PHASE−01『平和崩壊』



 血のバレンタイン事件をきっかけに連合とザフトが開戦してから早十一ヶ月が経った。

 宇宙の至るところで、地球の世界各地で戦闘が行われ、双方多くの命を失い、この瞬間もまた失われている。

 世界が戦争で湧いているなか、L5ポイントに存在する中立国オーブの資源衛星<ヘリオポリス>は別世界かと思えるほど平穏な日々を送っていた。中立国の資源衛星なのだから襲われる方が間違っているといえばそうかもしれないが、外で戦争が起きているなど微塵も感じさせない。

 それでも大人たちは街中の立体映像によるニュースや家のテレビ、ラジオで戦争が今現在起きていることを見聞きし、いつか自分たちもその渦中に入るのではないかと心配しながら生活している。子供たちは大人と違い、ほとんどが「へえ、戦争やっているんだ」程度の認識で戦争を取り扱ったアニメや漫画の話を聞いているように現実味がない。毎日学校で勉強し、友達と遊ぶほうがよほど重要だった。

 ヘリオポリスのなかでも有数の工業カレッジに通う所謂コーディネイターの少年キラ・ヤマトもまた、多少大事の事件程度の認識しか持ち合わせていなかった。今は戦争よりも知り合いの教授に頼まれた仕事をこなすことに手一杯といったところだ。

 カレッジ内の緑が多いフロアのいつも使っているテーブルで黙々と作業をする。左手に資料を持って右手だけでキーを叩く。その速度はやたらと速く、彼がコーディネイターであることを示している。

 順調に作業をしていると聞き慣れた声が自分の名前を呼んだ。顔を上げて声のほうを見ると友人であるトール・ケーニヒとミリアリア・ハウが並んでこっちに向かってくる。

「キラ、こんなところにいたのかよ。カトウ教授がお前を呼んでいたぜ」

「え〜またぁ?」

「また何か手伝わされているの?」

「昨日渡された分もまだ終ってないのに」

 思わずキラの口から溜息が漏れる。カトウ教授はキラがコーディネイターであることに目をつけて頻繁に仕事の手伝いをさせていた。今回のように間を置かずに同時進行させられることもしばしばあった。

 疲れた両肩を思いっきり伸ばし、テーブルを囲っている木に背中を預ける。トールが隣に来てパソコンを覗き込んだ。

「何か新しいニュース?」

「うん、カオシュンだってさ」

 キラは画面の隅に映し出されていたニュースの映像を拡大する。パソコンの画面には破壊されたビル、実況するレポーター、それに灰色の巨人――ザフトの量産型MSジンが二機映されている。

 MS、それは宇宙世紀時代に使われていた人型兵器。宇宙世紀最後の大規模な戦争、ザンスカール戦争が終結したのを機に廃止されたはずの兵器だ。キラたちは歴史の授業で散々宇宙世紀の戦争とMSについて習っていた。史実では確かにMSの技術は封印され、廃止されたと載っている。だがそれを、ザフトは蘇らせたのだ。宇宙世紀時代の技術とは違う、独自の技術で。

「うえー、先週でこれじゃあもう落ちてるんじゃない」

「カオシュンなんて近いじゃない。このコロニー大丈夫かなあ」

 トールと挟み込むようにミリアリアはキラの傍に立ってニュースを見る。カオシュンはこのコロニーより程近い場所にある連合傘下のコロニーだ。

 心配そうな顔でニュースを見るミリアリアにトールは陽気に言った。

「そりゃ大丈夫だよ。ここは中立のコロニーだぜ? 戦場になることはないって」

 トールが笑ってみせる。ミリアリアはそれでも不安なようで、うん、と小さく頷きながらニュースに見入る。キラは辺りを飛び回るトリ型ロボットのトリィを眺めていた。昔の友人から貰った大切な宝物。それを眺めると昔のことが鮮明に蘇る。

 幼い頃の自分と友人。友人はプラントに避難することになっていた。その日は別れの日。親しくしていた友達と別れる日であった。

「キラ、何してんの?」

 昔を回想しているところを現実に引き戻される。突然のことだったのキラは思わず椅子から滑り落ちる。トールとミリアリアはくすくすと笑いながら先に立ち上がった。

「早く行こうぜ。サイとカズイはもう行ってるはずだから」

「う、うん」

 キラはテーブルの上に散らばったペンや資料、パソコンをバッグに詰め込んで二人の後に続く。




 過去のMSのなかで最も有名なMSは何か。もしそういう質問がされれば誰もが考えることなく『ガンダム』と答えるであろう。

 それがどういう意味なのか、答えは歴史を振り返れば分かる。宇宙世紀時代の戦争では多くのMSが開発され、使用され、破壊された。そのなかで特に秀でていたのが<ガンダム>である。乗り手に恵まれた、ということもあるがその性能は確かなものとして現在に伝えられている。一年戦争時には一機のガンダムで数百のザク――連邦と対立したジオンの主力MSである――を落としたという伝説(なのか事実なのか定かではないもある。

 現在進行中の地球連合とザフトの戦争では消え去ったはずのMSこそ復活したが、未だガンダムを模したMSは現われていない。第一、今までのガンダムは連邦側、現在で言う連合側によって製造されてきている。もし、ガンダムが復活するのならば連合の手によってであろう。

