第十一話 そして舞台は8ヵ月後へ・・・




あちこちに損傷を負いながらも、ナデシコは何とか包囲網を脱出し、先に離脱した万丈達と合流を果たした。

「へぇ・・・ナデシコの艦長が女性の方とは思わなかったね」

「いやいや・・・ナデシコは能力が1流ならば人格等の方は気にしない方針でしたので・・・」

万丈の言葉にプロスが笑いながら答える。

「あれ? なら鉄也とかロンド・ベル隊の民間人メンバーに声をかけなかったんですか? あいつも格闘戦とかは1流にこなせますよ?」

一矢が不思議そうに問いかける。

「こちらとしても、剣鉄也を始めとした立場が民間人のロンド・ベル隊のメンバーを雇いたかったのだが、本人が拒否、又は
こちらにスーパーロボットの整備が出来る技術者が不在の理由で見送った」

「なるほどね。いろんなスーパーロボットの整備を出来るのは、ロンド・ベル隊のアストナージさんぐらいだしね。
それで、比較的技術が公表されているPTを使え、パルマー戦役時にロンド・ベル隊で活躍してたユウキを雇ったという訳か」

「そうだ。マオ社の方に協力を要請した時、リン社長が彼を派遣してきたくれた」

一矢、万丈の言葉にゴートが応える。

「あの〜・・・アキトは? それにリョーコちゃん達も戻ってこないし、何時の間にかルリちゃんもいなくなってるんだけど・・・」

「艦長〜、ルリルリなら、さっき急いで走ってったけど〜?」

ブリッジを見渡しているユリカにミナトが答え、

「リョーコ達ってエステのパイロットの事かい? 彼女達はユウと一緒に緊急ミーティングをするって言ってたよ」

万丈がリョーコ達の不在の理由を告げた。




「まさか、お前がロンド・ベル隊に所属していたなんてな」

「すまない・・・出来るだけ隠しておきたかったんだ」

ガイの苦笑いしながらの言葉に、ユウキはすまなそうに答える。

「あれ〜? なんで? 自慢できても、隠すような事じゃないと思うんだけどな〜?」

「確かにな。ロンド・ベル隊にいたって事は、お前の腕は他の部隊ではエースをはれるだけの力があるって事だろ? なら・・・」

「・・・地球を出るときにあった、クーデター騒ぎ、ね?」

質問してくるヒカルとリョーコの声を遮り、イズミがポツリと言い放つ。

「なんだ? それ・・・?」

「と、いうより、イズミが珍しくまたマジだ・・・」

首を傾げるリョーコとヒカルにイズミが答える。

「ホウメイさんに私達が合流するまでにあった事を聞いたのよ。それで、地球を出る時にナデシコに乗っていたムネ茸副提督を
中心に軍人がクーデターを起こしたらしわ。ブリッジを制圧して、ナデシコを連邦に売り渡す算段になっていたそうよ・・・」

「へぇ〜、そんな事があったのか・・・。でもよ、それとユウが秘密にしてたのってどう関係があるんだ?」

リョーコの問いかけに、イズミは一つため息をつき、

「判らない? クーデターを起こし、力で自分達を抑圧したのは軍人。ロンド・ベル隊も一応、軍よ・・・。
クーデターが原因で、ナデシコ内では潜在的に軍人を嫌悪する感情が出来たわ・・・まあ、スペースノイドなら当たり前の感情だけど・・・
彼が名乗らなかったのは、元とはいえ軍に係わりがある事がナデシコ内中に知れ渡って、トラブルを起こしたくなかったからよ・・・」

そこまで言い終えると、ユウキを見て視線で『違う?』と問いかけてくる。

「ああ。そんな所だ」

ユウキが頷いた時、ルリがキョロキョロしながら格納庫に入って来た。

「あれ〜? ルリルリどうしたの〜?」

それに気付いたヒカルがルリに声をかける。

「あの・・・アキトさんは?」

「アキトならあそこでウリバタケに絞られてるが・・・って、オイ! ホシノ!!」

ルリの質問にガイが答えると、礼も言わずにアキトの方へと走って行った。



「ったく、派手にやったな〜テンカワ・・・」

「すいません・・・」

ウリバタケはアキトのエステを見ながら苦笑いを浮かべる。

「俺になんの断りもなくリミッター解除、それに空戦フレームが中破・・・陸戦フレームの損失にはプロスの旦那が怒ってたぞ?」

「すみません。リミッターを解除しなくちゃ勝てない、戦えない相手だったんです・・・」

アキトの言葉にウリバタケは驚くが、なにか納得した表情になり、

「だろうな。お前の機体だけじゃなく、リョーコちゃん達の機体も損傷が激しいし、ヤマダの機体に至っては大破と言っても良い位だからな・・・」

頭を掻きながらリョーコ達の機体に目を向ける。

「あの紅い機体以外は、リョーコちゃん達と腕の差はそんなに無いと思います・・・ただ、機体の性能が4ランクは負けているんです」

「4ランク!? そんなにか!? ナデシコのエステは最新型なんだぞ!?」

アキトの言葉にウリバタケが目を剥く。

「でも事実なんです。例えリョーコちゃん達が俺ぐらい、いや以上に強くなっても、このままじゃ機体がこっちの動きに反応できないんです」

「となると、エステ各機に解除レバーを付けるしかないか・・・いろいろと問題があるんだけどな〜」

ウリバタケは呟きながら考えを巡らせる。

エステ全機にリミッター解除のレバーを付けるのは難しくない。

しかし、2つの理由により解除レバーを付けるのはアキトの機体だけにしていた。

1つはリミッター無しの限界速度のGに、ニュータイプでも強化人間でもコーディネーターでもないパイロットが耐えられないからだ。

限界速度を出さなければいいとも思うかも知れないが、リミッター有りでの限界速度でも並のパイロットは失神する事がある。

リョーコ達は並のパイロットではないが、限界速度を維持したままの高機動戦闘は長くは出来ない。

リミッターを解除し限界まで加速すれば彼女等もあっさりと意識を失うであろう。

つまり、リミッター解除レバーを付ける必要がないのだ。

もう1つは、機体に常に限界までの無理をさせる事により長時間の戦闘が出来ず、1回1回機体をオーバーホールさせないと持たない
という問題点があるからだ。

今回の様に1機、また2機くらいならばさして問題は無いが、もし5機全機がオーバーホールを同時に必要とした場合、
ナデシコの戦力がガタ落ちになる可能性がある。

その為に全機にリミッター解除を付けるのをウリバタケは見送って来たのだ。

「・・・このままじゃリョーコちゃん達が死んじまう可能性もある・・・か。わかった。全機にリミッター解除を付けるか。
でも、ヤマダのバカに持たせたく無い機能だな・・・」

