連合軍第5軍司令官ブラットレーは目の前の光景に絶句していた。

「ば、馬鹿な・・・・・・ザフトは正気か?」

本当ならば即座に被害報告をさせなければならないのだが、彼を含めて多くの将兵が茫然自失状態に陥っている。

目の前に立ち上る奇妙な雲。それを凝視しつつ、ブラットレーはこみあげてくる震えを抑えきれない。

「し、司令は・・・・・・」

だが部下の動揺振りを見てブラットレーは己のやるべきことを思い出し、震えを抑える。

「被害状況を報告しろ。前線の部隊とただちに連絡をとれ!」

「「「はい!!」」」

慌てて動き出す部下達を見ながら、彼は今一度、かつて市街地があった場所をにらむ。

「破滅への扉が開くか」

クルーゼの仕掛けた最後の罠、核地雷によって地獄の釜と化した場所を見て、彼は忌々しそうに呟いた。

そのころ、市街地に接近していたアークエンジェルは大きな被害を受けていた。

押し寄せた爆風こそ、そこまで酷いものではなかったが、爆風で飛ばされてきたコンクリート片や鉄骨、MSの残骸が

多数アークエンジェルに降り注いだ。これによってアークエンジェルはかなりの損害を受けていた。

「どうなっているの?」

フレイは不安げに、マードックに尋ねるが彼は冷や汗を流しながら首を横に振る。

「判らねえ!! だが、何か外であったみたいだ!」

爆風と、破片の直撃を受けたアークエンジェルは艦内が悲惨な状況であった。特に格納庫では発進準備中のMSが倒れ、

多数の死者が出ていた。さらに一部では火災も発生し、サイやアダムなどのパイロットも加わって消火作業に追われている。

「一体、何が……いえ、私は、私に今出来ることをするべきね」

フレイは不安にさいなまれるが即座にその思いを振り払い、消火作業に加わった。

連合軍にとって悪いことに被害はアークエンジェルだけに止まらなかった。

周囲に展開していた陸上艦のうち動けるのは戦艦ニューハンプシャーだけであり、他の艦艇は軒並み行動不能に陥っていた。

さらに市街地中心部に救助に向かっていた部隊はほぼ全滅と言う前代未聞の大損害を被った。

無論、市街地中心部で救助を待っていた部隊は全滅だ。いや彼らはほぼ一瞬で消滅したのである意味で救いがあっただろうが・・・・・・。





 ザフト軍によって核攻撃が行われたとの情報が届けられ、ここプラント最高評議会では今後の方針が話し合われていた。

「V01の無断使用に飽きたらず、今度は核爆弾か」

「まずいですな。このままでは連合は報復戦略を発動するでしょう。カーペンタリアも恐らく核で壊滅することになります」

すでにプラント評議会は、カーペンタリア基地駐屯部隊は連合の核による報復で壊滅すると確信していた。

潜水母艦と輸送機には引き上げを命じており、もはや当地の部隊は見捨てられた。

だが評議員達は彼らにとってカーペンタリア基地と駐留部隊壊滅より拙い事態が進行していることを悟っていた。

「それにユーラシア連邦も、停戦に応じるかどうか怪しくなります。すでに向こう側の態度にも変化が見られるとの情報もあります」

「「「………」」」

多くの議員は沈黙を余儀なくされた。仮にユーラシア連邦との停戦が叶わなければ、彼らの戦略は瓦解する。

ザフトは地球軌道での戦いで多くのベテランのパイロット、兵士、指揮官を喪失。さらに地上軍はアラスカ、パナマ戦で甚大な損害を

被り、その被害を回復できないまま連合の反攻作戦の前に敗退を余儀なくされている。

ザフトはアフリカから叩き出され、東アジアでもカオシュン基地を除いて、主要な拠点を失いつつある。

西欧では砂漠の虎率いる部隊が決死のゲリラ戦を行い時間を稼いでいるものの、それとていつまで続くか保障はない。

地球から叩き出されることはすでに避けられない。このため評議会は宇宙軍の強化を行っているのだがそれとて簡単ではない。

「こうなってしまっては仕方ないだろう。今は今後、どのような手を打つかを議論すべきだ」

パトリック・ザラはそう言って、沈鬱な議員を激励したが多くの議員は内心で彼に対して不満を抱いていた。

彼らはパトリックが余計な欲をかいたおかげでとんでもない迷惑を被ったと感じていた。尤もそれを表に出しはしない。

「議長はユーラシアとの停戦を断念なさるおつもりですか?」

「恐らく連中も停戦を呑もうとはしないだろうからな。だが、それはヨーロッパの部隊の引き上げを断念するものではない」

「では、どのように?」

