PHASE−08『生きるために』



 遥か先まで広がる宇宙に広大な大地が浮かんでいた。現実とは思えない、幻想的な光景。宇宙にただ浮いている大地には建物も残っている。だが、生きている者はいない。

 人工的に作られた川や海の部分は凍りつき、大きな氷の塊となって浮いている。キラたちはそれを求めてこの場に立っていた。

 元は丘だったと思われる場所に三機のMSが立ち、足元に宇宙服を来たナタルたちが立っている。誰しもが幻想的な世界を目にして口を閉ざす。

 しばらく幻想的な世界に浸っていると、我を取り戻したナタルが通信機を通して指示を出す。いつもと違って声に張りがない。

『それでは行動開始だ。MS三機は周囲の警戒と巨大な氷の回収。我々はミストラルで物資の回収だ』

 それぞれ返答があって散り散りになって行く。ナタルたちブリッジクルーは二人組になってミストラルに乗り込み、当てもなく物資を探し始める。三機のMSは三方向に分かれて動き出す。

 エールストライクに乗るキラは、警戒や回収のことなど頭に入っていなかった。あまりにも美しく、あまりにも悲劇的な大地に心を奪われていた。

 ストライクを右に左に移動させ所々で割れている大地を見下ろす。時々大地に降りては建物の中を覗き込む。中には放置されたままの人間が浮いていることもあった。

 キラは吐き気を覚えながらも目を逸らさなかった。連合がやったことを目に焼き付ける。その連合に協力している自分は、連合と同罪なのだろうか。余計な考えが頭を過ぎり、振り払うように頭を振る。

 あっちにこっちに移動しているうちにマークとニキを見失う。大分離れてしまったようで、近くにいるのはミストラル一機だ。キラは奪われていた心を取り戻し、自分の仕事をしようと氷の塊を探す。

 ミストラルと共に探しても中々氷は見つからなかった。その代わりキラはまだ新しいであろう宇宙船を見つけた。武装はしてないようで、動いてもいない。どうやら攻撃され、破壊されたようだ。所々に攻撃の後が見えた。

 宙に浮いている巨大な岩に身を隠しながら宇宙船の様子を見ていると、全身黒色に統一され、肩と背中にレーダードームを装備しているジンが姿を見せた。宇宙船の周りで何かを探しているように左右を見回している。

「あれは長距離強行偵察型複座のジン……」

 キラは今後の戦闘のためにとザフトのMSデータを頭に入れていた。その中から該当する機体を見つけて呟いた。複座型のジンは通常のジンよりもレーダー・センサーの能力が高く、その有効範囲ももちろん広い。

 複座型ジンはまだストライクに気付いていないようで、宇宙船の周りを行ったり来たりしている。キラはこのまま気付かず行ってくれ、と複座型のジンを睨みながら念じた。その念が通じたのか、複座型のジンはその場を去ろうとする。

 だが、敵は獲物を見つけてしまった。ストライクに近づいていたミストラルが複座型ジンに捕まったのだ。

「なんでこっちに来るんだよ!」

 複座型ジンは左手に持った大口径のロングレンジライフルでミストラルを攻撃する。一発、ニ発とビームがミストラルの装甲を剥ぎ取っていく。

「た、助けてっ!」

 ダリダとペアでミストラルに乗っていたカズイが泣き叫ぶ。ダリダは必死に攻撃を避けようとするが、彼の腕とミストラルの性能では敵わない。一歩、一歩と死の瞬間が近づいてくる。

 キラは素早く狙撃スコープを出し、ビームライフルを複座型ジンに向ける。狙いはコックピットだ。

 後は引き金を引くだけ。複座型ジンはまだストライクに気付いていない。やるなら今しかない。それなのにキラは引き金にかけた指を引くことができない。汗が頬を伝って落ちていく。

 撃たねばミストラルがやられる。撃てば複座型ジンのパイロットを殺すことになる。キラはマークの言葉を思い出していた。

『いつか、必ず、戦うのなら人を殺さなければならない時が来る。その時はやらなければ、何かがやられるということだ。それはお前自身かもしれないし、この艦かもしれない。その時は、迷わず引き金を引いてくれ』

 キラは既に迷っていたが、マークの言葉を思い出したことで指に力が入る。複座型ジンはミストラルとの距離を詰め、最後の一撃を繰り出そうとしていた。キラの脳裏に爆散するミストラルが浮かぶ。

