第八話 新たなる侵略者




アスランはリムと1日違いで郊外の墓地に来ていた。

その彼の目の前には一つの墓石がある。彼の母親、レノア・ザラの墓標だ。

だが、その下にはユニウス・セブンで犠牲になった人々と同じ様に遺体が存在しない。

自分の母親の様に何の罪の無い人であろうと、大切な誰かの家族である人だろうと関係無しに死んでいく、それが戦争だ。

そんな人達を増やしたくない為、大切な人を守る為にアスランは軍に入ったのだが、

(大切な人の内の1人と、キラと戦う事になるなんて・・・)

キラの事を考えると、軍に入るときにした覚悟が揺らぐのを感じた。

(この手が血に塗られようと、大切な人を守れるならばそれでいいと思っていた・・・だが、それが大切な人の血だったとしたら・・・)

アスランはそこまで考えると頭を振った。

まだ倒さねばならないと決まった訳ではない。

キラを説得するか、少し乱暴ではあるが機体を無力化してこちらに連れ戻せば済む事だ。

アスランは改めて自分の意思を確認し、ふと少し離れた所の何も無い場所を見た。

そこには、元は花であったろうと思われる灰が少し残っていた。

その場所はリムの父親の墓である事を知っていたアスランの口から言葉がこぼれた。

「リム・・・来てたのか・・・?」

たたずむ彼のリストウォッチから非常呼び出しのシグナルが鳴った。




アークエンジェルに戻ると、MSデッキでは既に修理作業が始まっていた。

「・・・ゲシュペンストも並行して直すのか?」

キョウスケは何人かの整備班が、ヘリオポリスで大破したゲシュペンストに手をつけているのを見てタスクに問いかける。

「そうっす。ロンド・ベルの整備班を何人か連れてきたから直すって、アストナージさんが言ってったすよ」

「だが、パイロットはどうする? 現状でPTを操縦できるのは俺とエクセレン、ブリットの3人しかいないが・・・」

「一応、直すだけ直しておくそうっす。何時でもアルト、ヴァイス、グルンガスト改のどれかをオーバーホールできるようにって」

タスクの言葉に頷きながら甲児達の方に視線を向けると、甲児は珍しく難しい顔をして考え込んでいた。

「どうしたんだ、甲児?」

キョウスケが問う前に、カミーユが気付き話しかける

「ああ・・少し変だなって思ってよ・・・」

「私みたく、あまり食事を取らないのに体重が増える事とか?」

「それはエクセ姉さんが運動しないからじゃないっすか?」

「タスクく〜ん・・・2、3日何も食べられなくしてあげよっか〜?」

「冗談なんで、そのヒットマンスタイルを解いてほしいっす・・・」

「エクセレン、タスク。少し黙っていろ・・・なにがだ甲児?」

キョウスケが2人を止めると甲児に話を促す。

「ああ。ベガ星宇宙軍が逃げていった方なんだけどよ・・・なんか月方面に向かっていた様な気がするんだ。
あの損傷でどっかに襲撃を掛けるなんて考えらんねぇし・・・」

甲児の言葉を聞いて、アムロが少し考え、

「・・・ひょっとしたら、月、もしくはその近くに基地があるのかもしれないな・・・」

「でも、月にも連邦の基地がありますし、それにフォン・ブラウンやグラナダに大勢の人が住んでいるんですよ?
近くに基地なんか造れば連邦がすぐに発見してますし、敵も街に攻撃を仕掛けたりするんじゃないんですか?」

アムロの考えにキラが異を唱えるが、フラガが首を振り、

「そうでもないんだよ。今、月の周りにはパルマー戦役時の残骸やら地球の引力に引かれた廃棄コロニーの破片がたくさんある上に、
残留ミノフスキー粒子の濃度が高くてレーダーが使い物にならないんだ。あそこで基地を造ってたとしても、そう気付かれる事はないだろう」

「でも、グラナダやフォン・ブラウンに攻撃を仕掛けていないのは少し気になりますね」

フラガの言葉にコウが少し考えながら言う。

「・・・今ここで考えても仕方が無いな。第8艦隊と合流したら、ハルバートン提督に報告しておこう。
ただでさえ、月は木星蜥蜴に狙われているんだ。さらに第3の敵の基地を放っておいて負担を増やす必要はないからな」

アムロの言葉に全員が頷いた。




非常呼び出しから3時間後、アスランはリムと共に宇宙港へと来ていた。

そこにはクルーゼとパトリックの姿があり、アスランは父の姿を見て驚いた。

リムも驚き小さく呟く。

「珍しいわね・・・息子を見送りに来る様な性格ではないし・・・」

パトリックはリムに目を向ける事無く、アスランに出し抜けに問いかけてきた。

「アスラン、ラクス嬢の事は聞いているか?」

「ラクス・・・いえ?」

アスランはそのままリムの方を見て、『何か聞いていないか?』と視線で問いかける。

「・・・確か追悼式典の準備があるとか言ってたわ」

「そうだ、それでユニウス・セブンに向かっていた視察船が消息を断った」

リムの後をクルーゼが受けて簡潔に言う。

アスランとリムはその言葉に衝撃を受けて声を失った。

「―――まさかヴェサリウスで捜索、救援に向かうのですか?」

なんとかアスランはショックから立ち直り、クルーゼを見る。

「オイオイ、冷たい男だな君は。そんな事言うと、またリムに殴られるぞ」

「まあ、後で殴りますけど・・・ラクス捜索の為に出港が早まったんですね。でも、ミノフスキー粒子の所為で連絡が取れないだけの可能性は?」

リムの言葉にクルーゼは首を振りながら答える。

「私としてもそう思いたいのだが、すでに捜索に向かったジンが、視察船の予定コース上で爆発光を確認したという報告を最後に
連絡が取れなくなった。ジンのバッテリー容量からするともう動けなくなっている筈だ」

