第九話 混乱の中での遭遇




士官室の前に人垣が出来上がっていた。

あの後、話を聞くためにラクスとダバ達はアムロ達に連れられてこの士官室に通されたからだ。

その話の内容に興味を示した連中が、こうして続々と集まってきたのだ。

「オイ、押すなよ」

「タスク、何か聞こえるか?」

「いや、何も・・・痛って! 甲児さん!! 足、踏んでる!!」

「んな事言ってもよ、キース! 押すなよ!!」

「押してないよ!! ブリットじゃないのか!?」

「・・・キラ、生きてるか?」

「・・・・・・・・・・重い」

最初に来ていたトールと無理矢理付き合わされたキラは、人垣の最前列つまり、扉と人に挟まれていて中を窺うどころではなかったが。

不意に扉が開き、人垣が前に倒れる。

「うわっ!!」

床の上に折り重なった者達をナタルが冷たい視線で見下ろしていた。

「お前達! 待機だと命じておいただろう!!」

「やべっ! 逃げろ!!」

甲児の言葉で全員が一瞬にして逃げ去る。

部屋の中ではラクスがびっくりした様に彼等を見ていた。

彼女はキラの姿を見ると、ひらひらと手を振る。

キラは赤くなり、慌てて部屋から飛び出した。

「まったく、困ったものだ・・・」

「いいじゃないか少尉。ロンド・ベルでもよくある事だし、それにこの部隊には年頃の連中が多いからな。興味を示すのは仕方が無いさ」

ナタルの呟きをアムロが宥める。

「大人な発言ね〜、アムロ少佐にもそういう経験が?」

「まあな。俺も人並みな少年だったという事さ」

アムロは肩をすくめてエクセレンに答えると、ラクスの方を見る。

「ラクス、すまないがラミアス艦長達に自己紹介を頼む」

「そうでしたね。わたくしはラクス・クラインですわ。これはお友達のハロです」

アムロに促され、ラクスはハロを前に差し出して紹介する。

『ハロハロ、ゲンキ! オマエゲンキカ?』

ハロの間の抜けた声を聞いて、フラガがガックリと頭を抱え、マリューとナタルもそうしたくなった。

「あのハロはアムロ少佐が・・・? 言語サブルーチンがおかしいようですが?」

「いや? 俺とブライトがプラントに行った時には、既に彼女が持っていたが・・・?」

「市販されている物・・・じゃないわよね・・・? 妙に性能高そうだし」

ハロを見てカミーユ、アムロ、エクセレンが首を傾げる。

「クラインね・・・かのプラント現最高評議会議長殿も、確かシーゲル・クラインと言ったが・・・」

フラガが気を取り直して、確認をするかのように言うと、ラクスは嬉しそうに手を打ち合わせた。

「あら、シーゲル・クラインは父ですわ。貴方もご存知ですの?」

無邪気と言うか、自分が置かれた状況を判っているのだろうか。マリュー達3人はさらに肩を落とした。

「しかし、ラクス。何故、キミがこんな所に?」

「ええ、わたくしユニウス・セブンの追悼慰霊の為に事前調査に来てましたの」

アムロの質問にラクスはなかなか筋道だった話を始めた。

「―――そうしましたら、連邦軍の艦と出会ってしまいまして。臨検するとおっしゃるので、お受けしたのですが・・・
連邦の方々には、わたくしどもの船の目的がどうやらお気に障ったようで・・・
些細な諍いから、船内は酷い揉め事になってしまいましたの」

少女の柔らかな眉が悲しげに寄せられた。

「じゃあ、あのコロニー内にあった造花は、貴女が添えた物ね?」

エクセレンの言葉にラクスは頷きながら続ける。

「ええ、そうですわ。・・・わたくしは周りの者達に、ポットで脱出させられたのですが・・・あの後どうなったのでしょう?
連邦軍の方々がお気を鎮めて下さっていれば良いのですが・・・」

(フラガ大尉・・・あの民間船と戦艦の事では・・・?)

(だろうな・・・だが、言う必要はないだろう? 言ってこの子を悲しませたくは無いしな)

カミーユの視線にフラガも視線で答えを返す。

「それに脱出した際、連邦軍とわたくしの船の通信を聞いたのですが、識別不明機が多数接近中と言っていましたが一体・・・?」

「そこから先はボクが答えます」

ラクスの言葉にダバが答える。

「それはボク達を追ってきたポセイダル軍の一部です。ボク達を追っている最中に、貴女方の船を見つけて口封じの為に攻撃してきたのでしょう」

「まあ、あなた方は異星の方でしたのね?」

ラクスは驚かずに、そのままの調子で聞き返した。

「はい。そしてポットから発信されていた救難信号を、アムロ少佐達とボク達、運が悪い事にポセイダル軍が受信して先程の戦闘になったんです」

「本当は私達の前に来ていた機体があったんだけどね・・・」

「ああ、一つ目の機体だったな。オレ達が来たのと同時に、後ろから撃たれてやられたんだ」

アムとキャオの言葉を聞いて、ラクスは小さく息をのみ、

「・・・では、連邦の方々やわたくしの船の方々は・・・」

「・・・残念、だけどね・・・・」

レッシィが沈痛な表情で小さく答える。

「・・・そう言えば、ポセイダルが宣戦布告を流すとか言っていたな? ラミアス艦長、録画はしてあるか?」

アムロはラクスを気づかって話題を変える。

「え? ええ、記録はしてあります。ミノフスキー粒子の影響で画像が少し乱れてしまいましたが・・・」

「構わないさ、見せてくれ」

「わかりました。では、私達はこれで」

マリューが席を立ち、アムロ達と共に退室して行く。

「・・・再び、異星間との大規模な戦争になりそうですわね・・・・」

『ミトメタクナイッ!』

部屋に残されたラクスは、ハロに向かって悲しそうに呟いた。




マリュー達はブリッジに上がると、記録しておいたポセイダルからの映像を再生させた。



「私はオルドナ・ポセイダル、ペンタゴナの支配者。現在我がポセイダル軍は帝国軍、そちらで言うパルマーと敵対関係にある。
地球もパルマーと敵対しており、過去に1度撃破している事は知っている。本来ならばそちらと同盟を結ぶのだが、
貴様等の振るうその力は地球の文明では扱いきれん危険な物だ。
それを私が宇宙の安全の為に管理する為に、極秘裏に何度か通信を送ったが、そちらの返答を得られなかった。
故に、こちらの安全を確保するために、ここに地球に対しての宣戦を布告する」



