機動戦艦ナデシコSEED

PHASE02. 「それぞれの思い」


 

 

 

 C.E.68年、『血のバレンタイン』の悲劇によってプラントと地球が会戦して11ヶ月。

 C.E.69年、『木星トカゲ』の火星侵攻によって更に泥沼化した、混沌としたこの世界。

 そんな世界にジャンプしてしまった私とアキトさんとラピス。

 読者のみなさんもわかっていると思うけどハーリーくんとサブロウタさんも。

 あ、本編の私はサブロウタさんも戻ってるなんて知りませんから、ココ突っ込まないように。

 私達みたいな人を『逆行者』っていいます。詳しくは他のSS見てください。

 そんなこんなでこの世界に来てしまったわけですが、正直びっくりしました。

 私の知ってる世界と違うのですから。

 でも『ナデシコ』はちゃんとありました。他のみなさんも。

 これからどうなって行くのかはあまり分かっていませんが、がんばっていきます。

 とりあえずの所、目の前の問題を片付けることにしましょう。

 その問題とは・・・

 

 (オモイカネライブラリ、ホシノ・ルリ個人的航海日誌より抜粋)

 

 

 

 *地球連合軍極東アジア連邦、某ドッグ内

 

 「この非常時に民間用戦艦だと!」

 

 スクリーンにはくだんの件、ネルガルの製造した戦艦が写し出されている。

 前方の先端両舷側から突き出してるブレード部分が特徴的な奇妙な形の戦艦。

 その他にも中々の武装がそろえてありそうだな・・・。

 

 「ネルガルは何を考えている!」

 「あの威力を見た以上、戦艦ナデシコを放置するわけにはいかん!」

 

 先の戦闘で得られた映像データが次々に映し出される。

 確かに・・・、凄まじい威力だ…、しかし・・・・。

 

 「あの艦の艦長は君の娘だそうだな、・・・ミスマル提督」

 

 むぅ、痛い所を・・・。

 

 「もしナデシコの艦長なら・・・」

 「連合軍への参加を望むなら・・・受け入れよう」

 

 このゴリ押し共め!ワシの娘がそう簡単に艦を受け渡すと思うか!

 ・・・しかし私が行けば大丈夫だろう。あの子は父親に逆らう子ではない。

 そこを突いてきたか・・・、この狸め。

 こんなことをしては軍の品位を疑われるだけだぞ!

 

 そんなことを思っているうちにナデシコのデータが映しだされたウインドウが閉じる。

 

 「提督…」

 

 確かに・・・、こいつらの言うこともわからんでもない。

 確かにあの艦の性能は我が極東アジア軍にほしい。

 あれがあればザフトや木星トカゲの侵攻を抑えることが可能だろう。

 やれやれ、やっかいな仕事が回り込んできたものだ…。

 

 「直ちに発進準備、機動戦艦ナデシコを拿捕する」

 

 そういって私は基地を離れる・・・

 ふぅ、しかし娘に会えるのか…

 

 回想にひたりながら、思わずにやっとするミスマル提督。

 現在、ミスマル提督の乗る戦艦トビウメはナデシコを拿捕すべく追跡中である。

 

 「ナデシコ進路補足。目的地不明」

 

 (おっといかんいかん。にやけてる場合ではないな、部下に示しがつかん)

 

 「レーダーに察知されぬよう注意」

 「前方にチューリップ、ただし活動は停止しています」

 

 むぅ。活動は停止しているが、一応注意が必要だな・・・。

 護衛艦には深度を上げて監視してもらうとしよう。

 

 「そのまま前進。トビウメ浮上後は護衛艦、深度上げて待機」

 

 このトビウメと護衛艦クロッカス、パンジーは元々宇宙での運用を前提とされている。

 そのため装甲が厚いので大気圏内で運用する際、潜水モードをつけてしまった万能艦である。

 そのおかげでナデシコに気付かれず近づけるのだ。

 

 ※早くもSEEDの設定が生かされてます。みなさんもご存知、SEEDデスティニーです。
   アークエンジェルの新機能と同じ理由です。え?早すぎ?そんなの知りません。 

