ファントムネタバレっす。
未プレイだと訳解らんので注意。





























ねえ       何処に居るの?
































  Phantom of inferno

  
アナザーストーリー   『残影の顔は』








































男はひたすらに運が悪かった。
そう、その夜、彼は遭ってはならない存在と鉢合わせてしまったのだから。

(な、なんでこんな事になっちまったんだ……?)

男は、廃ビルの片隅でガタガタと震えていた。
既に電気も通っていない無人のビル。

そこは、家を持たない男にとって雨露を凌ぐのに好都合な場所だった。
否、場所の筈だった。

(俺は、俺は別に大した事なんざやってねぇ! なのに、何でこんな目に遭わなきゃいけねぇんだ!)

ぼろぼろに擦り切れたジーンズの膝元の震えは止まらない。
何度か必死に同じように痙攣する様に震えている掌で押さえるが、それでも収まらない。

(畜生、何で震えが止まらないんだ!)

歯は血が出る程食い縛る事で戦慄きを止めた。
両腕の震えは、脇に肘をくっつけ、肘から先を太股にぴったりくっつける事で何とか止めている。

だが、両足の震えがまだだ。まだ震えが止まらない。

(震えるのは駄目だ。少しでも、少しでも音を立てない様に、静かに気配を殺さねぇと)

男は努力していた。自身が出る音を少しでも抑えようと。
それこそ、心臓の鼓動や吐息の僅かな音すら必死に押さえようとして。

(あいつが、あいつが来ちまう             !!)

”あいつ”に見つかったらお終いだ。
男の心臓と息子がこれ以上無い程縮み上がる。

(あいつに、見つかったら、間違いなく殺される    !!)







男が”あいつ”に出会ったのはほんの数十分前だった。

数日前まで住んでいたスラムを、浮浪者の頭の不興を買ったばかりに追い出された男は街を彷徨っていた。

真っ当な社会では何処に行っても、浮浪者は歓迎されない。
男もそれがよく解っていたので、人の気配が少ない場所を寝床にしようと彼方此方探し回っていた。

取り敢えず静かで、雨露が凌げて、人の出入りが無い場所を。


そんな男にとって最良の物件が見つかったのは昨日だった。
開発区の外れにある元マンション。
開発の為に住人が立ち退いたが、その後開発計画が頓挫したためそのまま放置されている建物だ。

幸い、まだ中には先に忍び込んだお仲間は居なかった為、男はこの建物を自分の住処に定めた。
この辺は市警の見回りも少ないし、自分達を捕まえては無闇に暴力を加える若者達も居ない。

用心の為、逃げやすい様に一階の通用路近くの部屋を自室とした。
荷物は薄汚れたバックが1つだけ。かつて、溶接工時代に愛用していたバックのみ。

(クソ親父に追い出されたときゃどうなるかと思ったが、俺の運も尽きちゃいねぇ。こんな良い寝床が見つかったんだからな)

事実、そこの寝心地はなかなかだった。
無論電気は止まっている為空調は動かないが、空気が乾燥している為蒸れる事はない。

(暫くは、此処の世話になるか)

そう男が思ったのも無理は無いのかもしれない。






(なのによぉ……)


異変が起きたのは、二日目。即ち今日の23時頃だった。
日課である屑拾いから帰った男が蝋燭を灯りに選別を行っていた時である。

「ん?」

何か、弾ける様な音が聞こえた様な気がした。
見下ろしてたガラクタの山から目を離し、そっと部屋の扉の方を見る。

「銃声か?」

また、数回続ける様に乾いた音が響く。
そっと蝋燭の火を消し、扉の方へとそろそろと移動する。

「………間違い無い。銃声かよ」

続けて聞こえた物音に、男は確信した。
あれは、間違いなく銃の発砲音だと。
じわりと、汗が全身から滲み出る。

彼自身スラムに住んでいた為、銃を使った犯罪に巻き込まれた事は2・3回ある。
だから彼はそれに対する対処法は心得ていた。

(弾の届かない場所に逃げ、出来るだけ関わらない事)

これに尽きる。
ああいった事件をどうにかするのは、税金で飯喰っているポリ公どもの仕事だ。
少なくとも、自分らの様なホームレスがどうこう出来る事でも無いし、その義務も無い。