再生が終わると、ダバは忌々しげに吐き捨てた。

「何が、宇宙の安全のためだっ!! 結局は貴様が力を欲しているだけじゃないか!!」

「アムロ少佐、気付きましたか?」

「ああ、ポセイダルが言っている事はラオデキアが言っていた事と同じだ・・・」

カミーユの問いかけにアムロはパルマー戦役、最終決戦時を思い出しながら頷く。

「これは地球圏全土に流されたのか?」

「ええ、恐らくは。長距離とは言え強力な電波を使っていますから、地上はどうか判りませんがコロニーには確実に・・・」

フラガの問いかけにナタルが返す。

「と、言う事はプラントも受信してる筈よね? これからプラントがどう出て来るかで、戦況がガラリと変わるわね」

エクセレンの言葉にアムロが頷きながら答える。

「そうだな。地球と和平を結んで共にポセイダル軍を迎え撃つか、地球に大攻勢を仕掛け、一気にケリを着けるかのどちらかだろうな・・・」

「アムロ少佐は如何お考えで?」

アムロの言葉にマリューが問いかけてくる。

「・・・個人としては和平を結ぶと考えたいが、恐らく攻勢を仕掛けてくる方だと思うな。
シーゲル・クラインは穏健派だが、ドーリアン外務官の話では現在のプラント評議会はタカ派が圧倒的に多いらしいからな。
タカ派に意見を押し切られる可能性の方が高い・・・」

「地球が一枚岩に成る事は無く、結局はパルマー戦役の二の舞になる・・・か。人は同じ過ちを繰り返すというのか・・・」

カミーユの言葉が静かにブリッジに響き渡った。




食堂から騒ぎ声が聞こえ、キラは立ち止まった。

「嫌ったら嫌!」

「もう! フレイってばなんでよお!」

「俺が行こうか?」

「・・・甲児が行くと後で別の問題が起こりそうだ」

「同感。あんまり鼻を伸ばしてると、さやかさんに嫌われるぞ?」

「キョウスケ、ブリット、酷い事言うな・・・」

フレイとミリアリアが食事のトレイの前で言い争っており、その周りで甲児、キョウスケ、ブリットが話し合っていた。

キラは入っていき、近くで傍観していたタスクに話しかけた。

「・・・何の騒ぎ?」

「ああ。さっき救助したあの子の食事だよ。ミリアリアがフレイに運ぶのを頼んだらフレイが嫌って、2人は揉めてるんだ」

「・・・『2人』・・・は?」

タスクの言葉にキラは首を傾げる。

「甲児さんが行くって言ったんだけど、女性関係に信用無いみたいだからキョウスケさん達が止めてるんだ。
・・・ここは間を取って、俺が行くって事で・・・」

駄目!! タスクを女の子と部屋で2人きりにしたら、何するかわからないでしょ!?」

言った瞬間にミリアリアに拒否され、タスクは肩を落とした。

「・・・俺ってそんな目で見られてたのか・・・」

落ち込むタスクを無視して、ミリアリアが再度フレイに頼み込む。

「そういう訳だからフレイ、お願いよ」

「嫌よ! コーディネーターの子の所に行くなんて、怖くて・・・」

「フレイ!!」

ミリアリアが慌てて嗜め、キラの方に視線を向ける。

それに気付いてフレイもそちらに視線を向け、キラに気付くと少し慌てて言う。

「い、言っておくけど、キラは別よ? サイの友達だし・・・でも、あの子は敵側の子でしょ? コーディネーターって私達よりも強いんだもの・・・
何かあったらどうするのよ! ねえ?」

「・・・キラに同意を求めるなよ。 でも、見た感じいきなり飛び掛ってくるようには見えなかったけどな」

フレイの意見にため息をつきながら甲児が答える。

「確かに。飛び掛るって言うよりは、フワフワ漂うって感じだな」

「そんなのわからないじゃない!」

甲児の言葉に同意するタスクの言葉も、フレイは聞き入れようとしない。

「まあ、誰が誰に飛び掛ったり漂ったりするんですの?」

「いや、それは―――って!?」

おっとりとした声が背後からかかり、キラは思わず答えようとするが、驚き振り返る。

そこには噂の当の本人、ラクス・クラインがニコニコして立っており、その場に居た全員がそのままの姿勢で凍りついた。

「あら、驚かせてしまったのならすみません」

すみませんと思っているのかも判らない、ぽやっとした調子でラクスは言った。

「実はわたくし、喉が渇いて・・・それに、はしたない事を言うようですけど、随分とお腹も空いてしまいましたの。
あの、こちらは食堂ですか? 何か頂けると嬉しいのですけど・・・」

「・・・・・・・って、ちょっと待った!!」

キラ達が、ようやく我に返り慌てて声を上げる。

甲児達も目を見開き驚いている。

「鍵とかしてないわけ!?」

「いや、それは無いだろう。エクセレンならば兎も角、バジルール少尉が忘れるはずが無い」

ミリアリアの言葉にキョウスケが答える。

キラ達よりも遅れて復活したフレイが声を上げる。

「やだっ! なんでザフトの子が勝手に出歩いてるの!?」

「あら、『勝手に』ではありませんわ。わたくしちゃんとお聞きしましたもの。出かけてもいいですかって・・・」

「で、行っていいって言われたんですか!?」

無邪気に目を見開くラクスに、キラが慌てて尋ねる。

「それが、どなたもお返事をして下さらなかったんですの。でも、3回もお聞きしたから、良いかと思いまして・・・」

(いや、それを勝手に出歩いてるって言うんだけど・・・)

タスクは口に出しても無駄だろうと思い、内心でラクスにツッコミを入れる。

ラクスはニコニコ笑いながらフレイの前に歩み出た。

「それに、わたくしはザフトではありません。ザフトは軍の名称で―――」

「なんだって一緒よ! コーディネーターなんだから! キョウスケさんも何か言ってよ!!」

フレイはキョウスケに助けを求めるが、

「一緒ではない。ザフトはプラントの軍の事を指す。だが、彼女は軍の人間ではないのだろう?」

「な!? 敵の人間相手にロンド・ベル隊が何言ってるのよ!? 倒すべき相手でしょ!?」

想像していた答えと逆の言葉を返され、フレイは驚き叫んだ。

「・・・前にバニング大尉も言った事だが、俺達が現在敵として戦っているのはザフトとだ。コーディネーターとではない。
それに、敵側とは言え民間人に対して力を振う事は軍人ならば、どこの所属であろうとやってはいけない事だ・・・」