その言葉を聞き、2人の顔が険しくなるが気にせずクルーゼは続けた。

「ユニウス・セブンは地球の引力に引かれ、現在はデブリベルトの中にあるが明確な場所は解っていない。
しかし、嫌な場所にある事に変わりはない・・・最新の報告ではあの周辺で異星人の機体が多々目撃されているからな」

確かに嫌な場所だ。地球に近すぎるが、連邦がうろついて民間船を襲うとは思えない。

だが、異星人に連邦もプラントも関係ない。

もし、デブリベルトを拠点にしているのならば、そこに入って来た民間船を逃す理由は無いのだから。

考え込むアスランに、パトリックが話しかけた。

「ラクス嬢とお前が婚約者である事はプラントの誰もが知っておる。なのにお前がいるクルーゼ隊がここでのんびりとしている訳にはいくまい」

言うだけ言うと、この場に用は無いかのように背を向け、そのまま最後に念を押す。

「彼女はアイドルなのだ。頼むぞ。クルーゼ、アスラン」

パトリックの後ろ姿を睨みながらリムは嫌悪を込めて言い捨てる。

「私には何にも無し・・・か。 まぁ、言われても嫌だし、面と向かって言われたら顎を叩き割りたくなるしね」

リムの言葉に寒気を覚えるが、アスランもリムと同じ様に軽い嫌悪を感じながら父を睨んでいた。

「・・・彼女を助けてヒーローの様に戻れ、と言う事ですか・・・」

「三流喜劇でもあるまいし・・・」

「もしくは・・・その亡骸を抱いて号泣しながら戻れ、とも取れるが・・・」

クルーゼの言葉にアスランは驚き彼の顔を見る。

上官は時々、無神経と言うより冷酷な所を垣間見せる。

その視線に気付き、クルーゼは薄く笑い言葉を続ける。

「ザラ委員長は事態がどちらに転ぼうと、君が行かねば話にならないとお考えなのさ」

「あいつの考えが如何であろうと、ラクスを捜索に行くのに異論はありませんが・・・隊長」

リムはそこまで発言すると、目を細めてクルーゼを見る。

「次にそんな無神経な事を言ったら、いくら上官でも私は黙っていませんからね?」

「ふっ、肝に銘じておくとしよう。私としてもキミの鉄拳を受けたくはないのでね」

クルーゼは殺気を放つリムの視線を薄く笑いながら受け流した。




ロンデニオンから出発して12時間、アークエンジェルはデブリベルトの近くを通過していた。

「再度確認しました。こちらの索敵範囲内に敵艦、敵機の反応ありません」

レーダー士の報告に、マリューはホッと息をついた。

「恐らく補給が必要になったんだろう。あのザフト艦は、ヘリオポリスからこの艦を追跡し続けていたそうだからな」

アドバイザーとしてブリッジに詰めているアムロが言う。

「後、22時間か・・・無事、時間内に合流ポイントに着ければいいんだけど・・・」

その言葉を受けてマリューが呟く。

「俺としてもそう願いたいが、巡回中のカトンボとかもあるからな。遭遇しちまったら、いくらか時間をロスし・・・」

「先遣隊の危険率がそれだけ上がる事になりますね・・・」

フラガの言葉に続けてナタルが締める。

このまま最大戦速で進んだとしても、合流ポイントにつけるのは予定時間の2時間前になり、何かトラブルがあったとしたら確実に間に合わなくなる。

出来るだけ早く合流ポイントに着くために、航路を検討しようと宙域地図が呼び出され、幾つものルートがシュミレートされた。

「・・・現在取っているコースが精一杯か? もっとマシな航路は取れんのか?」

ナタルが苛立ちながらノイマンに聞く。

「無理ですよ。これ以上地球の軌道に寄せるとデブリベルトに入ってしまいます」

「デブリの中を突っ切れれば早いんだけどね・・・」

と、マリューが苦笑混じりで言うとノイマンも苦笑で返す。

「そんな事すればこの艦もデブリの仲間入りですよ。あのデブリの中を船で高速で突っ切る事なんて誰も出来ませんよ」

「・・・いや、ヒイロとデュオは出来たが?」

「・・・え?」

アムロの言葉に全員が驚き注目する。

「イージス計画時にヒイロとデュオがこのデブリベルトの中を高速シャトルで突っ切った事があるらしい。
まぁ、高速とは言えこの艦より遥かに小型だったから出来た芸当だけどな」

(それでも充分凄いと言うか、非常識ですよ・・・)