 そして連合は遂に復活したMSに対抗すべくガンダムを蘇らせた。とはいっても極秘裏に五機のみが製造されたのでそのことを知るものは少ない。さらに五機は連合の領域にあるのではなく、あろうことか中立国オーブの資源衛星<ヘリオポリス>に新造艦と共に起動の時を待っている。

 ガンダムが有名、ということはそれにまつわる事件や戦いも有名である。なかには一般人には知られることのない、数少ない人物だけが知ることのできる事件もあった。そのなかの一つに<ガンダム試作二号機強奪事件>というのがある。これは核兵器を積んだガンダムが敵によって奪われ、その力によって連邦が大打撃を受けたというものである。一般人でこれを知っている人はいないが、軍人はいる。そして、過去の成功に習おうとする者もまたいるのだ。

 ヘリオポリスに程近い衛星に身を潜めているザフトの戦艦はレーダーに捕らえられることもなく、陰に隠れているために万が一にも視認されることもない。その艦から二つのポッドが圧縮空気によって射出された。二つのポッドは発見されることなく取り付いたポッドの中から十数人のノーマルスーツを着た人間が現われた。十数の人間は手早くエアロックまで行ってハッチを開ける。中は人が通る隙間のないほどに赤外線が張り巡らされていて、一瞬でも触れれば侵入が発覚されることだろう。

 赤外線を少し眺めたあと、リーダーらしき男が左手の時計に目をやる。一秒、一秒と過ぎていき、秒針が十二を刺すと同時に赤外線が全て消え去った。内部工作員との打ち合わせ通りである。リーダーはメンバーと顔を見合わせ、頷くと次々と内部に侵入する。もちろん、このことに気付いた人間は誰一人としていない。




 キラたちがいつも同じ人しか見ないタクシー乗り場に着くと何人か先客がいた。その中で最も目立っている赤い長髪でピンク一色の服を着た少女フレイ・アルスターがミリアリアを見て名前を呼んだ。

「ミリアリアじゃない」

「おはよう、みんな」

 フレイと一緒にいた二人の少女がミリアリアに駆けより、笑いながらわざと皆に聞こえるように耳打ちする。その間キラはフレイに魅入っていた――それも仕方がない、彼はフレイに少なからず好意を抱いているのだ。

「フレイね、あのサイ・アーガイルから手紙もらったんだって!」

「もう、なんで言うのよ!」

 キラの口からえっ、と声が漏れる。サイ・アーガイルはキラの友人の一人であった。そのサイがフレイに手紙を送った。それはつまり、サイもフレイを好いているということになる。

 思わぬライバルが出現して呆然としているとフレイと目が合う。フレイは表面的な笑顔を見せ、キラは見惚れてしまう。

 散々手紙の話で盛り上がると咳払いが一つ、話のなかに割り込んできた。音のほうを見るとサングラスをかけた女と男、それにいたって普通の青年が一緒に立っていた。

「乗らないのなら先に乗っても構わないかな?」

「あ、すいません」

 後ろのほうで少女たちの会話に耳を傾けていたトールが頭を下げて道を譲る。普段同じ人しか見ないタクシー乗り場に現れた怪しい風貌の一組の男女と普通の青年。キラは少し変だなと思いながら道を開け、三人がタクシーの乗り込み遠のいていくのを見ていた。

「もう、知らない! 早く行くわよ!」

 サイとの関係、手紙のことを嫌と言うほど問い詰められてフレイはそそくさとタクシーに乗り込む。付き添いの二人はミリアリアに別れを告げてから乗り込み、あっと言う間にタクシーは姿を消す。

「あのサイが手紙ね〜。これは強敵出現だよ、キラ・ヤマト君」

 フレイが見えなくなるとトールがキラに顔を近づけてわざとらしく君付けをしておちょくる。ミリアリアもそれに乗っかって笑いながらトールと先に自動運転のタクシーに乗った。

「別に僕は……」

 言い終えるまえにタクシーが出てしまいそうなので慌ててキラは乗り込み、タクシーは一路カトウ教授が待つモルゲンレーテ社に向かった。

 現代のタクシーはほぼ全てコンピュータ制御による無人タクシーだ。中には仕事というよりも趣味で手動運転でタクシーをやっている者もいるが安全性でも費用でも断然無人タクシーのほうが良い。今キラたちが乗っているのも無論無人タクシーであり、何事もなくスムーズにモルゲンレーテに到着する。

 モルゲンレーテはオーブの各コロニーにあるくらい大きな会社だ。様々な部門があり、多くの研究者や博士が日々研究をしている。社内に入るには特別なIDカードが必要であり、キラたちはカトウ教授のゼミを受けているのでIDカードを持ち合わせていた。カードを機械に通すとすぐに確認が取れてゲートが開く。

「キラが訊けないってなら俺が訊いてやるって」

 トールはタクシーに乗っている間ずっとサイとフレイと手紙の話ばかりしていた。キラのフレイに対する態度は明らかに好意を抱いているものであり、本人以外は大体がキラがフレイを好いていることに気付いている。それを知ってトールはからかっているのだ。ミリアリアはくすくす笑うだけでキラを助けようとはしない。