最後の方のキョウスケの声に気圧され、フレイは押し黙った。

「構いませんわ。間違いは誰にでもある事ですし・・・貴女も軍の方ではないのでしょう? でしたら、わたくしと同じですわね」

フレイの言葉を気にした風も無く、ラクスは柔らかな笑みを浮かべ右手を差し出した。

だが、フレイは差し出された手を見て後ずさり、気圧されていた声をなんとか絞り出す。

「ちょ・・・ちょっと、やめてよ! なんで私があなたと握手しなくちゃなんないの!?」

その顔には嫌悪が浮かんでおり、彼女はそのまま金切り声を上げた。

「コーディネーターのくせに、なれなれしくしないで!!」

キラの呼吸が止まった。

敵意を向けていない、友好的とも言えるラクスに対してさえコーディネーターと言うだけで、フレイはこんなに酷い言葉を切りつける事が出来る。

それは、キラに対しても決定的な断絶がつきつけられた事を意味するのだ。

どんな努力や歩みよりも通用しない・・・キラがそう思った時、

「・・・キラ、彼女を部屋に連れて行ってくれ」

この場を離れさせた方が良いと判断したキョウスケに話しかけられ我に返る。

「え・・・?」

「この場にいる人間で比較的冷静なのはお前だけだ・・・俺が居なくなると甲児辺りがフレイに殴りかかりかねん・・・頼めるか?」

キョウスケが向けている視線の先を見ると、甲児とタスクをなだめているブリットが見えた。

「・・・判りました。あの、さっきの言葉は気にしてないんで・・・フレイに・・・」

キラがそこまで言うと、キョウスケはトレイを渡しながら、

「・・・それはお前が言った方がいいだろう・・・彼女の為にもな」

と、言い、2人を抑えるブリットに加勢する為に背を向けた。




「しかし、次から次へといろんな問題が起きるなー。新手の侵略者、そこからの助っ人、そしてピンクのお姫様
・・・報告書がかなりの量になるだろうな」

「ロンド・ベルにとっては毎度の事だからな・・・慣れたよ」

フラガは他人事の様に言うが、アムロはその態度に慣れた様に軽く笑って答えた。

(・・・アムロ少佐はもう少し堅い人物だと思ってたけど・・・)

マリューはアムロのフラガに対する反応を意外と思いながら、口を開いた。

「―――あの子もこのまま、月基地へ連れて行くしかないんでしょうね・・・」

「他に寄港地がないしな・・・」

「しかし、月基地へ連れて行けば彼女は・・・」

「・・・外交カードとして利用されるだろう・・・体の良い人質といった所か・・・」

「でも・・・出来ればそんな目にあわせたくは無いんです。民間人の、まだあんな子供を・・・」

マリューが迷いを口にすると、アムロも苦い顔で頷きながら、

「それは俺も・・・いや俺達、ロンド・ベル隊も一緒さ。だが、彼女の立場は普通の民間人とは異なるからな・・・
月基地に着けば、連中は彼女の事を『民間人』としてではなく、『プラント評議会議長の娘』と言う道具にしか見ないだろうな」

「・・・甘いですよアムロ少佐」

アムロ達の言葉を聞き、背後でナタルがトールに目をやりながら言う。

「お忘れかもしれませんがキラ・ヤマトや彼等、それに兜甲児やブルックリン・ラックフィールドといったロンド・ベル隊の主力は
殆どが民間の子供といえる年齢ではないですか」

「バジルール少尉、それは・・・」

言葉に詰まるマリューにナタルは更に追い討ちをかける。

「彼等をやむ得ぬとはいえ戦闘に参加させて、あの子だけ巻き込みたくないと? あの子はクラインの娘ですと言う事は」

「ただの民間人ではない、外交カードにされても仕方が無い・・・と言いたいのかバジルール少尉?」

アムロは言葉の先を察し、すぐさま反論する。

「だが彼女とキラ達、ロンド・ベルの連中は違うぞ。戦う力を持った彼等は自分の意思で戦闘に参加し、自分の意思で俺達に力を貸してくれている。
言わば彼等は『善意の協力者』なんだ。だがラクスの場合は、そこに彼女の意思があるのか?
彼女の立場を大人達が、軍や政治屋が良い様に利用しようとするだけじゃないか」

「それは・・・!」

今度はナタルが言葉に詰まる。

アムロの意見は綺麗事であるとナタルは思うが、なぜか反論が出来なかった。




「また、ここに居なくてはいけませんの?」

元の士官室に連れ戻されたラクスが寂しそうに言う。

「ええ・・・そうですよ」

キラはトレイをサイドテーブルに置くと沈んだ気持ちを押し隠し、無理に笑いかける。

「わたくしもあちらで、みなさんとお話しながら頂きたいですわ」

ラクスは少しむくれながら言う。

「これは連邦軍の艦ですから、キョウスケさん達、ロンド・ベル隊の人以外はコーディネーターの事・・・その、あまり好きじゃないみたいですし」

キラは暗い表情を見せまいと顔を背けながら言う。

「残念ですわね・・・ロンド・ベル隊の方々とは一度お話して見たかったのですが・・・」

ラクスはそんな彼の顔を見上げ切なげな顔になるが、たちまち消え去りすぐに包み込むような笑顔になった。

「でも、貴方は優しいのですね。ありがとう」

「僕は・・・」

キラはなぜか後ろめたい気分になったが、思い切って言いきった。

「僕も、コーディネーターですから・・・」

ラクスは目を丸くし、きょとんと首を傾げた。

(驚いたんだろうな・・・やっぱり・・・コーディネーターが連邦軍にいるのはおかしいだろうし・・・)

キラは内心でそう思っていたが、ラクスは不思議そうに訊いた。

「・・・貴方が優しいのは、貴方だからでしょう?」

キラの心臓が跳ね上がった。

ロンド・ベル隊やアスラン、友人達以外にもコーディネーターという見方ではなく、キラ・ヤマトという1人の人間として見てくれる人が居る事に驚いた。

「お名前を、教えていただけます?」

ラクスがほわりと笑い、キラはその笑顔に見入っていたがすぐに気付いて慌てて答える。

「あっ、キ、キラです。キラ・ヤマト・・・」

「そう。ありがとう、キラ様」

そう言われながら再びラクスに微笑みかけられ、キラは顔を赤くした。




キラとラクスが立ち去り、甲児とタスクをキョウスケ達が何とか落ち着かせた後、甲児がぶっきら棒にフレイに問いかけた。

「お前、まさかブルーコスモスじゃないよな?」

「違うわよ! 失礼ね!!」

心外だというようにフレイは声を上げるが、すぐに声のトーンを落とした。

「・・・でもあの人達、ブルーコスモスが言っている事は間違ってないじゃない。病気でもないのに遺伝子をいじったりするなんて、間違った存在よ」

「間違った存在か・・・なあ、俺達の仲間の話をしてやろうか」

フレイの言葉を受けて、甲児は唐突に話し出した。

「そいつはな、元々は普通の体をした人間だった。だが、シャトル事故の所為で体を改造しなくちゃならなくなったんだ。
改造後の体は人間の体とは言い切れないものだった。それでもそいつは人間として俺達と共に戦ってくれた『勇者』だった。
お前はそういう奴も間違った存在だと言うのかよ?」

