中立都市コペルニクスでの交渉に臨む外交団が地球から飛び立とうとしている様子がTVで放送されている頃、

地球ではブルーコスモス、反ブルーコスモス派双方の動きが急速に活発化していた。

ブルーコスモス強硬派、中でも自称ブルーコスモスはこぞって今回の交渉に反対して、各地で騒動を起こしていた。

これを比較的穏健派のブルーコスモスのメンバーやアズラエルの決定に従うメンバーが抑えにかかった。さらにアズラエルは

大西洋連邦の閣僚、議員を通じて不穏な動きを見せるブルーコスモスメンバーを牽制して、動きの封じこめにかかる。

「我々は表向きは連中との交渉を望んでいると思わせておかないといけません。そう、作戦が終了するまではね」

アズラエルはそう言って不満をもらす強硬派議員を説得し、

「我々も彼らと殲滅戦をしたくはないんですよ。そのためには強硬派を抑える事も必要です」

穏健派議員にはそう言って協力を仰いだ。さらに反ブルーコスモス派の情勢を探るべく、莫大な金をばら撒いた。

スパイ企業、個人ハッカー、エージェントなど情報収集を得意とする組織、人間をフルに使い情報の収集を急がせる。

さらに反ブルーコスモス派の議員、高官には金と女とあてがい、企業にはアズラエル財閥傘下の企業が受注していた事業を譲るなどして

懐柔を図っていた。無論、反ブルーコスモス派は組織防衛を行う一方で、金と女で裏切りかねない人間へ偽情報を流すことで

ブルーコスモスの撹乱を目論んだ。まさに、組織の興亡を賭けた諜報戦が繰り広げられていたのだ。

だが同時に、この見えない敵を探す日々は、アズラエルの体調に甚大な損害を与えていた。

「やれやれ、かなりきついね・・・・・・」

大学生だった修が経験豊富な政治家を賺したり、時には脅したり、さらに袖の下を通すような真似をすれば疲れもする。

このために、今日もまた彼は自分の執務室の机でぐったりしていた。

「胃が・・・・・・頭が・・・・・・・」

精神性のものと思われる痛みに耐えかね、彼は食後に飲むはずの錠剤を一気に飲み込む。

高官との会食の際に食べる料理もまた彼の体調を崩す元になっていた。特に酒は飲む、カロリーの高い食べ物をいとも

あっさり食べていく太り気味の某高官とペースをあわせようとしたら、彼の胃がもたず、自宅に帰ってから吐いたこともあった。

これに相手の腹を探るための、楽しみなどとは一千万光年ほど離れた会話をしなければならないのだ。

それもマリアのような美人とはなく、中高年の男、それも前に座るだけで竦み上がってしまうような鋭い眼光を湛えた老人、

権力志向がやたらと強い野心家等、と色んな意味で危険な人間とだ。このために色々と彼の精神に負担がかかっていた。

「・・・・・・来週はパーティーか・・・・・・欝だ」

ノートパソコンを開き、来週の予定をチェックして欝になるアズラエル。何気に背中に哀愁が漂っている。

「・・・・・・今度、病院に行こう」

レントゲン写真でもとってもらうかと考えながら、彼は仕事にとりかかった。


 アズラエルが疲労の極限に達しつつある頃、彼の健康にさらなるダメージを与えかねない事態が進行していた。

「僕に戦えって言うんですか!」

マーシャル諸島のマルキオ導師の元につれてこられたキラは、自分を連れてきた理由を聞くなり、それを拒絶した。

「僕はもう嫌なんです! 僕が戦うたびに皆を傷つけていく・・・・・・そんなのを見るのはもう嫌なんです!」

彼の脳裏には、今では誰も住むことの出来なくなったオーブのことが浮かんでいた。

核爆発の際のフォールアウトで汚染され、さらにフリーダムが破壊された際に漏れでた放射能によって完全に死の大地と化した

オーブは今後数百年は人が住めないであろうと、言われている。オーブ国民は地球連合構成国のお情けによって辛うじて糊口を凌ぐ

日々を送っており、何か特筆すべき技術を持った人間以外は非常に惨めな生活を余儀なくされていた。

無論、この事態を招いたアスハ家に対して国民は憎悪を持っており、宇宙港の核爆発から辛うじて生還したカガリは

アスハ家の生き残りとして生き残った国民の憎悪の的となっている。それを知るが故に、キラは戦いを拒もうとする。

「ではどうすると言うのです? 今から連合軍に戻るとでも」

「そ、それは・・・・・・」

彼は捕虜収容所での自分の扱い方を思い出して、答えるのを躊躇った。

取調官からの二重の裏切り者との糾弾、旧オーブ、ザフト両軍将兵からの憎悪の眼差し・・・・・・それはキラの心に

鋭利なナイフとして突き刺さり、自分が(収容所内部の)誰からも忌み嫌われていると自覚させる。

(僕のやっていたことは全て間違いだったんだろうか・・・・・・)

