夢を見ました
   私は 泣いていました
   兄においてけぼりの私
   おちこぼれの私
   私は ただ 泣いていました



      フルメタル・パニック!


    
    <My Dear Friends>


 その日、トゥアハー・デ・ダナンの艦長はひどく機嫌が悪かった。
 朝っぱらからロックをがなりたてるクルーに無理矢理起こされたのもある。
 朝食に嫌いなキュウリのピクルスがあったのもある。
 親愛なる副長から、今回はかなり直接的に飲酒と喫煙を
 ーーー心外だ! メリッサがまた片付けなかったのだーーー注意されたこともある。
 お気に入りの軍曹が東京にーーーしかもここにはトレジャーハンティングに付き合わされにきただけらしいーーーのもある。
 が、一番の原因は、今朝見た夢のせいだった。

 「よぉ! テッサどうしたのよ、機嫌悪いって?」

 昼食時、食堂で一人もさもさとサラダを食べていると、
クルツが隣の席についた。そんなクルツを冷たい目で睨む。

「だらしないですよ、ウェーバーさん?足はテーブルの中に入れなさい」
「へぇへぇ。全く、どうしたってんだ・・?」

ぶつぶつとぼやきながら姿勢を正す。

「また夢見が悪かったの?」

そう聞きながら向かいの席に座ったのはマオだった。

「まあ・・・そんなとこです」

テッサが答えると、マオは何か考えたようだった。暫く黙り込んだ後、おもむろに口を開く。

「・・・・・・ねぇ、テッサ」
「何です?」
「明日、ヒマ?」

唐突に訊ねてくる。テッサはこの先の予定を思い出しながら答えた。

「休暇をとることはできますけど・・・何故です?」
「ん〜。じゃ、とれるのね?」
「ええ、まあ」
「じゃ、明日の0500時、ココね」
「はあ・・・。は!?」

思わず目を見開く。

「ココって・・・食堂ですよ?」
「テッサちゃん、驚くとこ微妙に違う・・・」

クルツが小さく笑いながら話に加わる。

「姐さんよ、そんな朝っぱらから何すんだ?」
「ふふん、ヒミツよ」
「あん?その笑いかたは・・・ヤな予感」

眉をひそめるクルツに、マオは顔をしかめて見せる。

「なんだって?もっぺん言ってみな」
「ああ何だろう。テッサが羨ましいなあ」
「・・・あ、そ。じゃ、あんたもココね」
「んだと!?」
「遅れたら罰ゲームね」
「ふざけんな! 5時っつったらまだ寝てんだよ!」

 二人の口喧嘩を耳に入れながらーーーテッサはぼんやりと明日のことを考えていた。
 次の日。
 軽装で来るよう言われたテッサは、まだうまく働かない頭を何とか支えながら食堂にきた。
 当然誰もいるはずがなく、テッサは一人たたずむ。と、そこにマオとクルツも来た。
 マオは上下GジャンGパンで、クルツはこれもGパンにこちらはノースリーブのシャツである。
 その姿は街でよく見かける若者たちの姿だった。

「テッサ、おはよう」
「おはようございます、マオ、ウェーバーさん」
「お、かわいいじゃん!」
「えと、トーキョーに行った時、カナメさんに選んでもらったんですが・・・」