「それは・・・しょうがないじゃないの? 事故でそういう事になったんだから・・・」

なにを言いたいのか解らないと言う様に、フレイが甲児に返す。

そのまま甲児は続けた。

「そうか。じゃあ、フォウやここには居ないが、プルツーみたいな強化人間と言える人達はどうなんだ?
お前と同じ言い方なら、あいつ等も病気でもないのに体をいじってる間違った存在だぜ?」

「もう! 何が言いたいのよ!? フォウさん達は自分の意思でなった訳じゃないんでしょ!? だったら違うじゃないの!!」

訳がわからないと言う様に、フレイがヒステリックな声を上げる。

「・・・いや、同じだぞ」

そこに冷静なキョウスケの声が響き、フレイ達は一斉にキョウスケに視線を集める。

「フォウ達が自らの意思で強化人間になった訳ではない様に、コーディネーター達も自らの意思でなった訳ではない。
1世代目は両親の希望により、2世代目以降は受け継がれた遺伝子の為にコーディネーターになったのだ。
そこには当人達の意思などは存在しなかった点は同じだ・・・今のお前の意見からすると、『勇者』と呼ばれる男やフォウ達の様な
どうしようもない場合は納得出来るようだが、ならば何故、同じ状況のコーディネーターを認められん?」

「それは・・・! キョウスケさん達、ロンド・ベル隊だけの意見でしょ!? 本当はみんなも私みたく思ってるんでしょ!?」

必死でキョウスケの意見を否定するように、周りに助けを求めてフレイは声を上げるが、

「・・・少なくとも、俺はコーディネーターに対してお前みたいな理由の無い嫌悪感を持っていないぜ」

「・・・私も、よ。確かに喧嘩になったりすると怖いけど、そうならなければキラみたく普通の人間とあまり変わらないんだしさ・・・」

タスク、ミリアリアがキョウスケに賛同すると、フレイは泣きそうな顔になり食堂から飛び出していった。

「・・・反論しないで出て行ったな・・・本当に理由が無くてコーディネーターを嫌ってたのか・・・?」

甲児が出入り口を見ながらミリアリアに問いかける。

「彼女のお父さん、連邦の事務次官でコーディネーターを嫌ってるの・・・多分その影響で・・・」

「そんな事で!? やれやれだな・・・どうしたんですか、キョウスケ少尉?」

ブリットはため息をつきながらキョウスケの方を見ると、何やら考え込んでいた。

「・・・大した事じゃない・・・甲児、その『勇者』と呼ばれる男は体を改造しなければ、助からなかったんだな?」

「? ああ、あいつの親父さんが言ってた事だし、間違いないぜ。それ以前に墜落中に助けが来なければ死んでたって
・・・どうしたんだ、キョウスケ?」

「いや、なんでもない・・・」

甲児の問いかけに言葉少なく返し、キョウスケは再び考え込んだ。

(・・・『あの時』の状況ならば死んでるほうが普通か・・・ならば何故、俺とアイツは・・・)




キラがラクスの部屋から出ると、ちょうどサイと鉢合わせた。

「あれ・・・? ここって、あの救助した子の部屋だろ? 食事を届けてたのか・・・?」

「あ、うん・・・」

不思議そうに聞くサイにキラは言葉少なく頷く。

そのまま歩き始めると、サイが何かに気付いたように聞いてきた。

「・・・また、フレイが何か言ったのか・・・?」

「!? なんで・・・?」

「図星かよ・・・お前の顔を見れば解るよ」

驚いて聞き返してくるキラにサイはため息をつきながら返した。

「後で、事情を聞いてフレイに言っとく」

「別に・・・」

「気にするな、慣れてるしな」

キラの言葉を遮り、サイが告げてくる。

サイの言動を見ていると、恋人というより保護者に思えてくる。

(慣れていると言う事は、常日頃からこんなに親密なのか・・・?)

何となく沈んだ気分になっていると、足音が聞こえて来た。

「サイ! キラ・・・」

通路の向こうから走ってきたフレイは、サイを見つけ声を弾ませるが、キラも一緒に居る事が解ると表情を曇らせる。

「フレイ・・・今度は一体なんて「ゴメンなさい! キラ!!」

サイに深く追求される前にフレイはキラに謝り、そのまま言い続ける。

「あの時はあんな事言っちゃったけど、キラだけは別よ? ザフトみたいに私達を攻撃したりしないで、守ってくれるんでしょ?
だから別にキラの事、嫌いなわけじゃないから・・・」

「・・・気にしなくていいよ、フレイ。僕は大丈夫だから・・・」

キラが首を振り、微笑むとフレイは安心したかの様に表情を和ませた。

その時、キラ達の耳にどこからか美しい歌声が聞こえ彼等は振り返った。

「この歌・・・あの子が歌ってるの・・・?」

「きれいな声だな・・・」

フレイとサイが歌を聴きながら呟く。

3人はしばし敵国の歌姫の声に聞き入ったが、フレイが漏らした呟きをキラは聞いてしまった。

「でも、遺伝子いじってるから出る声なんでしょ・・・」

和らいでいた空気が凍りついたようにキラは感じた。




「キャオ、どうだ?」

「・・・駄目だな、こりゃ・・・あの時爆発しないで、しかもパワーランチャーを撃てたのが信じらんないくらいだ」

ダバの問いかけに、キャオがアムのディザードから顔をだし告げる。

「え〜、何とかなんないの?」

「無茶言うなって。中破くらいならなんとかなっけど、ここまで酷いとペンタゴナに持ち帰っても直るかどうかなんだぞ」

アムの文句に頭を掻きながらキャオが言う。

「ちなみにどれ位酷いんだい?」

レッシィが興味本位で聞くと、キャオは何かを数える様に指を折っていたが直ぐに止め、

「・・・はっきり言って、アムが無傷だったり、B級のこいつが原形留めてるのが不思議なくらいだ・・・何箇所やられたかなんて、
多すぎて数えるのがバカらしくならぁ」

「・・・少し、いいか?」

ダバ達の会話を聞いていたアストナージが話しかけてきた。

「お前らの機体、誰が整備してたんだ?」

「オレだけど・・・妙なモンでもくっついてたのか?」

不思議そうに聞くキャオに、アストナージは首を振りながら答える。

「いや、少し見させてもらったんだがよく整備されてると思ってな。これだけの腕を持ってるんなら整備一本でやってみる気はないか?」

「え・・・?」

アストナージの誘いにキャオは驚いた。

「スーパーロボット、MS、PT、そしてお前等の機体が増えて来て、ロンド・ベル隊からの連中はともかく、アークエンジェルの整備班が
ついて来れないんだ。そこでそっちの機体を熟知してる奴が居ると助かるんだが・・・」