 

 (久しぶりだなユリカ。今頃何をしていることやら・・・)

 

 やはり顔が緩むのを抑え切れなかったミスマル提督であった。

 後ろでは部下がこっそりため息をついていたりする。

 

 (提督の娘バカは今に始まったことじゃないからなぁ)

 

 部下にバレてないと思っているミスマル提督であった。

 合掌。

 

 

 *ナデシコ艦内

 

 そのうわさの艦長は何をしているのか、少し見てみよう。

 

 

 「ふんふんふっふ~ん♪♪」

 

 今私はユリカさんの隣で一緒に歩いています。

 目的地は勿論アキトさんの部屋。

 艦長自ら率先して艦内の風紀をブチ破ろうとするとは大胆です。

 ・・・ユリカさん、アキトさんが関るとダメッ子ですから。

 

 「アキト~アキト~アキアキアッキト~♪」

 

 歩きながら踊りだしそうな雰囲気です。

 

 (ホント・・・、うれしそうです)

 

 私はそのうれしそうなユリカさんを見てうれしくなる。

 だって未来のユリカさんは・・・。

 そのことを考えたら少し気が重くなってしまいました。

 そう、未来のユリカさんは・・・

 

 

 

 *回想  日本某病院内、病室

 

 「待ってるから、わたし・・・」

 

 病院のベットに横たわりながら、ユリカさんは静かにそう言った。

 火星の後継者から救い出してようやく安定した容態。

 でもまだユリカさんは安静中です。

 

 「待ってるよ…、私」

 

 ユリカさんは私をじっと見つめながらそう言う。

 

 「だって・・・・」

 

 そして・・・

 

 「アキトはユリカの王子様だもの。

 またこうしてユリカの手を取って助けてくれるもの」

 

 布団から手を出して、ゆっくりと私の手を握りながら、

 ユリカさんにとっての『魔法の言葉』を唱える。

 遺跡との長期融合によってやつれたユリカさんの手。

 私はその手をゆっくりと、ぎゅうっと握り返す。

 そうじゃないとどこかに消えそうで不安で・・・

 

 「ユリカさん…」

 「だから大丈夫だよ」

 

 でもユリカさん、アキトさんは言ってました。

 もう戻れない・・・と。俺の手は汚れすぎた。ユリカの手を握れない・・・、と。

 私は静かにそう伝える。

 

 「アキトさん…言って…いました…。『俺を忘れて幸せになってくれ』…と」

 

 ぽつぽつと私は伝える。

 アキトさんの言葉を。

 

 「『もうお前と一緒にラーメンをはじめることも出来ない』…と。

 アキトさん、ダメなんです…、味覚が…」

 

 アキトさんの思いを・・・。

 ここ最近ずっとアキトさんとラピスの2人を追いかけて聞けた…、伝言です。

 

 「『俺は復讐に駆られるあまり、殺しすぎた。最早後戻りができない所まで来てしまった』・・・と」

 

 わたしは何も出来ない。

 アキトさんを止めることも。ユリカさんを助けることも。

 こうしてただ言葉を伝えるための伝言人にしかなれない。

 

 私達は家族なのに・・・

 

 「『すまない。最初で最後の・・・、俺のわがままだ。俺が・・・家族に言う・・・』」

 

 それが今までに聞けたアキトさんの伝言です。

 わたしはただ伝えることしかできない・・・。

 わたしは…、無力です。

 わたしは顔を伏せる。

 

 

 「ルリちゃん」

 

 ユリカさんが私に呼びかける。

 わたしはそっと顔を上げてユリカさんの顔を見る。

 そこには・・・

 

 「ありがとうね。すごく・・・、すごく辛かったよね?」

 

 やさしい笑みを浮かべて私を見るユリカさんがいた。

 

 「辛かったよね?私の代わりにアキトを追い続けて・・・」

 

 どうして。

 

 「ごめんね?ルリちゃん、…ごめんね?」

 

 どうしてあやまるのだろう。一番辛いのはユリカさんのはずなのに・・・

 

 「ごめんね?ルリちゃん、辛い思いばかりさせて・・・。

 私、だめなお姉ちゃんだね?」

 

 一番辛いのはユリカさんのはずなのに!