ユーラシア連邦軍の反攻によってヨーロッパの戦線はじりじりと後退している。バルトフェルドが無視出来ない損害を与えている

とは言え、さすがにユーラシア連邦軍すべてを抑えることなどできはしない。

「現在我々はジャスティスを2機、フリーダムを4機保有している。このうちジャスティス2機とフリーダム1機を投入する」

「で、ですがそれらは本土防衛の要です。それに強力とはいえたかが3機ではユーラシアを阻止できません」

「そんなことは百も承知だ。だが主力が撤退するまでの時間を稼ぐ事は出来る」

このあと、最高評議会の決議を受けたザフト軍は新たな作戦に着手することとなる。






                青の軌跡 第20話






 クルーゼによってもたらされた核爆発で各所で波乱が巻き起こっている頃、オーストラリアは平穏を取り戻しつつあった。

地球連合軍第5軍は甚大な損害を受けて行動不能だったし、第13軍は目の前のザフト軍を叩きのめしたので、補給に入っていた。

第7軍は第5軍の救援に忙しく、海上艦隊はカーペンタリアへ核攻撃がなされたあとの掃討戦に備えて補給を急いでいた。

このため各軍ともに行動を控えていたのだ。まぁザフトが逃げ込むのはザフト軍最大の拠点であるカーペンタリアしか有り得ない。

よってここに追い込んでおけば、あとは核で殲滅できるとの思惑が上層部にあった。

無理に攻撃を行って第5軍と同じ間違いを起こすわけにはいかないのだ。そんなことをすればお偉いさんの首がダース単位で飛ぶ。

「まったく、上の連中が余計な欲を出すからこうなるんだ」

第5軍の情報を入手したミナカタはそうぼやいた。無駄な攻勢が一連の損害を出したと思うとやりきれない思いだ。

(ブルーコスモスの思想か。あからさまに過激な思想はあまり好ましくない。ましてやこんなことを引き起こすとなればだ)

軍では階級が絶対だ。場合によっては死地に部下を送る。しかし同時に部下の命を預かると言う責任も負う。

そして階級が上になるに連れてその責任は重くなるはずなのだ。師団長、軍司令官、艦隊司令となれば万を越す人間に責任を持つ。

自分の指示によっては数百、数千の人間が死傷する。ならばこそ、最小の犠牲で最大の戦果を導かなければならない。

犠牲は最小限に、戦果は最大に……それは古来からの大原則だ。だが今の上層部の一部はそれを忘れていると言える。

(無駄な犠牲を強いていてはあっという間に人的資源を消耗するぞ)

この戦いでは、熟練のザフト軍に連合軍は押された。最終的には数で圧倒したが、その際に生じた犠牲は無視出来ない。

優秀な兵士を育てるのは時間が掛かるし、下級指揮官ならさらに時間が掛かる。まして将官となれば……考えたたくもない。

「我が軍が真の意味で再建を遂げるには、まだまだ長い時間が掛かるな」

地球連合軍は量産型MSであるストライクダガーを手に入れ、各地でザフト軍を圧倒していた。だがそれも数頼みと言う印象が強い。

「……何年掛かることやら」

開戦初頭における軍上層部の無為無策によって強いられた犠牲を思い起こし、彼は陰鬱たる思いにとらわれる。

尤もすぐに彼はそんな考えを振り払い、自分の仕事(主に書類整理)を再開した。尤もすぐに陰鬱な気分になるが。

「やれやれ、人殺しの仕事の後は書類整理か………宮仕えは辛いな」

自分の机の前にうず高くつまれた書類の山を見ながら、ミナカタはため息をついた。軍人とは言え書類整理は不可欠なな仕事だった。

「誰か、事務処理能力が高い人間が欲しいな………」

後方の人間で死んだ人間は少ないはずなので、今度、事務処理が得意な人材を回してもらおう……そう彼は誓った。

ちなみにソキウスは備品扱いなので、事務処理はしない。よって本来彼らが書くべき書類の大半は艦の最高責任者たる

ミナカタがすべて処理している。このため、非常に彼の負担が大きかった(爆)。

「……特別手当出るかな?」

多分でない。仮に出たとしてもスズメの涙程度だろう。





 一方でザフト軍が静かなのは、あまりに戦力を消耗し過ぎて動けなくなったためだ。

何せこの作戦で第1軍団は全兵力の60%を失った。残り40%も傷だらけでまともに動けない。

ちなみに20%で壊滅、30%は全滅と言えるので、60%の消耗と言うのは全滅を通り越している。文字通りの全滅は回避できたのが

せめてもの救いと言えるだろうが、これだけの消耗をすれば責任者は軍法会議ものだ。

(ふむ……さすがにこれだけの損害、さらに核とBC兵器の使用と立て続けの無断使用……私も処断は逃れられないか)