「別にいいけど・・・オレこっちの機体、MSとかは判らないぜ?」

「それは俺が教えていくよ。そっちの機体を教えてくれるんだ。機密扱いのヤツ以外はいじらせてやるさ」

アストナージがそこまで言うと、キャオは嬉々として頷いた。

「よーしっ! 乗った!! よろしく頼むぜ、師匠!!」

「いや、その呼び方はちょっと・・・」

マードックと同じ呼ばれ方をされてアストナージは少しひいた。




「そろそろ合流ポイントね・・・」

そう言いながらマリューは時計に目をやった。

「・・・予定より34分オーバー・・・艦隊は確認できる?」

「いえ・・・敵、味方共に艦影を確認できません」

マリューの問いかけにトールが答えると、アムロとナタルが怪訝な顔になった。

「妙だな・・・」

「アムロ少佐もそう思われますか・・・」

そのやり取りの意味が解らず、マリューが2人に問いかけた。

「どういう事・・・?」

「本来、この場所にあるはずのチューリップが感知されていない」

アムロにそう告げられ、マリューは慌てて宙域図とモニターを見比べる。

確かに宙域図にはチューリップが記されているが、目の前にはチューリップは存在しなかった。

どういう事かとマリューが考えをめぐらせようとした時、通信を担当していた士官の報告が入って来た。

「艦長、通信です! これは・・・第八艦隊先遣隊からのです!!」

「どういう事・・・? 正面に回して」

マリューは不思議に思いながらも、映像通信を正面ディスプレイに回させる。

『第八艦隊所属のコープマンだ。すまんな、こちらが時間を指定しておきながら、到着には後30分程かかる』

モニターに出たコープマン艦長が申し訳無さそうに言う。

「なにかトラブルが起こったのですか・・・?」

『いや、そうではない。出発直前になって駆け込み乗艦をした方がいてな・・・』

ナタルの質問にコープマンは歯切れが悪く答えると、隣から出てきた男に席を奪われる。

『地球連邦事務次官、ジョージ・アルスターだ。まずは民間人の救助に尽力してくれた事に礼を言いたい』

(アルスター・・・? 確か、キラ君達と一緒に居るあの娘も・・・)

マリューはすぐにフレイに思い当たると同時にヤな予感を覚えた。

その予感を肯定するかのように、アルスターが言葉を続ける。

『あー、その。ブライト大佐が送ってくれた乗員名簿の中に、私の娘フレイ・アルスターの名前があったのだが・・・
出来れば顔を見せてはくれないか・・・?』

(・・・やっぱり・・・)

(駆け込み乗艦をしたのはこの人か・・・アウデアー外務次官といい、政治屋はなんで公私混合をするんだ・・・)

予想どうりの結果にマリューとアムロは呆れてため息をついた。

それを察してくれたコープマンが苦りきった声で牽制をする。

『事務次官殿、合流すればすぐに会えますから・・・ところで、そちらは今どの辺りだね? こちらはチューリップの近くを通過中だが・・・』

その言葉にブリッジ全体に衝撃が走り、ナタルが慌てて宙域図を見る。

「! ここにあったチューリップは何らかの理由で移動したのか!!」

「コープマン艦長! 早くそこから離れてください!! なんで別のコースを取らなかったんですか!!」

ナタルに続いてマリューも声を上げ、コープマンは驚くがそれに代わってアルスターが返す。

『私が頼んだのさ。別のコースを通ればそれだけ合流が遅くなるだろう? 早く合流しなければそちらが危険だと思って・・・』

「危険なのはそっちです! チューリップが活性化すれば、そこから大量の敵が出て来る事を知らないのですか!?」

意見をを遮って言うアムロの言葉をアルスターは一笑し、

『それくらい知っているさ。だが、目の前を通過中に活性化するなんて事はそうそうないだろう?』

(何の根拠もなく、『自分は大丈夫』と思っている人間か!?)

アルスターの言葉にアムロが苛立ったその時、

『艦長! チューリップが活性化しています!!』

あちらのレーダー士の報告がアークエンジェルにも伝わってくる。

『何!? 全速で逃げ切れるか!?』

『無理です!! 既にカトンボ10隻、ヤンマ5隻が出現しています!! こちらの速度ではすぐに追いつかれてしまいます!!』

『くっ・・・! アークエンジェル、聞いての通りだ。貴艦等はその場で20分待機していてくれ・・・
もし、20分してこちらから通信がなかった場合は、全速で月に向うんだ。以上!!』

コープマンはそれを最後に通信を切った。

「艦長、援護に向かうんだ」

アムロがマリューに進言する。

「しかし、いくらロンド・ベル隊でも今の戦力では・・・!」

マリューの言葉にアムロは頷きながら、

「ああ、殲滅は無理だ。だが、先遣隊の脱出の突破口を作ることは出来るさ。危機にさらされている人達を見過ごす事は出来ないからな」

「自分もアムロ少佐に賛同します。アークエンジェルの速度でなら、先遣隊を脱出させた後に蜥蜴を振り切る事が可能です」

ナタルもアムロの意見に賛成するのを聞き、マリューは少し考えた後に頷く。

「これより、アークエンジェルは先遣隊の援護に向かいます! 総員第一戦闘配備! 最大戦速!!」




一方その頃、ラクス探索の任を負ったヴェサリウスも先遣隊を捉えていた。

「連邦の艦隊が何故こんな所に・・・?」

アデスが口にした疑問を、クルーゼはレーダーパネルを見ながら応じた。

「足つきが―――あの新造艦の事だが―――ロンデニオンから月へと向かうとすれば、どうなるかな?」

「・・・補給はロンデニオンで済ませらた筈ですから・・・出迎えの艦隊ですかな・・・? 通っているコースが少し妙ですが・・・」

アデスの言葉に頷きながらクルーゼが振り向いた。

「チューリップの目の前を堂々と通る連中は2種類しかいない。何も考えていないか、出て来た艦隊を殲滅する事が出来るか、そのどちらかだ。
私の知る限り、後者の事が出来るのはロンド・ベル隊だけだがな」

