「……アタシを待たせるとはいい度胸してるじゃないか」


 ドミニオンを退け、伍式と零式が突入してかなりの時間が経過していた。
 万が一に備えると言う名目で、カチーナを筆頭にシースメンバーがまんまとM1のコクピットに収まっていた。
 M1部隊の損耗率以上に、選抜したパイロットの心身のダメージが予想以上に大きいが為の特別措置だったが、彼女はそれで終らせる気は更々無い。


「ラッセル、動けるのだけでいい。出るぞ」

〈認めません。貴方がたは指示あるまで待機をお願いします〉


 思いがけない返事に対し、カチーナは途端に不機嫌になった。
 クサナギのブリッジからの指令ならばともかく、エターナルから態々ラクスが横槍を入れてきたのだ。


〈現在三艦は丸裸も同然です。万が一の場合に対応できる戦力が抜けてもらっては困ります〉

「マテや。メンデルに入ってるのはお前の許婚も居たじゃねえか……冷たいな」


 だがラクスは毅然と突っぱねる。


〈……例えアスランが戻らずとも、私は戦わねばなりません……〉



 あくまでも合理的な意見を通そうとするラクスに、他のM1からもどよめきが走る。
 ……実を言うと、クライン派とシースの間には微妙な思想の食い違いが存在する。
 クライン派が両軍への干渉を行う事で、戦火の拡大を防ぐ事を念頭に置いているのに対し、シースは一般社会へ影響するありとあらゆる害悪の排除を目指している。
 極論から言えば、自らの命を守る為に引き金を引く事にも、留意せねばならないのだ。相手だって元を正せば生活が有り、家族が待っている。自らが恋焦がれる場所を、等しく有しているのだ。
 故に基本的なシースの戦闘理念は、カチーナ曰く“半殺し”。
 メインカメラ、及びメインアームの全壊によってその戦闘能力を実質的に奪う事で撃退と判断する。
 連合だろうがザフトだろうが、MAであろうと戦艦であろうとそれは同じである。
 コクピットへの直撃や、推進剤への引火を下手に狙う事はない。
 爆発の際の飛散物による更なる電波障害を懸念する事もあるが……只単に面倒なだけである。
 如何なる兵器もウィークポイントへの攻撃を回避するべく、ソフト・ハード両面であらゆる対抗手段を講じており、必殺必中の一撃で無い限りは一撃死はありえない。装甲が分厚くされ、他のパーツを犠牲にしてでも生存させる為の緊急回避プログラムだってある。
 その刹那の瞬間の手痛い反撃を防ぐ為にも、ごく一般で致命打とは捉えられていない部分を敢えて攻め、早々にお帰り願うのだ。
 通常の軍人なら、“人を残せば、新たな武器を手に来る”とでも言うだろうが、実際に修羅場を見てきたカチーナには解る。
 そんな度胸のある奴は一握りしか居ない。
 死にかけた恐怖と言うのは数分やそこらで払えるものでは決してなく、かなりの長きに渡り引きずるものなのだ。
 少なく共、その場を凌ぐには十二分過ぎる期間は無力化出来る。大局よりも局地戦が重視されるレジスタンス活動においては、上等な戦果を上げる事が出来るのだ。
 無論不可能な場合は涙を飲んで討つ必要はある。
 なのに、先程のラクスの物言いは、理想の為にはあらゆる犠牲を生む事を覚悟しろとも聞こえ、最も身近な存在すら切り捨てるようでは……と、言いようの無い不信を生み出してしまったのだ。
 だが……。


「唇噛んで震えてる様な奴には無理だな」

〈……え?〉

「理想の為に身を粉にする事は、カッコはつくが虚しいぜ?」


 きょとんとしているラクスを無視し、カチーナはブリッジのキサカへと通信を繋ぎかえる。


「どの道ドミニオンが黙っちゃいねえ! 時間稼ぎは必要だ!!」


 確かにその時、各艦でメンデルに接近する三つの熱源が観測されていた。
 暫しの葛藤の後、キサカは首を縦に振る。
 先程の戦闘からも、あのXナンバー相手にM1では対応不可能な事は解り切っていた。
 それでもカチーナは行くと言う。
 小難しい事を置いてけぼりに、只妥協とかが諦めが嫌いであったから……彼女は挑むようにクサナギから飛び出していった。
 同じく諦めの悪い皆々と共に。






