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第二十一話 熱砂の死闘(後編)




「なんだ!?」

「これは―――デビルガンダム細胞!?」

声を上げるブリットに、ドモンが応える様に言うと全機に通信を開く。

「ロンド・ベル隊、気をつけろ!! その触手、デビルガンダム細胞に侵食されると、デスアーミーと同じになる!!」

「いいっ!? オレのガンダムもアレと同じになっちまうのか!?」

ドモンに忠告に、デュオが『それだけは勘弁』と言う様な口調で返す。

「機体だけじゃない、パイロットもだ! 侵食され、エネルギーを吸い尽くされると機体はデスアーミー、
パイロットはゾンビ兵になってしまうんだ!!」

ドモンの言葉を証明するかのように、今キラの目の前で、触手―――DG(デビルガンダム)細胞に飲み込まれたバクゥが形を変え、
デスアーミーとして目の前に現れていた。

それは他の機体達も同様だった―――DG細胞に飲み込まれた機体が、続々とデスアーミーとなっていく。

「機体の形を変え、進化させるなんて芸当も前はやったりもしてたんだが・・・今はそんな余裕はなく、ひたすらエネルギーを求めているようだが」

事実、今現れたばかりのデスアーミー達は再びDG細胞に飲み込まれた。

「と言う事は、デビルガンダムが近くに・・・?」

アムロの言葉にドモンは無言で頷くと、迫ってきたDG細胞をビームサーベルで切り裂き、

「さあ、出て来い! キョウジ!! 今度こそ引導を渡してやる!!」

ドモンは吼え、戦場を見渡す―――その所為か、コダールに向けていた意識が少し薄まった。

その僅かな隙―――常人ならまず判らない、針の穴ほどの隙をガウルンは見逃さず、ゴットガンダムに向って行く。

「ドモン!!」

「しまった!?」

ブリットが声を出した瞬間、ドモンは牽制のマシンキャノンを放つが、コダールは命中する直前で機体を半回転させ、射線を避けると
―――ゴットガンダムの間合いに入った。

「なっ!?」

「貰ったぜ、キング・オブ・ハート!!」

ラムダ・ドライバがゴットガンダムに向けられる瞬間、コダールのコックピット内に警報が鳴り響いた。

「なんだぁ?」

ガウルンが声を上げた時、コダールの真上にAS―――M 9“ガーンズバック”が“突如”出現する。

「ECS(電磁迷彩)だと!? 」

ガウルンが反応するよりも早く、M 9は背中に背負ったロケット・ブーッスターをパージし、降下しながら57mm散弾砲を放った。



ガーンズバックの中で、ウルズ7―――相良宗助は無表情のまま57mm散弾砲(ショット・キャノン)を構えたままで着地した。

(やったか・・・?)

以前、この機体と同じタイプのと戦った時は、この距離からでも攻撃を防ぐ装置―――ラムダ・ドライバが搭載されている機体だった。

もし、この機体にも搭載されているのだとしたら、通常の火器―――物理的な攻撃は一切効かず、この機体の装備では撃破は不可能だ。

同じタイプだからといって、この機体にもラムダ・ドライバが搭載されているとは限らないが・・・と宗介は思ったが、目の前の現実は非情だった。

放たれた徹甲弾は、見えない壁に遮られたかのようのに尽く弾かれた。

「ちっ・・・この機体もか!」

宗介は一旦距離を取ろうとするが、それよりも早くコダールが肉迫し単分子カッターを突き出してきた。

紙一重で単分子カッターを回避すると、宗介も単分子カッターを抜き放ち斬り返した。



「キング・オブ・ハートに気を取られて気づくのが遅れたが、そんなものは効かねえんだよ!」

ガウルンは笑いながら、M 9の単分子カッターを受け止め、弾き、斬り返す。

M 9は紙一重で避け、袈裟斬りに切り返すが半身を縦に下がらせるだけでガウルンは回避し、単分子カッターを突き出すが、
宗介は咄嗟に横に跳び、腰のショット・キャノンを手に取り放つが、先程と同じ様にコダールの目の前で弾かれた。

「―――やはり、ラムダ・ドライバではないと撃ち抜けないか」

宗介は忌々しくコダールを睨みながら呟く。

前にこの型と戦った時は、自分もラムダ・ドライバを搭載した白いAS―――ARX-7“アーバレスト”を駆り、ラムダ・ドライバを用いて撃破した。

あの時、その戦いの現場に居合わせた『クラスメイト』の言葉によると、ラムダ・ドライバに対抗できるのは、同じ装置だけだという。

ならば、現状では対処のしようがないのではないか?

宗介が策を考えている間に、コダールが再びM 9に迫る。

咄嗟に対戦車ダガーを投げるが、あっさりと回避され、35mmアサルトライフルを撃ち返される。

宗介は横に跳んで回避するが、読まれていたのか回避先に先回りされ―――例の指鉄砲をつきつけられた。

(しまった―――!!)

宗介が内心で舌打ちし―――間に合わないと解ってはいるが―――回避行動を取ろうとした時、
横からグルンガスト改がコダールに襲い掛かった。

横殴りに振るわれるソニック・トンファーを、ガウルンは単分子カッターで受け止める―――が、
グルンガスト系のパワーをASが、しかも片手で受けきれる訳もなく、受け止めた腕が後ろに弾かれる。

「この・・・馬鹿力が!」

肩に僅かな痛みを感じ、ガウルンは吐き捨てる。

ASは乗り手の動きを忠実に、かつ広大に再現するシステム―――セミ・マスター・スレイブ・システム―――が使われており、
パイロットが少しの動きをしても、ASがそれを広大に再現してくれる。

しかし、今回の様にASの腕が無理矢理後ろに弾かれた場合も、このシステムが作用される事になった。

つまりAS同様、パイロットの腕も―――AS同士の戦いや、MSとの戦いでもこんな事は起こらないが―――無理矢理後ろに弾かれる。

もし、バイラテラル角を最少にしていたのなら肩を脱臼くらいしていたであろう。

「そこのAS! 今、アークエンジェルから話を聞いた、援護する!!」

「すまん、感謝する」

(―――俺と大して年が変わらない・・・?)

M 9のパイロットの声に、ブリットは多少驚いた。

「へっ、あの時のリベンジって奴か? なら・・・少し遊んでやるよ!!」

軽く肩を回し、機体、身体に異常がない事を確認したガウルンは、グルンガスト改に向って35mmライフルを放つ。

宗介とブリットは左右に分かれ回避し、ガウルンはグルンガスト改の後を追う。

「こっちに来たか!」

「この短期間で、少しは腕を上げたんだろうな!?  前のままだったら、あっさり死なすぞ!!」

接近してくるコダールを見据えて、ブリットはインフェリア・ジャベリンを手に取る。

「くっ・・・! 動きが速い!?」

あの妙な障壁がある以上、通常の攻撃は何も通用しない事は解っている。

だが、あの障壁が念動フィールドと同じ類のもの―――乗り手の意識によって造り出される物だとしたら、対応する策はある。

つまり、パイロットが気づかない、又は知覚出来ない一撃を放ち、障壁が発生される前に攻撃を当てる。

尤も、常時発生タイプのものだとすれば打つ手はないが。

それに一番適しているのが、編み出したばかりの“ブリューナク”だ―――あの一撃の速度なら恐らく、障壁が生み出される前に当てられるだろう。

ただ、繰り出すのに上半身全身のバネを溜めなければならないので、こう動きが速い相手だと避けられ、懐に飛び込まれる可能性がある。

どうにか動きを止めないと・・・とブリットが考えた時、M 9がコダールの背中にショット・キャノンを撃ち込んだ。

「っと、邪魔すんなよ! お前の相手は後で・・・」

「今だっ!」

ショット・キャノンを回避し、振り向いて35mmライフルを撃ちかえしながらガウルンは叫んだ瞬間、
グルンガスト改の姿勢を低くし、全速でコダールへと向い―――大きく跳躍する。

「なんだ?」

「貫け! “ブリューナク”!!」

ガウルンがグルンガスト改に気づき、振り返るのよりも早く、上半身のバネを最大に溜めた一撃を叩き降ろした。

最初にこの技を放った時、ブリットは考えた―――ある程度の間合いの外からでも、投槍として応用できないか? と。

出来ればもう少し鍛錬を積むか、ドモン達に意見を求めてから試したかったのだが、このチャンスを逃す訳にはいかない。

(キョウスケ少尉じゃないけど、分の悪い賭けだな・・・!)

