「一体、何が起こっている!?」

突然、前線との通信が途絶した連合軍第5軍司令部は大いに慌てた。

「恐らく、例のEMP兵器が使用されたものと思われます。歩兵部隊、陸上戦艦との通信が取れません」

「くっ。アークエンジェルは?」

ブラットレーは航宙艦ゆえにそれなりに電磁波対策が施されているアークエンジェルならば連絡が取れるのではないかと考えていた。

「あちらも通信機器にかなりの損害を受けたようですが、通信は可能です。またMS部隊も司令部に近い部隊とは交信が可能です」

「・・・・・・よし、まずアークエンジェルに連絡をとれ。前線の状況を確認する」

「了解しました」

司令部で状況を把握しようと試みられているころ、市街地中心部に侵攻していた各部隊では混乱が広がっていた。

「被害状況は?」

「本艦に目だった損害はありませんが、陸上艦艇に被害が出ています。特に市街地中心部にいたフィッシャー、サイモンは

 航行不能との情報が入っています。戦車部隊も半数以上が戦闘不能との情報が入っています」

「やられたな・・・・・・」

ナタルは友軍の被害状況を聞いて思わず舌打ちした。

オーブでもEMP兵器が使われている事は知ってはいたが、ここまで深刻な損害が出るとは彼女も思っていなかった。

尤もそれはザフトが核兵器と言うジョーカーを手に入れた事が民間や中立国に漏れないようにアズラエルが徹底的な情報統制を

強いたせいで詳細な情報が彼女達のような佐官クラスの将校に詳細に伝わらなかったせいでもあるが・・・・・・。

今回、大半の艦艇に対EMP処理が成されてはいたが、残念ながら使用された設置型グングニールは従来の改良型であったため

かなりの数の陸上艦艇が被害をあうことになったのだ。

周辺の友軍と連絡を取り態勢を整えようとするナタルだったが、そんな折に司令部から通信が入る。

『バジルール少佐、そちらの状況はどうなっている?』

モニタに映し出されるブラットレーに敬礼すると、ナタルは彼女が知る限りの情報を伝えた。

『ふむ。どうやら状況はかなり悪いようだな。前線の部隊で指揮を執れるのは君のところだけとは』

報告を聞き終えたブラットレーは深刻な顔で呟く。そして暫く悩む仕草をした後、おもむろに命じた。

『やむを得ん。バジルール少佐、君に前線の指揮を一任する』

「私にですか?」

さすがにこの決定にはナタルも驚いた。何せ少佐、しかも成り立てに過ぎない彼女が先任だけでなく上官までも指揮下に収める

ことを認めると言うのだ。非常時とは言え、常識人である彼女はその判断に驚きを隠しきれない。

『私は君の指揮能力を評価しているのだ。少なくとも君なら無様な真似はさらさないだろう』

この言葉にナタルは指揮をとることを承諾した。さすがに一軍のTOPにここまで信用されているとなっては断るわけにはいかない。

「了解しました。ただちに指揮を引き継ぎます」

『頼む』

ナタルは通信機器の生きているMS隊を使って各地の部隊の状況を把握しはじめる。

そして彼女は指揮権を掌握した部隊から後退を指示した。無論、この撤退命令には異論が相次いだ。

『なぜ、ここまで進んで引き下がるのですか!』

『アークエンジェルと我々がいれば進撃は可能な筈だ! 臆病風に吹かれたか!!』

血気盛んな前線指揮官を相手にナタルはかなり梃子摺る。何せ中には上官もいるのだ。

指揮権を認められているとは言っても、そう言った頑迷な連中は中々聞き入れない。

だからと言って、ナタルは撤退方針を変えるつもりはない。

(EMP兵器だけで終わりと言うわけではないだろう。恐らくは別の罠が用意されているはずだ)

