紅の軌跡 第20話

 

 

 

 

  「やはり、オーブとの同盟はならなかったか・・・」  

   

  そういって見上げた蒼穹の空は、何処までも蒼く澄んでおり、ところどころに雪のように白い雲が浮かんでいる。だが、そんな人の心を浮き立たせるかのような空模様とは裏腹に、オーブ政府との交渉を終え、迎えの車に乗り込んだアイリーン・カナーバの表情はすぐれず、沈痛な表情のまま、深いため息をつきながらそういった。  

   

  車が走り出し、オーブ行政府ビルから数km離れた、一見するとただのオフィスビルにしか見えない、いわゆる秘密交渉のために、政府が極秘に所有する建造物が速やかに視界から消えてゆく。後に残るのは、今のアイリーンには腹立たしく感じるほどの南国の陽気な景色であった。  

   

  「それにしても・・・  

   ホムラ代表もいま少し自分の意見というものを前面に出してくれればまだ交渉のしようのあるものを。  

   あれほどまでにウズミ前代表の影響力が強くてはどうにもなりませんね・・・。」  

   

  長い交渉を終え、安全な車内に乗り込んだ安心感もあって、つい愚痴をこぼすように言葉がこぼれるアイリーン。  

   

  「確かにカナーバ様のおっしゃられる通りですが、全く成果がなかったわけではありません。  

   いえ、今回の交渉に限ってみれば十分といえるだけの交渉結果を得られていると思います。  

   そのことを考えて、本国に対する誇るべき成果とすべきではないでしょうか?」  

   

  そんな彼女を、一緒に同乗していた今回の交渉団においてアイリーンの補佐官役を務めている女性が慰めるようにいう。  

   

  「そうですね・・・  

   確かに最優先項目であった同盟を結ぶことはできませんでしたが、オーブに居住する同胞たちの国外脱出は認められたのです。それだけは誇ってもよいでしょう。」  

  「はい。その通りかと思います。  

   それから、オーブ軍部の方に持っていった例の話は、アスハ家の意向に反対する他家の協力もあって、無事採用されそうだとのことです。」  

  「そうですか・・・これで何とか最低限の戦力を送り込める目処が立ちましたね。」  

   

  懸念事項のひとつが何とかなりそうだとの感触を得て、アイリーンが安堵の吐息をつく。  

  ザフトの統合作戦本部では、大西洋連邦の侵攻によってオーブ連合首長国で発生するであろう戦闘は、史上初の大規模なMS部隊の激突となることを予想していた。  

  これまでにも、主にアークエンジェル追撃戦によって、単体レベルあるいは小規模な対MS戦闘の実戦におけるノウハウは蓄積されてきたが、大隊あるいは連隊、師団レベルでのMS同士の実戦は、ザフトでさえ経験したことがない。  

  むろん、将来的には地球連合がMSを投入してくるであろうことを見込んで、MS教導隊を中心にMS同士の集団戦闘訓練を積んできた(GAT−Xシリーズを奪取してからは対MS戦闘訓練によりいっそう拍車が掛かっていた)が、やはり実戦でなければ得られない戦訓というものは確実に存在することをザフト上層部のメンバーは承知していた。  

  そのため、ザフトは限られた数の機体でもかまわないから、何としてもオーブに情報収集用のMSを送り込むことを目論んでおり、交渉を担うアイリーンにも可能なかぎり段取りを整えるようザフト上層部から正式に協力要請が届いていたのだった。  

  しかしながら、同盟締結に失敗する可能性は事前の予測でもかなり高く、そして締結失敗ということはオーブの領海内に直接、ザフトの戦力を展開することができないことを意味する。  

  もし、オーブとの攻守同盟が成立すれば、正面から堂々と機体を送り込めるが、成立しなかった場合、裏口から送り込むことを考慮しなければならなかった。それゆえ、交渉不成立時の保険としてオーブ軍部に、独立した勢力である傭兵部隊を雇うよう働きかけを行ったのである(もちろん、それ以外にもあの手この手で情報を収集する手段が模索されており、最悪の場合はジャーナリスト等に化けて戦場に生身で乗り込むことも検討されていた)。  

  なお、そのオーブに派遣される傭兵部隊がコーディネイターで構成された極めて特殊な部隊であろうことは、オーブ軍部、プラント双方が暗黙の了解としていたのはいうまでもない。  

  もっとも、情報収集についてはその後の情勢の変化、具体的にはアフリカ方面で地球連合軍と一触即発の状態になっていることから、当初考えられていたほどの重要性は既に失われつつあったのだが(間に合わないことに高い優先度を与えるはずもないということだ)。  

   

  「ええ。既に送り込む傭兵部隊の準備はカーペンタリアにて整っています。」  

  「直ちにオーブ入りするよう連絡して下さい。如何に偽装傭兵部隊とはいえ、共に戦う面子とは最低限の意思疎通を行っておく必要があるでしょうから。」  

  「ご安心ください。先ほどオーブに向けて出発するよう連絡済みです。」  

  「そうですか、相変わらず仕事が早いですね。」  

   

  大西洋連邦に多く存在している権威主義者のナチュラルの外交官であれば職権を侵されたと大騒ぎになるところだが、アイリーンは特に咎める様子もなく相手の仕事の速さを称えるだけだった。それだけ、この補佐官が優秀でありアイリーンもその手腕を買っているということだろう。  

   

  「まあ、これで一応の手は打てた訳ですが・・・  

   何にせよ、これでオーブは少なくとも戦闘初期は単独で大西洋連邦の侵攻に対処することになったわけです。  

   だが、そのことの本当の意味をオーブ政府の閣僚達が理解しているのかは疑問ですね。  

   戦時と平時の違いは大きい。  

   その辺のさじ加減の違いをわかれというのは、敵の圧力を直に受ける前線の軍人ならばともかく、後方でぬるま湯の平和に漬かってきたオーブの閣僚あたりには無理な注文であったかもしれません。」  

   

  唇の端にわずかな笑みを浮かべるとアイリーンは自分自身を、あるいはオーブ政府の頑なな対応を嘲笑うかのようにいう。  

   

  実際のところ、オーブ政府を構成する閣僚がこれまでに行ってきたことは、国民の生命と財産を預かる為政者の取るべき行動としては疑問点が多々残るものといえる。  

  戦争を回避する手段を模索してきたことはいい。これは、何ら文句の付けようもないことだ。  

  だが、戦争を回避できなかった場合の対応が、戦力の増強を除き、十分に検討されているとはとても言えない現状は、どう評価すればよいのだろう?  