 キラはいい加減にしてよ、と何度も何度も自分の気持ちを否定するが効果はない。社内に入って少しすると大きな建物の前でタクシーが止まった。三人はタクシーに料金を払い、建物のなかに入っていく。カトウ教授の研究室は地下にありエレベータを使って地下二階まで降りる。

 キラはトールから逃げるように早足で研究室の自動ドアに向かう。入ろうとするとドアが開き、色つき眼鏡をかけた少年サイ・アーガイルが顔を覗かせた。

「お、やっと着たか、キラ」

「サイ……」

 いつもなら挨拶をし、雑談を交わしたりするものだが、今回ばかりはそうもいかなかった。キラにとってサイは大事な友人の一人であるが、今日からは手強い恋敵でもある。必死に思いのうちを顔に出さないように務めながらサイの後に続いて研究所に入る。

 広い一室の部屋には多くの機材が置かれていた。民間用の強化骨格が中央に置かれていて、それについての仕事だということが一目でキラには分かった。

 他にはパーカーを着た少しひ弱そうな少年カズイ・バスカークと、他の皆が知らない人が壁に寄りかかっていた。帽子を目深にかぶり、皮のジャケットを着ているので性別が分からない。

「ねえ、あれ誰?」

「教授のお客さんだってさ」

 ミリアリアが知らない人に目をやりながらカズイに訊く。カズイは興味なさそうに答えて、キラとトールのやりとりを見ていた。

 トールはキラの首を締め、手紙のことを訊けよ、と繰り返し言っている。それに気付いたサイは何がなんだか分からない様子で訊く。

「手紙ってなんのこと?」

「えっ!? あ、いや……そ、それより今日の手伝いってなに?」

「ああ、これだって。モルゲンレーテの方の仕事みたいだけど」

 サイはポケットからCDロムを取り出してキラに渡す。キラはCDロムを見ながら、溜息混じりに答えた。

「多分OSの書き換えだよ。興味ないんだけどね」

 キラが手伝いばかり増える毎日に飽き飽きしていると、トールは勝手に強化骨格を身にまとって遊んでいる。カズイがその隣で危なっかしそうに見つめている。

 研究所内にいる一人を除いて、至って平凡な毎日の光景だ。そう、至って平凡な。

 トールとカズイが遊び、サイとキラが話しをし、ミリアリアがつまらなさそうに辺りを見回し、帽子の人がうろうろしていると、突然研究所が大きく揺れた。

「な、なんだ!? 隕石か!?」

 サイが叫び声をあげる。その間にも何度も大きな揺れが起きる。サイは隕石だと言うが、キラは違うと思っていた。隕石ならば接近してくる途中に迎撃されるのがおちだ。もちろん、迎撃し損なうこともあり、現に一度隕石が衝突している。それでもキラはこれが隕石のせいだとは思わなかった。

 揺れは中々収まらず、警告が響き渡る。サイが率先して非常通路の扉を開けてみんなを廊下に出す。灰色の通路に人はおらず、素早く非常階段の扉をあける。既に避難している人がいて疎らだが上へのほうに向かっている。

「何があったんですか!」

 サイが事情を聞くと一人目の男が素っ気無く「知らねえよ」と答え、次の男が少年少女を驚かせた。

「ザフトが責めてきたんだよ。コロニー内にMSが入ったらしい」

 決して攻撃されるはずのない場所。平和な日常が続き、いつか戦争が終ると思っていた日々。彼らの考えは全て打ち砕かれた。それこそ粉微塵に。彼らが叫ぼうとも嘆こうとも平和な日常は戻らない。

 サイ、カズイ、トールとミリアリアの順に非常階段を上がって行く。キラも続いて上がろうとすると、教授の知り合いという人が非常階段とは反対の方向に走り出したのが見えた。

「き、君!」

 キラの叫びは届かない。ここで見捨てるわけにもいかず、キラも非常階段と逆の方向に走り出す。トールが遅い友人に声をかけると「すぐに戻る」とだけ返した。

 揺れのなかを走りながらキラは手を伸ばして教授の知り合いの手を掴んで引き寄せる。被っていた帽子が飛び、金色の髪が靡いた。キラの目に映ったのは自分と同い年くらいの少女であった。

「お、女の子!?」

「何だと思ってたんだ! それより離せ、なにするんだ!」

 見た目とは裏腹に気の強い少女カガリ・ユラ・アスハは激しく腕を振ってキラから逃れ様とする。呆気に取られていて手を離しそうになるがぐっと握りなおして離さない。

「避難するんだよ! こっちにいったって整備区画しかないよ!」

 すぐに非常階段に戻ろうとするが爆発が起こって道が塞がれる。キラは愕然とした。逃げるべき道が閉ざされた。すると少女の細い手がキラから逃れ、カガリは整備区画のほうに走って行く。

「あ、ちょっと、君!」

 戻ることの出来ないキラはカガリの後を追っていく。激しい振動と爆発音は止むことがない。不定期に爆発しては建物が揺れる。無我夢中で走っているうちにカガリは一つの整備区画に辿り着いた。

