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第二十一話 熱砂の死闘(前編)




「なんで、ガンタンクなんてよこすかね、ジブラルタルの連中は!」

バルトフェルドは苛立たしげに吐き捨て、書類をデスクに放り投げた。

「・・・隊長、ザウートです」

ダコスタの訂正の言葉に、バルトフェルドは『似たようなもんだ』と切り返す。

「バクゥは品切れか?」

「はあ・・・これ以上は回せない―――あちらも、ポセイダル軍との小競り合いが多いそうで」

ダコスタも内心は上官と同じ感想を持ったが、無理もないと思う。

まさかわずか3日で、10機以上のバクゥを失う事など誰も予想しなかっただろう―――それも、『砂漠の虎』がである。

「その埋め合わせのつもりですかね、クルーゼ隊のあの2人は・・・」

ダコスタはたった今到着した輸送機から降りてくる、赤いパイロットスーツの2人を舷窓から見やった。

「書類には本人達が志願したと書いてあるが・・・かえって邪魔になるような気がするけどな―――地上戦の経験ないんでしょ、彼等?」

「エリート部隊ですからね―――、一応、アカデミーでは模擬戦を経験するそうですが、擬似重力と本場の重力は違いますし、
何より、砂漠という状況下での模擬戦はない筈ですから・・・」

せせら笑うバルトフェルドに、ダコスタが相槌を打つ。

正直、厄介なお荷物が増えた感じだ―――唯でさえ、ここにはガウルンという厄介かつ、特大な危険物があるというのに・・・

「あ、そうだ。隊長、ガ―――」

ガウルン達についてですが―――とダコスタが言おうとした時、バルトフェルドは手だけでその言葉を制止させた。

怪訝な顔をするダコスタに、バルトフェルドは無言でデスクの書類を指差した。

ダコスタがそこに目を落とすと、バルトフェルドは片手で走り書きをした。

『この部屋、艦内、すべてに盗聴器が仕掛けられている―――多分、ガウルン』

バルトフェルドの言葉―――もとい、文字にダコスタは驚き目を見開いた。

『その件の報告は、筆談で―――怪しまれるから会話も同時進行』

「クルーゼ隊ね―――俺は、アイツが嫌いでね」

書類に走り書きをしながら、バルトフェルドは自然な口調で話す。

「・・・って、ラウ・ル・クルーゼがですか?」

『ガウルン達についてですが、ジブラルタルの辞令は、送られて来る筈だったのは、バクゥ15機とパイロット等、合計20名だったそうです』

同じく、手近な書類に―――辛うじて読める程度の―――走り書きをしながら、相槌を打つダコスタ。

(書く文字が多い・・・!!)

上司はキチンと読み取っているだろうか? と少し不安になる。

「ああ。何度か宇宙(ソラ)と本国で会ったが、絶対に好きになれそうにない」

『本来、来る筈だった連中は?』

表情を変える事なく切り返してくるバルトフェルドを見て、取りあえず読める範囲ではあると解り安心する。

「―――珍しいですね? 隊長がそこまで言うなんて・・・?」

人柄の良いバルトフェルドがそこまで言う事に驚きながら、ダコスタは返す。

『つい先日、偵察に出た『ディン』が撃墜された我が軍の輸送機を発見したそうです―――機体番号を照会した結果、
此処に向かって発進した輸送機でした―――積荷の数も、バクゥ15機分の残骸だったそうなので、間違いないかと』

「別に珍しいって訳でもないさ。人として、最低限なマナーすら守ってない奴なんか好きになれる筈もなかろう?」

『ジブラルタルの防壁に侵入した連中、ガウルン達が『何処の組織』の連中かの目星は?』

「最低限のマナー、ですか?」

『確証が持てそうな情報は特に・・・ただ、噂で『ミスリル』辺りなら防壁への侵入は可能ではないかと言う話を聞きましたが』

『ミスリル』、その単語を目にした時、バルトフェルドは眉を興味深そうに撥ね上げた。

この言葉をバルトフェルドは何度か―――お忍びで街に行った時―――耳にした事がある。

連邦にもザフトにも―――中立を保っているオーブにすら所属しない、無国籍秘密軍事組織であり、その技術力は
かつてのDCや今のテスラ研―――そして、プラント、木連よりも先に行っていると。

その構成員もロンド・ベル隊に劣らぬほどの腕利き揃いであり、その部隊を統べるのはブライト・ノアに匹敵する歴戦の名将だと言う。

(ま、どこまでが本当かは判らんが・・・)

自分が聞いた噂を思い出し、胸中で苦笑いをする。

噂とは必要な情報が欠如する、又は余計な情報がついて周る物だ―――話半分で聞くのが丁度良い。

しかし、話半分でもとんでもない組織である事は変わりがない。

事実、幾つかのザフト軍基地が所属不明のAS小隊と2機のPT―――噂では、『百舌』と『隼』の様なフォルムだそうだ―――によって、
壊滅させられている。

「他人に目を見せない奴なんて、信用できるか」

『ミスリルはありえないと思う―――噂を聞く限り、こういう手段を連中が取るとは思えん』

シンプルかつ何の根拠もない返答に、ダコスタはため息を吐き、聞き返す。

「じゃあ、隊長はシャア・アズナブルも嫌いなんですか?」

『と、なると他に目星はありませんね。どうします? ガウルンを拘束しますか?』

書面の文字を見て、バルトフェルドは首を振りながら答える。

「ああ。彼もマスクをしてたが・・・もう1つの意味でも嫌いなんでね―――地球潰しが成功してたら、良い豆が獲れなくなる所だったんだぞ?」

『いや、いい―――ロンド・ベル隊とポセイダル軍達が相手だ。少しでも戦力は欲しい。
その後で、何か動きがあるなら、俺が抑える』

書面で言っている事は真面目なのだが、口の方では冗談とも本気とも思える言葉に、ダコスタは更に深くため息を吐いた。

そのダコスタの内心に気づかず―――気づいている可能性も否定出来ないが―――バルトフェルドは席を立ち、
宇宙からの到来者を出迎える為、甲板に向かった。




一方、ガウルンは自分のAS『コダール』の中で、受信機に耳を傾けていたが、すぐに取り外す。

「―――こりゃ、ハナから気づかれてたな。まあ、気づいてくれねえと面白くなかったが・・・」

会話の流れは自然ではあるが、その自然さが逆に怪しい―――バルトフェルド程の男が、自分達に不審を覚えず、
ジブラルタルに確認を取らない方が、おかしいと思う。

こっちの行動をある程度読み、有効な手を打って来る―――バルトフェルドがここまで有能で、ガウルンにとっては
遊び甲斐のある男でなかったら、とっくの昔に『仕事』を終え、この部隊を後にしていたであろう。

(どの道、ここでお別れか。『カシム』程じゃないが、遊び甲斐のある奴だってのに、残念だな)

その時、輸送機から降りてきたパイロットに目が行き、顔を見る為にガウルンはASから降りていった。




「うわ、ぺっ―――なんだこりゃ! とんでもない所だな」

「・・・砂漠だからな」

風に舞った砂が口に入ったのか、ディアッカは唾を吐きながらウンザリし、イザークも平静を装いながらも顔を顰める。

そんな彼等に、バルトフェルドとガウルンが声をかける。

「砂漠はその身で知ってこそ―――ってね」

「まあ、『箱庭』育ちの坊主共にはちっとキツイかもな」

2人は振り返り、人の悪い笑みを浮かべ近づいて来る人物の方を見る。

「ようこそレセップスへ。指揮官のアンドリュー・バルトフェルドだ」

イザーク達は途端に背筋を伸ばし、敬礼した。

「クルーゼ隊、イザーク・ジュールです」

「同じく、ディアッカ・エルスマン」

イザークの声を聞き、ガウルンは少し驚いた様に眉を撥ね上げた。

(・・・こいつも『カシム』やキング・オブ・ハートの奴と声が似てるな・・・)

興味深そうに自分を見ているガウルンに気づき、イザークはバルトフェルドに紹介を求める。

「・・・こちらは?」

「ああ。この部隊のAS部隊の責任者、ガウルンだ。ナチュラルだが、並みのコーディネーター以上の腕前だぞ」

バルトフェルドの言葉に、イザークもディアッカも少し驚く程度の反応しか見せない。

「へぇ・・・驚かないんだな?」

その反応が意外に―――面白く思ったガウルンがイザークに問いかける。

「・・・ナチュラルでも、コーディネーター以上の能力を持った連中は多い―――ロンド・ベル隊と戦って、その事実を嫌という程味わった」

「そう言えば、君達も宇宙で何度かあの部隊と戦って来たんだったな・・・大変だったろう?」

憮然と答えるイザークに、バルトフェルドが心にもない事を口にした。

そして、イザークの顔をジッと見つめた―――傷が気になるのだ。

「戦士が消せる傷を消さないのは、それに誓ったものがあるからだ―――エース部隊所属である君が消さないのは、屈辱の証・・・かな?」

プライドの高いエース部隊―――ましてや、まだ年の若いパイロットだ。

この可能性が一番高いとバルトフェルドは思ったのだが・・・イザークはあっさりと首を振った。

「これは、屈辱の証ではありません―――自分に対する『戒め』です」

顔の傷に触りながら、冷静に返すイザークにバルトフェルドだけでなく、ディアッカも少し驚き彼を見る。

年端のいかない少年―――しかも、プライドの高いエース部隊所属のものとは思えない言葉を聞いたからだ。

「戒め、かね? 何に対するものだい?」

「―――相手の実力を計りもせず、勝手に甘く見た自分に対してです・・・それで、ロンド・ベル隊は!?」

興味深く問いかけるバルトフェルドに答え、イザークはロンド・ベル隊の所在を訊ねる。

イザークの答えに満足したのか、バルトフェルドは口元に笑みを浮かべ、

「ロンド・ベル隊ならばここから西方へ180キロの地点・・・レジスタンスの基地にいるよ。無人探査機を飛ばしてある。映像、見るかね?」

ぶらぶらと歩くと、今しがた降ろされたばかりのデュエルとバスターを見上げた。

「成る程、同系統の機体だな・・・ロンド・ベル隊のガンダムに―――いや、あいつに似ている」

MSを見上げるバルトフェルドは、まるで夢中な子供の様な目をしていた。

ロンド・ベル隊と遭遇してから、彼はあの部隊に魅入られているかの様で、ダコスタは少し不安になる。

「似ているのは当たり前じゃねえのか? こいつ等もガンダムタイプのMSなんだろ?」

バルトフェルドを現実に引き戻すかの様に、ガウルンが半眼で言葉をかける。

「いや、Xナンバーには『ガンダム』の名は冠してないと思ったが・・・」

「あの」

2人の会話にディアッカが遠慮がちに言葉を挟んだ。

「バルトフェルド隊長は、既にロンド・ベル隊と交戦されたと聞きましたが・・・」

「ん? ああそうだな・・・僕もクルーゼ隊を笑えんよ」

ディアッカの問いかけに、バルトフェルドは肩を竦めて返した。

ダコスタは上官の反応に不安を募らせた―――彼が弱気になっている様に感じたからだ。

(そんな筈はない―――店にミサイルを撃ち込まれても、涼しい顔でコーヒーを飲み続け、得体の知れないガウルン相手に
豆のウンチクを嬉々として語る図太い男が、そんな繊細な感覚を持っている訳はない―――いかに相手が強大でも・・・
砂漠の虎が敗退する事など、ありえない・・・!!)