内心ヒヤヒヤしながら放った一撃は、先程振るった時と同じ―――否、それ以上の速度でコダールに襲い掛かり―――
何か、硬い物に激突した様な音を発て、空中で静止すると、そのまま力を失い地面に突き立った。

「防がれた!?」

「中々良いセンいってたぜ? 溜めから攻撃に移すまでの間が、少々遅いがな!!」

寸での所でガウルンが気づき、今までの攻撃同様に不可視の力で防がれたのだ。

コダールがインフェリア・ジャベリンを掴み、グルンガスト改に投げ返そうとした瞬間、その背後にゴットガンダムが肉迫していた。

「待っていたぞ、この隙を!!」

「手前!? ちっ、ラムダ・ドライバはまだ・・・!」

ラムダ・ドライバの充電がまだ済んでおらず、ガウルンは咄嗟に飛び退こうとするが、ドモンの方が速い。

「ばぁぁぁぁくねつ! ゴット・スラァァァッシュ!!」

膨大なエネルギーで発生されたビームサーベルが、コダールの左肩から先を斬りおとした。

「ちぃ、避けたか!?」

ドモンは舌打ちをし、そのまま追い討ちをかけようとするが、ガウルンがライフルを乱射し弾幕を張りながら後退して行く。

宗介がショット・キャノンを連射し仕留めようとするが、命中する筈だった弾丸は、コダールの目の前で尽く弾かれた。

「―――今回は、ここまでだな。次会った時は、もうちょっと遊んでやるからよ!!」

ガウルンは笑いながらそう言い残し、戦場を離脱して行った。

丁度その時だ、地面から巨大な機体が姿を現し、高出力のメガビームキャノンをレセップスに放ったのは。




周囲の状況にバルトフェルドも、カトルも気づいていたが両者とも援護に向える余裕はなかった。

背中を向けるか、他に意識を取られれば、そこから一気に攻め落とされる―――と、判断したからだ。

ラゴゥの放ったビーム砲を回避しながら接近し、ヒートショーテルを振るうが上に跳び回避すると、前脚を頭部に蹴りつけられ、吹っ飛ばされる。

カトルは吹っ飛ばされながらも、空中で体勢を立て直し、バルカンを放ち追撃を阻止する。

(―――強い! ラゴゥとサンドロックとの相性もあるが、総合的の実力は、ボクよりも上かも知れない・・・)

カトルはそう思いながら、荒い息を整え敵機を見やる。

パワーがバクゥとは段違いで、それをパイロットが十分に乗りこなしており、時折思いもかけない動きで、カトルを追い詰める。

(キラ君の方も気になる・・・早く終らせないと・・・!)

カトルがそう思案した時、高出力のメガビームキャノンがレセップスを貫いた。



その光景は、ラゴゥの方でも確認できた。

アイシャが黒煙をあげるレセップスに気づく。

「・・・拙いわよ、アンディ」

バルトフェルドも舌打ちをする。

「レセップスを一撃でか!? 化け物め・・・! どうせなら、足つきも撃ってくれても良い様なものを!!」

落ちるのは時間の問題とも思われたアークエンジェルが空に浮かび、自分達の艦はあの妙な機体の一撃で黒煙を吹き上げている。

手持ちのバクゥは、今バスターを背に乗せているのが最後だ。

ポセイダル軍も撤退し、足止めに残った連中は自分達のAS部隊と共にあの妙な触手に飲み込まれた。

ガウルンは―――この状況ではアテにしない方がいいだろう。

更に、戦場を見渡すと見慣れないASが見える―――恐らく、ロンド・ベル隊の協力者だろう。

何時の間にか、完全に逆転した形勢に、バルトフェルドは歯噛みしラゴゥを駆る。

サンドロックを捉えようとするが、横手からビームが飛来したので回避行動を取る。

「ストライク―――!? 少年か!!」

デュエルとの戦いを終え、サンドロックの援護に来たストライクを見て、バルトフェルドは舌打ちをする。

ストライクがビームライフルをこちらに向けるが、撃たれるよりも早くアイシャの1射が捉え、ビームライフルが爆発した。

寸での所で、ストライクはビームライフルを手放し、シールドを掲げて防ぐ。

その隙を狙って、ラゴゥが走りこむ。

「キラ君!!」

カトルがラゴゥを追うが、純粋な機動力ではサンドロックよりラゴゥの方が分があった。

サンドロックを引き離し、ビームサーベルを発生させて接近するラゴゥに、キラは隣りに突き立てておいた対艦刀を抜き―――投げつけた。

「! 対艦刀を!?」

バルトフェルドもこんな攻撃を予想しておらず、慌てて飛来する対艦刀を回避する。

しかし、回避した先に読んだかの様なタイミングでアーマーシュナイダーが飛んで来た。

「なっ!? 時間差で投げたのか!?」

急激にラゴゥの速度を落とすが、回避には間に合わずアーマーシュナイダーがビーム砲に突き刺さる。

咄嗟にビーム砲をパージし、爆発から機体を守る。

「熱くならないで! 負けるわ!」

アイシャが叱るように言い、バルトフェルドは呻く。

「判っている!! くっ、追いつかれたか!!」

速度を落としたので、後を追っていたサンドロックが背後から追いついてきた。

ラゴゥはターンし、サンドロックに向って行き―――飛び掛った。

間合いに入るとサンドロックがヒートショーテルを振るい、それと同時にラゴゥがビームサーベルを発生させる。

両者が着地すると、サンドロックの左腕が半ばから―――まだ、辛うじて二の腕に繋がってはいるが―――切り裂かれ、
ラゴゥは左足が関節部から斬りおとされていた。

(―――ここいらが、潮時か)

バルトフェルドは通信回線を開く。

「・・・ダコスタ君」

『―――隊長!』

「退艦命令を出したまえ」

その言葉に、ダコスタは息を飲んだ。

「勝敗は決した。残存兵を纏めてバナディーアに引き上げ、ジブラルタルと連絡を取れ。生き残っている、彼等にも連絡を頼むぞ」

『隊ちょ・・・』

指示を一方的に告げた後、ダコスタが喚くのも構わず通信をきった。

可哀想だが、彼等は彼等でやってもらうしかない―――こうなってはザフトの指揮官としてでは戦えない事なのだ。

今、自分はザフト軍の軍人としてではなく、1人の戦士としてこの戦いに望んでいるのだ。

(出来れば、1対1でやり合いたかったが・・・まぁ、これは戦争で決闘という訳ではないからな)

胸中で一言呟いてから、前席のアイシャにも言う。

「君も脱出しろ、アイシャ」

アイシャはちらりと、彼を見やり、クスリと笑った。

「そんな事するぐらいなら、死んだ方がマシね」

思わず、バルトフェルドは微笑んだ―――死んだ方がマシ―――この言葉の意味が、やっと解った様な気がした。

「君もバカだな?」

「なんとでも」

「では・・・付き合ってくれ!!」




バクゥから飛び降りたイザークは、群がってくるDG細胞を切り払いながら、四苦八苦しつつ進んでいた。

しかし、それも既に限界に近い。

砂地に足を捕られ、思う様に機体を動かせず、バーニアを吹かしながら飛んで移動していたのだが、バッテリーがイエローを切ろうとしている。

それでも諦めずに前に―――否、レセップスに戻ろうとしていたのだが、四方をDG細胞に囲まれてしまった。

「くっ・・・これまでか・・・!?」

残った弾薬、エネルギーを使っても切り抜けられる状況ではない・・・それ以前に、この足場では回避した傍から
すぐに捕まってしまうだろうとイザークは判断し、顔を顰める。