ブリッジのクルー全員が心の中でツッコミを入れる。

「・・・あれ?」

「どうした?」

サイ達とCICを交代した士官の突然の呟きにナタルが反応する。

「ちょっと待ってください・・・艦長、救難信号です」

感度を調整し確認を取ると、マリュー達に報告する。

「どこから? 距離はわかる?」

「デブリベルトの中みたいですね・・・識別コードからして民間船だと思われます。距離は残留ミノフスキー粒子の影響ではっきりとは・・・」

「まさか・・・艦長、救出に向かうつもりですか!?」

マリューの質問の意図に気付きナタルは声を上げる。

「我々は一刻も早く先遣隊と合流しなければならないのですよ!?」

「解っているわ。でも、だからと言って見捨てるわけにはいかないでしょ」

「・・・アムロ少佐は如何お考えで?」

最後の希望を託し、ナタルはアムロに意見を求めるが、

「俺としてもラミアス艦長に賛成だ。気付かなかったなら仕方が無いが、気付いてたのに見捨てると言うのは流石に気分が悪い」

「同感。バニング大尉も言ってたしな。軍人の責務は民間人を守ることだって」

アムロ、フラガにマリューと同じ考えを返される。

「・・・解りました。艦長やアムロ少佐がそう申されるならば従います。しかし、合流時間を考えますと2時間しか余裕がありませんが・・・」

「なら、足が速い機体で捜索に向かった方がいいな・・・アムロ少佐、人選は?」

「そうだな・・・俺のリ・ガズィ、カミーユのΖガンダム、キラのエールストライク、フラガ大尉のゼロ、エクセレン少尉のヴァイスリッター、
ファのメタスといった所か」

ナタルは多少の皮肉を込めて言ったのだが、フラガとアムロは気にも留めずに話を進める。

「残りは艦の防衛として待機ですね」

マリューの確認にアムロは頷きながら続ける。

「ああ、そうだ。すまないが2時間程ここで待機していてくれ」

そう言うと、アムロはフラガと共にブリッジを後にした。




ストライクの整備を終え、キラはカミーユ、キョウスケと共に食堂に向かっていた。

「ロンド・ベル隊ではパイロットもMSの整備をやるんですね・・・」



キラはアムロの話の後自分の部屋に戻ろうとしたのだが、それに気付いたカミーユに呼び止められたのだ。

「MSの整備が終わってないだろう?」

そう言われた時、キラは不思議に思った。整備は全て整備班の仕事だと思っていたからだ。



「最前線の部隊や、人手が足りない所は大概やっている事だ・・・ロンド・ベル隊では関係なしでやる事だがな」

「キョウスケの言うとおりだ。ロンド・ベルは特殊な機体が多いからな。整備班はそっちの方に多数割かれる事になりがちだ。
死にたくないのなら、自分の機体くらいは整備できるようにならないといけないんだ」

驚くキラにキョウスケとカミーユは、理由を教えながら食堂へと入る。

「おっつかれ。こっち空いてるぞ」

「キョウスケ、こっちこっち」

「カミーユ、場所取ってあるわよ」

先に食事を取っていたトール、エクセレン、フォウが3人に気付き呼びよせる。

ミリアリアとサイ、フレイも同じテーブルで食事を取っている。

キラが席に着くと、エクセレンとフレイの会話が耳に入って来る。

「自分の機体は自分で整備するのがロンド・ベルの原則なのよね〜。汗を掻くから早くシャワーを浴びたいのに」

「えー! シャワーは後回しですか!? 私なら我慢できないわ・・・」

「そうそう。女の子ならそうよね〜。だから私もたま〜に整備しないで、シャワーに直行する事が・・・」

「・・・エクセレン、その度に減給されている事を忘れるな」

「うっ・・・ヤな事思い出させないで・・・今月は既にピンチなのよ・・・」

エクセレンの発言にキョウスケが律儀にツッコミを入れる。

その様子を見ていたキラは不思議に思いサイに小声で話しかけた。

「いつの間にエクセレンさんと仲良くなったの・・・?」

「いや、オレも良く知らないんだ。気がついたらこうなってたし・・・」

その会話が聞いていたトールが話に混ざってくる。

「エクセレンさんから話しかけて来たんだよ・・・で、話にミリィも混じっていたらああなったんだ」

視線で2人を指しトールは疲れたようにため息を吐く。

キョウスケが来るまで彼はエクセレンにからかわれていたからだ。

その事を察したキラとサイは、同情するようにトールの肩を軽く2回叩いた。

キョウスケもエクセレンに遊ばれているが、慣れているので淡々と返事をしながら食事を取っている。

「お、坊主達やっぱりここか・・・って、キョウスケ少尉達も一緒か」

その声に全員が目を向けるとマードックが入り口から覗き込んでいた。

「アムロ少佐とフラガ大尉がお呼びだぜ。ブリーフィングルームに集合だとさ」



「捜索・・・ですか?」

キラの呟きとも言える質問にフラガは頷きながら答える。

「ああ、場所さえ解っていれば1人か2人で充分なんだが、はっきりとした場所が解らない上に制限時間つきだからな」

「制限時間って、どれ位ですか?」

ブリットはヤな予感を感じながら恐る恐る質問する。

「先遣隊との合流時間があるからな。無理しても2時間が限度だ」

「!? デブリベルトの中全部を2時間で探すんですか」

アムロの言葉にキラが無茶だという様に声を上げる。

「砂漠で一匹の鯉を見つけるぐらい難しいわね・・・」

「一羽の鳩じゃなかったか・・・?」

「・・・一本の針、だ。鯉だったら数分で干からびる、砂漠には鳩はいないぞ・・・アムロ少佐、人選のほうは?」

エクセレンと甲児にツッコミを入れ、キョウスケがアムロに聞く。

「もう決めてある。俺のリ・ガズィ、カミーユのΖガンダム、キラのエールストライク、フラガ大尉のゼロ、エクセレン少尉のヴァイスリッター、
ファのメタス、以上だ。残りのメンバーは敵が来るまで待機だ」

アムロの言葉に付け足すようにフラガが続ける。

「広範囲になるからな、手分けして探すぞ。エクセレン少尉はファと、カミーユはオレ、坊主はアムロ少佐と組んで捜索してくれ」




捜索を開始して30分後・・・

フラガとカミーユは撃破された戦艦と民間船を見つけていた。

「カミーユ、どう思う?」

「・・・2つとも比較的新しいですね・・・少なくとも、開戦前にあったものでは無いみたいですが・・・」

「だな。この戦艦は連邦の物だが、エンジンが前の核融合炉じゃないからな。そっちの民間船はどこのか解るか?」

「ちょっと待ってください・・・」

カミーユはデータの中から、該当する民間船があるか調べ始めた。

その間にフラガは民間船の周りを調べ始める。

(なにが原因で破壊されたんだ・・・まさか『刈取り』じゃないだろうが・・・)

そう思っていると、民間船の装甲に大きな穴を見つけた。

「これは・・・」

その穴は内側からの衝撃で空いたものではなく、周りが少し解けており、外側からしかも高出力のビーム砲による物だと一目でわかった。

「フラガ大尉、ありました。その船は・・・」

「プラントの物だろ? 戦艦に撃たれたと思われる大穴を見つけた。撃った犯人はこの戦艦だろうな」

フラガの言葉にカミーユは驚き、搾り出す様に声を出す。

「・・・連邦はプラントならば、コーディネーターならば民間船も攻撃するという事ですか・・・」

(これではクワトロ大尉との戦いはなんだったんだ・・・!! あの時の大尉の、シャアの言葉が正しく思えてくる・・・)

