ブラットレー率いる地球連合軍第5軍は、カーペンタリアの南東のある小都市でザフト軍部隊と対峙していた。

彼は先鋒を務めていた第34師団を前面に、第15師団と第9師団をそれぞれ左翼、右翼に展開させて半包囲の構えを見せていた。

しかも後方には2個師団の予備部隊が存在し、仮にどれかの部隊が突き崩されれば即座にその穴を防げるようにしている。

そして第5軍旗艦である戦艦ニューヨークは後方で全体の統括をとっていた。

ブラットレーとしては前線で指揮を執りたかったのだが、幕僚にパナマ攻防戦でザフトの新型機に旗艦を撃沈されそうになった

バーク少将のことを例に挙げられ、仕方なく旗艦ごと後方に下がっていた。

そんな彼にとってはやや不本意な状況を描きこまれた地図を見ながら、ブラットレーは尋ねる。

「敵部隊の内訳は?」

「敵が予想以上に巧妙に隠れているためにあまり正確な情報はつかめなかったのですが、熱源探知などから

 ジンタイプのMSが20機、ディンが20機の存在が想定されます。また他には戦車や装甲車が確認できました」

「ふむ、敵は予想以上に弱体だな。連中の狙いは時間稼ぎか」

ザフト軍ご自慢のMS部隊も弱体の上、戦闘機、爆撃機の援護すら目の前の敵にはない。

だがそれを補うかのように彼らはかなり堅牢な陣地に立て篭もっている。

何せ都市で戦うとすると、こちらは同士打ちを恐れて航空隊による地上支援が難しくなる。

当初は無視してカーペンタリアに急行すればいいと言う考えもあったが、それは総司令部の指令で取り消されたのだ。

「カーペンタリアは核攻撃で吹き飛ばすか……まったくそれだったら、攻撃なんてしなくても良いだろうに」

大西洋連邦上層部の決定によって、カーペンタリアへの核攻撃は48時間後とされていた。

だが、さすがに他の都市を核攻撃で吹き飛ばすのは、上層部も認めなかった。

もともと上層部に巣食うブルーコスモスは自然回帰をスローガンにしている。

その彼らが放射能と言う猛毒を青き清浄なる大地に残すことなど認めるわけがない。

尤も核攻撃が決まっているのだったら、最初は持久戦に徹して核でカーペンタリアが壊滅したあとに降伏勧告をすればよいと

ブラットレーは考えたが、これも上層部が却下した。曰く、

「都市に立て篭もるコーディネイターどもを皆殺しにすべし!」

この戦略的に何の利益もない命令にブラットレーは怒り狂ったが、このまま何の戦果も挙げずにこの戦いを終わることを

彼の幕僚達は嫌っていた。何せこのオーストラリア攻略戦で主に活躍したのは空軍と海軍、そして宇宙軍だけなのだ。

ここで何としても武勲を立てておかないと後々に問題になる。尤もそんなことで戦わせられる兵士達はたまったものではないが。

「こうなれば都市を更地にするつもりで砲弾を撃ち込むしかないか」

こちらにはアークエンジェルと言う大火力戦艦が存在するし、陸上戦艦も40センチ、36センチ砲を持っている。

弾薬庫を空にするくらい撃ちまくれば敵の防衛ラインをずたずたにする事くらいは出来るとブラットレーは踏んでいた。

(民間人を巻き込むことを考えると、こちらの攻撃日時を相手に通告してやる必要があるな)

ザフト軍、及び民間人にこちらが攻撃する日時を知らせて、それでもザフトが立て篭もるのなら責任は全て連中が負うことになる。

仮にそうなれば住民の反感は全てとまではいかないが、その多くはザフトに向くだろう。

(恨むのなら、己の生まれを恨んでくれよ)

巻き込まれるだろう住民達に、彼は内心で十字を切った。



 一方、第13軍のパウルスはクルーゼ率いるザフト軍部隊と相対していた。

「敵はジン100機以上に加えて、バグゥが60機か、それに機動力に優れる車両も多いな」

パウルスは第13軍旗艦の戦艦『アレキサンドリア』で状況の確認作業を行っていた。 

「よりにもよって私の部隊に主力をぶつけるとは……連中は何を考えている?」

パウルスは敵の動きに思わず疑念を抱く。わざわざ第5軍に比べて遠方にいる第13軍相手に戦う意図を読めなかった。

(まさか連中は私の部隊が撃破しやすいとでも思っているのか?)