ウリバタケは決断すると、他の整備員に指示を出す。

「でも、ウリバタケさん。これは応急的な処置に過ぎないことは・・・」

「わかってるよ。こいつを付けても、機動性が上がるだけで、出力や装甲はそのままだからな」

アキトの言葉に頷きながら返す。

リミッターを解除しても、エステの機動性が上がるだけであり、総合性能が2ランク上がるだけという事をウリバタケも理解していたからだ。

その言葉を聞くと、アキトは悪戯っぽく笑い、

「ウリバタケさん。今すぐという訳にはいきませんが、少し先でこの問題を解決できる術があるんですが・・・」

「なんだそりゃ?」

聞き返すウリバタケにアキトが答えようとした時、

「アキトさん」

突然、背後からルリに話しかけられた。

「ルリルリ? ブリッジの方はいいのか?」

ウリバタケは不思議そうにルリに問いかける。

「ええ。今は・・・あの、アキトさんをお借りしてもいいですか?」

すまなそうに問いかけると、ウリバタケはアキトの方を少し見て、

「構わねぇよ。ルリルリの頼みだしな・・・アキト、ルリルリとの話が終わったら続きを聞かせてくれ」

そう言い残すと、ミーティングをしているユウ達の方へと向かっていった。

ウリバタケが声が聞こえない所まで離れたのを確認すると、

「アキトさん、さっきの戦闘にいた機体は・・・?」

「・・・夜天光だ。操縦してたのは北辰だ・・・戦い方やクセがそのままだったからね」

アキトの答えにルリは眉を顰める。

「それに、ジンシリーズもいた。しかも、ボソンジャンプを既に使っていたらしい」

「・・・私達の世界と地球側に技術的な差は無かった筈ですが、木連は違うみたいですね・・・」

「いや、それはどうだろう?」

「どういう事ですか・・・?」

不思議そうに見つめるルリに、アキトは前に教えてもらったこの世界の過去の戦争、勢力を思い出しながら、

「木連そのものに技術的差異は無いと思うんだ。ただ、この世界には地球よりも高い技術を持った勢力が過去に木星にいたらしいじゃないか?
そして、その勢力と結びついていた更に高い技術を持った異星人・・・その残存勢力が木連と結びついていても不思議じゃないし、
今現在は、地球よりも技術水準の高いプラントがあるんだ。敵対している勢力が同じなら、木連とプラントが結びついている可能性があるよ」

「サブロウタさんと連絡が取れれば裏が取れるんですが・・・」

アキトの言葉を聞き、ルリが呟いた。

「まだ彼との接触は出来ないからね・・・地球からでも多少の情報を掴めるかも知れないな・・・」

(ラピス・・・ラピス・・・)

(なに・・・・? アキト・・・・?)

(ちょっと調べて欲しい事があるんだ)

リンクの繋がっているラピスに簡単な事情を教える。

(・・・判った。もし軍にばれてもハーリーに全部罪を擦り付けるから安心してね?)

(・・・ラピス、性格変わって無いか・・・?)

(・・・気のせいだよ・・・)

アキトの質問を素知らぬ口調で受け流す。

(・・・ま、まぁ取りあえず、ハーリー君と仲良くな?)

無理・・・・・・うん)

アキトは冷汗を流しながら一旦リンクを閉じると同時に、

『アキト!! やっぱり格納庫だった〜』

突然ユリカからコミニュケが繋がる。

『もぉ〜、艦長さんに帰艦の報告もしないでルリちゃんとなにやってるの!?』

「黙秘権を行使します」

『う〜・・・またそれ〜・・・』

ルリの冷たい返事にユリカは半泣きになる。

「・・・ユリカ、何か用事があるんじゃないのか?」

アキトがため息をつきながら話を促す。

『あっ! そうだった。イネスさんが現状を説明するから集まってだって』

「判った。リョーコちゃん達に声をかけてから行くよ」

そう告げると、コミニュケを切り一つため息をつく。

「イネスさんの嬉しそうな顔が思い浮かぶよ・・・」

「・・・今回も私『なぜなにナデシコ』やらなくちゃいけないんでしょうか・・・?」

ルリは悲痛な表情でポツリと呟いた。

 

『リミッター解除レバー?』

ウリバタケの言葉をリョーコ達が同時に繰り返す。

「そうだ。今の所、アキトの機体にしか付けてないものなんだが・・・こいつをエステ全機に取り付ける」

「効果は?」

ユウキが先を促す。

「エステの機動性が機体の限界まで引き出せるようになり、さっき戦った敵と同レベルの動きが出来るようになる」

「なんだよ、そんな便利な装置なんで付けなかったんだ?」

「・・・なんらかのリスクがあるから、か?」

リョーコの言葉に返す様な形でユウキがウリバタケに聞き返すと、頷きながら続ける。

「まぁな。発生するGにまず普通の人間は耐え切れない・・・まぁ、ニュータイプや強化人間、コーディネーターなら別だろうがな」

「ゲッターチームもじゃない?」

「ヒカルちゃん、茶化さないでくれ・・・まぁ、そういう事だ」

ヒカルの言葉に苦笑いをしながら言葉を締める。

「普通の人間でありながら、限界を超える・・・くぅ〜!! 燃える展開だぜ!!

ゴキンッ!!

「それと、こういうバカがいるからだ」

ウリバタケは叫ぶガイの頭をレンチで殴り半眼で呻く。

ガイはだくだくと頭から血を流しながら倒れる。

「ウリピー・・・ヤマダ君、頭怪我してたんだけど・・・」

「・・・こいつが、こんなんで死ぬようなタマじゃないよ」

ヒカルの言葉にウリバタケが返すのと同時に、

「・・・今のはちょっとキツイんじゃないか・・・?」

何事も無かったかの様に、ムクリとガイが立ち上がり頭をかく・・・出血も止まっていた。

「なんか、少しでも心配して損しちゃったな・・・」

ヒカルがため息をつきながら肩を落とした。

「でもよ、アタシ等に扱える代物なのか?」

「使いこなせなきゃ、死ぬだけね・・・テンカワ君もナチュラルなのに扱えるんだから、私達が使いこなせない道理は無い筈よ」

リョーコの言葉にイズミが静かに返した。




アキト達がブリッジに入ると、今後の作戦を考える材料にする為にイネスの『説明』が始まった。

ルリが心配していた『なぜなにナデシコ』はやはりやる事になり、ルリだけでなく万丈達も巻き込んだアキトの記憶よりも大掛かりな物になった。

「う〜ん、破嵐財閥の代表としていろんな番組に出たけど、ああいうのは初めてだね」

「たまには、こういう趣向も悪くないかと・・・」

「エリカのお姉さん役、似合ってたな・・・」

「ありがとうございます、一矢。地球の子供達はこういう教育映像を見て育つのですね・・・」

「いやはや・・・ロンド・ベル隊の皆様もノリがいいですな」

万丈、ギャリソン、一矢、エリカの言葉を聞きながらプロスが笑う。

「大丈夫かい? ルリちゃん・・・?」

「・・・恥ずかしくて消えてしまいたいです・・・・」

消えそうな声でルリが呻く。

今回は万丈達が騒いでいたため、ルリはさして目立ちはしなかったが。

「さて、悪ふざけは終わりにして」

博士帽を外し、イネスは真剣な口調で現状を説明する。

「つまり、このナデシコに搭載されている相転移エンジン・・・それとディストーション・フィールドの開発者の一人が、私よ。
だからこそ解るの、今のこのナデシコ一隻の実力では火星を解放する事は・・・いえ、それどころかこの火星から逃げ出す事さえ無理ね。」

「そんな事ありません!!」

反論するユリカにイネスは一気に問い詰める。

「先程の戦闘で、木星蜥蜴もディストーション・フィールドを張れる事が解ったわよね?
これでナデシコの最大の攻撃方法であるグラビティ・ブラストは、一撃必殺では無くなったわ。
さらに今現在でも、敵はチューリップから増援を呼び続けている。そして、さっき逃げる時にかなりの損傷を負ったわね・・・
大気圏突破も出来ない程に・・・さて、この現状のどこをどうしたら勝てるのかしらね?」

「え〜っと・・・ロンド・ベル隊のスーパーな皆さんにがんばってもらうとか・・・」

メグミが思った事をそのまま口に出すが、

「そこのあなた、考えも無しに口を出さないの。たった2機のスーパーロボットでどうにか出来るんなら、
私達はとっくに万丈さん達に救助されてるわよ。
いくらロンド・ベル隊のスーパーロボットでも、2機で無限に出てくる艦隊相手ではどうしようもないわ」

イネスが即座に言い返す。

「では、この艦長の能力に今後を期待するとして・・・流石にお腹が空いたわ・・・アキト君。
食堂にでも連れて行ってくれないかな?」

イネスがアキトを指名した途端、ユリカとメグミ、ルリの冷たい視線がアキトに突き刺さった。

(・・・何か悪寒が・・・!?)