しかし、視界の端に映るガウルンの凶悪ともとれる笑みが、ダコスタには死神の笑みに見えてならなかった。

その時、無人探査機の映像を監視していたオペレーターがバルトフェルド達を呼び寄せた。



「―――動き出しちゃったって?」

レセップスのブリッジに上がったバルトフェルドは、モニターを監視していたオペレーターに問いかけた。

「はっ! 東へ進行中であります!」

「足つきだ!!」

映像を見たイザークが興奮した声を上げる。

バルトフェルドはガウルンと共に地図を確認する。

「東っていうと―――連中が戦場に選んだのは、ここの工場跡だな?」

地図の一点を指すガウルンに、バルトフェルドは頷き、

「だろうな。レジスタンスの連中が罠を仕掛けるのに適している場所だからな―――ポセイダル軍は?」

「動きは見られません」

その報告に、バルトフェルドは困った様な・・・どこか楽しそうな顔をして唸る。

「う~ん・・・情報はいっている筈なんだけどな? こっちが流したものだと判断して動かないのか、それとも別の理由か・・・
ロンド・ベル隊には出来れば、もうちょっと待って欲しいんだけど―――仕方ないか」

「出撃ですか!?」

声を弾ませて身を乗り出すイザークに、バルトフェルドは頷き、

「レセップス発進する! ピートリー、ヘンリー・カーターに打電しろ!!」

バルトフェルドの指示で、ブリッジがにわかに慌しくなる。

「女性に先にアクション起こさせちゃうなんて、悪い事したなあ」

「あっちがSで、俺達がMならそう悪い事じゃねえぞ?」

「オイオイ、ボクは至ってノーマルでフェミニストだよ? リードするのは男性の役割だ」

バルトフェルド、ガウルンの掛け合いにダコスタ達は慣れたように聞き流しているが、イザーク達は免疫がないのか―――あったら困るが―――
キョトンとしている。

「せめてものお詫びに、盛大な花火で歓迎しなきゃな」

バルトフェルドとガウルンは揃って、人の悪い笑みを浮かべた。




戦場に向かうバギーの中で、カガリは首にかけた石を手に取り見つめていた。

「―――その石は?」

カガリの隣りに座っているキサカが、ちらりとこちらを見て問いかけてきた。

「・・・アフメドの母親が、貰ってやってくれって。―――アフメドが私に渡すつもりだったそうだ」

少し悲しげな表情になりながら、カガリは話す。

この石は邪悪なものを吸い取り、危険が迫れば知らせてくれる―――と、言われている事を、この土地で生まれ育った者は誰もが知っている。

そして、この石を送る相手は自分が守りたい者―――大抵、恋人や愛しい人、家族である事もキサカは知っているのだが・・・
当のカガリはその辺りの事を全く知らず、アフメドが自分にこの石を贈った理由をあれこれと考えている。

一瞬、この石が贈られる意味を教えようかとも思ったが―――止めた。

これから始まる戦いは、間違いなく激戦になる―――その直前に、カガリが動揺するかもしれない事等言えない。

それに、カガリは少々荒いが優しい性格だ・・・既に死んでしまった者の思いを知り、それを引きずりながら生きかねない。

(アフメド・・・悪いがお前の思いは、伝えられない・・・)

既に亡くなった若い仲間に、キサカは胸中で詫びた―――その瞬間、カガリ達の目の前の地雷原が火を上げた。




「地雷原を艦砲射撃で・・・!? 発射元は!?」

「駄目です! 爆炎が多く、断定できません!!」

マリューの言葉に、サイの代わりにレーダー士を任せられたレインも驚きながら首を振る。

「こちらの策が読まれていたか・・・! 早めに第一戦闘配備をかけておいて正解だったな―――艦長!」

ナタルの呼びかけにマリューは頷き、

「MS隊、発進!!」




時間は少し戻り―――第一戦闘配備が発令してから少し後、

ガンダムMKーⅡに乗り込もうとしていたフォウを、アムロはνガンダムのコックピットから呼び止めた。

「フォウ、今回はリ・ガズィで出てくれ。ビームコートを装備しているHMが相手だと、MKーⅡの出力では少し厳しい」

「判りました」

フォウは頷くと、踵返し―――アストナージが微調整をしている―――リ・ガズィの方へと足を向ける。

その一方で、マードックはキラに装備の確認をしていた。

「ストライカーパックはエールで良いんだな?」

「バクゥ相手なら、火力より機動性です。HMの方も、ハイパーハンマーがありますからエールで行けます」

キラが応え、ハッチを閉めると同時にフラガとアムロから通信が入って来た。

『キラ、今度の戦闘はかなり大規模になる―――レジスタンスには悪いが、連中の戦力はハッキリ言ってアテにならん』

フラガの言葉に、キラは無言で頷く。

『彼等を全滅させない様に、俺達は立ち回らなくてはならないが―――無茶はするなよ』

その言葉を最後に、フラガとアムロは通信を切ろうとする―――その時、キラはふと思いついて訊ねた。

「あの、フラガ少佐、アムロ少佐―――『バーサーカー』って何ですか? 知ってます?」

フラガとアムロは急な質問に少し怪訝な顔をした。

『『バーサーカー』? そりゃ、あちこちの神話とかに出てくる狂戦士の事だろ?』

「狂、戦士・・・?」

言葉を信じられず、うわの空で呟くキラに、アムロは『ああ』と頷き、

『2つの意味がある。普段は大人しいが、戦いになると興奮して人が変わった様な猛々しい戦いをする戦士、というのが1つ。
もう1つは、理性を失くし、敵味方関係なく襲い掛かり、自分の身体の傷なども無視して戦い続ける者―――と言われてるな」

キラは背中が寒くなるのを感じた―――バルトフェルドのある言葉が耳に蘇ってきたからだ。

いくら、キミがバーサーカーでも―――

(狂戦士・・・僕が?)

狂戦士という単語は、自分に対するイメージと噛み合わないと思ったが、すぐに自分が戦闘中に何をしているかを思い起こした。

自分がどうやって、どれほどの敵機を葬ってきたのかを―――

MS、HM、ASにサーベルを突き刺しても血は流れない―――生々しい感触は手に伝わって来ない。

だが、ビームがコックピットを貫く度、脱出装置が作動しない度に、キラは確実に1人の命を奪っているのだ。

敵と戦う事、自分の大切な人を守る事に精一杯で何時の間にか忘れていた。

敵が来て、コックピットに入った瞬間、キラはキラでなくなりストライクの一部―――MSの一部となり、敵を倒すだけの存在になる。

バルトフェルドは僅かな時間で、キラ本人が忘れ、気づかずいた事実を看破した。

恐ろしい、と思った。

バルトフェルドがではない、敵に指摘されるまでその事実を忘れ、気づかなかった自分が―――

『なんだ? いきなり』

はっと我に返ると、フラガとアムロが怪訝そうな顔をしていた。

フラガは時々ニュータイプではないか? と思える程、察しが良く、アムロは高いニュータイプ能力を持っている・・・
戦いの前に、余計な心配をかけたくないキラは、慌てて答えた。

「いえ、何でもないです・・・すいません・・・」

アムロはそれでも気がかりだったので、少し深く聞こうかと思った時、スピーカーからマリューの言葉が流れた。

『MS隊、発進!!』




キラがアークエンジェルから飛び出した瞬間、戦闘ヘリが目の前に迫り、バルカン砲を放ってきた。

キラは寸での所で、シールドを掲げ防ぐと頭部バルカンを撃ち返した。

(―――迷っていたら、やられる・・・!?)

視界の隅で、すれ違ったヘリが火を噴くのを見ながら、キラは周囲の状況を捉えた。

巨大な陸上戦艦レセップスがもう1隻の艦を従え、近づいて来るのが彼方に見え、空には戦闘ヘリや戦闘機が無数に飛び交い、
スカイグラスパーとヴァイスリッター、リ・ガズィ相手に高速の空中戦を展開し、その内の何割かがアークエンジェルに群れたかってくる。

その時、レセップスのハッチが開き、25機のバクゥと10機のザウートが出撃してきた。

「全部で35機か・・・見た所、ASも出ていない・・・? 全員、伏兵に気をつけろ!!」

アムロが指示を出し、各機が散開した時、遅れてゲシュペンストTTがアークエンジェルから飛び出してきた。

「遅えぞ、タスク!!」

「すんません、なんかT-LINKシステムが上手く動かなくて・・・」

カチーナの怒声にタスクが返すが、

「ストライクを支えた時程の集中力を発揮してないからよ。慣れれば、ブリット君達の様に集中しなくてもコネクト出来るわ」

ゲシュペンストTTからラーダの声も入って来たので、通信を聞いていた全員が驚いた。

「ヘ? ラーダさんも一緒なの? ちょ、ちょっと! 不純よ、タスク君! 先生、そんなの許しませんよ!」

戦闘ヘリと戦闘機を、2機まとめて撃ち落しながらエクセレンが叫ぶ。

「そんな色気のある状態じゃないんすけど・・・」

ラーダの姿勢を見ながら、タスクは顔を引きつらせる。

「ゲシュペンストって2人乗り出来たのか・・・確か、かなり狭かった筈ですけど?」

首を捻るカミーユとは逆に、格納庫である光景を目撃したアムロは何となく―――信じられない事が頭に浮かび、声を洩らした。

「・・・まさか」

アムロの想像通り―――ゲシュペンストのコックピットでは、ラーダが信じられない・・・人間には普通出来ない姿勢になっていた。

「あ、あの・・・ラーダさん、その姿勢って大丈夫・・・なんすか?」

絶対に何処かの間接が砕けるか、外れるかしてるであろう状態だというのに、ラーダがにこやかにタスクに応える。

「心配はいらないわ。体の柔らかさには自信があるもの」

(へ、下手な手品よりもビックリものだな・・・)

タスクの胸中に気づかず、ラーダは彼の手に自らの手を添え、

「それより、タスク君・・・精神を集中させなさい。私も手伝ってあげるから」

「いや、戦闘中に身体を折り曲げられるのは・・・」

「大丈夫よ、貴方ならアサナをしなくても感じ取れるわ―――心の中で念じるの。自分が機体と一体になるように・・・
そして、感じ取りなさい。敵の存在を・・・その動きを」

ラーダに言われた通りに、意識を集中する―――本当は集中なんて事は苦手なのだが、何故か今回は簡単に出来た。

そして―――タスクは頭の中で、何かを『掴んだ』様に感じた。

「! なんだ、この感じ・・・? 何かに手が届きそうな、掴んだ感覚・・・もしかして、これが敵機の反応すか・・・?」

タスクは驚きながらラーダを見ると、彼女は微笑み、

「そう、その感じを忘れないで―――次からは、キチンとT-LINKシステムが稼動するから」

「了解ッす! んじゃ、ハデに行くとしますか!!」




「バルトフェルド隊長! 何故、我々の配置がレセップスの艦上なんですか!!」

バルトフェルドの指示に納得が出来ないイザークは、ラゴゥに向かう途中の彼に問いただす。

「おーやおや、クルーゼ隊では上官の命令に、兵がそうやって異議を唱える様な事があるのかね?」

バルトフェルドは肩を竦めて、相手の怒りを受け流す。

「・・・結構、リムは―――自分達の同僚ですけど―――やりますが?」

少し顔を引きつらせて応えるディアッカの言葉に、バルトフェルドは苦笑いを浮かべ、

「リム・・・? リム・フィア、だったか? 彼女は別格だよ」

バルトフェルドが、クルーゼ隊とはいえ唯のパイロットの事を知っているのに、イザーク達は驚いた。

「―――彼女は色んな意味で結構有名人だからね。地上部隊でも、それなりに噂になるさ。
彼女、地上部隊の連中に何て呼ばれてるか知ってるかい?」

首を横に振るイザーク達を見て、バルトフェルドは人の悪い笑みを浮かべると、

「納得がいかなければ、上官だろうと余裕で叩きのめす―――『プラントの核弾頭』リム・フィア―――これが、一番有名な通り名かな」

(―――何て的確な表現だ・・・)