幾多の戦場を駆け抜け、数多の同胞をその手にかけてきたことが全て間違いだったのだとしてら・・・・・・そんな考えが脳裏に過ると

キラは自分の足元が崩れ落ちていくような恐怖に襲われる。そんな彼の感情をマルキオは見抜いた。

「もし今ここで全てをあきらめれば、貴方は今までにしてきたことを全て投げ出すことになるります。

 貴方はそれを納得できるのですか? 今までにやってきたことを全て無に帰すようなことを」

「・・・・・・・・・」

自分の最も恐れていたことを言い当てられたキラは沈黙した。

「私達も、何も戦いをしたくて戦っているわけではないのです。全てはこの戦いを終わらせるために・・・・・・」

「戦いを終わらせる・・・・・でも、どうすれば」

縋るようなキラの声にマルキオは淡々と、そして躊躇うことなく話を続けた。

「現在、地球連合はムルタ・アズラエルを盟主にしたブルーコスモスに支配されています」

「ブルーコスモス・・・・・・」

キラの脳裏に砂漠でバルトフェルドを襲ってきた男達の姿がよぎる。

「彼らはコーディネイター排斥を掲げ、各地でテロ行為を繰り返しています。そしてそれを指揮しているのがブルーコスモスの盟主、

 そして大西洋連邦の国防産業連合理事を務めるムルタ・アズラエルなのです」

「で、でも何でテロを行って逮捕されないんですか? 普通は警察か何かが」 

「彼は政治家に多くの献金を行っています。それに彼の支援のおかげで当選できた議員も多い・・・・・・現職の大統領のグリフィス氏も

 彼の献金と支援によって大統領の座に就くことができました。残念ながら、彼を逮捕できる人間はいないでしょう」

「・・・・・・・・・」

「またプラントも強硬派のパトリック・ザラの手に落ちました。反対する勢力はほぼ失脚し、抑える術はありません。

 彼はナチュラルを劣った人種として根絶やしにすると公言して憚らず、この戦争をさらに激化させています」

現在行われている交渉が、茶番劇に過ぎないことを様々なルートの情報から判断した彼の言葉はキラに重くのしかかる。

「じゃあ、どうやって・・・・・・」

「確かに通常の方法では、彼らを止めることはできないでしょう。ですが普通ではないやり方なら・・・・・・」

普通ではないやり方、そして自分を必要とする、そのふたつからキラはマルキオ達がいかなる方法で戦争を止めようとしているのかを

おぼろげながら悟る。そしてそれが途方もない方法であることも・・・・・・。

「でも、出来るんですか? 相手は地球圏すべてを束ねる勢力、一方はプラントを束ねる勢力。

 両方とも強大な兵力を持っているし……それに」

ナチュラルとコーディネイターの間に横たわる溝の数々を思い出して、キラは言葉を詰まらせる。

「確かに困難を極めるでしょう。ですが誰かがやらなければならないのです。全てが手遅れになる前に」

ラクス、マルキオ達は武装蜂起によって政権を簒奪することを計画していた。

尤も地球連合内部の反ブルーコスモス派は、単にブルーコスモスの勢力を削ぐためにラクス達を利用するつもりだが、それを知る

マルキオはそんな彼らを出し抜き、逆に利用することで自分達の目的を達成するつもりだ。

すでに反ブルーコスモス派の中堅幹部への取り込みを開始し、ブルーコスモスの派手な政治工作の陰に隠れるように様々な勢力への

接触を開始している。無論、アンダーソン大将はそれを知る由も無い。悪質な騙しうちなのだが、最初にラクスを捨て駒にしようと

したのはアンダーソン大将達上層部なので因果応報とも言えなくとも無い。