 そこは普段へリオポリスが見せることのない修羅場であった。整備員と思われる人がマシンガンを手にして向かってくるノーマルスーツを着た人目掛けて攻撃する。整備員の攻撃は空を行くだけで一発も当たらず、ノーマルスーツの攻撃によっ一人、また一人と死体へと変わっていく。

 キラは信じられない光景に半ば呆然としていた。目の前ではコンテナに身を隠して攻撃するノーマルスーツと、やけにでかい布を被せられた物体を盾に整備員が戦っている。ノーマルスーツは一旦物陰に隠れるとすぐに幾つか手榴弾を放り投げた。避ける間もなく、何人かの整備員が肉の塊になる。爆風の勢いで大きな布が一部めくれた。

 大きな布の間からは馬鹿でかい腕と足、そして顔が見えた。その顔にキラもカガリも見覚えがあった。宇宙世紀時代、大規模小規模に関わらず多大な戦果を挙げた伝説のMS<ガンダム>である。

「あ、ああ……」

 キラの手から逃れたカガリはガンダムを目にするとその場に崩れ込む。目には薄っすらと涙が浮かんでいた。

「き、君……どうしたの?」

 キラが震えた声を投げかけるが返答とは関係ない言葉が、怒りとなってカガリの口から発せられた。

「お父様の裏切り者!」

 カガリの激昂は爆発音のなかでも聞こえるほど大きく、その声に反応した整備員が二人に銃口を向けて数発撃った。幸い二人には当たらず、逃げ遅れた子供だとわかると撃つのをやめて敵を探す。

 キラはまだ気が動転したままであったが、ここにいては危ないということだけは認識していて、崩れこんでいるカガリの腕をとって無理やり立ち上がらせ、再び走り出した。

 どの通路も天井が崩れて塞がっている。走っている間にも何度か爆発が起き、ヘリオポリスは確実に崩壊していく。崩壊したのは、ヘリオポリスだけではなくそこに暮らしていた人々の生活、平和もまた崩れ去った。整備されて綺麗に整えられた区画は至るところが破壊されていて普段の姿を失っている。何事もなく平穏と生きてきた人が今はもうただの肉の塊に変貌している。

 キラは周りに目をやり、瞑りたくなった。見慣れた場所はもうない。知り合いもいない。なにもかも、少し前は全く違う。なぜ、自分たちがこんな目に。そう思わずにはいられなかった。

 無我夢中で走り続けるとシェルターの入り口を見つけた。一度閉められた扉は内側からしか開かないので備え付けのフォンを鳴らす。

『まだ誰かいるのか!?』

 フォンの向こうから大分焦っている男の声が聞こえた。

「はい、友達と二人です!」

『ここはもう一杯だ、B区画に向かってくれ!』

「一人は女の子なんです! その子だけでもお願いします!」

 一瞬の間があり、男がロックを解除しながら言った。

『分かった、入れ!』

 ありがとうございます、と素早く礼を言って地下から昇ってきたエレベータにカガリを押し込もうとする。だがカガリは体を振って避難するのを拒む。

「離せ、離せぇ! なにするんだ、馬鹿野郎!」

「早く避難するんだよ!」

 そういってカガリの体を思いっきり突き飛ばしてエレベータに押し込む。カガリが外に出ようとする前に扉が閉り、カガリの声を遮って地下に降りていく。

 キラは男が言ったようにB区画に向かう。それには先ほどの整備員とノーマルスーツとの激戦が行われていた区画を通らなければいけない。B区画しか行くあてがないのでキラは恐れながらも走り出した。

 先ほど激戦のあった整備区画は大分沈静化されていた。それでもまだ一人の整備員が己の敵を探して右往左往していた。今にも崩れそうな廊下を走っている時、キラは整備員の背後を狙っているノーマルスーツを見つけ、思わず叫び声をあげてしまう。

「危ない、後ろ!」

 整備員はキラの声に反射的に振り向き、手にしていたマシンガンを辺り構わず撃ち放つ。十数発しか残っていなかったようだが、敵兵を殺すには十分な数だった。整備員はキラのほうを向いて叫ぶ。

「あなた、どこに行くつもり!?」

 整備員はまだ二十半ばの綺麗な女性であった。一瞬目を奪われるが、キラはすぐに大声で答える。

「B区画のシェルターです!」

「あそこにはもう、扉しか残ってないわ!」

 底知れぬ絶望感がキラを取り込む。足から力が抜けて、床に膝をつく。このままここで死ぬのか、そういう気持ちが頭を過る。トールは、ミリアリアは、カズイは、トールは、そしてフレイは無事なのか。友達たちとの楽しい思い出が頭のなかを回っている。走馬灯というやつかな、やっぱり死ぬのかな。どうしようもなく途方に暮れていると、整備員の女性マリュー・ラミアスが手にしていた無線機から声が流れる。

『G三機、強奪されました!』

 マリュ―にもキラにもその声は届かない。さらに状況は悪化し、今しがた走ってきた通路も爆発の影響で壁が崩れ去り、後戻りもできない。さっきの少女が無事かどうかもわからない。もう助からないと思っていると、マリューが大声を張り上げた。

「こっちに来て、早く!」

 キラは多少ためらないながら他に方法もないので三メートルほど下に飛び降りた。コロニーの回転軸に近いこの区画はそれに伴って重力が低く、着地しても怪我することはなかった。降り立ったのは大きな布に隠された巨人の胴体の隙間だった。