  戦争が回避できた場合、そして努力及ばず戦争に突入してしまった場合、どちらの場合になっても問題ないように準備を整えておくことが為政者としての責務だ。  

  ところが現状は、戦争回避の手段を模索することに労力を割きすぎ、戦争突入時の政府の対応準備がろくに進んでいない。少なくともオーブ国内に潜伏するエージェントからの情報ではそう評価せざるを得ない。  

   

  地球連合、いや大西洋連邦は間違いなくオーブに侵攻する。  

  これはもはや止めることはできない。  

  あれほど規模の軍を動かしてしまった以上、大西洋連邦首脳でさえ、ある種の結論がでるまでは止めることはできない。  

  軍を動かすために投入された莫大な人、物、金はそれ自体が巨大な勢いを内包する。  

  もしそれを無理に止めようとすれば、それは彼らの政治生命を終焉に導き、官僚達の首が飛ぶことに直結するだろう。  

  そして彼らは自殺志願者とは対極の位置にいる。  

   

  であるならば、今、オーブの首脳たちが考慮すべきことは如何にしてオーブを生き残らせるか、それに尽きるはず。  

  大西洋連邦に突きつけられるであろう条件を全てのみ、無条件に相手に降るつもりならばともかく、あくまで戦うことを選択するならばプラントあるいは隣国の赤道連合と同盟するより他に道はない。眠れる獅子と呼ばれるとはいえ、純粋に国力の差から、オーブ連合首長国単独では滅びの道を歩むことになるのは必定なのだ。  

  にもかかわらず、この段階にいたっても言を左右していずことも同盟を結ばないとは・・・  

   

  ある意味オーブは、ウズミ・ナラ・アスハという一代の傑物が成した中立宣言という呪いに捕らわれてしまっているのかもしれない。  

   

  戦乱の時代に多く現れる英傑と呼ばれる存在は、人々に安寧をもたらすこともあれば、災厄をもたらすこともある。  

  地球圏全域を戦場とするこの未曾有の大戦乱の時代に、ウズミ・ナラ・アスハという傑出した指導者を得ていたことが、オーブ国民にとって幸いだったのかあるいは災いだったのか・・・・・  

  それは、これから直にオーブに降りかかるであろう戦乱をもって判断することになるだろう。  

   

  それでも、ヘリオポリス崩壊前と比較すれば、国防を掌る者たちを中心に以前よりはだいぶましになってきてはいることは救いといえるかもしれない。  

  でなければ、オーブ軍部とプラントが今回のようにかなり深いところまで突っ込んだやり取りを交わすなどできはしない。以前のオーブ政府であれば、そのようなことを認めるはずもないし、また同盟交渉など門前払いされても不思議ではなかったのだから。  

   

  まあ、オーブ政府についてのあれこれはともかくとして、話を外交成果に戻し、冷静に成果を検討してみれば、今回のアイリーンがオーブよりもぎ取った成果は十二分に評価されてしかるべきものだった。  

   

  今回のアイリーンが代表を務めるオーブとの交渉では、先にあげた情報収集用の部隊を送り込むほかに焦点が2つあった。  

  1つ目は、当然のごとくオーブ連合首長国のプラント側勢力への取り込み、具体的にはプラントとザフトの攻守同盟である。これは、先にアイリーン・カナーバが述べたように実現していない。  

  国家代表を退いたとはいえ、中立を標榜するアスハ家当主ウズミ・ナラ・アスハの影響はそれほどまでに強かったということだ。  

   

  そして、焦点の2つ目はオーブに居住するコーディネイター達への脱出勧告の発布許可を得ることであった。  

  プラント側は、純粋な戦力比較の結果、オーブ連合首長国独力で大西洋連邦の侵攻を跳ね返せるとは考えていない(その点についてはオーブ行政府内の要人たちの中にもそう考えているものたちがいるため、アイリーンは傭兵部隊雇用を実現するためにそのメンバーを中心に働きかけを行っていた)。  

  そして、そんな状況下でオーブ国内に住むコーディネイター達を放っておけるはずもない。唯でさえコーディネイターの人口はナチュラルに比較して少なく、さらに今次大戦の戦死者は増加こそすれ減ることは決してないのだから。  

  そんなわけで、万が一、オーブの戦力が壊滅し、オーブ全土が大西洋連邦の完全占領下におかれた場合のことを考えれば、実際に戦争が始まる前に、事前の脱出手段を整えておくべきと考えるのは当然のことであろう。  

  実際、そのような判断を下したプラント最高評議会は、ことがことだけに外交を担当するアイリーン・カナーバ評議員その人を地球に降下させ、交渉にあたらせたわけである。  

  その時点では、まだ大西洋連邦洋上艦隊は動き出していなかったが、燃料・武器弾薬や生鮮食料、戦闘に必要な各種消耗品といった物資の流れや兵員の充足状態(基本的に戦闘正面に立つ部隊は被るであろう損害のことを考慮して充足状態を良くするものだ)などの情報から、近いうちに動き出すことは間違いないと分析されており、アイリーン・カナーバは、ザフトが誇る高速艦であるナスカ級に随員共々押し込められ、超特急でカーペンタリア基地を経由してまずは赤道連合に送り込まれたのであった。  

   

  何故オーブからコーディネイターを脱出させるのに赤道連合に直行する必要があったのか?  

   

  それは脱出先という大きな問題があったからである。  

  もちろんプラント側の本音としては、少ない人口を少しでもカバーするためにオーブからプラントに直接脱出して欲しい。  

  だが、これから自分の住む国が戦争に巻き込まれ、生誕種差別を標榜する団体をバックアップする政府の軍隊がやってくるかもしれないからといって、既に世界中で大戦争を繰り広げているもう一方の勢力に脱出するのを、高い基礎能力を持つとはいえ平和の中で生きてきた民間人がすぐに納得するであろうか?  