「やらせない、やらせは、しない!」

 複座型ジンの銃口からビームが出るよりも早く、ストライクのビームライフルが閃光を放った。

 一発目、腰の辺りを掠めて機体のバランスを崩す。二発目、左肩を撃ちぬいて攻撃の手段を奪う。三発目、胸の中央に光は吸い込まれ、二つの命を一瞬で消滅させる。

 複座型ジンは爆発こそしなかったが、完全に動きを止めた。キラの呼吸は早まり、荒くなる。流れる汗の量は増え、目はどこを捉えることもできない。

 体全身を震わせ、怯えているキラの元にミストラルから通信が入った。ダリダとカズイの声だ。

『助けてくれてありがとな!』

『キラ、ありがとう、おかげで助かったよ!』

 二人の声は嬉々としたものであったが、キラの耳には届かなかった。

 目をきょろきょろさせながらモニターを見ていると、救命ポッドらしいものが流れているのを見つけた。我を半ば失っているキラだが、救命ポッドは助けなくては、と思って回収する。

 両手で救命ポッドを持ったまま動こうとしないストライクの元にマークとニキが近づいてくる。

『何があった、キラ?』

 マークの声がコックピットに入る。キラは口をぱくぱくするが、言葉が出てこない。サブモニターに映ったマークの顔が険しくなる。

『どうした、応えろ!』

 勢いのある声でキラはやっと我を取り戻した。途切れ途切れに息をしながら、小さく呟いた。

「僕が殺した……僕が……人を……」

 言葉がマークに届いたのかは分からないが、マークは無表情になって一言も話さなかった。キラはただ「僕が殺した」と呟くばかりで、生気が薄れていく。

『とりあえず戻るぞ、キラ』

 ハーディガンの手がストライクの肩に触れる。ハーディガンとガンブラスターはそれぞれ大きめの氷を手にしていて、先にアークエンジェルに向かった。

 キラは震えた手でストライクを操作し、どうにかアークエンジェルに戻ろうとする。

 その時三機のMSにアークエンジェルから通信が入る。マリューの声だが、随分と焦っている。

『皆さん早く帰艦してください。ローラシア級が接近してきています。今ならまだ引き離せるので、このまま離脱します』

 艦長の声に応えてマークとニキは機体を加速させる。既にミストラルは全機回収済みで残っていたのはMS三機であった。二機が素早く帰艦するなら、ストライクは一向に足を速めようとしない。

『キラ君、何をしているの! 早く帰艦しなさい!』

「僕は……僕は……」

 キラはマリューに応えることも、ストライクを操作することも上手くできなかった。初めて人を殺したという現実がキラには重すぎたのだ。

 そうこうしている間にローラシア級から二機のMSが発進する。彼等の宿敵とも言えるガンダムか、と思われたが二機とも何の変哲もないジンであった。


『艦長、何があったのかは知らんが、キラは駄目だ! 俺がゼロで足止めしている間に、マークに回収させる! 艦はこのまま離脱しろ!』

 ゼロのコックピットで一部始終を聞いていたフラガがブリッジに通信を入れる。返答を待つことなくフラガはゼロをカタパルトに移動させ、発進する。

 マリューは舌打ちを一つして、戻って来たマークにキラの回収を頼み、艦をデブリ帯から離脱させようと試みる。

 ブリッジに戻っていたナタルは何かおかしいキラを気遣いながらも、ストライクが手にしている物を見て、呆れた調子で呟いた。

「拾い物が好きだな……」

 一機のガンダムと二機のジンはそこまで迫ってきていて、間も無くしてゼロと戦闘を開始した。




 四機のGと二機のジンを載せたガモフは確実にデブリ帯に近づいていたが、途中演習中に離れすぎてしまい無駄な時間を使った。

 そのことについての口喧嘩がブリッジで繰り広げられていた。

「なんでお前は勝手な行動ばかりをとるんだ、イザーク」

 怒りと呆れを半々に混ぜたような声でミゲルが言う。イザークは自分に責任があろうとなかろうとお構いなしにミゲルを睨みつける。

「仕方がないだろう。連携してお前を落とそうとしたら、離れてしまったのだからな。わざとじゃないさ」

「何がわざとじゃない、だ。母艦と自分の距離も把握できないような奴がよく赤を着れたものだ。呆れるな」

 わざとらしく溜息をついて両手の平を上にしてみせる。ミゲルも彼らより年上とはいえ、まだまだ若い兵士だった。たまには子供っぽくふざけてしまうこともある。

 ミゲルのやりようが気に喰わなくてイザークは鼻で笑ってみせて反撃に移る。

「指揮官面するわりには、お前も大したことないな。文句をつけてるわりには、エースの証を着れないような男なのだからな」

「エースの証? 笑わせてくれる。お前らのは実力じゃない。アカデミーの成績が優秀なだけだろ? それに親が偉いからさ。エースではなく、エリートの証。いや、ボンボンの証だな」