だからこそ男は自室の鍵を閉め、側にあるクローゼットの中へと身を潜めた。
そして、後は出来るだけ動かない様に努める。願わくば、撃ち合いをしている連中がこのビルへと侵入しない事を願いつつ。





だが、男の願いは運命の女神に呆気なく却下された。
数人の人物が、銃声を伴いつつビルの中へと侵入して来たのだ。

(……ふ、ふざけんなよ)

男は憤った。
これで彼はこのビルから出なくてはならない。
事態がどうなろうとも、銃を使った犯罪の舞台となったのだ。

当然、警察も来るだろうから、結果としてこの最良の寝床を自分は手放さなくてはならない。

(クソッタレ! 結局、路面生活へと逆戻りかよ!)

心中で罵っている間にも、外の気配と銃声はますます近くなって来た。
乾いた銃声と小さなくぐもった音  恐らくはサイレンサー付きの銃だろう。

乾いた銃声の方は時々思い出した程度にしか聞こえないが、サイレンサー付きの方は盛んに鳴り響いていた。

尤も男にとってはそんな事はどうでもいい。
自分にとって大事な事はただ1つ。抱えているボロバックを持って此処から無事に出る事だけ。

(早く、早く終わらせてどっかにいっちまえ)

男が毒づいている間に、間近での銃撃戦は急速に終わりへと近づき始めた。
サイレンサー付きの発射音が減り始め、やがて、ぱったりと聞こえなくなったのだ。

乾いた銃声の方は、サイレンサー付きが聞こえなくなる瞬間まで鳴っていた。
淡々とした間隔、それこそ機械じみた発射間隔で。

思えば、サイレンサー付の方はまるで取り憑かれた様に撃ちまくっていた。
それに対して乾いた銃声の方は全くを以って平静な感じだった。




そう、それこそ相手を仕留める時だけに引き金を引く熟練の猟師の様に。




だが、そんな事を気付くほど男は荒事に慣れてもいなかったし、気付く程の余裕も無かった。
考える事はただ1つ。撃ち合いをしていた連中にも、やがて来るであろう市警のポリスどもにも見つからない様に此処から逃げる事。


やがて、完全な沈黙がビルの中を支配した。
生ぬるい汗を拭いながら、男は耳を澄ませてみる。

1分、2分、3分……自分の忍耐が続く限り、耳を澄ませて気配を感じないか、物音が聞こえないか探ってみる。
結論として、何も聞こえなかった。
奴等は、此処から立ち去ったのだ。
思えば銃声が鳴りやんだという事は、既に勝った方は目的を果たしたと言う事。
ならば、もうとっくに此処から立ち去ったと言っても間違いはないだろう。

男は大きく息を吐き、クローゼットからそっと抜け出す。
転がっているガラクタは諦め、踏まない様に避けながら通用路側の鍵を開ける。

カシャン。 僅かに擦れる音が立ち、男は思わず身を竦ませた。
もう一度、黙り込んで周囲の反応を探る。

1分、2分、3分……反応、無し。

ふぅと息を吐き、男は通路へと出た。

「うっ」

思わず声が出る。
乾燥したほんの僅かに黴臭い空気ではなく、硝煙と濃い血の香り。

通路に満ちていたのは戦場の空気だった。
途端に生唾と胃液が迫り上がって来る。
と同時に心の中でも自身の声が迫り上がって来る。

容疑者扱いされてでもいいから、警察が来るまでクローゼットに隠れていた方がいいと。

(ば、馬鹿馬鹿しい)

しかし、男はその思いを退けゆっくりと移動を開始した。
平穏とは言えないが、此処よりは確実に安全な外界と繋がっている   非常口へと。


口の中はあっという間にカラカラに乾いた。
自分の立てる僅かな物音にも心臓が縮み上がる。

たかが15mの距離が、まるで数qにも感じる。
実際、男が5mの距離を移動するのに、3分も掛かった。

そして、そこで男の移動もストップした。

「っ!」

上がりかけた悲鳴を寸での所で堪える。
思わず、数歩後退してしまったがそれも気にはならない。

男の視線の先では、1人の男が死んでいた。
黒いジャケットを着込み、下はジーンズという極めてオーソドックスなスタイルの白人青年。
手にサイレンサー付きのMP5を持ち、辺りに9o拳銃弾の薬莢を撒き散らかせていた。