そんな考えが頭によぎる。

(もし、そうだったら私をなめているな……尤も奴がそう考えても可笑しくはないか)

自分が元事務屋で指揮官向きの人間でない事を自覚している彼は、クルーゼがそう判断しても可笑しくないと考えた。

(まったく私みたいな後方勤務向きの人間を前線指揮官にしなければならないとは……我が祖国もやきが回ったものだ)

何気にテンションの低いパウルス。このテンションの低さは幕僚達にも感染している。

「よりにもよってクルーゼか」

「まったく何であの変態仮面と……」

「まぁ、やはりここは偵察部隊を用意して相手の出方を探りましょう」

「先制攻撃はなしか?」

「うちの司令官が先制攻撃をきびきびと指揮できるか? だいたいカーペンタリアは核で吹き飛ぶんだ。

 それなら防御に徹して時間を稼げばいい。ここは大火傷をしないことを優先するべきだ」

生産性の乏しい会話をぼそぼそと交えつつ、彼らはまず防御に徹することを決めた。




               青の軌跡 第15話




 第5軍は都市に立て篭もるザフトに対して、飛行機でビラをまいて攻撃日時を通達したがザフトは全く反応を見せなかった。

民間人を脱出させる素振りくらいはやるだろうとブラットレーは思っていたのだが、どうやら相手は民間人を

平気で巻き込むつもりのようだ。まぁそれなりの数の民間人が自力で脱出しているのは確認していたが・・・・・・。

「仕方ないか」

舌うちすると、ブラットレーは黙り込む。そして少しするとスクリーンに映し出されている地図に視線を向け、命令を下した。

「全軍、攻撃を開始しろ!」

ブラットレーの命令を受けて、陸上空母から航空隊が飛び立つ。

スカイグラスパー、ネオサンダーボルトを筆頭に多数の戦闘機や戦闘爆撃機が次々に前線に向かう。

陸上空母から航空隊が発進する一方で、アークエンジェルに搭載れているスカイグラスパーは待機を命じられていた。

『おい、何で俺がでちゃいけないんだ?』

元々フラガはカリフォルニア基地で教官をする予定だったのだが、この大作戦に際して連れてこられた。

そのためといっては何だが、無理に連れてきたくせに出撃する機会がないことに不満を募らせていた。

そんな彼の問いにナタルは頭を横に振る。

「我々は突入部隊です。司令部からも前線への攻撃は参加する必要は無いと」

『司令部の方針か……』

このフラガの言葉に、ナタルは頷く。

「アークエンジェルは駆逐艦3隻を連れて正面の一翼を担います。その際の援護をお願いします」

航宙艦とは言え、アークエンジェル級の火力は圧倒的だ。その火力があれば多少の抵抗は封じ込められる。

何と言っても司令部は、地表に汚染を残しかねないローエングリンの使用も許可していたのだ。

(確かに勝つためには必要だが、市街地で、しかも民間人がいるかもしれない地で使うことなど……)

さしものナタルも市街地に汚染を残すような戦いをする気はなかった。

幾ら敵国の市民とはいえ、無垢な、そして無力な市民を犠牲にすることは軍人である彼女には許しがたい行為だった。

(これも戦争に勝つためには必要なことだと言うのか?)