 言葉の戦いではミゲルのほうが圧倒的に有利であった。イザークはすぐにかっとなって「表に出ろ。MS戦で叩きのめしてやる!」と頻繁に口にした。

 いつも味方のディアッカでさえ呆れてしまい、援護することもとぼけてみせることもしない。ニコルは止めようと思うが、イザークはともかくミゲルと止める理由がなくて黙りこくっている。

 しばしの間子供らしい口喧嘩が続いたところで、普段は介入しないゼルマンが口を挟んだ。

「いい加減にしろ、お前たち。そろそろデブリ帯に入る。お前たちはコックピットで待機しているんだ」

 親が子供を叱るような口調だった。イザークはお決まりの鼻鳴らしをして一足先に出て行く。続いてディアッカ、この二人は敬礼をしない。ニコルはきちんと敬礼をしてから二人に続いた。

 少し興奮していたミゲルは呼吸を整えて、頭を深く下げた。

「申し訳ありません、艦長。あのような見苦しいところを見せてしまって」

「気にすることはない。お前も彼らも、まだ若い。ああいうこともあるだろう」

 ミゲルが顔を上げるとゼルマンは微笑んでいた。彼ら戦場に出ている少年にとって艦長というのは大体親くらいの年であることが多い。ミゲルらとゼルマンの関係もそのようなものだ。

 父親のような感じを持つゼルマンにミゲルは好感を持っていた。赤を着る者は大体プライドが高く、艦長でさえ呼び捨てにしたり、敬礼しない者が多い。その分ノーマルなパイロットは艦長を慕うことが多い。

 ミゲルは敬礼をして、ブリッジを出て行く。その足でロッカールームに向かうと、既に三人は着替え終わっていた。

 ミゲルが入るとほぼ同時にイザークが睨みを向けてきた。いつものことなので無視をしてミゲルは着替えを始める。

 しばらく無言であったが、ディアッカが口を開いた。

「なあミゲル。今までの訓練で連合の奴らに勝てるのか?」

 彼らにとって「連合に勝てるのか」というのは屈辱的な発言だった。彼らはナチュラルよりも優秀だという自覚があり、連合の奴らに負けるなど頭の中にはない。だがディアッカの心情は変化してきている。

 同じガンダムタイプのストライクならともかく、旧式のMSに退けられたことは彼のプライドに消えない傷を彫りこんだ。それが彼に目先のプライドを捨てさせたのだ。

「今のままなら無理だな。きっと奴らは俺たちの弱点に気付いている。MS戦の経験は相手の方が上だ。まともに戦えばまた負けるな」

 はっきりした口調で言うものだから、ディアッカとニコルは落ち込んだ。さほどプライドを気にしていないニコルでさえ、負けつづけることは嫌だった。

 ただ一人、イザークだけは余裕の笑いを見せる。

「ディアッカまだニコルのように臆病者になったのか? この前のは偶然だ。二度と俺らが負けることはない。次で終りさ」

「お前は甘いな、イザーク。そんなのだから負けるんだ、いつまでも」

「なんだとっ!」

 お決まりのパターンでイザークはミゲルに掴みかかる。

「そんなに自信があるならジンに乗れ。何故そこまで自信があって連合のMSに乗る? ジンよりも連合のMSを優先するというのは、その部門で連合に負けたことの証明だ」

 イザークは痛いところを突かれて一歩下がった。

 ミゲルの言う通り、イザークらはザフトのMSではなく連合のMSに乗っている。それは連合のMS、ガンダムの方が性能が良いからだ。つまり、連合のMS技術のほうが上ということなのだ。

 プライドの高いコーディネイターにとってこれは屈辱だった。ナチュラルよりも全てにおいて優れているはずの自分たちが作った物よりナチュラルの作った物のほうが性能が良い。