   

  答えは否であろう。  

  躊躇し二の足を踏むであろうことは容易に予想できる。  

   

  それゆえ、プラント側は自分たちの所ではなく他の中立国、といっても現時点で残っている中立国(親プラントを表明しているが公式には未だ中立を維持している)は1つしかないため、隣国の赤道連合となるが、そちらへの脱出を前面に押し出し、避難を躊躇う者たちの背を後押しするつもりであったのだ。  

  赤道連合に移った後であれば、今度は政府による制限がないため、あの手この手で懐柔を行いプラント本土行きを承知させることは決して困難なことではないと考えられていたのである。  

  そのためにも、赤道連合には脱出を希望するオーブのコーディネイター達の受け入れを何としてものんでもらわねばならなかった。  

   

  そのためのアイリーン・カナーバの赤道連合における直接交渉だったのである。  

   

  そしてアイリーン自らの精力的な交渉によって、既に赤道連合の政府とは、オーブから脱出してくるコーディネイター達の受け入れについて合意に至っている。  

  もちろん赤道連合も善意からプラント側の申し出を受け入れたわけではない。というよりも、外交という戦争状態にない国と国の真剣勝負の間に善意というものは期待できない、というよりもあり得ない。  

   

  ギブアンドテイク、それが外交交渉の基本なのだ。  

   

  よって、長期的にはともかく、赤道連合の当面の狙いは、国内にコーディネイターを受け入れることで、プラントから更なる援助を引き出すつもりであろうことは明白であった。  

  実際、コーディネイター受け入れを赤道連合に呑ませる段階で、既にプラント側は代償を支払う必要に迫られており、背に腹は変えられぬプラントはその代償(鉱物/工業資源の上乗せ供与、各種精密工作機械の安価提供及びストライクダガーの追加売却、そして国内におけるMS生産プラント建設への技術協力等)を受け入れている。  

  もっとも、その代償はプラントの持つ巨大な鉱工業力をもってすれば、簡単とまではいわないがそれほど困難なものではない。技術協力も、当面は赤道連合が地球連合側に回ることは考えにくく、またストライクダガーを売却したことにより、遠くないうちに自力でMS生産を開始するであろうことを考えると、それほどやっかいな問題とはいえなかった(それだけストライクダガーの構造は簡易で生産しやすい機体だったといえる)。  

  むしろ、間違いなく万の桁に達する新たな同胞たちを受け入れることによる利のほうが大きいこともまた明白なのであった。それは、かつて地球上からプラントへ、コーディネイターの大脱出が行われた際に証明済である(GAT−Xシリーズの予想外の高性能を知ったプラントでは、改めてオーブの持つ科学/工業技術について詳細を知る者から得られるであろう情報に高い期待を寄せている。プラントが地球上の各国に比して高い技術レベルを保持するとはいえ、異なるコンセプトのもと発達を遂げた科学/工業技術が流入することは、良い意味でのカルチャーショックをもたらし、結果としてプラントの更なる発展に寄与するであろうことが確実であったからである)。  

  その辺は赤道連合側もプラント側も承知の上での交渉であり、つまりは外交に携わる者たちの考え方が実にシビアかつドライであることを知らしめる一面でもあった。  

   

  「それで肝心のオーブ国内への告知の準備はどうなっていますか?  

   許可は得たが、放送できませんでしたでは洒落にもならないし、議長に報告のしようがありませんから。」  

   

  ようやく冗談を言える程度には気力が回復したのか、そんなことをアイリーンがいう。  

   

  「既に手配済みです。今夕から公共放送を通じて流れます。」  

   

  今回手配された告知の内容は、オーブ国内に居住するコーディネイター及び親族にコーディネイターをもつ人達に、今回の紛争で万が一、大西洋連邦がオーブを占領した場合、かつてナチス第三帝国においてユダヤ人が被ったような悲劇を避けるために、オーブ国外への脱出をプラントが支援するというものだ。  

  大西洋連邦が事実上のブルーコスモスの後ろ盾であることを強調し、占領下においてコーディネイターがどんな事態に陥るかそれとなく不安を掻き立てる内容になっている。何しろ、より多くの脱出を促すために多くの心理学の権威にも協力してもらって作成した代物であるために効果のほどは十分に期待できる。  

  他方、戦闘前に民心の不安を掻き立てるような放送を流すことについて、オーブ行政府の役人たちは最後まで渋ったが、これまでにオーブに施してきた数々の事前の貸しが功を奏し(まさに情けは人の為ならずといったところか)、何とか抵抗を押し切ることに成功したのである。  

   

  「ところで、具体的な脱出手段の確保はどうなっていますか?」  

  「現時点で船舶を4隻、旅客機を3機押さえています。船舶のほうは一両日中にさらに2隻押さえられます。さらに追加の航空機としては、事前の準備が完了次第との条件がついていますが、カーペンタリアから4機の大型輸送機を回せるとの回答を得ています。」  

   

  ふむ・・・  

  ごく大雑把に船舶1隻あたり1000人、旅客機を1機あたり300人、大型輸送機1機あたり250人でカウントし、航空機と船舶の両方ともにローテーションによるピストン輸送を行うとして、残された時間で脱出可能なのは・・・おおよそ3万人といったところですか。  

  これはこれで大した数字ではありますが、オーブ国内に居住しているコーディネイターの数を考慮すると到底足りません。しかも、これは最大の数値であり最初のうちは搭乗率が低いであろうことを考慮すればこの数字のせいぜい60%ぐらい、いや半分程度と見ておくべきでしょう。  

   

  「明らかに輸送できる人数が不足していますね。  

   赤道連合のプラント大使館に連絡を入れ、最低でもあと2万人は運べるだけの船舶を押さえさせて下さい。。向こうもわかっているとは思いますが、なるべく大型の旅客船をチャーターするように念押ししておくように。  

   なお、必要とされる予算には制限はありません。このことは評議会も承認済みです。  

   あらゆる方法を用いても脱出手段を確保するように全力を尽くして欲しい。  

   もし、オーブのアルバトロス大型飛行艇を借りられるようならば、それも手配することを忘れないで下さい。  

   それから、カーペンタリアにもう少し輸送機を回すように伝達して下さい。それと可能であれば潜水母艦を1、2隻回せるよう手配を試みてくれませんか。その件については、私もザラ議長閣下に一報を入れておきますので。」  