その時だ、高出力のビームがDG細胞を貫き焼き払った。

「イザーク、掴まれ!!」

「ディアッカ!? すまん!!」

バクゥの背に乗りながら、バスターはデュエルを掴みバクゥの上に引き上げる。

「2機は流石に重い・・・!!」

バクゥの速度の落ちた事に気付き、パイロットが小さく文句を言う。

「我慢してくれ! あの妙な触手は、全部引き受けるからさ!! これが、最後の一発!!」

ディアッカはそう言い返し、目の前を塞いだDG細胞に―――残り少ないバッテリーを使った―――高インパルス砲を撃ちこみ、道を開いた。

「ディアッカ、何処に行くんだ!?」

イザークの問いかけに、ディアッカは眉を顰める。

「イザーク、聞いてなかったのか?」

「うるさい事を言われたくなかったかからな、通信を切っていた」

「お前な―――撤退だとさ、ジブラルタルに戻る事になるんだとよ」




レセップスを一撃で行動不能にしたデビルガンダムを、ロンド・ベル隊の誰もが驚愕の目で見ていた。

―――しかも、ドモン達の話によると、これでも死にかけだというのだから信じられない。

「キョウジ! 今日こそは逃がしはしないぞ!!」

ドモンが吼えるのと同時に、レインから通信が入る。

『みんな、火力を集中させてください! 生半可な攻撃だと、すぐに再生してしまいます!!』

「! 各機散開しろ!」

レインの言葉と同時に、デビルガンダムが拡散粒子弾を放って来るが、アムロがいち早く察知し、全機に指示を出した。

「出力はα・アジールと同レベルか・・・!!」

全機がアムロの指示に反射的に反応したので被害はなかったが、拡散粒子弾がかすめ、表面が融解した
ステイメンのシールドを見て、コウが呻いた。

「いや、これでも出力は前より落ちている方だ―――ここで致命傷を負わせれば、奴はもう再生する事も出来なくなる!!
ロンド・ベル隊、力を貸してもらうぞ!!」

ドモンは吼え、石破天驚拳の構えをとった時、シュバルツの声が響いた。

「油断するな、ドモン!! あの男が来た!!」

「シュバルツ・・・!? 何時、此処に―――あの男だと!?」

反射的にドモンがシュバルツに聞き返した時、少し離れた場所にいたエルガイムだけでなく、全機のレーダーに高速で接近する機影が映った。

「なんだ、このスピードは!? サイズからして戦闘機じゃない―――まさか、開戦前のMAか!?」

アムロが叫んだすぐ後に、全員の視界にその機体は映った。

「何の冗談だ、ありゃ・・・? ガンダムが馬に乗っているなんてよ」

フラガがその機体を見て呆然と呟く。

全員が呆気に取られているが、ドモンとキョウスケは表情を崩す事無く―――否、警戒心を高めて迫ってくる機体を見る。

「あれは、風雲再起・・・前回のガンダムファイト優勝時に、東方不敗、マスターアジアに送られたものだな?
となると、あれに乗っているMFを操縦しているのは・・・」

キョウスケの確認に、ドモンは頷き、返す

「ああ。あれが東方不敗、マスターアジアの乗機―――マスターガンダムだ」




「ほう、デビルガンダムが途中で行き先を変えた時は妙だと思ったが・・・ロンド・ベル隊が持つ、特機のエネルギーに引かれたという訳か!!」

ロンド・ベル隊の機体を見て、納得がいった東方不敗は機体を―――もとい、風雲再起を更に加速させる。

「ドモン! そして、ロンド・ベル隊よ!! お前達にデビルガンダムを、ワシの夢を潰させはせんぞ!!」

東方不敗の言葉を聞き、アムロが念の為にドモンに問いかける。

「ドモン、あの男はデビルガンダムの・・・?」

「ああ、そうだ!! 東方不敗! お前の野望もデビルガンダムも、今日この地で潰してみせる!!」

ドモンの返答に、全員がマスターガンダムに対し戦闘態勢をとるが、全機の態勢が整うのよりマスターガンダムの方がやや早かった。

「遅いわぁっ!!」

風雲再起から飛び降りたマスターガンダムは、近い距離にいたゲシュペンストの胸部に跳び蹴りを叩き込み―――吹っ飛ばした。

「貰い所がヤバイ!? カチーナ中尉!!」

場所がコックピットのすぐ近くだ―――コックピットが圧壊されて・・・最悪の状況が頭に過ぎり、ラッセルは声を上げた。

「―――っ! 危ねえ・・・コイツの装甲が、他の量産型よりも厚くて助かったぜ・・・」

息を吐くカチーナの声を聞き、ラッセルは胸をなで下ろす。

「いけッ! T-LINKリッパー!!」

「ターゲット、セット・・・!」

T-LINKリッパー、M 950マシンガンが着地したマスターガンダムに迫るが、

「甘いわぁ!!」

マシンガンをあっさりと回避し、T-LINKリッパーに至っては、回転するブレードを指で挟んで掴み取った。

「いっ!?」

「そんな!? 幾ら何でも、非常識よ!!」

狼狽するタスクとラーダとは関係なく、T-LINKリッパーをマスターガンダムは投げ返して来た―――しかも、タスクが放った時よりも回転を上げて。

「げげっ!!」

自分が放った以上の回転数、速度で迫るT-LINKリッパーに驚き反応が遅れる。

タスクが当たる―――と、思った時、横から膨大な銃弾が飛来し、T-LINKリッパーを撃ち落した―――トロワだ。

「このままターゲットに攻撃を開始する・・・」

そのままトロワはマスターガンダムに標的を変更し、全砲門を開き一斉放射を仕掛ける―――が、雨の様に迫るミサイル、弾丸を
マスターガンダムは尽く回避し、ヘビーアームズに接近する。

「こんなもので、東方不敗、マスターアジアを倒せると思っていたのか!!」

自分の間合いにヘビーアームズを捉え、東方不敗は拳を腰溜めに構え―――

「・・・今だ、デュオ」

トロワが声に出し、デスサイズヘルがマスターガンダムの背後に回りこんだのと、それに東方不敗が気づいたのは同時だった。

「いっくぜぇぇぇぇぇっ!!」

「ふん!!」

振るわれるビームシザースに、振り向き際に拳を当て、デスサイズヘルの一撃を受け止める。

「はあっ!!」

東方不敗はそのまま気を吐き、脚を前に踏み込ませてデスサイズヘルを吹き飛ばす。

「ちょ、そんなんありか!?」

吹っ飛ばされながら、デュオは叫び機体を立て直そうとするが、それよりも早くマスターガンダムが追撃を仕掛ける。

「終わりだ! ダァァァァクネス・・・・」

「させんぞ! 東方不敗!!」

「東方不敗マスターアジア、覚悟ぉぉぉっ!!」

真っ直ぐデスサイズヘルに突っ込んでいくマスターガンダムに、横からガンダム・シュピーゲルとゴットガンダムが飛び掛った。

「ほう! お主等か!? ギアナ高地の時の様に行くと思うな!!」

空中でシュピーゲルとゴットガンダムの攻撃を受け止め、着地すると攻撃対象を2人へと変える。

お互いの攻撃を紙一重で避け、捌き、返すという攻防が高速で繰り広げられ―――マスターガンダムの一撃を受けたシュピーゲルが
大きく弾き飛ばされ、ゴットガンダムがその隙を狙って掌蹄を叩き込み両者の間が離れる。

