「それじゃあ、シンシア……もう、行くよ」

木の棒を突き立てた程度の粗末な墓を目の前に、ユーリルは言った。
その下に骸は無い。魔物が持ち帰ったのか、それとも死骸すら残れぬ方法で殺しつくされたのか。
代わりに埋めたのは、弔ったのは汚れたシンシアの羽帽子。
それはとても区切りをつける事ができる代物ではないが、それでもなにかを弔わずにはいられなかった。

「……」

無言で踵を返すユーリル。
二三歩ほど進んだあたりで足を止め、墓標を振り返る。
泣き出しそうな顔が墓標を眺め、今度こそ振り返らずに朽ち果てた村を後にした。

 

 


 

 

初めて村の外に出た。
取り敢えずは町に向かおうと思い歩いているのだが、道は険しく、鬱蒼と茂る草木が視界を阻む。
まるであの村が外界との繋がりを拒むかのように。
実際にその通りなのだろう。
魔物に攻め込まれた時に一丸となってユーリルを守る為に戦った村人達の事を考えると。
あそこの村は暮らす為ではなく、勇者を……ユーリルを守る為に造られたのだ。

(でも、シンシアも父さんも……)

父親の言葉、シンシアの言葉を思い出す。
勇者の為でなく、という言葉を。
だがその父親もシンシアもユーリルを守る為に死んだ。
その事を思い出す度に憎悪がこみ上げてくる。
ギリギリと歯を噛み締め憎悪を発露する為に腕を振るい、枝を払う。
乾いた音を鳴らし折れる枝を見ることもせず、ユーリルは歩を進める。
荒く息をつき草を踏み分けてゆく。
手には多くの擦り傷と切り傷があり血が滲んでいる。
綺麗な、まるでエメラルドを思わせる髪は汚れ、くすんだ色を見せる。
一歩、また一歩と地を踏みしめ歩くユーリル。
どれほどの時間歩いているのだろうか?
空は木々とその枝に隠され見えず、時間の感覚すら無い。
村を出たのは朝であったが、今は昼か夜かそれとも未だ朝か。
一向に終わりの見えないこの深緑の園。
萎えそうになる心の炎に憎悪という薪を放り盛らせる。
デスピサロ――その名の男を捜し、殺す、それだけを胸に秘め歩く。
そうして朱色の光が視界に入った。

「漸く終わりか……」

はぁ、と息を零し歩を緩める。
木々に遮られ見ることの叶わなかった光に眩しげに眼を細める。
森を抜けると既に太陽は沈みかけており、紫色の色彩を空に描いている。

――夜が近い。

未だ夜は人の世界に非ず。
魔物が跳梁跋扈し出歩く愚かな者を襲い、喰らう。
勇者と呼ばれようともユーリルの剣の腕は精々城に勤める兵士ぐらいのものだ。
この周囲の魔物はそれほど強力ではないといえ、囲まれれば危ない。

「早く――町を見つけないと……」

と呟くが地図が有るわけでなく方向すら判らない。
取り敢えずは歩くだけ歩くしかないと思い、一息をついた後に再び歩き出した。

 

太陽は完全に地平の向こうへと落ち、夜の帳が降りた。
星が瞬く夜空、月光が煌々と優しく降り注ぎ世界を照らしあげる。
周りには町どころか一軒の家も無い。
なんて――孤独。
いつもであれば家族と共に食卓を囲んでいるであろうに、今は唯独りで夜を歩く。
森を抜けた疲労がその身に圧し掛かり足を踏み出すのすら億劫になる。
今魔物に襲われればマトモな抵抗もできずに殺されかねない。
今にも倒れそうになる身体に、今にも屈しそうになる心に鞭を打ち、尚も歩く。
剣を杖代わりにし、ただ前だけを見て。
どれほど歩いただろうか、足はもはや痛みすら訴えることもできず鉄になったかの様に重い。
溜まりに溜まった疲労に視界が霞み、ふらふらと危げに身体が揺れる。
旅慣れていない、というよりは初めて村の外に出たのだからそれも無理も無いといえた。
それでもとなんとか足を動かすユーリルの耳に聞こえる音。
なんの音かと、音の聞こえた方に眼を向け、そこで意識が暗転した。

