カオシュン基地を放棄する……その決定を受けて、多くのザフト軍部隊が後退を開始する。だが戦場において組織的に撤退するのは非常に難しい。さらに言えばザフト軍部隊には新兵が多く、練度も決して高いとは言えない。これまではクライスラーや前線指揮官の指揮によって統制を保ってきた彼らであったが、整然と後退できる程の練度はない。ザフト軍は各地で連合軍の追撃を受け、その数をすり減らしていく。

そんな友軍を支援するべく、クライスラーはミサカ隊などベテランパイロットで構成される部隊を送り出した。彼らは数こそ少なかったがゲイツやアサルトシュラウドを装備したジンを新たに与えられており、パイロットの能力と相成って一騎当千の働きを示した。

「さっさと下がりなさい!」

ナギは苦戦するジンのパイロットに矢継ぎ早に言うと、自分は追撃してくる連合軍のダガー部隊を迎え撃つ。

彼女の操るゲイツは、ビームライフルから続けざまにビームを放ち、一瞬で3機のダガーを破壊する。一瞬で3機のダガーが撃破されたことに驚いたのか、連合軍部隊の進撃が止まる。この動きが止まった連合軍部隊にゲイツは殴りこみをかける。そして虐殺が始まった。

ゲイツの持つ2連装ビームクローが次々にダガーを切り裂いていく。無論、ダガーはABシールドを持っているので防げないことはないのだが、ゲイツがビームクローを繰り出す速度は、ダガーのパイロットの反応速度を超えていた。ダガーでさえ歯が立たないのだから、後方にいた戦車や装甲車、歩兵、重砲はさらに悲惨な目にあった。彼らは機関砲で次々に掃討され、残されたものは文字通り蹴散らされる。

「す、すげえ……」

「早く下がりなさい。すぐに新手が来る!」

だが直後、1機のジンが信じられない行動に出る。そのジンはナギの命令を聞くどころか、動けなくなったMSや戦車にトドメをさしていく。

「何をしている!?」

「こいつらはナチュラルですよ。一人でも減らしておかないと、またやってきます!」

状況が判っているのか、とナギは問い詰めたかったものの、何とかその衝動を押さえ込む。

「この場から速やかに後退しなさい! これは命令よ!!」

「わ、判りました」

ナギの気迫に押されたのか、ジンはあっさり攻撃を中止すると後退していく。だがその鈍い動きにナギは思わず舌打ちする。

(ここまでザフトの質が低下しているなんて……ザフトも終わりが近いかもね)

命令は聞かないし、かと言って技量もお世辞にも高いとは言えない……そんな兵士が増えれば軍は根本から瓦解しかねない。それを理解しているナギは、ザフトの未来に暗雲が漂っているのを感じるが、慌ててそれを脳裏から振り払う。

「いえ、まだ。まだ終わらない。終わらせない。カオシュンから一人でも多くの兵士を連れて帰れば、まだ何とかなるはず!」

そう思い直すと、彼女は部下が戦っている戦域に向かった。



 ナギをはじめとした一部のエースパイロットの活躍は特筆すべきもので、連合軍に対して無視できない存在を与えていた。

「こいつは酷いわね」

戦況報告を受けたノアは余りの被害に顔を顰めた。

「すでに2個連隊が壊滅的打撃を受けています。一連の被害を受けたチャオ大将は第8師団の後退を指示しました」

「アークエンジェルは?」

「宇宙港にいますが、あちらも被害が大きく追撃は難しいと思われます。チャオ大将からは支援爆撃の要請が入っていますが」

「無理なのはわかっているでしょう? 先までの攻撃でこちらの弾薬庫は空っぽよ」

10万トン近くある空母と言っても無限に弾薬を搭載できるわけではない。第5軍が総攻撃を仕掛けた際に行った支援爆撃で、空母に積んでいた爆弾やミサイルはほぼ底を尽きたのだ。勿論、ノアは補給を急いでいるものの、右から左に流すように弾薬を詰め込めるわけがない。