「モビルスーツ……?」

 近くに降り立って初めてそれがMSであることに気付く。全高が二十メートルもある人の形をした物と言えばMSしか有り得ないが、キラは気が動転していて今まで気付かずにいた。

 工学カレッジに通っていてMSの知識はあり、興味もあった。自分の置かれている状況を忘れて間近のMSに意識を集中する。が、それもわずか数秒の間のことであった。銃声が鳴り響き、マリューが悲鳴をあげる。

「う、あぁ……」

 どうすることも出来ないが、キラはとりあえず倒れたマリューのもとに寄り添って声をかける。マリューの傷は致命傷ではないが、戦えるほど無事でもない。まずいと感じたときには遅く、振り返ってみると少し離れたところに赤いノーマルスーツを着た人がナイフを手に立っていた。ノーマルスーツを着た人はキラと同じくらいの背丈で、まだ若い子供のようであった。

 生まれて初めて殺意を間近に感じ、背筋が冷たく凍りつく。

――殺される――

 ナイフで胸を一突きされる自分が脳に浮かぶ。

――もう、駄目だ――

 ノーマルスーツに隠れていた顔が見える。海よりも深い蒼い髪にエメラルドグリーンの宝石のような瞳。キラは、その顔に見覚えがあった。

――地球とプラントで戦争が起きることはないよ――

 別れの日だった。言葉を交わした場面が鮮明に蘇り、二人は自然と互いの名前を呼んだ。

「アスラン……」

「キラ……」

 別れの日、一緒に毎日のように遊んでいた公園のブランコの前。アスランの手から渡されるトリィ。寂しげな顔で離れて行くアスラン。止め様として手を出すが、話し掛けることも手を出すことも出来ないキラ。

 全てが鮮明に蘇る。楽しかった日々、平和な日々。いつまでも友達でいられると思っていた毎日が蘇る。

 周囲で爆炎が燃え盛るなか、二人だけの時間が過ぎる。時が止まったようだ。だがそれも、いつまでも続くことはない。

 倒れていたマリューが拳銃を取り出し、アスランに銃口を向ける。殺気を感じて我に返ったアスランは大きく後ろに跳びのき、今立っているガンダムの隣にあるMSに移ってコックピットに滑り込む。

 マリューは舌打ちをしながらキラを真後ろのコックピットに押し込み、自らもコックピットに乗り込んだ。マリューは不慣れな手つきでコンソールの上で指を躍らせ、計器を作動させる。色々な計器に灯りが点き、モニターがメインカメラを通して外の世界を映し出す。

 キラとマリュー乗ったガンダム<ストライク>が立ち上がるのとほぼ同時に隣のMS<イージス>――これもまたガンダムであった――も立ち上がる。メインカメラ越しにモニターに映るガンダムは全身灰色で肩や背中や脚に鋭角な飾りのようなものがついている。歴史上のガンダムとはどれとも似ていないが、頭部は確かにガンダムタイプのものであった。

 二つの<ガンダム>は固定具やコードを引きちぎってその両足で大地に立つ。

 キラとアスラン。この時出会ってなければ二人はどのように時代を駆け抜けたのか。それは神しか知りえぬことなのかも知れない。しかしそのような時代はもう来ない。彼らは出会ってしまったのだ。それはもう変えることのでいきない事実なのである。

 幼い頃の親友は運命の再会を果たし、戦いの道を歩み始めた。



 戦争なんて外の世界の話だ。俺たち、私たちには関係ない。ヘリオポリスに住む誰もがそう思っていたはずだ。だが、そうではない。戦争は今、目の前で行われている。

 長い非常階段を抜けて外に出たトールたちは唖然とした。住み慣れた街が破壊されている。なぜ、どうして、なんで、言い方は違っても同じ意味の言葉が次々と口から零れ落ちる。

 トールとサイは唖然としたながも左右を確認し、被害の少ない方を探している。ミリアリアは顔を抑え、カズイは口を開けっ放しにして突っ立ていた。

「あ、あれ……」

 ただ突っ立っていただけのカズイが正面を指して震える声で言った。三人が指の方を見ると、ニュースを通した見たことのある巨人、ザフト軍主力MSジンの姿があった。目にした瞬間、ミリアリアが小さく悲鳴を上げる。
 
ジンは過去のMSのどれともさして似ていない。頭部だけなら有名なMSの一つ、ザクに似てないこともないが角のような物が大きすぎてザクとはかけ離れている。また翼を思わせるスラスターも特徴的だ。四人が目撃したジンはスラスターを吹かしながら人工の大地に降り立つ。ピンク色の一つ目が右に左にきょろきょろと動く様は獣が獲物を探しているようである。

「早く逃げよう。ここも危なくなりそうだ」

 サイが落ち着いてみせて他の三人を誘導して走り出す。ジンと逆の方向に逃げるが、それが間違いだった。ジンはまるで四人を狙っているかのように動き出した。四人は必死になって走り続ける。