アキトは悪寒の正体に気付いてはいなかったが、このまま首を縦に振るのは危険だと本能が感じ、

「あの、出来ればプロスさんとかジュンとか・・・ゴートさんもいますし」

「私はアキト君がいいな・・・何だかあなたとは、初めて会った気がしないのよね・・・私が小さい時に会ってないわよね?」

(おぼろげながら記憶が残っているのか・・・会っているよ、アイちゃん)

アキトは胸中でそう返すが、ジュンは呆れた顔で、

「そんな、イネスさん・・・自分の年齢を考えてくださいよ

ジュンが言い終えるのと同時に、

「うるさい! そこ!!」

ヒュッ・・・!! トスッ!!

イネスが懐から取り出し、投げつけた黒い液体が詰まった注射器がジュンの額に突き刺さる。

刺さった拍子に少し薬が注入されたのか、そのままゆっくりとジュンは顔を紫色にしながら倒れる。

「それ医務室に運んでおいて頂戴・・・で、どうなのアキト君?」

「さあ、どうでしょうね? そこまで言われるのなら案内しますよ」

アキトは惚けながら案内を引き受ける。

その返答にイネスは目を輝かせて喜ぶが、当のアキトはそれにまったく気付かない。

(やっぱりアキトさん・・・気付きませんか・・・)

「ん〜? ルリルリ〜? なに複雑な顔でため息をついてるのかな〜?」

「いえ・・・ただ、今更ながら呆れただけです」

ミナトの質問に、またため息をつきながら返した。




「それにしても、どっちが本業なのアキト君は?」

料理をしているアキトを見て、イネスが不思議そうに聞く。

「・・・どちらかと言うと、コックの方が好きなんですけどね」

アキトはフライパンの中のチキンライスを炒めながら返事をする。

「でも、信じられないわね。あれだけの操縦技術を持ちながら、料理の方も上手いと言うのが・・・」

「そうでもないさ。アタシが前にいた軍の部隊に、同じ様な男がいたからね」

話を聞いていたホウメイが答えると、イネスは興味深げに聞き返す。

「へぇ〜、どういう人だったの?」

「基地の部隊を指揮っている隊長さんで、エースパイロット、自分の機体を黒く塗装して『トロンベ』って言う名前を着けていたね。
料理の腕は、大体アキトよりも少し上って所かね。本人は趣味だと言ってたけど、私としては厨房を任せてもいい位だと思ったよ」

「・・・変わってますね」

「テンカワ、お前が言えるセリフじゃないだろう?」

チキンライスを盛り付けながら呟くアキトに、ホウメイが呆れてツッコミを入れる。

「はい。お待ちどうさま」

「ありがとう。悪いわね、あなたの料理が食べたいって言って」

イネスの言葉にアキトは笑いながら答える。

「いいですよ。コックとして、食べたいという人間に食べさせてあげるのは当然の事ですから」

イネスはチキンライスを食べながらアキトに話しかける。

「シェルターから聞こうと思ってたんだけど・・・アキト君って、テンカワ夫妻のお子さんよね?
よくこの船に・・・ネルガルの船に乗る気になったわね?」

「俺の両親も研究者でしたから、イネスさんが知っていても不思議じゃないですが・・・俺がナデシコに乗っているのが可笑しいですか?

アキトは当たり障りの無い会話で誤魔化す。

「理由を知りたい? 説明して欲しい?」

(説明は勘弁して欲しいな・・・)

アキトがそう思っていると、イネスが近づいてくる。

『2人とも近すぎ!! ぷんぷん!!』

ちょうどその時、ユリカがいきなり通信ウインドウを開き、間に入る。

「・・・なにがあったんだ、ユリカ?」

『う〜・・・なんかアキトつれない〜』

話を促すアキトにユリカが不貞腐れるが、後ろからプロスの咳払いが聞こえると慌てて用件を伝える。

『そうそう、アキトとイネスさんは直ぐにブリッジに来て下さい!!』

「プロスさんも苦労してるみたいね・・・じゃあ、行きましょうかアキト君」

苦笑いをしながらイネスは立ち上がった。




時間は少し戻りアキト達が食堂へ向かった直後、万丈はギャリソンと共にブリッジを退出し、一つの部屋へ入った。

「ギャリソン。すまないが彼、テンカワ・アキトを念のため少し調べてくれないか?」

「やはりですか。そう言うと思いまして、ナデシコに着いてからすぐにビューティ様達に調査をお願いしておきました」

「流石だね、ギャリソン」

ギャリソンの先読みした対応に感心しながら万丈は自分の見解を述べる。

「ユウと一緒に会った時、『彼』の印象、雰囲気が前に会った時とガラリと変わっていて、彼だとは気付けなかった。
それに、蜥蜴に攻撃された直前までテンカワ君も火星に居たのは間違いないのに、今、地球の戦艦に乗って来ている事もおかしい
・・・蜥蜴に攻撃された時、何か遭ったのかと思いたいが・・・」

そう、万丈とアキトはシェルターで会うよりも以前に火星で会っていた。

火星復興作業時、アキトは万丈達が担当していた区画で共に作業しており、そこの食堂で万丈はアキトと何度か会話を交わした事もあったのだ。

「当時彼から感じた印象は、年相応の少年と大人の感情を持った青年だった。でも、今の彼からはそういった感情が全くしない」

「では、万丈様はどう感じなさいましたか?」

ギャリソンの言葉に万丈は少し考え込んでから、

「―――僕達が、ロンド・ベル隊が慣れ親しんだ物に近いかな? 巨大な何かに立ち向かおうとする強い意志、決意さ」




「センサーに反応・・・間違いありません、護衛艦クロッカスです」

「そんな、信じられない!! クロッカスは、地球でチューリップに吸い込まれた筈なのに・・・」

アキトとイネスがブリッジに入った途端、ルリとユリカの声が聞こえて来た。

「どうしたんだい?」

少し遅れて入って来た万丈がアキト達に問いかける。

「前方で護衛艦クロッカスを発見しました・・・ただ、クロッカスは地球での戦いでチューリップに吸い込まれた筈なんです」

「同系艦の可能性はないのかい?」

聞き返してくる万丈にルリは首を振り、

「地球で吸い込まれたクロッカスに間違いありません・・・クロッカスの左側面に損傷が確認できます。
損傷箇所、規模が地球でクロッカスが受けたものと全くの同じです」

損傷された箇所を拡大映像にして全員に見せる。

「そう!! そこで私の仮説が成り立つ訳なのよ。木星蜥蜴が使うチューリップ・・・あれは一種のワームホールだと、私は考えているわ」

「そんな・・・チューリップが一種のワープ装置だと、言うんですか?」

いきなり声をあげ説明をするイネスにユリカが聞き返す。

「そうよ・・・そう考えれば、木星蜥蜴が何故あれ程の軍隊を、瞬時に動かせるか説明がつくわ。万丈さん達も同じ考えだしね」

「この事は僕と一矢達で何度も議論したんだが、結局はイネス博士と同じ結論に至ったんだ。
あの中に敵艦隊が入ってるんではなく、本拠地からチューリップを通して出てくるだけだという事じゃないか? ってね」

イネスの説明を万丈が補足する。

「なるほどな。連邦の火星駐留艦隊の戦力では勝てない訳だ・・・敵は本拠地の全戦力を即座に増援で送れたのだからな」

フクベが苦い顔で頷くのを聞きながら、イネスがアキトに話しかける。

「アキト君・・・あなたはどうしてこの提督の元で戦っているの? 提督が火星防衛戦でユートピア・コロニーにした事を・・・知ってるの?」

「ええ、知っていますよ」

アキトはさらりと返事を返すが、その声に何の感情を込もっていなかった。

(これが・・・本当にあのテンカワ君なのか・・・?)