「東アジア共和国軍のMS揚陸母艦にもVTOL戦闘機は搭載していたはずでしょう? あっちは?」

「向こう側も必死に支援を行っているようですが、ディン相手だと分が悪いようで……それに搭載できる弾薬も限りが」

ノアは思わず溜息をつく。

「司令、溜息をつくと幸せが逃げますよ」

「幸せが逃げているから溜息をつくのよ」

「……まぁごもっともですが、如何します?」

「艦艇による対地攻撃を行いなさい。あの馬鹿でかい戦艦もいるんだから多少は役に立つでしょう。宇宙港周辺にいるのはアークエンジェルに任せておきなさい」

「味方を誤射する危険性が……それに市街地への被害も馬鹿になりませんが」

「部隊を下がらせるようにチャオに言っておきなさい! 市街地への被害についてはある程度なら許容されるわ!」

ノアからの要請で第5軍は一時後退し、その直後に大規模な砲撃がカオシュンに浴びせられる。だがそのときにはすでにザフト軍はほぼ後退を済ませていた。非戦闘員の多くは一足早く輸送機で脱出させ、車両は新兵を中心とする部隊に護衛を任せて脱出を開始させている。

「さて、これからは時間との勝負だ」

ザフト軍の陸上戦艦『ヘシオドス』のブリッジで、クライスラーは部下達に念を押す。

「地球軍の航空部隊も暫くは補給のために動けない。諸君には申し訳ないが我々はここで友軍の脱出のための時間を出来るだけ稼ぐ」

客観的に言えば無謀もいいところなのだが、ここにいる人間でそれを指摘する人間はいない。不可能を可能にするくらい難しいことだが、彼らは自分達でしかそれが出来ないと思っていたのだ。

「司令、ひよっこを盾にするよりかはマシな判断です。そう気に病むことはありません」

「そうです。我々は司令を恨んではいません」

「……感謝する」

クライスラーの言葉の直後にアラームが鳴り響き、オペレータが緊張した声で報告する。

「司令、地球軍が前進を開始しました!」

その言葉が、カオシュン攻防戦における最後の死闘の幕開けを告げるものだった。





                       青の軌跡 第26話





 陸上戦艦『ヘシオドス』に司令部を置くザフト軍第9混成旅団は、進撃して来た連合軍部隊にザフト軍の底力を嫌と言うほど見せつけた。

ミサカ隊を中心に優秀なパイロットとゲイツを惜しげも無く前面にしたザフト軍に、連合軍は逆に叩きのめされたのだ。特にミサカ隊の戦果はすさまじい物があり、彼女達だけのために連合軍部隊はダガー部隊の3分の1を失う。あまりの被害に連合軍部隊は後退していく。

「そこまで敵は強力なのか?」

チャオは前線からの報告を聞いて顔を顰める。

(これ以上被害を受けると拙いな……)

東アジア共和国は未だにMSを独自に開発できていなかった。フジヤマ社が主導する形で東アジア共和国製MSの開発を行っているもののその成果は未だに出て居ない。当初はストライクダガーのコピーを生産しようとしたが、簡単にコピーできるような品物ではなかった。

このためMSについては完全に大西洋連邦からの供給に頼っている状態だ。もしここでダガーを大量に消耗すれば大西洋連邦、いやアズラエルに頭を下げて大量に供給してもらわなければならなくなる。そうなればブルーコスモスの影響力が益々大きくなることになりかねない。

「(これ以上、あの武器商人に頭を下げるわけにはいかない)……後方に下がらせた部隊の再編が終るまで敵軍を包囲する姿勢をとれ」

「部隊を集結させてから攻勢に出るおつもりですか?」

「そうだ。沖合いの空母もそのころには補給が終っている。その時を待ってから攻勢に出る」

チャオの指示を受けて第5軍はザフト軍を包囲(実際には半包囲)しつつ、その場で部隊の集結を待つことになった。この時連合軍の誰もがザフトは現在位置の防衛ラインに留まると考えていた。まぁ両軍の戦力差を考えれば彼らの考えも当然と言えるが、残念ながら今回の相手は彼らの常識が通用しない相手だった。

クライスラーは進撃を停止した連合軍に対して逆襲を行った。無論、連合軍も迎撃できなかったわけではないが、ザフト軍の予想以上の機動に翻弄されて効果的な反撃を行えず大損害を被る。クライスラーはMSの長所がその機動性にあることを理解しており、基本的に攻撃に用いるための兵器であると考えていたのだ。そして第9混成旅団に配属されたパイロット達は指折りのエース達であり、十分にその機動力を発揮できた。