「すでにこちらも必要なことはしています。何も私達は武力だけで全てを解決しようとしているわけではないのです。

 ですが、同時に武力もまた必要なのです」

「………」

「既にラクス様は宇宙で活動を開始しています」

「ラクスが?」

「はい。宇宙で地球連合、特にブルーコスモスの息の掛かった部隊への攻撃を繰り返しています。

 ですが相手は地球連合と言う巨大国家をバックにしています。ですから、一人でも多くの同志がいるのです」

「………」

「ラクス様は、貴方にぜひ協力してほしいと仰られています。

 全てはこの戦いを終らせ、コーディネイターのナチュラルが共存できる世界を作り出すために」

戦いで全てを失ってきた、それが彼を臆病にしていた。だが、それでもなお自分を必要としてくれる人が欲しかったのかもしれない。

全てを失い、周りから疎外され、憎悪され、罵倒される………そんな状況で救いが欲しかったのかもしれない。

いや、これまで殺してきた者達、巻き込んで不幸にしてしまった者達に対する免罪符が欲しかったのかもしれない。

キラは暫く黙り続け、最後に首を縦にふった。



「何故だろう……物凄く不吉なことが起こっているような気がする………」

書類の山を片付ける最中、アズラエルは自分の第6感が何か不吉なことが進行中であることを発しているのを感じた。

ちなみに現在、早朝4時。もう数時間したら清々しい日の出を見られる時間になる。

尤も、この日で連続4日の徹夜勤務なので清々しく日の出など見れるわけが無い。

さらに言えば疲労は最高潮。それに比例するように何か危ないものを受信する能力も最高潮となっていた(苦笑)。

「気のせいだと思いたいが……現実は想定の斜め上を、背面飛行するからな」

何気に意味不明な台詞だが、彼が言い表す事の出来ない悪寒を背中に感じているのは事実だった。

「いや単に疲れているだけなのかもしれない。少し、寝るか」

アズラエルはそう言って、悪寒の理由を体調のせいだろうとして暫く仮眠を取ることにした。

だが、残念ながら彼の予感は的中しており、それは悪夢のような形で彼に襲い掛かることになる。





                  青の軌跡 第26話





 アズラエルが推し進める作戦フェイタル・アローに参加するアークエンジェル、ドミニオンはパナマから発進しようとしていた。

彼らは文字通り突貫工事で補修を施され、休暇も最小限にされたあげくに宇宙に向かわされると言う、殺人的なスケジュールを

余儀なくされている。それ故に彼らは内心でかなりの不満が溜まっていた。

「まったく、人使いが荒すぎるぜ。もう少し休暇をくれたって良いじゃないか」

マードックはパナマ基地で運び込まれたMSの数々を見て、思わず不満をもらす。

何しろ、ドックではアークエンジェルの補修作業にドックの工員と共にあたり、さらに新しく運び込まれたMSの整備もしている。

彼ら整備班の仕事量はアークエンジェルでも随一を誇ると言ってもよいだろう。

「やれやれ次はまた宇宙か。月に行くだけなら、ここまで本格的な工事なんてしなくても良いだろうに」

フェイタル・アローは軍上層部で完全に秘匿されているためにマードック達はその存在そのものを知る由もなかった。

まぁ何か特殊な作戦がアズラエルのごり押しで進められているとは、噂程度で上層部で流れていたが信憑性のない噂として

考えられていた。アンダーソン大将、マルキオ導師も掴む事が出来ないほど秘匿されていたことから、どれだけアズラエルが

この作戦の存在を隠したがっているかが判る(その分、彼の仕事は大幅に増えているのだが)。