「今だ、いけっ! フィン・ファンネル!!」

ゴットガンダム達が距離を開けるのを待っていたアムロは、残っていたフィンファンネルを全て放出する。

マスターガンダムは回避行動をするが、その先にその先に次々と別にファンネルが先回りし、ビームを放つ。

「ぬぅ・・・こやつ、ニュータイプとかいう者か!! ならば・・・!」

東方不敗は厄介そうに呻き、手を前に構え回し始める。

「その砲台ごと吹き飛ばしてくれようぞ! 流派東方不敗! 十二王方牌! 大しゃりぃぃぃん!!」

放たれた小さな炎は、途中で小さなマスターガンダムの形になり、フィンファンネルに、νガンダムにと襲い掛かってくる。

「ちぃ、妙なものを!!」

フィンファンネルは全て撃ち落されたが、アムロは寸での所で回避する。

「今だ、食らいやがれっ!!」

十二王方牌大車輪を放つ為、マスターガンダムの動きが止まった事にフラガは気づき、遠距離からアグニを放った。

「甘いわぁっ!! ダァァァァァァクネス・フィンガーーーーッ!!」

しかし、ダークネス・フィンガーで正面からアグニを受け―――無傷で防ぎきった。

ここまでロンド・ベル隊の総攻撃を受けたというのに、未だ損傷らしい損傷がないマスターガンダムを見て、甲児が声を上げる。

「なんて爺さんだ!! あれだけの攻撃を・・・!!」

「ここまでの戦闘で、全員が疲労、損傷している機体がある事を差し引いても、とんでもない敵である事は確かだ・・・」

アムロも各機の状態を見ながら言う。

「いや、あんた達が悩む必要は無い―――東方不敗の相手は、俺とシュバルツがする。
あんた達と、そこのASはデビルガンダムを頼む―――奴を逃がす訳には行かないからな」

ドモンがアムロ達、そして宗介に言い放つ。

「分かった、無茶はするなよ?」

「大丈夫だ、無茶には慣れている」

アムロの言葉に、ドモンはとんでもない事を言い残し、シュバルツと共に再びマスターガンダムへと向って行く。

「損傷の激しい機体は後退するんだ! 残りはマジンガーZを中心にして攻撃を仕掛けるぞ!!」



「―――だ、そうだが・・・どうするマオ?」

アムロの通信を聞いた宗介はマオ達に問いかける―――別に、ロンド・ベル隊の指揮下に入れとは言われていないので、
自分達の命令、指揮権はウルズ2のマオが持っているからだ。

「そりゃ、デビルガンダムの方でしょ―――幾らM 9でもあっちの戦いは厳しいからね」

「同感―――何か、銃弾を素手で受け止める勢いの機体だしな」

マオの言葉にクルツも同意すると、3機は一斉に散開した。




2機のガンダムの拳を、刃を、蹴りをマスターガンダムは受け、避け、受け流す。

「ほお! 多少、腕を上げたようだな、ドモンよ!!」

「うるさぁいっ! 何時までも師匠面するな!! 俺はあんたと師匠の縁を切った筈だ!!」

ゴットガンダムの拳を片手で受け、胴を狙って放たれたシュピーゲルの蹴りを足で受け止める。

「かあああっ!!」

「くっ!」

「ぬおっ!!」

気を吐き、ゴットガンダムとシュピーゲルを吹き飛ばす東方不敗。

そのまま着地したゴットガンダムにマスターガンダムは追撃をかける。

「くらえぃ! ダァァァァクネス・・・」

「来るか!? ならば! ばぁぁぁくねつ! ゴット・・・・」

『フィンガァァァァァァァッ!!』

2機のガンダムの掌がぶつかり合い、膨大なエネルギーのぶつかり合いでスパークが起こる。

「くぅ・・・!!」

「どうした!? それでも貴様はキング・オブ・ハートかぁぁぁっ!?」

呻くドモンに、東方不敗は喝を入れる様な言葉を吐く。

「うるさぁい!! あんたに言われるまでも無い!!」

ドモンが吼えた瞬間、ゴットフィンガーの威力が更に跳ね上がった。

「な、なに!?」

自分が予想した以上の威力の増加に、東方不敗は驚き呻く。

「貫けぇぇぇぇっ!!」

「なめるな、バカ弟子がぁぁぁぁっ!!」

2人が吼え、両者の掌のエネルギーが跳ね上がり―――2機が同時にその場から弾き飛ばされる。

「お互いが放つエネルギーに、2人とも弾かれたのか!?」

シュバルツがその光景を見て呟く。

2機のガンダムは空中で回転して着地すると、同時に同じ構えを取った。

「2人とも石破天驚拳を放つ気か!? 確かに戦力が拮抗しているのなら、最大の技を出すのが定石ではあるが―――
ドモン、お前は気づかないのか? 先程まで常に戦闘をしていた自分の方が、この勝負、不利だという事に・・・!」

先程戦闘に参加したマスターガンダムと違い、ゴットガンダムはそれまでに敵と戦い続け、大技も何発か使っている。

ドモン本人は気づいていないだろうが、確実に疲労が身体、機体に蓄積されている筈なのだ。

この事を念の為、ドモンに伝えようとシュバルツはしたが―――止めた。

両者共に既に気を溜め始めており、お互いの隙を窺っている。

もし自分の通信に、ドモンが気を乱しでもすれば、東方不敗がその隙を逃す筈はない。

ならば、今はドモンを信じよう―――明鏡止水の心を習得したのだ。

かつての様に、怒りに任せて戦っている訳ではない。何か考えがある筈なのだから・・・

(それに・・・いざとなれば、我が身に代えても、お前を守って見せるぞドモンよ・・・!)