このとき、彼女がカーペンタリアに核攻撃が行われると聞いていたらどう思ったかは想像に難しくない。

尤も彼女がいくら反対したとしても、決定が覆されることなどないだろうが……。

彼女がそんな思いに囚われているのを他所に、連合軍による攻撃は熾烈を極めていた。

航空隊の爆撃によって、都市の周辺に設置されていた対空火器は徹底的に破壊されていく。

反撃を試みた部隊もあったが、彼らは反撃した途端にミサイルと爆弾の集中攻撃であえなく潰されていった。

ディンも数機ほど迎撃しにきたが、スカイグラスパー隊の集中攻撃で袋叩きにされてしまう。

制空権を奪取した第5軍は偵察機を大量に飛ばし、ザフトが潜伏していると思われる場所を見つけては片っ端に砲弾を撃ち込む。

「発砲諸元算定完了!」

「撃てぇ!」

戦艦、駆逐艦、さらに重砲から放たれる大口径の砲弾の雨が各地に降り注ぐ。

あちこちにあった急ごしらえの塹壕や陣地が木っ端微塵に吹き飛ばされる。尤も巻き添えになる民家や公共施設も多い。

都市のあちこちから炎と黒煙が上がり、大量の灰が空に舞い上がっていく。

しかしこの鋼鉄の雨をもってしても立て篭もっているザフトに壊滅的なダメージを与えることは出来なかった。

「敵に与えた損害は?」

「集計した結果、ジン4機、ディン9機を撃破。他に戦車、装甲車多数を撃破したとの報告があります」

ブラットレーは幕僚の言葉にため息を付く。僅か攻撃開始一時間で都市のかなりのエリアが焦土と化している。

一応はザフトの拠点(?)に絞って攻撃を繰り返しているのだが、このままでは埒があかない。

「………攻撃ヘリで疑わしい場所は徹底的に潰せ」

この命令を受けて、ジェット機に代わって、陸上空母から飛びたったヘリ部隊が相次いで市街地上空に飛び交う。

「ファイヤー!」

対地ミサイル、バルカンが疑わしい場所めがけて次々に撃ち込まれた。民間人を巻き込む事を全く躊躇わない攻撃だ。

多くの市民が犠牲になるが、そんなことを構うような連合軍ではない。

彼らは片っ端から怪しい場所を見つけると、友軍を呼び寄せて袋叩きにした。

しかしいつまで経ってもザフトの主力を見つける事は出来なかった。

「ちっ敵はどこだ!?」

いつまでたっても見つからないザフトに、苛立ちが広がり始めた頃……異変が起こり始める。

「三番機撃墜! 五番機被弾、戦線離脱!」

「何?! 一体どこからだ?」

突然の攻撃に驚いたヘリの機長は部下に尋ねるが、その答えは要領を得ないものだった。

「わ、判りません。ただあちらの学校周辺からの攻撃だったようです」

「学校だと? ちっ、連中めそんなことろに……よし叩くぞ!」

「し、しかし学校周辺であって中学校ではありませんが?」

学校などの周辺には多くの市民が避難していることが確認されている。

確かに民家への攻撃は許可されているが、多くの市民が避難している施設を攻撃するのはさすがに拙い。

部下が恐る恐る言うが、その機長はまったく攻撃をためらわなかった。

「相手は空の化け物だぞ、それに市民と言っても化け物に魂を売り渡した連中だ。連中のために俺達がためらう理由は無い!」

元々ブルーコスモス寄りの思想を持ち、かつ経験の浅い機長は自分達がやられる前に民間人ごとザフトを焼き払うことを優先した。

「で、ですが・・・・・・」

なおも躊躇う部下に苛立った機長は究極の脅し文句をはく。

「これ以上逆らうなら、軍法会議行きにするぞ!」

さすがの彼も、この脅し文句には逆らえず、この機長のヘリを含めた3機の攻撃ヘリが中学校を叩き潰すべく殺到する。

「あれ、何でこっちに来るんだ?」

「ま、まさか攻撃するつもりじゃあ・・・・・・」

学校に避難していた民間人は、殺到してくるヘリを見てある人はいぶかしみ、ある人は慄いた。

