ＰＨＡＳＥ−０２『戦いの幕開け』
真っ暗な通路に数え切れないほどの構成材の破片と見分けがつかないほどに焦げている死体が浮いている。ザフトの工作員が仕掛けた爆薬が一番初めに爆発した場所であった。
幾つか物となって浮かんでいる死体のなかにまだ生きている女性がいた。気絶しているようで大きな破片がぶつかると、その衝撃で目を覚ます。連合軍少尉、ナタル・バジルールは頭を抑えながら自分の置かれた状況を把握する。
自分は新造艦＜アークエンジェル＞のクルーであり、今日五機のＧを搬入して出港するはずであった。それが突然あちらこちら爆発し、多くの仲間が死に、自分は気絶した。ザフトの攻撃、敵の姿を見てなくとも想像のつくことだ。
そこまで思い出してはっとした。アークエンジェルは、五機のＧは無事なのか、と。ナタルは節々が痛む体に無理をさせてアークエンジェルが停泊していたドッグの管制室に向かう。
管制室に向かう途中の通路は地獄絵図といってよかった。数十分前まで会話を交わし、これからの作戦について語り合っていた仲間が今はもうただの肉塊になっている。上官も同僚も部下も関係ない。同じように酷い姿に変わっている。あまりの惨状に自分が生きているのを不思議に思わずにはいられなかった。
通路を抜けて管制室に辿り着くと、そこもまた最悪の状態であった。艦長を含む上官は全て死亡。確認するまでもなく死んでいる。ディスプレイがあった場所は陰も形もない。恐らくその裏に爆薬が仕掛けてあったのだろう。生存者がいないのも当然だ。
絶望の底に叩き落されたナタルを爆発音と衝撃が襲った。またどこか別の場所で爆発が起こったのか、それとも何かがコロニーにぶつかったのか。彼女はこの時知りえなかったが、それは今日アークエンジェルに配属される旧式のＭＳと連合のエースパイロットを乗せた艦がコロニーに激突したために起きた衝撃である。
ナタルは状況が分からないことに苛立ちを感じならが、無駄と分かっていても声を張り上げる。
「誰か生存者はいないのか！」
高圧的な声が虚しく木霊する。確かに管制室に生存者はいなかったが、背後の扉が開いて一人の連合軍曹長アーノルド・ノイマンが入って来た。
「バジルール少尉……」
ノイマンは濃紺の髪に埃をのせていて、唸るような声で言った。ノイマンはナタルと付き合いのある部下で、彼が生きているのを知ってほっとした。
「他の者はどうした、曹長」
そう言われてさらに三人が現われた。縁なしの丸い眼鏡をかけた連合軍伍長ダリダ・ロー・ラパ・チャンドラ二世、好青年という言葉が似合う連合軍伍長ジャッキー・トノムラ、全体的に少し丸めな連合軍伍長ロメロ・パルの三人だ。誰も彼も全身埃塗れだ。
「これだけか？」
「はい……」
ナタル同じく多くの同胞を失ったノイマンの声は暗い。ナタルもそれ以上は訊こうとせずに、管制室を出てアークエンジェルに向かった。
アークエンジェルの近くにも多くの死体があった。主に整備員のものであったが、もう男か女かかも分からない。五人は目を瞑りたい気持ちを抑えながらアークエンジェルに乗り込み、ブリッジに入る。
驚くことにドッグはかなりの被害を受けたが、アークエンジェル自体は全くの無傷といっていい。さすがに新造艦は違うな、と無意識に呟きながらナタルはノイマンらと共にシステムを立ち上げる。メインシステム、サブシステム、バックアップシステムの順に立ち上げていくが、二人だけで全てを機能させるのは不可能であった。なんとか航行するくらいの機能は得たが、完全に戦えるほど万全ではない。
「これでなんとか動くことはできそうだな」
不安からか、普段全く独り言をしないナタルの口から独り言が漏れる。普段の彼女を知っているノイマンはその違いに不安を覚えながら黙々と自分の作業を進める。
ナタルも自分の作業を進める。管制室からデータを引き出そうとするが、戦闘レベルで散布されたミノフスキー粒子とまだ完全にシステムを理解してないせいで引き出すことができない。
舌打ちを一つ打ってナタルは敵の意図を探る。新造艦のアークエンジェルは無事、となれば狙いは一つ。
「ガンダムか。あちらの状況は？」
「駄目です、分かりません。ミノフスキー粒子がこうも濃くては……」
別の席で必死に通信を取ろうとしていたノイマンが言い、その直後に特殊回線で通信が飛び込んできた。
『こ……ス……』
「特殊回線……ストライクからか！」
『だ……い……か……』
「こちらアークエンジェル、聞こえるか！」
しかしまともに会話することはできず、通信が途切れる。ナタルはまた舌打ちをするが、良いこともあった。ストライクがまだ友軍の手にあるということが分かったのだ、少しくらい希望を抱いてもいいだろう。
「仕方がない、アークエンジェルを発進させる」
「しかし外壁は先ほどからの衝撃で開きませんが……」
「主砲発射用意。出力二十パーセントで撃つ！」
「ですがまだ敵が残っているかどうか……」
「ならコロニー内に入る。人員も足りない、ガンダムがどうなったかもわからない。とにかくここに居ても仕方がないだろう」