シュバルツがある覚悟を決めた時、地響きが周囲に響いた。




デビルガンダムの拡散粒子弾を回避しつつ、νガンダムがビームライフルを連射する。

ビームライフルが本体に着弾し損傷を与えるが、そのすぐ傍から修復が始まる。

「再生速度が速い・・・!?」

あまりの速さに、アムロは目を見開き驚く。

3機のM 9が回避行動を取りつつ、ショット・キャノンを、大型ライフル、カービンライフルを連射するが、着弾した瞬間に修復が始まっていく。

「撃っても撃ってもキリがねえ!! 姐さん、このままじゃ、弾が持たないぞ!!」

「判っているわよ!! こんな事なら、もっと火力があるのを持って来るべきだったわね・・・!!」

クルツの愚痴に、マオが苦い顔をしながら返す。

「仕方がないだろう。―――当初の俺達の相手は、ザフト軍とポセイダル軍だったんだからな。火力の高い銃器の必要が無い筈だった。
ここまで予想しろという方が無理だ」

「ったく! くそ真面目な奴だな、お前は!! 愚痴の1つくらい洩らせ!!」

「洩らしても、状況が変わるとは思えんが・・・?」

「気分の問題だ、気分の!!」

「あんた等、喋ってばっかいるんじゃないの!!」

宗介とクルツの漫才の様なやり取りを、怒鳴って止めさせるマオ。

「これでもくらえ! ブレストファイヤー!!」

マジンガーZの一撃が、デビルガンダムの腕を破壊する―――が、こちらもすぐに修復が始まる。

「何て修復の速さだ! バルマー戦役に戦った『使徒』並、下手すりゃそれ以上だぞ!?」

甲児もその光景を目の当たりにし驚いたのか、拡散粒子弾を回避しそこなう。

「くっ! いくらマジンガーでも、こんなの何発も受けたら、持たねえぞ!」

地面に墜落する前に、マジンガーZを立て直し、続けて放たれたメガビームキャノンを回避する。

「こりゃ、再生が追いつかないペースで攻撃を仕掛け続けるしかないな・・・」

「といっても、火力が足りないぜ? マジンガーZだけじゃ、少々心許ないんじゃないか? あの再生速度からすると」

フラガの言葉に、デュオが応える。

「後、2、3機のスーパーロボットか、ウイングゼロのバスターライフル並みの武器があれば、何とかなりそうだが・・・」

「ウイングゼロ並・・・・? そうだ! アークエンジェルの主砲なら!!」

トロワの言葉に、ブリットが思いついた様に声を上げるが、

『駄目よ! ローエングリンは、地表への汚染被害が大きすぎるわ!!』

すぐさま、マリューから制止の通信が入る。

「? 地表に向けて撃つ訳じゃ―――」

首を傾げるタスクに、近くにいたラトゥーニが説明する。

「詳しい理論を説明している暇はないから端折るけど・・・大気中で陽電子砲を撃つと、空気そのものを放射能に変えてしまうの」

「いいっ!? そんな、ヤバイもんだったのか、アレ!?」

「ラミアス艦長、ならゴットフリートの方はどうだ?」

アムロの問いかけに、マリューは首を振り、

『回路の損傷で、出力が落ちています―――恐らく、再生能力を上回る威力には・・・』

「くそ! せめて、何処かに弱点でもあるんなら、打つ手はあるんだが・・・!」

フラガの言葉に、レインがハッと思い出し、

『そうだわ! 生態ユニットを狙えば―――あ、でも・・・』

「何か問題があるのか?」

言いよどむレインに、アムロが問いかける。

『生態ユニットを、パイロットを殺す事なんです・・・つまりデビルガンダムを操っている、ドモンのお兄さん
―――キョウジさんを・・・』

言うのが―――今の現実を認識するのが辛くなり、レインは言葉を詰まらせる。

『しかし、それ以外方法はないんだろう!? それに、仮にあの機体からキョウジ・カッシュを引き剥がしたとして、
それでデビルガンダムは止まるのか!?』

『それは・・・!!』

ナタルの言葉に、レインは返答を詰まらせ、首を振った。

『・・・アムロ少佐、あの機体から何か感じますか?』

「―――いや、レインさんには悪いが・・・人の意思という物が、何も感じられない」

「ええ・・・T-LINKシステムにも反応がありません」

「人の意思で動かしている感じじゃないでしょ、ありゃ」

アムロ、ブリット、フラガの言葉にマリューは少し苦い顔をするが、すぐに表情を引き締め、

『ゴットフリート、照準―――!! 目標は、デビルガンダム胸部・・・!!』

そう、現状ではこれしか手がない―――自分達は此処で終る訳には行かず、デビルガンダムは倒さなければならない脅威なのだから。

「全員、狙いを一点に集中させろ! アークエンジェルの砲撃に合わせて仕掛けるぞ!!」

アムロの指示に、全機の狙いが一転に集中する―――そして、

『てぇーっ!!』

アークエンジェルの砲火と共に、全機の火力が一点に集中し放たれた。

着弾する毎に修復が始まるが、それを上回る勢いで装甲を次々と破壊していく。

爆炎が、砂塵が舞い、敵機の状態が確認出来なくなったので、一旦攻撃の手が止み―――煙が晴れる。

デビルガンダムは胸部だけでなく、あちこちに損傷を負い―――その部分の修復が始まらなかった。

「修復しない―――!?」

カミーユがハイメガランチャーを構えたまま、デビルガンダムを注視する。

『・・・恐らく、修復するだけのエネルギーがないんだと思います』

「じゃあ、倒した―――って事か?」

レインの通信を聞き、フラガが問い返した時―――デビルガンダムの目に光が灯った。

「こいつ・・・まだ!?」

誰もが仕掛けてくるか!? と思い、身構える―――全機が身構え、動きを止めた一瞬の内に、デビルガンダムがその場から離れ始めた。

「逃げる!?」

後を追おうと機体を向わせようとした時、目の前を巨大なエネルギー球が通り過ぎた。

思わずコウが―――コウだけでなく、全機が足を止める間に、デビルガンダムは戦場から遠ざかっていた。




「ぬっ!? デビルガンダムが!!」

東方不敗からも、デビルガンダムが戦場を離脱していく所を確認できた。

「今、デビルガンダムを失う訳にはいかん!!」

東方不敗の注意が逸れた事にドモンは気づくと、

「これで・・・終わりだ!! 石破! 天驚けぇぇぇぇぇんっ!!

石波天驚拳を放つ―――しかし、東方不敗は狙いをゴットガンダムではなく、追撃を仕掛けようとしているロンド・ベル隊の方に向け放つ。

「東方不敗が最終奥義! 石破、天驚けぇぇぇぇん!!」

「何処を狙っている、東方不敗!!」

ドモンは東方不敗が何処を狙っているのかが解らなかったが、それはすぐに理解できた。

追撃を仕掛けようとしたロンド・ベル隊の前に、今放たれたエネルギー球が立ち塞がり、全機が足を止めたのだ。

「なに!? 石破天驚拳を足止めにだと!?―――だが! 俺が放った石破天驚拳はどうする!!」

「その位、考えがあるわ!! 風雲再起!!」

石破天驚拳が当たる直前、マスターガンダムに風雲再起が駆けより、

「風雲再起よ! 駆けよ!!」

―――そのまま手綱に摑まり、風雲再起と共に石破天驚拳を避けた。

「くっ、風雲再起の居所を計算に入れていたのか!!」

風雲再起に跨るマスターガンダムを、ドモンは忌々しげに睨み、飛び上がり追撃を仕掛けようとした時、

「―――ドモンよ、石破天驚拳を伝授した時の事、覚えておるな?」

ゴットガンダムを見下ろしながら、紡がれた東方不敗の言葉にドモンは足を止める。

「? あ、ああ。覚えている」

東方不敗の口調が、その時のものに戻っており、ドモンは毒気を抜かれた様に応える。

「ロンド・ベル隊と共に行くのなら、あの言葉を、あの光景を―――しかと胸に留めておくのだ」

「ど、どういう事ですか!?」

ドモンの問いかけに応えようとせず、風雲再起の踵を返す。

「さらばだ! 次に会う時こそ、決着をつけようぞ!!」

風雲再起が嘶き、ここに来た時と同じ速度で去っていく。

「一体、あんたの真意はなんなんだ・・・東方不敗、マスターアジア・・・」




ストライク、サンドロックの2機を相手にしているというのに、ラゴゥは未だに撃墜されていなかった。

しかし、それももう限界だろう―――背中に火花が散り、翼も片方が斬りおとされいる。

だが、ストライクとサンドロックの方もダメージは決して小さくはない。

サンドロックの左腕だけではなく、右足も半ばから切り裂かれ、ヒートショーテルも刃先が欠けている。

ストライクはエールストライカーの翼端が切り落とされ、バッテリーが今にも切れそうだ。

もう自分達の勝ちは―――バルトフェルド達の敗北は―――動かないと確信したキラは、バルトフェルドに通信を繋げた。

「バルトフェルドさん!」

『まだだぞ、少年!! カトル君!!』

キラとカトルが言おうとした言葉を察したバルトフェルドは、そう返すとラゴゥを加速させた。

「バルトフェルドさん、もう止めてください! この戦いの勝敗は着きました!!」

『いや、まだだ! まだ、僕たちの戦いの勝敗は着いていない!!』

カトルに叫び返すと、ビームサーベルを発生させサンドロックに飛び掛った。

サンドロックはヒートショーテルでビームサーベルを真正面から受け止める。

「僕たちの!?」

『そうだ! 今の僕はザフト軍の指揮官としてではなく、1人の戦士として君たちと戦っているのさ!』

「そんなの、バルトフェルドさんの理屈です! こんなになってまで、戦い続ける必要は・・・!」

『言った筈だぞ! 戦争の終わりに、明確なルールなど無いと!! 君たちが望まなくとも、こちらが戦いを望んでいる!!』

キラに叫び返した時、サンドロックの半ばまで切り裂かれていた脚が限界を迎え―――折れた。

「しまった―――!?」

崩れ落ちるサンドロックをにトドメを刺そうとせず、ラゴゥはそのままストライクへと向って行く。

「何でそこまで、戦いを望むんですか!?」

ビームサーベルを構え、キラも叫びながらラゴゥへと向って行く。

『戦うしかなかろう―――! 敵である以上、どちらかが滅びるまでな!!』

「そんな事―――!」

キラは反射的に言い返しながらビームサーベルを振るうが、ラゴゥはそれを回避し、エールストライカーの残っていた翼を斬りおとした。

「浅かったか!?」

バルトフェルドは舌打ちし、着地するとターンして再び仕掛ける。

『ならば、キミはどうやって終らせる? 敵である相手を滅ぼさずに、どうやって!?』

「それは―――!?」

キラが言いよどんだ時、コックピットに警告音が鳴り響き、PS装甲が落ち、ビームサーベルの刃も消える。

(バッテリーが!? なら・・・!)