 彼にとっての不運はまだ続く。向かう先で爆発音が轟き、二機の灰色のMSが姿を現した。一機は正確に立ち上がり、そのまま突っ立ている。もう一方は生まれたての子馬のように危ない足取りで近くの建物を五、六棟破壊しながら倒れこんでしまう。足元にいたと思われる人々が甲高い悲鳴を上げながらトールたちを無視して逃げて行く。トールたちはあまりの出来事にその場に立ち竦んでしまっていた。

「あれは……トール、サイ! それにミリアリア、カズイ!」

 マリューに無理やりコックピットに押し込められたキラはモニターに映る友人達を見て名前を叫んだ。しかしコックピットのなかの声が友人たちに伝わることはなく、友人たちは呆然とこちらを見上げている。

 叫びは友人たちには届かなかったが、敵には届いてしまったらしい。正面から一機のジンが突っ込んでくる。ろくに立ち上がれない様子をみて、ガンダムだと知っていても勝てると思ったのだろう。ジンの動きに迷いはない。

「こんな時に敵!?」

 右腕を抑えながらマリューが悲壮感を込めて言う。撃たれただけでも十分なのに倒れたさいに打撲し、右腕が言うことを効かなくなっていた。キラはただでさえ整備員の女性と一緒で不安なのによりによって怪我をし、またそれが悪化し、目の前には敵がいる。八方塞といっていい状況だ。

 マリューは右腕の痛みを堪えながら左手でどうにかキーを叩き、戦闘プログラムを呼び出す。そしてスロットルをローからハイに一気に上げる。熱風と轟音が瞬時にして起こり、逃げ惑う人々の聴覚を麻痺させた。

 本来なら上昇するはずだったがうつ伏せに倒れているために滑るように前に進み、建物に突っ込んで止まる。なおもジンは接近してきて、いつのまにか腰に提げていた巨大な鉄の剣を手にしている。マリューがどうにかストライクを立ち上がらせたところにジンの初撃が襲ってきた。大きく振りかぶって下ろされた重斬刀を自動防御システムを作動させたストライクが腕で受け止める。

 勝利を確信していたジンのパイロットは目を丸くした。今さっきまで全身灰色だったガンダムが瞬時のうちに赤・青・白の通称ガンダムカラーに変貌した。マリューは最後のキーを押すのと同時に目を瞑っていて、自分が無事なことを知って目をあける。

「やった……成功だわ」

 知らず知らずのうちに言葉がもれる。キラも神に祈る気持ちで瞑っていた目を開け、起動画面の英語の列を目にする。

「これ……GUNDAM……?」

 キラの目に映ったのは『General』『Unilateral』『Neuro-Link』『Dispersive』『Autonomic』『Maneuver』の六つの単語。それぞれの頭文字を取って並べると『GUNDAM』になる。大分無理やりなこじつけだが、連合としてはどうしてもガンダムと呼びたかった。ガンダムの数々の伝説を信じ、それにあやかろうというのだ。

 キラはもちろんガンダムのことを知っている。しかし、名前の由来というのは記憶になかった。こじつけのようにも思われたが、今はそんなことを考えている場合ではない。

 ガンダムの由来はともかく、灰色からガンダムカラーに変貌したことは、キラとマリューにとって歓喜の結果になりそうであった。

「なんだと、サーベルが効かない!? どんな装甲をしているんだ」

 ジンのパイロット、ミゲル・アイマンは苦々しく言い捨てる。彼の疑問は程なく解決した。

『ガンダムはフェイズシフト装甲を持っている。実剣じゃ倒せない』

 アスランからの通信だ。そうか、とミゲルは簡単に返答する。だがその苦々しい表情は変わらない。装甲の種が分かったところで打つ手がないのでは意味がない。それに手っ取り早くマシンガンを使っていればもう終っていた。それでもミゲルは『黄昏の魔弾』と呼ばれるほどの熟練者であり、過ぎたことをいつまでも後悔したりはしない。すぐにフェイズシフトを打ち負かす方法を考え、実行に移す。

 フェイズシフト装甲は宇宙世紀時代のMSにはない特殊な装甲であり、連合が開発した画期的な装甲である。簡単に言えば装甲に電流を流し硬質化して物理攻撃に耐えるというものである。ジンの通常装備のマシンガンや重斬刀では掠り傷つけることさえ出来ない優れものだ。ザフトにしてみればMSを蘇らせただけで精一杯、ビーム兵器を開発する余裕がなく装備のほぼ全て実弾、実剣が使われている。対抗できるとすれば対艦用の大型ミサイルくらいのものだ。とはいってもガンダムの全身がPS装甲であるわけではない。ない部分、それがPS装甲を持つMSの弱点だ。

 通信が終った直後、アスランの乗るイージスもPS装甲を作動させて灰色のボディーを真紅に変化させる。その直後、小型ミサイルが文字通り雨のように降り注いだ。数えるのが面倒なほどのミサイルはそれ以上に面倒な数のヘッドバルカンによって撃ち落され、一発足りともイージスには届いていない。全弾命中すればジン程度のMSなら一撃で沈むだろう。PS装甲つきのガンダムでさえ、その衝撃は凄まじいものがある。

 イージスの頭部がミサイルを撃った車両に向けられ、車両はお返しの雨を食らって粉々に吹き飛ぶ。ミゲルはイージスに通信を入れ、「早く行け」とだけ伝えてストライクと対峙する。

