も心配していなかった。その時のための備えはしており、むしろその程度ならば与し易いとも考えていた。
「しかし、フェイトをネギ君に任せてしまっていいのでしょうか?」
「修学旅行の時に一度戦っておるからのぅ。他の者達よりヤツのやり口が分かっておるじゃろう。それに、いざとなればワシが出る」
 最後の言葉を聞いて、明石教授も安心した様子だ。
 結局のところフェイトも、究極の魔体モドキも、そして中央で儀式を行うであろう鈴音も全て危険なのだ。
 そしてどれを止めても儀式は阻止できる。ならばやる気がある者に任せればいいと学園長は考えていた。
「まぁ、関西呪術協会はフェイトが狙いですが……」
「実際、六つの頂点のどこに行くかは分からんからのぅ。その辺の事情は伝えた上で関西呪術協会を六つに分けて配置しようかの」
 そう言って学園長は援軍の名簿を手に取り、魔法先生、魔法界の援軍、関西呪術協会の援軍を偏らないように割り振り始める。
 高畑、リカード、セラスは主力と考えていいだろう。ここに神多羅木を加えていいかもしれない。ガンドルフィーニは巨大ロボット相手には少し厳しいだろうか。
 世界樹を中心に六芒星を描くならば、大体どの辺りが目的地なのかは予測できる。それに合わせてチームを配置するのだ。そしてフェイトが向かった先に援軍としてネギを突入させるというのが学園長の作戦だ。
 これが終われば準備は完了。後は鈴音達が動き始めるのを待つのみ。いよいよ麻帆良祭最終イベントのスタートである。





つづく


あとがき

 「呪紋処理」は、原作麻帆良祭編最終決戦で、超がネギと戦う時に使っていたものです。
 つまり原作の超も使えた技術という事ですね。『見習いGSアスナ』では別ルートで覚えていますが。

 超鈴音に関する各種設定。
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。







感想代理人プロフィール

戻る 





代理人の感想 
久々にネギくん活躍。
この子スペックは高いんですけどねー。




※この感想フォームは感想掲示板への直通投稿フォームです。メールフォームではありませんのでご注意下さい。 

おなまえ
Eメール
作者名
作品名(話数)  
コメント
URL




 
前へ 次へ