キラは迷う事無く、エール装備を強制排除し、シールドも投げ捨てた。

身軽になった所で、残ったアーマーシュナイダーを両手で掴んだ時、ラゴゥは目の前に迫っていた。

ストライクにラゴゥが突っ込み、キラは激しい衝撃に襲われながらも、ラゴゥの背にアーマーシュナイダーを突き立てた。




前席のアイシャがもぎ取る様にシートベルトを外し、立ち上がるのをバルトフェルドは魅せられた様に見つめた。

勢い良く振り返ったアイシャは泣いているだろうとバルトフェルドは思ったが―――彼女は綺麗に笑っていた。

「アンディ!」

両腕を広げる彼女を、バルトフェルドも立ち上がり抱きしめる。

自分に勿体無いほどの良い女だ―――こんな女と死ねる―――まったく、人生は楽しい。

(心残りは、少年の『答え』を聞けなかった事か・・・いや、もう1つ)

前から彼女に聞きたい事があった―――自分の何処が気に入ったのか?

だが、それを問う前に衝撃が、2人の意識を白く奪っていった。




崩れ落ち、爆発するラゴゥからキラは目を離せずにいた。

涙が頬を伝い、赤い炎を揺らめかせる。

「―――僕は・・・答えられなかった・・・!!」

何も答えを出せずに戦いたくはないと思っていたのに、結局何も答えを出せなかった自分が憎かった。

―――戦争にはルール等ない。本当にどちらかが滅びるまで戦うしかないのか?

違う―――とキラは言いたい、思いたいが、ならどうする? と問い返されても答える術を持ってはいない。

(―――答えを、見つけよう・・・必ず)

涙を流しながら、キラはそう思った―――でなければ、自分にこの事を気付かせてくれた敵将に対して、申し訳がない。




最後の敵機、ラゴゥの撃墜を確認した宗介達は警戒を解いた。

「ほい、お仕事お終いっと。予想に反して、結構きつかったぜ」

クルツが肩のコリを解す様な動きをし、M 9がそれを忠実に再現する。

「デビルガンダムの方はどうしようも無いって気がするけどね。こちら、M 2任務完了。『百舌』、『隼』そっちは?」

マオはクルツに返してから、別の作戦を実行していた部隊に通信を繋ぐ。

『こちら『隼』。 作戦は終りましたけど・・・目標が見当たりません』

「本当?」

『今、アラ・・・『百舌』が密林に逃げた逃亡者の追跡を・・・』

『隼』と呼ばれた若い女性―――少女とも呼べる年齢―――の言葉を遮り、通信が入る。

『駄目だ、ゼオラ。こっちにもいない』

その瞬間、『隼』―――乗機であるPTに因んだコールサインを与えられているゼオラが怒鳴る。

『アラド! あなたね、任務中はコールサインで呼べって何時も言ってるでしょうが!!』

『ん、んな堅い事言うなよ。マオ姐さんとかクルツさん達も、任務中でも普通に名前で呼んでんだし』

『そう言ってこの間、通信の暗号化とかしないでオープンチャンネルで私の名前呼んだでしょうが!!
―――って、今もオープンチャンネルじゃないの!!』

アラドの通信周波数を見て、ゼオラが更に怒る。

『い、いいじゃねえかよ。もう此処の制圧も終ってんだし。あんま怒ると、小皺の出る歳が早まるぜ?』

『誰の所為だと思ってるのよ!!』

「2人とも、痴話喧嘩は戻ってからにしてくれない?」

マオが仲裁に入るが、アラドが何時もの余計な一言を言い放った。

『マオの姐さん、オレとしてはもうちっとおしとやかなのがタイプなんです。そりゃ、胸は合格ですけど・・・』

「あ、そりゃ同感」

『アラド! ウェーバー軍曹!! 2人とも、毎度の事ながら胸の事ばっかり言わないでください!! 完全にセクハラです!!』

『お前な、セクハラって言葉使えるんなら動物の下着は止めろよ―――今度はクマじゃなくて、アライグマになってたけどよ』

アラドの言葉に、ゼオラは顔を真っ赤に染める。

『な、何であなたがそんな事知ってるのよ!! あ、そういえば最近数が合わないけど・・・アラド、あなた盗んだわね!!』

『ば、違う! オレじゃねえ!! クルツさんが・・・!』「わぁ、バカ!!」

今の2人のやり取りに、ゼオラとマオの表情が冷たく―――鬼の様な形相になる。

「クルツ・・・」『ウェーバー軍曹・・・』

「いや、盗んじゃいねえって! しっかりと止めてなかったから、風で飛んだのを何枚か拾っただけだ!!
誰のか解らなかったから、アラドに聞いたらお前さんが干してるのを見たって・・・!!」

