大西洋連邦の工業都市デトロイト……大西洋連邦でも有数の工業都市であるこの街では、今次大戦の主力兵器である

MSの生産が急ピッチで推し進められていた。多数の軍需企業の工場が立ち並ぶ中、アズラエル財閥傘下の工場は一際目だっていた。

(でかいな……さすがは北米。土地は山ほどあるってことか……)

その大工場に、ある目的のために訪れたアズラエルは、その大きさに舌をまく。

狭い日本の工場しか見学したことのない修にとっては、ここまで大きな工場は中々お目に掛かれない。

アズラエルになってからは、何回か傘下の企業が所有する工場を視察したことはあったが、ここの広さは文字通り桁違いだった。

そんな巨大工場を部下と、工場の責任者達を伴って見学したアズラエルは思わず苦笑した。

「これだけの生産力を殺し合いに使うなんて勿体無いな……」

そう苦笑するアズラエルを訝しげに見る現場の責任者。その視線に気づいたアズラエルは「生産は順調ですか?」と誤魔化す。

「あ、はい。生産目標はクリアーできそうです。ですが……」

「判っています。工作機械の消耗ですね」

「はい。今の所は稼動していますが、故障が多発すれば品質を維持出来ません。

 コーディネイターの技術者を現場に取り入れることで、今の所は品質を維持していますがそれでも……」

「それについては手を打ちます。それよりコーディネイターとナチュラルの対立は?」

「最初こそは、両者の隔たりは大きく作業に支障も出ることがありましたが、今ではこちらの努力の甲斐あって仕事に励んでいます」

実際には部署によって反目が存在するが、極端に排斥されることはなかった。

これはこの工場に務めているコーディネイターが比較的温和な性格であるためでもあるが、そのことまでは責任者も報告しない。

「そうですか。それは良かった」

この言葉に、工場の責任者は思わず目をむいた。何しろ彼の間の目にいる男はコーディネイターを排斥するブルーコスモスの盟主。

その男がコーディネイターとナチュラルが共存していることを喜ぶなどとは想像できないことであった。

アズラエルは責任者の様子を見て笑いながら言った。

「僕もコーディネイターをすべて殺そうとしているわけじゃないんですよ? 

 それに、現状でわが社にとって有益なコーディネイターを登用しないほど、僕も馬鹿じゃありません。戦前とは状況が違います」

戦前、その高い能力でコーディネイター達は、次々に高い地位を得るようになっていた。

そしてその高い能力を存分に使い、その所属する組織に多大な貢献をしていた。だが、彼らが活躍すればするほどナチュラルは

次々に職を失っていき、絶対に埋められない差と相成って深刻な社会不安になった。

そして、社会不安は次第にコーディネイターの排斥運動に繋がり、ブルーコスモスの台頭を招いたのだ。

かつてアメリカや西欧諸国などの先進国でおこったような移民の問題が噴出したのだ。それも種族間対立と言う最悪の問題を伴って。

今ではザフトの核兵器、未知の細菌兵器の使用が公表されたせいもあって、各国ではコーディネイター迫害も一気に急増している。

「……確かに彼らの能力は確かに脅威です。ですが、それをうまく使わなければ効率よく戦争には勝てません。

 今必要なのは祖国に忠誠を誓う人間です。残念ながら今、種族の違いを問題にする余裕は僕達にはありません。そう今はね……」

そう言いつつも、最近になってさらに煩く文句を言ってきている強硬派の事がアズラエルの脳裏によぎる。

(……実利で切り崩す必要があるな。狂信的な連中はともかく、損得計算が出来る連中は利を前面に押し出して説得するか)

元々強硬派の首領であったアズラエルが柔軟な姿勢を見せたことで強硬派には不満が溜まっていた。

そういった連中を宥める為にはある程度の見返りが必要だった。そして戦後にはコーディネイターを地球から叩き出すと言う保証も。

(プラントにナチュラルを移民させてコーディネイターとナチュラルの融和を図ると言うことで穏健派を説得させる。

   そして強硬派にはコーディネイターを宇宙にすべて移民させることを約束することで今の政策を納得させるしかないな。

 ああ、それに戦時中に連合に協力していたコーディネイターを優遇させて、連中の機嫌をとるぐらいは必要か)