 それより若干前。
 満身創痍のドミニオンは、デブリの影に隠れつつメンデルに再接近を試みていた。
 反対側のザフトの存在は既に捕捉はしている。
 今介入すれば三つ巴必須であり、殆どの艦砲を潰された現状では、ドミニオンこそ最も生存確率が低いだろう。


「これでは先に動いた方が不利です――どうしてもお聞き入れ願いませんか」

「はあ……」

「ここは援軍を要請して待つなり、一端引き上げ陣容を立て直すなりして出直す所です。それを……」

「僕ならここで、一番先に動いた方を狙うけどね」


 諄々(じゅんじゅん)と正論を並べていたナタルに、アズラエルの意外な意見が飛び出す。


「後だしした方がやりやすいのが、ビジネス界の鉄則です。ましてや背中を向ける相手を蹴りたくなるのは、悪人の道理でしょう」


 冗談めかして言っているが、鋭い言葉だった。
 如何にナスカ級三隻とはいえ、歴戦の不沈艦に加え正体不明の新型艦二隻相手では荷が重い。
 同等の戦力で同数であれば話は別だが、少なく共大天使はそう一筋縄ではいかない。
 只単に命じられるがまま、義務故に動く人間ならば……もっと早い段階で動き出し相応の被害を出して、分析の結果手持ちの戦力では不足だったと上層部に報告して終わりである。
 だがアズラエルの様に野心ある人間は、武勲が欲しい。
 ナスカ級が動かないのは頃合を見計らっているとも取れるが、矢張りそれとて大天使をどうこうするには至らない。
 結局は敵わないだろうと判断し……そこに、傷ついた格好の獲物がいたらどうするか?
 とりあえず手ぶらでは帰れない、と矛先をこちらに向ける可能性がある。
 Xナンバーの性能は信頼しているが、他のストライクダガーはほぼ全滅の現状。対空砲火も殆ど機能しない状態で、ナスカ級を撃退するまでドミニオンが持ち堪えられるか疑問である。


「ジッとしてもいられない。帰る事だって今はマズイ……だったら、ちょっとばかし頑張って流れを変えるしか無いでしょう」


 
 危険な賭けと言う事を承知しているのか、アズラエルの笑顔は何処か影がある。
 先程ゼンガーは連合軍の動きを牽制する為にも、生きて報告しに行けと断言した。
 が、彼に二の太刀は無い……のこのこ出て行った所で今度こそ容赦はしないかもしれない。
 だがこちらから仕掛けない限りは無視を決め込む事だって考えられる……少なく共死に体のドミニオンより、向かってくるXナンバーを優先する事は間違いない。
 ……結局、アズラエルの意見は正鵠を得たものであり、自らの術(すべ)が実現不可能だと認めざるを得なくなり……ナタルは苦い顔で号令する。


「レイダー、フォビドゥン、カラミティ……発進せよ」


 それは苦渋に満ちた声色だった。
 如何に戦闘用に特化された強化ナチュラルとは言え、辛い戦いになる。
 ナタルにはアズラエルの様に彼らを“部品”としては見れず……死地に送ってしまう事に激しい躊躇いがあったのだ。






「……なーに遠慮してんだ? 珍しい」


 常人なら失神必須の、フルスロットルでカタパルトから飛び出したカラミティが、その射程を生かし背部カノン砲を斉射。
 クサナギから発進した一機のM1の両足を、早速蒸発させた。
 だが周囲のフォローが早い。
 隊長機と思われる機体に蹴り飛ばされ、小さくなったM1は即座にクサナギの方へと舞い戻り、残った機体が猛然と反撃を開始する。


「やるもんだ! “オーブの腑抜けども”じゃないな?!」


 バズーカを撃ち込んでも、M1部隊はイーゲルシュテルンで叩き落し、爆発のスキに小隊単位で位置を変更。
 側面に回りこんで一斉射撃を試みるも、これはフォビドゥンの偏向装甲に阻まれる。
 入れ替わりで全面に出たレイダーが、その高機動を生かし分断を図るも、激しい回避運動の果てにもフォーメーションが崩れていない。
 