ナタルたちはコンピュータの指示に従い、五人でも航行できるようにしてどうにか崩壊寸前のドッグから出港した。
「いったいどういうつもりだ、ザフトは！」
ガンダムのパイロット候補生を乗せてきた艦の艦長が怒りを露にする。既に三機のジンがコロニー内に侵入してしまった。
「くそっ、先手を取られたか。マーク、ニキ、ついてこい！」
ブリッジで艦長と共に成り行きを見ていた連合軍大尉ムウ・ラ・フラガが部下の名前を叫んでブリッジが出て行く。
すぐに一機のカスタムメビウスと二機の旧式ＭＳガンブラスターが出撃した。時を同じくしてザフト艦から三機のジンも出撃する。
崩壊を始めたコロニーの外でザフトのジンとカスタムメビウス、ガンブラスターが戦闘を開始する。
武装、性能からいって上回っているジンがメビウスを圧倒し、有利な戦況にあるはずであったが、たった一機のカスタムメビウスと二機の旧式ＭＳの手によって互角の勝負にまで詰められていた。
「なんなんだ、あのメビウスは！」
一機のジンのパイロットが叫ぶ。オレンジ色に塗られ、四つの『樽』を装備したメビウス＜ゼロ＞は四方八方から繰り出される銃弾の合間を縫うより飛び回り、四つの樽＜ガンバレル＞を射出し、まるで己の手足のように自在に操って攻撃をしかけてくる。叫んだパイロットも応戦するが、努力の甲斐なくゼロの機首に装備されたレールガンを腰に受ける。威力が低いために撃破こそされなかったが動きが鈍った。そこを見逃すわけもなく四つのガンバレルで四方を囲まれ、逃げ場を失ったところをコックピットに一撃、命を散らす。
今では骨董品と言っていいほど旧いＭＳ、ガンブラスターもまたジンのパイロットたちを驚愕させた。自分たちはコーディネイターであり、ＭＳも最新のものを使っている。相手はナチュラルであり、旧いＭＳ。なのに、楽に勝つどころか苦戦を強いられているのだ。
薄緑色で統一されたカラーリング、どこかガンダムにも似ている頭部を持つガンブラスターは宇宙世紀最後の戦争、ザンスカール戦争のとき使用されたＭＳだ。発掘してもそのままでは動くはずもない。今の技術を使って動くようにしたとしても、その性能は格段に落ちている。それでも二機のガンブラスターは獅子奮迅の活躍を見せる。
「あんたにゃ悪いが、落とさせてもらうぜ！」
ガンブラスターのパイロット、連合軍中尉マーク・ギルダーは余裕を持って叫んだ。それと同時に右手に持ったビームライフルが淡いピンク色の光がジンの胸を貫く。続いてマークは機体を急上昇させて背後からの攻撃を避け、ビームライフルを向けて連射する。ジンのパイロットもよく避けて、マシンガンで反撃に出ようとするが不意に横から迫ってくる閃光に貫かれ爆発する。
もう一機のガンブラスターからであった。これで全てのジンが撃破された。
「これで全部のようですね」
マークを助けたパイロット、連合軍少尉ニキ・テイラーが冷静に言う。だが反射的にフラガが異を唱えた。
「まだだ、奴がいる！ お前たちは先に行け！」
フラガが言うのに少し遅れて銃弾がゼロの機体を掠めた。妨害電波で役に立たないレーダーに目もくれず、フラガはゼロの機首を銃弾の先に向けた。そこにはジンよりもシャープなフォルムを持つ白色の機体、ザフトの指揮官用ＭＳシグーが銃口を構えていた。
「ムウ・ラ・フラガ、お前はいつも私の邪魔をする！」
シグーのパイロット、ラウ・ル・クルーゼは銀仮面の奥の瞳を光らせてゼロに突撃する。フラガは連合のエースとして、クルーゼはザフトのエースとして知れ渡っていた。エース同士が意識するのは珍しいことではないが、二人にはそれ以上の因縁があった。
ゼロはブースターを全開にしてシグーを迎え撃つ。相対速度を活かして一瞬ですれ違う。シグーの背後に回るとガンバレル全てを射出し、シグーを牽制する。その間に回頭してガンバレルを放ち、行動範囲を限定していく。シグーが四方八方の攻撃によって緩慢になった隙を逃がさず、機首のレールガンを撃つ。だがフラガはそれが当たるとは思っていなかった。
フラガの予想通りシグーはＭＳとは思えぬ人間らしい動きで上体を捻り、加速された弾丸を避ける。さらに反撃に転じ、空になったマガジンを投げつけてフラガの気をそちらに向ける。僅か数秒の間であったが、クルーゼにとっては十分過ぎる時間だった。動きが鈍くなったガンバレルを抜けてゼロに急速接近、マシンガンを連射する。クルーゼもそうだが、フラガも並のパイロットではなかった。反射的に逆噴射でマシンガンを避け、レールガンで反撃する。コンマ一秒でも遅れ手入れば全て直撃し、ゼロは鉄の塊と化していたはずだ。
「お前の相手ばかりはしていられんのだよ！」
クルーゼはマシンガンで牽制しながらコロニー内部へ侵入する。フラガは銃弾を避けながらその後を追ってコロニーへ入る。
コロニー内部通じる道は度重なる爆発で壁やらなにやらの破片やらが散ってゼロが通るには慎重になる必要があった。人に近い動きが出来るＭＳならば大したことはないが、小回りの効かないＭＡには厳しい障害だ。隠れる場所も多く、どこから銃弾が飛んでくるか分からない。