ディンや、グゥルに乗ったゲイツ、さらにバグゥが縦横無尽に前線を暴れ回り、いたる所で連合軍に出血を強いる。

「拙いぞ。あまりに被害が多すぎる」

連合軍の前線指揮官達はあまりの被害と、見事としか言えないザフト軍の逆襲に顔面蒼白となった。一撃離脱を続けるザフト軍のゲリラ攻撃によって連合軍の陣形は大幅に乱れていた。さらに陸上戦艦の砲撃によって重砲、戦車の損失もうなぎ登り。

「司令部に言って、予備部隊を急いで回してもらいましょう、あとアークエンジェルも」

「そうだな。宇宙港の守りもいいが、このままでは……」

「いや、この際こちらから積極的な攻勢に出るべきだ! 受身の姿勢では徒に被害がでるだけだ!」

「そのとおり。それに我々が余り梃子摺れば、東南アジア諸国に示しがつきません」

只でさえ、今大戦において東アジア共和国は大西洋連邦によい所を持って居かれている。このままよい所無しで終れば、戦後の発言力が低下することは確実だった。

「何はともあれ、攻勢に出るべきだ。このままでは埒が開かない!」

「常に攻勢を仕掛けて連中の消耗を強いれば良い! 連中の数はこちらより少ない!!」




 前線指揮官の要請を受けたチャオはやむを得ず積極的な攻勢に出ることになった。勿論、ある程度部隊が再編できてからの攻勢であり、彼としてはこれでザフトを叩けると判断したためでもあった。しかしこの攻勢は、クライスラーの思う壺であった。

クライスラーは手持ちのMSや戦車に連合軍MS部隊ではなく、後方にいる戦車や輸送車両を攻撃させたのだ。彼はゲリラ攻撃を行うと同時に幾つかの部隊を分割して、待ち伏せさせていたのだ。地上車両は、次々にザフト軍MSの餌食となり、スクラップと化していく。

カオシュンの複雑な地形を利用したこのゲリラ戦術に連合軍はさらに梃子摺る。連合軍が敗退するわけではないが時間稼ぎにはなった。

「さて、こちらも移動を開始する。脱落しても助けられないから覚悟しておいてくれ」

十分に時間を稼いだと判断したクライスラーは、旗艦ヘシオドスと駆逐艦2隻、そして残っていた兵員や僅かに残っていた非戦闘員を詰め込んだ車両と共に彼らは脱出を開始する。ゲリラ部隊と合流しながら南下していくザフト軍部隊。これを追撃しようとした連合軍だったが……。

「時間だな」

カオシュン基地主用施設に設置された自爆装置、および宇宙港の近くに置かれたグングニールが相次いで作動した。自爆装置がカオシュン基地の主要部を次々に爆破していく。司令部が、通信施設が、飛行場や管制センターが次々に炎に呑まれ崩壊していく。そしてトドメは弾薬庫。

プラント本国から届けられた使いきれない量の弾薬は、敵に使われることなく味方によって吹き飛ばされる。その破壊力は他の自爆装置の比ではなかった。辺り一帯が白い光に包まれたように見えた直後、大音響と共に爆風と振動が周辺を襲った。

この自爆装置に続いて、作動したグングニールが造り出したEMPの嵐が連合軍部隊に襲いかかった。MSこそ対EMP防御が施されているものの他の地上車両、特に輸送車などはそんな処置が施されているわけが無くあっさりと行動不能に陥る。幾らMSと言えども友軍の後方支援なしには満足に戦えない。

「くそ、やってくれたな!!」

チャオは怒りの余り机を拳で殴りつける。そんな怒り心頭のチャオに恐る恐る参謀が報告を続ける。

「マスドライバーもかなりの被害を受けている模様です。崩壊こそしませんでしたが、本格的な修理と思われます」

宇宙港周辺に設置されたグングニールは、これまでの戦闘での流れ弾や基地の自爆の余波で2基が作動しなかったが、他の2基は確実に作動しマスドライバーと周辺施設に多大な損害を与えていた。