「・・・カミーユ、今の連邦全てがこういう考えでは無い事は知っているだろう? 一部を見てそれを全てを決め付けるとどうなるか・・・
お前は、ロンド・ベル隊は知っている筈だ」

カミーユの内心を感じてか、フラガが戒める。

「・・・・・・そうでしたね。 すみませんでした、大尉」

その言葉にカミーユは正気に戻ると、今度は戦艦の方を調べ始めた。

「しかし、民間船を破壊したのがこの戦艦なら、戦艦を破壊したのは・・・」

「? どうしたんだ、カミーユ?」

突然言葉を切ったカミーユの方に近づき同じ所を見る。

「これは・・・」

「ビームが貫通した後、ですね・・・」

戦艦の動力部や艦橋にビームの様な物で破壊された跡が残されていた。




捜索を開始して47分後・・・

ファとエクセレンは廃棄されたコロニーを発見した。

「・・・このコロニー、まだ新しいわ・・・」

「そうね〜、廃棄されてから1〜2年ってとこかしらね・・・」

そう言いながらヴァイスがコロニー内に入ろうとすると、ファは慌てて声を上げる。

「ちょ、エクセレン、中に入るつもりなの!?」

「当たり前でしょ? ひょっとしたら、中に入り込んで救助を待っているかもしれないし・・・」

「でも・・・」

言いよどむファの声を聞いて、エクセレンは何かに気付いた様に声を上げた。

「ははぁ〜ん・・・貴女、幽霊とか信じる方でしょ?」

「なっ!? 何言うのよ!? う、宇宙世紀にもなって、ゆゆゆゆ幽霊だなんて・・・」

「・・・ブリット君と同じく、解りやすいリアクションしてくれるわね・・・」

エクセレンは苦笑いをしつつ、コロニー内へと入っていく。

「ちょっと、1人でいかないで」

やや遅れながら、ファもコロニー内へと進む。

少し進んだ所でヴァイスリッターが佇んでいるのを見つけ声をかける。

「どうしたの・・・?」

ヴァイスが見つめている先を見て、ファは言葉を失った。

目の前に広がる凍りついた大地、ぽつぽつと農園らしき建物が真空中で完全な保存状態で残っている。

そして、逃げようとした人達の遺体が小屋のまわりに漂っている。

「・・・エクセレン、ここって・・・?」

「・・・ユニウス・セブン、ね。まさかデブリベルトの中を漂っているとは思わなかったけど・・・」

搾り出すようなファの声に、エクセレンは感情を押し殺して淡々と答える。

その時、エクセレンは目の前を漂っている一束の花に気がついた。

「・・・花? なんでこんな所に?」

そう言いながら、ヘルメットのバイザーを閉め外に出ると花束を回収する。

「・・・造花だけど、つい最近造ったものみたいね・・・一体誰が?」




捜索を開始して1時間後・・・

「見つけた。アムロさん、救難信号を受信しました。この先です」

「わかった。みんなに知らせ・・・」

アムロはそこまで言うと、急に言葉を切り少し先に目を向けた。

(・・・気のせいか? 爆発光が見えた気がしたんだが・・・?)