フラガに向かってきたのは銃弾ではなく、ガラクタであった。色々なガラクタが雨あられと迫ってくる。物自体が大きく、通路が狭い分銃弾よりも避けづらい。
「避ければ撃たれる、避けなきゃ正面衝突、やってくれるなクルーゼ！」
言葉ほどの余裕はなかった。すぐさまガンバレルを射出し迫り来るガラクタを迎撃するが、ガンバレルの一つが爆発した。モニターの先にシグーの姿が見える。反撃に転じる前にさらに二つのガンバレルが破壊される。どうにかガラクタを抜けたと思ったら目の前に白い巨人。本体への攻撃は避けれたが代わりに最後のガンバレルが重斬刀に斬り捨てられる。
残る武装はレールガンだけ。四肢のあるＭＳとは違い、ＭＡには備え付けの武装以外に頼るものがない。体当たりもあるが、それはまさに最後の手段だ。
ゼロは最小限の動きでシグーから離れて回頭し、スコープに意識を集中させてトリガーを引く。
撃ち出された弾丸はシグーを掠めることなく、幾度もの爆発で脆くなっていたコロニーの壁を貫いた。
「しまった！」
フラガが叫ぶよりも早くシグーは穴の開いた壁からコロニーのなかに入っていった。ミスを悔やむ暇もなくゼロもシグーの後を追う。
「マーク、ニキ、あいつを食い止めてくれよ」
先に内部に入った部下に思いを託し、加速する。
キラはコックピットの中で目を覚ました。頭が酷く痛み、まだ視界もはっきりとしていない。少しずつ意識がはっきりしてきて、膝の上で女性が気絶しているのに気付いた。あまり女性と面識のないキラは恥ずかしくなって頬を紅く染めて、マリューの体を揺さぶる。
「大丈夫ですか、起きてください」
マリューは唸り声をあげるだけで目を覚まさない。仕方がないのでハッチを開け、外に這い出す。辺りに誰もいないことを確認してからマリューを精一杯の力で担ぎ出す。運良く公園がすぐ近くにあったのでキラはそこまでマリューを運び、ベンチの上に寝かせた。一見したところ外傷はなく、頭を打っただけのようだった。
キラが今まで体験したのことない、恐怖を思い出して震えていると、幾つか足音が聞こえてきた。もしザフト兵なら今度こそ命はない。工学科でＭＳが好きだったからガンダムを動かし、戦うこともどうにかできたが、生身の戦いなら話は別だ。体を強張らせながら足音が聴こえるほうに意識を手中する。
「おーい！ キラぁ〜！」
足音と一緒に聴こえたのは聞き慣れた友達の声。緊張を緩めたところに無事な姿のトール、ミリアリア、サイ、カズイが走ってきた。
「みんな……」
気の抜けた声を出しながらトールたちと抱き合って生の喜びをかみ締めあう。ミリアリア、カズイの目には薄っすらとだが涙が浮かんでいる。
「この人は？」
一通り喜び合ったあとサイがベンチに横たわっているマリューを指差す。
「このＭＳの整備員……かな」
キラは今やっと冷静になれて、まだ女性の名前も何も知っていなかった。知っているのは、ガンダムに関係があるということだけ。トールたちは恐る恐るガンダムを眺めている。
「う……あ……」
全員がこの後のことを考えているとマリューが目を覚ました。まだ頭が痛いのかこめかみを抑えて唸っている。
「大丈夫ですか？ これ、何本に見えます？」
キラはテレビドラマで見たように指を二本立てて見せる。マリューは頭を振りながら弱々しい声でいった。
「大丈夫。それより……」
「トール、やめろ！」
マリューが何かを言おうとしたとき、ストライクのコックピットに入り込んでいるトールをサイが叱った。だが時既に遅く、マリューはその光景を目撃してしまった。
どう考えてもトールの行動は軽率であった。コロニーを破壊してまでザフトが手に入れようとしたガンダム。己の命をかけて連合が守ろうとしたガンダム。そんな物に乗り込めば、唯で済むはずがない。
案の定マリューは携帯していた拳銃を空に向けて発泡する。銃声に驚いたトールは危うくコックピットから転がり落ちるところだった。
「ちょっと何するんですか！」
突然の発泡にキラが怒る。それも当然だろう。彼女を助けたのは言わば自分であり、トールは自分の友達である。確かにトールの行動は軽率だが、何も発泡することはない。誰のおかげで今生きていると、とキラは思わずにはいられなかった。
「……そうね、ごめんなさい。ちょっと感情的になったわ」
発泡したあとで見てみれば、周りにいるのはまだ十五、六の少年少女である。平穏に暮らしていたのに、自分たちがガンダムを持ち込んだせいで死ぬような思いをしているのだ。発泡はあまりにも酷い。
「ＭＳの通信システムは使えるはずよね。……頼めるかしら？」
気絶からは立ち直ったものの汗だくで必死な表情のマリューに頼まれてキラは仕方なく頷いてストライクのコックピットに入った。トールは既にコックピットから降りていて、サイ、ミリアリア、カズイと一緒になってキラを見守っている。
「私たち助かるのかな……」
ミリアリアの口から弱音が零れ落ちる。カズイも今にも崩れ落ちそうなほど不安そうな顔で震えている。