 

パチパチと生木が爆ぜる音で眼が覚めた。
最初に視界に入ったのは木で組まれた天井。

「ここ、は……?」

粗末な造りのベッドより身を起こそうとするが身体が鉛のように重い。
それでもなんとか気力を振り絞り身を起こしベッドより降りる。
足を引きずる様に歩きながら部屋を出ると、

「漸く起きやがったのか!」

乱暴な言葉が投げかけられた。
声の主を見てみると年を経た男がいた。
質素な服に身を包んではいるがその強靭な体躯を服は隠しきれていない。
年を経て尚も気力に満ち溢れている姿。
確かにこれならば町でなくとも生きていけるだろう。

「あ……」
「なんだ? ったくよぉこんな夜に外を歩いてるだなんて何考えてるんだ?」

フン! と鼻を鳴らしユーリルを見る。

「それは……」

と口を開くがそれ以上の言葉が出てこない。
村が滅ぼされ、大事な人が殺された復讐の為に、などとは言えなかったからだ。
そんなユーリルを見ている男の目に不可思議な光が宿る。
まるで哀れむような、心配するような光。
その光にユーリルは気づかず何を言うべきかと迷う。
だがユーリルが答えるよりも早く、

「ちっ! お前みたいな奴は取り敢えず泊まっていけ!」

と言葉が投げられ、呆然とするユーリル。

「でも……」

その言葉はありがたい。なにせもう完全に夜となりユーリルも疲れ果てている。

「ガキが遠慮してねぇで泊まれってぇの!」
「は、はい!」

遠慮がちに口にした、でも、であったが老人の一喝により言葉を飲み込む。
そして大人しく老人の言葉に従い重い身体を引きずりながらベッドへと戻るユーリル。
彼は気づかなかった。その背を老人がずっと見ていたことに。
そして、

「もう、17年か……」

と寂しげに呟いた事に。

 

 


 

 

夢を――見ている。

それは懐かしくも哀しい夢。
シンシアがいて、両親がいて、村の皆がいる。そんな夢を。
ユーリルはずっと幼くって未だシンシアに恋心を抱いてない時。

 

 

「――そうして魔王は竜の神様に倒されて世界に平和が戻ったのです」

目を爛々と輝かせユーリルはシンシアの語る御伽噺を聞いていた。
ユーリルの両親に頼まれ、時折シンシアはユーリルの世話をしている。
今もこうして眠れないと騒いでいたユーリルに寝物語を聞かせている。
一緒にベッドに横たわりユーリルの背を優しく、ポン…ポン、と叩きながら。
ランプの仄かな光が二人を浮かび上がらせている。
それは誰もが郷愁を抱き、どこか安らぎを抱く絵画を思わせる情景。

