機動戦艦ナデシコSEED

PHASE01. 「その名はナデシコ」


 

 

 

 *ナデシコブリッジ内

 

 記憶が確かならそろそろですね・・・。

 

 ビィイーーー   ビィイーーー   ビィイーーー

 

 突如エマージェンシーコールが艦内、そしてドッグ内に響きます。

 

 「なんなの、これ。避難訓練?」

 

 メグミさんが呑気に聞いてきます。

 戦艦で警報が鳴る状況は、一つです。

 

 「敵襲です。…佐世保周辺に敵部隊多数接近中。オモイカネ?」

 『今周辺マップを表示するよ』 

 

 私はすぐにオモイカネにアクセスして周辺状況をウインドウに表示する。

 

 「敵襲・・・・・って、敵が攻めてきたってこと?」

 「はい。そうです」

 

 私が断定するとメグミさんは黙ってしまった。

 実戦ということは、本当にケガをしたり死んだりするわけで。

 メグミさんには少なからずショックだったみたいです。

 

 「ちょーっと!どうなってるのよ!?この艦は!」

 

 ブリッジに騒々しい男が入ってきます。みなさんお馴染みのあのキノコさんです。

 

 「敵襲だってのになんで動かないのよ!対空砲火とか!迎撃機出すとか!

 色々することがあるでしょ!」

 

 ムネタケ・サダアキ副提督。

 戦闘経験の少ないナデシコのクルーを指導するというフレコミのもと、

 地球連合軍から派遣されているお目付け役です。

 この人この後、ナデシコを占拠しようとするんですけど・・・、どうしましょう?

 まぁアキトさんにお任せしましょう。

 印象は・・・ネチネチでキャンキャン小うるさい嫌味な男性という所でしょうか?

 

 「だからワタシは民間人に軍艦を任せるなんて反対だったのよ!」

 

 ちなみに男性です、この人は。間違えないように。

 

 「彼女たちは各分野のエキスパートです。民間人とはいえ、

 その資質は軍人に勝るとも劣りません」

 

 むっつりとした顔を崩さずゴートさんは言います。

 ゴートさん相変わらず顔がごついです。

 

 「ならさっさと反撃しなさいよ!」

 「無理だ」

 「な、何が無理なのよ!あんた、さっきエキスパートがどうかって…」

 「ムネタケ、静かにせんか」

 

 いかにも歴戦の将官といった風体の老人がムネタケさんを嗜めます。

 フクベ提督。

 またお懐かしい方です。未来で私が軍に入る際、色々教わりました。

 

 「て、提督・・・・ですが・・・・」

 「マスターキーがない」

 「マスター……キー?」

 「ルリ君」

 

 どうやら私が説明するみたいです。

 

 「マスターキー。クーデター等による艦の不法占拠を防ぐためのセキュリティシステム。

 ネルガル会長とナデシコ艦長によってのみ使用可能で、マスターキーが無い状態では、

 ナデシコは生活環境等の最低限を除いてシステムダウンします」

 「なんでそんな面倒なシステム作ったのよ!」

 「ですから、クーデター等による艦の占拠を防ぐため・・・」

 「クキーーーッ!!」 

 

 副提督が頭を掻き毟ります。ハゲちゃいますよ?

 

 「艦長はまだ来ないの!このままじゃやられちゃうじゃない!

 このまま死ぬなんてアタシはいやよっ!!」

 「これ、ムネタケ!!」

 

 フクベ提督が副提督を諌めます。

 そろそろでしょうか?

 

 「お待たせしました~!私が艦長で~す!」

 

 お気楽な声と共に、ネルガルのマークが入った白い制服を着た女性が入ってきます。

 まるで女子大生って感じです。

 そんな昔のユリカさんに会って私は不覚にも涙がでそうになりました。

 いけないいけない・・・。

 

 「私が艦長のミスマル・ユリカで~す!!ブイッ!!」

 「「「「「・・・・・」」」」」

 

 みなさん艦長に気まずい視線を向けながら固まってます。

 後ろではプロスさんがハンカチで汗を拭いてました。

 まぁそうでしょう、今時いませんから・・・ブイサインなんて。

 遅れてジュンさんも到着です。・・・なぜかコケそうになってますけど。

 やっぱりこの頃のジュンさんはどこか頼りないですね。

 アマリリスに乗ってた未来では中々立派になってましたが。

 

 (これでみんなのハートをキャッチ!)