そして、それらはヘリが多数のミサイルを放った瞬間に恐怖と驚愕に染まる。

「ひぃいいいいい!」

「に、逃げろ!!」

だが逃げ切れる人間などいるはずが無く、無情にも彼らの頭上にミサイルが降り注ぐ。

爆風でなぎ払われ、四散する市民。崩れ行く建物は多くの人を圧殺し、瓦礫の下で生き残った人々に地獄の苦しみを与える。

だがそんな地獄絵図を巻き起こした地獄の使者たちの容赦の無い仕打ちはなおも続く。

そしてその数分後・・・・・・かつて学校があった地は瓦礫と、数え切れないほどの死体が散乱する無残な光景が広がっていた。

時折聞こえるのは助けを訴える声、怨嗟の声、そして親を、子を求めて叫ぶ声ばかり。だが、その声々もすぐに消えてなくなる。



 破壊と殺戮が都市を蹂躙する一方で、当事者たるザフトは都市の各地に巧妙に潜伏していた。

すでにディンの大半は喪失していたが、戦車やジンなどはまだ多くが健在で、連合が都市に侵攻するのを待ち構えていた。

そう、連合が予想だにしない罠を張り巡らせて・・・・・・。

「ナチュラルどもは無駄な破壊を繰り返しています」

「ふん。低脳な連中だ。まぁこちらとしてはありがたいが」

ザフト軍指揮官のフリッツ・リップスは地球連合をあざ笑う。

「ナチュラルの市民連中も盾になっているようだし、すべては順調だな」

リップスは嫌らしい笑いを浮かべる。この言葉に多くの幕僚は追随した。

「そうです。まったく低脳なナチュラルも多少は我らの役に立ってくれます」

「まぁ劣等種の奴らには分相応の役目でしょう」

ザフトは民間人の格好をさせた兵士を、市民の間に紛れさせて連合軍への攻撃を行っていたのだ。

彼らはこの都市の複雑な地形を利用したゲリラ戦を展開することで、連合軍を足止めするつもりだった。

無論、そんなことをすれば無関係の民間人を多く巻き込む事になるのだが、そんなことを構うような意識など彼らは持っていない。

しかし彼らは数時間後に連合の物量を甘く見すぎていたことを痛感することとなる。




 敵の予想以上の抵抗に連合軍がダメージを受けているとの報告は即座に旗艦ニューヨークに届けられた。

「何、敵の抵抗が激しい?」

「はい。都市中央に立て篭もっていると思われるザフト軍のゲリラ的な反撃にヘリ部隊はかなりのダメージを受けました」

「中には明らかに軍服を着ずに市民に紛れ込んで攻撃を仕掛けてくる者もいるそうです」

「くそ、連中め!」

レポートで見た損害の多さにブラットレーは苛立つ。尤も冷静さを失う事は無かったが……。

「……気化爆弾による無差別爆撃後にMS隊と歩兵部隊の突入を行う。陸上戦艦、駆逐艦も順次突入させる」

ブラットレーは敵を一気に叩くことを選んだ。すでに都市のあちこちに潜伏されてはどうしようもない。

ここは都市への補給を完全に寸断し、相手の飢えを待つと言うのも手だったがこれだけの兵力差がありながらそんな消極的な

戦いをすればどんなことを言われるかたまったものではない。ただでさえ上層部はブルーコスモスに牛耳られているのだ。

(くそ、あんな命令がなければ封鎖して長期戦ができるのに!)

彼は部下の死人をひとりでも減らすために、やむを得ずある命令を下した。

「第22師団を前線に投入しろ・・・・・・それと疑わしき民間人を発見した場合は威嚇射撃なしでの射殺も許可する」

銃を持たない一般市民を虐殺しかねない命令を、彼は下したのだ。

彼とてこの命令で、どのような事態が引き起こされるかは判っている。しかし民間人に紛れ込んで相手が攻撃を仕掛けてくる以上は

市民相手に躊躇っていてはどうしようもない。こちらが一方的にやられるだけだ。

(たとえこの都市を制圧したとしても、俺は大悪人決定だな)