イザークとディアッカは同時にそう思った。

―――流石に、上官を殴り倒す様な事は・・・多分、してないと思うが。

「彼女のみたいに、常識―――軍規というものを枷にすら感じない者を、対象に持って来るのは間違いだ。
君たちは、そういう類の人間じゃないだろう?」

バルトフェルドの言葉に、イザーク達は言葉に詰まる。

「そうですが・・・我々の方が、ロンド・ベル隊との戦闘経験は―――」

負けの経験でしょ?」

パイロットスーツに身を包んだアイシャが、茶々を入れる。

「なんだとぉ!?」

アイシャの辛辣な言葉に、イザークはカッとなる。

「アイシャ」

「失礼」

バルトフェルドに窘められるが、些かも悪いとは思っていない様だ。

バルトフェルドは改めて彼等に向き合い、

「―――君たちの機体は砲戦仕様だ。高速戦闘を行うバクゥ、どんな地形でもものともしないASの動きについては来られまい」

「そんな事は―――」

言い返そうとするディアッカを、イザークが止める。

「もう良い。ディアッカ―――確かに、この足場じゃバクゥ程のスピードは出せない・・・失礼しました」

「あ、オイ! イザーク!!」

異議を言い始めたイザークが、あっさりと退いた事に驚き、ディアッカは慌てて彼の後を追った。



「イザーク! 良いのか!? お前、アムロ・レイと戦う為に来たんだろうが!?」

小声で問いただすディアッカに、イザークは口元で笑みを浮かべ、

「諦める、と誰が言った? 要は、バクゥのスピードに着いていければ、艦上以外で戦って良いって事だろう」

「あ、確かに、バクゥのスピードに着いていけないから艦上に配置されたんだが・・・方法はあるのか?」

ディアッカの問いかけに、イザークは頷き、

「ある。これも、アムロ・レイが一年戦争時に使った戦法の応用だが・・・耳を貸せ」

耳を貸すディアッカに、イザークは自分の考えた方法を話す。

「―――なるほどな。アムロ・レイが空でやった事を、地上でやろうって訳か。しかし、この部隊の連中が協力してくれるのか?」

「なに、乗ってしまえばこっちのもんさ―――連中も振り落とそうとしている間に、撃ち落されたくはないだろう」

「確かに―――それに、手柄を立てちまえば、命令違反もお咎めなしになるからな」



バルトフェルドは、彼等が独断で動く事を計画している事に察しがついたが放っておいた。

「―――『彼』や、ロンド・ベル隊の様な真似・・・誰にでも出来る筈はないからな」

自らの愛機に向かって一人ごちると、待機しているコダールの方を見て、胸中で呟く。

(それに・・・ガウルンの事もある―――身勝手な子供に、そう構ってもいられん)

「ガウルン! 先に出てくれ―――AS部隊も全機発進だ!!」

『分かった―――しっかし、あの連中、もう出撃したMSのうち、12機も落としやがったぞ』

ガウルンの報告に、バルトフェルドは頷き、

「まあ、彼等ならこれ位はやるだろうさ―――でも、戦略上の勝利は彼等を、ロンド・ベル隊を落とさなくとも達しえる」

『そういうこった』

ガウルンは頷くと、レセップスから飛び出していった。

アイシャと共にラゴゥに乗り込むと、彼女はふふっと笑い出した。

「あ~、独り言、聞いてたのかい?」

「ええ」

笑いながらあっさりと頷くアイシャに、つられてバルトフェルドも笑い、

「・・・肩入れしすぎているかな?」

その言葉に、アイシャは首を振り―――軽く言い放つ。

「いいえ―――でも、敵よ」

「ああ。解っている」

だからこそ、こんなに待ちきれない気持ちでいる。

幸か不幸か、あの少年とロンド・ベル隊は敵だ―――敵だからこそ、これほど自分を高揚させる事が出来るのだ。

確かに、あの少年が選ぶ道―――ロンド・ベル隊が選ぶ答えを知りたい、見たいと思った。

だが、今はそれ以上に知りたいのだ―――本気になった自分がどれ位戦えるのか? どこまで行けるのか? その先になにがあるのか―――

(俺が戦う理由も、戦争を引き起こしている原因と同じか―――まったく)

前にキョウスケ達に話した考えを思い出し、バルトフェルドは胸中で自嘲すると、

「じゃ、艦の方は頼むぞダコスタ君! 残ったバクゥも俺に続け! バルトフェルド、ラゴゥ出る!!」




「ゴットフリート、バリアント、てぇ――!!」

ナタルの号令がアークエンジェルの艦橋に響く。

敵艦に激しい砲撃を向けるが、自身も被弾し、大小の振動がひっきりなしに艦体を襲う。

外はレジスタンスが、飛び交う戦闘ヘリや戦闘機にランチャーやバズーカを向け、懸命に援護に勤めている。

スカイグラスパーとヴァイスリッターも次々と戦闘ヘリを落としているが、それでも航空戦力数はまだ多い。

「この編成・・・! MSはロンド・ベル隊の足止め役で、空中戦力で艦を落とすつもりか・・・!?」

ナタルは敵の戦力構成を見て、そう判断した。

事実、敵の全MSはロンド・ベル隊やストライクらMS隊の攻撃にまわり、戦闘ヘリ等はスカイグラスパーと
ヴァイスリッターの迎撃を潜り抜け、アークエンジェルにのみ攻撃を集中させてきている。

戦艦の装甲といっても、絶対の強度を持っている訳ではない。

同じ所に集中して着弾し続ければ、戦闘機のミサイルでも装甲は破れる―――それ以前に、ブリッジを破壊されれば1発で艦は無力化する。

「ロンド・ベル隊を倒すより、この艦を沈める事を優先してきたというの・・・!?」

「アークエンジェルが沈めば、ロンド・ベル隊でもこの大陸を脱出する手立てがなくなります―――戦術的勝利が戦略的勝利にもなりますから」

マリューの言葉にナタルは応えた時、スカイグラスパーの放ったアグニとヴァイスリッターのオクスタンランチャーが駆逐艦を貫いた。




時間は少々戻り―――バルトフェルドが出撃する前。

戦場では激しい戦いが繰り広げられていた。

ザウートの支援砲撃を受けながら、バクゥが砂漠を疾走しステイメンに迫る。

「くっ!」

ザウートの砲撃を回避した所を狙われ、コウは回避しきれずにバクゥの蹴りをシールドで受け止め、体勢を崩される。

そのまま着地したバクゥは、レールガンを放とうとしたが、体勢を崩しながら―――否、そのままわざと機体を転ばせながら、上半身を捻り放った
ステイメンのビームライフルが、バクゥを貫いていた。

しかし、すぐさま起き上がれないステイメンを狙い、ザウートが遠距離から砲撃を集中させてきた。

「しまった―――!!」

やられる!? と思ったコウの目の前に、マジンガーZが立ち塞がり、砲撃を全て受けきった。

流石に爆発力が強く、全てを受けきったマジンガーZがよろける。

「甲児! 大丈夫か!?」

「痛ててて・・・キャノピーに頭ぶつけちまったぜ・・・・」

コウの声に、甲児は頭を振りながら返す。

その間に3機のバクゥが迫り、更にザウートが放った砲弾が迫ってくる。

「食らうかよ!! ルストハリケーン!!」

強力な酸性の強風がバクゥの足を止め装甲を溶かし、迫る砲弾をも溶かし爆発させる。

足を止めた所に、ステイメンが放ったビームライフルが3機のバクゥを貫いた。

高速で移動するバクゥに、タスクはM 950マシンガンを連射するが尽く回避され、レールガンを撃ち返された。

「よっと、ヤマを張るまでもなかったか?」

しかし、タスクは初陣とは思えない程の反応を見せあっさりと回避する。

(キチンとT-LINKとシンクロしている・・・この子、資質はブリット君達に負けていない)

半ば驚いているラーダの胸中に気づかず、タスクは戦い続ける。

マシンガンを連射しながらタスクはバクゥに接近していく。

バクゥは回避運動をするが、タスクはその後にぴったりと付いて行き―――間合いに入るとプラズマソードを手に取りバクゥの頭部を斬りおとした。

その背後から1機のバクゥが飛びかかり、2機のバクゥが後方から援護射撃をする。

「タスク!! ちぃ、射撃は苦手なんだがな・・・四の五の言ってはいられんか・・・!!」

別のバクゥを1機、ステークで吹き飛ばしたキョウスケがそれに気付き、飛びかかったバクゥへ横から3連マシンキャノンを放つ。

多少の距離があり、撃墜こそは出来なかったが、バクゥの勢いを殺すのには充分だ。

勢いが落ち、バクゥの前脚、後方からのレールガンが到達する前にタスクはその場から飛び離れ、

「すんません! キョウスケ少尉!! 行くぜ、T-LINKリッパー!!」

放たれたT-LINKリッパーはバクゥへと向かっていき、3機のバクゥの頭部を四肢を切断する。

「よっしゃ!!」

「バカヤロウ! 空中で回避行動をしないでいる奴があるか!!」

ガッツポーズを取ったタスクに、カチーナの怒声が飛んできた時―――4機のバクゥが放った大量のミサイルが向かってきた。

「いっ!?」

「ちぃ、やらせるか!!」

回避が間に合わないと見たアムロとトロワが、ビームライフル、ダブルガトリングガンを連射しミサイルを尽く撃ち落していく。

そのνガンダムを狙い、バクゥが背後から襲いかかろうとしたが、フィンファンネルが1枚放出されあっさりと撃墜される。

「タスク! 手前、戻ったら基礎からやり直しだ!!」

「あれをもう一回すか!?」

タスクが悲鳴を上げた時、レセップスから更にバクゥが10機と紅いAS、そして―――見た事のない、オレンジの機体が出撃してきた。

「あれは、隊長機・・・? キラ達の方へ向っているという事は・・・アンドリュー・バルトフェルドか!?」

キョウスケが呟いた時、レーダーに新たな反応―――しかも、大型のと機動兵器らしき物の多数―――が出た。

「キョウスケ、新手!! 戦艦とASの団体さん―――後、金ピカのHMとかの団体さんも!!」

「金ピカのHM!? まさか、ネイ・モー・ハンのオージェ!?」

エクセレンの通信を聞いたダバが、レーダーが反応した方を見た時、艦砲射撃と高出力のビームがアークエンジェルに突き刺さった。




駆逐艦のあちこちで激しい誘爆が起こり、転進していくのを見てアークエンジェルのブリッジは一瞬沸いたが、
激しい衝撃が背後から艦を突き上げ、その直後、今度は横からの衝撃が艦を揺さぶった。

「なに? ろ、6時の方角に艦影!! 敵艦より多数のASが発進してきます!! 更に4時の方角より、多数のHMが!!」

「何ですって!!」

「背後だと!? くそ! 2段構えの作戦か!!」

レインの報告に、マリューとナタルは歯噛みした。

航空戦力でアークエンジェルを落せれば良し―――例え、無理だとしても前に注意を引き付けておき、後方から回り込んだ、
又は潜伏させてあったもう1隻を気づかせないようにし、前後から挟撃する作戦だったのだ。

更にこの厄介なタイミングでポセイダル軍が仕掛けてきたという事は、彼等も予め潜伏していたのだろう。

(こちらが仕掛けた罠のある地形での戦闘の筈だったのに、罠に掛かったのは我々だったという事か・・・!!)