  「了解しました。早急に対応します。  

   ただ、大西洋連邦の侵攻開始までおおよそ一週間と見込まれており、期間も短いこともありますし、何より迎撃作戦のこともありますので潜水母艦は厳しいと思われますが?」  

   

  補佐官を務める女性がそれとなく疑問を提示してくる。  

  実際、彼女の考えはもっともだ。  

  これから大規模戦闘が始まるというときに、貴重な潜水母艦を回してくれといわれて、はいそうですかと頷く軍人は滅多にいないだろう。  

  だが、アイリーンも現実を見ずにそのようなことを言っているわけではなかった。いや、むしろより深刻に現在の状況を捉えていたのはさすがは評議員の一角を占めるだけのことはあるといえた。  

  アイリーンは、ゆっくりと自身の懸念する事態を補佐官に告げる。  

   

  「・・・そのことは私も理解しています。  

   ですが、長きに渡り平和を享受してきたオーブの市民の中には、決断が遅れ、大西洋連邦の攻撃開始ぎりぎりになってから脱出しようと考えるもの達が必ずいるはずです。  

   そうなった場合、船舶や航空機での離脱は難しい。なぜなら、大西洋連邦から重要人物の国外脱出と見られるのは必至ですからね。  

   だからその際は、海中からの脱出が一番有効となるでしょう。  

   難しいことであることは百も承知しています。ですが、何とか潜水母艦を押さえるよう頑張ってみてくれませんか。  

   私は、脱出を希望する同胞たちを、一人とてこの地に置き去りにするつもりはないのです。」  

  「・・・・・わかりました。全力を尽くします。」  

   

  アイリーンの言葉に感銘を受けたかのようにわずかな間を空けた後、補佐官がうなずく。  

  その後、アイリーンと補佐官が今後のことについて熱心に討議する間も、彼女らが乗った車はオーブにあるプラント領事館に向かって進んでいく。  

  プラント内部において、急進派と穏健派が和解し一定の協力関係を結んでいる現在、プラントはそのマンパワーの全てを、コーディネイターの生き残り策の立案及び実施と、そしてこの戦争に勝つため(あるいは負けないため)の作戦遂行のために投入できるようになっている。  

  アイリーン・カナーバを始めとする使節団を構成する文官達はこれから、大西洋連邦の侵攻ぎりぎりまで同胞たちのオーブ脱出に全力を注ぐことになるだろう。  

   

  文官達もまた、前線に立つ軍人たちとは別の戦いを、全力をもって闘っているのであった。  

   

   

   

   

   

   

  そんなアイリーン達が奮闘を続けるオーブ連合首長国より優に千キロ以上の距離をおいた西方の海上・・・  

   

  そこに珊瑚海を白波を立てながら、カーペンタリア基地を出航後、一路北へと航行する8隻のMS母艦によって構成されるザフト洋上艦隊の姿が波間の中に浮かんでいた。  

  巡航速度を少し上回る速度で進んでいるこの艦隊は、自らの存在を赤道連合の船籍に欺瞞するために、オーブ連合首長国へは遠回りとなるジャワ島とスマトラ島を結ぶスンダ海峡を抜け、あえて西方からの航路をもって戦場の海域に赴かんとしていた。  

   

  赤錆色に濁った夕日が、珊瑚海の海に沈みかけている。薄紫色の雲が引きちぎられた軍旗のように空を漂い、一日の幕を下ろそうとしており、初夏の熱気を孕んだ空気がゆっくりと冷やされていく。  

   

  そんな世界の全てが赤く染まろうとしている中、艦橋横のキャットウォークで眼前に広がる水平線をあくことなく見ていた少年は、背後から聞き知った自分を呼ぶ声に、それまでの泡沫の世界から我れに返り、視線を後ろに向けた。  

   

  「いつまでも海ばかりみていて飽きないか、キラ?」  

  「うん、ちょっとだけ昔のことを思い出してしまって・・・」  

   

  あきれたように声を掛けてくるアスランに、少しだけ沈んだ声で返答するキラ。  

  そんな二人の様子を見るにつけ、二人ともただの会話に妙に慎重に言葉をやり取りしているのが鋭い観察眼を持つものには分かったかもしれない。  

  だが、慎重に言葉を交わしていようと、幼馴染であるアスランには声音だけで、キラが何を思い煩っていたのかわかったのか表情を真剣なものに変えた。  

  そして、わずかに躊躇するようなそぶりを見せたものの、アスランは自らの両手をキラの両肩にかけると力強い声で言い聞かせた。  

   

  「・・・キラ、お前が戦闘を前にして未だ迷っているのは無理はないと思う。  

   戦いなんて大嫌いなお前が、それでも戦っていたのは友達を守るためだったんだからな。」  

  「・・・うん。」  

  「本当に、あの泣き虫で争うことが大嫌いだったお前が、戦場では鬼神のごとき戦いぶりを見せるなんて今でも信じられない。」  

  「無我夢中だったから・・・」  

   

  やや軽口らしきものを叩きながらも間近に見るアスランの表情は、緊張のせいかこわばって見える。もっとも、それは話を聞いているキラも同様であったのだが。  

  やがて、自分の話し方の違和感に気づいたのか、一瞬、唇を閉じると、改めて表情を真剣なものに変え、キラを真っ直ぐに見ながら話し始めた。  

   

  「だがな、キラ、いいか、よく聞くんだ。」  

  「えっ!?」  

  「今回の戦いで、戦場に迷いを持ち込むのは止めるんだ。」  

   

  思いもよらぬことをいわれて、あっけに取られたような顔でアスランの顔を見直すキラ。  

  その視線の先では、じっとアスランがキラを見つめている。  

   

  「戦場に立つ前ならば迷うことはいい。いや、お前みたいな根っからのお人よしが迷わずにいることはできないだろう。  

   だが、今度の戦場はこれまでになく激しく危険なものになる。  

   そんな過酷な戦場に迷いを持ち込めば、それは自分の命はおろか、己の大切なものを失うことになりかねない。  

   ・・・そうなってからでは、いくら悔やんでも遅いんだ。」  

  「アスラン・・・」  

   

  悔恨に満ちたアスランの声に、キラは自分が彼の仲間を殺した時のことを脳裏に呼び覚ましていた。  

   

  あの時の悲痛なまでの死した仲間の名を呼ぶアスランの叫び・・・  

  それは、キラとの戦いを迷い抜いた末、大切な仲間を死に追いやってしまったアスランの魂の慟哭であった。  

   

  さらにその記憶は大切な友、トール・ケーニッヒを失った時のことを思い出させる。  

  あの時、戦場に迷いを持ち込んだのはキラの方だった。  

   

  自分にはアスランを殺すことなんてできはしない。  

  ならば最終的に殺されるのは自分ではないだろうか?  