地球連合に協力してよかったと、こちらの陣営のコーディネイター達には思わせておかないといけない。

そのためには地球連合に協力していたコーディネイターを、プラントにいたコーディネイターよりも優遇する必要がある。

(コーディネイター同士を反目させて、連中の目をナチュラルよりも裏切り者に向けさせることが必要か……)

そんなことを一瞬で考えると、アズラエルは別の施設に向かう事を告げて、もうひとつの目的地に向かう。

その目的地はこの工場の敷地内にあった。それは地上からは影も形も見えないが……。

(何か悪の秘密基地で、あくどい作戦を練る秘密結社の首領の気分だな……)

彼が向かう先は、ストライクダガーの生産が行われている工場の地下、最新鋭兵器の開発が極秘裏に行うことの出来る施設。

ここではあるMSの復元が、極秘裏に、そして昼夜を問わず行われていた。

そして、そのMSをこの目でみることが彼の今回の視察の最大の目的であった。

はやる気持ちを抑え、研究者や責任者の出迎えもそこそこに、アズラエルはお目当ての機体を見る為に格納庫に直行する。

「よくここまで復元できましたね」

アズラエルは自分の前に鎮座するMSを見上げながら、自社の技術者達を賞賛した。

「いえいえ、社長が入手された設計データのおかげです。あれがなければここまでの修復は不可能でした」

「いや、君達技術者の賜物ですよ。何しろ元々修復中だったとはいえ、あと2ヶ月はかかるかもしれない作業を1ヶ月で

 終らせたんですから、十分に君達のおかげです」

そう言って技術者を褒めちぎると、即座に機体のことを尋ねる。

「IFF(敵味方識別)システムの調子は?」

「うまく作動しています。よほどの失敗を犯さないかぎりは、敵の警戒網を突破することが出来るはずです」

「それはよかった(何しろこいつは作戦の要だからね)……例の装置は?」

「うまくカモフラージュしています。仮にコーディネイターが調査しても簡単にはばれません」

技術者の自信満々の答えにアズラエルは頷く。尤も内心ではかなりこの作戦に嫌悪していた。

(やれやれ、敵のパイロットを洗脳した挙句にこんな作戦をしないといけないとは……俺って客観的に見るとすげえ悪役?)