彼女はザフト軍がさらにあくどい事を考えている事を悟っていた。

これに明白な根拠はないが、杞憂に終わる可能性もゼロでもない。少なくとも大やけどをする愚は犯す危険はしないほうが良い。

「全軍一時後退。これは命令だ!」

ナタルの命令を受けて渋々と撤収を開始する連合軍部隊。だがブルーコスモスの思想を持つ将校が指揮する部隊は命令を無視した。

「あんな命令を聞く必要はない! 我々は青き清浄なる世界のために空の化け物を皆殺しにしなくてはならないのだ!」

彼らは通信機が不調で命令が届いていない事にして、周辺の歩兵部隊を伴い市街地中心部への侵攻を再開する。

だが、彼らは僅かな時間の後、思いもよらない光景を目にする。

「これはどういうことだ……」

「し、死んでる? 馬鹿な……」

彼らが前身するにつれて見たのは、全身が黒く変色してボロボロになって息絶えた市民の死体だった。

いや市民だけではない。よくよく見ればザフトの歩兵たちもその中に加わっている。

すさまじい異臭が漂う中、歩兵のひとりが死体に近づく。

「く、腐ってやがる!!」

そう死体の多くはすでに腐っていた。虫が群がっている死体もある。

「何が起こっているんだ!?」

しかしそう叫ぶ彼も、その数分後に驚愕する。何故なら……。

「あつい、あつい!!」

全身が燃えるような感覚を覚える。だがそれも長くは続かない。

「燃える? 俺の体が? な、何なんだよ、こいつは!?」

黒く変色していく己の体。黒く変色していく右腕を掴む。すると……腕がもげ落ちた。

だが彼には悲鳴を上げる暇もない。腕だけでなく、両足もまた崩れ落ち、彼の体はアスファルトに叩きつけられた。

辛うじて残っている嗅覚と痛覚が己の体が腐れ落ちていくことを彼に知らせる。

「た、助けてくれ……死にたくない、死に……ない……」

不明瞭になっていく発音。しかしそれを聞くものも居ない。いや居るとすればMSに乗っているパイロット達だろう。

彼らは歩兵部隊が次々に死に絶えていく様を見せ付けられ慌てふためいていた。

尤も彼らもまだ知らない。それがこれから起こる悲劇の序曲に過ぎないことを……。






                 青の軌跡 第17話





 地球連合軍第5軍がグングニールの洗礼を浴びているころ、第13軍はクルーゼの第1軍団に苦戦を強いられていた。

「第2防衛線、消耗率が10%に拡大。敵の侵攻阻止できません!」

「第3大隊消耗率30%。撤退の許可を求めています!」

第13軍は戦場となっている平原で、3つもの防衛線を敷いていた。だがそのうち2つまでがあっさり崩されようとしている。

しかも戦力的にはこちらの数分の1程度に過ぎない敵にだ。これは前線の兵士達のザフト軍へのコンプレックスを呼び覚まし、

一部ではパニックを引き起こしていた。いやそのパニックの度合いは全体を見る司令部のほうが酷かったかもしれない。

旗艦アレキサンドリアに入ってくる凶報に、司令官のパウルスは文字通り慌てふためいていた。

「よ、予備の第8大隊を投入する。ええ……と、あと第2大隊は敵の第二波に備えさせろ!」

「了解しました」

パウルスは後方に待機させていた予備部隊の投入を命じるが、そうそう簡単にザフト軍を止められはしない。

特にイザークを含む熟練パイロットで構成された部隊の攻撃は凄まじかった。

「邪魔だ、どけ!!」

イザークはストライクダガーがビームライフルの照準を合わせる事も出来ないように常に動き回る。

そう右へ、左へ自由自在に戦場を駆け回る。無論、アサルトシュラウドによって向上した機動力あっての動きだ。

いや、それだけではない。彼はそんな普通のパイロットなら避けるだけでも精一杯の状況下で反撃してみせる。

「その程度でこの俺を倒せると思ったのか!」

デュエルのビームライフルから放たれるビームは、次々にストライクダガーに降り注ぐ。

無論その多くはシールドによって弾かれるが、ストライクダガーのパイロット達をデュエルに釘つけにするには十分だった。

「お前達は左右に回り込め! 包囲するぞ!」