  アスランの友人を殺してしまった自分は、アスランに殺されるべきなのではないだろうか?  

   

  オーブ領海に程近い無人島でイージスと激しい戦闘を繰り広げながら、あの時キラはそんな風に考えていたのだ。  

  贖罪、そんなことを無意識に考えていたのかもしれない。あるいは繰り返し続く戦闘に心が磨り減り、弱っていたのかもしれない。  

  それは本来心優しい少年であるキラにとって避けようのないことだったのかもしれないが、明らかに戦場には相応しくないものでもあったろう。  

   

  敵を撃つための銃口の引き金を引くことを無意識のうちに躊躇っていたのだから。  

   

  そして、そんなキラの迷いは戦闘を長引かせ、長引いた戦闘は援護に出ていたスカイグラスパーに搭乗したトールの介入を招き、結果、彼はアスランに殺された・・・  

   

  確かに、キラが迷ったことがトールの死の原因の全てというわけではない。  

  戦況の推移を始めとして、最初の戦闘を潜り抜けたトール自身の驕り、その他様々な要因がからんでいる。  

  だが、トールの死、そのことを招いた原因のひとつには間違いなく戦場におけるキラの迷いがあったのだ。  

   

  かつての友は、今、同じ姿を留めず・・・  

  互いに相手の大事な友を殺した関係、つまり互いが友の仇、それがキラとアスランの現在の姿だった。  

  そして、それでもなお、彼らは友であった・・・  

  そのことをアスランは自らの言動でキラに証明して見せている。  

   

  「俺は再び戦場で仲間を、友を失いたくない!  

   だから、戦場には決して迷いを持ち込むな。いいな、キラ!」  

   

  戦場に出る以上、戦死者が0ということはあり得ない。必ず誰かしらがこの世からいなくなる。  

  それはアスランも分かっている。そして、それを分かっていてなお、そのように言い放つことができるのが、現在のアスランの強さを現していた。  

   

  アスランは真摯に僕のことを気遣ってくれる。  

  彼の友人を殺した自分を気遣ってくれる。  

  僕はまだ、アスランの友達でいていいんだ・・・  

   

  自らの言動で自らの想いを体現しようとするアスラン、それは、未だ迷いのため塞ぎ込みがちだったキラの心を暖かくしてくれるものだった。  

   

  それにしても、互いに友人を殺された間柄でありながら、アスランの方がより素早く立ち直っているように感じられるのは、やはり周囲の環境の違いに原因が求められるだろう。  

  キラが友人と戦っているということを、彼が守ろうとしていた友人たちが知っていたことに対し、アスランの方は仲間にそれを告げるどころか、逆に隠し続けなければならず、腹に一物もったクルーゼしかそれを知らないという状況にあった。  

  さらにキラの方は、泥沼関係になったとはいえフレイの身体という逃げ場所を確保できていたことも大きな影響を与えている。追い詰められている人間にとって、人肌のぬくもりというものは信じられないほどの影響力を有するのだ(過酷な戦闘を乗り越えた兵士たちの大半が、戦闘後に娼館等に繰り出すことを考えればおおよそどのような影響があるか想像の一助になるだろう)。  

  一方クルーゼは、事あるごとにアスランに対し覚悟を強要するようなことを言い続けてきた。しかも、ニコルはアスランの指揮の下、戦い、そして死んでいったのだ。  

  そして何より、互いの死闘の結果がキラとアスランのその後に大きく影響したことも避けられない。  

  戦いは常に勝者と敗者を生み出す。言い換えれば、殺した者と殺された者を生み出すということだ。  

  あの死闘そのものは、アスランの自爆によりキラの死亡といった終わり方をしている。  

  友の仇を討つため、自らの友を己が手で殺した。  

  むろんそれは間違いだったのだが、間違いと分かるまでは、それがアスランにとって真実だったのだ。  

   

  周囲に理解者がいるか否か、逃げ場所があるか否か、その者の死に責任を持つべき立場にいたのかどうか、そういった諸々の積み重ねが、アスランの精神により強大な重圧を掛け、結果としてアスランの精神を最大限に鍛えることとなったのであろうことは想像に難くない。  

  だからこそ、今この場で、キラを救うような言葉を吐くほどの強さを身に付けたともいえる。  

  だが、その強さは憤怒という炎で焼き上げられ、慟哭という水で焼き締められ、絶望という砂で研磨された刀身のごとき強さといえる。そのような強さを身に付けざるを得なかったことが、人として幸せであるのかはあえて言うまでもないだろう。  

  それでも、その強さに救われるものが目の前にいることも事実。アスラン・ザラにとっては、それで十分なのかもしれない。  

   

  「うん。わかったよ、アスラン。」  

   

  アスランの間違いなく心からの真摯な言動に、キラの表情が影を残しながらも穏やかな笑みに変わる。  

  さらにキラの言葉は続いた。  

   

  「それに、父さんや母さんが住む祖国を守るのに理由なんていらないんだ。  

   ぼくも、大切なものを失うのは二度とごめんだから。」  

   

  そうアスランに告げたキラの声は、先ほどとは段違いに力がこもっており、完全に迷いを吹っ切れたものではなかったものの、ある種の割り切りがキラの中でなされたことを示唆しており、同時にキラが、新たに守るべきものを認識したことを意味していた。  

  そのことを理解したのだろう。アスランの表情も先ほどまでと比べて穏やかなものになっている。それほどまでにプラントからこの場に至るまでのキラの思い詰めた様子はアスランにとって気になっていたということだろう。  

  そして、一応の心配事項の解決をみたアスランは、あえて軽くした口調でキラとの話を続ける。  

   

  「ああ、その通りだ。  

   勝手に人の大切なものを奪おうとする、礼儀知らずな輩には力ずくでもお引取り願わないとな。」  

  「そうだね。でも、僕としてはできるだけ穏便に退去して欲しいものだけど。」  

   