「部隊の再編を急がせろ。追撃は?」

「……支援部隊が軒並み行動不能です。ですが、アークエンジェルは動けるようです」

「ではアークエンジェルを中心に追撃部隊を編成しろ。あとノア少将に連絡して航空支援を」

「了解しました」

突貫で補給を済ませた連合軍空母からは、怒りに燃える航空部隊が次々発進した。戦闘機、攻撃機が撤退中のザフト軍部隊に襲いかかった。

ザフト軍も必死に応戦するが、余りの数に手持ちのディンや戦闘機だけでは対応し切れない。何十機もの連合軍機が迎撃網を突破して地上部隊に攻撃を加えていく。ミサカ隊を筆頭に各部隊は奮闘しているが、全てを防ぎきれるわけがない。対地、対艦ミサイルが降り注ぐ。

「ゼナイドで爆発! 被弾した模様です!」

「ミシェル、ブリッジ被弾!」

指揮下の駆逐艦2隻があっという間にボロボロにされていくのを見てクライスラーは歯噛みする。制空権を失った彼らはすでに良い的。

連合軍機の猛攻の前に成すすべもないのが実情だった。このままでは陸上艦艇は全て撃沈され、残された車両も殲滅されるだろう。そうなれば一方的な虐殺となるのは間違いなかった。

(制空権が無いのが痛い……)

所詮、陸戦MSは地上兵器に過ぎず、空からの攻撃には弱い。相手が旧式機が多い東アジア共和国空軍だったらここまでやられはしないのだが、残念ながら彼らが相手にしているのは、地球圏最強国家である大西洋連邦軍の空母艦載機部隊。はっきり言って他の軍より質がワンランク高い。

クライスラーは空母の補給にはもう少し時間が必要だと思っていたので、彼らの襲撃は想定外だった。そしてさらなる追い討ちが彼らを襲う。

「足付きが接近中!」

「何?!」

只でさえやられる寸前だと言うのに……クライスラーは状況を打開する策を考えるが、そんな都合のよい策など即座に浮かぶわけが無い。

「東港まであと僅か……それなら……」

たった一つ取り得る策があるが、それをすればクライスラーの名誉も功績も無に帰る。だがそれしかないことを彼は理解していた。

(私一人の立場がどうだというのだ。私一人が人柱になって救われる命があるのなら……)

彼は幕僚達と相談した後、連合軍部隊との通信回線を開くように命じた。それは降伏の申し出であった。

「降伏するだと?!」

第5軍司令部の面々はクライスラーからの申し出に苦々しい顔をしたものの、最終的にはこれを受理すると伝えた。中には殲滅するべきだと主張する人間もいたが、チャオの「我々はテロリストではない!」との言葉に沈黙を余儀なくされた。軍人とは政府からの命令によって動くものであり、かつ最低限守るべき法も存在する。降伏を申し出たものを虐殺するなど持っての他なのだ。そう一喝したチャオは連合軍部隊へ直ちに攻撃を中止するように命令した。

だがクライスラーはこの隙を突くように一部のベテランパイロットや人員を装備ごと脱出させる。潜水母艦がいる東港まであと僅か。移動力に優れたディンや戦闘機、グゥルに乗ったMSならすぐにたどり着くことが出来る。

表向きは独断で脱出した部隊は東港で現地の潜水艦隊と合流し、カーペンタリアを目指すことになる。




 東アジアにおけるザフト軍最後の拠点カオシュンはこうして陥落した。尤も連合軍からすれば奪い返したと思ったマスドライバーが手酷い損害を被って当分の間使用できなくなり、さらに基地施設を木っ端微塵にされて一から再建しなければならなくなったので、失う物が非常に多かった戦いと言えた。

まあ東アジアからザフトの脅威を一掃したことで、赤道連合の戦力をオセアニア方面に集中できるようになったこと、さらに北米〜日本列島〜シンガポール〜スエズ〜ジブラルタルを繋ぐシーレーンが復活したことで、地球連合諸国の物流がよりスムーズになったことを考えればそれなりの成果が出た戦いだったと言えなくともないのだが……失った戦力を再建しなければならない人間達は頭を抱えていた。