これから行うであろう作戦に、アズラエルは内心で思いっきり顔を顰める。

いくら戦争だからと言っても中々割り切れない感情がそこにはあった。

「まぁ宣戦布告なしに戦争をしてきた国だって多いんだ。これぐらいはどうってことないだろう……」

自分を正当化するようなことを小声で呟くと、アズラエルはその施設を後にした。

そしてこの日の夕方、アズラエルが見た機体はパイロットと共にパナマに輸送されることとなる。



 地球でフェイタルアロー作戦の準備が進められていると同時進行で、月面のプトレマイオスクレーター基地では

サザーランドが立案した作戦に参加する艦艇が出港準備に追われていた。

「セラフィムとエセックスか……それにトライデントまで加えるとは、上も本気のようだな」

新規に編成されるZ任務部隊司令官に任命されたバーク少将は、編成表を見て思わず笑みをこぼした。

AA級の最新鋭艦に加え、期待の新造空母エセックス、さらに現時点では最強のMSトライデントまで預けられたのである。

これだけの戦力を預けられて悪い感情を抱く指揮官のほうがむしろ少ないと言える。

尤もフェイタルアロー作戦のことを知っていたら、何故自分がその指揮官に任じられないのか、と不満をもらすこと間違いなしだが。

「それにしても独立艦隊から1個艦隊をまわすとは……通商破壊が疎かになってもモグラをつぶすってことか」

現在、プトレマイオスクレーター基地には主に正規艦隊が4個艦隊、独立艦隊が4個艦隊のあわせて8個艦隊が駐屯している。

このうち、独立艦隊は速度の速い艦艇を中心に編成され、日々通商破壊に勤しんでいる。

無論、ザフトも同様に月と地球の補給路を攻撃しているが、第二次低軌道会戦で受けたダメージから回復しきっておらず、

逆に連合軍の通商破壊に対応するのに戦力を割かなくてはならない状態に追いやられていた。

だが、かといってザフトが弱いと言うわけではない。彼らは新型MSのゲイツを投入し、巧みな戦術で連合に消耗を強いている。

激化する連合軍の独立艦隊とザフト艦隊との小競り合いは、MSと艦艇の消耗戦になっており、両軍共に少なからざる消耗を

強いられている。正規艦隊は反攻作戦と月防衛のための部隊であり、軽々しく動かせる部隊ではない。

「まったく俺たち前線の軍人が必死に戦っているときに後ろで何をやっているんだ」

連邦軍参謀本部の使者(ブルーコスモス派軍人)から直々に受け取った書類に書かれていた作戦の本当の目的を思い出すと

彼は苦々しい思いにとらわれた。まぁ彼ら前線を支える指揮官からすれば後方で裏切りをもくろむ人間など唾棄すべき物でしかない。

「……くそ、ここであれこれ思っても仕方ないか」

国家から与えられた戦力で、最大限の戦果を導く……それが軍人の仕事であり、彼はその軍人であった。

「仕事に取り掛かるか」

彼は幕僚を招集し、必要となる事項の確認を行った。







                青の軌跡 第27話





 連合軍の各部隊が準備に追われる一方で、ここ月面都市コペルニクスでは地球連合とプラントによる交渉が行われていた。

尤もそれは最初から地球連合の条件を巡ってかなり紛糾していたが……

この紛糾は地球連合側が求めたNJCの軍事兵器への転用の制限を、プラント側が渋っているのが主な原因だった。

何しろ、地球連合はすでにNJCを利用することでエネルギー事情を改善して工業力を回復させている。

仮に通常兵力で潰しあいになれば国力、予備兵力の差からザフトが持ちこたえられる可能性は非常に低い。

そうなれば核エネルギーはどうしても手放せない。アイリーン達としても、それだけは譲れないのだ。

無論、地球連合側の交渉団もそれは承知していた。交渉団の中のブルーコスモスシンパは内心でこの状況をほくそえむ。

(こちらが核エネルギーを平和利用に留めようとするのを、相手がごねていると見せかければ良い)

核を平和的に利用しようと言う地球側の意見を拒むプラント、と言うイメージが浸透すればどうなるかは言うまでも無い。

地球連合の多くの市民がザフトが核エネルギーをこれからも利用したいと考えていると思わせることが出来る。

(核に、生物兵器……この禁断の兵器を使ったザフトに対する嫌悪と疑念はさらに深まる)

内々に、この交渉は時間稼ぎに過ぎない事を知らされていた彼らは思い通りの展開に嬉々とした。

だが次の瞬間、彼らの代表の台詞に愕然とすることとなる。

「……それでは、このNJCの軍事転用への制限は撤回しましょう」

この言葉に、交渉団のメンバーは思わず声を上げた。

「だ、代表?!」

「ただし、こちらの提案を呑んでいただければの話ですが……」

次の瞬間、今度はアイリーン達プラントの交渉団がどよめく。

「つまり、V01のワクチンの供与を?」

「そのとおりです。大洋州連合では未だに多くの土地がV01によって汚染されており、感染を拡大させる危険性があります」

アイリーンは、地球連合の代表の言葉に即答できなかった。

「我々としてはこれ以上の汚染領域の拡大は絶対に認められないのです。

 現在、汚染はオセアニアにとどまっていますが、予期せぬ拡大もありえます」

「確かにそれは考えられますが……」

「そもそも、これは貴国の一指揮官の暴走によるものだった筈です。

 言わば、貴国のミスで起こったことなのです。その責任はとるべきなのでは?」

前線指揮官による暴走、クルーゼの暴走はそのように片付けられてはいたが、その全てを有耶無耶にするつもりは

代表には無かった。むしろ、これをダシにしてどうにかしてこちらに有利な交渉結果を得ようと必死だ。

穏健派に所属する代表としては強硬派の暴走を防ぐ為、そして自分達の勢力を回復するためにもこの交渉では

そうそう簡単に譲歩できない。仮に下手に譲歩すれば強硬派に突き上げを食らう可能性がある。

アズラエル率いるブルーコスモス派が勢力を拡大させている以上は、失敗は自分達の失脚にも繋がりかねないと彼は考えている。

(故郷の牧場で静かに余生をすごす覚悟がいるな……)