 

 この時ユリカさんこんなこと考えてたそうです。

 

 「・・・アキトさん」

 

 そろそろアキトさんがエステで出撃するでしょう。

 そんなことを思っていると私の目の前に小さくウインドウが開く。

 

 「そっちはどうだい?ルリちゃん」

 「先ほどユリカさんが到着しました。もうすぐナデシコのマスターキーを使用しますので」

 「了解・・・俺は今から先に地上へ出る」

 

 アキトさん準備万端です。

 

 「了解しました。今更バッタやジョロ如きにアキトさんが倒されるとは思いませんが・・・

 気を付けて下さいね。」

 「ああ、解ってるよ・・・先は長いからな。あ、そうだ。モビルスーツとかはいる?」

 「いえ、襲撃の中にモビルスーツなど、ザフトの機影は確認されていません」

 「そうか。よかった。いきなり対人戦闘はキツイからね。それじゃ」

 「はい。御武運を」

 

 そう言ってアキトさんは通信を切る。

 あちらはOKのようですが・・・。

 

 「艦長。事態は切迫しております。さっそくですがご判断を」

 

 プロスさんは相変わらずの調子です。

 

 「艦長。さっそくだがキミの手腕、拝見させてもらおう」

 「なんなのよ!この小娘は!こんなのが艦長!冗談じゃないわ!!」

 

 ムネタケさんが後ろで騒いでます。相変わらすうるさいですね・・・

 

 「はい!」

 

 返事をした後、戦況マップを見て腕を組んでなにやら考えています。

 案が纏まったのか、ミナトさんの方を向いて、

 「操舵士の方、相転移エンジン始動準備してください」

 「はーい・・・ルリちゃんお願いねー。

 それから私の名前はハルカ・ミナトよ。よろしくね?艦長」

 「はい。よろしくお願いします」

 

 にっこり笑みを交わしながら挨拶をしています。

 

 「それと通信士の方、ドッグにいる作業員に退避勧告を」

 「は、はい。わかりました」

 

 メグミさんはまだ慣れないという感じです。

 

 「でわ、マスターキーをっと!」

 

 そんなこんなでマスターキーを差し込みます

 

 「相転移エンジン点火」

 「了解・・・・相転移エンジン、始動します」

 「かーんちょう!どうするつもりよ!?・・・・迎撃しなさいよ!迎撃!」

 「お言葉を返すようですが、どうやって迎撃を?」

 

 ユリカさんが返事を返す。その表情は実に落ち着いてました。

 最初の登場のような、女子大生の雰囲気ではありません・・・

 

 「そんなの、砲を上向きに撃てばいいじゃない!」

 「上で戦っている味方も巻きこみます」

 「・・・ど、どーせもうみんな死んでるわよ」

 

 こんなのでよく少将までなれたものです。

 お父さんの方はご立派でしたのに・・・

 

 「非人道的ぃー」

 「ちょっとヒドイわよねー」

 

 メグミさんとハルカさんが口を揃えて抗議します。

 当然ですね。味方ごとなんて。

 

 「う、うるさいわね!」

 「よろしいですか?」

 

 区切りが付いたと見たのかユリカさんが口を挟みます。

 

 「私の考えとしては、本艦は準備出来次第、海底ゲートを抜けて海中へ。

 このポイントに到達と同時にナデシコ浮上。グラビティブラストで一気に殲滅します」

 

 みなさん一瞬沈黙します。先ほどの登場からは考えられないほど聡明だからでしょうか?

 

 「うむ」

 「やりますなぁ」

 「ちょっと!大丈夫なの!そんな作戦で!」

 

 反応は様々ですが、おじさん2人には好反応みたいです。

 

  「なるほど、グラビティブラストならあれだけの数でも殲滅できるかもしれんな」

 

 ゴートがぽつりと言います。

 

 「でもさぁ、敵もそうそう固まってちゃくれないんじゃない?