アキトの声を聞きブリッジのほぼ全員が固まる中、万丈は声に含まれた空虚さに驚く。

アキトは首を振ってから言葉を続ける。

「ですが・・・それも過ぎた事です。時間は過去には戻りません・・・今は、それどころじゃないですし・・・
何より英雄に祭り上げられたフクベ提督が、一番惨めだったと思いますから・・・」

「そう・・・見かけより大人なのね、そんな考え方が出来るなんて。万丈さん達は?」

アキトを見つめていたイネスは、万丈と一矢、エリカに話を振る。

「僕もテンカワ君と同意見だ・・・敗戦のイメージを払拭する為に、1人の人間を英雄として偶像化させるのは軍の常套手段だからね・・・
それによって傷つくのは、何時も当の本人さ」

「そうですね。もし、罰せられるとしても・・・提督は既に罰を受けている様なものだ」

「一矢の言う通りです。自分の命令で罪の無い、本来なら守るべき者達を皆殺しにしてしまった事を提督は悔やんでいるのでしょう?
そして、その罪を一生背負っていくと・・・その事を忘れずに、償おうとする思いがある限り・・・提督は罰を受けている様なものです」

3人の言葉を聞くと、イネスは息を吐き、

「流石ロンド・ベル隊ね。人格者が揃っているわ」

そのままプロスと今後の方針を話し出す。

フクベは少しの間、アキトや万丈達を見ていたが何も言わずにプロス達と今後の方針を話し出した。

アキトはフクベ達の会議を横目にルリに近づく。

「ルリちゃん、やっぱりクロッカスに生存反応は無い?」

「ええ・・・残念ですが・・・」

アキトに告げると、ルリは小声でアキトに話しかける。

「万丈さんがアキトさんを調べるように、ギャリソンさんに頼みましたけど・・・如何しますか?」

ルリは言いながら、先程盗聴、盗撮したデータを小さいウインドウに出しアキトに見せる。

「・・・ルリちゃん、何時もこんな事を・・・?」

冷汗を流しながらアキトはルリに問いかけるが、

「・・・ノーコメントです」

ルリは惚けて答えを言わなかったが、それが答えの様なものだった。

(・・・ナデシコ内で下手な事は出来ないな・・・)

頭を振って考えを追い出すと、万丈が言っている事を聞いて考えた。

(『俺』は万丈さんと火星で会った事があったのか・・・でも、俺は万丈さんが知っている『俺』ではない・・・記憶が違うのも、印象が違うのも当然か)

アキトが持っている記憶、経験はアキトがいた世界からの物だけであり、こちらの世界の記憶や経験を何一つ持っていなかった。

ユリカの様に何も考えていない者ならば兎も角、万丈の様に注意深く、鋭い人間が不審に思うのは当然の事だった。

「・・・妨害工作や情報操作はしなくてもいい・・・不審に思っているだけで、敵視している様では無いみたいだし」

「いいんですか?」

「ああ。いずれ真実を話さなくちゃいけないんだし、万丈さんは例え真実を知ったとしても、簡単に言いふらす人では無いみたいだしね」

ルリの問いかけにアキトは頷きながら返したちょうどその時、

「―――わかりました、提督。何機かを先行偵察に向かわせましょう」

「艦長、人選はどうするの? さっきの戦いで何機かは整備、修理の真っ最中らしいけど?」

イネスの質問にユリカは少し考えてから、

「え〜っと・・・ウリバタケさん、今出撃できるのはどの機体ですか?」

コミニュケを開き、ウリバタケに直接聞く。

「今の所出れるのは、ヒュッケバインMK-U、ヒカルちゃんとイズミちゃんのエステ、後はロンド・ベル隊のスーパーロボットだけだ。
アキトのはオーバーホール中だし、リョーコちゃんのエステもアサルトピットの点検が必要だ。
ヤマダのエステに至っては、メインカメラがやられてるんだ。修理に時間がかかるぞ」

「じゃあ、ユウキさん、ヒカルさん、イズミさんで偵察をお願いします。流石に万丈さん達のスーパーロボットで偵察というのは・・・」

「だね。僕のダイターン、一矢のダイモスは獣戦機隊みたく、小型に分離出来ないし機体が大きいからね」

ユリカの言葉に返しながら、万丈は肩をすくめた。




「アキトさん」

ブリッジを出たアキトを、ルリは追いかけ呼び止めると、近くの部屋に手招きした。

アキトが部屋に入ると、ルリはオモイカネに部屋のロックをさせ、コミニュケも繋がないように頼み、小さな機械をアキトに手渡す。

「これ・・・先程、完成しました」

「ジャンプ・フィールド発生装置、もう出来たのか・・・でも、これじゃあ」

「はい、せいぜい2、3人・・・戦艦クラスのものを飛ばすのは無理です」

アキトの言葉にルリはすまなそうに頷き、

「ラピスからのデータ転送を受けてから、オモイカネと一緒に頑張ったのですが・・・」

「いや、ルリちゃん達はよくやってくれてるよ。俺が無茶な注文をしただけさ」

首を振りながらルリに返すと、早速装置を起動させる。

「じゃあ、テストついでにラピスに会ってくる。頼んだ事もあるし、『例の機体』とかの事もあるしね」

「わかりました。クロッカスへ向かう前には帰ってきてくださいね?」

「わかってるよ。じゃあ、行ってくる・・・ジャンプ」

告げると同時に、アキトの体がその場から消失した。

「オモイカネ、今の出来事の映像、音声記録を全部消去して」

ルリがオモイカネに頼むと、『OK!』『了解!』『任務了解!』『消去、承認!!』等のウインドウが幾つも出現する。

(木連は既に夜天光を投入できる段階になっていて、私達はまだブラックサレナを造れていない・・・これ以上後手になければ良いんですが・・・)




ユウキはヒカル達のエステの先頭を走っていた。

「ユウ君、もう少し速度を落としてくれない〜?」

「北の大陸の林は杉・・・林、杉・・・はやし・・・すぎ・・・はやすぎ・・・」

ヒカル、イズミの通信を受けて、ヒュッケバインMK-Uの速度を少し落す。

「すまない。そのフレームは足が遅いんだったな」

「砲戦フレームだからね〜。バッテリーは沢山詰めるけど」

「誰か突っ込んで〜・・・ダンプカーは突っ込まないで〜」

ユウキとヒカルはイズミの言葉を聞き流す。

「!? 止まれ!!」

ユウキは突然声を上げ、2人をその場に止める。

「どうしたの?」

「敵・・・? レーダーに反応は無いわよ?」

ヒカルとイズミの声を聞きながらも、ユウキは精神を集中させる。

「いや・・・さっき、T-LINKシステムに僅かだが反応があった・・・何処からだ・・・」

T-LINKシステムを展開しながら、ユウキは辺りを見渡し、

「!! 下からか!? 2人とも、下がれ!!」

『!?』

ユウキの言葉に反応し、ヒカル達が後退すると同時に地面からドリルを装備したバッタが2機出現する。

「この・・・!」

「ゲッター2のパクリ〜!!」

イズミとヒカルの放ったカノン砲が、直撃しバッタは破壊された。

「くっ、まだいるのか!」

ユウキは続けて地面から出現するバッタ3機を、上空に跳んでかわしフォトンライフルを抜き放ち、

「落ちろ!!」

3発続けて放たれた弾は全てバッタに直撃し、そのまま爆発する。

「他には・・・いないよね?」

「さあね・・・エステに地中を探査できるレーダーなんて積まれてないから・・・」

ヒカルとイズミは注意深く辺りを見渡す。

「・・・大丈夫だ。T-LINKシステムにも反応は無い」

ユウキに告げられ、2人はようやく警戒を解く。

「まさか、地中から攻めて来るとはね〜・・・敵さんも成長してきてるのかな?」

「かもしれないわね・・・あの時戦った6機は今まで戦ってきたのと段違いの性能だったし・・・成長する敵か・・・厄介ね」

ヒカルとイズミの話を聞きながらユウキは考え込む。

(あの時戦った9機の動きは無人機のものではなかった・・・それに、あの紅い機体から感じた『念』は純粋に不快だった・・・
そして、紅い機体を見た瞬間、アキトから感じた『念』・・・強い怒りと憎しみ・・・木星蜥蜴とアキトの間に一体、何があるんだ・・・?)