「連携が密になってるな……通信量のケタが違う」


 怒鳴り散らしつつ周囲に的確な指示を与えているであろう前線指揮官を想像し、無様と思いつつも“懐かしい”とオルガは感じる。
 “人は自らその味方を減らして”久しい。
 エゴ故に、慢心故に自ら首を絞めていった……同胞との生存の為の繋がりも、稀薄になりつつある。
 だがそれでも、技術の発展により、社会がいよいよ高密度小面積に完結していく中、持ち出す道具が違うだけで、太古から延々と続くこの“儀式”の場……戦場だけは変わらない。
 寧ろ、どんどん派手に、絢爛になっていくのだから堪らない悦びがある。
 


〈ブンブン逃げてるんじゃねえっ!! 抹っッァァァァァ?!〉

〈クサナギは……やらせない!!〉


 この手の類が遅れてやってくるのも、変わらずである。
 ……メンデルを離脱したフリッケライが、クサナギから射出された新たなフライトユニットを接続してレイダーに襲い掛かったのだ。
 流石に“スーパーコーディネーター”だけあり、重力にはオルガ達に匹敵するほど耐えれる様だ……そんな風に観察しつつ、オルガは再び“儀式”へと没頭する。
 ……これ以上無い娯楽を、“神に侵され”た事で知り参加する“資格”……即ち力を得たのだから、それなりに楽しまなければ勿体無いからだ。






〈何がやらせない、だ……遅い!〉

「す、すいません。フライトユニットを落とされて……」

〈口動かすより手を動かせ!!〉


 カチーナの叱咤を受けつつ、何故自分の周囲にはこうした活動的な女性しか居ないのだろうか? 等と脳裏を過るが、キラは直に本題に取り掛かる。
 レイダーはその巨大な翼に相応しく、かなりの推力を持つ機体……単純にドックファイトを行うにも並みのMSでは動きを捉える事すら敵わない。
 だがそれに匹敵するスピードで動き、足りない部分を動体視力で補うようにすればやれ無い事は無い。
 それは、悪夢に等しい力を得るに至った、己にしか出来ないかもしれないが。
 


「僕は力どころか、存在そのものを他から“奪って”在るのかもしれないけども……」


 三連機関砲が軌跡を残しつつレイダーに襲い掛かる。
 相手も位相転移装甲を搭載しているのか、装甲に阻まれ全て兆弾してしまうが、気をそらす事には成功したようだ。
 急制動の末に変形したレイダーは、腹部にマウントしてあった鉄球をあらん限りの勢いで投擲してくる。
 


「だからこそ僕は! それだけの重みを背負って行かなければならない!! 彼らが行けなかったもっと先へ、もっと遠くへ!!!」


 きわどい所で脇の横を鉄球が通り過ぎ、そのまま振り切るようにフリッケライを加速させる。
 ところがそこに横殴りの衝撃が襲った。
 かわした筈の鉄球が……忍び寄っていたフォビドゥンの偏向装甲で曲げられて軌道が変わっていたのだ。


「あ、あれだけの質量を捻じ曲げた?!」


 ビーム兵器等の重粒子は熱量こそ比べ物にならないが、小型軽量化の為に質量そのものは大した事は無い。
 偏向装甲はそれらに対する防御システムかと思われたが、どうやらそれ以上の性能が付加されていたようだ。


〈キラァァァァァァァァ!!!〉



 だがそれ以上の追い討ちは無い。
 間一髪、アスランのゲイツが割り込んだことで動作を潰されたのだ。
 怒りの矛先を彼に向け、撃ち放たれるビームをことごとく弾いて鎌を振り回すフォビドゥンにも怯まず、ゲイツはビームクローを展開して鍔せり合っている。


「アスランも必死だ!」


 メンデル内部での、劇的とは言いがたい慌しい再会が思い出される。
 双方暫し唖然となり、驚きが冷めて懸念が確信に変わると、怒りさえこみ上げたのだ。


『何故君が?!』
  
『何故お前が?!』


 自分がその身を犠牲にする事には頓着しないくせに、親しい人間がそうなる事に憤りを感じる。
 随分と無責任な話である。
 ひょっとしたら永遠に失われるかもしれない自らの平穏の象徴を……他人に求めていたのだから。
 


