その日は、風の強い晴天だった。

 

 少女は、丘の上に仁王立ちをし、そして眼下に広がる街を見据えていた。

 

「ふふふ……待ちに待ったときが来たわ!

 多くの英霊達が無駄死にでなかったことの……証のために!
 星の屑成就のために!

 ゼラムよ、私は帰って来た!

 

 来たー、来たー、きたー……

 

 少女の声が木霊する。

「……トリス、あれはゼラムじゃなくてファナンだ」

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうか」

 

 

召喚弐式


接触編「戦慄のブルー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファナンは金の派閥総本部があるのと同時に港町でもある。
 その為、漁から帰って来た漁船とその関係者のお陰で朝から町は活気付いていた。

 中央大通り。

 文字通り、ファナンの中央を南北に縦断する大通りを、一人の少女が行く。

「今日もいい天気ね、シルヴァーナ」

 彼女の名前はミニス・マーン。
 この町を実質的に支配する『金の派閥』の議長であるファミィ・マーンの一人娘にして、召喚術師である。
 ミニスが声をかけた相手は幻獣界「メイトルパ」の住民、ワイバーンのシルヴァーナ。
 彼女の親友であり、頼りにする相棒だ。

 だが、召喚しない限りシルヴァーナとは胸のサモナイト石を通してしか通じ合えず、当然事情を知らないご近所の人々からは『ペンダントに話し掛ける可哀相な女の子』として見られていることを彼女は知らない。

 周囲の目? なにそれ。
 彼女はいいとこのお嬢様であった。

 

 大通りを入り口に向かい散歩していると、人だかりが出来ている。

「なんだろう?」

 ミニスは、野次馬を押しのけて人だかりの中に入っていった。

 そこに居たのは……重なり合って倒れている男女。
 しかもなンかすっごく見覚えのある服装の二人。

 ミニスは視覚情報を脳が認識するや否や、踵を返し走り去ろうとした。

ぐわし

 が一歩遅く、足を掴まれる。

「ふはははははは!」

 突然ガバチョと起き上がり、高笑いを始める行き倒れ(女)。
 ミニスは彼女を知っていた。その忘れたいけど忘れられないくらい濃ゆいキャラクターを

「と、と、トリス! なンでファナンで行き倒れてるのよーーーッ!」

「言わずもがな!」

 いえ、ちゃんと言って欲しいンですが。

 流体力学に基づき高度に洗練されたシルエットを誇る胸を張り、叫ぶトリス。
 人の話を聞く耳など母親の胎内に忘れてきている。

「ミニス!
 私は貴方に、いえ金の派閥全てに伝える言葉がある!

 大声で叫ぶ。
 この時点で、野次馬殆どゼロ。
 ミニスの関係者、とわかった時点でとばっちりを受けるのが恐くて逃げ出したのだ。
 『マーン家に関わるな』、それが不文律として存在するファナンの掟である。

「我等の要求は1つ!
 1.青の派閥エライ!
 2.ドリルマンセー!

 

 

 ……あ、2つか

 

 年中暑いファナンが、この一瞬で陸軍が遭難した冬の大雪山並に寒くなった。

「……も、もう一度言うわよ?

 我等の要求は2つ!
 1.青の派閥エライ!
 2.ドリルマンセー!
 3.私は姉!

 

 

 ……あ、3つか

 あンた妹でしょうが。
 未だ起き上がらず、それどころかピクリともしないトリスの兄・マグナ(01)を見て、ミニスは一人声にならない悲鳴を上げた。

「ま、まぁそれはおいといて!」

おいとくな

「貴方とは、どちらがより素晴らしい獣召喚師か長い間競って来たわね。
 そう、共に旅をして、お互いの背中を預けあってメルギトスに立ち向かっている時も」

「聞けよボケ!」

 無論、完全無視。
 少々駄目っぽい所もあるが、それはマーンの血筋に眠る宿業。
 繰り返すがミニスは『いいとこのお嬢様』である。
 それに対し、トリスは召喚師見習い時代から我が道を『明らかに間違った方向へ』突き走る事で今日まで生きてきた、ワイルドフラワー。
 青の派閥の召喚師にも不良や屑はいるし、当然そういった輩に対する対処法も確立されてる。
 が、トリスは兄と共に絶対にマニュアルには載っていないような駄目っぽい行動で狂乱と絶望を撒き散らし、遂には『ゼラムの悪夢』という二つ名を贈られた真の駄目人間。

 ミニスに、トリスを理解する事は不可能なのだ。

 

 

 マグナについては、別の意味で理解したくないが

 なんだか無意味に疲労したミニスは、さっさと縁を切るべく話をすすめる。

「で、今日は何の用?」

「HA! HAHAHA!」

 トリスは何処ぞの枢機卿の如き悪魔的な笑いを飛ばすと、びしぃっと指を指した。

「今日こそ決着を付けるわ、覚悟しなさいミニス・マーン!」

 ガカッ、ピシャーーーン!