 もちろんイザークはこのことに気付いていた。気付いていて無視していたのだ。それを考えてしまうと連合のMSに乗れなくなるからだ。

 悔しいが連合のMSは優秀である。イザークはそれを認めていた。認めたくはないが、認めるしかなかったのである。

 唇を強く噛んで、半ばやけくそになって言い放った。

「いいだろう。次の戦闘、俺はジンで出る。それで足つきと連合のMSを落としてみせる」

「それはいいが、恐らくガモフは足つきに追いつけない。誰かさんのせいで到着が遅れたからな」

 わざとらしい言い方であったがイザークは自分を押さえ込んだ。それは事実であるし、あまりにも喰ってかかるとそれこそ自分のプライドに傷が出来る。

「だがこれはいいチャンスだな。ディアッカ、お前もジンで出ろ。ニコルは待機だ」

 この発言にはディアッカもニコルも納得が出来なかった。

「なんで俺までジンなんだよ」

「どうして僕は待機なんですか?」

 ほとんど同時に出された質問にミゲルは一つずる答える。

「二人の連携プレイを見せてもらうためさ。ジンでも連携攻撃が出来れば落とせない相手ではない。ニコルは余りのジンがないからだ。一人だけガンダムでは性能が違うからな。また連携の仕方も変わってくる」

 ディアッカとニコルは不満げな顔でミゲルを見る。驚くことにこれに賛成したのはイザークだった。

「いいじゃないか、ディアッカ。こいつに俺らの実力を見せるいい機会だ」

「お前がそういうなら、別にいいけどさ。ま、練習してきたことが無駄じゃないところを見せてやりますか」

 ディアッカの顔に笑顔が戻る。イザークのやる気に触発されたのだろう。これで結果を残せば、ディアッカのプライドの傷も少しはよくなる。

 相変わらず一人仲間外れのニコルは不満げだが、その性格もあって反論しようとは思わなかった。

「わかりました。今回は大人しくしています」

「そうとなれば準備だ。イザークはノーマル装備、ディアッカはバルルス改を持っていけ」

 返事はないまま、イザークとディアッカはMSデッキへ降りていった。

 二人がいなくなった後で、ニコルは心配事を打ち明ける。

「ミゲルさん、あの二人大丈夫ですかね?」

「多分駄目だろう。イザークが突っ走って、それでお終いだ。やられることはないだろう。あれでも赤服だからな」

 悪戯っ子のような明るいがどこか意地の悪い笑みを浮かべた。




 ガモフから発進した二機のジンは少し距離を置いて移動していた。前衛がイザーク、後衛がディアッカである。

 二機は建物や残骸の陰に隠れながら素早くアークエンジェルに向かう。それでもジンの足ではアークエンジェルに追いつくことなどできるはずもなく、どんどん距離が離れて行く。

「逃げるのか、腰抜けめ!」

 敵を警戒しながら進んでいたイザークが痺れを切らして突撃する。それで追いつけるわけでもないが、そうしなければイザークの気が済まなかった。

 さっそく連携行動を無駄にされてディアッカは拳をシートに叩きつける。

「たくっ、なんでイザークはああも勝手なんだよ!」

 仕方がなくディアッカも機体を加速させる。モニターの奥では既に戦闘が開始されていた。

 突っ込んでいったイザーク機は待ち伏せしていたゼロの攻撃を受けた。驚異的な反射神経を持ってしても避けきれず、肩のアーマーを吹き飛ばされる。

 不意打ちにやられたイザークは溜まった怒りを爆発させてゼロに攻撃をしかける。右手のマシンガンを絶えず撃ちながら、左手で重斬刀を持って接近する。接近戦に持ち込めばメビウスに勝ち目はない。

 ゼロを駆るフラガもそれくらいのことは承知していた。ガンバレルを射出して、機首のリニアガンと共に間隔を置いて撃つことでジンの接近を抑える。

 撃っては建物に隠れ、また撃っては建物に隠れる。フラガは上手く地形とガンバレルの特性を活かして一方的に攻撃を仕掛けていた。

「ジンくらい相手にできなきゃ、俺ってほんと立つ瀬ないよな!」

 最近のマークやニキ、キラの活躍にフラガはらしくもなく焦りを覚えていた。一番年上で経験も豊富だが、MAとMSの差は大きかった。それでもジンと互角に戦い、ガンダム相手でも足止めできるほど実力を持つフラガは凄いといって良い実力者だ。

 今も一機のジンを手玉にとって攻撃している。隠れるだけの建物や残骸があるというのは、障害物も多いということだ。決定打を与えることができなくて、中々勝負が決まらない。