悲壮な覚悟を胸に、その特使はアイリーンとの交渉に臨む。一方でアイリーンもまた困り果てていた。

「残念ながら、我が国ではまだV01のワクチンを完成させたわけではありません」

「無論、即座に供与しろと言っているわけではありません。完成の暁に供与してもらいたいのです」

かといって、アイリーンとしてもこれを唯々諾々と呑むわけにはいかない。

V01のワクチンは今後の交渉の切り札となりえるものだ。そうそう切れるカードではない。

この状況を見ながら、ブルーコスモスシンパ達はどう事態を報告するかを迷っていた。

(こんなこと、連中が承認するわけが無い。だが、相手が承諾すればある意味で儲けものだ)

(核封印の見返りがワクチンか……損得勘定で言えば赤字ではないのか? 連中の技術力は決して侮れるものではない)

自分達の保身、今後の出世、そしてこの提案がナチュラルにとって有益なものかを考えて、彼らは思考の海に沈む。



 この会議から数時間後、地球連合からの提案を聞いたパトリック・ザラは文字通り、その提案を一笑に付した。

「そんな馬鹿なこと、出来るわけが無いだろう………」

尤も彼は同時に、ワクチンの供与を餌に交渉を長引かせようとも考えた。

ジェネシス、そしてフリーダム、ジャスティスからなる部隊が揃った暁には、連合など物の数ではない。

ジェネシスで月基地を潰し、残存する宇宙艦隊をフリーダム、ジャスティスで叩けば連合は手も足も出なくなるのだ。

(ふん、まぁ連中にはもう少し付き合ってやるか……)