 先程まで見事な晴天だった空に稲光が走る。
 周囲に展開された超絶駄目時空の瘴気を浴び、ミニスも荒木時空を展開する。

「いいでしょう、掛かって来なさい!
 本来なら挑戦された側である私が勝負の方法を決めるべきでしょうけど、ファナンはこの私ミニス・マーンのホームグラウンド!
 特別に、貴方に選ばせてあげるわ!
 さぁ、自分の死に様を選びなさい!!

 さぁ、さぁ、さぁ!

 ミニスの宣言に笑みを一層深くすると、トリスは大きく息を吸い、そして口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「金の派閥、ダサ」

 口喧嘩。
 それがトリスの選んだ対戦方法であった。
 唖然とするミニスに、トリスは追い討ちをかける。

「金の派閥って、あれでしょ?
 『召喚術の有効利用』とかいって、召喚獣で海水を真水に変えたりしてるけど、あの施設すっごくブザマな造りしてるわよねぇ。
 ネスの護衛獣(02)見なさいよ。レオルドのあのドリル!
 性能、外見、あの黒光りする渋み!! 浪漫よねぇ〜」

「……っ、よ……よくも侮辱したわね!?」

 血が滲まんばかりに拳を握り締めるミニス。
 召喚獣による浄水施設は、ファナンの街を支える偉大な施設であり住民皆の誇りでもあるのだ。
 だが、張り詰められた空気を読まない馬鹿が起き上がる。

「黒光り? 俺のXXXも長さ太さ固さ全ておふぅ!

「「貴様は死んでろ!」」

 JET!

 突然復活し、下品極まりない台詞を吐いたマグナにダブルJETアッパーが決まる。

「ま、まぁあの変態はおいといて……」

 青い汁を一気飲みしたような渋面に『恥をかかせおって』と書きつつ、トリスが呟く。
 
 その時、空から一羽の白い影がミニスの肩に降り立った。

「……伝書鳩?」

 足に括りつけられた筒には金の派閥のエンブレムが刻まれている。
 ミニスは、トリスから注意を逸らさずに中の書簡を取り出した。

 其処に書かれていたのは。

 


 ミニス、その者は我々共通の先人の英知を侮辱しました。
 やってしまいなさい、いやさ殺れ♪

ふぁみぃ

 

 

 ズッギャァァァァァン

 ミニスは突然爪先立ち且つ海老反りになって、叫んだ。

「頭ではなく……魂で理解したわ、ママン! 」

 ゆらり、と一歩踏み出す。
 鳩が現れる以前とは打って変って、異様に濃い表情になったミニスを警戒し、トリスは後ずさった。

「金の派閥の召喚師は『ブッ殺す』とは言わない……何故ならそう思ったときには、もう殺し終わっているから」

 トリスは驚愕した!
 ミニスの手は、既に胸のペンダントに触れているッ!!

「だから、使うのならば『ブッ殺した』!

 盟約ではなく友誼により召喚する、来たれメイトルパの飛竜よ!
 おいで、シルヴァーン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……不発。

「あ、あれ? あれあれあれ?」

 相棒が出現しないので半泣きになって焦るミニスに、トリスが指摘する。

「あンたの相棒の名前ってさ、『シルヴァーナ』じゃなかった?」(03)

「あ」

 友達の名前を間違えたら、そりゃ拗ねる。
 呆然とするミニスを嘲笑いつつ、今度はトリスがサモナイト石を懐から取り出す。

「来たれ、ミミエット!」

 トリスの声に応え、ウサ耳と肉球ハンドを付けた少女が空中に出現する。
 が、彼女が攻撃する機会は来なかった。

 突然、横から何者かが攫っていったのである。

「……今の影」
「……まさか」

 二人は頷きあい、そして同時に走り出す。

 

 

 

 

「……うーん、ウサ耳萌え〜。
 肉球プ二プ二〜〜。
 毛皮さわさわ〜〜〜〜〜〜はふぅ」

 裏路地にミミエットを連れ込んで堪能する煩悩魔人。

「「鬼畜は去ね!!」」

 ユニゾンキック。
 マトモに食らったマグナは一人ブルーインパルスで蒼穹の空の彼方へ

 

 

 