コックピットに入ったキラは手早く通信を行う。設定通りならば＜アークエンジェル＞に通信が届くはずだ。
「アークエンジェル、こちらストライク。聞こえますか？ 返事をしてください！」
キラがどんなに吼えても返って来るのは雑音だけだ。全く通じていない。溜息をつきながらコックピットから降りるとトールたちがいなくなっていた。
「あの、トールたちは？」
ベンチに腰を下ろしているマリューに尋ねる。キラの顔色から通信が上手くいかなかったことを悟り、溜息を吐く。
「彼らにはトレーラーを取りにいってもらったわ」
「トレーラー？ 何に使うんですか？ まさか、それで逃げようだなんて……」
「違うわよ。ストライクの換装パーツが入っているの。ストライクは換装することで色々な状況に合わせて戦えるのよ」
どうりで武装がナイフとバルカンなわけだ、とキラは心の中で武装の貧弱さに納得がいった。幾ら機体性能がよくても武装があれではまともに戦えない。
トールたちが戻ってくる間、キラはもう一度コックピットに入って通信を試みた。何度やっても返って来るのは雑音だけだ。何度目かの溜息を吐いた頃、トールたちが戻って来た。
「これでいいんですか？」
運転をしていたサイが窓から顔を覗かせる。トールは荷台と車体の間にしがみついていて、ミリアリアとカズイはサイの隣に座っている。
「ええいいわ。ありがとう」
そう言われてサイたちは運転席から降りて離れ、トールも荷台から降りて離れた。ミリアリアとカズイは相変わらず怯えていて、トールは興味深そうにストライクを見上げている。サイは怒りを露にしていた。
「え〜と……あなた、名前は？」
マリューがストライクを見上げ、キラに向かって言う。
「人に名前を訊くなら、まずは自分からでしょう」
普段のキラらしからぬ反撃だった。色々ありすぎて気が立っているのだろう。一番仲の良いトールでさえも滅多に見ないキラの態度だ。
「そうね、ごめんなさい。私はマリュー・ラミアス、連合軍大尉よ」
「僕はキラ・ヤマトです」
「ならキラ君、遠隔操作でトレーラーの荷台を開けてちょうだい」
キラは言われた通り遠隔操作で荷台を開ける。荷台には巨大な砲身と外部装甲のような物だ。
「これを装備して。プログラムのなかにあるはずよ」
キラは素早い手つきでＯＳのなから換装プログラムを見つけ出す。プログラムは＜エール＞＜ソード＞＜ランチャー＞の三タイプがあることを示していて、キラはどうみてランチャーだと思い、ランチャーを選択する。
全てが終る間にキラは急造りのＯＳを安定したものに書き換え、もう一度襲われても凌げるように改良した。改良が終るよりも少し早く軽い振動がコックピットに伝わる。オート設定で作業させていたのが終ったようで、右肩に１２０ｍｍ対艦バルカンと３５０ｍｍガンランチャーが一緒になった外部装甲が、背中に大型バックパックとそれに直結した大砲――３２０ｍｍ超高インパルス砲＜アグニ＞が装備された。
二度と戦うのはごめんであったキラだが、もし戦うことになれば勝たなければいけない。そのための準備は終った。準備だけで終ればいい、キラの当然な願いは軽く打ち砕かれた。
「ね、ねえ……あれ……！」
ストライクとは別の方向を見ていたカズイが震えながら声を上げて指を指した。キラたちはカズイの指す方向を見る。
「あれは確かザンスカール戦争の時使われていたＭＳ……ガンブラスターだったかな」
キラはモニター越しに見える二機の薄緑色の機体を見て呟く。工学科にいたこともあるが、元々ＭＳに興味があったキラは過去のＭＳの勉強もしていた。その時、見たことのあるＭＳだった。
二機のガンブラスターはこちらに迫ってきた。旧い型のＭＳに目を奪われていたキラははっと思ってキー操作からスロットル操作に替えたストライクを素早く動かして砲身を構える。敵なら撃つしかない。
「まってキラ君！ あれは味方よ！」
キラが誤った行動をする前にマリューが叫んだ。おかげで救援にきた二機のガンブラスターは撃ち落されずに済み、ストライクの近くに降り立った。
トールたちは呆然とガンブラスターを眺め、キラは警戒しながらも興味のあるＭＳに目をやっていた。ストライクに近い方のガンブラスターのコックピットが開き、マリューと同年代くらいの女性が出て来た。ヘルメットを脱ぎ、肩下まで伸びた濃い青色の髪をかきあげる。
「皆さん、無事ですか？」
ニキは落ち着いて言いながらも内心では驚いていた。ガンダムの開いたコックピットから見えるのは少年で、足元にも三人の少年と少女がいる。唯一の大人は整備服を着た女性だけだ。よく生き残れたものだ、と感心させした。
「私はマリュー・ラミアス大尉です。あなたは？」
「ニキ・テイラー少尉です。本日付でアークエンジェルに配属されました」
『おい、呑気に挨拶している場合じゃないぜ。クルーゼのおでましだ』
もう一機のガンブラスターから男の声が流れた。そして同時に爆発音も聞こえた。
「なんだ！？」
キラが上げた驚きの声は急に上昇したガンブラスターの爆音でかき消された。ストライクのモニターに白い羽を持った巨人が映し出され、それは敵の反応を出していた。