偵察を終えたユウキ達は帰艦し、ネルガルの研究所周辺の状況を報告する。

「研究所の周りにチューリップが5つか・・・どうする、艦長?」

「私は・・・これ以上クルーの皆さん、それに避難民の人達を危険にさらすのは嫌です」

「でも、皆さんは我が社の社員でもありますし、避難民を連れての戦闘は、
一年戦争時に当時ホワイトベースの艦長、あのブライト・ノア大佐もした事もある事ですし・・・前例が無い訳では・・・」

「俺達にあそこを攻めろ、って言うのか?」

「僕は反対だね。この戦力で戦えば、さっきの戦闘の二の舞いになる事は簡単に予想がつく」

周辺地図を見ながら、ゴート、ユリカ、プロス、リョーコ、万丈が議論する。

「しかし、現状でナデシコを修理できる機材がある可能性があるのは、この研究所だけなんですが・・・」

プロスの言葉に万丈は首を振り、

「しかし、ミスター。今のナデシコでは、多数の艦隊相手に戦えない事は判るだろう? もし、機材を入手出来ても、艦がなければどうにもならない」

「だが、今のエンジンでは単独での大気圏突破も出来ないのが現状だ。機材がなければどうにも・・・」

「・・・堂々巡りね」

ゴートと万丈の会話を聞きながらミナトが呟く。

その時、フクベが手を打ち、

「よし、アレを使おう」

フクベの視線の先には、先程発見したクロッカスがあった。




時間は少し戻り、アキトがジャンプした直後。

(ラピス・・・)

(アキト!)

(頼んでおいた事、調べ終わっているか?)

(うん! 連邦のデータは直ぐにハッキング出来たんだけど、プラントの方は少してこずっちゃったけど・・・調べ終わったよ!)

「コロニーの方までハッキング出来たのか!?」

(うん、データ的に地球と繋がっている月とかを経由したルートで・・・って!?)

突然目の前に現れたアキトの姿にラピスは驚く。

「久しぶりだね、ラピス。大体3ヶ月ぶりかな?」

「アキト・・・アキトだ!!」

体当たりする勢いでアキトに抱きつくラピス。

「あれ・・・? でも、火星にいるんじゃ?」

アキトはラピスを優しく受け止めながら答える。

「ああ、ジャンプ・フィールド発生装置が完成したんだ」

アキトの言葉を聞き、ラピスは嬉しさと驚きが入り混じった表情になった。

「もう出来たの!? ルリに転送したデータの時期とか、手先の器用さとかを考えても、後1ヶ月はかかると思ってたのに!」

「うん、俺も驚いた。ラピス、早速で悪いがデータの方を見せてくれ」

「あ、これだよ」

ラピスはハッキングしたデータまとめ、ウインドウに出す。

「連邦、プラントの情報で同じ物、明らかに嘘と判るのは削除して、私なりにまとめてみたんだけど・・・」

「ありがとう、助かるよ」

アキトはざっとデータに目を通していく。

「・・・あった。プラントが地球に独立宣言する3ヶ月前に、木連がプラントに接触してる。
この後も、何度も木連と接触してるな・・・最近のは、1週間前か・・・
国力の無いプラントが独立に踏み切ったのは、木連の後ろ盾があったからか・・・」

「うん、多分そう。プラントはその見返りに、技術を木連に提供してるんだと思うの。でないと、この時期にジンシリーズがあるのが説明つかないよ」

アキトの言葉にラピスは頷き答えるが、アキトは考え込んだままだった。

「どうしたの、アキト?」

「いや、夜天光の方が気になってね。あの機体はジンシリーズじゃなく地球側の技術、エステを元に開発された機体の筈だろう?
まだ、ジンシリーズしか人型が無い木連に夜天光が造れる筈がないんだ」

ラピスは少し考え込んだ後、

「・・・元々この世界に人型兵器、MSがあったよ。それを元に開発されたんじゃないかな?」

「でも、あの夜天光達の動き、フォルム、武装、性能は俺達の世界のと何も変わらなかった・・・
MSを元にしたのなら、脱出の際アサルトピットごと射出される事は無いはずなんだが・・・」

六連が撃墜された時の事を思い出しながらアキトは答え、微笑みながらラピスの頭を撫でると、

「まっ、それは後でルリちゃんの考えを聞きながら結論を出すかな。ラピス、『例の機体』はどの位にまで出来た?」

「大体3割位だよ。ブラックサレナの方も、9ヶ月、早くて8ヶ月位で出来上がるよ」

「そうか、こっちも結構早く・・・あ!!

アキトは何かに気付いた様に声を上げ、それを見たラピスは首を傾げる。

「・・・どうしたの?」

「実は・・・これから8ヶ月の間、ナデシコは音信不通になる」

この事を完璧に忘れてたアキトがすまなそうに告げる。

「・・・火星でのジャンプのせいだね」

「そうだ・・・今回も8ヶ月になるとは限らないが・・・我慢してくれラピス」

ラピスは残念そうにため息をついてから、

「仕方ないよね・・・私はまだジャンパー体質になってないし、『例の機体』をハーリー1人に任せるのは怖いし・・・」

「すまないな、ラピス」

謝るアキトにラピスは首を振りながら告げる。

「アキトが悪いんじゃない・・・私は機体を仕上げながら、ここでスーパーロボットの活躍を見ながらアキトを待ってるよ」

一瞬だけ、ラピスの目が輝いたのをアキトは見逃さなかった、否、見てしまった。

「・・・ラピス、今、一瞬目を輝かせなかったか?」

「うん! あのね・・・」

ラピスが説明しようとした瞬間、振動が部屋を、研究所全体を揺るがした。

「!? なんだ!?」

「そっか、アキトは知らなかったよね。ナデシコが地球を出てから直ぐに、極東方面―――主に日本なんだけど、
地下勢力の攻撃をずっと受けてるんだよ」

ラピスの言葉を聞いて、アキトはルリに教えてもらった勢力の事を思い出し驚いた。

「なっ!? まだ生き残っていたのか!? ラピス、避難を!!」

アキトはラピスの手を取って避難させようとするが、

「大丈夫だよ、アキト。この部屋は今回地下だし、直ぐにスーパーロボットが来るから」

ラピスは落ち着いて外の映像をウインドウに出す。

「あの機体は・・・?」

「えっと・・・百鬼帝国の百鬼メカだったけかな?」

アキトの問いかけにうろ覚え気味で答えた時、百鬼メカが飛んで来た鉄拳に殴り飛ばされた。

「あれは確か・・・マジンガーZ?」

「うーん、ちょっと違うよ。グレートマジンガーだよ」

ラピスが答えると、街を破壊していた百鬼メカに続々と駆けつけたスーパーロボット達が仕掛けていく。

「ラピス、現状を整理したい・・・今、日本はどういう状況になっているんだ? それに、なんでそんなにスーパーロボットに詳しい?」

「うーん、ちょっと待って。ダッシュ、簡単な勢力図を出して」

ラピスの声に応えて、地下勢力、スーパーロボット、ザフトの名前が画面上に出る。

「まず、地下勢力。今、地上で戦っているのは百鬼帝国のメカでこの組織以外に、妖魔帝国っていうのが攻撃を仕掛けているの」

「ルリちゃんの話では、妖魔帝国はバルマー戦役時に滅んだはずだけど・・・?」

アキトの問いかけに、ラピスは軍からハッキングした情報を出し、

「全勢力が滅んだ訳じゃないみたいだよ。残った全部隊が攻撃をしているっていうのが極東方面軍の見解だよ。
この2つの勢力は、ほぼ同時期に攻めてきて、現在は一時的に極東方面軍長官の岡っていうおじさんと、ミスマル提督の指揮下に入った
グレートマジンガー、ゲッタードラゴン、コンバトラーVを始めとするスーパーロボット部隊が迎え撃ってるの」