  そんなキラの無邪気とでもいうべき発言を聞いたアスランの表情が酸っぱいものでも食べたように変わる。そして内心、やはりこいつは天然だという意識をアスランは強く持つのであった。  

   

  「・・・キラらしいとは思うが、あまり現実的ではないと思うぞ?」  

  「・・・そうかな?」  

  「ああ、そうだ。」  

  「そうかな?」  

  「そうだ。」  

  「そうかな〜?」  

  「そうだ。」  

  「ふーん、そっか・・・」  

   

  そういって二人で東のほうを見る。  

  彼らの視線の先には、新たに戦場となろうとしているオーブ連合首長国があるはずであった。  

   

   

   

   

   

  そんなある意味戦争に向かっているとはとても思えない雰囲気になりつつある二人の様子を、わずかばかり離れたところから見ている二つの人影があった。  

   

  「どう、ヘルガ?」  

  「まあ、議長の息子は坊やには違いないけど、一応修羅場は潜っているようね。  

   伊達に赤を着ているわけじゃないといったところか・・・」  

  「そいつは吉報だ。」  

   

  壁に寄りかかりながら一方の人影がもう一方に対して尋ねる。  

  どちらもタイプは違うが紛れもなく美女と呼ぶに相応しい容姿をしており、そんな二人の手元には携帯端末があり、そこには彼女たちが収集したアスランのこれまでの戦歴が映し出されていた。  

  最近の記録だけを見ても、ヘリオポリス襲撃、第八艦隊先遣隊との遭遇戦、低軌道会戦、地上におけるアークエンジェル追撃戦、そしてストライクとの死闘と十分にエースと呼ぶに相応しい戦歴を残している。  

  それでありながら、彼女たちにとってはようやく及第点というような言い方である。その事だけで、彼女たちの腕前の程が空恐ろしいものであることが予想できよう。  

   

  「それにしても、もう一人の坊やの戦歴なしっていうのはどういうことかしら?」  

  「さて?全くの素人を特務隊に入れるとは思わないけど、お偉いさんの考えることは相変わらず訳わかんないしね。」  

   

  アスランの戦歴がかなり詳しく表示されるのに対し、キラ・ヤマトの戦歴が「該当データなし」と表示されるのを見てため息をつくように愚痴る。  

  実際、彼女たちがどんなに頑張って探してみてもザフトにおけるキラ・ヤマトという兵士の情報を得ることができなかったのだ。まあもっとも、ザフトにおける戦歴など最初から全くないのだから、探しても見つかるわけもないのだが。  

   

  「まあ、なんにせよしばらくの間は、ザラ議長の息子さんがあたしらの指揮官さんというわけだ。」  

  「議長直々にマリーに頼み込まれたんじゃ、断ることも出来ないでしょう。」  

   

  デラの軽口に肩をすくめるようにしてヘルガが応える。  

   

  「それにしてもヘルガ、議長直々にマリー隊長のところへ連絡があったけど、どういう経路で議長とマリー隊長はつながっているの?」  

  「・・・ユニウス7で亡くなった議長の奥さん、レノア・ザラがマリーの親しい先輩だったのよ。  

   その関係でパトリック・ザラ最高評議会議長本人とも交友があったと聞いているわ。」  

  「そっか。」  

   

  ちょっとまずいことを聞いたかなというように、デラが顔をしかめる。  

  その様子を、切れ長の瞳の端で捕らえながら、特に気にすることはないと改めて伝える。  

   

  「マリーもあれで結構したたかだからね。  

   議長の頼みを受け入れる代わりに、アフリカ方面にまわる隊員全員分のゲイツを議長からもぎ取ったから帳尻は合っているはずだよ。」  

  「その代わりにあたしら二人とローズバンク隊の3分の1が、ザラ隊長の下に貸し出されたわけだ。」  

  「周りのものに対する懸念を払拭するためでしょうね。」  

  「まあ、確かにそれなりの戦歴を積んでいるとはいえ、一部には若すぎる隊長には不安を感じる人間もいるでしょうしね。  

   しかも、一人の兵士、一人のMSパイロットとしてならともかく議長直属の特務隊隊長だしね。」  

  「だからこそ、歴戦の部隊であるローズバンク隊からベテランを借り出したと。」  

  「そういうこと。」  

   

  やれやれというように、ヘルガ・ミッターマイヤーとデライラ・カンクネンは肩をすくめる。  

  彼女たちは、プラント本土出発直前に慌しく本隊と分かれ、ザラ特務隊に一時的に異動してきたため、隊長であるアスラン・ザラとは、カーペンタリア基地にて合流するまでほとんど情報を得られていなかったのである。むろん、ある程度のペーパー上の情報は取得できたが、MSパイロットとしてあるいは指揮官として信頼できる相手かどうかは、書類上の情報だけでは判断できない。  

  相手の立ち振る舞いや雰囲気を実際に見ることなしに判断するようなことは彼女たちは決してしない。事前に情報収集することの大切さと共に、戦場において、自分の目で見、そして聞いたことほど確実な情報はないことを歴戦の兵士でありかつ歴戦のMSパイロットでもある彼女たちは良く知っている。  

  なお、本来ならば彼女たちが行動を共にしていたはずのローズバンク隊は、彼女たちより先に受領したばかりのゲイツともどもジブラルタル基地への増援として派遣されている。  

   

  「おや話が終わったみたいだね。彼らがこっちにくるよ。」  

  「そう。」  

   

  キャットウォークで何やらいろいろと話をしていたようだが、それを終えた後、二人そろってこちらの方にやってくる。  

   

  「ヘルガさん、デラさん、こんなところでどうされました?  