彼の部下達は、この命令に従って左右に回り込む。無論、黙って見ているストライクダガーではないが……。

「お前らの相手はこの俺だ!」

デュエルの攻撃であっさり2機のMSがダメージを受けたことで黙ってみるしかなくなる。

そして目の前のデュエルに梃子摺っているうちに、彼らはあっさり包囲されてしまう。

「航空支援はどうした?!」

「駄目です! これだけ混戦だと友軍も巻き込むと!」

「ちくしょう!!」

ダガー隊のパイロットは、役に立たない空軍パイロットを口汚く罵りつつ、決死の応戦を行う。

尤も包囲された状況ではそう長くは続かず、さらに侵攻してきたザフト軍の陸上戦艦の砲撃も受けて敢え無く全滅する。

「第2大隊が壊滅しました!」

「くそ、第2防衛線もこのままだと抜かれるぞ!!」

あまりの惨状に、指揮官達は絶句した。特に最高司令官たるパウルスの狼狽振りは顕著であった。

「そんな、馬鹿な……ありえるはずがない」

「司令、このままではアレキサンドリアにも攻撃が及びます。一時的に司令部を下げるべきです」

1人の参謀の進言に、別の1人が反論する。

「何を言っている、予備兵力はまだあるんだ。連中を投入すれば食い止められる!」

「食い止められなかったらどうなる! 下手をすれば司令部ごと壊滅だぞ!」

「かと言って司令部が後退すれば前線の指揮は崩れる! ただでさえ兵士達の士気が低下しているのに後退してみろ、

 前線の踏みとどまっている部隊はそれこそ総崩れになりかねない!!」

「かと言って司令部が壊滅すれば指揮系統が混乱するだろうが!」

「臆病者は黙っていろ!」

「何だと、このプッツン突撃野郎が、てめえの士官学校の時の成績は知っているだぞ!」

もはや意見を言うより、相手の意見を貶すだけの場になってしまった司令部。

それを纏めるべき司令官は決断を下せず、右往左往するだけ……長期の戦争による将帥の質の低下は甚だしいようだ。




「ふん、やはりあの男ではこの事態に対処できなかったようだな」

第1軍団司令官を勤めているはずのクルーゼは、己の専用機のディンから戦況を見回してそう呟いた。

彼の乗ったディンを含めて数機のディンは正面の前線を大きく迂回して、ある目標に向かっている最中だ。

「まぁ事務屋に過ぎんあの男だからこそ助かったと言うべきだな」

優勢に戦況を進めるザフト軍だったが実際の台所事情は非常に厳しかった。

すでに第1軍団は二方向からの侵攻を行う為だけに予備兵力を使い果たしており、仮に連合軍が後方に回り込もうとすれば

それを阻止することは非常に困難な状況であった。下手をすれば包囲殲滅されかねない。

さらにディンもすでに数を初期の半数程までにすり減らしており、制空権確保も難しくなっている。

尤も彼らの献身の働きによって、連合軍航空隊もかなりの損害を被っている。その多くは整備補修中だ。

「さてこのタイミング、逃すわけにはいかんな」

そう呟くと、彼は指揮下のディンに命じた。

「全機発進、友軍の犠牲無駄にするなよ」

「「「了解!」」」




 クルーゼ率いる攻撃隊が、突如、雲の上から降下してくるのを確認したアレキサンドリアは混乱した。

何故なら彼らが現れた場所はあまりに陸上空母に近すぎた。しかもタイミングが悪いことに現在飛行甲板の上では航空隊が補給中。

仮にここにミサイルなリ機銃なリ撃ちこまれれば誘爆が起こり、下手をすれば空母は爆沈する。

かと言って戦闘機の大半は、同時侵攻を受けて救援を要請してきた前線部隊への増援として出払っていて間に合わない。

さらに戦闘機の多くは地上軍の支援のために低空にいる。おまけにディンの出現位置は前線とは大きく離れている。

戦闘機隊を用いてディンを阻止する事は困難だった。

「くそ、近くの駆逐艦で撃ち落とせ! 対空ミサイルも撃ちまくれ!」

参謀の一人が喚くように言うが、すでにそんなことはやっている。

空母の近くにいる護衛艦は弾代のことなどお構いも無いように盛大に砲弾を撃ちあげた。

だがその動きを予期していたかのように、ディンは巧みな回避行動を取って空母に肉薄する。