「この状況でザフトと木連の攻撃も受けているのか・・・俺達の世界以上に、混戦になるんじゃないか?」

しかし、ラピスはアキトの言葉に首を振る。

「ナデシコが出港してからはそんな事は無いよ? 最初はザフトの部隊も居たんだけど、2つの勢力の攻撃を受けてあっさり全滅しちゃったし、
木連もここ最近は攻撃どころか、バッタを発見した事もないし」

「地下勢力の戦力を見極めるために一度引いたのか・・・取りあえず、日本の現状は解ったけど・・・」

アキトが言いにくそうにするが、ラピスは気にせずに話し出す。

「あのね、暇つぶしで過去の記録映像を見たり、チャットをしてた時に、『リュウ』って人と知り合ったの。
でね、その人にいろんなスーパーロボットの話とか聞いてて詳しくなったんだよ!」

その後、ラピスはスーパーロボットについて延々と話し続け、アキトが開放されナデシコに戻れたのは1時間も経ってからだった。




「つ・・・疲れた・・・」

ナデシコに戻ったアキトは本当に疲れた声を出す。

(ラピス・・・明るくなったのはいいんだけど・・・何か方向性がガイやウリバタケさんと同じになってるな・・・)

『アキトさん、戻られましたか・・・? どうしたんです? 凄く疲れてるみたいですけど?』

「いや、ちょっとね・・・で、どうしたの?」

ルリの問いかけを誤魔化し話を促す。

『やはりクロッカスに向かう事になりました。人選の方にアキトさんも入ってるので、20分後に格納庫に集合してください』

「本人がいないのによく選ばれたね。他の人選は?」

アキトが苦笑いしながら尋ねる。

『アキトさんは部屋で休んでいるので、後で通知するを無理に通しましたから・・・
他のメンバーは、フクベ提督、イネスさん、万丈さん、一矢さん以上です』

「わかった」

アキトは短く返すと通信を切ると、。

「っと、クロッカスに行く前にウリバタケさんに『例のデータ』渡しとかないと・・・」




「・・・酷い有様だね」

万丈はクロッカスの通路を見ながら顔を顰めた。

「これは・・・人の死体・・・なのか・・・?」

一矢も壁や天井に張り付いている、人の死体らしきものを見て苦い顔をする。

「・・・見た所、人の体の一部だったようね・・・壁とかに一体化してるから見分けにくいけど・・・」

イネスが壁を見ながら無表情で答える。

「イネス博士、何が原因だと思うかね?」

「さあ・・・一番可能性が高いのは、チューリップを通った事だと思いますけど・・・」

フクベの問いかけに答えるイネスの声を聞きながらアキトは周囲を警戒する。

(ズレが無ければ、この辺りか・・・いた!)

アキトの記憶の通りにバッタがこちらに向かって来た。

「提督、下がって!!」

フクベの前に出て、バッタに向かって銃を2発放つ。

頭部と中枢を撃ち貫かれてバッタは沈黙するが、バッタを乗り越えて次々とバッタが向かって来た。

「なっ! 多い!?」

記憶の違いにアキトは驚きながら銃弾を放つが、バッタの方が多く弾が切れてしまう。

「任せろ!!」

弾の入れ替えをするアキトを守る様に、一矢がバッタにトンファーで殴りかかる。

「バッタに肉弾戦なんて、正気なの!?」

「一矢の空手の実力なら大丈夫さ。ウリバタケさんがエステの廃材を利用してトンファーも作ってくれたしね」

イネスに返しながら万丈は銃で一矢を援護する。

万丈はバッタそのものの破壊ではなく、装備されている機銃を重点的に破壊し、機銃を壊されたバッタから一矢がトンファーで叩き壊す。

アキトは遠距離から狙撃しようとするバッタを重点的に狙い、撃ち抜いていく。

そして、17分後・・・

「終わりだ!!」

最後のバッタが万丈の放った銃弾により沈黙させられる。

「これで、全部か。万丈さん、テンカワ、提督、イネスさん、怪我は無いですか?」

「ええ大丈夫よ。竜崎君、肩見せて、血が出てるわ」

イネスは一矢の肩を見る。

「ああ。さっき、弾がかすりましたからね」

一矢は答えてイネスの治療を受ける。

「アキト君・・・キミもいい腕をしているな」

「褒めたって何も出ませんよ?」

フクベの言葉にアキトは軽口で返す。

「・・・キミは本当に恨んでないのかね? 生まれ故郷を潰した私を・・・」

「提督を恨んでユートピア・コロニーの人が生き返るなら、恨みますよ。でも、今はそんな非現実的な事を言ってる場合じゃないでしょう?」

「しかし、キミには敵を討つ権利はある・・・どんな形であれ、故郷を破壊し多くの人々を殺した私を・・・」

「提督・・・何故そう自分を追い込もうとするんですか?」

アキトの問いかけにフクベを息を吐き、

「あの時・・・私はチューリップの破壊ではなくこうも考えた・・・ここでチューリップを落す事をせずに避難民を救出し、
逃げた方が良いと・・・しかし、実際にはその作戦を取る事は無く破壊を優先した・・・その結果がこれだ・・・
キミ達は、私が既に罰を受けていると言ってくれたが、私はそうは思えんのだ・・・助けようと思えば助けられた命を、人々を見捨てた罰が
この程度で済んで良いのだろうか・・・テンカワ君、私はその罪を償う答えを得る為に、もう一度この地へ来る為にナデシコに乗ったのだよ」



フクベの独白を聞き、一矢の手当てを終えた後、5人は終始無言でブリッジを目指した。

イネスと一矢はアキト達の会話を聞いてはいなかったが、2人の気配と話が聞こえていた万丈の視線により何となく察していた。

ブリッジに到着すると、フクベは艦の状態をチェックする。

「・・・これっといった異常はない・・・私1人でも操艦出来るな・・・君達ならナデシコを託せる・・・ここで引き返してくれないか?」

「提督、やはり囮になるつもりでしたか・・・」

万丈は察していたのか大して驚きもせずに聞くが、フクベはゆっくりと首を振り答える。

「囮というほど立派なものではない・・・ただ、この艦を見つけた時わかったのだよ・・・罪を償う答えをな」

「答え・・・ですか? 死ぬ事が償う事ではないですよ?」

問い返す一矢に頷きながらフクベは続ける。

「そうだな。私は多くの人々の未来を、希望を奪い取ってしまった・・・それを償うには、より多くの人々を救うための希望を
命に代えても守る事だと悟ったのさ・・・地球圏に住む多くの人々を守る為の大きな希望、それはナデシコであり、ロンド・ベル隊だ。
君達に地球圏の未来を頼む」

「イネスさん・・・行きましょう・・・提督の決断を無駄には出来ない」

「それでいいのアキト君! 万丈さん!! 提督はここで死ぬ気なのよ!?」

イネスの言葉に万丈は苦い顔で、何かに耐える様な顔で応える。

「それ位判っているさ!! 出来れば僕も提督を止めたい!! だが、この状況で提督を助け、ナデシコも火星から脱出させられるほど
僕は、僕達は格好良く出来てはいないんだ・・・!!」