そしてまた、先ほどよりさらに大きい爆発音が鳴り響き、コロニーの障壁を破って巨大な戦艦が現われた。
「いったいなんだよ……どうしたっていうんだよ！」
「大尉は子供たちと一緒に避難していてください。ここは危険です」
サイが叫び声をあげるなかニキは冷静に指示を出す。今は上官だとか気にしている場合ではなく、マリューは頷いて子供たちの手を無理やり引っ張って公園から離れる。
「あなたも避難を……」
ニキがキラに言い終える前に、キラはストライクを飛翔させ、一直線に戦艦アークエンジェルに向かって言った。
「なにをする気です！」
ニキの叫び声が届くことはなく、ガンブラスターに乗り込んで後を追う。しかし性能の差がはっきりと表れ、追いつくことができない。
「よくもコロニーを……よくも平和な生活を！」
キラは心の底から叫んだ。ストライクの識別反応には白いＭＳ以外味方の反応を出していたが、キラにとっては全てが敵であった。コロニーを破壊する敵。キラには全てがそう思えた。
常人離れした手つきでＯＳの識別反応を書き換え、全てを敵と認識させてロックオンする。
そして獣のような雄叫びと共にガンランチャーをアークエンジェルに向けて撃つ。二発のグレネードは吸い込まれるように白い巨艦に着弾し、爆発した
「おい、お前！ 識別反応を見ろ、俺とアークエンジェルは敵じゃねえ！」
シグーと銃火を交えながらマークがストライクに通信を入れる。キラは怒りのまま声をあげ、アークエンジェルの艦橋の前まで突き進む。
「そんな物は、消しましたよ！」
「な、てめ……」
マークは文句を言おうとしたがシグーの猛攻のまえに阻まれる。旧式ＭＳを乗りこなすだけあってマークの腕は並のパイロット以上ではあるが、ザフトのクルーゼと喋りながらやり合うだけの余裕はなかった。ストライクの暴走を止め様にもシグーを振り切ることができない。むしろ、撃墜されないように戦うのが精一杯であった。
「ストライクはいったい何を……なっ！」
ブリッジでグレネードの衝撃に耐えたナタルが洩らす。衝撃で揺れた頭が前を向くと、そこには右手のナイフを突き出そうとするストライク。一瞬死んだかと思うと、上空から放たれたレールガンによってナイフは弾かれ、間一髪助かる。
キラは一旦艦橋から離れてビームが飛んできた方を向く。そこにはメビウスゼロがいて高速で接近してくると通信を開いた。
「ストライクのパイロット、なぜ味方に攻撃をする！」
サブモニターにゼロのパイロット、フラガの顔が映し出される。キラはそれを殺意の篭もった目で睨みつけ、言い放つ。
「コロニーを破壊した貴方たちは僕の敵です！」
そういってアグニの銃口を艦橋に向ける。
「やめろ馬鹿やろう！ そんなもん撃ったら、それこそコロニーが吹き飛ぶぞ！」
フラガの叱咤でキラの手が止まる。艦橋を破壊したくらいで戦艦が爆発することはないが、冷静さを失っているキラには十分な脅しになった。
「今お前がやることは、あいつを倒すことだ！」
そういってフラガのゼロは機首を回らせてシグーに向かっていく。冷静さをある程度取り戻したキラも唇を強く噛みながらシグーに向かって言った。
「ムウほどではないにしろ、やるようだな」
クルーゼはガンブラスターの猛攻を軽く凌いでいた。次々に撃ちだされるビームは装甲を掠ることもなく通り過ぎ、お礼とばかりに銃弾をプレゼントする。既にガンブラスターは傷だらけでいつ撃破されてもおかしくはない。クルーゼは敵との戦闘を楽しんでいた。
「やっぱこんな旧式じゃ無理があるか」
今にもやられそうななかマークは必死にシグーと戦っていた。こちらの攻撃は全く当たらず、相手の攻撃は確実に当ててくる。ＭＳの性能差も確かだが、腕の差もそれなりにあった。どうにか凌ごうとビームライフルを構えがエネルギーがない。トリガーを引いても虚しい音が出るだけだ。かわりに相手の銃口がコックピットを狙っている。撃たれる、そう思った一瞬後シグーは急上昇し、数秒前までシグーが居た場所をビームが通過する。
「大丈夫ですか、マーク」
「ありがとよ、ニキ」
もう一機のガンブラスターの攻撃だ。ニキのガンブラスターはエネルギー切れのマークを庇うように間に入り、シグーに攻撃をしかける。一発も当たることはなかったが、フラガとキラが到着するまでの時間稼ぎにはなった。
「よくやった、マーク、ニキ。後は俺達に任せて下がってろ」
ニキだけが了解、と応えて二機のガンブラスターは後退し、すれ違うようにゼロとストライクがシグーに向かって攻撃する。
「ムウ、それにガンダムか。ガンダムにはフェイズシフト、手持ちの武器では傷一つつけれられんな。ならば……」
どこか嬉しそうにクルーゼは呟き、マシンガンで二機を牽制すると急降下して二機の下に潜り込む。そのまま二機を無視し、先ほどのキラの攻撃で傷ついたアークエンジェルへ向けて加速する。
あっさり抜かれた二機は反転してシグーの後を追う。途中にいた二機のガンブラスターがどうにかシグーを止め様とするが効果がない。