「全軍の2割強を失うとは……再建にどれだけ金と資材が掛かることやら。もう少しダメージを減らして欲しかったですね」

大西洋連邦軍参謀本部でサザーランドから報告を聞いたアズラエルは溜息をつく。

「全くです。もう少しスマートに制圧して欲しかったのですが……相手はザフトでも指折りの指揮官だったようですし止むを得ないでしょう」

「……まあ相手が手強かったのも原因でしょうけど、僕が仕入れた情報以上にグングニールがあったのが痛かったですね」

「ですが、アズラエル様の情報が無ければマスドライバーは完全に崩壊していました。それに完璧な情報など仕入れることは不可能です」

アズラエルをフォローするように言うサザーランド。

「……まあそれもそうですね。で、サザーランド大佐、例の作戦なんですが」

アズラエルはそう言って、先ほど説明した作戦について尋ねた。

「僕達としては、これを今月中に実施したいと思っているんですがどうでしょう?」

「……作戦内容については問題ないと思います。連邦軍参謀本部、連合軍最高司令部でも裁可は得られると思います」

「そうですか」

アズラエルはほっとすると同時に、いよいよ自分が大量虐殺者の汚名を被ることになると悟った。

「宇宙艦隊の再建ができていれば、アズラエル様にこのような苦労をかけなくてもよかったのですが……申し訳ございません」

「いえいえ、気にする事はないですよ。サザーランド大佐。ここで連合艦隊を消耗させるわけにはいきませんし」

現在、地球連合宇宙軍は第二次軌道会戦で消耗した艦隊の建て直しを急いでいた。パナマ基地を筆頭に各地の連合軍工廠では、艦艇の建造が進められており、新造艦が連日完成している。第3、6艦隊の他にもこれまでの戦いで壊滅した第5、第8艦隊の再建も急ピッチで進められており

今月中には、第5艦隊がパナマから打ち上げ出来るとの報告もある。しかしながらまだアズラエルが提案した作戦のような博打のような作戦に参加させる艦艇はない。連合軍は衛星軌道に新しい軍事ステーションを建設している最中でありその護衛も必要だ。ブルースウェアが護衛についているものの、やはり護衛は多いほうがよい。この量の他に質の面でも問題があった。これまでの消耗の結果、連合軍は新兵の割合が多い上にストライクダガーではゲイツには勝てないのだ。

「ダガーの改良機とダガーLの数が揃うまでは、貴重なMSパイロットを消耗させるわけにはいきませんからね」

現在、連合軍はダガーに追加装甲フォルテストラを装備させて性能の向上を図っていたが全ての機体を改装できてはいない。またダガーの後継機であるダガーLの生産ラインはこの間稼動し始めたばかりで完成機はまだ少ない。あと2ヶ月もあればかなりの数が揃うのだが、現状では地上軍の一部に回すのが手一杯だ。

「まあうちには改装したダガーと、新型機もありますから心配には及びませんよ」

ブルースウェアにはこの度、アズラエル財閥が開発した新型MSが配備されている。新型G・アヴァリス、ダガーLの試作機、さらにG兵器の改良機。中でもストライクはPS装甲ではなく、TP装甲となりバッテリーも大幅に性能が向上している。パイロットも強化人間やソキウスなど豪華なメンバーであることを考えれば2倍近い敵とでも互角に戦えるだろう。

「それではサザーランド大佐。作戦の根回し、お願いしますよ」

アズラエルが戦争を終わらせるべく色々と動き回っているように、他の人間達も同じように戦争終結への道を模索していた。マリア・クラウスを筆頭とした穏健派は水面下で活発に動き回っていた。マリアはカオシュン陥落を受けて中道派議員と高級ホテルで会合を行った。

「カオシュン基地のマスドライバーは3ヶ月ほどの修理で使用可能になるそうです。これはザフトに対する圧力として十分に使えます」

貸し切ったレストランの中、豪勢な料理に手をつけることなく彼女は話を続ける。

「さらにオーブが連合に参加した今、我々はアメノミハシラを使ってカーペンタリア上空の封鎖を行えます。この有利な状況を利用すれば比較的こちらが有利な形での講和も可能と思われます。まぁ即座に講和にこぎつけることは難しいでしょうが」