いずれ来るであろう最後の審判で己が地獄に落とされる・・・・・・内心で自嘲しながら、彼は続ける。

「2日でこの都市を制圧する。いいか、ザフト軍をひとりたりとも生かして帰すな!」

この命令を受けた数十分後、第5軍の陸上空母からは、多数の爆撃機が気化爆弾を搭載して発進した。

目標は市街地全土・・・・・・これまでは手控えられていた大量破壊兵器による無差別殲滅戦の開始であった。



「静かになったな・・・」

「そうだな」

市民になりすまし、あちこちにトラップを設置して回っていたザフト兵は、急に静かになった連合軍をいぶかしみ始めた。

「いくらなんでも静か過ぎる」

急に航空隊を引き上げた連合軍の動きに兵士達は何やらきな臭いものを感じていた。

彼らは本能でこれが嵐の前の静けさであることを悟っていたのだ。尤も後に訪れる嵐がどのようなものであるかまでは判らなかった。

その正体を知るのは彼らがその嵐に遭遇してから、わずか数秒の後のこととなる。

「おい、あれは?」

多数の爆撃機が頭上を飛んでいるのを彼らが確認した、数秒後・・・・・・すさまじい熱風が彼らを襲った。

「なっ!」

骨をも焼くような高熱が彼らを襲い、一瞬で彼らの着ていた衣服が燃え上がる。

「うわぁああああああああああ!」

「ぎゃあああああああああああああ!!」

燃え上がる衣服を剥ぎ取ろうとすると、彼らの筋肉ごと服が剥がれ落ち、鈍く光る骨がむき出しになる。

あまりの痛さに、彼らの神経は焼ききれそうになる。だがそれも一瞬のこと・・・・・・彼らは次の瞬間に訪れた爆風によって

一瞬でこの世から消滅した。そう、跡形も無く・・・・・・。

この光景は市内のあちこちで見受けられた。多くは関係の無い市民だったが連合にそれを理由に攻撃を躊躇う義理はなかった。

連合はすでに血に酔いすぎていた。この程度の殺戮などもはや造作も無いこと。

かくして市街地の全土が燃え盛った。だが、連合はそれで手を緩めるつもりはさらさらない。

「射撃開始!」

戦艦、駆逐艦による艦砲射撃が開始された。さらに対地ミサイルが大量に、かつ無造作に放たれあちこちに着弾していく。

燃え上がった都市は次々に灰燼を帰していった。

「か、艦長・・・・・・」

アークエンジェルのブリッジクルーはあまりの悲惨な光景に絶句していた。

「・・・・・・・・・」

さしものナタルもこの光景を見ては何も言えなかった。それほどまでに目の前の光景は悲惨で、かつ凄惨なものだった。

沈黙が漂うブリッジに司令部からの命令が飛び込む。

「艦長、『市街地に突入せよ』との命令が届きました」

ダリダ・ローラハ・チャンドラU世の言葉に、多くの人間が嫌そうな顔をした。ナタルですらよい顔をしない。だが命令は命令だ。

苦虫を百匹ほど口の中でかみ締めたような顔をして、彼女は命じた。

「全速前進。市街地中心部へ進路をとれ」

「・・・・・・了解」

連合軍の大部隊が市街地に向かって進撃する一方で、迎え撃つザフト軍は多大な損害に苦しんでいた。

彼らは抵抗するために必要な戦力の多くを失ってしまったからだ。まぁ全滅はしなかったが、それでも無視できるものではない。

だがかと言って降伏するつもりもさらさらなかった。闘志をみなぎらせ連合軍を迎え撃つ準備を進める。

ジンが、戦車が地下壕から現れて配置される。さらに野砲も運び出される。

「返り討ちなど生ぬるい! ナチュラルどもを皆殺しにしてやれ!」

フリッツ・リップスは部下達を鼓舞しつつ、臨時の地下司令部から戦況を眺める。

「やはり陥落は免れないか」

「恐らく、このままでは半日もてば良いほうでしょう。全く連中の物量は底なしですね」

「ふむ・・・・・・それでは、我々は撤収準備を進めたほうがいいな。脱出ルートは?」

