<時の流れの導きに・・・>



 第零話その2





火星の後継者の騒動が納まってから半年が過ぎ、戦争の傷跡も癒えた頃

火星上空では似たようなフォルムの二隻の艦がチェイスを繰り返していた





「アキトさん・・・もう直ぐユリカさんが退院するんですよ!!

せめて・・・一回だけでも顔を出してあげて下さい!!」



 モニターからは必死に俺に戻ってきて欲しいというルリちゃんの言葉が響いていた

ルリちゃんには申し訳ないとは思っている。しかしS級テロリストとして指名手配されている俺が

ユリカの病室に現れるわけには行かないんだ





「・・・・・ラピス、ジャンプの用意を頼む」





「・・・いいの?アキトジャンプして?」





「・・・・・・・・・・・・ああ、いいんだ」





「・・・うん解った、アキト。」





ラピスは俺に顔を向けて確認してきたが、俺が複雑そうな顔をしているのを見て

苦悩している事を理解するとダッシュにジャンプフィールドの生成を命じた。





「アキトさん!!!」





「・・・ルリちゃん俺はすでにS級テロリストとして指名手配されているんだよ。・・・・俺はただユリカを助けたかった

それだけの為に頑張ってきたけど・・・・・それに俺と一緒にいるとユリカやルリちゃんに迷惑を掛けるから・・・・」




「そんなことありません!!!アキトさんは無実です。私からもミスマル提督に掛けあってみますから・・・

それに私は、アキトさんが一緒にいても迷惑だなんて思いません。」





「ありがとうルリちゃん、でももういいんだ。その気持ちだけでも受け取っておくよ」





「・・・じゃあ、ラピスはどうするんですか!?」





「ラピスには悪いとは思っている。まだ11歳なのに俺の復讐の肩を担がせてしまった・・・

俺はラピスの願いを聞いてやりたいんだ。」





「そんな・・・・・・私はアキトさんをこの半年間ずっと探し続けていたんですよ!!」





「ごめんね、でもルリちゃんにはナデシコのクルーが居るじゃないか、でもラピスには、

  ・・・こんな俺しかいないんだ。エリナには預けておけないし」





 ルリちゃんは俺がそう言った後、俯いてしまったまま何かブツブツ呟いていた





 「アキトさんは卑怯です。そう言われては何も言えないじゃないですか・・・」





『ジャンプフィールド生成完了しました』





「アキト、ジャンプフィールドの生成が完了したよ。」





「ああ解った・・・何処にしようか。」





一度、遥か遠くに行って見ようか?

まだ誰も踏み出した事の無い未知の領域に・・・俺には似合わないな、そんな考えは・・・・・





自分の突拍子の無い考えに自嘲する。





 「よし、ジャンプ先は・・・・・」





 「させません!! アキトさん!!」





 ドガッッッッンンンンン!!!!!





 突然の衝撃が、俺達の乗るユーチャリスを襲った!!





「くっ!! 何が起こったんだ!!」





『アンカーを打ち込まれたんだよ、アキト!!!』





ナデシコの強襲用ビームアンカーを打ち込んだのか!!

 このまま、ユーチャリスに乗り込んで来るつもりなのか、ルリちゃん?





 「アキトさん!!お願いです。もうユリカさんの所に戻れなんて言いません。

 ・・・・・・私の元に返ってきてください。もうアキトさん無しでは生きている価値なんて無いに等しいんです。」





 「ルリちゃん・・・・・・」





しかし、事態は俺やルリちゃんの予想を、遥かに越えた事になる。





 「アキト!!ジャンプフィールド発生装置が・・・・暴走してる!!!」





 ラピスがさっきのアンカーの攻撃によるユーチャリスの被害をチェックして、起こった事態の深刻性を理解して

青ざめた顔をして俺に報告をしてきた。





・・・・・暴走だと!?冗談では無い、これでは本当に未知の世界に跳んでしまう!!!!





「クッ!! ジャンプフィールド緊急解除!!俺がブラックサレナでアンカーを絶つ!!」





『駄目、アキト!! フィールドの制御装置にアンカーが直撃してる!!』





俺の提案はダッシュによって否定された。ここまで運が無いのか・・・俺は!!!





 「何だと!!このまま暴走するしか無いのか!!!





 「アキト・・・ナデシコが。」





 しまった、ナデシコとユーチャリスはアンカーで繋がったままだ!!





「間に合うのか・・・!!ルリちゃん、早く逃げるかアンカーを切り離せ!!

 このままだとナデシコCも、ユーチャリスのランダムジャンプに巻き込まれるぞ!!」





 余りにもナデシコCとユーチャリスの距離が近過ぎる!!急いでアンカーを切り離しても間に合うかどうか・・・





「し、しかし、アキトさんが!!!」





 コミュニケの画面のルリちゃんが、艦長になってからというもの慌てる事など無かったのに珍しく慌てている。

 こんな時に不謹慎だが・・・懐かしい表情だな。





「俺達は何とでもなる!!だがナデシコのクルーは全員B級ジャンパー措置を

受けているのか? このままジャンプに巻き込まれたら、措置を受けていない者が全員死ぬぞ!!」





「ハーリー君!! 急いでアンカーを切り離して!!、ディストーション・フィールドを緊急展開!!

距離をとります!!」





「はい!! 艦長!!」





『駄目だ!! ジャンプシークエンスが開始したよ、アキト!!』





「くっ、フィールドは間に合わんか!! 済まない、ルリちゃん!! ナデシコのクルー!!」





 その言葉を最後に、俺の視界は虹色の光彩に包まれた・・・





 ヴオォォォォォォォォオオオンンンン・・・・・





 虹色の光に包まれて・・・二隻の艦は・・・何処とも知れない場所へと旅立って行く・・・

 それぞれの想いを乗せて・・・その行き付く先は果たして・・・