「チューリップ活性化していきます」

クルーゼの言葉と入れ替わりに報告が入ってくる。

その報告に頷きながら、クルーゼが告げる。

「恐らく足つきが連中の援護に駆けつける筈だ。足つきが合流しだいこちらも仕掛けるぞ」

「しかし、我々は・・・・! それに足つきが駆けつけてくるとは限りませんよ?」

当惑しながらアデスはクルーゼに問いかける。

しかし、クルーゼはいつもの考えの読めない笑みを浮かべると、

「奴等は来るさ。あの艦にはロンド・ベル隊がいるからな。それに我々は軍人だ。いくらラクス嬢の捜索任務があるとは言え、
たった一人の少女の為に、奴等を討つチャンスを逃す訳にもいくまい? 私は後世の歴史家に笑われたくないのでね」




警報が鳴り響く中、キラはパイロットルームに向う途中で、ラクスの部屋の前を通り過ぎ様という時、

「なんですの?」

唐突にドアが開き、ラクスがドアの隙間からキョトンとキラを見上げていた。

「―――また! どうなってるんだ!? ここの鍵」

キラが驚きながら鍵を見るが、ラクスが気にした風もなく聞き返してくる。

「急ににぎやかになりましたけど・・・?」

「戦闘配備なんです。さっ、危険なんで中に入って・・・」

「せんとうはいび・・・・? まあ、戦いになるんですの?」

「ええ。アムロさん達もいるんで大丈夫だとは思いますけど・・・」

「・・・キラ様も、戦われるのですか?」

ラクスに見つめられ、一瞬キラは言葉に詰まった。

「・・・とにかく、部屋から出ないでください。今度こそ、いいですね?」

優しい口調で言い、ラクスを部屋に押し込めると再び鍵を掛け直した。

遅れた分、急いで駆けつけようとすると、途中で強い力に腕を掴まれた。

「キラ! 戦闘配備ってどういう事? パパの船は!?」

「やめるんだ、フレイ! キラの邪魔になるだろう」

不安顔のフレイとそれを止めさせようとするサイだった。

「どういう事?」

事情が飲み込めないキラがサイに聞くと、表情を曇らせながら、

「さっき聞いたんだけど、今、襲われている先遣隊にフレイのお父さんがいるんだ」

「だ、大丈夫よね? パパの船やられたりしないわよね!?」

事情を飲み込めたキラはフレイにすがられ、赤面しそうになりながらも何とか頷く。

「大丈夫だよ、フレイ。僕達も行くし、アムロさん達、ロンド・ベル隊も行くんだから」

アムロやロンド・ベル隊の名前で少し安心したのか、きつく掴んでいた指から少し力が抜けその隙に指を外すと、キラは走り出した。

「キラ! 頼むぞ!! フレイは部屋に戻ってるんだ。俺もブリッジに行かなくちゃならないから」

フレイにそれだけ告げると、サイはキラとは逆の方へと走り出した。




味方のメビウスが次々とバッタに落とされていく。

「カチーナ中尉、突出しすぎです!!」

「ラッセル! お前は文句言わずに背中守ってなっ!」

ラッセルの制止を無視し、カチーナはバッタに攻撃を仕掛ける。

バッタはミサイルを放つが、カチーナはSF-29をバレルロールさせ回避をしながら、ビームを撃ち返す。

しかし、フィールドを貫けずそのまま弾かれてしまう。

「ちぃ! 戦闘機の出力じゃこんなもんか!! ラッセル、ラトゥーニ! ビームは撃つだけ無駄だ! 実弾を使いな!!」

「・・・了解・・・」

ラトゥーニは短く応え、バッタのバルカン砲を回避するとバルカンを撃ち返す。

フィールドに威力を殺され、致命傷にはならないが回避運動を取りながらバルカンを撃ち続ける。

そして、ようやく動力部にバルカンが到達しバッタが爆発する。

「やっと破壊出来たか・・・ったく! 旧式でもPTだったらこんなに苦労しないのによっ!!」

カチーナが毒つきながら、バッタの攻撃をかわしバルカンを撃ち返す。

「中尉! 後ろ!!」

「おっと! コラ! ラッセ!! 背中守ってろって言ったろ!! 後で鎖骨割りだ!!」

「そんな理不尽な・・・」

バッタに後ろにつかれ、バルカンを撃たれるが何とか回避する。

ラッセルは援護に向かおうとしたのだが、彼も2機のバッタに追われているのだ。

近くに居たエステバリス小隊がカチーナ達の援護に向かおうとした時、目の前に錫杖を持った紅い機体が立ち塞がり、
一瞬にしてエステバリス小隊を全滅させた。

「なんだ!?」

「早い・・・いや、そんな次元じゃない!!」

「該当機種・・・無し・・・木星蜥蜴、新型機と認識・・・」

カチーナ、ラッセル、ラトゥーニは驚きながら散開するが、紅い機体の直ぐ傍にいた人型兵器達に攻撃される。

「こいつ等・・・紅いのよりは早くはないが・・・!」

カチーナは黄色の機体と、薄い青色の機体の攻撃をかわしながら、ラッセル達の方を見る。

ラッセルは黒の塗装をされた機体と、緑の塗装をされた同系機に攻撃されている。

ラトゥーニは真っ白な機体と、赤の塗装がされている機体を何とか振り切ろうとしていた。

紅い機体はカチーナ達に興味を失ったのか、エステバリスや戦艦の方に向かって行く。

『護衛機! 戻れ!!』

通信が入り母艦の方を見ると、妙な、一見するとスーパーロボットに見えなくもない大型ロボットに攻撃されており、
目の前で1隻の護衛艦が撃沈された。

「ちっ! ロンド・ベル隊のパクリかよ!!」

吐き捨てて、カチーナは母艦の方に向かおうとするが、2機が向かわせまいと行く手を防いだ。

ちょうどその時、アークエンジェルが戦闘宙域へと姿を現した。




アークエンジェルの接近はコープマンの艦、『アマリリス』でも感知していた。

「アークエンジェル・・・!?」

「来てくれたのか!」

助かった、という喜びに声を上げるアルスターの横でコープマンが愕然としながら拳を握り締め、そのままシートに叩き付けた。

「―――馬鹿な!!」




アークエンジェルから発進し、戦闘宙域に着いたブリットは戦艦に攻撃をしてる機体を見て驚いた。

「あのロボットは・・・まさか!!」

「知ってるのか、ブリット」

キョウスケが聞き返すと、気まずそうに答える。

「いや、知ってると言うか・・・あのロボットは『ゲキガンガー』に出てくるゲキガンガーVなんですよ」

「激・・・? なにそれ?」

解らないという様にエクセレンが聞き返してくる。

「アニメですよ。新西暦初期にやっていたやつなんですけどね」

「初期って・・・また、古いわね〜。ブリット君って・・・オタク?」

エクセレンの言葉に心外だと言う様に慌てて答える。

「違いますよ!! パルマー戦役の時にリュウセイに、前にいた仲間に無理矢理見せられたんです!!」