アークエンジェルからは迎撃用のミサイルが数十発撃ちだされ、正確にシグーに向かっていく。シグーはこれを物ともせず一発、また一発とマシンガンで撃ち落していく。接近しすぎて撃ち落とせなくなると右に左に移動し、巨大な柱――コロニーを支えるシャフト――に身を隠す。目標を失ったミサイルは柱を避けることが出来ず、衝突し爆発する。
それも見て誰もが凍りついた。コロニーを支える三本のうちの一つが破壊された。残りの二つも重さに耐え切れず軋みだし、そのうち壊れるであろう。そうなればヘリオポリスは完全な終りを迎える。
「こ、このぉぉぉぉ！」
目の前で自分たちのコロニーが壊れいく姿を見てキラは再び我を忘れた。
手元のパネルで＜アグニ＞を操作して左肩の長い砲身を前面に向ける。今度は素早く安全装置を外し、エネルギー効率を無視して充填速度を最速に設定し、チャージを二秒となく終らせる。
そしてキラはトリガーを引いた。
キラの視界を白い光が覆う。最大出力で打ち出された巨大な光の柱がシグーを襲う。しかしシグーは左腕を失うだけで難を逃れる。
だが巨大な光の柱は威力を落とすことなくコロニーの壁に辺り、突き破って巨大な穴をあけると消滅した。
「そ……そんな……」
「凄まじい威力だな。ここは一時退くとしよう」
ストライクの持つアグニの威力に脅威を覚えたクルーゼは無理することなく退き、アグニによってできた巨大な穴から外に出た。
「僕が……コロニーを破壊した……僕が……」
『おい、しっかりしろ！ おい！』
フラガが懸命に声をかけるも、キラは茫然と同じ言葉を繰り返すだけであった。
自分がコロニーの破壊に手を貸した。罪の意識が根深くキラの頭に残ったが、どうにかトールたちの説得もあって落ち着きを取り戻していた。
今はマリューの指示でトールたち、それにマリューを両手に乗せてアークエンジェルに向かっている。程なくして指示された通りに進み、格納庫に降り立つ。既に二機のガンブラスターとゼロが修理と補給を受けていた。
ゆっくりと両手を下ろし、トールたちを降ろす。先に待っていた幾人かの兵士と整備員たちが集まってくる。
「ご無事で何よりです、ラミアス大尉」
気の強そうなきつい眼つきをした女性がマリューに向かって敬礼をする。マリューは敬礼を返しながら知り合いが生きていたことにやっと喜びを覚えた。
「バジルール少尉、無事だったのね。良かったわ」
半ば放置されたトールたちはストライクの足元で身を寄せ合って兵士たちを見ていた。兵士は誰もがマシンガンを肩にかけている。
「あの人、大尉だったんだ。そんなには見えなかったけど」
「トール！ 余計なこと言わないでよ……」
あまり怖くないのか、トールがすっとぼけたことを口にする。すかさず震えたままのミリアリアが怒り、その怒声が兵士達の注意を集めてしまった。
兵士たちの眼つきに一同はびくっと肩を上下する。ナタルが厳しい目で一瞥し、すぐに無視してマリューに疑問をぶつけた。
「ところで大尉、ストライクのパイロットは誰なんですか？」
自分より階級が下とは言え、戦闘に関してはナタルのほうが上であり、威厳といった意味でも彼女のほうが上であった。上官であるはずだがマリューはナタルの鋭い視線から自分の視線を外し、言葉を詰まらせながら言った。
「そ、それは……」
あまり言いたくないことではあったが、どの道ばれることであった。それなら、と思ったがタイミング悪くハッチが開き、キラが出てくる。
ナタルはストライクの足元で怯えている少年少女と年の変わらない少年を見上げ、呆気にとられて口を開けっ放しにしてしまった。すぐに頬を赤らめながら咳払いをし、咎めるように言う。
「あの少年にやらせたのですか？ この艦の被害を考えて下さい」
「分かっています。ですがあの場合は仕方がなく……」
端から見ていたトールは「立場逆だなあ」と思わず口にしそうになる。隣でミリアリアが恐ろしい眼つきで睨んでなかったら口走っていただろう。
「あれはストライクが誤認したんだろう。旧式のＯＳを使っているっていうしな。それよりも、俺たちの乗艦許可もらえないかな？」
パイロットスーツのままのフラガがマークとニキを引き連れて話に割って入った。すっかりフラガたちのことを忘れていたナタルは申し訳なさそうに再び頬を紅くする。
「俺たちが乗って来たボロ船落とされちゃってさ。ま、元々アークエンジェルに配属されるために着たんだから、断ることはないだろうけど」
「ラミアス大尉。艦長以下、ブリッジクルーのほとんどは戦死しました。よって今現在最も階級の高いラミアス大尉が艦長代理を務め、許可を出す権利があると考えます」
ナタルが脳裏に悲惨な現状を思い出しながら、それでも感情を抑えて冷静に伝える。
「ですが私は戦闘に関しては素人同然で……」
「そのことなら私が出来る限りフォローします」
凄然とした態度でナタルに言われれば断ることは出来ない。彼女でなくとも、今のナタルの威圧感に勝てる者はいない。
「わ、分かりました。乗艦を許可します」
「悪いね」
そう言ってフラガはキラの肩を掴んでストライクの陰に回る。