 テッサは、桃色のワンピースに空色のパーカーといった姿だった。

「似合う似合う! ヒザ丈が短いのがまた何とも」
「エロ親父か、あんたは」

 クルツの頭を小突くーーーこの場合どつくというべきだろうがーーーと、マオはテッサに微笑んだ。

「でも、ほんと似合ってるわよ。うん、OKOK」
「あの、これからなにを・・・?」

といぶかるテッサに意味ありげに笑いかけると、

「ほらクルツ、立ちな」

と立たせる。

「って〜、なにすんだよ姐さん」
「あんたがセクハラするからよ。それより、行くわよ」
「え?あの、行くってどこへ・・・?」

一人会話についていけないテッサが訊ねると、今度はクルツが答えた。

「ああ、それはついてのお楽しみってやつだ。それより、これ」

と、テッサに手渡す。テッサは暫くそれを見ていたが、

「・・・・・・何です、これ」
「耳栓とアイマスク」
「いえ、それ位は分かりますが・・・」
「じゃあ聞かないの」
「その、何故これを・・・」

オロオロと二人を交互に見る。だが二人はいたって真面目に

「「教えない」」

 と口をそろえた。
 はぁ、とため息をつくと、仕方なく耳栓を詰め、アイマスクをする。と、

「!? きゃぁあっっ!!」

 いきなり担ぎあげられた。思わずアイマスクをとろうとする。が、

「走るぞ、つかまってろ」

というなりクルツがーーー担ぎあげたのがクルツだと知ってとりあえずほっとするーーー
走り出し、慌ててしがみつく。

 「あ、あの!」

 小さく叫ぶと、隣からマオが答えてきた。

「何よ?」
「私をどこに連れていくつもりですか!?」
「あんたもいい加減しつこいねぇ・・・。秘密だったら秘密だって・・・って、あんた耳栓は?」
「してますけど、ほとんど意味ないですよ、これ」

 答えると、隣の友人は肩をすくめたようだった。

「まあ、いいわ。それより、間に合う、クルツ?」
「まあな。テッサが軽いんで助かったぜ」

ひと一人を背負っているとは思えないスピードで走りながら、クルツは息一つ乱してはいなかった。
平然と続けて言う。

「これが姐さんだったら死んでたろうけどな」
「あんだって!?」
「冗談だよ、わかってんだろ?」
「冗談にも言っていいことと悪いことがあるのよ・・・?」

マオが鬼気をはらんだ笑みを浮かべる。
クルツは冷や汗を流しながらテッサに助けを求めたーーつまり、話をそらしした。

「な、なあ、暫くヒマだからさ、着くまで寝てろよ。着いたら起こしてやるから」
「ウ、ウェーバーさんの背中でですか・・・?」
「そこで心底嫌そうな声出すか!? フツウ・・・」

結果的にカウンターを喰らった形になり、涙を流すクルツを放っておいて、マオはテッサに話しかける。

「でも、本当に寝てていいわよ。もうソコともお別れだし」
「え?」
「乗り換えよ」

 そう呟いて唇を軽くなめる。
 テッサには何故かマオのそういうーーー何か楽しい悪戯を思い付いた時などのーーークセがはっきりと見えた。

「じゃ、行くわよ。ごめんね、頼むわ」
「はっ、了解しました」

マオがそう受け答えしている間に、テッサは何かのシートに座らされていた。どちらかといえば窮屈なシートだ。
以前どこかで座ったことのあるーーー

「これはーーーヘリ」
「ご名答」

フフン、となぜか得意そうに鼻を鳴らすクルツ。そうしている間にも、エンジンがかかりプロペラが回り出す。

「どこへ・・・?」
「まあまあ。ここまでくればもう一緒だろ?毒入ったサラダ油って言うじゃね〜か」
「そんな油使いたくありません・・・毒喰らわば皿まで、でしょう」

アイマスクごしに半眼で見やる。クルツはヒラヒラと手を振ると、全く聞かずに続けた。

「そういうこった。ま、着くまで寝てな。王子様のキスで起こしてやっからよ、姫」
「サガラさんが起こしてくれるんですか?」
「そうくるか・・・」

ぐったりと力尽きるクルツを無視し、テッサは定期的な振動に揺られて、やがてウトウトと眠りについていった。
 どれ位眠っていただろう。

「・・・・・・姫」
「何してんのよアンタ!!」

鈍い音で目を覚ます。アイマスクを取ろうとしてーーーマオに止められる。

「? まだ着いていないんですか?」
「いや、まだ事後処理がね・・・」

ヒクヒクと蠢くクルツを見下ろしながら呟く。テッサはそれに気づかず、ただ小首を傾げていた。

「さて、と。とりあえず、ついたわよ」

ヘリの扉を開きながら告げる。

「じゃあ、もう降りていいんですね?」

と言うと、マオの返事もきかず立ち上がった。と、壁についていたモニターかなにかだろうーーー
でっぱったものにしたたかに頭をぶつけ、よろめく。
 アイマスクをつけたまま。