だがそんなマリアの意見に、何人かの議員が疑問を投げかける。

「しかしプラントがそのような講和を呑むのか? パトリック・ザラはコーディネイター至上主義だ。彼が我々に膝を屈するようなことをするとは私には思えないのだが……」

「確かにパトリック・ザラは強硬派ですが、評議会議員の多くが和平を望めば彼としても無視するわけにはいきません。我々が接触している議員によれば講和を望む議員も少なくはありません」

「だがプラント評議会議長の権限は強力だ。それにパトリックは国防委員会委員長も兼任している。軍と政府双方を抑えているパトリックが評議会の意向を素直に聞くのかね?」

「プラントの疲弊振りもかなりのレベルになりつつあるとの情報もあります。彼としても評議会と世論双方を敵に回す愚はしないでしょう」

彼女の言うとおり、プラントは疲弊しつつある。すでにプラント国内には、若いコーディネイター、特に男が殆ど消えており、女子供と老人の割合が飛躍的に増加している。このままではプラントが滅亡するのではないか……そんな予感がプラント市民の中にはあった。しかし戦前のような搾取される体制には戻りたくない……そんな感情もあることは事実だ。

「だが連中が講和に乗り気になるようにするには、こちらがかなりの譲歩をする必要があるのではないのか?」

「勿論、こちらが譲歩しなければならないものもあるでしょう。こちらの要求を全て呑まそうと思うのなら、相手に無条件降伏を強いるしかありません。ですがプラントに無条件降伏を強いるのが如何に犠牲を伴うかは、ここにいる議員の皆様はお判りでしょう」

「「「………」」」

ザフトを完全に叩き潰すとすれば、地球連合軍の被害も決して少なくない。かと言ってあまり譲歩し過ぎれば、次の選挙で落選する危険性がある……どうするべきか、と議員達はお互いの顔色を伺う。その様子に内心マリアは苦笑しながら彼らを安心させるように言った。

「この場で即座に返答する必要はありません。後日でも構いません」

「………判った。我々も色々と検討してみるよクラウス議員」

「ありがとうございます」

そう言いつつも内心では、対プラント工作をどのように進めるかで彼女は悩んでいた。

(そうは言ったものの、やっぱりデュランダル氏を通じたルートだけじゃあ心許ないし……何処か別のルートを探る必要がありそうね)

今の所、デュランダルを通じたルートは機能しているものの、いつ不測の事態で潰されるかは分かった物ではない。ラクス・クラインのようなイレギュラーが再び発生する可能性がある以上、複数のルートを確保しておくのが賢明だろう。

(プラント財界と縁があった財界人にも協力してもらいましょうか。それに、もうそろそろアズラエルと本格的に連携する必要がありそうね)

現在、ブルーコスモスではアズラエルとマリアの2派が非常に大きな勢力となっているが、ジブリールを中心とした一派も無視出来ない。

このジブリール達を抑えるには、どうしてもアズラエルの協力が必要になる。さすがの彼女でも、単独でジブリールを押えるのは難しいのだ。

(色々と忙しくなりそうね………)

東アジアからザフトを叩き出した事で、連合軍は地球での優位を確固たるものにした。宇宙でも着々と軍備を再建しつつあり、大規模な反撃の時が迫りつつある。戦争は新たな局面にさしかかろうとしていた。






 あとがき

 青の軌跡第26話をお送りしました。さてカオシュン戦も終り、いよいよ宇宙での戦いがメインになっていきます。

ダガーLの生産も開始され、フォルテストラを装備したダガーも出回りますので、連合軍の戦力は史実以上になりそうです。問題はザフトですが、こっちはザクの他に、フリーダムとジャスティスの量産タイプ(非ガンダム)を出すかどうか悩んでいます。どうしましょう?

え〜駄文ですが最後まで読んでくださりありがとうございました。

青の軌跡第27話でまた御会いしましょう。







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代理人の感想

戦争が終ると政治の季節。

徳川家康は大阪冬の陣の折、攻撃を仕掛けるのと同時に和平工作を行っていたそうですが

その辺は近代以降であればどこでもいつでもさほどは変わらないのでしょう。

勿論和平工作が成るかどうかはまた別の話、ですが。