余程、派手に撃ちまくったのだろう。辺りの壁には、無数の銃痕が刻まれている。
それに引き替え、この青年を撃ち殺したのは、僅か2発の弾だった。

額と喉仏。どちらも致命傷確実の場所へと正確に撃ち込まれている。
そして、顔が何か鈍器の様なもので完全に潰されていた。

だが、男にとってはどうでもいい事でしかない。
現実に転がっている死体と銃と派手に撒き散らかされた薬莢。

自分が歩いていく所に、死の具現が存在する。
それが血生臭さとはあまり縁の無かった男にとってどれ程恐ろしいか。

(し、死体だから気にするこたぁない。別に起きあがって銃口突きつけてくる訳じゃないんだからな)

言い聞かせながら、再び歩き出す。
焦ったお陰で薬莢を蹴飛ばしてしまい、思わずちびりそうになりながら必死に死体の側を抜けた。

後、10m。
その距離を無事に歩けば、男はこのビルから出られる筈だった。

しかし、男の運はたった一泊分の快適な寝床を得た事で尽きていた様だ。
廊下の角を曲がり、更に濃くなる血潮の香りに必死に耐えながら進む。
折り重なる様にして倒れている背広姿の2人組  やはり顔を潰された死体の横を通り抜けようとしたその時。

(ん……?)

歌が聞こえた様な気がした。
小さな、それこそ静かにしていなければ聞こえない程小さなハミング。

その歌声は女の声だった。

(女ぁ……? しかも……ガキか?)

この血塗られた場所に相応しくない、年若い少女の鼻歌。
しかも、この歌には聞き覚えがある。ガキの頃に行っていた教会で歌わされた賛美歌の1つだ。

死体がごろごろと転がっている場所で、少女が賛美歌を歌っている?

あまりにもそぐわない組み合わせに、男は完全に現状を忘れていた。
この場から逃げ出す最後のチャンスが、立ち止まってしまったが為に掌からすり抜けていった事にも。








歌声は、入り口近くの部屋から聞こえてきている。
扉がはがされて吹き抜けになっている部屋。恐らく、管理人用の部屋だったと男は判断していた。

男は、そっと部屋の中を伺い。

(な、なんだ……?)

部屋の中を見た瞬間、絶句し、そしてこれ以上無いほど後悔した。


”それ”を、見るべきでは、無かったと。



部屋の中は、むっとする程の血の匂いで満ちていた。
薄暗い、破れた窓から差す街灯の灯りで辛うじて辺りが見える程度のそこそこ広い部屋。
その部屋の中央。 積み上げられた3人分の   やはり顔が潰されている死体の上に。



1人の少女が腰掛け、歌を歌っていた。



黒い、ライダースーツの上に紅いジャケットを羽織っている少女。
長い金髪をポニーテイルに纏め、後ろへと流している。
そして、その手には一丁の拳銃。S&W M5906が握られていた。

彼女は虚空を眺め、ただハミングを続けている。
大きな碧眼は何も見てはいない。
その瞳は何も映してはいない。

まるで、蝋人形のガラス玉で出来た瞳の様に。


男は、ただ見ている事しか出来なかった。
彼女は確かに存在している。
恐らく、否、確実にこの無惨な死体の群れを作り出したのはあの少女なのだから。

しかし、全くの素人である彼にも解る。
目の前に居る少女の、存在感があまりにも無い事を。

(何なんだよコイツ……まるでこれじゃあ)

末期の薬物中毒者ジャンキーよりも虚ろな表情。
聞こえて来る歌声は、まるで次の瞬間には歌い手と共に消え去りそうな程か細い。

全く存在の無い様な人間。
それはまるで、

(亡霊、じゃないか……)