その言葉で万丈達も耐えているのだとイネスは感じると、何も言わずに一矢と共に先にブリッジを出る。

万丈もそれに続き、フクベに無言で敬礼をしてからブリッジを出ようとするアキトに言葉がかけられた。

「君の過去に何があったのかは聞かん。だが、君はまだ若い!! 地球圏の未来だけでなく、自分自身の未来をその手に掴む権利は・・・
君にもあるんだぞアキト君!!」




その頃、ウリバタケはアキトに渡されたデータ、相転移エンジンの設計図を見て顔を顰めていた。

「この縮図からして・・・こいつは、小型の相転移エンジンか? あと5年は実用化・・・いや、ここまで細かい設計も無理だと思ってたが・・・」

呟きながらデータを貰った時の事を思い出した。



「相転移エンジンの設計図だ〜?」

「はい。しかも、現時点ではネルガルも作れないような代物なんで、ウリバタケさんにしか出来ない仕事なんです」

アキトの言葉にウリバタケは疑わしい目を向ける。

「あのな〜テンカワ。相転移エンジンについてはネルガルがトップの技術力を持ってんだよ。例え、テスラ研だって相転移エンジンについては
一歩遅れて研究してるのが現状なんだぞ? まさか、EOTでも使ってあるのか?」

「いえ、違います。完璧な地球産の技術です。事情はこのエンジンを造れば判りますよ」

アキトはそう言うと、フクベ達の方へと歩いて行った。



「嘘・・・だろ?」

エンジンを造る前に設計図を完璧に理解しようと構図をざっと眺めている途中で、ウリバタケは信じられないと言う顔でポツリと呟いた。

「構造が読める・・・? いや、予想がつく・・・しかもここのプログラムの癖は、俺と同じじゃねぇか・・・!?
一体こいつを企画、開発したのは誰だ・・・? それ以前に、どっからこんなもんを持ってきたんだよ・・・アイツは・・・」

ウリバタケは呆然と呟いたが、すぐさま我に返り設計図を次々と頭の中に入れていく。

「フッフッフッ・・・! 確かにコイツを造れば出力の問題は解決するな。 細かい事は後でアキトを締め上げて聞くとするか・・・!!」

その時、ナデシコが揺れたが設計図に夢中になっているウリバタケは全然気付かなかった。




「クロッカス、浮上します。・・・クロッカスより通信」

『艦長、前方のチューリップに入れ』

「提督!! そんな、どうしてですか!?」

フクベの言葉にユリカは信じられないと言う顔で叫ぶが、フクベは淡々と応える。

『ナデシコのディストーション・フィールドがあれば、チューリップに進入しても耐えられる筈だ』

ちょうどその時、先程振り切った艦隊が追いついて来て攻撃を仕掛けてきた。

ビームとミサイルの何発かがフィールドに直撃する。

「フィールドは持つの、ルリちゃん?」

「相転移エンジンが完璧ではありません。このままでは・・・フィールドを破られるのは時間の問題です」

ルリが首を振って答えるのを見ると、ユリカは何かを決心する様に頷き、

「・・・ミナトさん、チューリップへの進入角を大急ぎで」

「艦長、それは認められませんな。あなたはネルガル重工の利益に反しないよう、最大限の努力をするという契約に違反・・・」

プロスが眼鏡を直しながら警告をするが、ユリカはキッとプロスを見据え叫ぶ。

「御自分の選んだ提督が、信じられないんですか!!」

「その通りだね。それに、艦長というのは艦の最高責任者だ。何人であれ艦の中では艦長の命令に従わなくてはいけない義務がある筈だよ」

万丈が言いながらブリッジに入ってくると、その後ろからアキト達も入ってくる。

「提督は自分が囮になる事を俺に話してくれた。ナデシコが助かる道は、最早一つだけだ」

「しかし、チューリップに入るまでに攻撃を受ければ、ナデシコが持ちませんよ?」

アキトの言葉にプロスは何とか食い下がろうとするが、その時クロッカスが反転を始めた。

「クロッカス反転・・・敵に攻撃を仕掛けています」

ルリが辛そうに報告をすると、ゴートが何かに気付いた様に声を上げた。

「クロッカス1隻でどうにかなる戦力じゃない・・・まさか!? 提督、チューリップの入り口で自沈、破壊されて追撃を断つつもりで・・・!?
何故、そこまでするんですか!!」

「・・・提督は罪の償い方を悟ったと言ってました・・・自分が奪った命以上の命を救う希望を守る事がそうだと・・・その為に俺達を・・・」

一矢がクロッカスで聞いたフクベの言葉を告げる。

「プロスさん、ここは提督の行動に敬意を示して・・・最後の希望に縋りましょう」

アキトの言葉にプロスは息をつき、

「解りました、私もこうなっては何も言いませんよ」

ナデシコがチューリップに入り込む寸前で、クロッカスが爆発した。

その光景がブリッジからも見え、その場が静寂に包まれる。

艦隊がそのままナデシコに攻撃を仕掛けるが、距離が開いており全てフィールドで弾かれてしまう。

ナデシコはそのままチューリップに吸い込まれ、アキト達の意識は白い光に飲み込まれていった。

(今回も・・・再び提督に会えるのか・・・?)

フクベからの最後の通信が無かった事に、一抹の不安を覚えながらアキトは意識を手放した。




アキト達と戦闘を終え、無事に本国に着いた月臣達は格納庫で軽い検査を受けていた。

「う〜ん。まだ謎の多い単独跳躍をしたのに2人とも異変が無いだなんて、いや残念だ」

「こういう場合は無事を喜ぶものだ・・・!」

ヤマサキの本当に残念そうな顔を見ながら、月臣が吐き捨てる。

「いや、それは普通の人間の反応で、僕みたいな狂科学者にはあてはまらないんだよね〜」

愉快そうに言うと、興味は月臣達では無く、ボロボロになった2機のジンタイプ、そして右の腕と脚を無くした北辰の夜天光にと移る。

「ジンタイプの損傷が激しいね、プラントの協力のおかげでかなり早く仕上がった試作機なのにね〜。ああ、もったいない」

「言い訳になるかも知れんが、我々はロンド・ベル隊の特機2機と1対1で戦ったのだ・・・これぐらいで済んだのは僥倖とも言えるだろう」

秋山の言葉にヤマサキは感心した様に目を丸くし、

「へぇ・・・じゃあかなりの戦闘データが取れたね。解析よろしく」

労いの言葉一つも掛けずに、部下にその場を任せると夜天光の下にいる北辰に歩み寄る。

「派手にやってみたいですが、使える機体でしたかね?」

「うむ。あのクルーゼという奴が持って来たデータを元に造ったのだからな・・・使える物でなくては困る」

北辰が満足そうに頷くが、対照的にヤマサキが少し面白くない顔になる。

「科学者の僕としては面白く無いね。他人が開発した機体のデータをいじって作った機体だからね、コレ」

夜天光を指差しながら続ける。

「それに、この機体ってプラントの技術を使っても後5年は後になる筈だよ? 一体地球の何処から持ってきたんだろうね?」

「奴はネルガルのとある所としか言ってなかったな・・・例の他星系の技術の可能性は?」

北辰の問いかけにヤマサキは首を振り、

「何回も設計図を僕が見てるんだよ? そんなのあったらとっくに気付いてますって。クルーゼが言ってたこの機体の元、え〜っと名前が・・・そう
『ブラック・サレナ』だったけかな・・・は完璧な地球圏の技術を使った代物だって言ってたし」

言いながらヤマサキはクルーゼが八雲と共に会った時の事を思い出した。



「これが、現在ネルガルが開発している最新型の機体のデータです」

クルーゼが渡したデータをヤマサキはざっと目を通す。

「見た所、前に渡してくれた機動兵器と大して・・・」

変わりが無いがと言おうとした時、大きな違いにヤマサキは気付いた。

「これって・・・相転移炉を搭載機!? しかも大きさが僕らの開発中のマジン達よりも小型で出力も大きい!? どこからこんなものを!?」

クルーゼは肩をすくめて応える。

「詳しい場所は秘密です。ただ、その機体は地球圏の技術を使いながら、確実に今の地球はおろか、
プラントや木連よりも高い技術を使っています。
その場所ではその機体のコードネームは『黒百合』、ブラックサレナと呼ばれていましたが・・・」