「それで竜の神様はどうなったの?」

ユーリルの言葉にシンシアは自身の顔に掛かる髪をそっと除けて、

「竜の神様はね、魔王を倒した後に天空に有るお城に帰ったの。そこで地上に生きる者を見守るためにね」

幻想的に浮かび上がるシンシアの姿。
自分を見つめる優しい瞳、人とは異なる長い耳、春に咲く花々を思わせる長くて綺麗なピンクの髪。
綺麗な、綺麗な彼女。

「ミマ…モル?」
「ええ、誰かの為の剣となり、誰かの為の盾となる、それが守るということよ」
「わかんないよシンシアお姉ちゃん」

うー、と唸るユーリルにシンシアは優しく微笑みを浮かべ、

「それじゃあこうしてユーリルが元気な姿でいることが私の心を守っている――なら、分かる?」

ユーリルをそっと抱きしめる。
シンシアの甘い香りと柔らかい感触に包まれながら、

「ボクが……シンシアお姉ちゃんをマモッテいる?」
「ええ、ユーリルは私を守っていてくれてるわ」
「じゃあずっと守るね! ボクがシンシアお姉ちゃんを守るね!」

天真爛漫な笑顔でユーリルは言った。

「そうね……ユーリルなら守れるわ。私だけじゃなくって沢山の人を……」

どこか物悲しげに言うシンシア。
その表情を読み取るにはユーリルはまだ幼すぎて――

「絶対ボクが守るね! シンシアお姉ちゃんのこと!」
「ええ。ユーリル、私を守ってね? ユーリルが私を守ってくれるのを待ってるから……」
「うん!!」

それは遠い日の約束。
けど、ずっと忘れなかった約束。

だけど――

 

「デスピサロ様! 勇者を仕留めました!!」

夢は悲劇と代わり、

「私は……ユーリルの事――好きだよ」

涙と共にその言葉はあって、

「ユーリルが私を守ってくれるのを待ってるから……」

百合の花を思わせる白くて美しい彼女の姿は、

「――待ってるから……」

その身を朱に染め、

「ユーリル、私を守ってね?」

炎に焼かれ、消えていき、

「うわぁああああああああああああああ!!」

 

自身が放った絶叫と共に目が覚めた。

「ハァハァハァハァ……!!」

零れ出るの吐息と涙。
心臓は早鐘のように打たれ、まるで治まる気配を見せない。
息は荒く、心も散り散りに乱れている。
涙を流しながらユーリルは物を入れている皮袋よりルビーを、シンシアの涙を取り出す。
それを両手で握り締め胸元へ押し付けるように抱いた。
涙は止まらず、悲しみは堰を切ったかのように溢れ出てくる。

「……クショウ」

顔を俯かせ、歯を食いしばりながら呟く。

「チクショウ……なにが……守るだよ。なにも、誰も守れなかったのに……」

夢で見た思い出がユーリルを苛む。
あまりにも自分が情けなくて更に涙が溢れる。

「結局シンシアに、村の皆に守られただけだったじゃないか……」

数多くの魔物と戦い、死んでいった村人達。
その骸を弔うことすら許されず、残されたのはシンシアの羽帽子のみ。
勇者――と父親は、シンシアは自分を呼んだ。
だが、

「誰も守れなかった人間が勇者なものか」

シンシアの幻を抱くように己が身を抱きしめる。

「たった一つの約束すら守れない人間が……」

握り締めていた手を開き、その中に収まる紅玉を眺める。
泣きはらし赤くなった目で。
デスピサロへの憎悪と自身への憎悪。
今にも決壊し溢れ出しそうになるそれが、その紅玉を眺めているだけで穏やかになってくる。
いつの間にか涙は止まっていた。

 

ルビーを再び皮袋に収めユーリルはベッドより降りた。
若さと、一晩寝たお陰だろう、疲れは抜けている。

「お爺さんは……」

落ち着いてみれば屋内に老人の気配が無いことに気づいた。
もしいたのならばユーリルが絶叫した時点で何事かと来るであろうからそれより以前からいなかったのだろう。

「外……」

一言呟き、ユーリルは分厚い木の扉を開き、外へと出た。
黎明だ。陽光が世界を照らしつつある時だ。
それでも肌寒く身体をぶるっと震わせユーリルは歩き出した。
先ほどまで薄暗いところにいた為、光が目に痛かったがそれも慣れつつある。
額の部分に手をやり影を作りながら歩くユーリルの前に老人はいた。

「なんだおめえか」

昨日と変わらぬ無愛想な声。
だがどこか寂しさと哀しさが混じってる声。
老人の目の前にあるのは墓だ。
豪華とは程遠いが丁寧に作られた墓。
それが――老人を感傷的にさせているのだろう。
ならばその時を邪魔してはいけないとユーリルがその場を離れようとすると、