所詮この茶番劇は時間稼ぎ……そう考えるが故の判断だった。

パトリックは強硬派議員だけを集めた評議会で、自分の意見を伝えると同時にさらなる軍備拡張を訴える。

「兵役年齢の引き下げですか?」

エザリアをはじめとして多数の議員はこの提案に困惑の声を上げる。

「そうだ。現在、兵役年齢は15歳以上としているが、これを14歳に引き下げる」

「し、しかし14歳の子供を投入しても役に立つでしょうか」

ダット・エルスマンはこの提案に疑問を呈する。この彼の発言にユーリ・アマルフィが賛成する。

しかしパトリックはその意見を一蹴した。

「だが戦争では数がものを言う。学徒兵でもゲイツに乗せて戦わせればそれなりの戦力になるだろう。

 それとも君達には何か代案があるのか? この状況でザフトの兵力を補充する手立てが」

「「・・・・・・・・・」」

現在、プラントでは兵役につける人間が枯渇しつつある。すでに15歳以上、30歳未満の若者は軒並み戦場に送られ、

本国に残っているのは子供と年寄りが多くを占めている。これから反撃に出るであろう地球軍を撃退するにはどうしても

それなりの数の兵士がいる。この兵士をどこから持ってくるかとなれば……答えは一つしかない。

「それではこの法案に賛成するものは挙手を」

賛成多数により、この法案はあっさり成立。この日をもって、プラントに居住する14歳の少年少女も戦争に送られることとなる。

尤もこの日の議題はそれだけではない。日々増大する戦費をどこで調達するかでそれぞれの議員の意見がぶつかる事となる。

「私は戦時国債の購入の義務化を求めます」

エザリアのこの発言に、他の議員達が反発する。

「そのようなことをすれば、市民の反発は必至だ!」

「その通りだ。只でさえ経済状態が悪化していると言うのに、そんなことを求められるわけが無い」

彼らが言うとおり、プラント経済はここ数ヶ月で急速に悪化していた。

所詮、戦争で儲かるのは軍需産業だけであり、長期間戦争が続けば、金が行き渡らなくなる他の産業は衰退する。

無論のことだが、これはプラントにも当てはまる。国内では資本が軍需産業にだけ集中しすぎたために他の産業の衰退が著しい。

経済は疲弊し、さらに地球からの資源が途絶したためにインフレの兆候があちこちに見られる。

さらに鉱物資源を輸出していた親プラント国家が消滅したために、貴重な市場が失われたのも痛い。

「すでにプラントの財政は火の車だ。これ以上状態を放置しておけば、国家が破産しかねない!」

「かといって、戦時国債の購入の義務化を市民が簡単に受け入れる訳が無い!」

戦争は人、金、資源の消耗戦だ。このうちプラントは人と金を使い果たしつつあった。

パトリックもさすがに戦時国債の購入義務化は賛成できず、提案は否決された。

尤も戦費を調達するために、社会福祉と教育が大幅に削減されることとなるが……。

最高評議会を終えると、パトリックはTVを通じて大規模な演説を行った。

何せスピットブレイク、パナマ攻略の失敗、衛星軌道での敗北、カーペンタリアの失陥と大洋州連合の無条件降伏。

一連の敗北と失態はプラントの最高責任者であるパトリックと、彼の支持母体であるザフトの権威を大いに傷つけていた。 

彼はその失点と今回の法案を誤魔化すために、この交渉の開始を自分の成果である、と声高々に演説の中で訴えた。

クライン派では勝ち取れなかった地球連合の譲歩の姿勢……それは自国の武力を背景に可能にしたと己の政策の正当性を訴えると

同時に祖国の窮状を訴え、危機感を煽り、さらなる国民の協力を勝ち取ろうとする物だった。

「市民諸君、ここで諦めてはならない!!。確かに我々は苦しい。だがナチュラルはもっと苦しいのだ!!」

そして、幾分か希望的観測が混じった情報を元に地球連合もまた苦境にあると伝え、国民に希望を持たせようとする。

まぁ実際にパトリックの言うとおり長期の戦争で地球連合構成国にもかなりの悪影響が出ている。

比較的余裕のあるのは大西洋連邦だけだ。兵力の消耗の著しいユーラシア連邦、東アジア共和国、さらにビクトリアを奪還したものの

肝心のマスドライバーを見事に破壊された南アフリカ統一機構。これらの国々の財政は火の車だ。

大西洋連邦は低い金利で資金を貸しているがそれでも限界がある。彼らが国家の破産を回避するには早く矛を収めるしかない。

尤も連合が瓦解する可能性より、先にプラントが内部から瓦解する可能性が高い。所詮、国力で劣るプラントには長期戦は無理だ。

無論、パトリック・ザラはそれを承知している。だからこそ彼は切り札を揃え、一気に決着をつけようと目論んでいる。

パトリックは切り札を揃えるまで市民を結束させ、自分への支持を維持する必要があった。

「市民諸君、君たちには力がある。未来を作る力も、幸福を作る力も。

 市民諸君、君たちには力がある。人生を自由で美しいものにする力も、この人生を素晴らしい冒険にする力も。

 その力を民主主義の名のもとに使おうではないか…団結しようではないか。

 新しい世界のために、人に働く機会を与え、若者に未来を、老いたる者には安全を与える、まっとうな世界のために戦おう!!」

より良き未来のため国民に徹底抗戦を訴えるこの演説は、地球圏内のほぼ全域で見ることが出来た。

そして、そこに住む者たちの多くにプラントが徹底抗戦の姿勢を崩していないと印象付けることとなる。

L4でザラ政権転覆を企むラクス・クラインも、そのひとりであった。

「やはり、彼を排除しない限り戦争は止まりません……」

ラクスはパトリック・ザラを実力で排除しない限り、戦争は終わらないと結論付けた。

そして彼女はさらに過激な手段に訴えることを決意する。それが許されざる手段であるにも関わらず……。





   パトリックがプラントで演説をしているころ、地球連合ではこのワクチン供与に関して議論が活発になっていた。

プラント評議会がワクチンの供与に関して討議しているとの情報を伝えられた地球連合各国は、相手がどんな条件を突きつけて来るか

を想定してさまざまな意見を交わした。そしてこちらがどの程度の譲歩が可能であるかと言うことも。

この中でブルーコスモス派、特にブルーコスモス強硬派は相手に対して無条件でワクチンを供与させるべきだと言い放ち、

穏健派との摩擦を拡大させつつあった。青き清浄なる大地にNJと言う不浄の兵器を打ち込み、地上を荒らした空の化け物が、

今度は悪質な細菌兵器まで使用したのだ。化け物には償いと懺悔をさせなければならない……彼らは本気でそう考えていた。

その考えは多少の譲歩をしても、ワクチンを勝ち取ろうと考える一派と激しく対立することとなる。

この対立はアズラエルにとって頭痛の種であったが、さらに頭の痛くなることが発生しつつあった。

「ここまで来て作戦を中止出来るか……と言うかプラントが本当にワクチンを供与すると思っているのか?」

フェイタルアローを進めるアズラエルの元に、フェイタルアローそのものを中止するような働きかけが行われていたのだ。

曰く「プラントを刺激しないほうが良い」「この交渉を双方の信頼関係を作るきっかけにしたい」等など。

最終回におけるパトリックの狂気が印象に残る修ことアズラエルは、プラントが簡単に譲歩するわけがないと信じきっており、

彼らのそんな意見は甘い、甘すぎるとしか言いようが無かった。

(連中のことだ、どうせ時間稼ぎにでも使う心算なんだろう。演説でも連中は徹底抗戦の姿勢を崩していないしな・・・・・・)