ナタルは歯噛みし、この状況を打破する策を巡らせるが、それを待たずに艦砲射撃が―――バスターランチャーが飛来してきた。

『上昇、回避!!』

マリューとナタルの指示がハモるが、間に合わず砲弾が、高出力のビームが直撃する。

そのまま艦体が大きく傾き―――工場跡に突っ込み、建物をなぎ倒しながらめり込むようにして止まった。

動かなくなったアークエンジェルに、容赦なく2つの敵からの砲撃が集中した。

揺れる船内で、ナタルが必死の抗戦を命じる。

「ヘルダート、コリントス! 撃てぇ――!!」

「これって・・・!? デュ、デュエルとバスターを確認―――!!」

驚きながら報告を上げるトールの言葉に、ブリッジの全員が耳を疑った。

「こんな所にまで・・・!? スラスター全開、上昇!! これではゴットフリートの射線が取れない!!」

マリューは焦り、ノイマンに向って叫ぶが、

「やってます!! しかし、船体が何かに引っかかって・・・」

ノイマンも苛立ちを隠す事も出来ずに、叫び返した。

墜落の時、アークエンジェルの翼の一部が建物の骨組みに入り込み、身動きが取れなくなってしまったのだ。

「くっ・・・翼の一部は壊しても仕方がない、スラスターを全開にして無理矢理にでも上昇しろ!!」

「無理です! 今のバスターランチャーで、スラスターの一部が損傷しました!! 通常の出力の60%しか出せません!!」

ナタルの叫びに、ノイマンは計器を見ながら叫び返した。

MS隊に引っかかっている部分の破壊を指示しようにも、バクゥ、AS、そして参戦したHMの相手に手一杯だ。

更に悪い事態が続く―――地中に多数のエネルギー反応が突如現れたからだ。

「ち、地中にエネルギー反応多数発生!!」

「デスアーミー!?」

「こんな時に・・・!!」

指示を出しながらもマリューとナタルは―――否、彼女達だけではない、ブリッジにいる誰もが恐ろしい予感を覚えた。

(―――負ける・・・? こんな所で・・・)




時間は少し戻り、バルトフェルドが出撃した直後―――

砲撃を回避しながら、ゴットガンダムはザウートに接近し、袈裟懸けに斬り捨てる。

その背後を狙い、バクゥが飛びかかってくるが間合いに入った瞬間に、後ろ回し蹴りを叩き込まれ、
吹き飛ばされた所を、ストライクのビームライフに貫かれた。

高速移動しながら、グルンガスト改にバクゥはレールガンを放ってくる。

ブリットは念動フィールドでレールガンを弾き飛ばしながら、バクゥへと突っ込んでいく。

バクゥのパイロット達は、グルンガスト改の武器で自分達を捕らえられるのは、ソニックトンファーしかない事を知っているので、
多少間合いを詰められたからといって、回避運動を取る事はせず、そのまま攻撃を仕掛けていた。

―――今回は、その過信が命取りになった。

グルンガスト改が武器を―――槍を手に取った時、バクゥを操る誰もが当たりはしない、余裕で回避できると踏んだが、

「二の太刀はないぞ!!」

その槍から放たれた一撃は閃光の如く、常人には―――コーディネーターの視力を持ってしても―――視認できない速度だった。

バクゥのパイロット達は、自分が何に貫かれたのかを理解できず、機体と共にその身を焼かれる事になった。

「―――名付けて、必殺“ブリューナク”」

「ブリューナク?  どういう意味だ?」

ドモンが近くにいるカトルに訊ねる。

「ケルト神話の光の神ルーの武器の1つで、「貫くもの」の意味を持っています。
その一撃は白い光、熱、稲妻とともに自動的に敵を貫くと言われているそうですが・・・」

(確か、スリリング、投石器だったって一説もありましたけど・・・)

カトルは最後に内心で付け足した時だった―――アークエンジェルが砲撃に晒されたのは。

「しまった! アークエンジェルが・・・!!」

「戻るぞ、カトル、ドモン!!」

キラとブリットが慌てて踵返し、援護に向おうとした時―――

「2人とも、跳べ!!」

ドモンが声を上げ、キラ達は反射的に上に跳躍した―――瞬間、今まで2人がいた所を2方向からのビームが貫いていた。

「なにっ・・・!?」

驚くキラの胸中に関係なく、2射、3射が飛来してくるが、シールドで受け止め―――発射した機体を目にした。

キラが目にした機体はオレンジ色の見た事も無い機体であり、その動きは明らかに今まで戦ったバクゥより勝っている。

「隊長機・・・? あの人か!?」

キラの頭を、先日見た敵将の顔が過ぎるが、物思いに耽る間もなく、別方向からのエネルギーボンバーが飛来してきた。

「くっ! もう一方のビームはポセイダル軍からのか!?」

バーニアを吹かし、回避すると着地際に向ってきたバッシュに牽制のビームライフルを連射した。



「2人とも、跳べ!!」

ドモンが2人に警告を放った直後、紅いASがゴットガンダムに35mmライフルを放ってきた。

「ぬっ・・・!?」

気づいたドモンは咄嗟に飛び退いて回避する。

「お? 気づいたか・・・こっちの方でも生半可な飛び道具は通用しないか・・・?」

完全に不意を突いた攻撃をかわされたというのに、ガウルンは楽しそうに口元に笑みを浮かべ、単分子カッターを抜き放った。

「こいつ・・・出来る!?」

コダールの足運びを見て、相手の力量を感じ取ったドモンは本格的に構え、気を集中させ始めた。

「ドモン、気をつけろ! そいつは―――」

ブリットがあの機体が張る妙な力場の事を教えようとしたが、バッシュ達の攻撃を念動フィールドで弾く為、
ドモン達の方に意識を向ける事が出来なかった。

2機のバッシュのパワーランチャーが、ゴットガンダムを、コダールを狙い放たれる―――が、それを合図にしたのか、
両者はパワーランチャーを半身沈み込ませて回避すると、同時に地を蹴った。

目くらましと牽制に、35mmライフルを連射しながらゴットガンダムとの間合いを狭めていくコダール。

しかし、ゴットガンダムはライフルに当たらず―――否、確実にかわしながらも、その速度を落とす事無くコダールに接近していく。

「オイオイ、弾丸を『見て』回避してるのか? 同じ人間だとは思いたくねえな」

呆れと感心が入り混じった声を出し、ガウルンは足で砂を蹴り上げ―――完全にゴットガンダムから視界を奪う。

(通用するとは思えねえが・・・無いよりマシってな!!)

砂塵を壁し、コダールを沈み込ませる―――自分の間合いに入った瞬間、コックピット目掛けてラムダ・ドライバを、直接叩き込むつもりだ。

その時ガウルンの目に、砂塵の壁の向こうでシャッフルの紋章が輝いた様に見えた―――瞬間、

「ゴォォットォ! フィンガァァァァ!!」

例え視界を遮られても、相手の居場所位ならばドモンは読む―――否、相手の気配を感じ取る事は出来る。

故に、ゴットフィンガーで砂塵の壁の突き破り、そのままコダールを倒すつもりだったのだが―――

「な・・・なんだとっ!?」

以前のマジンガーZやアルトアイゼンと同じく、コダールの目の前で壁に阻まれたかの様にゴットガンダムの掌が止まっていた。

「惜しかったな?」

ニヤリと笑みを浮かべたガウルンは、単分子カッターをゴットガンダムに突き刺そうとしたが、

「甘い!!」

ドモンは吼えると、片手で単分子カッターを叩き落し、バルカンを撃ちつつ距離を取った。

「まさか、ゴット・フィンガーを防がれるとは・・・何なんだ、あの力場は・・・?」

ドモンは自分が想像もしなかった事態を信じられず、驚愕の表情でコダールを見る。

一方、ガウルンは軽く息を吐きながら計器類に目をやっていた。

「冗談抜きで、力押しで破られると思ったぜ・・・『防ぐ』事に意識を集中しないと、ラムダ・ドライバといえどあっさり破られる可能性もあるか
―――本当に、常識が通じねえ連中だな」