「ちくしょう、コーディネイターは自殺願望でもあるのか!」

現在、彼らが空に向けて放っている砲弾は、炎の壁を築いていると言っても良い程の量だ。

しかしそんな鋼鉄のシャワーを浴びながらも果敢にディンは降下してくる。

兵士達がコーディネイター達の正気を疑ってもおかしくは無かった。

「くそ、ミサイルで防ぎきれ!」

レーダー誘導システムが使えないこの状況で、ミサイルは命中精度が著しく落ちている。

だが少なくとも何もやらないよりかはましと指揮官達は判断し、一斉にミサイルを撃ち始める。

だが次の瞬間、彼ら連合軍兵士が目にした者は想像を絶する光景だった。

百にも及ぶであろうミサイル群・・・・・・それを一機のディンが軽々とよけたのだ。

しかも同時に他の友軍機に当たりそうなミサイルを迎撃し、一撃で撃ち落としてもみせた。

そのあまりに現実離れした光景に、多くの連合軍軍人は思考を停止させる。

「馬鹿な・・・・・・やつは化け物か?」

かすれた声で呟く駆逐艦の艦長。しかしこのその隙を好機として、ディンは次々に防衛線を突破する。

いや、そのうちの一機はすれ違いざまに護衛艦のブリッジや機関部、その最も脆弱な部分に攻撃を加えて去って行った。

この攻撃を受けた艦は、次々に爆発炎上して落伍していく。それは圧倒的と言って良い戦闘能力の差を見せ付ける光景であった。

「駆逐艦3隻か・・・・・・まぁ行きかけの駄賃には丁度いいだろう」

尤もすれ違いざまに3隻の駆逐艦を撃沈すると言う神技をやってのけたクルーゼだったが、別に満足した様子も無い。

彼が目指すのは、ただ陸上空母と・・・・・・。

「アレキサンドリア、あれを叩ければ連中は総崩れだな」

第13軍総旗艦のみ。




「防衛線、突破されました!」

「第7戦隊、壊滅状態です!」

駆逐艦3隻がまとめて撃沈され、巡洋艦1隻が大破炎上する様を見せ付けられた司令部要員は思考を停止した。

「ここまでか・・・・・・」

パウルスが諦めたように呟く。だがそれに異を唱える人間はいない。それが真実であることを誰もが悟っていたのだから……。

このように司令部が悲観にくれ始めた時、予期せぬことが起こる。

「司令、総司令部から入電が」

「・・・・・・何だ?」

予想だにしなかった通達が司令部に舞い込んでいた頃、クルーゼはついに第13軍の主力空母4隻を射程に収めた。

空母の上では慌てて航空機を発進させようと作業を急いでいるが、どうあがいても間に合わないだろう。

「沈め!」

クルーゼは重突撃銃の銃口を、空母の甲板に向けて撃った。

僅かな時間を置き、彼が放った銃弾は陸上空母に着弾し甲板に積まれていた弾薬を誘爆させる。

「た、退避〜〜〜!!」

ミサイルに続き、航空燃料まで引火、これによって甲板上で連鎖的に爆発が発生し爆炎が空母を包む。

さらにもう一隻が別のディンの攻撃を受けて炎上する。

相次いで脱落していく2隻の空母。すでに甲板上の爆発が船体そのものに甚大な損害を与えたのかあちこちから黒煙をあげている。

このままでは空母群は全滅する……誰もがそう思った時、数機のディンがビームの直撃を受けて相次いで爆発した。

「何?!」

驚愕するクルーゼ。だがその彼にも容赦のない攻撃が降り注ぐ。回避に成功したクルーゼだが、一旦空母から離れざるを得なかった。

「ちっ何者だ!?」

攻撃が加えられてきた方向を見て彼は絶句した。何故ならそこには散々彼らを苦しめてきた戦艦と同じタイプの船があったのだから。

彼が見慣れたアークエンジェルこと足つきよりやや暗い色で塗装された戦艦……『主天使』ドミニオンが戦場に降り立つ。






「どうやら間に合ったみたいだ」

ドミニオン艦長、ユウ・ミナカタ中佐はほっとする。尤もすでに主力空母2隻が潰されている状況で間に合ったかどうかは疑問だが。

「スカイグラスパーは直ちに発進、ディンを排除させろ! 本艦は空母群の盾となる!」

彼は大気圏突入前に渡されたばかりのスカイグラスパーを発進させる。そして次にMS部隊を送り出す。