「お前も祈ってけ」

老人が言った。
え? とユーリルが返すと、

「お前が……お前でも祈ってくれれば喜ぶだろうなって言ってるんだよ」

墓の下に眠るものがだ。
それは強ち間違いとは言い切れないが老人の言葉にはそれ以上のものが含まれている。
ユーリルがそれに気づくことは無かったが、それでも確かにそうかもしれないと思い、静かに膝をつき、手を組む。
清清しい空気と差し込んでくる陽光の下、墓碑の前で膝をつき、祈りを捧げるユーリル。
それはさながら美しい宗教画を連想させた。
そんなユーリルを感慨深げな目で見守る老人。
ユーリルに気づかれること無く、その目より一筋の涙が流れる。
それは陽光を反し、輝きながら地に落ち、吸い込まれた。
ユーリルが立ち上がる。
老人はそっと目元を拭い、涙の残滓を見せないようにする。

「それじゃあ、僕はこれで……」

静謐な空気を壊さぬようにそっと言葉を口にするユーリル。

「待ちな」

踵を返そうとしたユーリルに掛けられる声。

「家の中に昔使っていたモンがある。そんな格好だとすぐ魔物にやられちまうぞ」
「いいんですか……?」
「はっ! 一晩でも、泊めた相手が死ぬなんて寝覚めが悪いんだよっ!」

顔を逸らしまるで怒っているかのように言う老人。
それが老人なりの心配の仕方なのだとユーリルは悟り、

「……わかりました」

と言い家屋の中へと戻っていった。
一時とはいえ外に残る事となった老人は墓を見ていた。
どこか疲れたような表情、しかしどこか満足気な表情で。
ずっと、ずっと……。

 

「それじゃあ、ありがとうございました」

老人の餞別とも言える皮の鎧を身につけユーリルは礼を言った。
対して老人は無言でユーリルを見ている。
何も言わない老人に訝しげな表情をするユーリル。

「ここから南に向かえばブランカの城が有る。そこなら人も多いしなんとかなるだろうよ」
「はい」

そうしてもう一度、礼をし歩き出すユーリル。
少し歩き、振り返ってみると老人の姿は既に家の中に消えている。
それだけを確認しユーリルは歩き始めた。
ふと気づけば自分の胸中に言葉にできるほど強くはないがなにか――感情が蠢いている。
それが懐かしさだと、ユーリルは終ぞ気づくことが無かった。

 

 


 

 

老人の言葉に従い南を目指すユーリル。
徐々に昇りつつある太陽に大気が温もりを与えられる。
ブランカの城に向かうまでの間に魔物と出会ったが難なく切り抜けユーリルは歩く。
昨日まで歩いていた森と山の道に比べれば快適この上ない道であるため、疲労はそれほど無かった。
そうして太陽が頂点へと達するころにはブランカの城へとたどり着いた。

 

城壁を潜り抜けるとそこはユーリルにとって珍しいものばかりであった。
村の中では決して見ることの無かった人の群れ。
人の波になんとか逆らいながら進むユーリル。
ブランカの城に来たのはいいがどこに向かえばいいのか分からなくなる。
陽光に照らされ汗が流れ出てくる。
一先ず陽光を避けようと木陰へと移動し一息つくユーリル。

(これからどこへ行けば……)

どれほど考えようともその答えは出てこない。
どこへ行けばデスピサロに会えるのか。
それだけが知りたい。
勇者の成すべき事などではなく。ただ、デスピサロの、憎悪する存在の居場所が知りたい。
どれほど憎んでも足りない存在の居場所を。

「そういえばエンドールの占い師の話って聞いたこと有るか?」

知らず知らずのうちに拳を握り締めていたユーリルの耳に届いた声。
それはユーリルに話しかけられたわけではないが、

「ああ、よく当たるって評判のやつだろ」
「そうそう、それもその占ってくれるのが美人なんだってよ」

占い――その言葉を聞いたユーリルは小さく笑みを浮かべた。
当たるかどうかは分からないがそれでも行くだけ行ってみようという気持ちだ。
それ以外にもこの城では勇者に関する話などが聞けるそうだが、それに関してはどうでもいいと考える。
自分は勇者などではないのだから、と。
胸に収めるべきは勇者の使命などではなく、デスピサロへの憎悪のみ、それだけでいいと考える。
歪んだ笑みを浮かべながらユーリルは取り敢えずはエンドールへと向かう、という意思を秘めて歩を進めだした。