ガウルンも珍しく驚いたとき、デスアーミーが地中から次々と現れた。




デスアーミーが出現した事により、戦場は混戦になっていた。

バクゥがデスアーミーをレールガンで破壊したと思いきや、そこをバッシュのエネルギーボンバーに狙われ、
更にそのバッシュにデスアーミーが背後から襲い掛かる。

この状況がロンド・ベル隊に優位に働くか? 否、むしろ逆だった。

全ての勢力が共通してロンド・ベル隊に攻撃を仕掛けているのだ―――彼等にすれば、ただ敵が増えただけである。

「この数だ、正面から戦ってはこっちが持たない・・・!」

ダバはそう呟くと、ポセイダル軍の指揮系統を分断する為、金色のHM―――オージェに向ってパワーランチャーを放った。

「ん? エルガイム・・・? ダバ・マイロードか!?」

ネイはパワーランチャーを避けると、そのまま大量のスロウランサーを放ってきた。

回避運動を取りながらスロウランサーを回避し―――何本かがデスアーミーやバクゥに刺さって爆発したが―――Sマインを放とうとした時、

「ダバ、右!!」

突然リリスが声を上げ、ダバは反射的にシールドを掲げた。

その直後、パワーランチャーがシールドに命中し、続けて1機のアシュラテンプルがセイバーで斬りかかってきた。

「アトールVとアシュラテンプル!? この動きは―――ヘッケラーか!?」

「落ちろ! ダバ・マイロード!!」

咄嗟にセイバーを発生させ、アシュラテンプルのセイバーを受け止めるが、動きが止まった所を狙い、オージェがパワーランチャーを放った。

「もらった!!」

どう見ても回避が間に合うタイミングではなかった―――しかし、間にカルバリーテンプルがそこに飛び込み、エルガイムを庇う。

「ダバ、危ない!!」

パワーランチャーはカルバリーのビームコートを破り、左肩に直撃する。

「このっ、そうそう好きにはやらせないよ!!」

被弾しながらもレッシィはパワーランチャーを撃ち返すが、ラウンドバインダーで防がれてしまう。

「ガウ・ハ・レッシィ―――末席とはいえ13人衆だったお前が、こんな辺境の星でダバ・マイロードと共にいるとはね」

「惨めだとか、哀れだとか言いたいのかい? 生憎だけど、私はこの生き方に―――ダバと一緒に居る事を後悔してないよ!!」

言い返し、レッシィはサッシュを放つがオージェはそれを回避し、パワーランチャーを連射して来る。

エルガイム、カルバリーはその場を跳び退いて回避するが、アシュラテンプルとアトールVがそこを逃さず追撃をかけてきた。




キョウスケはバッシュのセイバーをステークで受け止め、そのままヒートホーンをバッシュの頭部に突き刺し―――下へと斬り裂く。

左手からデスアーミーが棍棒で殴りかかってくるが、その体勢のまま3連マシンキャノンを撃ち、足を鈍らせ―――その間に機体を振り向かせ、

「飛び散れ・・・っ!!」

足の鈍ったデスアーミー、そしてその周囲と背後に居たバッシュやデスアーミーを狙って、広範囲でクレイモアを放つ。

無数のベアリング弾を食らい、次々とバッシュ達は爆発していくが、1機クレイモアを掻い潜り、アルトに接近してくるアシュラテンプルがあった。

「むっ・・・? 直撃を避けたのがいたか・・・!?」

「やってくれたな!!」

アントンは穴だらけになったシールドを投げ捨て、アルトを狙いエネルギーボンバーを放つ。

「早めに動けば・・・このくらいは!」

エネルギーボンバーを回避した先を狙って、アントンはパワーランチャーを撃つが、キョウスケは構う事無くアルトを突進させる。

「この位で止められると思うなよ・・・!」

「こいつ・・・ツインメリットコーティングされているのか!?」

アルトの目の前でビームが拡散するのを見たアントンは、少し驚くが、

「なら、これでどうだ!!」

両腕のパワーランチャーと、両肩に装備されているサーカスバインダーを一斉にアルトに向って放つ。

4つの砲口から放たれたビームが1ヶ所に集中し、アルトアイゼンのビームコートを貫き肩口に損傷を与える。

「これ位の損傷を気にしていては、こいつに乗れんのでな・・・!」

しかし、キョウスケは気にする事も無く間合いを詰め、ステークを構えるが、

「さっきの礼だ、食らえ!!」

間合いに入った瞬間、アシュラテンプルの胸部が開き、無数の高熱に熱された鉄球―――リバースボマー―――が放たれた。

「なにっ!?」

キョウスケは攻撃を止め離れようとしたが、間に合わず多数の鉄球を受けながらもどうにか機体を下がらせる。

「致命傷は避けたが・・・」

機体の損傷をチェックしながら、キョウスケは呻く。

確かに致命傷は避けられた―――が、損害は決して小さいものではない。

「今のであちこちをやられたが、駆動系には問題ない・・・まだやれるな、アルト・・・?」

本来なら一度帰艦し、応急修理ぐらいは受けなければならない程の損傷ではあるが、今1機でも戦場から離脱、脱落すれば
そこから敵機に突破されると、キョウスケは判断しており、アルトに軽く呼びかけると、再びアシュラテンプルに向って行った。




アムロは飛びかかってきたバクゥをビームサーベルで斬り伏せ、動きを止まった所を狙いザウートが砲撃をしてくるが、
機体を下がらせながらフィンファンネルを射出し、次々とザウートを撃墜していく。

「ちぃ、これではアークエンジェルの援護に向う事も出来ない!!」

毒ついている間にもデスアーミーとバッシュがビームライフルを、スロウランサーを放ってくる。

アムロは回避運動をしながらバルカン砲を放ち、デスアーミーとバッシュの頭部を破壊した。

「埒がない! 先にウェブライダーでアークエンジェルの援護に向います!!」

ミストラル、サベージを連続して撃墜したカミーユが、僅かの隙を突いてゼータをウェブライダーに変形させるが、
そこを狙いASやバクゥ、そしてバッシュ達までもがミサイルやスロウランサーで撃ち落そうとしてきた。

「くっ・・・! どうあっても行かせないつもりか!?」

いくらカミーユの腕でも、ウェブライダーがスピードに乗る前に狙われては回避し続ける事は無理だ。

致命傷を受ける前に、カミーユはウェブライダーをゼータに戻した―――瞬間、

「正面!?」

空中でゼータに戻った僅かな隙を突き、高出力のビームが飛来してきた。

カミーユはバーニアを全開にして避けようとしたが、完全には回避できず、シールドの表面が少し融解し、体勢を崩した所を狙われ、アサルトライフルが脚部に着弾する。

「くっ、やってくれる・・・!」

地面に膝を着きながらも、アサルトライフルを放ってきたM 6にグレネードランチャーを撃ち返し破壊した。

「さっきのビームは何処から・・・?」

カミーユがそう呟いた時、発射したと思われるMSを発見した。

「―――バスター!? バクゥに乗っている!?」



「くそ、外した!! オイ、トリガーを引く時に、急な動きはしないでくれ!!」

「文句を言うな!! 回避運動をしなかったら、こっちが落とされてた!!」

ディアッカはバクゥのパイロットに文句を言うが、即座に言い返される。

イザークが提案した方法―――それは、バクゥをドダイやゲタの代わりをさせると言うものだった。

彼等はレセップスの艦上に一度上がり、バルトフェルドが出た後に出撃したバクゥに無理矢理飛び乗った。

最初の内はバクゥのパイロットは文句を言い、振り落とそうとしていたのだが、この混戦下でバスターの火力は惜しいと判断し、
振り落とされても回収はしない、狙いはこちらに任せるという条件で了承した。

実際、バクゥの機動性とバスターの火力が合わさって、デスアーミーやバッシュ達を多く撃墜できた。

(いける―――!!)

数々の強敵を打ち倒し、激戦を潜り抜けてきたΖガンダムを自分が落とす事が出来る―――

ディアッカは胸中でほそく笑み、脚部を損傷し、機動性が落ちているΖガンダムに再度狙いを付けた。



「くっ、この足じゃ長くは持たないか・・・!?」

足に損傷を受けながらも、カミーユはバッシュ達の攻撃を回避しながらビームライフルを撃ち返した。

しかし、それも限界が近い―――戻って修理を受けたいが、アークエンジェルもそれ所ではない。

もう一度、ウェブライダーに変形して脚部への負担を減らそうかと思案した時、フォウからの通信が入った。

「カミーユ、乗って!!」

「フォウ!?」

フォウの言葉に反応し、カミーユはバーニアを吹かし飛び上がり―――リ・ガズィの上に着地した。

リ・ガズィとΖガンダムを狙い、バスターが高インパルス砲を放つが、フォウはあっさりと回避し、
カミーユはフォウの動きに動じる事無く、ビームライフルを撃ち返し、バスターの乗るバクゥのレールガンを撃ち抜いた。

「!? なんだって、あんな状態で正確な射撃が出来るんだよ!?」

ディアッカは驚き、叫びながらミサイルポットを放つが、それも尽くリ・ガズィのビームキャノン、Ζガンダムのバルカンに撃ち落される。

カミーユとフォウはディアッカ達の様な急造のコンビではない。

バルマー戦役で出会い、その後、共に戦い続けた仲間であり―――互いを解り合える存在だ。

息の合ったコンビプレイなど、カミーユ達にとっては動作も無い事だ。

「カミーユ、フォウ、エクセレン。 そのままHMの狙撃部隊に仕掛けてくれ! こっちは俺達が抑える!!」

「判りました。フォウ!」

「了解!!」

アムロの指示にカミーユは返し、フォウに呼びかけると彼女も頷き、機体を加速させた。

「逃がすか!!」

ディアッカは離れて行くリ・ガズィ、Ζガンダムを狙いを付けたが、横手から飛来したミサイルがそれを阻む。

PS装甲のおかげで機体に損傷はないが、体勢を崩している間にリ・ガズィ達はレンジ外へと離れていた。

「ちっ、なんだ!?」

「ダメージはないか・・・PS装甲というもののおかげか・・・」

損傷を受けていないバスターを見て、ミサイルを放ったトロワが淡々と言う。

「また、ガンダムかよ!! なんかこの部隊、会う度にガンダムの種類増えてないか!?」

ディアッカはウンザリとしながら、高インパルス砲をヘビーアームズに放つ。

「甘いな・・・」

高インパルス砲を回避しながら、トロワはダブルガトリングガンを撃ち返す。

バクゥは回避行動を取るが、トロワはその先を読み、回避先にホーミングミサイルを放つ。

「この、当たるか!!」

咄嗟に高インパルス砲を散弾型に切り替え、飛来したホーミングミサイルを撃ち落す。

「あのガンダム、バスターと同じ砲戦タイプか!! だがな、実弾だけじゃバスターは落とせないぜ!!」

確かに、実弾兵器はPS装甲には通用しない。

しかし、それを気にする事無くトロワは攻撃を続けながら言い返した。

「1つ言っておく―――戦場ではその慢心が死に繋がる」




牽制に放ったビームライフルは、尽くビームコートに阻まれた。

「やっぱり、通用しないか・・・!?」

撃ち返されたパワーランチャーを回避しながら、キラは呟き、腰の後ろに装備してあるハイパーハンマーを手に取った。

「この間合いなら・・・!」

ハンマーを頭上で回転させ、勢いを点けてからバッシュに向って投げつけた。

あまりにも原始的な武器に驚いたのか、バッシュの反応が遅れ―――ブースターで更に加速したハンマーが胴体に直撃し、そのまま沈黙する。

「思った以上に、使える・・・?」

キラは正直ここまでの威力―――、一撃で敵機を沈黙させられる―――を期待していなかったので、驚いていた。

驚くキラの背後から、別のバッシュがスロウランサーを放ってきたが、すぐさま反応しスロウランサーを潜り抜け、
接近するとシールドを頭部に突き刺した。

2機のバッシュがラゴゥにエネルギーボンバーを放つが、バルトフェルドはそれをあっさりと回避する。

「邪魔をしないでくれたまえ!」

ビームサーベルを発生させ、すれ違い際にバッシュを2つに断ち、もう一機に2連ビームキャノンを放つ。

ビームコートを突き破り、バッシュの胴体を撃ち抜き破壊し、続けてストライクを狙って連射する。

ストライクはシールドを掲げて防ぐと、ハンマーをライフルに持ち替えて応射してきた。

「なるほど、いい腕ね」

「だろう? 今は冷静に戦っているが、最初に見た時はもっと凄かった。それでも、ロンド・ベル隊と遜色ない動きをしてくれる」

スコープから目を離さずに淡々と言うアイシャに、バルトフェルドは声を弾ませて応える。

そんな彼の言葉に、アイシャはくすりと笑う。

「・・・なんで、楽しそうなの?」

あの少年とロンド・ベル隊の所為で、バルトフェルドは何人ものパイロットを失った。

みな将来のある、気の良い若者達だった―――それなのに彼は、敵のパイロットと部隊を褒め称えている。

ふと、アイシャが呟いた。

「辛いわね、アンディ・・・ああいう子と彼等みたいな人達、好きでしょうに」

バルトフェルドは瞬間、胸を衝かれた。

自分の問いに驚いた様に目を上げた少年の、幼く無防備な顔が―――正体を明かしていなかったとはいえ、
僅かながら出来たキョウスケ達とのカフェでのやり取りが、よみがえる。

僅かに残った迷いが、こんな疑問を吐かせる。

「・・・投降、すると思うか?」

アイシャは考える間もなく即答する。

「いいえ」

バルトフェルドは笑った―――そうだろう、と。

彼等はロンド・ベル隊だ―――投降などせず、僅かにでも・・・例え1%以下でも勝機があればそこに賭けて来る。

そんな彼等でなくてはつまらない。

胸中で笑い、ストライクに仕掛けようとした時、乱入者が現れた―――バクゥに乗ったデュエルだ。

「待て、ストライクは俺の獲物だぞ! 横取りをするな!」

バルトフェルドはバクゥとデュエルに向って通信を送るが、返事は返ってこなかった。



「オイ、コラ! 俺はストライクじゃなくてνガンダムに向えと言っただろうが!!」

イザークがバクゥのパイロットに向けて怒鳴るが、

「隊長の援護をしなくちゃならないからな。嫌なら、降りて直接行け」

バクゥのパイロットは憮然と言い返すが、胸中ではまったく別の事を呟いていた。

(戦局が決定したら、『虎』を狩る―――見入りの多い方に、点数を稼いでおかないとな)