「MA相手になにやってんだよ、イザーク!」

 遅れて戦場に到着したディアッカ機がバルルス改をゼロが隠れている建物に向けて放つ。本来はD型装備のとき使用するものであり、その威力は凄まじいものがある。

 直撃を受けた建物は粉々に吹き飛ぶ。突然の重い攻撃に焦ることなくゼロは次の建物に身を隠し、ガンバレルを使って多方から攻撃を仕掛けた。

 イザークもディアッカも連携こそなかったが腕が悪いわけではない。その二人でさえ建物の合間から放たれるガンバレルの攻撃には苦戦を強いられた。

 右から攻撃が来たかと思うと、足元からも攻撃が来る。一つ避ける間にもう一つ、反撃をしようにもその隙が作られない。

「ええい、鬱陶しい!」

 イザークはモニターに向かって吼えるとマシンガンを撃ちっぱなしにしながら、ゼロが隠れている建物に突撃する。ガンバレルの攻撃は最小限で避け、多少のダメージには目を瞑る。

 ガンバレルの攻撃に怯む事無く突っ込んでくるジンにフラガは感心した。随分と勇気のある奴だ、と。

 しかし相手を感心している暇はなかった。ジンは弾切れになったマシンガンを投げ捨て、剣を構えて向かってくる。それだけなら避けるのは容易だが、攻撃が手薄になっていたもう一機のジンの攻撃を受ける。

 バルルス改が放った攻撃が横合いから建物を吹き飛ばし、ゼロの姿を晒す。MSと違って細かい動きが出来ないMAにとって建物の破片はそれだけで脅威となる。回避行動を取って破片の嵐から抜けたところに、剣を振り上げたジンが待ち受けていた。

「落ちろ、MAめ!」

 イザーク機が振り下ろした剣は本体ではなく、ガンバレルの一つを叩き潰した。フラガは素早く使い物にならなくなったガンバレルを捨て、急上昇する。そこへ再びバルルス改の砲火が迫り来る。

 巧みな動きでバルルス改の砲火を避けると、銃口を向けているもう一機のジンに突撃する。三つのガンバレルを展開し、機首のリニアガンと同時に撃つ。

 バルルス改はその威力に相応しいだけの重量があり、ジンの動きを鈍らせた。直撃とはいかなくとも何発が装甲に受け、ダメージを負う。上昇して避けた後をゼロは通り過ぎ、反転して再び攻撃を仕掛ける。

 剣しか武装がなくなったイザークのジンはディアッカが攻撃している間を縫ってゼロに迫る。だが素早く建物の間を駆け巡るゼロを捉えるのは至難の業であった。一歩間違えれば建物に激突するか、ディアッカの攻撃に巻き込まれる。

 このような状況では機体が小さいゼロのほうが有利であった。MSが通れない隙間を移動して攻撃をしかける。場所はゼロに味方した。

 二機のジンは知らず知らずのうちに連携プレイを取っていた。ディアッカがバルルス改でゼロの行くほうを攻撃し、動きを鈍らせ、他方に逃げようとするゼロをイザークが襲う。

 致命傷を与えることはできなかったが、狭い空間を駆け回るゼロを捉えはじめていた。

「イザーク、俺が足を止める。お前が決めろ!」

「ああ、任せろ!」

 ディアッカは機体を止めてゼロの動きを観察する。ゼロは逃げ回りながらイザーク機を攻撃していた。ディアッカとでは距離が離れていてガンバレルでも届かない。

 持ち前の高い能力を活かしてディアッカはゼロの動きを読む。そして一つの建物に狙いを定め、引き金を引く。丁度ゼロが通りかかったところで爆発し、ゼロを巻き込んだ。

 しかしゼロはフラガの反応の早さと合まって爆発から抜け出すが、イザーク機が待ち伏せていた。今度の狙いは完璧だった。振り下ろした剣は胴体を狙っている。

「こんなところで死ぬかよ!」

 フラガはどういうわけかイザークの攻撃を読むことができた。何コンマという差でガンバレルの一つを射出してジンにぶつける。ダメージこそなかったがバランスが崩れ、ジンの剣はゼロの表面を掠っただけに終った。

『大尉、キラ君は無事回収しました。急いで戻って来てください!』

 突然入った通信に反応してフラガはアークエンジェルへとゼロを向けて加速させる。

 バランスを崩していたイザークのジンは体勢を取り戻し、追撃しようとしたが遅かった。

『イザーク、そこまでだ。それ以上離れると回収できなくなる。それに、そのまま行っても勝ち目はない』

 Nジャマー下で不明瞭だがミゲルの声だ。イザークは反抗しようとせず、大人しく追撃を止めてディアッカと合流し、ガモフを目指した。

 いつもなら反抗して追撃することろだが、幾らプライドがあると行っても傷ついた機体と剣一本で勝てるとは思っていない。ディアッカの方もそこそこダメージを受けていたし、バルルス改のエネルギーも切れていた。

