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「……仕方ない、それで手を打つネ♪」
 横島が手を握り返すと、鈴音はニッと笑ってみせた。
 これでひとまず親子で争う事は避けられたのだが、同時にひとつの問題が浮上してくる。
「それで、鈴りんはどっちが引き取るの?」
 そう言ったのはパル。今考えるべき事ではないかもしれないが、彼女は空気を読まずに発言したのではない。読んだ上で、あえてそう発言したのだ。
 実際のところ、皆にとっても気になる問題だ。何故なら未来から来た鈴音は横島と令子の娘だが、今の時代の二人は結婚していないのだから。
 それが「まだ」なのかどうかも不透明。アスナ達としても、そこは実に気になるところであった。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.190


「えっ? つまり、横島さんがバツイチになるって事?」
「いや、そうじゃないだろ」
「そうよ、アスナ。こういう場合は子持ちになるでいいんでしょ?」
「間違ってないだろうけど、この場合、それでいいアルか?」
 困った古菲が鈴音に視線を向けると、彼女も腕を組んで考え込んだ。
「私がパパの子なのは間違いないけど、今のパパとは違うからネ〜」
 まだ高校生の横島を、一児の父にしていいものか。それを悩むぐらいの常識は、彼女も持ち合わせていたようだ。

「ああ、でも、こっちでもパパママが結婚して私を引き取ってくれたらうれしいネ」

 同時に爆弾を放り込むいたずら心も持ち合わせていたようだが。

「ちょっと待ったーーーっ!!」
 その言葉にすぐさま反応したのはアスナ。乗せられたともいう。
「鈴音さん、新しいお母さんに興味無いかしら!?」
「オイ」
 その物言いに、令子も思わず真顔でツッコんだ。
 しかし鈴音がニヤニヤと笑いながら見ているのに気付き、大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
「そこは悩むまでもないでしょ。私の娘なんだから、私が引き取るわよ」
「え〜、私としてはママよりパパの方が良いネ」
「え〜じゃない! 横島君、まだ学生なんだから!」
「まさか、ママからそんな常識的な発言が出てくるとは……」
 そう言いつつも鈴音は笑っている。横島は既に除霊事務所を開いているため、令子の言い分は常識的ではあるが、若干的外れでもあるのだ。
 令子自身もそれは分かっているのか、鈴音の笑顔を前に強く出る事ができない。

「あれ、どないします?」
「今はそれどころじゃないって言って聞いてくれるかな?」
「難しそうだな……」
 千雨の言う通り、彼女達を止めるのは難しそうだ。
「よし、一旦休憩だ」
 諦めたのか、横島は手近な椅子に腰を下ろす。
「えっと、いいんですか?」
 すると、まき絵がおずおずと尋ねてきた。
 彼女もこの手の話題が好きなタイプなのだが、今回の件に関してはあくまで横島周辺の話であるため、興味よりも不安の方が勝ったようだ。
「あれを見てごらん」
 そんな彼女を安心させるべく、横島が指差したのは鈴音の背後にある大きなモニタ。
 いくつものウィンドウが開き、地上での戦いの様子がリアルタイムに中継されている。
 マップ上に表示されたマーカーを見たところ、『究極の魔体』モドキの足止めは上手くいっているようだ。
「見た感じ、地上は麻帆良側が有利なようだ。ここで鈴音を止められたんだから、少しぐらい休んでもバチは当たらんと思うぞ」
 それが横島の判断だったが、少女達は不安そうに顔を見合わせた。
「でも、こんな事してる間に何か起きたら……」
「それをどこよりも早く察知できて、それに対処できるのがここなんじゃないか?」
「そう……なのかな?」
「そうじゃなかったら、鈴音はここにいないで、もっと現場の近くにいたと思うぞ」
「あ、確かに」
 まき絵は、その言葉で納得した。鈴音への厚い信頼である。
 鈴音は横島に向けて、先程までとはまた別の笑みを浮かべている。「よくぞ気付いた。流石パパ♪」と言いたげなにんまり顔だ。

 という訳で、一行はここで休息を取り、ゆっくり休む事にする。
「あ、ネギ先生に連絡してくるね」
「私も夕映に」
 のどかと千雨が、連絡のために一旦地下を出た。のどかはともかく、千雨は厄介事から逃れたいというのが本音だろう。そう、令子達の話し合いから。
 ゆっくり話せるようになった令子達だが、向かい合う令子と鈴音に、今はアスナとシロ、それに古菲が加わっている。
 内訳としては、鈴音を引き取ると主張する令子。シロは令子を応援する立場だ。彼女も彼女なりに令子が家にくれば、横島が訪ねてくる事も増えるのではないかぐらいは考えているかもしれない。
 その一方で鈴音は、元がルシオラだけあってか横島に引き取られる事を望んでいる。元々親しかった古菲は、どうせならば彼女の望み通りにと考えているようだ。
 そしてアスナはというと、鈴音の新しいママに名乗りを上げている。
「私は! 横島さんが子持ちでも……一向に構わない!!」
「その覚悟は見事だけど、ちょっとズレてないかナ?」
 これには流石の鈴音も呆れ顔である。しかし、悪い気はしないようで笑いも交えた対応だ。
 しかし、令子は黙っていられない。アスナの主張は母親である彼女の存在を埒外に置いているのだから当然である。
「そこで怒ってるけど、ママも私の知識とか技術目当てじゃないって言えるかナ?」
「い、いいい、言えるに決まってるじゃない!」
 思い切り焦りまくりである。
「その点、アスナは純粋ネ」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
 総ツッコミである。
「……純粋に不純ネ」
 そう言い換えると、皆も納得したようにうんうんと頷いた。
 アスナはアスナで横島の事しか考えていないので、その反応も当然である。