そう思った時、デブリの隙間から確かに爆発光が確認できた。

「!? アムロさん!!」

キラも確認できたらしく声を上げる。

ちょうど救難信号が出ているポイントである事にアムロは気付くと、

「キラ、先に行け!! 俺はカミーユ達に連絡してから追う!!」

「はい!!」

アムロに指示され、キラはストライクを全速で向かわせた。




グライアの放ったパワーランチャーをエルガイムはかわし、パワーランチャーを撃ち返す。

パワーランチャーに貫かれ、グライアは爆発する。

「アム、今の内にその脱出ポットをターナに・・・」

「無理だ、ダバ! さっきの攻撃で機関部がやられた!」

ダバの通信にターナにいたキャオが言う。

「くそ、キャオ、脱出してアムとポットを守っていてくれ。敵はボクとレッシィで引き受ける」

ダバは言いながらセイバーを抜き放ち、グライアに斬りかかる。

グライアはパワーランチャーを放つが、エルガイムは左右に回避しながら接近する。

アローンが援護しようとするが、エルガイムの後方から放たれたカルバリーテンプルのパワーランチャーに貫かれ爆発した。

「レッシィ、すまない!」

礼を言いながらグライアを切り裂き、エルガイムをカルバリーの隣へ並ばせる。

「しかし、こんな所まで追ってくるなんて思わなかったな」

「ポセイダルは、余程地球への侵略を知られたくないようだね」

ダバの呟きにレッシィが返す。

「! ダバ、来る!!」

リリスが遠距離から放たれたバスターランチャーに気付き声を上げる。

「くっ!」

「このっ!」

2人は散って何とか射線上から離れると、今までいた所に高出力のビームが通り過ぎた。

「バスターランチャー!? A級HMも追ってきてたの!?」

レッシィがバスターランチャーが飛んできた方に目をやると、2機のバッシュが接近してきた。

バッシュを狙いレッシィはサッシュを放つが、全てをかわされスロウランサーを撃ち返される。

「このっ!」

スロウランサーを全て切り払い、そのままバッシュに斬りかかる。

バッシュはセイバーで攻撃を受け止める。

「この動きは・・・チャイ・チャー!?」

「ガウ・ハ・レッシィか! この裏切り者が!!」

チャイは言い捨てると、一旦距離を取りSマインを発射してくる。

Sマインを回避し、レッシィはパワーランチャーを撃ち返しながら、ダバの方に向かったバッシュを見た。

「まさか13人衆が追っ手で来るなんて・・・あっちに乗っているのは誰? ワザン老か・・?」



「久しぶりだな、ダバ・マイロード!!」

「!? ギャブレット・ギャブレー!? まだポセイダル軍にいたのか!!」

ダバは驚きながらも、バッシュが放ってきたパワーランチャーをかわし、セイバーを抜き放つ。

「解っているのか!? これはポセイダルの侵略行為だぞ!!」

「解っているさ! だが、今のペンタゴナの戦力だけでは、いずれ来る帝国軍との戦いに勝てない事は貴様だって知っているはずだ!!」

斬りかかって来たエルガイムのセイバーをランサーで受け止め、そのまま斬り返す。

エルガイムは後ろに下がって回避するが、ギャブレーはそこを狙ってエネルギーボンバーを発射して来た。

とっさにシールドで防御しながら回避運動をとるが、全てはかわせずに何発かシールドに直撃する。

「だからと言って力で全てを支配するのか!? 帝国軍だって一枚岩じゃない。ポセイダルを倒した後、帝国の反皇帝派と協力すれば
皇帝を打倒する事は出来る!!」

ダバはパワーランチャーを連射する。

ギャブレーは回避しながら撃ち返そうとするが、1発のパワーランチャーがビームコートを貫き直撃する。

「ちぃ! それは理想論だ! 大なり小なり内乱が起これば、それだけ国力が低下する事ぐらい君は解る筈だ!」

その時、ダバ達の脇を1機のバッシュが通り過ぎ、アムとキャオ、脱出ポットがある方へと向かっていった。

「バッシュ!? もう1機いたのか!!」



アムとキャオは脱出ポットを守りつつ、グライアやアローンと応戦していた。

「くそ、こんなポットさえなければ楽に戦えんのによ!」

「文句言わないの! このポットを回収しに来た変な機体が落とされちゃったんだから。私達が守るしかないでしょう!!」

文句を言うキャオに怒鳴りながら、アムはグライアを破壊する。

その時、アムのディザートを狙いパワーランチャーが飛んできた。

「キャッ!!」

パワーランチャーはディザートのビームコートを突き破り直撃する。

「アム!! くそ、どっから・・?」

キャオが攻撃が飛んできた方を見ると、1機のバッシュがこちらに近づいて来る所だった。

「やったわね!!」

アムもそれに気付き、バッシュに向かってパワーランチャーを放つが、バッシュのビームコートを貫く事は出来なかった。

「悪いなアム、効かねえんだよ」

「!? ハッシャ・モッシャ!?」

アムは驚き声を上げながらセイバーを抜き、バッシュに斬りかかる。

「アンタが追っ手に来るなんて、ポセイダル軍も人材が不足してんのね!!」

「なーに、一時でも仲間だったオレの手で眠らせてやんのがせめてもの情けだと思ったんだろうよ!」

接近してくるディザードに向かい、エネルギーボンバーを発射する。

「キャアー!!」

エネルギーボンバーがほとんど直撃し、ディザートは行動不能に陥った。

「トドメは後回しだ。お頭の命令でな、あのポットの破壊が優先なんだよ」

ハッシャはポットに照準を定める。

「キャオ! ポットを!!」

「無茶言うな!!」

アムは叫ぶが、キャオはグライア2機とアローン1機に攻撃されてポットの防衛に回れなかった。

バッシュからパワーランチャーが発射される。

それはポットを貫くかと誰もが思ったが、ポットの前に飛び出してきたストライクのシールドによって防がれた。




「あんだ! あの機体は!? この星の軍のものか!? お頭ぁ!!」

ハッシャは驚きギャブレーに通信を繋ごうとするが、高速で接近してくるリ・ガズィに気付く。

「げっ! 早い!!」

とっさに回避運動を取ろうとするが、

「回避運動が遅い! 直撃させる!!」

リ・ガズィのメガ・ビームキャノンが直撃し、左腕を破壊される。

「ぐわー! 頭ぁ!」

全速でリ・ガズィから逃げ、ギャブレーに助けを求めた。




アムロはバッシュが後退するのを確認すると、全通信チャンネルでダバ達に呼びかける。

「こちらは地球連邦軍、第13独立部隊ロンド・ベルのアムロ・レイ少佐だ。不明機各機、応答願う。貴官達の目的はなんだ!? あの脱出ポットは地球のものだ。何故攻撃をしたか理由を聞かせてもらおう!!」




その通信を聞き、ダバはアムロに通信を開こうとする。

「レッシィ、翻訳機は!?」

「もう用意は出来てるわ!」

レッシィの答えを聞き、アムロに通信回線を開く。

「こちらはダバ・マイロード。地球の方、ペンタゴナのポセイダル軍がこの星を侵略しようとしています! 僕達はそれを知らせる為に来ました!!」

「ポセイダル軍・・・? パルマー艦隊とは別なのか?」

アムロの質問にダバは驚き聞き返してくる。

「パルマー艦隊を知っているんですか!? パルマー、帝国軍はポセイダルと敵対している軍隊です。
ポセイダルは帝国との戦いに備えるために、地球を侵略しようとしてるんです!!」