 

街中の人々より話を聞いてみるとエンドールへと向かうのはそれなりに容易いらしい。
魔物もそれほど強いわけではないこの地域というのが一つと、少し前にトルネコという商人がスポンサーとなって開通したトンネルがあるからだとか。
トンネルの位置はおおよそ西にあるらしい、それだけを聞けばこの城に用は無い。
持ち物を見て、薬草などが十分にあることを確認したユーリルは城を後にした。
どうやらそれなりの時間をブランカの中で過ごしていたらしい。
頂点にあった太陽は見て分かるほどに動いていた。

「夜になる前につけるかな?」

一言呟きながら歩くユーリル。
同じ方向へと向かう者達もまた、エンドールへと向かっているのだろうか。
それには目もくれずユーリルは占い師に出会った後のことを考える。
もし、デスピサロの居場所が分かるのであれば、それでよし。
もし、デスピサロの居場所が分からないのであれば……。

(虱潰しに魔物を殺していくだけだ)

雑魚から名の有る魔物へと。殺して殺して殺し続けていけばいつかは至る。
一度では至らなくとも何度でも、何匹でも殺していけばいつかは届く。
――デスピサロへと。
あの銀色の髪を持った男に剣を突き刺す光景を夢想して、あの男が絶命する様を夢想して、ユーリルは禍々しくワラッタ。
最早滅んでしまった村で過ごしていた純朴そうな若者をこの禍々しい笑顔より連想できるものはいないだろう。
凄愴な鬼気を放ちながらユーリルは歩く。
唯一つのことを胸に秘めて。

 

ブランカとエンドールを結ぶ洞窟を抜けてみれば最早日は沈んでいた。
この近辺に現れる魔物がどれほどの強さを持つのか分からない為、ユーリルは下手に動かずここで夜を明かすことにした。
幸い、同じ事を考えるものがいて、かつキャラバンであった為、幾ばくの金を支払うことで寝床と食料を提供してもらえた。
寝床といっても宿屋のような立派な代物ではないが風と雨露を防ぐには十分事足りる代物だ。
魔物の相手もキャラバンの方で雇った戦士が相手をするだろう。
雇われた者達は少なくともユーリルよりは腕が上であることだし。
そうして早々に寝ようと思ったユーリルであったが、昨晩見た悪夢が忘れられず中々寝付けなかった。
そのためテントより外へと出て、焚き火へと向かった。
そこには見張りの役をしている戦士が数人焚き火を囲み座っている。
戦士達はユーリルの姿を認めると柄にかけていた手を退け、再び談笑を始めた。
そんな戦士達にユーリルは声を掛けることも無く、同じように焚き火を囲む形で座る。
無言で焚き火を見ているユーリル。
ふと空を見上げてみれば無明の暗天が広がっている。
星は見えず、月光すらも降り注がない闇夜。
まるで自分の心のようだ――と、ユーリルは思った。
だからかもしれない。戦士達の問いかけに答えたのは。

「お前、なんで旅なんかしてるんだ? 見たところ剣の腕もそれほど良いわけじゃないようだが……」

その問いかけにユーリルは空を見ながら答えた。
どこか寂しげで哀しげな表情をしながら。

「仇を……討つためです。村が魔物に滅ばされて……」
「……」

ユーリルの言葉に男達の表情が微かに歪んだ。
よく聞く話だ。だが、それでも慣れる話ではなかった。
微かに歪んだ表情がそれをあらわしている。

「誰が仇なのか分かってるのか?」

魔物、とユーリルは言った。
一言で足りる言葉では有るがその種は多種多様だ。
人間というたった一つの種族とは異なって。
それを考えての言葉だ。
その問いにユーリルは、