アークエンジェルが発進準備に追われている頃、ドミニオンも発進準備におおわらわだった。

「物資の搬入は?」

「武器弾薬は十分です。MSも地上で載せるものは全て積み終わりました」

ミナカタは副長から手渡された書類を眺めて、受領の印を押す。

「やれやれ、忙し過ぎる・・・・・・まぁ時間がないことは認めるが、今度からはもう少しスケジュールに余裕を持たせて欲しいものだ」

ミナカタはフェイタル・アローの指揮権を委ねられており、その詳細と重要性を知っていた。

それでも不満を漏らすのだから、このスケジュールがどれだけ厳しいものか判る。

副官が艦長室から出て行ったあとも、書類整理に追われながら彼は作戦の重要性を再認識していた。

「ま、これだけの戦力を投入するとは上も必死ってことか」

今回の作戦に参加するのは、地球連合軍全軍でも指折りのパイロットばかりであった。

現在、アークエンジェル、ドミニオンに乗っている目ぼしい戦力はソキウスと強化人間だけだが、宇宙では月下の狂犬をはじめとする

エースパイロット達が合流する予定だった。

その戦力は、一個部隊としては連合軍最強クラスとなるだろう。だがその分、被害が出れば影響も大きい。

作戦が成功したとしても、仮に彼らが全滅するようなことがあれば、後の戦局に大きな影響を与えるだろう。

「責任は重大だな・・・・・・尤もこの年で地球圏の命運を左右する作戦の指揮を任されるとは名誉なことだけどな」

サザーランドより一回りほど若いにも関わらず、この作戦の指揮を委ねられたミナカタは思わず武者震いした。

「ふふふ、この高揚感はやっぱり軍人独自のものだ。軍人冥利に尽きるな」

ミナカタがそう呟いている頃、作戦の副指揮官として指名されているナタルはこの作戦の是非について悩んでいた。

(交渉をカモフラージュにすれば、後に別の交渉を行いづらくするのではないか?)

まるで騙し打ちをするような作戦に彼女は賛意できなかった。まぁ人質をとったり、規則に煩かったりした彼女だが

しばらくアークエンジェルで過ごしている内に考えがやわらかくなったようだ。

(だが軍人である以上、上層部の指示は絶対だ)

尤も自分が軍人であり、軍人は上官の命令には絶対服従であると言う考えまでは変えるつもりはなかった。

そして彼女も自分に出来る範囲のことを全力で行うつもりだった。

アークエンジェル、ドミニオンに次々に物資が搬入される傍ら、アークエンジェルからは2名と2機のMSが退艦しようとしていた。

無論、それはフレイとサイ、そして両名の乗機ストライクルージュとバスターである。

「何で退艦しなくちゃいけないのよ・・・・・・」

突然とも言える命令にフレイは不満を感じて現在、格納庫で愛機を見上げながら散々に愚痴をもらしている。

「私は、まだやらなくちゃいけないことがあるのに・・・・・・」

そんな彼女をフラガとサイが宥める。

「まぁそんなに言うなよ、嬢ちゃん。それに別にこれが今生の別れって言うわけじゃないんだ」

「そうだよ。それに申請すればアークエンジェルに戻ってくることも可能なんだ」

「でも・・・・・・」

単に月に行くだけだ、そう言ってサイとフラガはそこまで気にすることはないと慰める。

だがフレイは、自分の中にある何かが、この異動が普通の異動ではないことを告げていた。

尤もそれはアズラエルの感じた悪寒と同じレベルのものであるために具体的に説明できない。

もどかしさを感じつつ、彼女は命令に従うしかなかった。軍人である彼女は命令に従う義務がある。

(大丈夫よね・・・・・・アークエンジェルが沈むことなんて)