そう、このパイロットはガウルンと共にあの『少年』と会っていた男だった。

『少年』はやらなくともいいと言っていたが、彼にしてみれば、『少年』以外の組織の上層部に印象を良くしたかったのだ。

そんな男の本心を知らず、イザークは降りて直接行こうかとも思ったが、この混戦下、この足場だ―――バクゥの機動力は捨てがたい。

「ええい! 付き合ってやる!! ストライクを落としたら、νガンダムに向ってくれよ!!」

バッシュが放ってきたスロウランサーをビームライフルで撃ち落しながら、バクゥのパイロットに念を押す。

「それまで、連中が無事だったらな!!」

そう応えて、バクゥを加速させるとバッシュに接近し、その瞬間イザークがバッシュにビームサーベルを突き刺し、そのままストライクへと向う。

「ストライク! 落ちてもらうぞ!!」

吼えた時、バルトフェルドから通信が入って来たのだがイザークは無視し、レールガンを放った。



「デュエル!? バクゥに乗って・・・!!」

レールガンをシールドで弾き、キラはビームライフルを連射するが、バクゥが左右に回避しながら接近してくる。

ビームサーベルを抜き放ち、デュエルとバクゥを迎え撃とうとした瞬間、デュエルが跳んだ。

「上!?」

キラの注意がデュエルに向いた瞬間、バクゥの痛烈な蹴りをまともに食らい、機体が倒される。

「うわっ!! デュエルは囮か!?」

しかし、キラの考えは少々外れてた―――倒れた所を狙い、デュエルがグレネードランチャーを発射してきたのだ。

キラは慌ててバーニアを吹かし、グレネードランチャーを回避しつつ機体を起こした。

その間に、デュエルは再びバクゥの上に着地する。

キラはストライクをデュエル達の方へと振り向かせるが、背後からラゴゥが接近してくる。

「どうした、少年!? 最初に見せたあの時の力を見せてみろ!」

「あの時の―――!?」

バルトフェルドの言葉に、キラは言い返そうとした―――使えるのなら、使っている、と。

初めてデュエル達を独力で撃退した時、そしてアークエンジェルを守る為にミサイルを撃ち落した時―――
何故、あんな感覚を持ったのか自分でも解らないのだ。

確かに、あの時の力があればこの状況も打破出来るだろうが―――

接近しつつ、ラゴゥが2連ビームキャノンを放とうとした瞬間―――サンドロックが横からラゴゥに斬りかかった。

「! ガンダムサンドロック!? カトル・ラバーバ・ウィナーか!?」

バルトフェルドは驚きながらも回避し、2連ビームキャノンをサンドロックに撃ち返す。

サンドロックは下がって回避し、ストライクの後ろに着く。

「すみません、キラ君。援護が遅くなりました」

「いや、助かったよ―――そっちは大丈夫なの?」

キラの問いかけに、カトルは頷く。

「ええ。ドモンさんとブリットさんが何とかするから、キラ君の援護にって」

カトルが応えた時、反転したデュエルとバクゥが再びストライクに攻撃を仕掛けてきた。

咄嗟にその場から2手に分かれ―――キラはデュエルに、カトルはラゴゥに向って行く。

「少年はデュエルの方に行ったか―――まあ、いいだろう。『アナザーガンダム』・・・相手にとって不足なしだ!!」

カトル達のガンダムのもう1つの呼び名を口にし、バルトフェルドは笑みを浮かべてサンドロックへと狙いを付けた。




「アークエンジェルが!」

廃工場に突っ込んだまま、身動きが取れなくなったアークエンジェルに気づき、カガリとキサカがバギーを停める。

「エンジンをやられたのか・・・? これでは狙い撃ちだぞ!」

キサカがストライクとロンド・ベル隊の姿を求めて頭を巡らすが―――彼等も多くの敵に足止めを受けており、易々と援護に戻れない状況だった。

その隙に、カガリはバギーから飛び降り、アークエンジェルに向って駆け出した。

「カガリ!」

それに一瞬遅れて気づいたキサカが、すぐに後を追おうとするが、目の前に起こった爆発に阻まれ、更に彼女との距離が開く。

その間に、カガリはアークエンジェルのハッチへと駆け込んだ。

格納庫に駆け込んだカガリの姿に、マードックが目を見開く。

「オイ、なんだ―――嬢ちゃん!?」

カガリは彼に目をやらず―――待機してあるスカイグラスパー2号機に駆け寄り、あっという間にコックピットに収まる。

「なにすんだ!? オイ、嬢ちゃん!!」

「機体を遊ばせていられる状況か!?」

咎めるマードックに怒鳴り返し、カガリはエンジンを始動させると計器類をチェックしていく。

騒動に気づいたアストナージがスカイグラスパーに駆け寄る。

「止めろ、カガリ! 無茶だ!!」

「シュミレーターであれだけ出来たんだ! 援護くらいは出来る!!」

アストナージの制止も聞かず、カガリはキャノビーを閉めるとスピーカー越しに怒鳴った。

「下がれ! 吹っ飛ぶぞ!!」

既に機体が浮き始め、辺りにジェットの排気によって風が巻き起こされている。

「あああ~もう! 今時のガキは!!」

「昔のジュドー達みたいな事をやってくれる・・・! ハッチを開けてやれ! こうなっちゃ、無理に止める方が危険だ!!」

マードック、アストナージが頭を押さえながら指示を出した。



カタパルトから撃ち出された瞬間のGに、カガリは息をつめたが、視界が開けると操縦桿を握り締めた。

機体に装備されたソードパック―――殆どの重さは対艦刀の物だが―――の重みで機体が右に流される感もあるが、
機体の反応はシュミレーションと同じだった。

『スカイグラスパー2号機が発進!? 誰が乗っている!!』

『フラガ少佐は・・・1号機!?』

『オイ、2号機! 誰が乗ってんだ!!』

アムロ、キョウスケ、フラガの通信にカガリが割り込む。

「私だ! カガリ・ユラだ!!」

『カガリ!? 無茶だ! 戻るんだ!!』

「こんな状況だ! 援護は多い方がいいだろうが!!」

アムロの言葉に怒鳴り返すと、操縦桿を傾け既に1号機が攻撃しているレセップスを目指す。

「無茶な事を!! 甲児、カガリのフォローを頼む!!」

アムロは甲児に呼びかけ、2号機に狙いを付けたバッシュにハイパーバズーカを撃ち込んだ。



2機のスカイグラスパーが、対空機銃を回避しつつ巨大な空母に襲い掛かる。

弾幕を掻い潜りながら、カガリはトリガーを引きバルカンを放った。

放たれた弾丸はデッキに、主砲に命中し――― 一瞬の後に爆発を起こした。

「お? やるねぇ、嬢ちゃん!―――墜ちるなよ!!」

フラガは口笛を吹き、上昇したカガリ機と入れ替わる様にしてアグニを放ち、砲台の1つを破壊する。

バッシュのスロウランサーが、デスアーミーのビームライフルがその瞬間を狙い、フラガ機に攻撃を仕掛けるが、上昇しながらあっさりと回避する。

上昇した2機は、旋回し続けて駆逐艦に攻撃を仕掛ける。

フラガ機のランチャー、アグニが火を噴き艦上にいたザウートを破壊し、弾幕がその部分だけ薄くなる。

そこを狙ってカガリ機が艦体にアンカーを打ち込み、それを支点に急旋回し砲塔を対艦刀で斬りおとした。

「―――どうだ!」

カガリは歓声を上げ、背後に視線を向ける―――その行為が命取りになった。

背後に意識を向けた瞬間に、駆逐艦から対空ミサイルが発射され、それとほぼ同時にASも地上から対空ミサイルを発射した。

警報に気づき、カガリは回避運動を取るが間に合うタイミングではない。

(!? やられる!?)

カガリが息を飲んだ瞬間、別の方向から放たれた膨大のミサイルが対空ミサイルを撃ち落した。

「助かった・・・? 今のミサイルは・・・?」

「大丈夫か!? とっとと離脱しろ!!」

カガリが不思議がっていると、甲児から通信が入った。

アムロやカミーユ達の様に、命中しそうなミサイルをピンポイントで落とす事は甲児には出来ないので、
ドリルミサイルでミサイルの壁を作り、対空ミサイルを全て破壊したのだ。

「大丈夫だ! まだ・・・!」

カガリは甲児の忠告を聞かず、再び機体を反転させようとしたが、

「バカヤロウ!! 今のは全部落とせたが、次のミサイルも全部落とせるとは限らねえんだぞ!!」

「そっ・・・!」

甲児の怒声にカガリは咄嗟に言い返そうとしたが、そこにフラガが割り込んでくる。

「はい、嬢ちゃんの負けだ。度胸は買うが、もう少し周囲に気を配れるようじゃなきゃこの弾幕の中、無事じゃいられないぞ?」

再び、カガリは言い返そうとしたがぐっと堪えた―――相手の言葉が正しいと判ったからだ。

事実、戦果を気にするあまり回避が遅れ、甲児がミサイルを一発でも撃ち洩らしていれば自分は死んでいたのだから。

「こっちはいいから、坊主の支援に回ってくれ。少々旗色が悪いみたいだ―――周囲に気を配るの、忘れるなよ!!」

フラガはカガリにそう告げると機体を反転させ、再度マジンガーZ共に攻撃を仕掛けていった。




「この混戦の中、中々頑張るじゃないか」

ネイはバクゥのレールガンを回避し、スロウランサーを撃ち返すとバクゥの撃破も確認せず、
襲い掛かってきたデスアーミーをセイバーで斬り伏せ、2機が同時に爆発する。

「でも、そろそろ限界かね―――連中じゃなくて、あの艦が」

レセップスの艦砲射撃とバスターランチャーを受け続けているのだ―――如何に戦艦の装甲でも、もう限界が近いはずだ。

その時、ネイの独白に返す声が響いた。

「―――でも、指揮官であるアンタを落とせば、あのビームは止むんでしょ!?」

「なにっ!?」

ネイが驚き、辺りを見渡した時、ノーベルガンダムがオージェに飛びかかった。

「ようやく見つけたよ! こういう状況は、指揮官機を落とせば打破出来るものだしね!」

「くっ、なめんじゃないよ!!」

飛びかかってくるノーベルガンダムに、オージェは大量のスロウランサーを放つ。

「なんの!」

しかし、アレンビーはスロウランサーを回避するだけでなく―――その内の何本かを空中で掴む

「なにっ!?」

その光景を信じられず、ネイは自分の目を疑った。

「返すよ!!」

着地すると同時に、アレンビーは手に取ったスロウランサーをオージェに投げ返す。

「当たりはしないよ」

ネイはパワーランチャーを連射し、投げられたスロウランサーを尽く撃ち落し―――その間に別の角度からノーベルガンダムが接近する。

「いくよ!」

アレンビーは十分にスピードの乗った拳を放つが、ラウンドバインダーで受け止められてしまう。

「ふん、見え見えなんだよ!」

「結構、やるじゃない。オバサン!