「ええ」

と戦うことを生業にする男達ですらぞっとする笑みを浮かべて答えた。

「見つけて……仇を取った後はどうするんだ?」

それは男自身が驚く言葉であった。
普段であればこんな話は早々に切り上げるだろうになぜか聞いてしまった。
ユーリルが見せた笑みのせいだったのかもしれない。

「なにも考えていませんよ。今はただ、仇を探すだけです」

ぞっとする微笑はそのままでユーリルは言う。
その笑みは恐ろしくてどこか儚げだ。
まるで……成就した暁には消えてしまいそうな……。

「そうか。……まあ、頑張れよ」

それ以上の事は言えなかった。
言えるはずも無かった。
言おうと思えば言葉など幾らでも出てくる。
だが、その言葉がどれだけ彼に届くというのだろうか。
万言費やそうとも届かぬものがある、それだけだ。
結局はそれ以降誰も言葉を発する事無く、静かに時が過ぎていく。
焚き火に放り込まれた木が爆ぜる音がする。
月光の代わりと言わんばかりにその火は煌々と彼らを照らしあげている。

「それじゃあ、僕はこれで……」

立ち上がり静謐そのものの声でユーリルは挨拶をした。
それは男達にまるで誰も足を踏み入れた事の無い深緑の奥深くにある清廉な泉を連想させた。
だが同時にその泉に潜む化物をも連想させた。
深い深い泉の底でじっとその時を待ち続ける化物を。
歩み去っていくユーリル。
この無明の闇の中に飲み込まれていくような幻視を憶える。
いや、自ら闇の中に進んでいくのか。
問いかける術も間も無く、ユーリルの姿は消えていった。

 

昨夜の闇天が嘘であったかのように空は快晴だった。
ユーリルは商隊の者達に礼を言い、再びエンドールへと向けて歩き始めた。
商隊の人間の話によればエンドールまでそれほどの距離は無いらしい。
エンドールに辿り着いたのならまずは噂の占い師を探す。
そこでデスピサロの行方を占ってもらう。
分かるのならよし。分からなくとも次の行動は既に決めている。

(探すさ……どれほどの時が掛かっても、必ず!)

そして、苛烈な意思を秘めたユーリルの目にはエンドールの城が映る。
新たな街、新たな出会い、そして自らの運命。
それはすぐそこにある。

 

 


 

 

今週のNGコーナー☆

 

シンシアの夢、より。

――「ええ。ユーリル、私を守ってね? ユーリルが私を守ってくれるのを待ってるから……」
「うん!!」

「ユーリル……」

「お姉ちゃん……」

「ユーリル……」

「お姉ちゃん……」

 

――以下、検閲。

 

「って僕の馬鹿っ! どうして起きるんだよっ!!」

「あと少しだった…の…に……こ、この感じはもしかして……」

 

ゴソゴソ……(チェック中。暫くお待ちください)

 

「……………………さ、最低だ、俺って」

……。

…………。

…………………。

「……なにやってんだおめぇ」

「いや、そのちょっと。アハハハハー」

ナニがあったのやら、冷や汗を流しながらコッソリとナニカを洗うユーリルの姿がそこにはあった。

「み、認めたくないものだな自分自身の若さゆえの過ちというやつは……」

 

 

DQ4を終えたばかりの代理人の個人的な感想

ゆ、勇者としての自意識がカケラもない(爆)。

つかアレですね。

なんで勇者の村の人たちは「勇者としての自覚」を主人公に教えこまなかったんでしょう。

他のドラクエの「勇者」が登場する作品では(明確に語られていない『1』を除けば)

いずれの勇者も勇者たる自覚を当初から持たされていたと思うんですが・・・・

剣や魔法が使えたって勇者たる心構えがなければ意味がないと思うのですが如何。