『男なんでしょう? やる時にはやらないといけないんでしょう……?』


 その時、妙に達観し物憂げなフレイの声色が心に響いた。 
 そうなのだ。
 “やらないといけない”と強迫されるように踏み出したフレイと……もう一人。
 トールに至っては、本当にその身を犠牲にしてしまった。それは誰のせいでもない。そういう場に踏み込んだ彼自身の決断故の結果だった。
 それに後悔は無いだろう……死んでしまったらそんな事は出来やしない。
 だから残された者の後悔だって知る事が無い。
 ……でも、知ってしまった以上は無視する事は許されない。
 残される者の悲しみを、残されるかも知れない人の脅えを……促してはならないのだ。


「生き足掻いてやるさ!! どこまでも!!」


 キラは、その覚悟に満ちた視線でレイダーを再び睨みつけ、命懸けの鬼ごっこが再開される。







 メンデル内部にも外の戦闘の影響が出始め、かすかな振動が大地を揺らす。
 積もり積もった塵が巻き上げられ、一人取り残されたイザークの視界を奪う。


「見送る事しか出来なかったか」


 次に目を開けたとき、砂の中に銀糸が流れる。
 魔を祓うように、破邪を為すように。血のように赤茶けた大地に構う事無くあり続ける。


「どうすればよかったかな……」


 迷いが残るイザークに対し、その躊躇いすらも悪と言わんばかりに言葉が投げかけられる。


「知らぬ。そなたが選んだ道には過ちもあろう、後悔もあろう……だがそれを正しかったと納得させるのは、矢張りそなたしか居ない」


 不意に風が止む。
 互いを覆っていた砂のカーテンが払われ、二人は真正面から相対する。


「もっと単純に考えよ。信じるがままの道を歩めばよい……あまりしがらみに囚われるな」

「そんな風に割り切れれば苦労はしない! このままではお互い……!!」


 殺しあうだろう。
 そう考えた時、イザークには二重も三重の枷がかかる。
 特に目の前の少女に対しては、愛憎や尊敬を超えた多くがある。
 


「それもまた仕方があるまい」

「……!」

「皆自分の足があるのだ……足並みを揃え行進するのは、童子までにせねばな?」

 本来、寄り固まって一つの道を行く事こそが異常とすら、彼女は言ってのける。
 皆々、己の目指す場所の為に勝手に往く。
 効率的では無いかもしれないし、寄り道だってする。はたまた目標そのものが摩り替わって逆行したり蛇行したり……。
 その中に正解は無い。強いて言うなら歩む者が信じる限り、何処までも正解なのだ。
 


「まあ、一人か二人寄り添い進むのも良いし、偶には他と交わる事もあろう」

「ククル……」

「今生の別れと言う訳でもない……縁は廻(まわ)るさ」


 再び視界が奪われた時、そこには何も無かった。
 またしても一人取り残されたイザークだが、今度は立ちすくまない。
 


「……今度会った時こそ、鼻を明かしてやりたいものだ」


 笑みさえ残しイザークも往く。
 往き付く場所さえ解らないが、自らの思うがまま、自由に、自在に。






「ナスカ級です!! 距離80、ブルーデルタ!!」


 ドミニオンの再侵攻からそう経たない内に、サイが凶報を告げる。
 現状の戦力では三機のXナンバーを抑えるのが精一杯であり、メンデルに突入した機体もまだ二機しか戻っていない。
 言いようの無い焦りがマリューを襲うが、それはようやく解消される。


「艦長!! 零式です!!」


 ミリアリアの弾んだ声が、それをもたらしたのだ。
 モニターには港を出た時点でエターナルへと戻るブリッツとカスタムジン。それに零式にしがみ付く様な形の伍式と、それらを曳航するバスターが映っていた。


〈嬢ちゃんがやられた! 救護班頼む!!〉


 歓声に包まれかけたブリッジが一気に冷え込んだ。
 ミリアリアは思わず口元を押さえ悲鳴を押さえ込み、サイも油汗をかきつつ息を飲んでいる。
 マリューは身を硬くしつつ、すぐさまクルーに指示を下していく。
 アークエンジェルまで辿り着いたバスターは、二機を託すと対空防御のポジションに戻った。
 時より苦戦を強いられているM1隊に対し、インパルスライフルで援護射撃を行っている。