 それにエンジンはここじゃ反応鈍いし」

 

 ハルカがもっともな意見をいいます。

  相転移エンジンは、

 真空の空間をエネルギー順位の高い状態から低い状態へ相転移させる事でエネルギーを取り出します。

 大気圏内での運用にはあまり適してないので相転移エンジンもフルに活用することは出来ません。

 主砲であるグラビティブラストの連射などができないのです。

 今回、色々追加武装があるみたいですが、やはりグラビティブラストが一番火力あります。

 

 「その点に関しては囮としてエステバリスをだし時間を稼ぎます。

 囮役のエステバリスは進路をこちらの海岸線へ向かわせ、敵をおびき寄せます。

 エステバリスがこのポイントに到着すると同時にこちらも浮上。グラビティブラストで一掃。

 各個撃破です。ぶい!」

 「「「「「「「なるほど・・・・」」」」」」  

 

 さすがユリカさんです。 地球連合大学戦略シミュレーション主席。

 実習で無敗を誇ったというだけのことはあります。

 

 「それではエステバリス、発進お願いします!」

 「あ、申し訳ありません艦長。

 パイロットのヤマダジロウさんは先ほど骨折なされまして・・・」

 

 プロスさんが控えめに艦長に意見をいいます。

 ユリカさんは・・・、

 

 「ええぇ~~!!」

 

 ユリカさんビックリしてます。

 そりゃそうですよね。いきなりパイロットが骨折なんて。

 

 「他にパイロットはいないんですか~!?」

 「申し訳ありません。も~う一人いるんですが・・・、到着が遅れていまして、はい」

 

 プロスさんが申し訳なさそうに言う。

 そういえば。

 前のナデシコにはいくつか違いがあります。

 まずは内部ではブリッジが一番変わってます。

 基本的にあまり変わらないのですが、席の位置とか、数が違います。

 武装などが増えたため、火器担当の席などが増設されています。

 他にもちょこちょこ違いますが、パイロットの人数も前回と違いました。

 

 でも、大丈夫。この艦にはあの人が、アキトさんがいるから。

 おそらくアキトさんならばモビルスーツ相手でも楽勝でしょう。

 それほど凄まじいですから。アキトさんの腕は。

 

 「搬出用エレベーター上昇中。囮のエステが1機出撃しています」

 「「「「「「「「えっ!誰が!!」」」」」」」」

 「ウインドウ、表示します」

 

 搬出用エレベーターに乗って上昇するエステ。

 そしてアサルトピットの中が表示されます。

 

 「おや!彼は!?」

 「知っているのかね?プロスペクター君?」

 「ええ、先ほどコック兼臨時パイロットとして雇ったテンカワアキトくんです。

 そういえば忘れてましたな」

 「コック兼臨時パイロット?」

 「ええ。IFS保持者でしたので・・・」

 「なんでコックなんかにパイロットやらせてるのよ!非常識よ!」

 「あれ?この人どっかで会ったような~」

 

 ・・・やっぱりムネタケさんはうるさいです。その内なんらかの処置をしないといけませんね。

 

 「俺は・・・テンカワ・アキト、コック兼臨時パイロットです」

 

 昔と違って落ち着いてますね、アキトさん。

 

 「大丈夫なの~彼?」

 「もしもし、危ないから降りたほうがいいですよ?」

 「君、操縦の経験はあるのかね?」

 「アキト?う~んどっかで会ったっけな~?う~ん、う~ん」

 

 大丈夫ですよ、ミナトさん。

 今のアキトさんにその心配は無用です、メグミさん。

 今現在、アキトさんほどエステの操縦経験ある人はいませんよ、ゴートさん。

 ユリカさん、アキトさんです、アキトさん。あなたの幼馴染ですよ。

 

 「困りましたな・・・そういえば危険手当を手配してませんでした」

 

 大丈夫ですよ、プロスさん。

 アキトさん怪我なんてしませんから。

 それにしても、相変らず・・・騒がしい人達です。

 そして・・・

 

 「あ~!アキト!! アキトでしょ!!