そんな不安に苛まれる彼女と同じように、フラガもこの人事異動と月への移動に、きな臭いものを感じていた。

(やっぱり何かあるな。恐らく嬢ちゃん達を降ろしたのは危険なことと、腕の問題だな)

口ではフレイを宥めつつも、フラガはこの移動が何か重要な意味があると考えていた。

(まぁ俺としては文句を言うつもりはない。いや、いっそ感謝したい位だ。もう坊主と同じような目にあわせたくないしな)


 フラガに感謝(?)されている本人はと言うと、大西洋連邦軍参謀本部内のサザーランドの執務室を訪れていた。

その訪問の目的は地球と月の補給線を脅かす武装勢力を如何にして叩くかを協議するためだったが、アズラエルが彼の

執務室を訪れたころには、サザーランドはすでに独自の策を練っていた。

「なるほど……ですが生け贄としては余りに高価じゃないですか?」

アズラエルは、サザーランドの提案にやや眉をひそめた。

「確かに3個戦隊9隻、さらにMS12機は高価な贄です。ですが、この程度の餌がなくては連中をおびき出すのは無理でしょう」

「それもそうですが………」

「無論、増援を出さないわけではありません。連邦軍参謀本部は月基地から4個戦隊、独立艦隊1個艦隊を増援として出します。

 これにアークエンジェル級3番艦セラフィムも実戦訓練も兼ねて、同行させます」

アズラエルはサザーランドの提案に思わず唸る。

(セラフィムは、アークエンジェル、ドミニオンよりも対空火器を増強しているから対MS戦闘には有効だ。しかし……)

「だけどそれだけ大規模な増援を行うとなると、情報の漏洩があるんじゃないですか?」

度重なる武装勢力の襲撃から、連合軍内部に裏切り者がいる可能性があることを彼らは知った。

故に、それを逆に利用して偽情報を軍内部に巡らせ情報の漏洩元を探り、かつ敵対勢力を罠に誘い込む、それが今回の目的だった。

連合軍は偵察の結果、L4にはそれなりの勢力の拠点が確認したが、連合内部に裏切り者がいる可能性がいる以上は迂闊には

動けない。仮に裏をかかれて大打撃を被れば反ブルーコスモス派の突き上げを食らうだろう。

さらにアズラエルの方針転換に納得していない面子が、アズラエルを盟主の座から引きずり落とそうと画策するかもしれない。

ことは慎重に運ばなければならない……それをわかっている故に、アズラエルは慎重さを求めた。

「表向きはザフト軍のゲリラ部隊の掃討が任務であるとします。彼らは作戦開始前にザフト軍の補給基地を幾つか叩く予定なので

 実際に戦果を挙げておけば不審には思われないでしょう」

「しかしザフト軍の補給基地を叩くとなると、それなりの犠牲があるんじゃありませんか?」

「その点は考慮に入れて居ます。ジャベリンの航宙機仕様とトライデントを投入します。さらにこれらの運用母艦として

 正規空母エセックスが参加し、これに加えて軽空母インディペンデンスもつけるので戦力は十分です」

「……トライデントの数は?」

「トライデントは2機を投入する予定です。また例の核エンジン搭載型のストライクも4機ほど送ります」

「………かなり強力な部隊ですね」

「質を高めるにはこの程度の梃入れは必要です」

エセックス級空母1隻とインディペンデンス級軽空母1隻の2隻だけでも80機以上のMSが運用可能になる。

これに戦艦、駆逐艦を加えれば100機を越えるMSが運用可能となるだろう。さらに虎の子のトライデントを2機もつけるとなれば

文字通り鬼に金棒と言える。

「ですが、それだけの戦力を引き抜けば、他の部隊が弱体化しませんか?」

第3艦隊、第8艦隊は失われており、月の第1艦隊は現在、月防衛のために動かせない。

第5艦隊、第6艦隊、第7艦隊はエルビス作戦に投入される予定なので、こちらもあまり動かすわけにはいかない。

他の艦隊は緒戦で被った消耗から立ち直っておらず、現在は艦隊の再建に勤しんでいる。

「抜けた戦力は地球連合軍に新規に加盟した赤道連合、スカンジナビア王国などの中立国の戦力で穴埋めします。

 まぁ実戦を経験したことのない彼らでも、一時的な代役くらいならできるでしょう」

元中立国の軍をあざ笑うサザーランド。一方のアズラエルは渋い顔をして押し黙った。

(でも、その彼らにストライクダガーを配備してやらなきゃいけないと思うんだけど……)