 なお、もう一人の当事者である横島は、会話には参加せず、一歩引いて見学者側にいた。そちらには月詠とアーニャ、そしてパルとまき絵がいる。
 月詠は、鈴音の去就についてはどうでもいいと考えているようで、アーニャの方は自身も東京では横島のお世話になろうと考えているため、口出しを避けていた。
 パルとまき絵は、横島周りの話は関わりが薄いという事で野次馬に徹しているようだ。
 一応この面々は、モニタの方にも目を光らせ、地上の戦況を逐一チェックするという役割も担っている。
「横島君! あなたは……あ、やっぱいいわ」
 令子はこの状況を打破しようと横島を引き込もうとするが、はたとある事に気付いてそれを止めた。
 気付いたのだろう。彼が参戦すると二対一になって自分が負けてしまう事に。
 実のところ横島も、この件に関してはしっかり話し合わせた方が良いと判断し、あえて見学者側にいる。アスナが加わった事で、方向性が変わってしまった気がしないでもないが。
 ちなみに、鈴音を引き取る事については気負うところは無かった。ご存知の通り、彼は既に除霊助手であるタマモを始めとする大勢の家族を抱えている身。彼女一人増えたところでどうという事もないのだ。

 この状況をなんとかしないと。そう考えたのどかがポツリと呟く。
「というか、そんなに悩むぐらいなら、ホントに鈴音さんの言う通り……やっぱりなんでもないですー!!」
 しかし、令子とアスナに睨まれてしまい、最後まで言い切る事ができなかった。
 アスナはもちろんのこと、令子も認めるつもりは全く無かった。横島と令子が結婚して鈴音を引き取るという提案は。
「美神さん、その様子だと横島さんと結婚する気ないんでしょ? だったらいいじゃないですか。私達、連れ子アリでも幸せな家庭を築きますから!」
「いや、その理屈はおかしい。あんた達、年齢的にアウトでしょうが」
 シロも横島を慕っているが、彼女はあくまで子供。その点アスナは大人とは言い難いが、明確に子供ではない。ここにきて令子も認識を改めていた。アスナの暴走ぶりはガチであると。
「ここで、新しいママなら古菲になってほしいって言って、更に場を混沌とさせるのはどうかナ?」
「勘弁してほしいアル……」
「そりゃ残念」
 そう言いつつ鈴音は実に楽しそうに屈託なく笑う。しかし、全てが全て冗談という訳ではなさそうなのは触れない方がいいかもしれない。


 やはり鈴音より先にアスナと話を付けるべきだ。そう考えた令子が再び口を開こうとしたその時、警告音のブザーが地下室に鳴り響いた。
「えっ、何!?」
「ちょっとストップ! 一時休戦ネ!」
 鈴音はすぐさまコンソールを操作しはじめる。するとモニタ上のマップが拡大され、画面一杯に表示された。
「あちゃ〜、先生達押され始めてるネ」
「ネギ先生が!?」
「いや、ネギ坊主はフェイトを一人仕留めてるネ。それ以外のフェイトヨ」
「それ以外……?」
 その言葉に違和感を感じた横島が首を傾げる。
 ネギがフェイトと戦った事は知っている。では、それ以外のフェイトとはどこにいるのか。モニタを見てみても、それらしい姿は映っていない。
「フェイトが魂を分けて、魔法の道具に封じているという話は知ってるネ?」
「ああ、それは学園長から聞いた」
「その魔法の道具……実は今、この中に入ってるヨ」
 そう言うと鈴音は、モニタにウィンドウをひとつ開く。そこには魔法先生達を押しのけて前進する『究極の魔体』モドキの姿が映し出されていた。
「まさか……」
「そのまさかネ。あのモドキ、ひとつひとつにフェイトが宿ってるヨ」
 現在残っている『究極の魔体』モドキは五体、その全てがフェイトだというのだ。

「……俺が地下で壊したのにも?」
「成す術もなく倒されてて、あの時は爆笑したネ」
 実は横島も、フェイトを一体倒していたらしい。

 それはともかく、よく見るとウィンドウに映る『究極の魔体』モドキは、フェイトと同じ魔法を使い始めている。正体を隠すのを止めたという事だろう。だからこその戦況の変化だ。
 実際そうなっていたかはともかく、休息は終わりだ。あとはフェイトを止めれば、この戦いの決着はつく。
 令子とアスナは互いに顔を見合わせ、そして力強く握手をした。
 お互いを見る目は大人と子供、業界の先輩と後輩ではない。良くも悪くも、二人は対等に近付いていた。
 二人の握った手からミシミシと嫌な音が響く。
「フフフ……ギブアップするなら緩めてあげてもいいわよ」
「美神さんこそ、降参するなら今の内ですよ……!」
 なんというか、互いに大人げない。そういう意味でも二人は対等であった。





つづく


あとがき

 超鈴音、フェイト・アーウェルンクスに関する各種設定。
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。







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代理人の感想 
つまり穏やかで純粋な悪が激しい怒りに目覚めたとき・・・(この先の文章は血で汚れ読み取れない





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