 

 「アキトもひどいよね?

 こんなかわいい妹に心配かけて、辛い思いさせて。

 私達だめだね?ルリちゃんに迷惑かけっぱなしで、ホント…ダメダメだね?」

 

 そういってユリカさんは私の頬を撫でる。

 ゆっくり、ゆっくりと・・・

 もう耐えられなかった。ユリカさんのやさしさが。

 私は嗚咽を漏らす。そして立つこともままならず膝を突いて顔をユリカさんの胸に押し付ける。

 

 「辛かったね?ルリちゃん、ゴメンね?」

 

 またユリカさんはあやまって、

 そして私の頭をそっと撫でる。何度も何度も・・・・何度も何度も・・・・。

 私はしばらく泣き続けました……。

 

 

 そして・・・・、私が落ち着いた頃を見計らってか、ミスマル提督が入ってくる。

 たぶんずっと聞いていたのだろう。提督の目も少し赤くなっていた。

 

 「すまないな、邪魔をして」

 「いえ・・・」

 

 私は少し恥ずかしくなって顔を赤く染める。

 泣いたことなんていままであっただろうか?

 初めてだったかもしれない。

 

 「それでその・・・、これからどうするつもりだね、ルリくん、ユリカ」

 

 控えめに提督が聞いてきます。

 やはり父親としては気になるのでしょう。

 

 「私は引き続きテンカワ・アキトの追跡に向かいます。

 なんとしてもユリカさんの前にひっぱりだしますので」

 

 私はきっぱりとそう言う。

 アキトさんは自分がコロニー襲撃による大量殺人を引き起こしたと思っているかもしれないが、

 正確にはあれは、火星の後継者達の証拠隠滅による災害だ。

 直接的にはアキトさんは関係ない。

 証拠も揃っている。

 でもアキトさんにはそうは思えないのだろう。

 自分が復讐に駆られて、それに周りが巻き添えを食らったと考えている。

 自己嫌悪しているのだ・・・それもどん底に。

 説得は難しいけれど、わたしはあきらめない。

 ユリカさんにとってそうであるように、私にとっても・・・大事な人なのだから。 

 

 「私は・・・」

 

 ユリカさんは一旦言葉を切って、そして・・・

 

 「私はアキトのお嫁さんです。だから・・・、アキトを待ちます。

 いえ、体調が良くなったらこっちから追っかけるまでです」

 

 そう言ってユリカさんは自分の父親をじっと見つめます。

 提督は・・・にやっと笑いながら、

 

 「お前は昔から一度言ったらそれを曲げない頑固者だったな。

 やれやれ、誰に似たのやら」

 

 少しさびしそうに、でもやっぱりうれしそうに言いました。

 

 「お父様ですわ、ふふっ」

 

 ユリカさんも微笑む。

 それを見て私も、やっぱり笑っていたみたいです。

 

 

 それからしばらく談話した後、提督は病室を後にしました。

 

 「早い所、我が息子もさっさと連れ戻さんとな!まったく、ワシのかわいい娘達を泣かせおって」

 

 私も入っていることに驚きましたが提督は、

 

 「何を言っておる。君はユリカの妹なのだろう?

 さっきもそんな感じだったが。それなら私の娘ということだ」

 

 そういって提督は去っていった。

 美人姉妹か…中々いいものだな、妻に報告しなくては・・・

 なんて呟いてました。

 

 こうして辛い時間を超え、

 流されるままに生きていた私が、

 ただ居場所を与えられるがままだった私が、

 ようやく手に戻すことができた、引き裂かれてしまった私の家族。

 

 

     私とアキトさんとユリカさんの・・・帰る場所。 

 

 

 こうして、私はまた、歩き出す。家族と一緒になるために・・・

 

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