アズラエルは自分の仕事がまた一段と増えることを思って、内心でため息をついた。

(工作機械の問題もあるのに、何でこうも仕事ばかり増やしてくれるのかね、軍の連中は……

 俺がMSをいくらでも作れる魔法の杖でも持っていると思っているのか? まったくこっちの苦労も分れよ……)

現在、大西洋連邦本国、南米、月などでは工廠がフル稼働で武器の量産を行っている。

アズラエルの方針転換によって、コーディネイターを排斥せずに生産ラインに関わらせることで品質を維持しているが、

それでも開戦前に導入した工作機械(メイド・イン・プラント)が壊れると生産効率が低下しかねないと言う爆弾を抱えていた。

この問題はエネルギー事情が解決した分、全体の生産量が上がったことから生じていた。

エネルギー不足で操業を縮めていた工場がフル稼働し始めたことから、各地で工作機械の消耗や数の不足が問題化していたのだ。

最近、アズラエルの残業が増え、さらに頭を悩ませている原因でもある。

今のところ、すぐに戦争の継続に支障が出るわけではないが、放置しておけばボディーブローのようにダメージを与えてくるはずだ。

無論この問題を解決するべく軍や民間企業では同じ工作機械を作ろうとしたが、出来上がったのはデッドコピー。

しかも3日使えば壊れると言うとんでもない不良品だった。これでは到底、プラント製機械の代わりなど務まらない。

故に、極端に機械を酷使すると逆にその寿命を縮め、さらには連合の生産力も低下しかねないのだ。

コーディネイターの技術者達に命じて機械の延命を図ってはいるが劇的な延命などできるわけがない。

従来の兵器ならば、地球連合各国が作れる工作機械の精度でも辛うじて大丈夫だが、MSなどの新兵器となるとそうはいかない。

どうしても部品には高い精度が求められ、地球連合各国が作れる工作機械では必要な精度を持つ部品を生産することができない。

極々稀に長年の経験で、工作機械に負けないほど精密な部品を作れる者もいるが、彼らが作れる量はたかが知れている。

(時間がないのはプラントではなく、地球連合なのかもしれないな・・・・・・)

短期的にはデットコピーを使い、騙し騙し生産を続けることが出来るかもしれないが、著しく生産効率と品質は低下するだろう。

だが第213輸送船団襲撃後も度々、地球連合軍の輸送船団に襲い掛かってくる武装勢力に対処するため、

さらに敵に内通するであろう地球連合内部の裏切り者に対処するために、ブルーコスモス派の宇宙軍の戦力の強化は必要だ。

しかし無理をすれば工作機械の寿命は縮む。赤道連合などが中立国だった頃に輸入したプラント製の工作機械を買収するにしても

限度がある。一応、この問題を解決する方法は存在するが、それは彼に更なる負担を強いるものだった。

(オーブのコーディネイターを使って工作機械の生産を行わせよう。ついでに、サハク家と交渉して例のファクトリーを

 利用させてもらおう。出来れば工作機械のコピー品を供給してもらえれば良いんだが・・・・・・)

外伝で出てきた宇宙ステーション『アメノミハシラ』、そこには多数の技術者と工作機械が存在するはずだった。

そこを利用できれば、アズラエルとしては大いに助かる。

だが、その代償はとんでもなく高いものになるだろうことは想像に難しくない。

(オーブ再建の承認と協力、さらにオーブ戦でオーブ国民が失った財産の一部を保証すること位は必要か。

 いや、あとはオーブ本国の浄化か・・・・・・でも、こいつは百年程度のスパンが必要だ。費用も莫大だな)