「MS隊は敵前衛部隊を叩け! 旗艦に指一本触れさせるな!」

ドミニオンから発進していくMSは5機。レイダー、ソードカラミティ、ロングダガー2機、そしてストライクIWSP。

尤もIWSPを装備したストライクは大気圏降下前に実戦テストをかねて渡されたと言うとんでもない品物だ。

おまけに複雑な構造を持ち、整備員泣かせの上、電力の消費量も通常の装備の比ではない。

はっきり言えば量産するのは難しい装備と言える。いくら高性能とは言え、整備に手間取るような兵器は戦争では使いにくい。

戦場では常に最高の整備が出来るとは限らないのだ。使いにくい高性能兵器より、多少性能が低くても

使い勝手のよい兵器のほうがよいに決まっている。まぁ高性能で稼働率が高ければ言うことは無いが・・・・・・。

かくしてこの厄介な装備は、戦闘用コーディネイターであるソキウスに委ねられることとなった。

何せキラ・ヤマトと言う前例があるため、ソキウスに任せれば多少よいデータが取れると上層部は判断した。

上層部の中にはコーディネイターを使うことに反発する人間も少なくなかったが、

データ取りと言うことでアズラエルと新型MSの開発を進めている技術者達がその反発を抑えている。

「さてあちらはソキウスの活躍に期待するとして、こっちは連中の排除を行うか」

そんな裏事情など全く気にもしないミナカタは未だに戦意を失っていないディンに視線を向ける。

「1時方向のディン2機を仕留める。10番から16番まで留散弾頭装填!、17番から20番は3時方向のディンを牽制させろ」

ドミニオンから放たれた留散弾頭ミサイルはそれが内包していた小型砲弾を次々にディン見舞う。

さらに追い討ちをかけるようにミナカタは命じる。

「ゴットフリート照準、目標は1時方向のディン! 外すなよ!」

先ほどまでの対空砲火、さらにこの小型砲弾の雨を辛うじて凌ぎきったディンパイロットにその追い討ちは厳しかった。

2機のディンはなす術もなく直撃を受けて爆発四散した。無論、ドミニオンを叩こうと接近してくるディンもいるが、

その大半は2機のスカイグラスパーとドミニオンの対空兵器によって阻まれる。

さらにレイダーによって2機のディンが撃墜されたことで、クルーゼの目論みは完全に水泡と帰した。

まして前線の一部から何機もの戦闘機が駆けつけてきている。このままでは包囲殲滅されるのは彼らだった。

「く!! 全機撤退しろ!!」

ドミニオンに激しい憎悪の視線を向けつつも、彼は逃げ帰らざるを得なかった。




 ドミニオンの加勢を受けて、冷静さを比較的取り戻した第13軍司令部は動かせる部隊の大半を司令部に最も接近していた部隊に

集中的にぶつける事にした。その数はザフト軍部隊の3倍以上を誇る。さらにこの攻撃にドミニオンが加わることとなった。

「対地弾道弾ミサイル全門装填、ゴットフリート、バリアント用意! 全兵装を1時から11時の方向に扇状発射!」

ここでもアークエンジェル級戦艦の火力は存分に発揮された。対地ミサイルは爆風と破片でザフト軍MSをなぎ倒す。 

さらに口径が110センチと馬鹿げた大きさを誇るリニアガンのバリアントから放たれた砲弾の直撃を浴びた場所では

その着弾時の衝撃波だけで周りのMSを文字通り叩き潰された。まして不幸にも直撃を受けたMSは一瞬でこの世から消滅した。

ゴットフリートから放たれるビームの直撃を受けた場所は、文字通り解けてなくなった。直撃を受けたMSも同様だ。

こんな攻撃を受けたザフト軍部隊はたまった物ではない。

「くそ、足つきの同型か!」

イザークは友軍に痛撃を与えたドミニオンを見て、苦々しく悪態をつく。

すでにクルーゼの立てた作戦は瓦解しており、あとはいかに上手く撤収するかに掛かっていた。

だがあんな戦艦がいるようでは、撤退は容易ではない。下手をすれば部隊の半数はすり減らされかねない。

どうするべきか、答えを得るべく頭をフル回転させ始めた頃、連合軍MS部隊が襲い掛かってくる。

「このままだと全滅するぞ!」

敵の大攻勢を受けて最悪の予想を口に出す。だがイザークはすぐにそれを振り払う。