『そうそう! オレがうっかりペイント弾まみれの手で触っちまったから、落ちなくてペギーおばさんに渡して、洗濯を頼んであるんだって!』

「ふ~ん、そう。ゼオラ、戻ったらゴールドベリ大尉に聞いてみて、たぶん嘘じゃないと思うけど」

『解りました』

医療責任者でもあるゴールドベリ大尉の名前も出て来たので、2人が嘘を言っている訳ではないと判断した2人はあっさりと頷いた。

「―――で、話を戻すけど・・・目標はいなかった? 1人も?」

『はい。 基地の中にいた連中も全員拘束したんですけど・・・』

「またガセネタかよ、情報部め―――で、『お前等の探し人』は?」

クルツの問いかけに、ゼオラは首を振る。

『いえ・・・何処に居るのかしら、ラト、オウカ姉さん。ここで『スクール』の関係者がいるって情報だったのに・・・』

『大丈夫だって、オレが生き残っているんだぜ? ラトもオウカ姉さんも無事だって』

アラドの言葉に、ゼオラは深い―――深いため息をつき、

『1人だったら、何回か死んでるあなたに慰められても不安だわ・・・』

『さり気なく、酷い事言ってくれるな・・・』

悪気が全く無いので余計に性質が悪く、アラドはシクシクと涙を流す。

「情報部がガセを掴まされるなんて事はよくある事だ。いないのなら、仕方が無いさっさとその連中を、
近くの連邦軍に引き渡して、俺達も合流地点に―――」

言いかけた宗介は、いきなり苦渋に顔を曇らせた。

呻き声ともため息ともつかない声を洩らし、左右に首を振る。

「どうした?」

操縦者である宗介の首の動きをM 9の頭部が再現し、彼の様子に気づいたクルツが訊ねた。

「・・・・・・・忘れてた」

宗介は苦しそうに言った―――それを聞いたクルツが、落ち着かない様子で、

「何をだ? 慎重屋のお前らしくねえ。まさか、無線の暗号化を忘れたとか、そういう大ボケじゃねえだろうな!?」

「いや、違う・・・もっとまずい事だ」

「オイオイ・・・!」

「実は・・・人に会う約束があった。日本時間の19:00時だ」

「はあ?」

「きっと怒っている」

冷たい汗が、コメカミを伝う―――つい先程まで、冷静に戦闘任務をこなしていた人間とは似つかわしくないほど、彼の胸中は狼狽していた。

「約束って・・・誰とだよ? 日本はもう真夜中だぜ?」

「千鳥だ。期末テストの出題範囲内を、彼女の家で教えてもらう筈だった。俺は、日本史と古文が苦手なんだ」

クルツのM 9がガックリと肩を落とした。

「あのな、お前・・・」

「大変ねえ。副業持ちの兵隊は」

マオはそう言うと、ふと思いつき人の悪い笑みを浮かべた。

「ソースケ。なら、良い教師役を紹介してあげよっか?」

「教師役・・・? 何を言っているんだ、マオ?」

「まっ、任せなさいって!」

不思議な顔をする宗介を誤魔化し、通信を繋げる。



「はずれ、ですって?」

ゼオラの報告を聞いたテッサは小さく眉を顰めた。

『はい。『A21』という組織の姿どころか『スクール』の生徒、教師の姿も、影も形もありませんでした』

無線機越しに、ゼオラの声が応える。

「関係者はいませんでしたか?」

『基地の責任者を何人か締め上げました。似た様な連中の何人かが、10日前に見学に来たそうです』

「その後の足取りは?」

『アフリカ北部に向かうと聞いていたそうですが・・・』

「そう・・・メリッサ」

テッサが呼びかけると同時に、マオとの通信が開く。

『こっちはそういう連中はいなかったと思うわ―――いても、殆どがDG細胞に飲まれちゃいましたし、確認のしようがありません」

マオの報告に、テッサは自分の三つ編みを弄りながら少し考えを巡らし、

「十日前には既にアークエンジェル、ロンド・ベル隊がアフリカ北部に降下してましたよね・・・なら、その情報はダミーと見るべきね」

『そうですね。唯でさえ、この辺ってザフト軍とポセイダル軍が縄張り争いをしてる地域ですし、保有ASが少ない筈の連中が
こんな激戦区に、ロンド・ベル隊を相手しなければならなくなる戦場に、向うはずはありませんから』

テッサの考えに、マオも同意する。

情報部の報告では、目当ての組織とかつて『スクール』を任せられていた者達が、その基地で最後の訓練をしているという事だった。

その情報が、間違いだったという事だ。

「ごめんなさい。あなた達には、無駄骨を折らせてしまいましたね」

『気にしないでください。『スクール』の仲間がいる可能性があるのなら、私たちは何処へでも行きます』

『こっちもあなたの所為じゃないわ、テッサ』

マオは優しく言ってから、少し真剣になり、

『ああ。それと、テッサ。『正義の味方』に『ジョーカー』が無事渡ったみたいよ。この目で確認したわ』

「そうですか。私が造った『装置』ではないので、ASの様にMSやPTでも上手く行くかが心配でしたが・・・」

テッサが安心した様に息をつく。

『あ、ついでにもう一個。あんた、確かオキナワの学校に通ってた事あったわよね?』

急に、マオがプライベート用の口調になり、テッサは少々驚いた。

「え? ええ。少しの間ですけど・・・」

『う~ん、ちょっと厳しいか・・・日本史と古文ってどの位出来る?』

質問の意味が解らないが、とりあえず応える。

「取りあえずは、一般に出回っている歴史書位の知識と教養はあるつもりですけど・・・何の質問ですか、これ?」

『オッケー! なら何の問題も無いわ。 テッサ、確かこの後少しだけど仕事は入ってないわよね?』

「はあ、まあ。何もなければ、明日の昼過ぎまでは予定が空きますけど・・・」

『ちょ~っと、ソースケの教師役を頼みたいんだけど・・・?』

その一言に、テッサの目が―――その発令所にいた者に気付かれないほどだが―――光った。

「相良さん―――相良軍曹のですか?」

後ろにいるマデューカス中佐が1つ咳払いをしたのを聞き、テッサは言い直した。

『そう。今回の期末テスト、古文と日本史がヤバイんだって』

「なら、仕方がありませんね。もし軍曹が留年や補習で、千鳥かなめさんの護衛任務を果せなくなれば、こちらにも支障が出ますし。
―――解りました。 協力させてもらいます」

『オッケー、それじゃ本人も伝えとくわね―――以上、通信終わり』

マオ、ゼオラとの通信が切れると、テッサは背もたれに背を押し付けた。

「まったく・・・」

「どちらが、ですかな?」

テッサの呟きにマデューカスが聞き返す。

「ハズレを引いたほうです」

「それは良くある事です」

テッサが迷う事無く任務の方を応えた事に、マデューカスは少々安心しながら返す。

彼女には自分達、多くの乗員、兵士の命を任せているのだ―――任務中に色恋に走られては堪ったものではない。

(・・・その内、あの軍曹を引き離す必要はあるかもしれんが。あの男は、艦長に相応しくない)

親心に近い感情を抱きながら胸中で呟くマデューカス。

「良くある事では済ませられません。その『A21』という組織には、『スクール』の教師、研究者もいるのでしょう?
アラドさんやゼオラさん達の様な人を、作り出させる訳にはいきません」

「もちろんです、艦長。しかし、我々は全能ではありません。『こういう事もある』と受け止める習慣も大切です」

「それは怠惰だわ」

「怠惰ではありません。柔軟性ですよ」

ユーモアのかけらもない声で、マデューカスは返した。




「はい。話は着いたわよ。テッサが見てくれるって」

マオの言葉に、宗介は脂汗を流しながら固まった。

「大佐殿・・・が?」

(そんなに、俺の成績が悪いと―――監視が必要なほどだと報告されているのか!?)

少しずれた事を思いながら、宗介はマオに言う。

「マオ・・・俺は大佐殿に目を付けられているのか?」

「ん~まあ、付けられてるって言えばそうかも・・・って気付いてたのあんた?」

(おかしい・・・俺は何もやましい事はしていない筈だ・・・)

マオの言葉に、宗介は普段の自分の行いを思い返しているが、不審な行動に見られる様な事は何も無い。

「ま、兎に角頑張んなさい。何だったら、そのまま保健体育の勉強、しかも実践をしても良し! キャー、この色男!!」

マオがからかうが、当の宗介はそんな事が耳に入らずブツブツと何やら呟いていた。

「姐さん、ロンド・ベル隊が通信を求めてっけどどうする?」

「あ~。今回はロンド・ベル隊との通信は必要最低限って言われてるのよ―――しょうがないから、無視・・・も失礼か。
んじゃ、『貴艦の安全を願う』とでも返しといて」

マオに指示され、クルツが簡単に通信を返した事を確認すると、

「それじゃ、合流地点まで移動するわよ。ECSを展開するの、忘れんじゃないわよ」

「ウルズ6、了解」

「ウルズ7、了解・・・」




「M 9から返信来ました―――『貴艦の安全を願う』以上です」

「それだけ?」

マリューの問いかけに、トールは頷く。

「一体何処の組織の者なんでしょうか・・・?」

不審気に問いかけるナタルに、マリューは険しい表情で応える。

「さあ・・・でも、敵にも味方にも私達の知らない勢力があるのは確かのようね」




その夜、レジスタンスの拠点ではちょっとした規模の宴が開かれていた。

「『明けの砂漠』に」

サイーブの掲げた杯に応え、マリューも自分の杯を上げた。

「―――勝ち取った未来に」

「じゃあ、まあそう言う事で」

フラガが簡単に締めくくり、ナタルを含めた四人が杯を空けたのを皮切りに、その場にいた全員が騒ぎ出した。

ナタルはあまりの酒の強さにむせ返ったが。

「な、なんだってこんな強いのを・・・!?」

杯を一気に飲み干し、今までに見せた事の無い顔で陽気に笑うサイーブから、2杯目を受けているマリューを見て、ナタルが目を見開く。

「アムロ少佐は飲まないんですか?」

アルコール類に手を出さず、コーヒーを傾けているアムロにフラガが問いかける。

「ああ。スクランブル要員だからね―――ロンド・ベル隊の殆どが未成年だ、勧めないでくれよ?」

「分かってますって―――でも、まだ大変だな、あんた達も」

アムロに返すと、サイーブに向き直りフラガが肩を竦める。

「『虎』がいなくなったからといって、ザフト軍全部がいなくなった訳じゃない。ポセイダル軍も少しは大人しくしてるだろうが、
壊滅的打撃を受けた訳じゃない。両方とも狙っているのは、鉱山だ――‐すぐ次が来るぜ?」