これから防衛戦の指揮を執らなければならない人間のいうことではない。

しかしそこにいる幕僚達は、その問いに何事も無いように答える。

「すでに手配済みです」

「散布準備は?」

「それも整っています。グングニール起動と共に散布される予定です」

「そうか・・・・・・ふふふ、ナチュラルどもの驚く顔が見ものだな。何せアラスカのお返しをされるのだからな」





 ザフト軍の司令部要員が密かに撤収を開始した頃、アークエンジェルを含めた部隊が市街地の東側へ進入を開始した。

「ひどい……」

ストライク・ルージュで出撃したフレイはあまりの町の惨状に声を失った。

だがそんなフレイにナタルは叱責を飛ばす。

『アルスター少尉、敵はどうやら民間人に紛れ込んでいるらしい。注意を怠るな!』

「は、はい……」

フレイは辛うじて返事をすると、慎重にストライクルージュを市街地の中央に向けて歩き出させる。

あちこちで道路に、いや元々何かの建物が立っていた場所にうず高く重なる瓦礫に四苦八苦しながら彼女は進む。

『中々やりますね。アルスター少尉』

「アダム准尉、茶化さないで」

護衛を勤める105ダガーパイロットのアダム准尉の感想にフレイはむっとなって答える。

20台後半の白人男性であるアダム准尉は、彼女が知る限りはかなりのベテラン兵士だ。彼の優れた判断力も非常に頼りになる。

しかし時折軽いのが、たまに傷だとフレイは思っている。

何せ大口径の砲弾の着弾であちこちでクレーターがあいて、地形は無茶苦茶。さらに瓦礫の山のせいで機体のバランスを

取るのが大変なのだ。今のところ軽口を叩いていられる余裕など彼女には無い。

『まぁそう言わずに……ってどうやらお出ましのようですぜ』

急にシリアスな口調になった彼にフレイは不吉な予感を覚える。そしてその数秒後に響く警告音。

「え?」

彼とルージュが指し示した先に彼女が見たのは、こちらに砲口を向ける3機のジンと5両の戦車の姿であった。

『行きますよ……全機攻撃開始!』

アダム准尉が隷下の部隊に命令を下した直後、ザフト、連合双方の砲口が火を噴いた。







 あとがき

 青の奇跡第15話をお送りしました……またもやサイの出番は後回しになってしまいました。申し訳ございません。

いつになったら活躍できる事やら(爆)。まぁ次回あたりにはMS戦闘が本格化するのでそちらで活躍するでしょう。

フレイ嬢が何気に地獄に叩き落されています。彼女にはこの都市の戦闘で戦場と言う物を思い知ってもらう予定です(多分)。

それにザフト軍の罠もありますし……別にダークを書いているつもりじゃないんですが、何かダークになりそうな気が(汗)。

クルーゼとイザ―クの出番も考えなきゃいけないし大変です。

……いつごろ完結できるかな(核爆)。

それにしてもアズラエルの出番がない。まぁ彼は指導者ですし、戦場にでる必要なんて無いんですが……主人公っぽくない(爆)。

このままではフレイに出番を取られてしまうような気がひしひしと……不味いかも。

……え〜相変わらず駄文にも関わらず最後まで読んでくださりありがとうございました。

青の軌跡第16話でまたお会いしましょう。












代理人の感想

「間逃れる」(まのがれる)じゃないです。

「免れる」は「まぬがれる」です。

間違えてる人結構いますけど。

 

アズラエルですけど、彼は戦略を立てるほうであって実行するほうじゃないので、仮想戦記を書こうとすれば出番が少なくなるのは避けられないかと。

戦術レベルで動く人(例えばパウルスとかブラッドレー)が主人公ならまだ出ずっぱりも不可能じゃないんでしょうけどね。

 

>「まったく何であの変態仮面と……」

爆笑。

作中でもこの通称で有名なんだなこの男は(笑)。