 帰艦途中、ディアッカは普段の明るい声でイザークに話し掛けた。

「逃がしちまったけどさ、俺ら連携できたじゃん。これなら、次は勝てるぜ」

 イザークはすぐに返事をしなかった。今まで自分独りで戦い、戦果をあげてきた。だが、今は違う。一人ではMA一機落とせなかった。それがディアッカと連携することで、追い詰めることができた。

 場所が相手に有利で、待ち伏せも出来た状況では中々の出来であった。彼らは後にそれが連合のエース<エンデュミオンの鷹>と知って、その強さを認めることになる。

 少し時間をおいて、普段よりも多少優しげな声でイザークは返した。

「ああ、次は落とすさ、必ずな」

 デブリ帯の近くで待機していたガモフに帰艦した二人の心には確かな変化が起きていた。




 ゼロが帰艦するとアークエンジェルは全速力でデブリ帯から離れた。レーダー、センサー共に敵の姿はなく、一同安堵の息を吐いた。

 損傷したゼロから降りたフラガはストライクに群がる整備士たちを見つけた。装甲を蹴ってストライクの元まで行くと事情を聞く。

「パイロットが閉じこもって出てこないんですよ」

 整備士の声は呆れていたが、フラガは違った。上を見上げてみるとコックピットの前にマークとマードックが居て、必死に話かけている。

「おい、ぼうず、いい加減に出てこいって。あの救命ポッドどうするんだよ」

 マードックは言いながら人指し指で床に置かれたままの救命ポッドを指す。

「何があったんだ。閉じこもっていたら、分からないだろう」

 マークも声をかけてみるがキラは反応しない。シートの上で膝を抱え、頭を埋めてただ「僕が殺した」と呟いていた。

 何度話しかけても反応がないので、マードックは強行手段に出た。コックピットの近くにあるパネルを操作して強制的にコックピットを開ける。

 中のキラを見たマークとマードックは言葉を失った。戦闘前までは元気だった少年が、死んだような目つきでこちらを見ている。生きた屍とでもいうほど、全身に力がない。

 マードックが無理やりキラを連れ出そうとするのをマークが制す。

「何があったか言ってみろ、キラ」

 出来るだけ優しくマークは話かける。キラはゆっくりと口を動かし、言葉を発した。

「僕は……人を殺しました……」

 マードックはキラの言葉に驚いたが、マークは動じなかった。通信を入れた時から、キラの様子に気付いていたのだ。

「そりゃお前、仕方がないだろう。戦争なんだから」

 マードックがごく当たり前のように言う。

「マードック曹長、あんたは下に行っててくれ。こいつは俺が預かる」

 半ば睨むような目つきに気圧されてマードックは頷いて降りていった。

「キラ、とりあえず降りよう。お前が拾ってきたポッドを開けるんだ。お前も見るだろう?」

 キラはマークが差し出した手を握り、コックピットから出る。下を見ているとまだ野次馬が群がっていた。

 それもマードックの指示で散り散りとなり、残っているのはフラガとニキだ。マークと一緒に下に降りると、今度は救命ポッドに人が集まっている。

 ブリッジから降りてきたマリュー、ナタルもいる。ナタルは弱っているキラを一瞥すると、すぐに視線をポッドに戻した。

 キラとマーク、フラガ、ニキは野次馬の一番後ろに立ってポッドが開くのを見ていた。マードックが「開けますぜ」と言ってから扉のロックを解除する。

 気の抜けた音がして扉が開く。すると人影が見えた。それはポッドを蹴っ飛ばして外に出てくる。

「女の子……?」

 キラが弱々しい声で言う。ポッドから出て来たのは確かに女の子だった。ピンク色の鮮やかな長髪にドレスのような服装をしている。その女の子の後に続いて同じくピンク色の球体が現れる。