「お前、コーディネイターだろ？」
「……はい」
嘘をついてもすぐに分かることだとキラは簡単に答えた。フラガはナタルの刺すような視線を背中に浴びながら真面目な顔をする。
「今はまだ言わないほうがいい。なにかと面倒だからな。後は俺たちがフォローしてやる」
そうやって振り返ってマークとニキに目で合図する。二人は頷き、フラガは二人のほうに行く。キラはトールたちに混じり、次の展開を待つ。
マリューとナタルが少しの間何か話し合い、区切りがつくと少年達のほうを見て深刻そうな顔をする。
「今までキラ君にしか名前を明かしませんでしたが、私はマリュー・ラミアス大尉です。……あなたたちには軍所有物無断使用の罪があります。この艦は第一級軍機に属するため、あなた達は極刑に科せられることもやむ終えません」
少年たちの血の気が一気に引いて青ざめる。特にミリアリア、カズイは今にも倒れてしまいそうだ。
「よって我々はあなた達を拘束し、行動を共にする義務があります」
「ちょっと待てよ！ なんだよそれ！ 俺たちが何したってんだ！」
真っ先にトールが怒りを露にする。マリューは眉を寄せて、少し悲しそうな顔をする。トールはその顔に負けて、すぐに静かになった。だが、代わりにナタルが鋭く言い放つ。
「ＭＳに搭乗、立派な無断使用だ」
「無断使用って、キラは俺たちを守るために戦ってくれんだ。あんただってキラに助けられたじゃないか」
トールに代わってサイが言い立てる。マリューの顔はさらに沈み、今にも泣き出しそうな顔だ。本音では子供たちを巻き込みたくはないのだが、そうできない立場に立ってしまった。今は艦のことを考えるほうが有線なのだ。
「……コロニーは防衛レベルＡを発動しました。この意味、分かりますね……？」
少年たちに止めが刺された。防衛レベルＡ、それは全ての障壁が閉鎖、ロックされシェルターに入ることも出ることも出来ないことを指す。もう逃げ場はどこにもない。
「あなた達を見捨てるわけには行きません。もう逃げ場はないんです」
「だったら素直に保護するって言えばいいじゃないですか！」
サイが一歩足を踏み出すと、兵士たちのマシンガンの銃口が一斉に向けられる。サイの額から汗が流れる。
「保護というには……辛すぎます」
マリューの表情が一段と暗くなる。少し間を置きながら表情を引き締める。
「無断使用をしたあなた達は見張りを立て上、個室に入ってもらいます。ただキラ君、いえ、キラ・ヤマトには本艦を損傷させたということもあるので独房に入ってもらいます」
長い台詞を言い切って息を吐く。今にもトールはマリューに襲いかかりそうな姿勢で次の言葉を待っていた。
「ただ彼はジンを撃退し、Ｇを守ってもらったのも事実です。よって全員個室にて監視とします。なお戦闘が発生した場合、あなた達の生命は最優先されますが……保証はできません」
トールやサイは苦渋の顔をし、ミリアリアとサイは絶望を顔で表現する。キラだけは無表情であった。先ほど自分がコロニーを破壊してしまったというショックもあるが、この状態で命が保証されるとは初めから考えていなかった。二機の旧式ＭＳとメビウスのカスタム機、それに損傷した新造艦。これだけの戦力で保証するほうがどうにかしている。
トールやサイは怒りを剥き出しにして抗議しようとするが、銃口が向けられている状況でまともに抗議することはできなかった。
「連れて行け」
ナタルが非情にも言い放ち、兵士達は少年たちを囲み、連れて行く。どんなに叫ぼうとも、泣こうとも、状況がかわることはなかった。
マリューたちはブリッジクルーに使えそうな人物を選び、ブリッジに上がった。そこにはフラガ、マーク、ニキもいた。
選ばれたクルーはナタルと共にアークエンジェルを動かした者達である。マリューは艦長代理、ナタルは副官となった。あくまでも一時的なことではあるが、もしかしたら当分はこのままかもしれない。連合軍に余裕があるといえば嘘になるのだから。
マリュー沈んだ気持ちで手持ちの資料に目を通した。内容は強奪された四機のＧと唯一残ったストライクのデータだ。
「Ｇ四機強奪……。散々ね……」
喋る相手もなく呟いていると、背後から突然小さく声がかけられた。
「キラはコーディネイターだ」
「……えっ？」
急に突飛なことを言われたものだからマリューは素で声を出してしまった。素に戻れば、ただの女性である。少年たちもそうだが、彼ら軍人たちも決していい気分ではないのだ。新造艦のクルーになるだけのはずが、とんだことに巻き込まれたのだから。落ち込まないわけはない。
声の主はフラガだった。落ち着いて今言われたことを頭の中で反芻するが、特に驚きはない。ＯＳの書き換え作業などを見ていればナチュラルでないことくらいすぐに分かる。
「やはりそうですか……」
「なんだ知ってたのか。それならいいんだがな」
「でも次に何かあったら彼がどうするか……」
「それは大丈夫だろ。あいつはどうも友達を守りたくて行動しているようだからな。友達がここに居る限りは寝返ったりしないだろう」