〈大丈夫か、嬢ちゃん?!〉

〈だ、だから嬢ちゃんじゃ無いってあれほど……〉

〈むう、難しい所だな〉


 駆けつけたゼンガーに担ぎ出されたのだろう。
 嬉しい悲鳴が微かに響き、フラガ同様取り残された虚しさを感じつつマリューは戦闘に専念する。
 どんどん距離を詰めてくるナスカ級に対し全砲門を展開するが……。


〈地球連合軍艦アークエンジェル級に告げる。戦闘を開始する前に本艦において拘留中の捕虜を返還したい〉


 などと、なめらかな男の声が響いてきて、気勢を殺がれる。
 全回線を使用した広域通信だ。当然背後のドミニオンにも聞こえている。


「……何だと?」


 レーツェルの怪訝な言葉を待つ事無く、ザフトは次々に戦力を展開している。
 とてもじゃないがマトモにそんなやり取りが出来る現状ではない。


〈エターナルとクサナギで迎撃する。大天使はドミニオンを〉

「……了解した」


 バルトフェルドの言葉にも歯切れが悪い。
 マリューもまた、策謀めいた物を感じていたが……喉に骨が引っかかる様な気味悪さを拭えずにいた。
 十二機のジンが発進し、その後で一機だけ脱出ポッドが射出される。
 この戦力密度では何時流れ弾に当たってもおかしく無いし、下手をすれば遺棄される事も考えられる……。
 恐怖があるだろう、助けを切望しているだろう……そんな風な罪悪感がマリューの只中でどんどん増殖していき、やがては頭痛として表に現われるほど強くなっていった。


「……っ?!」

「君もか……マリュー艦長」


 レーツェルに至っては額に汗を浮かべてさえいた。
 それほど強い願いがあのポッドからは感じられた……。
 只一言、“助けて”と。







「……?! どういう事だこれは?」


 同じ感触をナタルも味わっていた。
 アズラエルも何かを察したのか、微かに首を傾げたが……。


「……本当に乗ってるの、捕虜なんでしょうかねえ?」



 その感覚は無視、いや黙殺したようだ。
 彼だけで無い。
 他の二機が何やら解らず戸惑っているのに対し、カラミティだけ、率先して前線に飛び出している様にも見える。
 極々一部の人間だけが先程のメッセージを受け取り、オルガの様な好戦的な人物にはノイズの様にも聞こえたのだろう。
 ……そこから先の展開を考えてナタルは身を強張らせる。
 戦場では流れ弾が飛ぶのは当たり前……心なしか、アズラエルもそれを望んでいるようにさえ思えてきた。
 ナタルは必死の形相で通信機を掴むと、命令した。


「オルガ=サブナック少尉!! ポッドを回収しろ!!」

「えー?」


 背後のアズラエルは如何にも不満そうな顔をするが、無視。
 それよりも、こちらに微かに向いたカラミティのツインアイが殺意を湛えている様で、余程こちらの方が脅威であった。


〈……あんだと、邪魔すんなよ?!〉

「初陣で捕虜を犠牲にしたとあっては士気に関わる!! 急げ!!」

〈知るかよそんな事!!〉


 前線に出る人間にとってこれほど身勝手な命令もありはしない。
 感情的な理由で保護したいと言う思惑が見え見えで、命を張っている彼にとっては理不尽極まりないだろう。


「いやあのね、だから罠って可能性だってあるんだから、ここはサクっと」


 だがそれでも……ナタルは食い下がることは無い。


「……頼む!」


 断固とした硬い意志を、ナタルは貫く。
 彼女は賭けたのだ……自らの予感に、心に立ち込めた不気味な予感に対し。


〈……チッ!!〉


 周囲に居たジンを数機程蒸発させ、カラミティはポッドを掴むと急速反転して戻っていった。
 つられる様にレイダーとフォビドゥンまで戻って来るのが不思議だったが、とにかくナタルは安堵して座り込んだ。
 ……だからオルガ同様、舌打ちしたアズラエルの存在まで注意が回らなかった。


 

 

 

代理人の感想

うむむむむ?

原作だとフレイがニュートロンジャマーキャンセラー持ってくる場面だと思いましたが・・・・・

今回のパンドラの箱は、一体中身は何でしょうねぇ?

着々とフラグを立てていくナタルさん(爆)もあれですが、いや気になる気になる。