「ミトメタクナイ! ミトメタクナイ!」

 球体は訳の分からない言葉を発しながら跳ね回り、少女はキラの上まで流れてきてキラはそっと手を差し出した。

 少女はキラの手を掴み、床に下りる。

「ありがとう」

 少女の声は少女らしい可愛い声であった。キラは弱っていながらも頬を赤くして、言葉を濁した。

 少女はキラの手から離れると周りを見渡した。マリューもナタルも、誰も彼も驚いて言葉もない。

「ここはザフトの艦ではないようですね。もしかして、連合の艦でしょうか?」

 随分とすっ呆けた質問ではあったが、これはマリューたちにとって一つの情報を与えた。彼女がコーディネイタ―であるということだ。

「確かにここは連合の戦艦です。貴方は一体……?」

 代表としてマリューが一歩前に出る。ピンク色の少女は人形のような微笑みを浮かべて当たり前のように言う。

「私はラクス・クラインですわ。この子はピンクちゃんです」

 ラクスと名乗った少女は跳ね回るピンク色の球体――宇宙世紀にも存在していたハロと呼ばれる物――を手にした。

 一同はしばし名前を噛み締めた。そして、隠す事無く素直に驚いた。

「まさか、プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの令嬢……なのか」

 普段感情を表に出さないナタルも素直に驚きながら口にする。

 ラクスは隠す事も臆すこともなく頷く。

「はい、シーゲルは私の父ですわ。皆さん、ご存知ですの?」

 この場で今の状況が理解できてなかったのは、心身共に疲れ果てているキラだけであった。

 キラはプラントの最高評議会議長の名前など知らなかった。オーブに暮らしていれば、そんなこと知る必要がなかった。

 マリューは各員が驚き、動揺しているのを見て、咳払いをしてから言った。

「と、とりあえず誰かラクス嬢を部屋にお連れしてください。各員は持ち場に戻って」

 マシンガンで武装した兵士が二人ラクスの傍に立ち、ラクスを部屋へと案内していく。

 キラはその華奢な背中を見つめたまま立ち尽くしていた。

「なんだか、エライ物拾ってきたな、お前」

 フラガが緊張感のない声で言う。その声でキラは我を取り戻し、自分のやったことを思い出した。

 すぐに気分が悪くなって、その場にしゃがみ込んでしまう。

「大丈夫か、キラ。今は休め。話は後にしよう」

 そういってマークはキラを立たせ、連れて行く。状況が分からないフラガはマークを見つめているニキに訊いた。

「あいつら一体どうしたんだ?」

「……分かりません」

 少し躊躇いながらニキは嘘をついた。フラガはそれ以上訊こうとせず、疑問を持ったままMSデッキから出て行く。ニキもその後に続いた。




 マークに連れられて部屋に戻ったキラは一言礼を言ってからベッドに入った。眠るのではなく、膝を抱え込み、その上に頭を乗せる。

 思い出したくない光景が頭に浮かぶ。複座型のジンが自分の撃ったビームに当たり、動きを鈍らせ、左肩を貫かれ、そして――

 そこまで思い出してキラは吐き気を催した。

 MSのパイロットとして相手のパイロットを殺すことなど、普通のことだった。そうでなくては戦場で生き残ることはできない。だが、キラはパイロットである前にまだ成長しきっていない民間人の少年である。殺す、ということはとても重いことだった。

 自分が相手を殺さなければミストラルはやられていた。それを見過ごすことはできない。自分がやったことは正しいことだ。そうだ、仕方がなかった。

 どんなに考えても自分を納得させることができない。これもマークの言う『殺す覚悟』が出来ていなかったからだろうか。何を考えても、キラは自分を苦しめることしかできない。

 しばらく同じ事を延々と考えていると、カズイが現れた。普段見ないようなほどの笑顔を浮かべている。

「キラ、さっきはありがとう。キラが助けてくれなかったら、俺、死んでいたよ」

 カズイの元気そうな顔を見て、キラも元気を少し取り戻した。

(そうだ、僕はこの笑顔を見るために戦っているんだ。そして、どんなことをしてでもこの笑顔を守らなくちゃいけない)