祝勝の雰囲気に水を差す様な事だが、誰も咎めない―――真実だからだ。

「―――その時は、また戦う。俺達の祖先がそうして来たようにな」

サイーブは2杯目を一気に煽り―――それでも顔色が変わる事はない―――言葉を続ける。

「戦い続けるさ、俺達は。俺達を虐げる様な奴等とな」



「あらん? キョウスケ、飲まないの?」

6杯目を飲み干したエクセレンが、コーヒーを傾かせているキョウスケに話しかける。

「スクランブル要員は飲むな、と言われてるんでな―――それに、監視役でもある」

「監視役?」

キョウスケの言葉に、エクセレンは首を傾げ問いかけようとしたが、目の前を横切ったフレイを捕まえた。

「キャッ!? 」

「んふ~誰を探しているのかしらん?」

フレイの首に腕を廻して、拘束するエクセレン。

「ちょっとキラを探してて・・・エクセレン少尉、お酒臭いんですけど!!」

フレイはエクセレンを振り解こうとするが、ガッチリと肩を摑まれ振り解けない。

「あら~探して、見つけて、押倒す気かしらん♪」

「な・・・!?」

その呻き声は、心外の意、図星の意の両方とも取れる色を含んでいた。

怯むフレイに、エクセレンは酒がなみなみと注がれた杯を差し出し、

「なら・・・お酒の力を借りるのが「そこまでだ、エクセレン」」

後ろからエクセレンを羽交い絞めにし、フレイを解放させるキョウスケ。

「お前みたいに、未成年者に酒を勧める奴の監視も頼まれているんでな・・・」

「いやん、そゆ事?」

納得がいったエクセレンは、キョウスケに拘束されると大人しくなった。

「すみません、キョウスケ少尉・・・」

「気にするな、コイツの扱いには慣れている」

礼を言うフレイに、軽く返すキョウスケ。

「あの、キラは・・・?」

フレイは念の為、周囲を見渡してからキョウスケに問いかける。

「こっちには来ていない様だな・・・すまん、分からん」

キョウスケも軽く周囲を見渡してから、フレイに告げる。

「そうですか・・・何処に行ったのかしら・・・?」

フレイは呟きながら、キラを探して再び歩き始める。

「やれやれだ・・・」

「大変ねん、キョウスケ―――ポーカーフェイスを保つのも」

ため息をつきながら呟くキョウスケに、エクセレンが杯を傾かせながら言った。

実は、キョウスケとエクセレンはキラの居所―――全員が杯を上げた時、外に出た事―――を知っていた。

「今回の事情が事情だ―――戦い始めたばかりのキラには、精神的に少々キツイ相手になったからな」

殺してしまった相手の顔を知っているだけでなく、向かい合ってコーヒーをも飲んだりもしたのだ。

幾ら、身体能力が優れているとはいえ、キラはまだ少年といえる年齢だ―――どれだけの葛藤が、彼の心を苛んでいるか計り知れない。

「そうね~。まあ、1人でジックリと考えたい事もあるでしょうし―――フレイちゃんには、ちょっと悪いと思うけど」

エクセレンは頷きながら、手酌で酒を注ぐ―――そんな彼女を、キョウスケは横目で睨み、

「・・・飲みすぎるなよ?」

「大丈夫よん♪ あと10杯は」




キラは宴の喧騒からかなり離れた所で、1人座り夜空を見上げていた。

とてもではないが、騒ぐ気になれなかった―――敵将、バルトフェルドを討った事―――討ってしまった事を、キラ自身が喜べないからだ

こんな気持ちであの場にいれば、何かの拍子に感情が爆発してしまうかもしれないと思ったキラは、ここで適当に時間を潰す事にしたのだ。

そんな彼に、何人かが礼を言う声と、遠慮する声―――そして、ドモン達とカガリの声が聞こえて来た。



「いつぞやは助かりましたぞ」

シュバルツに長老は深々と頭を下げる。

「いや、礼を言われるほどの事はしていません。私は、偶然街に泊まっていただけなのですから」

シュバルツは少し困った様な声で長老に返す。

「・・・何をしたんだ、シュバルツ?」

訳がわからず、ドモンがシュバルツに聞く。

「大した事はしておらん。どこぞの連中が、タッシルに火を放ってな。私は住民の避難を手助けしただけだ」

「このオジちゃん、火の中に飛び込んでボクを助けてくれたんだよ!!」

脇にいる子供がその時の事を、身振り手振りで興奮しながら話す―――『オジちゃん』と言われ、シュバルツは少々ショックを受けていたが。

「え!? じゃあ、あんたがみんなを・・・!?」

カガリがその話を聞き、驚きながらシュバルツを見やる。

「・・・流石に、全員という訳にはいかなかったがな」

苦々しく言うシュバルツに、カガリは首を振り、

「いや、あんたがいなかったら、全滅してたかもしれない。長老達、住民のみんなが無事だったのはあんたのおかげだ。
私からも礼を言わせてくれ」

「そう言ってもらえると、私としても助かる」

シュバルツはそう答え、踵を返す。

「・・・行くのか?」

「うむ」

言葉少なく問うドモンに、シュバルツは頷く。

「え? シュバルツさん、私達と一緒に行かないの!?」

この場に居る事から、シュバルツもアークエンジェルに乗り込むと思っていたアレンビーが声を上げる。

「―――デビルガンダムの目的地が判らんからな。ここは2手に分かれた方が得策だろう―――
もしかしたら、再度ロンド・ベル隊を襲うかもしれん」

「ああ。そちらで、何か足取りを掴めたら教えてくれ」

ドモンは頷きながら返し、シュバルツもそれに頷くと歩みを進め―――夜の闇に溶ける様に、姿を消していった。

「・・・行っちゃったね。じゃ、ドモン。私達も」

アレンビーはドモンを引っ張って、宴に向おうとしたが、

「いや、俺はいい。少し考えたいんだ―――去り際、師匠が俺に言った言葉の真意を」

ドモンはそう言い、アレンビー達と離れていく。

(石破天驚拳を伝授した後に言ったあの言葉、『人類の黄昏の光景』・・・この言葉と、ロンド・ベル隊と共に行動する事に何の関係があるんだ・・・?
師匠・・・あんたは、俺に何をさせる気なんだ・・・?)




あとがき

作:やっぱり一話じゃ入んなかった・・・(滝汗)砂漠編の最終話といえど、まだ中盤の頭に入るかどうかの所でこの量・・・
文章を削る事を覚えなくてはいけないな~(汗)
さて、ようやく登場しました『戦争バカ』ですが、機体がアーバレストではありません。
原作(小説の方)を読んだ方は、途中でのクルツとの会話を見た事があると思ったでしょう?
更にテッサが言っていたA21―――そうです、フルメタの時間軸は『疾る~』にあたります。
まだアーバレストが宗介専用機としてミスリルが決断する前になります―――ちゃんと、ロンド・ベル隊に合流させる時に乗せ代えますが。
アラド達もやっとこ登場しました。彼等は現在、『ミスリル』として宗介達と共に作戦行動をとる関係になってます。
・・・ゼオラは兎も角、アラドの腕で良く採用されたなって話もありますが(爆) 機体はもちろん、あの2機です。
そして、遂に登場しました我等が『師匠』ですが・・・・やり過ぎた(大汗)!! と思っちゃいます。
あれだけ総攻撃を受けて、ほぼ無傷で済んじゃってますし―――まあ、GジェネNEOのムービーもこんな感じでしたが・・・
あの場面だけ、世界が違くなっちゃってます・・・でも、師匠だから不自然を感じないし・・・どうしましょう?(マテ)





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管理人の感想
コワレ1号さんからの投稿です。

とうとう登場しましたねぇ、宗介君~
しかし、その登場シーンが意外に地味だった事と、師匠の登場により印象が薄い薄い(苦笑)
ま、相手が悪かったといえば、仕方が無いんですが。
今回は敵勢力が混沌としていて、ストーリー展開が難しかったと思います。
キラが目立たないのは何時もの事ですが(爆)