クルーゼはカーペンタリア基地で撤収作業の指揮を執りながら、自分が生き残る道を探っていた。

(それにあれだけやったのだ。連合軍も核で報復してくるのは目に見えているからな)

原子力空母が復帰していることから、連合が再び核を手に入れたことは明らかだった。

「さてどうするべきか………」

臨時の執務室でクルーゼは必死に打開策を練っていた。

このまま本土に帰還すれば軍法会議行きは確実、さらに下手をすれば銃殺刑もありうる。

「……ふむ、だがすでに扉も半ば開いた。もはやザフトでやれる事は全てやったと考えるべきだな。

 と、言う事は発想を転換すると言うのも重要か………よし」

クルーゼは、彼が持っている連合にとって有益なデータをすべてをあらいだす。

「各種兵器の戦闘データ、それに………」

彼はニヤリと笑い、極秘書類を鞄に詰めていった。

クルーゼが何やら怪しげな動きをしているころ、イザークの部隊が乗った潜水母艦がカーペンタリアを出航した。

「酷い負け戦だったな」

格納庫で修理中のボロボロになったジン……だがその中に彼の愛機はない。

彼の愛機たるデュエルは、イレブンとの戦いのあとに受けた連合軍の猛攻でボロボロにされて大破。

修理不能とされ、カーペンタリア基地で放棄を余儀なくされた。そのことが尚、彼を憂鬱にさせる。

「……それにしても隊長は何を考えている?」

基地に帰還したイザークはクルーゼの立てた作戦の全貌を、ある程度知った。そしてそのあまりの非道さに憤りを覚えた。

「味方を犠牲にするばかりか、銃も持たないナチュラル、それも民間人を盾にするなど」

もともと民兵組織であったがゆえにザフトでは、時折戦時条約違反の行いをする将兵が大勢居る。

その最たる物がビクトリアでの捕虜虐殺だろう。もし連合であれば責任者は軍法会議行きにされているが、ザフトではお咎め

なしとされ、ビクトリア陥落までその責任者は軍務に就いていた。このようにザフトは正規軍がやってはならないことを

平気でする将兵が多かったが、さすがに今回のような作戦はそんな将兵から見ても常軌を逸したものとしか映らない。

勝つ為には仕方がない……そんな言い訳も出来るだろうが……。

「連合は確実に報復してくる。それも数倍にしてだ。それをどうやって防ぐつもりだ?」

原子力空母が復帰したことは連合が核を使えることを意味する。

さらにこちらは核で連合の横っ面に強力な一撃を加えている。そして連合は殴られっぱなしにするような甘ちゃんではない。

「……どうするつもりだ?」

自分に与えられた部屋に向かいながら、彼は自分の上司の行動に疑問を呈した。




 イザーク達の乗った潜水母艦を含め3隻の母艦がカーペンタリアを離れたころ、2機の航空機がカーペンタリアに接近していた。

「こちらワルキューレ01、『シルフィルム』に対する攻撃を開始する」

「こちら02、了解。こちらは予定通り『サイネリア』に向かう」

彼らは地球連合軍ピースメーカー隊。史実においては核攻撃を任務とした部隊であった。

尤も史実のようにメビウスで来ているわけではなく、ステルス攻撃機ジャベリンで姿を隠してカーペンタリアに迫っていた。

「それにしてもコーディネイターどもめ、あんな迷惑な基地を作りやがって」

ザフト軍カーペンタリア基地は、カーペンタリア湾一帯にある基地の総称をさしている。

地球圏侵攻の要であるこの基地は、膨大な兵員と物資を収納し、遥かに離れた地域にある戦線を維持する兵站の要であった。

このため、地球連合軍にとっては目の上のたんこぶとも言える基地だった。

現在、ザフト軍は地球から撤退しつつあるものの、それを見逃すほど連合はお人よしではない。

「さて、空の化け物達に正義の鉄槌を下してやるとしようか」

ワルキューレ01と言うコールネームを与えられたジェベリンの機長は、己が運んでいる核爆弾の投下ボタンを押した。

01から投下された核は、組み込まれた誘導装置に従って『シルフィルム』と名づけられた沿岸の基地に向かって降下していく。

そしてその数秒の後、ワルキューレ02と呼ばれた機体からも核爆弾が投下された。

それは『サイネリア』と連合軍が呼称した内陸部の基地、カーペンタリア全域を管理していた司令部(前回の爆撃で機能停止中)