 言葉に出すことはできなかったが、何度か頷いて「疲れているから」とカズイを帰した。

 人を殺すのがいいこととは思わない。でも、守る為ならそれも止むを得ない。マークが言っていた『覚悟』とは何があってもやり遂げることなんだ、とキラは思った。

 少し元気を取り戻して、咽喉が渇いていることに気付く。ベッドから出て、食堂に向かう。今の時間なら友達たちはブリッジで働いているころだ。

 食堂に入ると、真っ先にコップを持って水を入れる。氷を補給することで水もある程度自由に使うことができた。今までは限られていた水も今では何杯も飲める。

 三杯ほど水を飲んだところでマークが現れた。

「もう気分は良いのか?」

「はい。ご迷惑をおかけしました」

 マークが椅子に座って手招きをするので、丁度対面する形で椅子に座る。

「お前は後悔しているのか?」

 いきなり核心を突かれてキラは下を向いた。だが、すぐに上を向いて言い返す。

「僕は、出来るなら誰も殺したくはないと思っていました。だけど、そうしなかったらカズイは守れなかった」

 口調は強気だが、まだそれほど元気を取り戻していないのがマークには分かった。

「これからも僕の力が及ぶ範囲なら、誰も殺すつもりはありません。でも、もし、殺さなくてはいけないのなら……」

 言葉が切れる。数秒間の沈黙であったが、二人にとっては永遠とも感じられるほど長かった。

「殺します」

 キラの声も瞳も震えていた。どんなに強気な態度に出ても、マークの目は欺けなかった。心底誰も殺したくないと思っている気持ちが、マークには痛い程理解できた。

「覚悟が出来た、というんだな」

 言葉ではなく頷くことで返す。

「分かった。なら、お前が出来るだけ誰も殺さないように、俺がお前の分まで殺してやる。それに、殺さなくても倒せるように、訓練もしてやる」

 マークの言葉にキラは驚いた。今までもそうだが、何故自分にそこまで良くしてくれるのだろうかと疑問に感じていたのだ。

「あの、マークさんは何でそこまで僕に良くしてくれるのですか……?」

 訊くのを躊躇ったせいか、キラの声は小さい。それでも全く音のない食堂では十分過ぎる。

「似ているからかもな。昔の自分とお前が。俺も昔は誰も殺さずに戦争を終らせたいと考えていた」

 躊躇っている様子はあったが、マークは自分の過去を話し始めた。キラは黙って耳を傾ける。

「だけど現実はそれほど甘くはない。俺は目の前で親友が殺されるところを見た。その時分かったよ。自分には力がない、甘い考えでは仲間を守れない、ってな」

 キラはマークの瞳に悲しみの色が浮かんでいることに気が付いた。どこか陰りがあって、それを隠そうとしている。

「それから俺は訓練を積んで力をつけ、相手を殺す覚悟で戦ってきた。そうでなければ、俺は仲間を守れない」

 喋りすぎたな、とマークは小声で呟いて僅かに微笑んだ。

「だけど、お前なら相手を殺さなくても戦うことができるかもしれない。お前には力がある、生まれ持った力が」

 その力がコーディネイターであることを示しているのは容易に分かった。キラは小さく頷いて続きを待つ。

「その力を守る為に使えば、殺さないで戦うこともできるだろう。そのためなら協力するさ。俺がした悔しい思いを、お前までする必要はないからな」

 明るい笑顔を見せる。キラの心も明るさを取り戻した。笑顔を浮かべて「はい。よろしくお願いします」とはっきり答えた。

「そうとなれば、これからも厳しい訓練だ。ま、それでも今日は休め。疲れているだろうからな」

 キラは頷いて席を立った。頭を深く下げ、ありがとうございましたと言い残して食堂から出て行った。

「お前も悪趣味な奴なんだな、ニキ」

 呆れたように言うと、キラが向かって行った方向とは逆の方向に隠れていたニキが出て来た。

 一見無表情のように見えるが、どこか悲しみを浮かべている。

「マーク……」

「いいんだよ、これで。俺には出来なかったことが、あいつなら出来る気がする。俺と同じ思いはさせたくない」

 マークは立ち上がってコップに水を入れると一気に飲み干した。

「私も協力します。私も貴方と同じ気持ちです」

 大人の魅力を漂わせた微笑を浮かべる。マークも微笑みを返し、二人は並んで部屋に戻っていった。









 あとがき
  どうも、陸です。
  なんかマークがフラガの役を奪ったような感じですが、フラガの活躍は後々あるのでファンの方、今しばらくお待ちください。
  前回の話で、代理人さんに毎回山と落ちをつけて欲しいといわれてしまいました。
  努力はしますが、話によっては厳しいですね。これはどこで話を区切るかによるわけで、考えて区切ってみます。
  でも前回のはあんまりなので、あれ並に盛り上がりがないのは今後多分出ないはず。
  後色々出して欲しいMSを見ましたが、中々厳しいものばかりです(苦笑)
  できるだけ挑戦してみますので、あまり期待はしないでください(笑)

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代理人の感想

今回はちゃんと山と落ちがありましたね。(あ、なんか偉そう)

たとえ長編でも、連載の場合その一話一話は短編なんですよね。

だから、連載の一話一話には短編と同じとまでは言わないまでもある程度の山と落ちがないと読んでて辛いんです。

陸さんならそれほど難しいことでもないと思うので、是非頑張ってください。

ではまた。