『後は頼む』

 アスランはストライクに乗っている少年の顔を思い出した。

――あれは……あれはキラじゃない!――

 そう自分に言い聞かせてイージスを上昇させ、そのままドッグを抜けて戦線離脱する。後に残ったミゲルのジンは右手の重斬刀を構えて、スラスターを吹かして突撃する。
 

マリューはどうにかこの場を凌ぐために自分の持つ戦闘知識を振り絞って戦おうとする。しかし整備員とパイロットでは戦闘能力に差がありすぎた。さらにストライクは立ち上げたばかりでキーを打って行動を入力しないといけない。ストライクはその性能を含めても圧倒的に不利である。

 ジンは一見してただ向かってくるだけに見えるが、微妙に左右に揺れて攻撃の予測をさせないようにしていた。マリューが必死にキーを叩くも間に合わず、自動で腕が上がり振り下ろされた重斬刀を受け止める。震動がコックピットに伝わり、キラは大きく前後に揺さぶられた。

 自動防御ではあったが致命傷を免れた。この一撃によって敵の意図にマリューは気付く。敵が狙っているのは肩の関節。その狙いは的確であった。PS装甲がない部分なら実剣でも十分効果がある。関節部分を全て破壊すればストライクは行動不能になり、捕獲することさえ可能だ。

 ジンは剣を引いてそのままストライクの後ろに抜ける。背後に回って反転し、再び突撃する。今度はメインカメラを狙ってバルカンを撃ちながら、重斬刀で肩の関節目掛けて切先を突き出す。マリューはバルカンを避けるほうに手一杯で、切先は再び自動防御によって防がれたが、単調な防御のためいつかは隙に気付かれてしまうだろう。

 ミゲルは自動防御の隙を見つけようと何度も攻撃を繰り返す。一撃ごとに深いところに攻撃が行き、あと数撃受ければ自動防御がおいつかないところを攻撃されるの明白であった。その時、メインモニターばかり気にしていたキラに見たくはない者が見えた。道路を瓦礫で封じられ、逃げるに逃げれなくなっていたトールたちである。

 キラの思考がトールたちに言っている刹那の間、止めを刺すべく離れた切先が迫ってくる。実際にはほんの数秒のことなのに、キラにとっては何十秒という時間を過ごしているように思えた。今ここで切先を受け、倒れたり爆発したりすればトールたちの命はない。友達が死ぬ、自分も死ぬ。死という恐怖がキラを取り込もうとしたとき、キラは咄嗟に前面のパネルにあるスイッチの一つを押し、マリューの握っているスロットを奪い、側面にあるスイッチを押しながらハイに入れる。

 キラの行動にストライクは瞬時に反応、ガンダムは巨躯を屈めて突き出された切先を避けるとそのままバー二アを吹かしてタックルを決め、ジンを百メートルほどまで押しつづける。ジンの重量が数十トン以上であることを考えると、ガンダムの名を冠するだけの基本性能はあるようだ。

「なんてパワーだっ!」

「君、なんてことを!」

 ミゲルとマリュー、言葉は違えど同時に叫び声をあげた。それに対抗するようにキラも叫ぶ。

「近くに友達がいるんです! 僕に操縦を代わってください!」

「君に……?」

「はやく!」

 マリューは訝しげな表情をするが、自分がやってもこのままでは負けるだけだし、先ほどの反応の早さをみてもキラに託すほうがいいように思えた。意を決してシートをキラに譲る。キラは鮮やかな指捌きでキーを叩くと基本OSスペックにし、その性能に驚いた。

「なんですか、これ。滅茶苦茶じゃないですか! これ、連合軍の機体ですよね?」

「仕方がないじゃない! 基本OSのプログラミングが間に合わなかったんだから!」

 キラが驚くのも無理はない。示し出された数値は一世代も前のMSと同等のものであった。本来のスペックを引き出せていれば、一世代前などという無惨な数値はでない。

 そこでキラは自分の持っている知識を総動員して分かるシステムを全て起動した。マリューは自分の目を疑った。軍最高機密のMSであるガンダムのシステムを次々と変更していく。そのスピードは腕が完全な状態のマリューでさえ到底及ばない。

 確かにキラの指の動きは凄まじく早いが、それでも全てを終えるまでには至らなかった。ジンは衝撃から立ち直り、再び重斬刀を構えて切りかかろう迫ってくる。キラは構わずにキーを叩いてデフォルトの行動の中から『後退』を選んだ。ストライクは命令に従って巨体を傾かせ、バー二アを吹かして三十メートルほど後退、着地する。ジンは攻撃を途中でやめることができず、重斬刀は中を凪いだ。

「動きが良くなっただと!?」

 ミゲルは驚愕せずにはいられなかった。初めはろくに立てもしなかったのが、今では大きく後退して着地までしている。さらに、攻撃の姿勢まで見せた。

 ジンの一撃を避けたキラはデフォルトの行動で簡単な命令文を組んだ。命令はすぐにストライクに伝わり、ストライクはバー二アを噴射して突進し、勢いにのせたパンチを繰り出す。ストライクの思わぬ攻撃をジンは避けることができず、頭部に思いっきり鋼鉄の拳が突き刺さった。