「死にたいようだね、小娘!!」

怒りをあらわにし、ネイはセイバーを手に取り横に薙いでくるが、アレンビーは咄嗟に後ろに跳び回避する。

「逃しはしないよ! 今の発言、死ぬほど後悔させてやる!!」

ネイは鬼の形相で、下がったノーベルガンダムにパワーランチャーを連射し追撃をかけてくる。

「やば! こうなると反撃する隙が・・・!」

アレンビーはビームフープを出そうとしたが、そこを狙ってパワーランチャーが飛来してくるので回避に精一杯だ。

ノーベルガンダムのスピードを駆使して、間合いを図ろうともしたが、オージェは離される事無く―――否、むしろ徐々に距離を狭めてくる。

「この機体・・・! 他の連中と性能が違いすぎる・・・!?」

アレンビーは知らない事ではあるが、オージェはオルドナ・ポセイダル自らが設計し、自らの乗機にする機体であった。

他のA級のHMと性能が段違いなのも当たり前である。

パワーランチャーを1射し、ノーベルガンダムは回避するが、そこを狙い大量のスロウランサーを放とうとした瞬間、
頭上に機体の反応が突如現れた。

「上!?」

ネイが驚き頭上を見上げると、見た事もない機体が―――大きさからしてASの様だが―――目に映った。

突如現れた機体は、40mmライフルを連射しながら着地し、そのままオージェに攻撃を仕掛けてきた。

「馬鹿な!? つい先程まで、レーダーに反応どころか、地面に影すら写っていなかったのだぞ!?」

「あの機体・・・ガンダムシュピーゲルと同等のステルス機能を持っているというの?」

ネイとアレンビーの驚きとは関係なく、現れた機体は少し離れた所に着地したであろう仲間に通信を送る。

「ウルズ2よりウルズ6、ウルズ7へ。ポセイダル軍、指揮官機を補足。予定通り、頼むわよ」

『ウルズ6、了解!』

『ウルズ7、了解』

「そこのAS! 何処の所属なの!?」

通常回線でアレンビーがASのパイロット―――メリッサ・マオに問いかける。

「へ~、最近のガンダムって変わってるわね~?」

ノーベルガンダムを見て、マオは軽く口笛を吹き通信回線を開く。

「ロンド・ベル隊、こっちはあんた達の味方だから撃たないでね」

「その前に所属部隊を言え! 味方だ、の一言で信用できるか!!」

ナタルからの通信に、マオは少々困った顔になり、

「あ~っと、私の口からは権限上、言えないのよね―――テスラ研のカザハラ博士あたりに聞いて頂戴」




ノーベルガンダムが、オージェの元に辿り着いた頃―――エクセレン達はアークエンジェルを狙撃している部隊を発見した。

「見っけ!! 数は―――6機ね」

エクセレンは射程内に6機のバッシュを捉え、オクスタンランチャーを構えるが、バッシュ達の方も気づいたらしく、4機が迎撃に回ってきた。

数多く放たれるスロウランサー、パワーランチャー等を回避しながらエクセレン達も反撃するが、
ビームコートとシールドに阻まれ、なかなか致命傷を与えられない。

カミーユ達が攻め倦んでいる間にも、アークエンジェルにバスターランチャーが撃ち込まれ煙が上がる。

「まずい! あれじゃ、後2、3発も持たない!?」

フォウがアークエンジェルを見て声を上げる。

「くっ、こうなったら・・・!」

カミーユは一か八かウェブライダーで突撃し、突破口を開けようとした瞬間―――1発の弾丸が、発射直前のバスターランチャーの
エネルギーチューブを撃ち抜き、行き場をなくしたエネルギーが暴走し―――機体が爆発する。

「なんだっ!? 何処からの狙撃だ!?」

突然の事にカミーユは驚き、辺りを見渡すが機影どころかレーダーにすら反応が無い。

カミーユ達が驚いている間に、もう1機のバッシュのエネルギーチューブも撃ち抜かれ爆発した。

「また!?」

爆発する機体を見て、フォウは驚き声をあげ、エクセレンは爆発した敵機の位置等を基に大体の発射ポイントを絞り込むが、

「あの機体の角度からして―――可能性が一番高いのは、あの砂丘の向こう!? 何処かで算出間違えたかしら?」

出たポイントが信じられず、苦笑いを浮かべる。

この算出が間違い出なければ、狙撃者は常識外れの腕を―――ロンド・ベル隊から見ても―――している事になる。

並みの腕では、MSよりも大きな標的に当てる事も難しい距離だというのにも拘らず、MSとほぼ同サイズの機体―――
しかも、そのチューブのみを狙って撃ち抜いたのだから。

一体狙撃者はどんな人物なのか―――3人は胸中で呟いていた。




少し時間は戻り―――狙撃していたバッシュ達が撃破される少し前。

アークエンジェルの艦橋付近で、敵艦砲が爆発した。

衝撃で電気系統がショートして、コンソロールから火花が噴き出し、みなが悲鳴をあげる。

依然、アークエンジェルは身動きが出来ない状況だった。

ノイマンはさっきからあちこちのスラスターを作動させ、浮上しようとするが、金属が撓む音が聞こえるばかりで抜け出す事が出来ない。

そうしている間にも、今度はバスターランチャーが艦に突き刺さる。

「回路損傷! ゴットフリート、出力低下!!」

「くっ! どの道、使いたくとも、この状況では・・・!!」

ミリアリアの報告に、ナタルが苦い顔で呻いた時、アークエンジェルの真下から3機のデスアーミーが出て来た。

「な!? 艦の真下にデスアーミーが!!」

「まだ出るというの!?」

トールの報告に、レインが悲鳴に近い声を上げる。

「まずいわ! もし、取り付かれでもすれば・・・!」

「その心配には及ばん!!」

マリューの声をかき消して、通信が割り込んできた。

「この声・・・まさか!」

レインの言葉に応えるかの様に、1機のガンダムが地面から出現し―――3機のデスアーミーの中に飛び込む。

「まとめて片付けてくれるわ!! シュトゥルム・ウント・ドランクゥゥゥゥ!!

両腕のシュピーゲルブレードを構え、超高速で回転しながら一瞬で3機のデスアーミーを切り刻み破壊する。

「シュバルツさん!!」

「レイン、それにアークエンジェルのみんな。すまん、少々遅くなった」

「・・・なんで地面から・・・?」

歓声を上げるレインとは対照的に、ナタルが軽く詫びる覆面の男―――シュバルツに反射的に問いかける。

「ゲルマン忍術が1つ、土遁の術だ―――待っていろ、今動けるようにする」

シュバルツはそう言うと、アークエンジェルに飛び乗り、廃工場の一部を破壊する。

「―――よし、動ける!」

ノイマンが歓声に近い声をあげ、操縦桿を引き艦体を上昇させる。

ちょうど、その時だ―――何処からか現れた機体が、オージェに攻撃を仕掛けたのは。

その事はアークエンジェルでも察知できた。

「なっ!? アンノン出現!! 1機のHMと交戦しています!!」

「なんですって!? 映像をこっちに回せる?」

マリューは驚きの声を上げながらも、トールに指示を出し、回された映像を見る。

そこには、金色のHMと戦う1機のASが映っていた。

「この機体・・・型からしてASの様だが・・・こんなタイプ、見た事が・・・」

映像を見て、ナタルが眉を顰める―――が、マリューは信じられない物を見た、という顔になり呟く。

「・・・M 9“ガーンズバック”」

「艦長、ご存知なのですか?」

聞き返してくるナタルに、マリューは頷き、

「ええ。ヘリオポリスのモルゲンレーテで聞いた事があるわ。―――最新鋭のASよ」

「なら、連邦の援軍じゃ・・・?」

「それはあり得ないわ」

ミリアリアの言葉に、マリューは首を振る。

「連邦でもまだ開発中の機体なのよ―――M 9“ガーンズバック”って」

マリューの言葉にナタルは驚いた時、連邦軍専用の通信回線で―――音声のみだったが―――M 9から通信が入る。

『ロンド・ベル隊、こっちはあんた達の味方だから撃たないでね』

ナタルは軽い口調で言うASのパイロット―――声からして、若い、自分と同年代の女性―――に怒鳴るようにして聞き返す。

「その前に所属部隊を言え! 味方だ、の一言で信用できるか!!」

(尤も、ロンド・ベル隊の殆どの者は信じそうだが・・・)