「なるほど・・・」

「リュウセイにか・・・」

リュウセイの事を良く知っている、アムロとカミーユはなんともいえない顔で納得したように頷く。

「何しにきやがった!!」

突然、カチーナが通信に割り込んできてキョウスケ達は驚く。

「何って、援護しに来たんですよ」

キョウスケに代わって、キラが答えるが、

「援護だあ? はっ! 新型機に乗ってるから余裕かましてくれるな! あたい等にも新型機を回してくれれば援護なんて必要ないのによ!!」

「ちょっと、そんな言い方!」

「待つんだ、ブリット」

アムロがブリットを抑え告げる。

「そちらになんと言われようと、目の前で危機に陥っている味方を見過ごす事は出来ないさ。
たとえ拒否されても、こちらは勝手に援護させてもらう」

アムロはカチーナに告げると、リ・ガズィを加速させ紅い機体の方へと向かい、残った各機も散開していった。




アークエンジェルを感知したヴェサリウスで、クルーゼは発進命令を出した。

「アスラン、そいつの性能を見させてもらうぞ」

ジンUのパイロットがそう言い残し、飛び出していく。

「まったく、何も知らないと気楽よね・・・」

リムがため息混じりに通信を開いてきた。

「・・・こんな時に、キラと戦う事になるなんて・・・」

「・・・確かに、ね。ラクスを救出しなくちゃいけないし、ロンド・ベルと一緒ならキラ君も安全だと思ってた矢先だもんね・・・」

アスランの呟きにリムが返すと、意を決したように頼む。

「リム、多少手荒になるが俺はキラをこっちに連れて来たい。それで・・・」

「・・・了解。ストライクは貴方に任せるわ。他の機体の相手やフォローは任せて―――アムロ・レイとかの相手は勘弁して欲しいけど・・・」

リムが答えると同時に発進許可が下り、リムのジンU、続いてイージスがヴェサリウスから飛び出していった。




アムロは紅い機体を捕らえるとビームキャノンを放つが、あっさりとかわされそのまま接近されると錫杖を振り下ろされる。

「!? 速い!!」

ギリギリで回避をするが、続けざま錫杖で殴り掛かられる。

「ちぃ!」

BWS形態では不利と思い、分離をするとビームサーベルで錫杖を受け止める。

錫杖を受け止めた瞬間、紅い機体は回し蹴りを放ってくるが、アムロはリ・ガズィを半身退かせて回避する。

(この動き・・・無人機じゃない!?)

そう思いながら斬りかかろうと思った時、紅い機体は振り向き様、錫杖を投げつけてきた。

紙一重で錫杖をかわそうとするが、回避しきれずに左肩に錫杖が突き刺さる。

「まだだ!!」

体勢を崩しながらもビームライフルで反撃するが、機体が相手のスピードについていけずかすりもしなかった。

「ちぃ! リ・ガズィでは・・・!!」

紅い機体の動きをアムロはついて行けない事は無いが、機体がコンマ何秒かでアムロの反応に遅れるのだ。

実力が下の相手ならば問題は無いが、シャアや目の前の機体の様に互角の力を持つ相手ならば致命的なまでの遅れであった。

機体の反応の遅さに歯噛みしつつ、アムロはビームライフルを連射した。




ゲキガンガーの様なロボットがマジンガーZにロケットパンチを放つが、

「俺の目の前でモノマネとはいい度胸だ! くらえ! 本家本元のロケットパーンチ!!

真正面からロケットパンチを打ち返し、ロケットパンチ同士がぶつかり合う。

マジンガーZのロケットパンチが、ゲキガンガーもどきのロケットパンチを貫きそのまま機体に命中する。

体勢を崩したゲキガンガーもどきに甲児は追撃をかけようとした時、グラビティブラストを放たれ慌てて回避する。

「うわっと。やっかいなもんを装備してるな」

グラビティブラストをかわした甲児は、警戒しつつ攻撃を仕掛けた。

「いくぜ! 光子力ビーム!!」

放たれた光子力ビームは、そのまま命中するように見えたが、命中する直前に機体が消えた。

「!? 消えた!?」

甲児は驚いて計器に目をやるが、消えた敵機の反応は映らない。

「甲児! 後ろだ!!」

「何!? うわっ!!」

ブリットの声に咄嗟に反応するが間に合わず、後ろに出現したゲキガンガーもどきのロケットパンチが直撃する。

「いつの間に後ろに回ったんだ? 違う機体じゃないみたいだが・・・」

相手の機体の損傷を見て甲児は首を傾げる。

同系機の相手をしているブリットが辺りを見渡しながら甲児に教える。

「そいつは後ろに回ったんじゃない、後ろに現れたんだ。見た所、そんな事が出来るのはそいつだけみたいだ」

「テレポーテーションってやつか!? 厄介だな・・・」

「待ってろ、こっちが片付いたら援護に向かう!」

しかし、ブリットの言葉に甲児は首を振り、

「大丈夫だ、こんな奴に負けるマジンガーZと兜甲児様じゃないぜ!!」




キョウスケはバーニアを全開にして、緑の機体に向かって行く。

緑の機体はライフルを連射し、それは全弾アルトに命中するがその速度は落ちなかった。

「装甲の厚さが取り柄でな・・・」

不敵に笑い、そのまま間合いを詰めるとリボルビング・ステークを繰り出す。

しかし紙一重でかわされ、ライフルを連射しながら後退される。

「思ったよりも速い・・・!? ちっ」

舌打ちをしながら再度、敵機との間合いを詰めようした時、緑の機体がライフルでは効果が薄いと判断したのか、抜刀し接近してきた。

両機の距離がつまり、緑の機体が刀を振るう。その太刀筋は常人では視認できぬ程速かったが、

「それで当てるつもりか! 隊長の、教官の太刀はこんなものではなかったぞ!!」

キョウスケは、リボルビング・ステークの杭の部分で刀を受け止めると、そのまま刀を跳ね上げるとクレイモアを撃とうとするが、

「キョウスケ! 右!!」

突然飛んできたエクセレンの声に反応し後ろに下がると、今までいた所に白い機体が突っ込んで来た。

そこを狙って、エクセレンがオクスタンランチャーを放つが咄嗟に上に回避される。

「・・・エクセレン、気付いたか?」

キョウスケの問いかけにエクセレンは頷き答える。

「ええ、今の動きからしてあの2機・・・それとその同系機は無人機ではないわね・・・」




カミーユが、薄い青色の機体に攻撃を仕掛けようとした時、妙なプレッシャーを感じた。

(この感じ・・・シロッコ・・・? いや、違う! 奴よりももっと不快な感じだ)

そのプレッシャーは紅い機体と戦闘中のアムロも感じていた。

(なんだ・・・? この感覚は・・・? 敵意と憎しみが入り混じっている・・・!?)