 アキトアキトアキトアキトアキトアキトアキトアキト~!!」

 

 ユリカさんが思い出して大きな声を上げた後。

 アキトさんは一瞬顔が笑みに崩れてしまいました。

 もちろん気付く人なんていないでしょう。そのくらい一瞬です。

 

 「…ああ、そうだよユリカ、久しぶりだな。それよりなんでそんなとこいるんだ?」

 「ユリカはナデシコの艦長なんでよ!エッヘン!

 

 ホント、いつもの、そして私が知ってるユリカさんです。

 

 「久しぶりだね~、アキト!あれ、そういえばいつ地球に来たの?」

 「あ~それは・・・」

 「いやぁん、ひょっとしてユリカに会いに来てくれたの!?ユリカ感激!!」

 「・・・、ユリカさんの欠点って、アキトさん絡みですよね」

 「あれ?ルリちゃん誰に向かってしゃべってるの?」

 「いえ、ミナトさん気にしないでください」

 

 ※私が書くルリはたまに読者に向かってなんか話しかけます。TV版みたいなもんです

 

 アキトさんどうやら限界のようです。笑ってます。

 

 「さっすが私の王子様だねアキト!

 ユリカがピンチの時にまた助けに来てくれたんだもの!」

 「ユ、ユリカ…ちょっと、アイツ誰なの?」

 「そうだよジュン君。アキトは私の王子様なの!私がピンチになったら絶対助けてくれるの!」

 

 ジュンさん、声が少し震えてます。ユリカさん、こうゆうとこ残酷ですよね。

 ご愁傷様。

 ジュンさんに言いたいことを言うとユリカさんはアキトさんに向かって、

 

 「ねー、アキト!?」

 

 なんて同意求めてます。

 ・・・なんか本当にジュンさんかわいそうですね…。

 アキトさんは苦笑いしながら、

 

 「ははは、まぁ俺が王子様かどうかは置いておいて。

 そろそろ地上にでるから切るな。まぁ囮ぐらいできると思うし、がんばるよ」

 「うん、がんばって!すぐにあなたのユリカが向かうわ!」

 

 ユリカさんテンション上がってます。

 みなさん少々引き気味ですが・・・。

  

 「テンカワ機、地上に到達します。

 作戦開始、どうぞ」

 「了解!」

 

 私の通信と同時にウインドウが閉じられました。

 始まります。戦争が・・・

 

 「こちらも準備よろしくおねがいします」

 「はいはいっと、艦長~?エンジンおっけ~よ」

 「分かりました。ではドッグへの海水注入後、微速前進。

 ゲート解放後、全速前進。海底ゲートを抜けてください」

 「了解よ。ルリちゃんサポートお願いね?」

 「わかりました」

 「海底ゲートを抜けてポイント到達後反転。

 エステバリスの合流ポイント到達に合わせて上昇。

 離水上昇と共にグラビティブラスト発射。タイミングお願いします」

 「了~かい」

 「ルリちゃん、地上の状況に注意おねがい」

 「わかりました」

 「ドッグ内の避難状況は?」

 「すでに完了しています」

 「おっけ~。では、コンディションレッド発令、第一戦闘配備」

 「了解しました。こちらブリッジ、第一戦闘配備。繰り返します、第一戦闘配備。繰り返します・・・」

 

 ブリッジの雰囲気違います。前はもっとお気楽な感じだったのに。

 

 「それでは・・・、ナデシコ。発進!

 

 ・・・ユリカさん。なんかすごく凛々しいです。

 みなさんもそう思いますよね?

 

 「いやぁ~、わざわざ交渉して引き抜いた甲斐はありましたなぁ~」

 「うむ。さすがだ、艦長」

 「若いのに中々じゃのう」

 「きぃぃ~~~!!なんなのよ!この戦艦は!」

 「ユリカ・・・さすがだね」

 「ありがとう!ジュンくん」

 「第一印象とえらい違うわね~」

 「わたしもびっくりです」

 「えっへん!」

 

 やっぱり気のせいです。いつものナデシコです。

 ・・・こんな感じですが、これからナデシコ初の戦闘が始まります。

 

 

 

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