偏見と思い込みは大抵は碌な結果を生まないが、このときばかりはアズラエルを真実の門の前に導いていた。

一連の動きに危機感を感じたアズラエルは地球連合軍最高司令部を通じて、フェイタルアロー作戦の断行を厳命。

同時に機密漏洩を防ぐ為に、穏健派議員の監視をサザーランドを通じて大西洋連邦軍の諜報部に要請した。

さらに独自のコネクションで、各国の有力者に機密保持を徹底させるように要請することとなる。

無論、この根回しによって彼の労働時間がさらにドンと増える事となったことは言うまでも無い。

「おのれ〜どいつもこいつも何で足を引っ張るんだよ……」

自分を残業地獄に叩きこむ連中に殺意が沸きあがり心理的に不安定になっていると感じると、即座にアズラエルは精神安定剤を

飲んで精神の均衡を保とうとする。気の毒なことに最近になって、アズラエルは精神安定剤にまで手を出すようになっていた。

(これで睡眠剤まで必要になったら、ロイヤルストレートフラッシュだな……と言うか俺の体と精神って終戦までもつのか?)

最近、薬漬けになっているような気がしてきた彼は、自分の先行きに不安を覚えた。

だが、そんな彼にさらなる受難が待ちうけていた。

彼個人としては出たくもないお偉いさんが集うパーティーが開かれる前日、国務省から来たサカイの話を聞いたアズラエルは

思わず腰を浮かしかけた。尤も即座にいつものポーカーフェイスを回復して内容を確認する。

「僕と直接交渉……それも明日にですか? やけに動きが急ですね」

アズラエルはこの素早い先方の動きに、何が起こっているのかと頭の中で色々と推測する。

(やはり相手も焦っているのか・・・確かに地球にはザフトと協力していたと思われているオーブへ手を差し伸べる勢力は存在しない。

  孤立無援のオーブが再建を果たすには大西洋連邦の助力がどうしても必要だ)

アズラエルが交渉を望んだサハク家。彼らは予想よりもはやくアズラエルとの交渉を望んできた。

(連中も焦っているのか?)

オーブ本国(正確にはアスハ家)がフリーダムを隠し持っていたことによってオーブは連合、ザフト双方から敵と判断された。

サハク家、特にロンド達は連合に協力してきたが、その功績もアスハ家のせいで台無しになってしまった。

(そう言えば連中、Gのデータを流用してアストレイ作ってたよな……こいつを使うか? でも証拠がないし)

オーブ軍が使用しているアストレイには、地球連合のGの技術を不正に使用されている。

これは彼らサハク家にとって痛い失点となりうるが、アズラエルには確固たる証拠がない。

知っている知識だけでは、彼らには罪を問うことは出来ないのだ。

「………やれやれ、明日は波乱の展開になりそうですね」

サハク家との交渉、さらにVIPが集うパーティー……彼の精神力を著しく消耗させるイベントが迫っていた。







 あとがき

 青の軌跡第27話をお送りしました。

さて次回でパーティー開幕になるでしょう。フレイとアズラエルが直接あうことになります。

ついでにサハク家の使者とも会うことになります……う〜ん、相変わらずアズラエルの胃に痛みを強いる展開ですね(苦笑)。

さらにフェイタルアロー作戦も発動、L4でも色々と動きがあります。

最終決戦までは、まだまだ時間が掛かりそうです。

駄文にも関わらず最後まで読んでくださりありがとうございました。

青の軌跡第28話で御会いしましょう。







 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

古今東西、学徒動員までして戦争に勝った例は存在しません・・・つーか、15歳から徴兵してたのかザフト!(爆)

アスラン達は志願かつ例外中の例外で、普通の徴兵はもっと高い年齢から始まると思ってましたよ、なんぼなんでも(爆)。

 

>何か悪の秘密基地で、あくどい作戦を練る秘密結社の首領の気分だな

そーゆーもんです。グレスコ様も「支配とは悪なのだ」と仰っておられます(笑)。