「悪いがダバ・マイロード、既に侵略は開始されている。もう間もなくポセイダル様の宣戦布告が流されるはずだ」

「くっ、遅かったっていうの!?」

チャイの言葉にレッシィが呻く。

「布告の前に仕掛けたなどという証拠は残したくないのでな。目撃者は全て消させてもらうぞ!!」

チャイは残っている全機に、総攻撃を命じた。




「キラ、脱出ポットの防衛を頼む!」

アムロはキラに指示を出すと、リ・ガズィを加速させながらビームキャノンを撃ち、目の前にいるグライアを破壊した。

さらに、リ・ガズィの進路上にアローン、グライアが2機ずつ立ち塞がりパワーランチャーを撃って来るが、

「見える!」

アムロはその全てを回避しながら、ミサイルを撃ち返しアローンとグライアを1機ずつ破壊した。

グライアはセイバーを抜き放ち接近戦を仕掛けようとするが、横から飛来した高出力のビームに貫かれ爆発した。

残ったアローンがビームの飛んできた方を見ようとするが、目の前に展開されたガンバレルに撃たれ破壊される。

「フラガ大尉達か!?」

アムロがフラガ達の存在に気付くと同時に、カミーユから通信が入って来た。

「すいません、遅くなりました。あの機体は!?」

「新手の異星人、ポセイダル軍だ。白い機体と赤い機体、オレンジの機体は味方だ。攻撃はしないでくれ!」

『了解!!』

アムロの言葉に2人は頷くと、散開しHMに攻撃を仕掛けていく。

グライアがゼロを狙いパワーランチャーを放つが、フラガはあっさりとかわしビーム砲を撃ち返しながらガンバレルを展開する。

パワーランチャーを放ってきたグライアはビームに貫かれ、近くにいたアローン3機がガンバレルに破壊される。

カミーユはウェイブライダーをΖガンダムに戻すと、背後からこちらを狙っていたアローンをビームライフルで振り向き様撃ち抜いた。

グライアがセイバーで斬りかかって来るが、それをビームサーベルで受け止めると機体を体当たりさせ体勢を崩させる。

「このー!!」

体勢が崩れたグライアを横薙ぎに切り裂き、グライアの背後から接近してきたアローンにグレネードランチャーを放つ。

アローンはそれを何とか回避するが、動きを読んでいたアムロのビームキャノンに貫かれ破壊された。




脱出ポット目掛けて、4機のグライアがパワーランチャーを放ってくるが、全てストライクのアンチ・ビームシールドに弾かれる。

「なんで、なんで抵抗すら出来ない人を撃とうとするんだっ!?」

キラは怒りを滲ませた声を上げながら、ビームライフルを連射した。

グライア達は何とか一射目をかわすが、まるで読んでいたかのように飛んできた二射目に全機が貫かれた。

別の角度からアローンがポットを狙うが、キラが気付くと同時に放たれたビームライフルに貫かれる。

ストライクを排除するのが先、と判断したグライアが斬りかかって来る。

それをビームサーベルで受け止め、そのままセイバーをはねのけ返す刀で袈裟懸けにグライアを切り裂いた。

「すげぇ・・・」

自分に攻撃してきたグライア達を何とか撃墜したキャオが、その動きを見て呟いた。

その時、先程アムロに半壊されたバッシュが、ストライクとポットを目掛けてエネルギーボンバーを放ってきた。

「!? その損傷でまだ・・・!!」

「このまま退いたら、頭にどやされるんだよ!!」

ストライクはポットの前にシールドを構えて立ち塞がり、全てのエネルギーボンバーをシールド、機体で受け止める。

「うわぁぁぁっ!!」

激しい振動に揺さ振られ、コックピット内にアラームが鳴り響く。

「2機まとめて落としてやるぜ!!」

ハッシャは続けてスロウランサーを発射しようとした瞬間、横からパワーランチャーが飛んできた。

それはバッシュのビームコートを貫きはしなかったが、ハッシャの注意がそちらに逸れた。

「何!? 誰だ・・・!?」

ハッシャがその方向を見ると、行動不能にした筈のアムのディザードが、パワーランチャーを付けた腕だけをバッシュの方に向けていた。

「な!? アム、まだ動けたのか!!」

機体そのものは動けないが、奇跡的に腕の回路とパワーランチャーが無事だった。

驚いているハッシャに目掛けて、ストライクがビームサーベルを抜き放ち接近してくる。

「!? 野郎、こっちは取り込み中だっての!!」

吐き捨てながらセイバーを抜き放とうとするが、それよりも早くストライクのビームサーベルが残った右腕を斬りおとしていた。


「なんなんだ!? この連中は!?」

ギャブレーは次々と落とされていくHMを見て、驚きの声を上げた。

数は圧倒的に上だったので常に一対多数の戦いになっているが、そんな事は関係無いかのように味方機が簡単に落とされていく。

呆然とするギャブレーにエルガイムが斬りかかって来る。

「聞いた事がないのか、ギャブレー君!!」

「何をだ!?」

セイバーで何とか受け止めるが、それがランサーである事に気付くのに遅れて、切り返された時に少し装甲が削られる。

「帝国艦隊の主力を撃破し、この宇宙最悪の災厄である、宇宙怪獣の脅威を乗り切った部隊の存在を!!」

「!? まさか! この連中がそうだと言うのか!? あれは噂の筈だ!!」

ギャブレーは首を振り、パワーランチャーを連射するがダバはそれを難なくかわした。

「ならば何故、この星の人間であるアムロ少佐がパルマーの存在を知っている!?
オルドナ・ポセイダルは、ある意味帝国よりも強敵の所に侵略を開始した事になるぞ!!」

ダバはSマインを発射するが、それを見越したかの様に放たれたスロウランサーに全て破壊される。

爆炎に紛れてエルガイムの横を通り抜け、ギャブレーはΖガンダムに狙いを定めた。

「あれは唯の噂に過ぎん!! そのような世迷言、私の手で打ち消してくれる!!」




カミーユは背後から気配を感じ、とっさに回避行動をとった。

先程までΖガンダムがいた場所をパワーランチャーが通り過ぎる。

「なにっ!?」

完全に背後から不意を突いた攻撃をかわされ、ギャブレーは驚いた。

「ならば、これでどうだ!!」

スロウランサーを発射し、バッシュをΖガンダムが回避するであろう場所へと回りこませようとするが、

「見えるっ!!」