この状況下にあってフラガは笑っていた。マリューは軍人になって長くないが、あまり男性と付き合ったことがない。目の前の明るい笑いを見て、胸が熱くなり、頬が林檎のようになる。
「どうした、艦長？」
「え、あ、あ、なんでもありません」
頬を赤らめているのをみてフラガが訊く。マリューはさらに頬を紅くした。
「ところでガキ共はどこで降ろす？」
そう言われてマリューはモニターに軍事拠点の座標を出させる。軍人拠点は青い点で記され、近くには一つの点しかない。
「これを見る限りアルテミスに行くしか……」
「駄目だ！ あそこは……」
思わず大声をあげてしまいクルーたちが振り返る。なんでもない、とマークが代弁してクルーたちを作業に戻す。
「艦長、あそこに何があるか知っているか？」
「何がって、＜アルテミスの傘＞のことなら知っていますが」
「やっぱり知らないか……」
フラガはオデコを抑えてわざとらしく首を振った。フラガの代わりにニキが一歩前に出て小声で説明する。
「あそこには宇宙世紀時代のＭＳが幾つも残っているのです。まだ実戦投入とまでは行ってないようですが、今あそこを巻き込むのは得策ではありません」
「そういうこと。わざわざ光波防御帯なんてたいそうな装備をつけているのか、これからのためなんだよ」
「ですがアルテミス以外上陸可能な施設はありません」
一同をどうしようもない途方感が襲う。追撃される可能性は高く、物資を補給する場所はない。アルテミスを超えた先に宇宙世紀時代に使われていた補給ドッグ＜ラビアンローズ＞があるのだが、そこまで持つかが怪しいところだ。
その時、影のように場に溶け込んでいたナタルが口を挟む。
「補給をする場所ならあります」
マリューとフラガはナタルの声にぎょっとしたが、構わず話を聞いた。
「現在の物資で航行可能な距離は本隊よりも二日ほどのところですが……」
手早く艦長シートの端末を操作して本隊までのルート、その途中にある連合・ザフトの施設とコロニーが表示された。モニターの一部を選択するとその宙域が拡大し、デブリ帯と表示される。
だがデブリ帯には地球の重力に引かれて集まった忌まわしい場所の残骸があった。
ユニウス７。血のバレンタイン事件で核攻撃を受けたコロニーであり、戦争の引き金となったコロニー。今となっては残骸の集まりであるが、元は資源衛星や地球、プラント間の商業の中心であった。使える物資が残っていても不思議ではない。
しかしあまり快いことではなかった。誰もが近寄りたくない場所だ。
「これはある意味アルテミスより辛いですねぇ」
マークが自然に呟いた。マリューやフラガ、ニキ、ナタルまでもが頷いた。
「しかし今の話からして、後の戦力になるであろうアルテミスを危険に晒すわけにはいきません」
どうするか悩んでいるとき、オペレーターを勤めているダリダが叫び声をあげた。
「敵影感知、ジンタイプ七機接近中です！」
「やっぱり来たか。マーク、ニキ出るぞ」
それぞれ「了解」と答えて先にブリッジを出て格納庫に走る。一度出ようとしたフラガは立ち止まって一言言うとそのまま走り去った。
「俺はストライク出る！」
「えっ、ですがあれは……」
マリューが今はキラ以外使用不可能なことを告げるまえにフラガは言ってしまった。追いかけるべきか、とも思ったが今はそれどころではなかった。
「ラミアス艦長、艦をコロニーから出しましょう。このままここにいても無駄です」
「そ、そうね。アークエンジェル、発進！」
艦長の声に合わせて空中をあてもなく浮いていたアークエンジェルが起動する。
この時既に、少年たちの平和は終りを迎え、戦いの幕は上がっていた。
あとがき
また微修正版です。妨害電波がミノフスキー粒子になっていたり、ゼロのビーム砲がレールガンになってたりします。
最近メモ帳で小説を書いていると容量が足りないだとかなんとかで止まってしまって、中々筆が進みません。困ったものです。
それにしてもアニメを軸にしながらアニメとは違うものを書くのは難しいですね。中々いいことが思いつきません。
細部変えるだけじゃいみないですものね。中々難しいものです。
では、また。木曜日には三話修正版をお送りして、日曜日には四話掲載できるように頑張ります。
あとがき
読んでくださった方々、ありがとうございました。
早速旧いＭＳが出してみました。マーク・ギルダーとニキ・テイラーは知らない人のために言いますが、オリジナルではなくゲーム、Ｇジェネレーションに出るオリジナルキャラです。
何故彼かというと自分で考えるのがめ……ではなく、好きなキャラだったので使ってみました。
これから終りまで書けるように頑張りますが、一応受験生だったりするのでどうなるかは本人にも分かりません（笑）
それと代理人さん。小説書くこと自体久しぶりなので、期待は勘弁してください（笑）
代理人の感想
ふむふむふむ。
いきなり暴走ですか。
ガンブラスターといい中々意表を突いてくれます・・・・・。
ん？ ひょっとしたらこれって種メインのGジェネ小説なのかな？（笑）