 吹き飛ぶジンを無視してキラはより高度な命令文を組んでいく。キーを叩く手は止まらず、流れるように最高機密のOSを書き換えていく。実際にはOSの本体ではなくその下層のプログラムを一部改変しただけなのだが、それでも先ほどとは比べるまでもないほど機体の性能を引き出している。

「凄い……この子」

 マリューは感嘆して言葉を洩らしながら、キラの凄まじい指捌きに見惚れていた。キラは最新鋭機をスロットルを使わずにキーだけで操作している。ある程度訓練を受けた人間でもここまで出来る者は極めて少ないだろう。

 そうこうしているうちにメインカメラを損傷したジンが体勢を立て直し、再び攻撃体勢に移っていた。撤退する気はまるでないらしい。キラは素早い手つきでキーを打ち、ストライクにバルカンを撃たせてジンを足止めする。

「なにかまともな武器はないのか!?」

 キラがキーを叩きながら叫ぶ。バルカンと素手だけでジンを倒すのは今のキラでは不可能なことだ。

「くそっ、いったい何が起きたんだ。急に動きがよくなりすぎた……こんな姿、あいつらには見せられないな」

 ミゲルは優勢から徐々に追いやられているものの、顔には笑みを浮かべている。余裕があるというわけではないが、久々に手応えのある相手に出会えたことが彼に笑みを浮かべさせていた。そして弾数の少なくなっているマシンガンを構え、連射する。これでPS装甲を破ることは不可能だが、メインカメラくらいは破壊することができる。しかし先を読んでいたかのようにストライクは上空に舞い上がった。合わせてマシンガンを上空に向けるが、彼方に飛んでいくだけでかすりもしない。

 ジンは弾切れになったマシンガンを捨て、ストライクの後を追って高く飛び上がる。キラは手を休めることなくキーを叩き続けた。キーでの命令は確実性こそ確かだが、スロットルで操作するよりも数段遅くなる。遅い分先読みして戦わなくてはいけないが、キラにもマリューにもそのようなセンスはない。一人は民間人、一人は整備員なのだから当然と言えば当然だ。

 ストライクは気付くと重力のない部分、コロニーの回転軸近くまで上昇していた。さっきのOS書き換えで宇宙用プログラムをメインプログラムからカットしているうえに、地球と違って三百六十度に気を配らなくてはいけない。二人にとって最悪の戦いの場である。

 キラがプログラムを直すよりも早くジンが追いつき、ヘッドバルカンで攻撃してくる。装甲に傷こそつかないが、制御プログラムのないストライクは錐揉み状態だ。再び自分が優位に立っていることを機にミゲルは連続して攻撃を加える。ヘッドバルカンで気を散らし、真上に上がって蹴り落とし、止めとばかりに重斬刀で斬りつける。だがそれも数十秒の間のことで、ミゲルは結果的にキラの機転にはめられてストライクを重力下に押し戻してしまった。

 重力が戻って地上用プログラムが働く。先ほどから武器を探していたキラは腰にナイフが二つ備え付けられてるのに気付き、バー二アを吹かして空中停止、腰からナイフを取り出して両手で構える。上から降りてきたジンが振り下ろした重斬刀を左のナイフで受け止め、右のナイフをすかさずコックピットの近くに突きたてる。同時に推進剤が切れたストライクはなるがままに落下する。

「メインシステムダウン……くそっ! 俺の負けか」

 ミゲルは自分が負けたことを潔く認め、足元の黄色のレバーを引いた。前面ハッチが仕込まれた薬莢で吹き飛び、左腕の時計が三十秒からカウントダウンする。それを確認してミゲルはコックピットから抜け出し、そのまま逃走する。

「パイロットが脱出……、まずいわ!」

 マリューはミゲルが逃げ出すのにいち早く気付いた。ザフトのMSに限らず、情報が漏洩することのないよう、MSには自爆装置が取り付けられている。パイロットが脱出、それはつまり自爆装置が作動したことを意味する。

「早く、こいつを引き剥がして!」

 咄嗟に言われても反応できるはずがなかった。OS書き換えをやったり、ジンを負かしたとはいえ民間人の少年なのだ、キラ・ヤマトは。

 ストライクが地上に到達するのを合図にしたように、ジンが大爆発を起こす。爆風で逃げ遅れていた人々と瓦礫が一緒に宙を舞った。

 ストライクそのものは頑丈な装甲なおかげで無事であったが、中の二人の人間は違った。大きな衝撃でコックピットが激しく揺れ、二人は頭部をあちらこちらに打ち付けて意識が朦朧となる。

 キラは朦朧とする意識のなかで、モニター越しに人工の空を見た。実際にはその先にいるであろう、過去の友人を見つめていた。

――君は本当に、アスランなのか……――

 数秒後、二人共気を失い、一先ずの戦いは終幕を迎えた。





 あとがき
  一話訂正版です。メールにて指摘があったPS装甲についてと、エネルギー切れのところを訂正し、初めのほうを書き直しました。
  二話、三話も訂正あるいは書き直しするので四話掲載は遅くなります。読んでくださっている方々、申し訳ありません。

 




 


 




 


 

代理人の感想

おー。

お久しぶりの陸さんだと思ったら、なんと種の二次創作!

ちょっと期待しちゃいますよー?