「量産は・・・無理だね。コレ・・・出力やらが全て異常な事になってるよ・・・扱えるのはうちでは北辰さんと・・・北斗君、枝織ちゃんぐらいかな〜?」

ヤマサキの言葉にクルーゼは頷き、

「ええ。おそらくただ1人のエースパイロット用に造られた物でしょう」

「ふ〜ん・・・面白いね。この機体をそのまま造るのは芸が無いから、これをちょっといじった機体を造ろうかな」



「でも、その機体が腕と脚を失くすなんてね。どんな機体だったのさ?」

「特殊な機体ではなかったな・・・あれはネルガルの・・・」

北辰はそこまで言うと、はっと気付き愉快そうに笑い出した。

「ふははははっ! そういう事か!!」

ヤマサキは唖然と北辰を見ている。

(・・・あの北辰さんがここまで愉快そうに笑うのは久しぶりだね〜)

内心でそう呟いてから北辰に話しかけようとするが、先に北辰が語りだした。

「我が戦ったあの男が、テンカワ・アキトがブラック・サレナの持ち主だ!! あれだけの腕を持ち、ネルガルの機動兵器を操る・・・
ここまで条件が揃えば直ぐに察しが付く事だ」

「へぇ〜、相手が名乗ったんですか?」

意外そうに問いかけるヤマサキに首を振りながら、

「いや、運良く彼奴等の通信が聞けてな。あのテンカワ・アキトの腕は我を超えておった。機体が互角ならば、否、
あのまま戦っていたとしても我が敗れていただろうな」

答えながら夜天光を見上げる。

あの時、アキトのエステは左腕こそ破壊されたが、イミディエットソードを右腕に構えており両脚もあった。

しかし、夜天光は既に獲物を手放しており、ハンドガンが一つ残っているだけだった。

あのまま戦っていても、アキトにハンドガンが当たるとは思えず、接近され二つに断たれるのがオチだろうと北辰は思った。

「北辰さんがこの機体を使っても勝てない相手か・・・打つ手無しかねこれって?」

ヤマサキは言うが、その顔は笑っていた。

北辰もそれに応えるように笑みを浮かべ、

「ふっ、我に考えがある・・・枝織は座敷牢か?」

「今日の検査は終わったから戻ってますが、時間も経ってるし北斗君だろうと思いますよ?」

「その方が都合が良い」

北辰はそう言い残すと、格納庫を出た。




北斗は零夜が持ってきた弁当を食べていた。

「北ちゃん・・・変なことされなかった?」

零夜は心配そうに北斗に話しかける。

ヤマサキの検査があった時は毎回聞いている事だった。

あの研究者は、人の命や身体を玩具や自分の興味を満たしてくれる物としか見てない事は木連の誰もが知っている事だからだ。

「・・・オレは何にもされてない。それに、検査を受けたのは枝織の奴だ」

口に入ったものを飲み込んでから、不機嫌な声で北斗は答える。

「う〜・・・でも、身体は北ちゃんのものでもあるんだよ?」

「だから、何もされてない。身体に異物が入り込んで気付かないオレじゃない」

心配する零夜に呆れながら北斗は答えると同時に、表情を引き締める。

「北・・・ちゃん?」

「何時から盗み聞きも仕事になった!? 降りて来い!!」

北斗が怒鳴りながら殺気を放つと、薄く笑いながら北辰が降りてくる。

「気付いたか・・・流石だな」

「貴様とおしゃべりをする趣味は無い・・・なんの用だ?」

北辰の言葉を切って捨て、北斗は用件を尋ねる。

「・・・私、席を外すね?」

「いや、主もここに居ろ・・・あながち無関係な話ではないのでな」

席を外そうとする零夜を呼び止め、それを聞いた北斗が殺気を込めて北辰を睨む。

「貴様・・・! 零夜を巻き込むつもりか!?」

「こやつにも、優華隊にも関係のある話だ。黙って聞け」

北辰はそう前置きしてから火星であった事を北斗に告げる。

「・・・北辰様は相手に名乗る趣味がありましたっけ?」

アキトが北辰の名前を知っていた所を聞いた零夜が首を傾げる。

「いや・・・それ以前に、我の事を知っている人間は木連とザフトの者以外は殺してる筈だが・・・」

「その辺の事はどうでもいい・・・で、そのテンカワ・アキトを如何しろというんだ?」

北辰の言葉を流して本題を尋ねる。

「貴様の好きにして良い・・・その為に貴様を優華隊に入隊させる旨は舞歌に伝えてある」

「ほぅ・・・」

その言葉に北斗の顔が面白そうな顔になり、目が細くなる。

「貴様は強い者と戦う事を望んでいたな? 少なくとも彼奴、テンカワ・アキトは我よりも遥かに強い」

「・・・面白い、受けてやるよ。だが、勘違いするな! オレは貴様に踊らされてる訳じゃない、踊らされてやってるんだ!!」

北斗がそう告げると、北辰は満足そうに頷き牢の鍵を開けてからその場を後にした。

牢から出た北斗に零夜が意外に思った事を問いかけた。

「あっさり引き受けたね、北ちゃん?」

「・・・奴の事だ。もし、オレが断ったら草壁に頼んでお前ら、優華隊だけでテンカワ・アキトの討伐をさせた筈だ・・・
奴が機体性能の勝る機体で落せなかった・・・いや、負けてた相手をお前らで倒すのは無理だ」

北斗の予想は当たっていた。北辰があの場に零夜を残したのは、どっちに転んでも優華隊が巻き込まれるのが決定していたからだ。

「それに・・・そのテンカワ・アキトという奴に興味があったからな。性能の劣る機体で奴を倒したという実力・・・楽しみだ」




そして時間は流れ・・・

8ヵ月後、舞歌の留守中に草壁の命令で白鳥と共に月攻略を命じられた、千沙以外の優華隊と北斗は戦場でアークエンジェル、ロンド・ベル隊
そして、チューリップから出現したナデシコを目の当たりにする事になる。




第十二話に続く

あとがき

作:これで火星編は終わりです。次回からは再びアークエンジェル視点、SEEDのストーリーとなります。
時ナデのラピスと少し変えて、アニメオタクならぬスパロボオタクにして見ましたが如何でしたでしょうか?
ちなみに『リュウ』という人物は・・・言わなくとも判りますね?(爆) このチームの連中も途中から参戦します。
それと、少し出て来た地上の様子ですが、8ヵ月後、物語の時間軸上ではまだ2つの地下勢力が頑張っている状況です。
このまま3つ巴になるのかというと、なりません。後から出て来た勢力が地上編の大ボスになる事になると思います。
そして、ナデシコですが、このままロンド・ベル隊とは合流しません。
序盤で戦艦2隻、しかもここまで戦力が揃ってしまうと話が成り立たなくなるんで。
ナデシコが完全に合流するのは、カガリとオーブで別れた少し後という時期になります。
・・・要望が多ければ、外伝としてナデシコ側の事も書きますが・・・

 

 

管理人の感想

コワレ1号さんからの投稿です。

万丈さんが良い味出してますね〜

一矢の台詞が、少ないのが気の毒ですが(苦笑)

それにしても、ラピスは本当に・・・趣味に生きてますね(爆)

一番被害を受けているのは、某少年でしょう!!

というか、台詞一つ無いですね・・・某少年(汗)

リュウという名前のキャラでスパロボオタク・・・・・・・・・・・・・・・・・・奴しかいないな、きっと。

さて、今後ナデシコがロンド・ベル隊と合流する日がとても楽しみですね!!