そう男は感じていた。
恐怖も、そして現状も完全に忘れてしまった様に。

故に、男は致命的なミスを犯した。

チンと響いた鈍い音に、男の意識は一気に現実へと引き戻される。
聞こえて来た先は足下。どうやら僅かに動いた瞬間、転がっていた薬莢を蹴り転がしてしまった様だ。

自分の犯したミスの重大性に背筋が凍り付く。
今まで弛緩していた五感が、一気に引き締まると同時に一斉に警報をがなりたて始めた。

逃げろと。
何が何でも、とにかく逃げろと。
あの少女から、”あいつ”から逃げろと。

全身から彼の惰性に満ちた人生で、かいて来た汗の総量を上回る程の脂汗が吹き出る。
言いようの無い恐怖に、必死になって顔を上げた男が見たもの。
それは、



「玲二……?」



ガラス玉の様な双眸で此方を見ている、少女の姿だった。

















後は、無我夢中だった。
男は声にならない悲鳴を上げ逃げ出したのだ。
よりにもよって、自分が隠れていた部屋の方に。




そして、男は震えながらクローゼットの中に隠れて居る。
全力で震えを止め、恐怖で漏れそうになる悲鳴に耐えながら。

心底恐ろしかった。
あの少女の瞳、あれは、何も映してはいなかった・・・・・・・・・・・

まるで、底なしの深淵。
何をどうすれば、ああ言う”何もない”眼が出来るのだろうか。

男には理解出来なかった。
出来ないからこそ、恐怖し逃げ出した。
逃げなければ、間違い無く自分は殺されてしまうだろう。

(あの眼でじっと見られながら、あいつらと同じ様に顔を潰されて……!)

最早、警察でも何でもいいから助けに来て欲しかった。
”あいつ”から助けてくれるのならば、男はそれこそ悪魔とでも契約しただろう。

キィ。

軋んだ音が、男の時間を一瞬だけ完全に止める。
あれは、この部屋の扉が開く音。

つまり、”あいつ”が。
この部屋の中へと入って来たのだ。


心臓が爆発しそうになる程、どくどくと脈打つ。
もう、震えは押さえようがない。押さえようにも音を立てたらもうお終いだ。

(い、嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!)

嫌だった。
あの瞳で見られるのも、顔を潰されて殺されるのも。

ガラクタが蹴り散らかされる。
”あいつ”は、ゆっくりと部屋の中を歩き回っている。

コツリ、コツリと足音を立てながら。
まるで、名探偵が犯人を衆人の前で解き明かす時に勿体振る様に。


男の顔は、これ以上無いほど引きつり、憐れみを誘う程情けなくなっていた。
絶望を通り越し、既に呆気じみた表情にすらなっている。


やがて、足音がクローゼットの前でぴたりと止まった。
男の表情は変わらない、否、変える事すら忘れていた。

「玲二……居るの?」

再び、問いかけられた。
返事をしようが無い。しようにも、彼には答える義務はない。
彼は、レイジなる人物では無いのだから。

「玲二……返事をしてよ……また、アタシを置いて行くの?」

三度の問いかけ。
男はただ黙っていた。
失禁し、クローゼットの中はアンモニア臭で満ちていた。
完全に彼が此処に隠れているのがバレている。なのに男は動こうとすらしなかった。
何故なら、

「……ひ……ひ」

男の精神は恐怖のあまり、半ば壊れていたからだ。
ひくつくように痙攣を繰り返し、白目を剥いて口の端から泡を噴いている。

あまりにも、無様な光景。

だが、それは男にもたらされた最後の幸運だったのかもしれない。
何故なら、


「……嘘つき」



少女の呟きと共に乾いた破裂音が数回、クローゼットの前で響くのを聞かなくて済んだのだから。
自分の身体を、数発の9oホローポイント弾が貫通していくのを感じなくて済んだのだから