大西洋連邦一国では、負担が大きくなりすぎる。だが協力を求めるにしてもオーブで核の洗礼を浴びたユーラシア連邦と

東アジア共和国が猛反発する可能性があった。何しろ両国にはオーブはザフトと裏で組んでいたと本気で考えている人間が多かった。

カグヤが核で吹き飛ばされた一件も、連合にダメージを与えるための作戦だったのではないかと疑う人間までいる。

(費用も掛かるが、武装勢力にはオーブ軍残党もいるようだから心理的な圧力になるかもしれないな・・・・・・試す価値はあるか)

そう考えると、アズラエルは大西洋連邦国務省に出向いて国務長官サカイと協議することにした。

無論、車で移動中も書類の処理は続行。何気に忙しい男だ。

(有給、欲しいな・・・・・・・・・)

心の中で当分は絶対に叶えられることがないであろうことを呟くアズラエルだった。



 アズラエルが新たに動きを見せ始めている頃、プラントにひとりの男が帰還した。

その男は即座にパトリック・ザラの執務室に招かれ、入室した直後に労いの言葉を受けた。

「ヨーロッパ戦線の指揮は見事だった。今後も活躍を期待している」

「いえいえ、この死に損ないを使ってくれて感謝しています」

パトリック・ザラの労いにそう答えた男の名はアンドリュー・バルトフェルド。

欧州戦線では圧倒的優勢を誇るユーラシア連邦軍をゲリラ戦で足止めし、フリーダム、ジャスティス投入までの時間を稼いだ名将だ。

アークエンジェルによって自分の隊を撃滅された彼であったが、今回の成功はそれを補って余りあるものだった。

ヨーロッパ戦線から回収できた兵士達は即座に宇宙軍に組み込まれ、各地で訓練に勤しんでいる。

これによって多少なりとも、宇宙軍の強化が可能と上層部は考えている。

またバルトフェルドを宇宙軍に組み入れることで、士気の向上も図れるのではないかとパトリックは考えおり、

彼はパフォーマンスを兼ねてバルトフェルドに切り札とも言える部隊を任せようと考えていた。

「疲れているだろうが、君には早速、新設した部隊の指揮を任せたいと思っている」

「新設の部隊ですか?」

「そうだ。我がザフトにとって切り札ともいえる部隊だ。君も噂なら知っているだろう?」

「例のフリーダム、ジャスティスですか?」

「そうだ。この2機種のMS、そしてその専用母艦であるエターナルからなる独立部隊だ」

「専用母艦エターナルですか?」

「そうだ。何しろフリーダムとジャスティスとは従来のMSとは大いに異なるから、専用母艦が必要になる」

「はぁ」

エターナル級の建造にはナスカ級の建造費用を遥かに上回る資金が必要であり、それに伴い他の艦艇の建造にまで影響が出た。

無論、これだけの労力に見合うだけのものが得られるとの判断であったが・・・・・・。

「これだけ高価な戦艦は量産できないからな。大事に使え」

「判りました」

この日の決定を、後にパトリックは途方もない後悔と共に思い出すことになる。










 あとがき

 青の軌跡第26話をお送りしました。

え〜何気に忙しいアズラエルですが、次回以降ではさらに大変な目にあいそうです。

駄文にも関わらず最後まで読んでくださりありがとうございました。

青の軌跡第27話でお会いしましょう。









感想代理人プロフィール

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代理人の感想

なんと言うか、KGBに洗脳されてるCIAの工作員みたいな(笑)。>キラ

一つ間違うと宗教に嵌るタイプだよなぁ(爆)。

 

>反対する勢力はほぼ失脚し、抑える術はありません。

「勢力」は失脚しません。「勢力が壊滅」か、「勢力の政治家や官僚はほぼ失脚し」ですね。

 

>軍人冥利に限る

「軍人冥利に尽きる」ですな。

 

>まるで騙し打ちをするような作戦に彼女は賛意できなかった

「賛成できなかった」あるいは「賛意を示せなかった」ですね。