「いや、この程度のことでやられて何のための『赤』だ!!」

部下を持つ自分が諦めてはならない。指揮官が諦めれば全てが終わる……イザ―クはそう己を奮い立たせる。

一方の連合軍部隊、特にソキウス達は目ざましい勢いでザフト軍MSを血祭りにあげていた。

イレブン・ソキウスの乗るソードカラミティは攻勢の先鋒を務めている。

「手ごわい……この部隊はザフト軍でもかなりの練度を持っている部隊だな」

血祭りにあげていくMSを見ながら、イレブンは確かにこの部隊が通常の部隊とは異なることを感じていた。

尤も戦闘用コーディネイターとして作られた彼らの能力と、パナマ、軌道会戦と重ねた実戦経験はザフト軍パイロットを圧倒した。

すでにイレブンだけで、ジン3機を血祭りにあげており、全体でも12機に届く。戦車も含めればその数はさらに増えるだろう。

このままいけば連合の勝利は間違いないなと思いながら、彼は新たな獲物を探して戦場を見回す。そこには……。

「デュエル?」

ザフト軍の中で孤軍奮闘するデュエルの姿があった。

「パナマのときに居たデュエル? だとすると乗っているのはあのイザークと名乗った男か」

敵に通信をいれて己の名前を名乗ると言う変わったパイロット……それが彼の評価だった。

「……彼を叩くべきか」

見たところ、ザフト軍の中で最も激しく反撃してるのは彼であった。

ならばデュエルを叩けば状況はさらに連合軍の優位になる……そう彼は判断した。

かくして、イザークは予期せぬ状況でイレブンと再戦することとなる。





 連合軍第13軍が反撃に転じた頃、第5軍は市街地中心部でBC兵器が使用されたとの情報に慌てふためいていた。

しかもその兵器が今まで聞いたこともなかったタイプの物だと言うのだから……。

「如何なしますか?」

「MS、歩兵部隊はその場で待機。救援部隊を完全防御で向かわせろ」

「了解しました」

ブラットレーは現状を苦々しく思っていた。撤退命令が出たと言うのにそれを無視して侵攻するとは軍規を無視した行為だ。

ましてそんな動きをした部隊の多くがブルーコスモスの思考に染まっていると聞き、彼はさらに不機嫌になる。

ブルーコスモスの思想は結構、だがその思想を元に軍規を乱す行為は彼にとって絶対に許容できないことだ。

(全く、ブルーコスモス派の将兵は……)

今までの苦労を思い出すと、改めて怒りが込み上げてくる。

その様子はまさしくメルトダウン寸前の原子炉で、体からは殺気がにじみ出ている。

この時点だけで言うなら、まさしく彼の体は殺気と怒りで出来ていると言っても過言ではないだろう。

最も不幸なのは、そんな司令官の周りで報告や助言をしなければならない参謀達だったが……。

だが彼らの受難はまだ終わっていなかった。クルーゼが仕掛けた第3の罠の発動が迫っていたのだった。

そう、その罠は市街地中心部に救援部隊が到着したのを見計らうように炸裂するようになっていた。

だがそれを知る者は、まだいない。








 あとがき

お久しぶり、earthです。・・・・・・話がなかなか進みませんね。カーペンタリア編何時くらいに終わるだろう(汗)。

さてイザークVSイレブン・ソキウスを再度やります。今度はデュエルVSソードカラミティ。

何気に機体性能に差があるような気が・・・・・・まぁイザークに頑張ってもらいます。

ドミニオンが何故ここに出てきたかは次回に。それにしてもIWSPはやりすぎだったかな?

さて第2の罠であるBC兵器もあれですが、第3の罠も発動間近です。フレイ生き残るかな・・・・・・(冷や汗)。

駄文にも関わらず最後まで読んでくださりありがとうございました。

青の軌跡第18話でまたお会いしましょう。





 

 

代理人の感想

一体なんなんだ、あの兵器は(汗)。

いきなり体が腐り始めるなんて・・・・殆ど魔法か何かかと思ったぞ、と。

 

しかし、この状況でソキウスと再戦とは・・・・イザーク、ひょっとして大ピンチ?

「君は、生き延びることができるか」を地で行ってますねぇ。

大丈夫かねホンマ。