   何か私に用でも?」  

   

  彼女たちの近くまできたアスランが二人に気づいて声を掛ける。  

  一応、彼女たちの隊長はアスランなのだが、開戦時からの歴戦の部隊から引き抜かれたMSパイロットであり、彼よりもかなり年上の女性なので、必要のない限り丁寧に話かけるようにしているアスランなのであった。その辺の対応を見るにつけ、このあたりアスランはやっぱりアスランだと、しょうもないことで納得するキラ・ヤマトがいることは内緒である。  

   

  「いや、特に用があったわけじゃないよ。」  

  「ああ、その通りさ。単なる気分転換といったところだよ。」  

   

  二人は何の気兼ねもないように答える。その口調、表情からは、それまでアスランを品定めしていた様子など欠片も見受けられない。  

   

  「そうですか・・・  

   ところで、こんなところでなんですが、父が迷惑をかけたようで申し訳ありません。」  

   

  その台詞を聞いた瞬間、ヘルガとデラの瞳がキラリと光る。  

   

  「どういうことかしら、ザラ隊長?」  

   

  二人は瞬時のアイコンタクトの後、代表してヘルガが問いを発することとなった。  

   

  「ローズバンク隊の話は噂で何度か聞いていました。  

   隊長を務めておられる薔薇のマリーはもちろんのこと、その中でもデス・メッセンジャーとアイアン・メイデンの二つ名を持つお二人についてもいろいろと聞いています。」  

  「へえ。」  

  「あたしらも有名になったもんだ。」  

   

  口笛を吹きそうな感じで応える二人。  

   

  「そんな高名なお二人にバックアップしてもらい、私としてはとても心強いと思います。  

   ですが、ローズバンク隊の結束の強さを考えるとこの状態は不自然としか思えません。現にお二人ともローズバンク隊を抜け、別の隊の隊長になっていてもおかしくない戦歴を積み重ねていらっしゃいながら、ローズバンク隊に居続けています。  

   ならば、考えられるとすれば、父が裏から何らかの手を回したというのが最も可能性が高いと判断せざるを得ません。」  

   

  さらりと裏の事情を指摘してみせるアスラン。  

  何気にいろいろと能力が上がっているようだ。  

   

  「・・・正解だ、ザラ隊長。  

   ああ、だが、勘違いはしないで欲しい。  

   別に議長殿はマリーに無理強いをしてきたわけじゃない。あくまで旧知の間柄からマリーに協力を頼んできただけさ。」  

  「やはりそうでしたか。  

   カーペンタリア基地で、貴方たち二人が配属されるとの連絡を受けた時から変だとは思っていましたが・・・」  

   

  既に割り切った表情で応えるヘルガに対し、少々曇り顔で返答するアスラン。  

  パトリックが私的なことへその権力を用いたことに憤りを感じているのだろう。だが同時に、父が示してくれた息子への配慮に感謝しているのも事実であったので、その内心は複雑な模様を描いているようだ。  

  一方で蚊帳の外に置かれていたキラが質問を投げた。  

   

  「アスラン、ローズバンク隊の二人がここにいるのは、そんなに不思議なことなの?」  

  「そうか、キラは知らないのが当然だな。」  

   

  そうアスランはいうとヘルガとデラの方に視線をわずかに向ける。  

  特に何かをいってくる様子がないことをさっと確認するとキラに対し改めて説明をする。  

   

  「ローズバンク隊は、開戦初期からずっと最前線で戦い続けているザフトの数多ある部隊の中でも歴戦の部隊だ。  

   そして、そんな隊を率いるローズバンク隊長は通称を薔薇のマリーといい、スカーレット・ローズの二つ名を持つザフトのトップエースのうちの一人だ。」  

  「うん。そこまでは調べたから知っている。  

   これからは一緒に作戦行動を取る人達だからね。」  

   

  まるで屈託なく答えるキラに、やっぱりこいつは天然だと内心しみじみと思いながら説明を続ける。  

   

  「ローズバンク隊が他の部隊と一線を画すのは、隊員の大半がエースというべき撃墜数を誇ることあるが、むしろそれよりも、隊員個人の撃墜数が単独撃墜よりも共同撃墜の数が著しく多いという非常にまれなケースで有名なんだ。」  

  「・・・それは凄いね。」  

  「本来なら、それだけ優秀な隊員はあちこちに引き抜かれて、他の隊の隊長を務めても全然おかしくないんだが、チームとしての共同撃墜が異様に多いことと、内々の転属の打診を隊員全てが断ることから、ザフト上層部もその戦闘効率の高さを認め、例外的に開戦以来のメンバー構成で戦い続けてきている稀有なチームなんだ。」  

  「なるほど。  

   そんな有名な隊の二人がこの部隊に来たので、アスランは不思議に思ったわけだ。」  

  「まあ、そういうことだ。」  

   

  それまでキラとアスランの二人の会話を静かに聞いていたヘルガとデラは、アスランの評価をやや上方修正することに決めていた。裏の事情を予測し、さらに、少なくとも短時間で背景をしっかり調査するだけの分別と能力はあると。  

  そんな内心の考えの変化はおくびにも出さず、デラが二人に向かって言う。  

   

  「まあ、ザラ隊長の考えもわかるけど、さっきヘルガも言ったように別にあたしらは無理強いされたわけじゃないよ。」  

  「私自身もそう思いたいところですが・・・」  

   

  デラの言葉に応えるアスランの語尾がわずかに鈍るが、  

   

  「マリーにしてみれば、あんたは世話になったレノア先輩のたった一人の忘れ形見だからね。  

   議長からの連絡も命令ではなく、あくまでできればという頼みだったし。」  

  「レノア先輩って、マリー隊長は母さんの後輩なんですか?」  

   

  思わぬところで母親の名前を聞き、わずかに狼狽してしまう。  

  キラもまた、世話になったレノアの名前にびっくりしたような反応をしている。  

   

  「そうだよ。そして、わたしらはマリーの頼みであんたの補助にやってきたというわけさ。」  

  「そういうこと。」  

   

  そういいきった二人に対し、アスランは深々と頭を下げた。  

   

  「ありがとうございます。  

   経緯はどうあれ、お二人の加入で隊のまとまりもはるかによくなっています。」  

  「別に頭を下げられるようなことじゃないよ。それがあたしらの仕事だからね。  

   それにネビュラ勲章を授与されたあんたの能力は、決して親の七光りなんぞじゃないさ。ローズバンク隊から引っ張ってきたやつら以外の隊員達もあんたの能力を認めているよ。」  

  「それでも、大いなる安心感のもと戦えるのは貴方がたのおかげです。」  

   

  くそまじめなアスランの応答にヘルガとデラの二人は苦笑をもらす。  

   

  「それじゃ、その感謝の気持ちをバーで形で表してもらおうか?」  

  「幸い貨客船を改装したこの船にも結構な酒が積んであるようだし、戦闘はまだしばらく先だからね。」  

  「わかりました。喜んでおごらせて頂きます。」  

   