カミーユはビームライフルでスロウランサーを全て叩き落し、回り込もうとしているバッシュにも攻撃を仕掛ける。

「なんだと!? 全て叩き落すだと!!」

驚きながらも、ギャブレーはビームライフルを次々と回避する。

「動きが速い!?・・・だが、」

ギャブレーの動きを見てカミーユは驚く。

カミーユの射撃の正確さにギャブレーもまた驚く。

「やるではないか! だが!!」

『落してみせる!!』




「あれが、隊長機か!?」

グライアやアローンの囲みを突破したフラガが、レッシィと戦っているチャイのバッシュを見つけた。

目の前にグライアとアローンが立ち塞がり、パワーランチャーを連射してくるが、

「邪魔しなさんなって!!」

パワーランチャーの間をすり抜けながら、ガンバレルを展開し2機に攻撃を仕掛ける。

アローンはガンバレルを、グライアはゼロを落そうとするが、両方とも当たらずに破壊される。

「なんだい!? あの武器は!!」

「なんなんだ!? あの砲台は!!」

始めて見る武器にレッシィ、チャイが驚く。

その時、カルバリーにフラガからの通信が入った。

「ここは俺が引き受ける! あんた達の仲間の赤い機体が1機、動けなくなってる。あんたはそっちに回ってくれ!!」

「赤い機体って・・・アムとキャオどっちだい!?」

「まだ自己紹介されてないんだっ! 誰かまでは判らん!!」

レッシィの質問に答え、フラガはバッシュに向かいビーム砲を発射する。

しかし、ビーム砲はバッシュのビームコートに阻まれ、貫く事は出来なかった。

「ふん、効かんな!」

「ちぃ、ビームコートか!? 旧式の出力では・・・何をやっている! とっとと行け!!」

撃ち返して来るパワーランチャーをかわしながら、フラガは今だ近くにいるカルバリーに怒鳴る

「その機体の出力じゃ無理だ! 私の機体なら・・・」

「馬鹿ヤロウ!! 俺の方は動けるんだ、何とかなる! だが、あんたの仲間は動けない状態なんだぞ!? 
どっちが深刻かなんて考えなくとも解るだろうが!!」

フラガの言葉にレッシィはハッとなる。

その言葉を後押しする様に、フラガは陽気に告げる。

「この機体でも何とかなるさ。俺は不可能を可能にする男だからな」 

「ふっ、なんだいそれは?」

レッシィは軽く笑うと、カルバリーをアムの所へと向かわせた。

「行かせるかぁ!!」

カルバリーを背後から撃とうと、チャイがパワーランチャーを構える。

「おっと、やらせるかよ!!」

ガンバレルを展開し、バッシュに攻撃を仕掛ける。

「く・・・おのれ・・・!!」

ガンバレルをなんとか回避しながら、ゼロにエネルギーボンバーを放つ。

フラガはあっさりとかわすが、チャイは時間差でスロウランサーを放ってきた。

2発は避けれたが、最後の1発がガンバレルに被弾したのでパージする。

「流石、雑魚とは違うか・・・」

どこか感心した様に、フラガは呟く。

「その妙な砲台さえなければ、貴様の攻撃など効かんのだ! このまま全て破壊してくれるわ!!」

「それはどうかな・・・エクセレン少尉! 撃て!!」

『はいは〜い、お任せ〜」

「なに!?」

チャイが驚いた瞬間、バッシュの右脚が吹き飛ばされた。




「ちょっと卑怯だったかしら?」

オクスタンランチャーを構えながら、エクセレンは首を傾げる。

フラガがレッシィの所に着いた時、実はエクセレンもその近くの宙域に来ていた。

それに気付いたフラガは、秘匿回線でこちらの指示で狙撃をするように、と頼んでおいたのだ。

『そんな事は無いだろう。いくらミノフスキー粒子下でも、この距離で気付かない方が悪い。で、ファは?』

「ポットの方に向かったわ。そろそろ回収する頃だと思うけど・・・?」

フラガの通信にエクセレンが答えると、ちょうどファからロンド・ベル各機に通信が入る。

『ポットを回収しました!』

『よし、全機、この宙域から離脱するぞ! ダバ君達もついて来てくれ!!』

続けてアムロからの指示が入り、全機が離脱し始めた。




ギャブレーはΖガンダムに押され気味であったが、鋭い反撃を返していた。

Ζガンダムのビームライフルをかわしながら接近し、ランサーで斬りかかる。

カミーユはビームサーベルで受け止めるが、遅れて発生した反対側の刃に驚き慌てて後ろに引く。

バッシュはそこを狙いパワーランチャーを連射するが、今度はΖガンダムがかわしながら接近してくる。

「しまった!!」

「もらったー!!」

ギャブレーは慌てて引こうとするが間に合わず、パワーランチャーごと右腕を斬り飛ばされる。

返す刀を何とか回避するが、続けて放たれたグレネードランチャーが動力部に命中し、出力が低下して機体が動きが止まる。

「くっ、ここまでか・・・」

ギャブレーは呻き、Ζガンダムを見据える。

ちょうどその時、アムロから各機に通信が入った。

『よし、全機、この宙域から離脱するぞ! ダバ君達もついて来てくれ!!』

「時間ギリギリだな・・・これ以上の戦闘は無意味か」

カミーユはバッシュにトドメを刺そうとせず、ウェブライダーに変形し戦闘宙域から離脱して行った。




残されたポセイダル軍は、狐に抓まれた様な顔をしていた。

「奴等は完全に有利だったのに、何故引いたのだ?」

ギャブレーは辺りに漂っている、味方HMの残骸を見て呟いた。

残っているHMは、出撃時の3割にまで減っていた。

もしあのまま戦っていたら、1時間もしない内に自分達は全滅していたであろうと容易に予測がついた。

「ギャブレー、生きているか?」

チャイから通信が入り、ギャブレーは我に返る。

「はっ、動力をやられましたので自力では動けませんが・・・」

「そうか、こちらも機体が小破した。 一度、本星に戻るぞ。奇襲する為の戦力もないからな」

それだけ言うと、チャイは通信を切った。

ギャブレー達の目的はダバ達の追撃だけではなかった。

ダバ達を撃破後、ポセイダルの宣戦布告とほぼ同時にコロニー又は連邦基地へと奇襲を仕掛け、そこを今後の拠点とする作戦だったのだが、
運悪く、アムロ達と遭遇してしまい戦力を大きく減らしてしまったので、予定に入っていない補給が必要となった。