に向かって落ちていった。そしてその2つは人工の太陽として地上に出現する。












 現地時間CE71 7月3日午後1時24分45秒……血のバレンタイン以降封じられてきた連合の核がその牙をむいた。









「何だ?」

ミラージュコロイドを施したジャベリンだったが、さすがに核爆弾までミラージュコロイドを施してはいなかった。

このため、視力の際立って良い者は、何も無い空間から物体が落下してくるのを視認していた。

「どうした?」

「いえ、何か今落ちませんでした?」

だが彼の同僚はその言葉に答えることは出来なかった。

次の瞬間、空中で閃光が奔った。凄まじいまでの光で、視界が一瞬でモノクロームになる。

閃光はすぐに消えた。少なくとも彼はそう思ったが、実際には核爆弾が炸裂し、その時の強烈な光で彼の網膜が

焼き尽くされていたのだ。次いで突風のような爆発音が叩き付けられたが、すでに彼らは何も感じなくなっていた。

炸裂した2発の核弾頭のうち、内陸部へ落下したものは、前回の爆撃で散々に破壊されていた基地の地上施設を一瞬で蒸発させた。

辛うじて生き残っていた地下施設は、前回の爆撃で開いた穴からなだれ込んだ熱風によって一瞬で灼熱の地獄と化した。

「ぐぎゃあああああああああああああああああ!!!」

「あががががああああああああああああああああ!!」

地上で一瞬で蒸発した兵士達はまだ幸せだった。地下にいた彼らは1000度を越す地獄に突如として放り込まれたのだ。

生きたまま、人型の松明となり次々に死に逝く兵士達。いやそれだけではない、施設の構造上熱風の直撃を免れた場所もあった。

だがそこにいた彼らも死からは逃れることは出来なかった。1000度を遥かに超える高温は一瞬で彼らを蒸し焼きにした。

彼らは外皮の蛋白質を高熱で白く変質させられ、普通の人間なら絶対に耐えることの出来ない臭いを漂わせながら絶命した。

この場を見たら当分は蒸す料理は口にはできないであろう光景が広がる。



 もう一発の核は沿岸の海軍基地で炸裂した。

湾岸に停泊していた潜水母艦や、海上艦艇は基地側に向いていた面が純白に輝き、艦橋や砲塔の影は底なしの闇を思わせる黒に沈む。

次いで衝撃波を伴う摂氏2000度の突風が襲い掛かる。

甲板で作業をしていた兵士達は一瞬でなぎ払われ、収容作業中だったジンは頭を、腕を足を吹き飛ばされ、最後には燃料が誘爆した。

荒れ狂う爆風で、潜水母艦は次々に転覆していく。さらに給油艦であった『グアダルーべ』に潜水母艦が激突。

これによってグアダルーべは真っ二つに引き裂かれ、吹き出した燃料が一瞬でガス化、高さ数百メートルの火柱をふきあげる。

そんなところにミサイルフリゲート艦が突っ込み、爆発に巻き込まれる。搭載していたミサイルが誘爆を起こして自身を引き裂く。

眩い白色光の中、カーペンタリアに停泊していた艦艇はその船体を赤熱させ、溶解しながらもつれ合う。

沸き立つ波が船体に触れ、凄まじい水蒸気の柱を吹きあげる中、絡み合い、二匹の巨大な龍のようにのたうつ。

風が風を呼び、船体の半ば以上を露出するほど海水を吸い上げ、やがて爆風はきのこ雲となって天空を貫いた。





「ふむ。圧倒的じゃないか」

「ははははは、これで空の化け物も懲りるでしょうな」

地球連合軍最高司令部では、この核爆発の様子を見て大勢の高官が満足げな顔をしていた。その大半は大西洋連邦首脳であり、

残りの東アジア共和国、ユーラシア連邦の高官は何気にうかない顔をしていた。

(拙いな……これで大西洋連邦は核を使えることを世界にむけて宣言してしまった)