OPENING MISSION 1ST ROUND 
RESULT

WINNER:ミニス(クラス:いいとこのお嬢様(偽))
      トリス(クラス:ゼラムの悪夢)

LOSER:マグナ(クラス:外道召喚師)

FINISH BLOW:倫理と羞恥のツープラトンライダーキック

 

 

 

 煩悩魔人マグナが消滅した空を、肩で息しつつ遠い目で眺めるミニス。
 その姿を同じく息が荒いトリスが捉えた時、彼女の目が「キュピーン」と擬音付きで輝いた。

「今よ、レシィ君GO!」

 掛け声と共に、トリスの護衛獣であるレシィが屋根の上から飛び降りてくる。
 ちなみに現在、彼は自分の主によってレオルドとのトレード要員としてネスティと交渉されている事を知らない。

「く、卑怯なりゼラムの悪夢!」

 慌てて回避行動に移るが、彼女は能力ボーナスをMAT(召喚術攻撃力)に全部注ぎ込んでいるので回避能力など無に等しい。
 レシィの爪がミニスに届く目前、トリスは何処からか勝利のワインを取り出そうとしていたその時。

 

 

 悪夢奇跡は起きた。

 

 

「うひょぉぉぉぉぅぅぅううう!」

 レシィの頭上に一人ブルーインパルスとなっていたマグナが何故か落下。
 衝突のショックでレシィ気絶。伸ばしていた腕はミニスの顔には届かず、そのまま重力に引かれ落ちていき……

 

 

 スカートに引っかかって、引き摺り下ろした。

 

 

「あ」

 トリスは、最悪の事態になってしまったことに蒼白となった。

「う」

 不味い。

「う……うぇ」

 逃げろ。

「うえぇ、うえぇぇぇぇ……」

逃げろ逃げろ、にげろにげろ、ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ……………

 

「うわーーーーーーーん!!」

 

 フレアボルケイノ。(04)

 

 

 よりによって路地裏でSクラス大規模召喚術を使った為、あっという間に延焼。

 無論、全員、アフロだ。

 

 

 

 

 

OPENING MISSION 2ND ROUND
RESULT

WINNER:ミニス(クラス:パニック召喚師)

LOSER:トリス(クラス:アフロ )

FINISH BLOW:剣竜ゲルニカ(パニック召喚)

 

 

 

 

 

>>NEXT TO NEW MISSION「金を受け継ぐ者」











 用語解説


(01)この二人は、このSS中では双子。当然公式設定ではない





(02)ゲーム中、ネスティには護衛獣はつかない。レオルドは主人公の初期属性が「機」の場合付く護衛獣。





(03)召喚獣の名前は自由に変更可能だが、一部の召喚獣は名前の中に特定の文字を入れると強くなったり弱くなったりする。
 シルヴァーナはその中でも特殊で、デフォルトから変更すると弱体化する。


 で。

 ミニスとシルヴァーナの馴れ初めを描いた「小説版サモンナイト」内において、
 ミニスはクライマックスのワイバーン召喚時に文中のミニスと同じ場所を誤植っている。すなわち
 『シルヴァーナ』を『シルヴァーン』と呼ぶ。

 友誼によって呼び出すシーンでそれはないだろう。






(04)
 ミニスは『パニック召喚』という特殊能力を持っている。
 これは、消費MP一律20で、クラス毎に定められた特定の召喚獣の中から一匹をランダムで呼び出すものである。
 ちなみにキャラのエフェクトは泣き叫ぶミニス。

 実はこのパニック召喚、最高までクラスチェンジした上で特定の条件を満たすと100%の確率
Sランク大規模召喚術『剣竜ゲルニカ』のフレアボルケイノが発動する。
 範囲:大のSランク召喚術というのは意外とやっかいなもので、最高レベルまで上げた一番MPが多いキャラでも2発でMP切れを起こすという欠点を持っている。
 ゆえに毎回たった20MPでゲルニカを召喚できるミニスは文字通り『最強』のユニットになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 <後書き>

 さぁ〜て皆さんお待ちかねぇ!

 遂に、遂にサモンナイト2オンリーSSの登場だぁ!

 

 

 ……え? 待ってない?

 

 

『嫌』はWRENCHさんの許可のもと書かれています。

また文中の「ママン」はtakaさんのネタを一部使用させて貰っています。

 

 

 

代理人の感想

最強のボーン、ここに降臨ッ(爆笑)!

 

注:イヤボーン・・・超能力を持った女の子(たまに男)が絶叫すると大爆発が起こると言う、
           要するにパターンなアレの事。

 

 

・・・・・・・・・日和見さん、さすがだ(爆)。