「・・・噂の最強部隊・・・か」

ダバが言っていた言葉を思い出し、ギャブレーは呟く。

「名前はなんだったか・・・ロンドンベル? いや、ロンド・ベル・・・? いや・・・ランド・セル? 違うか・・・なら・・・」

その呟きは、ハッシャが機体をけん引しようと話しかけるまで続いた。




「・・・本当にロンド・ベル隊は来る者を拒まないんですね・・・」

ダバ達の紹介を受けたナタルの声には諦めと感心が半分ずつ混じっていた。

「いいじゃないかよ。悪い人達ではなさそうだし」

「当たり前よ!!」

「そうよ! ダバが悪い人の訳ないでしょ!!」

甲児の言葉にアムがそして、エルガイムの中に隠れていたリリスも外に出て叫ぶ。

「・・・・・なんだ!?」

リリスの姿を見たロンド・ベル隊以外のクルーが目をむいて驚く。

「驚かせてすみません。紹介が遅れました。リリスもボク達の仲間なんです」

「君達の星には彼女の様な種族は他にもいるのか?」

謝るダバにアムロが気にした風も無く質問をする。

「いえ、リリスが最後の生き残りです。今の所は、ですけど・・・アムロさん達はあまり驚いていませんね?」

ダバは少し驚いて、驚いていないロンド・ベル隊のメンバーを見る。

アムロはそれに気付いて笑って答える。

「ああ。パルマー戦役に参加したロンド・ベル隊のメンバーは、彼女の様な種族と共に戦ったからな・・・
キョウスケとエクセレンもあまり驚いてはいないようだが・・・?」

「私達はブリット君やクスハちゃんから話だけは聞いてましたから」

「・・・実際に見ると多少驚きますが・・・」

エクセレンは笑って答えるが、キョウスケは表情一つ変える事無く言う。

「その子と会えますか? リリスと同じ種族かも知れませんし・・・」

「私からもお願い!!」

ダバとリリスはアムロに頼むが、

「それは難しいな・・・『あちら』に行くには向こうから道が開かなければならないし、彼等がこっちに来てくれなければ・・・」

「そうなんだ・・・でも、他の星の仲間がいる可能性が見つかったからいっか」

リリスは少し落ち込むが、すぐに気を取り直した。

「すまないが、君達の話は後でいいか? 脱出ポットの民間人の受け入れを先にしてしまいたいんだが・・・」

「はい、構いません」

フラガがダバ達に確認を取ると頷き、マードック達に開けるように指示を出した。

アストナージがロックを外し、マードックがハッチへと手を伸ばす。

「空けますぜ、師匠」

ハッチが小さく音を立てて開いた。すると、

『ハロハロ、オマエゲンキカ!?』

「ハロ!?」

飛び出してきたピンクのハロを見てアムロとカミーユが声を上げる。

「ありがとう、ご苦労様です」

ハッチの中から愛らしい声がし、キラはそちらへと目を向けた。

柔らかなピンクの髪と長いスカートを靡かせてハッチから出てきたのは、キラやタスク達と同じ位の年齢の少女だった。

「あら・・・あらあら?」

「あっ・・・」

慣性でそのまま漂って行ってしまいそうになる彼女を、キラは反射的に手を掴んで止めた。

「ありがとう」

間近で少女にニッコリと微笑まれ、キラは赤くなった。

ふと、少女が疑問符を浮かべる。

「あら・・・?」

その目はキラの制服の徽章に止まっている。

「・・・あらあら?」

彼女はクルクルと辺りを見回し、アムロに目を止めアムロも少女の顔に気付く。

「ラクス・クライン!? 何故ここに!?」

「まあ、アムロ様、お久しぶりです。と、いう事は・・・・・・・・これはザフトの船ではありませんのね?」

「・・・・・・・・ハァ・・・・・・」

ラクスのおっとりとした口調を聞いて、一拍おいてナタルが深々と疲れたようにため息をついた。

(・・・その内、胃に穴開くぞバジルール少尉・・・)

タスクはその様子を他人事の様に眺めていた。




第九話に続く

あとがき

エルガイム組が合流しましたが、どこかで見た様な場面だと思った方が多々いるでしょう。
はい、往年のスパロボファンならばすぐにわかります。『F』の第2話、ザ・ストレンジャーと展開が同じなんです。(オイ)
唯一の違いは、既にレッシィが仲間である事、そして救難信号はラクスのポットから、という位です。
この世界ではアークエンジェルの補給は、前回のロンデニオンで完璧になっているんでサルベージする必要がないんです。
しかし、そうなるとラクスが登場しないという事態になるんで、今回みたいな話になってしまいました。
ただ、ポット回収だけの話になるとつまらなくなりますし・・・

イネス先生のなぜなにスパロボ

イ:さて、今回は少ないわね。

『PS装甲なのに、エネルギーボンバーでダメージを受けてたけど・・・?』

イ:さて、今回そう思った人が何人いるかしらね? 原作設定を知っている人はそうそう思わないでしょうけど一応ね?
この兵器、スパロボでは実弾に見えるけど、これって実弾ではなくってエネルギー球なの。
PS装甲は実弾では無敵の防御力を誇るけど、エネルギー球は普通にダメージを受けるのよ。
・・・と、いう事は、東の方で不敗な師匠と弟子の合体技や、その流派の最終奥義も普通に受ける事になるわね・・・

 

 

代理人の感想

うーむ。

エルガイム組が登場するときのパターンではあるんですが、やっぱいいわなぁ。

特にカミーユ対ギャブレット・ギャブレー。

エース同士の戦い、それもキャラが立ってる同士なのでやっぱいいですねー。

 

 

>エネルギーボンバー

「エネルギー」ボンバーなのに実弾だと思う人も珍しいかも(爆)。