  それからアスランは、二人と連れ立って船橋の階段を下りていく。  

  いきなりの成り行きにキラがあっけに取られていると、階段下からアスランが呼んでくる。  

   

  「キラ、何をしてるんだ。早く来い。」  

  「う、うん。わかった。」  

   

  あわててキラもまた船橋の階段を駆け下りる。  

  3人に合流した後で、キラは先ほどの深刻な雰囲気はなんだったんだろうとおもわず内心で自問自答してしまっていた。  

  もっとも、酒場に乗り込んだ後はそのようなことを考える余裕はまるでなかったが。  

   

   

  翌日、二日酔いに苦しむアスランとキラの様子を笑ってみているヘルガとデラの姿が多くの隊員によって確認されている。  

  ・・・それにしても、戦場に向かうというのに肝臓の機能も強化されているコーディネイターを二日酔いにするだけのアルコールを積んでいる船というのも空恐ろしいものを感じるところではあったが。  

   

   

   

  ただし、この陽気な雰囲気は、数十分後に入電したアフリカ方面にてヴァシュタール隊戦闘開始との報により崩されることになる・・・  

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 

 年末年始で書き溜めておかなかったら絶対今月中には投稿できなかったな、うん・・・

 何はともあれ新しい年の始まりを前回より引き続き、心を亡くす日々を過ごしている状態でございます。

 まあ、明けない夜はないということで次、いってみよう。

  >うーん。直接の戦闘より、こう言うあたりの描写を読んでたほうが面白いんだよなぁ、この手の小説w
  >これは私の嗜好なのか、それともそういうところがこの手の小説の肝というところなのか、うーむ。

 私の嗜好もそんな感じですな。もちろん、戦闘シーンも充実していればいうことないんですが・・・(核爆)

 >そうですねぇ。例えるならモーツァルトに嫉妬するサリエリの心境ですか?(爆死)

 ・・・いや、その、生々しすぎて凄く怖いんですけど?(笑)

 もし、意味が分からない人がいたらネットで検索してみてくださいね〜。私が怖がっている理由が分かると思います(爆)

 

 さて、種運命ですが・・・

 いや、もうどこをどう突っ込んでいいのやら(苦笑)

 多分リアルさを求めている私の方が駄目なんだとは思いますが、もうちょっと何とかしようはなかったんかいなあ(遠い目)

 ネットのどこで読んだのか忘れましたが、種運命はガンダム風スーパーロボットアニメだという言葉に思わず納得してしまったのは内緒です。

 

 では、今回は突込みではなく疑問を少し。

 

 セイバーはプラントから直接オーブまで来たんですかね?もちろん単機で大気圏突破して?だとすると恐ろしく足の長いMSだなあ。

 大西洋連邦って、たった1隻の戦闘艦を沈めるのに1個機動部隊を差し向けられるほど戦力が有り余っているんでしょうかねえ?

 シン・アスカのSEED発動状態の時、連合のウィンダム部隊は何してたんでしょうねえ?

 何で短機関銃とかもった特殊部隊隊員に拳銃装備でしかないマリューやバルトフェルドが対抗できたんだろう?まあ、それとは別にあのギミックを見て、サイコガン?と言えた人はお仲間です(爆死)

 どうしてキラ邸?には、あんな頑丈なシェルターが装備されてたんでしょう?しかもアレだけのサイズの邸宅に孤児が数人・・・いいんかそれで?

 マリュー×バルトフェルドっていうフラグなのか、アレは?

 

 まっ、それでも見続けるんだから問題ないっちゃ問題ないんですけど(苦笑)

 

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

んー。今回、文章がこなれてないところが目立つような。

 

>それゆえ、プラント側は自分たちの所ではなく他の中立国、といっても現時点で残っている中立国(親プラントを表明しているが公式には未だ中立を維持している)は1つしかないため、隣国の赤道連合となるが、そちらへの脱出を前面に押し出し、避難を躊躇う者たちの背を後押しするつもりであったのだ。  

例えばこの部分にしても、

それゆえ、プラント側は戦争の当事者である自分たちの所へ直接脱出させるという選択肢を提示しなかった。
かわりに現時点で残っている唯一の中立国である赤道連合(親プラントだが公式には未だ中立を維持している)への脱出を前面に押し出し、避難を躊躇う者たちの背を後押しするつもりであったのだ。  

とでもしたほうがすっきりするんじゃないかと思います。文章に凝って読みにくくなってるんですね。

 

後、途中で地の文のフォローもなしにいきなりカナーバ議員の一人称が入るのはやや不親切かと。

 

・・・つーか「砂の薔薇」かよっ!(爆)

 

 

>ガンダム風スーパーロボットアニメ

合体するからスーパーロボットなんじゃないっ!

カッコいいからスーパーロボットなんだっ!

まぁ「ナンボカッコようても、合体せんことにはオモチャは売れまへんによってな」という世知辛い名言もありますが(爆死)。

と、それはさておくとしてもスーパーロボット的ケレン味を使いこなせていないし、演出はタルイし、

どっちかというとスーパーにもリアルにもなりきれなかった、80年代ロボットアニメを思い出すんですけどねぇ。

ほれ、ガルビオンとかサザンクロスとかドルバックとか(爆死)。

スーパーロボットをやるつもりなら、合体の後にポーズの一つも決めてしかるべきっ! なのです。

整合性を無視する=スーパーロボット風味ではないのですよ?

 

ガンダムでスーパーロボットをやるなら初代や、ZZ登場当初orW初期のようにスーパーロボット的演出で押すか、

さもなければレイズナーのように「必殺技つきリアルロボット」のがいいかと思うんですけどね。

せめて電童のノリで演出決めてくれればまだ見れるのになー。

 

>プラントから直接オーブまで

前作で同じような事を主人公がやってましたから、問題ありません。

こっそりセイバーにも核が積んであると考えればそれで十分ですよ!w

核分裂の力を借りて、今必殺のエクス---カリバー!(セイバー違い)

 

>サイコガン?

私もあのシーンは見ましたが、ナイフがあれだけ深く突き刺さってると、

中の銃に引っかかって腕が抜けないと思います。

そこらへんどーでしょ?(笑)