フォウもそれを感じ取っていた。

(なんなの・・・? このざらついた氷の様な感じは・・・?)

(この感じ・・・クルーゼか!?)

フラガもそれを感じ取っていた。それは彼にとっては慣れた感覚であり、気がつくと全機に注意を促していた。

「全機へ! 気をつけろ! ザフトが仕掛けてくるぞ!!」

その言葉とほぼ同時に、各機のレーダーにザフトの反応が映った。




『全機へ! 気をつけろ! ザフトが仕掛けてくるぞ!!』

キラはフラガの声を聞きながら、レーダーに映った機影を確認した。

「イージス・・・アスラン・・・!」

イージスの姿を認めると、キラは歯を食いしばり、真っ直ぐそちらの方へと向かっていった。

「キラ・・・リム、頼むぞ!」

アスランもストライクに気付き、リムに声をかけてからストライクへと接近する。

両機が射程に入ると、どちらとも無くビームライフルを放っていた。




「こんな時にクルーゼに見つかるとは!」

フラガは毒つきながらガンバレルを展開し、接近してくるジンU5機の内2機に攻撃を仕掛ける。

1機は直撃し体勢が崩されるが、もう1機はなんとか回避するとゼロに向かってビームライフルを放ってくる。

「この動き・・・バスターと一緒だったパイロットか!?」

ビームライフルをかわしながら呻くと、リムのジンUに向かってビーム砲を放つ。

「前衛は私が担当するわ! あなた達は、援護をお願い!!」

リムはビーム砲を回避しながら、4機のジンUに頼むとビームサーベルを抜き放ちゼロに斬りかかって行く。

フラガは何とか回避するが、回避した所を後方のジンUに狙い撃ちされる。

「ちぃ! やっかいな隊形を・・・!」

それもフラガは回避するが、続けてリムが再度斬りかかって来る。

しかし突然飛来したビームが2機の間に入り、リムは慌ててジンUを下がらせる。

リムはビームが飛んできた方を見て声を上げた。

「なんなの・・・!? あの機体は!?」

その視線の先に居たのは、エルガイム達だった。

「大丈夫ですか!? ムウさん!?」

「わりぃ、助かった」

ダバに礼を言うと同時にガンバレルを展開し、リムのジンUに追撃を仕掛ける。

「くっ!」

ガンバレルの追撃をかわし、リムが後方のジンU達に視線を向けると、カルバリーとディザードに攻撃を仕掛けられていた。

「ロンド・ベルの新しい協力者という訳ね・・・」

状況を把握したリムが呆然と呟いた。




「ローエングリン! 目標、ヤンマ! てぇっ!!」

「ブリットから報告! 『仮称』ゲキガンガーもどき5機撃破! カトンボを2隻破壊、後1隻航行不能に出来れば突破口が出来るそうです!!」

「砲火をグルンガスト改の近くのカトンボに集中させて!! ロンド・ベル隊とストライク、フラガ大尉は!?」

「ロンド・ベル隊は木星蜥蜴の新型機の抑えに回っています! ストライク、フラガ大尉はザフト軍MSと交戦中です!!」

アークエンジェルのブリッジは号令が飛び交い、モニターにはめまぐるしい戦況が映し出されている。

そんな中ブリッジの扉が開いたが、誰もが持ち場に手一杯で気付きはしなかった。

「・・・パパの・・・パパの船はどれなの・・・・?」

「!?」

その声に全員がはっとし、何時の間にか入って来た声の主―――フレイを見る。

「ねえ・・・パパの・・・パパの船は・・・どれなの・・・!?」

フレイが震える声で叫びながら前に飛び出してくる。

「今は戦闘中よ!! 非戦闘員はブリッジから出て!!」

マリューが命じ、サイがCICから飛び出そうとした時、目の前のチューリップが再び活性化しだした。

サイは慌てて席に戻り状況を確認し、報告する。

「チューリップ、活性化!!」

「増援!?」

ナタルが驚き声を上げる。




チューリップの近くでゲキガンガーもどきを撃墜したブリットは、そこから出て来た戦艦を間近で見た。

「なんだ・・・何処の戦艦なんだ・・・?」

その戦艦は、あちらこちらが損傷した白い戦艦だった。

少し離れた所にいたカミーユ、キョウスケ、エクセレンは信じられないという顔をしていた。

「あれは・・・」

「何故ここに・・・?」

「どうして、チューリップから出てくるのよ・・・?」

キラとアスランは一時戦うのをやめその光景を見ていた。

「アムロさん・・・あの戦艦は・・・?」

「キラはヘリオポリスにいたから知らないのか。あれは8ヶ月前に火星で消息を断っていた民間の戦艦・・・『機動戦艦ナデシコ』だ」




第十話に続く

あとがき

みなさん、お待たせしました。やっと、ナデシコの登場です。長かった・・・本当に・・・あれ? この言葉前も言った様な・・・?
それと、今回出て来た紅い機体は『ダリア』ではありません。夜天光です・・・念のため・・・他の機体も神皇シリーズではありません。
この辺の詳細については2、3話後の話で語ろうと思います。
何故2、3話後になるかというと、次回から1、2話かけて火星でのナデシコの話に、時間軸上の8ヶ月前の話になるからです。
はっきり言って、ややこしい事ですがこうでもしないと何故、この時期に木連がゲキガンタイプを少数とはいえ投入してきたのか?
なんで、未来の技術である夜天光があるのか? 単独ボソンジャンプは? という事が説明できないんで・・・

 

 

 

代理人の感想

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱラクスって頭のネジが何本か抜け・・・げふんげふん(爆)。

しかしロケットパンチ対決は燃えました。

最近同じようなことばかり言ってる気もしますが、クロスオーバーってのはこうでないと!