クローゼットの扉が開かれる。
中から濃厚な悪臭が漂ってくるのにも構わず、少女は男の身体を外へと引き摺り出した。

側頭部に2発、肩に1発、脇腹に2発。
動脈を貫通したのか鮮血が勢いよく吹き出し、眼窩からは潰れかけた眼球が飛び出している。

だが、少女にとっては些細な事。
床へと無造作に転がし、感情の細波すら感じさせない碧眼で死体の顔をじっと見る。

2発の銃弾で少し崩れ、元々垢だらけでヒゲモジャな中年浮浪者の顔を。

「…………」

女の顔が、僅かに顰められた。
不満そうに。そして、少しだけ悲しそうに。

「玲二じゃない」

ぐちゃ。

鈍い音と共に、少女の履いていたブーツの踵が男の顔を踏み潰す。
靴底に金具でも仕込んであるのだろう、男の顔は数回の蹴り付けで良い具合に潰れる。

「玲二じゃないんなら、要らない」

ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ。

服や頬に飛び散る紅い雫も振り払わず。
暫くの間、彼女は男の顔を念入りに踏み潰し続けた。
彼の存在を、完全無欠に否定するかの様に。

















軋んだ音と共に、非常口の扉が開く。
潜ったのは、先程まで殺戮を演じていた少女。

生臭い血の香りとは無縁な、冷たい風が金髪を大きく靡かせる。
真上に広がるのは、スモッグで曇りがちな都会の空に相応しくない月夜。

月下で彼女は只1人立ち尽くしていた。
美しい碧眼は、やはり虚ろなまま。
片手に、S&W M5906をだらりとぶら下げたまま。

「玲二、何処に居るの?」

ただ、1人の男の名前を口にする。

「何で、アタシの前に出て来ないの……?」

ただ、ひたすらに呼びかける。
自分が何者よりも愛し、何者よりも憎み、そして

「玲二……出て来てよぉ」

自身の手で殺した男の事を。








少女にとって、男は全てだった。
住処と血の繋がらない姉を失った彼女に、居場所を与えた。
生きるための技を教え、悲しい顔をしながらも自分の復讐を手伝わせてくれた。
あの狭いロフトでの生活こそが、男から与えられた幸福の全てだったのかもしれない。

だからこそ。
そう思っていたからこそ許せなかった。

全てを与えながらも、彼女の前から去る事で全てを奪っていった男を。
吾妻玲二を、彼女は許せなかった。

だから、殺した。
彼の故郷である極東の地、日本で激情のままに殺した。

胸に1発撃ち込んだ。
それだけでお終い。

スローモーションの様にゆっくりと崩れ落ちる玲二を、彼女は呆然と見詰めるだけ。
信じられないほど、あっけ無かった。

そしてその瞬間、同じように彼女の中で何かが死んだ。
ひょっとしたら、あの時己の心も彼女は殺したのかもしれない。




後は、全て蛇足だった。





蛇面の男とその手勢を皆殺しにし。
追い縋る組織の追跡者の悉くを返り討ちにし。
立ち塞がる賞金稼ぎやハンター達を全て薙ぎ払い。


そうして、近寄る者全てを殺していく内に。

何時の間にか、彼女は玲二の幻影を求め始めた。



理由は解らない。
その頃には、彼に何故憎しみを抱いていたのかさえ忘れてしまっていた。
いや、正確には自分自身が何であるかすら解らなくなっていたのだろう。

解らないまま、彼女は求め彷徨った。

ただ1つ、壊れた心の片隅に残っていた過去の残滓。
『吾妻玲二』の面影を求めて。










「玲二……玲二……何処に居るの……? アタシを、アタシを置いていかないでよぉ………!」








女は探し求め続ける。
最早、この世に居ない男の姿を。


亡霊ファントムは彷徨い続ける。
己自身が殺した男の幻影を求めて。

『この世界が、無限の地獄じゃないとしたら、それは貴方が生きているからよ』

かつて、そう言った女暗殺者が居た。
それが真実ならば、それに値する男を失った彼女は、生きたまま煉獄に落ちたのかもしれない。






しかし、亡霊である女がそれに気付く事は永遠に無いだろう。
何故なら、彼女はもう既に狂ってしまっているのだから。







煉獄の責め苦は続く。
彼女が、本当の亡霊へと変わるその時まで。

























ねえ       何処に居るの?


玲二…………。


















THE END































後書き



うー。久し振りのファントム更新だってのに。
何でこんな暗いの書いちゃったんでしょ?


最初は「待ってよ玲二ぃ〜」「アハハ、こっちだぞキャル〜」な話だった筈なんだけど。
Fateの影響かね?



 

代理人の感想

え、takaさんって元からそう言う人だと思ってましたが(笑)。

つーかお笑いを書く人ってほぼ必ずこう言う黒い部分があるんですよねー。

有名どころでは藤子不二雄A先生とか。

マイナーどころではここの管理人とか(爆死)。

 

>最初は「待ってよ玲二ぃ〜」「アハハ、こっちだぞキャル〜」な話だった筈なんだけど。

うそだ、絶対嘘だー!(爆)