(我が国のアジアにおける影響力を揺るがしかねない)

(今でも大西洋連邦の一人勝ちだと言うのに、核まで使えるとなっては逆らえる国がなくなるぞ)

大西洋連邦の一人勝ちを快く思っていない国々はこぞって内心で顔をしかめていた。

(ここは大西洋連邦に協力することで、戦後の発言力を確保するのがベターかもしれないな)

(……東アジア共和国の横暴を止められるのは、大西洋連邦しかないか)

一方で、小国は大西洋連邦に擦り寄ることで戦後の発言力確保を試みる動きがあった。

特に赤道連合は長きに渡り東アジア共和国、特に旧中国の中華思想に基づく覇権主義に苦労させられており、

横暴ながら力を持つ大西洋連邦と手を結ぶことで東アジア共和国の横暴を止めようとする動きが出ることになる。

無論、この動きは東アジア共和国にとって無視できるものではなく、地球連合内でさらなる不協和音が響く原因となる。

尤も連合首脳に共通する認識があった。それは戦争が早期に連合の勝利によって終結するであろうということだ。

核の保有量では連合がザフトを圧倒している。仮に潰しあいになれば連合が勝利するのは目に見えている。

ゆえに彼らは、自分に都合の良い戦後のことを描き始めていた。だがそんなお気楽な気分になれない人間がいた。

(拙いな……)

そう、ムルタ・アズラエルだった。

(この戦果を見て、強硬派が暴走しなければいいのだが)

プラントそのものへの核攻撃をするつもりは、今の所さらさらないアズラエルだったが、一連のザフトの暴挙によって

ブルーコスモスの部隊の中には命令を無視するものが出るのではないか、そう彼は危惧していた。

さらにザフトがさらなる暴挙として、オーストラリアで使った生物兵器を無制限に使用すればナチュラルは絶滅する

可能性すらあることを彼は忘れていなかった。

彼は兵器会社の社長がゆえに、ある程度の情報を入手していたが、それはどれも絶望的なものばかりだった。

(人類滅亡への幕を開けてしまったのか? 俺は……)

ザフトが使った生物兵器、連合軍では『ヴェノム』と呼称しているが、これの特効薬の製造は困難と言う調査結果だった。

S2ウイルスのワクチンすら作れなかったナチュラルに、それを遥かに上回るものを作れるわけがなかった。

仮にこの悪魔の兵器をザフトが核攻撃に対する報復として使用すれば、人類滅亡へのカウントダウンが始まるだろう。

(史実がベストだったというのか……いや、何かあるはずだ。そう何か手が……)

そう必死に考えるが状況はあまりに悪かった。

第5軍が核攻撃を受けたとの情報をうけ、地球連合軍最高司令部はすでに報復ムード一色になっていた。

大西洋連邦軍首脳部、特にブルーコスモス派は一様に激怒。アズラエルの提案した条約を生ぬるいとまで批判する者も出る始末。

このままでは文字通り史実どおりの展開となるだろう。

(何とかしないと、そう何とかしないと)

連合軍最高司令部内で自分に与えられた休憩室でアズラエルは頭をひねる。

(こうなった以上は条約締結は難しい。だが連中があの生物兵器を無差別に使用すればどうなるか判らない)

そう、仮にあの生物兵器が無差別に市街地に撃ち込まれれば大西洋連邦どころか地球のナチュラルは死滅する。

それを防ぐためには絶えず、地球軌道に防衛艦隊を張り付かせて置かなければならない。

だがそれは余りに負担が大きくなりすぎる。仮にそれを実施すれば反攻作戦に支障をきたす可能性が高くなる。

第8艦隊が健在だったなら、地球軌道に防衛艦隊を張り付かせることも可能だったのだが、それは無いものねだり。

(ここで第8艦隊壊滅が響くとは・・・・・・くそ、かといって反攻作戦を遅延させることはできない。八方塞か)

現状の戦略では状況を打開することは困難とアズラエルは判断せざるを得なかった。

(こうなれば後腐れなくすべてを焼き払うのが良策なのか?)