胸中で半ば慣れた様な、呆れた感想を述べるナタル。

すると、M 9のパイロットは少し困った様な口調で、

『あ~っと、私の口からは権限上、言えないのよね―――テスラ研のカザハラ博士あたりに聞いて頂戴』

とだけ返し、通信を切ってしまった。

「カザハラ博士に・・・? どういう意味なのかしら・・・?」

「艦長・・・信用されるのですか?」

考え込むマリューに、ナタルは問いかける。

「―――少なくとも、援護してくれる以上敵ではないと思うわ。それに、今は少しでも手が欲しい所なんだし」

「確かに、その通りですね」

ナタルは頷くと、全機に指示を出した。

その時、地面から巨大なエネルギー反応が現れた。

「この反応・・・まさか、デビルガンダム!?」

レインが声を上げ、それと同時に現れたデビルガンダムはレセップスに高出力のメガビームキャノンを放った。

太い熱線はレセップスの後部主砲を貫き、傍に配置されていたザウートが爆発に飲み込まれ誘爆を起こして、火球に包まれる。

レセップスは黒煙を上げ、その動きを停止させた。




バクゥが放ったレールガンをキラは回避するが、そこにデュエルのビームライフルが飛来する。

「くっ!」

シールドを掲げ咄嗟に防ぐが、その間にバクゥと共にデュエルが肉迫してくる。

「このっ!」

「遅いんだよ!!」

接近したデュエルにビームサーベルを振り下ろそうとしたが、イザークはそれよりも早くバクゥから跳躍し、
ストライクの手を蹴り上げ、ビームサーベルを弾き飛ばした。

「くそ!」

振り向きながらビームライフルに持ち替え、バクゥに着地する前のデュエルを背後から狙うが、
着地点に先回りしたバクゥが放ったレールガンが、胴体に直撃する。

「くそ、バッテリーが・・・!」

バッテリーがイエローゾーンに突入したのに気づき、キラは焦りだした。

「よし、次で決めるぞ!」

イザークはバクゥのパイロットに呼びかけ、ストライク再度仕掛けようとした時、それは起こった。

地面からいきなり触手―――先には小さなガンダムの頭部が着いている―――が出現し、バクゥに絡みついた。

「なんなんだ!? コイツは!?」

直感的に危険を感じたイザークは、バクゥの背から飛び降り、絡みつかれていくバクゥと周囲にも次々と湧いて出る触手を見る。

「なんだっ!? 何が起こっている!?」

状況が解らないバクゥのパイロットは、混乱しながら計器を見ると、バッテリーが凄まじい勢いで減っていった。

「エネルギードレイン!? まさか、デビルガンダムか!?」

『少年』から話を聞いていた男は、今の事態に声を失う―――エネルギーを奪われきった機体、人間の運命を知っているからだ。

更に絡み付こうとする触手にレールガンを放つが、当たらず―――少し離れた所で爆発音が聞こえた気もしたが―――
レールガンにも触手が絡みつき、打つ手がなくなる。

「ガウルン! 助けてくれ!!」

プライベート通信でガウルンに助けを求めるが、何の返事も返ってこない。

「ガウルン! 返事をしろ、ガウルン!!」

半狂乱になって男は叫ぶが、やはり返事はなく―――コックピットにまでデビルガンダム細胞侵食し、遂には彼もそれに飲み込まれた。



地面から現れたDG細胞は、ストライクにも絡み付こうとしていた。

キラは絡み付こうとするDG細胞をビームサーベルで切り払うが、如何せん数が多すぎる。

ビームサーベルを掻い潜り、左脚にDG細胞が絡みついたが、すぐさま頭部バルカンで撃ち切った。

「こいつ・・・エネルギーを!?」

わずか一瞬しか絡みつかせなかったというのに、バッテリーがイエローゾーンの半分にまで達している。

そして大量のDG細胞がストライクにも迫るが、飛来したスカイグラスパーが対艦刀で尽く斬り落とした。

「スカイグラスパー2号機!? 誰が!?」

事情を知らないキラが、驚いているとそのスカイグラスパーから通信が入る。

「キラ! 大丈夫か!?」

「カガリ!?」

カガリが操縦している事にキラは驚いた。

「今、コイツを―――対艦刀を落とす! その状況じゃ、こっちの方がやりやすいだろ!!」

カガリが対艦刀をパージした時、バクゥが自らに絡みついたDG細胞を破壊しようとして放ったレールガンが
スカイグラスパーの右エンジンに被弾した。

「カガリ!!」

「ちっ、ドジった!」

黒煙を上げながらも、カガリはどうにか機体を旋回させ戦場から離脱していく。

離脱していくカガリ機に何本かのDG細胞が向おうとするが、

「行かせるかっ!!」

キラは対艦刀を地面から抜き、カガリ機の後を追おうとしたDG細胞を斬り倒した。




バスターの砲撃を尽く回避しながら、ヘビーアームズはダブルガトリングガンを撃ち返す。

「くっ、さっきから・・・効かねえって言ってるだろうが!!」

しつこく撃ち返してくるヘビーアームズに、怒鳴りながら高インパルス砲を撃ち返す。

「そろそろか・・・」

回避をしながらトロワは呟き、マイクロミサイルとホーミングミサイルを一斉に放った。

大量のミサイルがバスターに着弾し、爆発力に押されたバスターはバクゥから落とされた。

「この位で・・・!!」

ディアッカがバスターを起こそうとした時、警告音が鳴り響いた。

「なっ? バッテリーが!? まさか、これを狙ってたのか!?」

「防御システムがあっても、回避行動を怠らない事だ・・・攻防の両方にバッテリーを使用する機体は尚更な」

トロワがそう言いながら、ダブルガトリングガンをバスターに向けた時、彼等の所にもDG細胞が地面から現れた。

「むっ・・・?」

なにか嫌な予感がし、トロワはターゲットをバスターから迫り来るDG細胞に変え、ダブルガトリングガンを放つ。

「なんだ、こりゃ!?」

ディアッカは機体を起こしながら周囲を見渡す。

「オイ、乗れ!!」

先程まで背に乗せて貰っていたバクゥが、バスターに近づき声をかけてきた。

「―――いいのか?」

「この状況で、味方に知らん顔出来るほど薄情じゃないんでな」




戦場のあちこちで起こっている現象は、ネイやアレンビー、マオにも把握できた。

「なんなんだい!? あれは!?」

地面から出現する触手を見て、ネイは声を上げ、頭の中で作戦を組み立てる。

(ロンド・ベル隊とザフト軍の全滅はこっちの戦力上無理―――私達がいなくても、ザフト軍の殲滅はロンド・ベル隊がやってくれる。
ましてや、妙な化け物の親玉も出てきた事だ・・・これ以上、戦闘をするのは得策ではないか)

ネイはそう判断すると、味方全機に通信を開いた。



「あれは・・・デビルガンダムの? 本体が此処に来てるって事!?」

アレンビーの言葉を聞き、マオはクルツに通信を繋げる。

「クルツ! そっちで―――」

マオが全てを言い終えるよりも早く、クルツが声を上げた。

『姐さん、ソースケの近くにデビルガンダムが出やがった!!』

「間違いなのね!?」

『ああ。前に見た資料とは、形が違うがな―――あちこちで触手、つーかデビルガンダム細胞も出て来てる。
しかも、レセップスを一撃で落としやがったぞ!』

「すぐに援護に向って! こっちもすぐに行く!!」

幾ら宗介とロンド・ベル隊でも、特大の化け物相手だ―――戦力が多くなければ厳しいだろう。

『へっ、もう走ってるよ!!』

マオの指示を待つ事無く走り出していたクルツは、軽い口調で言い返した。




アシュラテンプルが放ったエネルギーボンバーを、キョウスケは回避しようとするが先程までの様に機体が動かず、2発ほど食らってしまう。

「どうした!? さっきよりも動きが鈍っているぞ!!」

「くっ・・・!」

キョウスケは呻きながらもアルトを駆る。

先程のリバースボマーが、思ったよりも機体に損傷を与えており、動力に問題はなくとも脚部の破損はかなり深刻なものだった。

一気に距離を詰めてステークを叩き込みたいが、今の脚部では何時もと同じ加速度は得られず、回避されるのが目に見えている。

「皮肉なものだ・・・クレイモアと同じ攻撃で、アルトがここまで損傷するとはな・・・!」

機動力が落ちたアルトに、アシュラテンプルが接近し、セイバーを抜き放った。

「これで、トドメだ!!」

「向こうから寄って来たか・・・! ありがたい!!」

振り下ろされるセイバーを、キョウスケはステークの杭の部分で受け止めるが、

「かかったな!!」

再びアシュラテンプルの胸部が開き、先程よりも近距離でリバースボマーを放とうとする。

「悪いな、賭けは俺の勝ちだ・・・!」

キョウスケは吼えると、ステークの装備されていない左腕を開いた胸部に叩き込んだ。

「なっ、なんだと!?」

まさか、格闘武器の装備されていない腕を叩き込んでくるとは信じられず、アントンは声を上げるが―――すぐに冷静になり、吐き捨てる。

「ふん! こんなものでHMが、機動兵器が落ちると思っているのか!?」

しかし、キョウスケはアントンの言葉に平静に返す。

「確かに、これでは落ちんな・・・だが、この状態のまま、弾丸を撃ち込めばどうなる?」

アルトアイゼンの左腕は、リバースボマーの発射口に完全にめり込んでいる。

「貴様、始めからこれが狙いで・・・!?」

「賭けるか?・・・これで落ちるかどうか・・・!」

アントンが機体を下がらせるのよりも早く、3連マシンキャノンが火を噴いた。

何発もの弾丸を撃ち込まれながらも、アントンは機体を下がらせられたが、機体のあちこちでスパークが起こり、
これ以上の戦闘は無理―――歩くのがやっとの状態に陥った。

その時地面から触手―――デビルガンダム細胞が出現し、近くに居たバッシュとデスアーミー達に巻きついた。

「なんだ、これは!?」

突然の状況を理解できず、アントンが声を上げた時、ネイから通信が入った。

『退くよ! ザフト軍の旗艦はあの妙な機体が落としたんだ、今の私達がこのまま無理に戦う必要は無い』

「くっ・・・判りました」

ネイの指示に、アントンはアルトに悔しげな顔を向けた後、両脇をバッシュに支えられて戦場から離脱していった。

『何機か、足止めに残れ!! 適当にやり合ったら、帰って来るんだよ!!』




「む・・・撤退か、致し方あるまいな」

マクトミンはネイの通信を聞きながら、エルガイムのセイバーを受け止めた。

「そういう事だ、マイロード君。そろそろ失礼させてもらうよ」

「ふざけるな!! ここで、お前達を倒しておけば、地上でのポセイダル軍の勢いを削ぐ事が出来るんだ!!」

確かに、ここで指揮官たる13人衆を1人でも減らしておけば、ポセイダル軍の地上での軍事作戦は少なからず影響が出るだろう。

「ふむ、だがー――今、君達の部隊に、そんな余裕があるとは思えんがね?」

そう言い返すと、エルガイムに体当たりをし機体を少し離れさせると、Sマインを投げつけ視界を奪った。

「くそ!」

ダバがパワーランチャーを構え、レーダーを頼りに放とうとした時、

「ダバ、左!!」

リリスが何かに気付き声を上げるのと、それに反応してエルガイムが後ろに飛び退くのとはほぼ同時だった。

その瞬間、今までエルガイムがいた所をDG細胞が通り過ぎ、途中から枝分かれした細胞が此方に素早く伸びてきた。

「なんだ!?」

ダバは驚きながらも、パワーランチャーで伸びてきたDG細胞を焼き払う。

「確かに―――追撃をかける余裕は無いか・・・レッシィ、大丈夫か!?」

ダバは戦場のあちこちを見渡しながら、先程までヘッケラーと戦っていたレッシィに呼びかける。

「何とかね―――ヘッケラーの奴、次期13人衆の評判は偽りじゃなかった様だね」

レッシィが半ば感心した様な呟きをした時、高速で接近してくる機体をレーダーに捉えた。




時間は少し戻り、シュバルツによってアークエンジェルが救助される前―――

デスアーミーの棍棒が振り下ろされるよりも早く、グルンガスト改が槍を横に薙ぎ、近くにいた4体もまとめて破壊する。

「くそ、きりがない!」

「弱音を吐くな、ブリット! この程度の敵、いくら数を揃えてきてもどうという事はない!!」

息を吐くブリットに、ドモンが6機のデスアーミーを一瞬で破壊しながら叫ぶ。

「は! こんなもん、壁にすらなりゃしなねえぞ!!」

ガウルンもデスアーミーの放ったビームライフルを回避しながら35mmライフルを連射し、ゴットガンダムまでの進路を作る。

「オラオラ、楽しもうぜぇ! キング・オブ・ハート!!」

凶悪な笑みを浮かべながら、ゴットガンダムに接近するガウルン。

「このっ!」

コダールは接近しナイフを突き出すが、ドモンは身を屈めて避けると、腕を掴みそのままデスアーミーの群れの方へと放り投げた。

高速で向ってくるコダールに向って、デスアーミー達はライフルを連射するが、着弾する直前に何かに遮られたかの様に拡散する。

そのまま何体かのデスアーミーに激突する―――が、デスアーミーは尽く破壊されたというのに、コダールは無傷だった。

「なんなんだ、あの機体は!? 頑丈なフィールドでも持っているのか!?」

ここまでやっても破壊どころか、破損すらしない―――事実、何度も当たる筈だった拳、蹴りが尽く壁に阻まれたかの様に止まった
―――機体を妙に思い、ドモンは声を上げた。

「あのフィールド・・・多分、念動フィールド―――コイツに搭載されている障壁ですけど―――でしか破れないんじゃ・・・?」

ふと、頭に浮かんだ事をブリットが言う。

「何でだ?」

問い返すドモンに、ブリットは最初に戦った時に起こった事、アムロ達との検証の結果を話す。

「ただ・・・問題は、グルンガスト改に念動フィールドを収束して攻撃するって武器がないんですよ」

「―――フィールドを投げる、直接ぶつける事は出来ないのか?」

「いや、エヴァ弐号機じゃないんですから・・・」

(せめて、リュウセイとR-1が居てくれれば・・・)

胸中でブリットは苦々しく呟きながら、ドモンに応える。

「なら、力ずくで破るしかないな―――ブリット、少しの間で良い、奴の動きを抑えてくれ、石破天驚拳で・・・!!」

ドモンが構えを取った時、地面から数多くの触手が出現した。

「こいつは・・・マジできやがったか!!」

ガウルンは事態が面白くなった、という様な表情で笑みを浮かべた。




後編へ続く