短期決戦で一気にジェネシスとプラントを焼き払う・・・・・プラントのコーディネイターを皆殺しにしてしうと言う考えが頭によぎる。

(だがそれをやれば戦後の復興が困難となる。プラントの資源がなければこの荒廃した経済を立て直すことは難しい)

ある意味で非常に魅力的な意見を振り払うとなれば、答えは一つしかない。

(プラントに、いやザフトに一切の反撃の隙を与えることなく、一気に戦争を終結させるしかない)

なりふり構わない短期決戦に持ち込むしか方策はない、彼はそう結論付ける。

「条約締結の提案は引っ込めて、むしろ、各国から宇宙艦隊を差し出させることに専念させるか」

現在第6艦隊、第7艦隊はMS搭載能力をもたせた艦艇を多数保有している。またプトレマイオスクレーター基地のドックで建造した

エセックス級空母も加わった。これに輸送船を改造した仮装空母が加わる。

この2個艦隊にスカンジナビア共和国、赤道連合が持つ宇宙艦隊を加え、さらに史実では参加させていない第5艦隊も動員する。

仮に上記のような艦隊を動員すれば、ザフトを圧倒することも可能だろう。ただし他の宙域は丸裸となるが……。

(反攻作戦用に月に貯蔵されている物資をすべて吐き出させて、連合の宇宙艦隊の7割をザフトに叩きつければ勝てる・・・・・・はずだ。

 これでも不足気味だったら、サーペントテールやサハク家も加えよう。サーペントテールは金があれば動くはずだし

 サハク家もオーブの完全な独立の回復と、独立するための領土を保障すれば多少は動くはずだ)

現在、かつてオーブであった島々は放射能汚染によって生物が住めない土地となっている。

これによって生まれた避難民は膨大な数であり、連合の負担となっている。さらに連合市民から、何で利敵国家の市民の面倒を

自分達の税金で見てやらなければならないと言う不満も強かった。

(ウズミの阿呆と、ユーラシア連邦の強欲のせいでえらい迷惑だよ。全く)

オーブ市民にあてがう食糧だけでも、かなりの圧迫となっている。しかもオーブ市民には多数のコーディネイターが含まれている。

これがさらに大西洋連邦市民の不満を煽っている。散々反コーディネイター感情を煽っていたのはブルーコスモスなので

ある意味で自業自得と言えなくとも無いのだが……。

(くっ、過ぎてしまったことをぐちぐち言っても仕方ない。とにかく、今は戦争の早期終結を目指そう)

現在準備中のエルビス作戦……元々、この作戦はプラント本土攻略を考えたものでは無かったのだが、アズラエルは

それを大きく変更しようと考えていた。無論、それは軍部の反発を招き、反ブルーコスモス派との軋轢をさらに助長するだろう。

だがそれもアズラエルには承知の上のことだ。

「連中はすでにこちらを殲滅する気だ……ならば、こちらもなりふり構っていられない。一刻も早く連中の首根っこを抑えないと」

はっきり言うとそれは誤解なのだが、TV本編におけるパトリックの振る舞いを知る彼はそう信じ込んだ。

そんな彼の元に後日信じられない報告が飛び込む。

「ラウ・ル・クルーゼが?」

「はい。アズラエル様と取引をしたいと」

サザーランドからの報告に、アズラエルは驚きを隠せなかった。

「何が起こっている?」

彼の知る歴史と、彼が推し進めてきた歴史……このふたつの物を決定的に異なるものとする瞬間が迫っていた。









 あとがき

 青の軌跡第20話をお送りました。さて、カーペンタリアは壊滅。ザフト地上軍は決定的な打撃を受けたといえます。

まぁイザークは生き残ったから良いかな(爆)。尤も次回はさらに大変そうです。何せクルーゼとアズラエルの会談ですから。

書ききれるかちょっと、いえ、かなり不安ですが頑張ります。

さて次回以降は裏の動きがメインになります。ラクス、パトリック、クルーゼ、アズラエル、マルキオ導師、アンダーソン……何気に

プレイヤーが多くて大変です(爆)。一応ラストは決まっているんですが、どうなることやら(汗)。

それでは駄文にも関わらず最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

青の軌跡第21話でお会いしましょう。



感想代理人プロフィール

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代理人の感想

おー、決戦兵器投入!

やはり無敵の新兵器が大軍に立ち向かうという図はそれだけで日本人の心を熱くさせるものがあります。

まぁ、現実は現実としてアレなんですが(爆)。

 

ともかく、大転換点らしき次回。やはり二人の会談の様子が楽しみです。

しかしクルーゼは会談すると見せていきなり抹殺するのがベターと思っちゃったりするんですがどうでしょうか(核爆)?