「!? テッサ、危ない!」

 一瞬の浮遊感ーーーそして、落下感。
 目の前が真っ暗の状態でよろよろと動いたテッサは、当然落下した。

 「きぁあああああ!?」

 地面に激突するーーー!!
 そう覚悟したテッサだったが、想像した衝撃は一向にこなかった。恐る恐るアイマスクをとる。
 地面の代わりに見たものはーーー

 「大佐! 大丈夫ですか!?」

しっかりと自分を抱いた、愛しい男性のどアップだった。

「は!? はい、大丈夫、です・・・」

だんだんと尻すぼみになっていく。真っ赤になりながらも
いつまでも離れないテッサの顔をひきつらせたのは、宗介の背後から発せられた声だった。

「テッサ!? あんたなんで東京にいんのよ!?」
「カナメさん!?」

 よく見ると、宗介の後ろにかなめが仁王立ちしている。
心なしか顔がひきつっているのだがーーー本人がそれを自覚しているかどうかはわからなかった。
 少しとげとげしく言う。

「もう大丈夫なんでしょ? 早く立ったら?」

 カチンときたテッサも言い返す。

「あ、はい。すみませんでした、サガラさん。私達の為に助けてくれたんですね」

めちゃくちゃな言い方だが、かなめを挑発するには十分だったようだ。
かなめも笑みを浮かべると、テッサの前に立つ。

「下士官が上官を守るのは義務だから当たり前よね、ソースケ」
「ええ、そうですね。だからサガラさんはしっかりと抱き止めてくれたんですよね、大切な人のために」
「んっふっふっふっふ・・・」
「ふふふふ・・・・・・」

 眉をひきつらせながら笑うかなめ。
 上品にーーー一見上品そうに微笑むテッサ。
 そしてその間で何か体によくない汗を顔面にびっしりと這わせている宗介。
 その状況を鎮めたのはマオだった。

「はいはい、そこまで。テッサ?ま、こおゆうことよ。どう?びっくりした?」

マオの言葉にテッサは涙を浮かべると、マオに飛びついた。

「メリッサ・・・! ありがとう、嬉しいです・・・!」
「んー、よしよし」
「俺には?ありがとうもキスも無し?」

だきつかれているマオを羨ましそうに見ているのはクルツだ。テッサは振り向くと、とびきりの笑顔で言った。

「ありがとうございます、ウェーバーさん」

真正面から言われて照れたのか、そっぽを向くクルツ。

「ん。ま、まあいいってことよ。じゃ、いまから遊園地行こうぜ、遊園地!」
「何?俺はそのようなことは聞いてないが」
「そうよ、今日ソースケは私と・・」
「ん?私と?」
「私、達と!! 罰としてこいつが遊園地につれてってくれることになってんの!」
「え、何キョーコ達も来んの? じゃあなおさらいかなくちゃな!」
「そうねぇ、私もたまには若返るかな」

ぎゃあぎゃあと騒ぎたてるマオ達をーーー
テッサはとても大切なものを慈しむかのように見ていた。
穏やかで騒がしい一日は、まだ始まったばかり。

   夢をみました
   私は 泣いていました
   仲間に囲まれた私
   とても幸せな私
   私は ただ 泣いていました









   痕餓鬼・・・じゃない、後書き

なぜ変換したらまずこれが出てくるのだろう(笑)と言う訳で後書きです。
スOライド!? と思った方すみません。かOみじゃないです(笑)。
基本的には短編ものなので、今回のものから読んでも全くいいのですが、
まあ一作目を見てくださった方は分かるようにその次の日です(笑)。
とりあえず、これは前後に詩を、間に本編を、という形で進めていこうと思っています。
ちなみに今回の詩はテッサです。・・・とかいっといて次作は違ってるかも・・・(汗)。

 ということでお礼をば。

これを載せていただいた代理人さま、
載せていただく場所をつくっていただいた(Actionのことね)管理人さま、ありがとうございます。
「これ、短編5巻のパクリじゃねぇの?」といった愛すべき私の友人K。
今度メールで受信するのに丸一日かかるような長編送ってあげるね(はぁと)。

*注:パクってないです!念の為・・・。でも展開は似てるかなぁ?う〜ん・・・。パクッてないのはほんとですよ!

 それより何より、今まで駄文に付き合ってくれた皆様方! 多謝です!!
 「読んだぞー」と一言くれれば元気百倍! ということでDCへのメール、お待ちしてます!
 でわでわ、次回も駄文にお付き合いを〜。谷城拓斗でした。

 

 

代理人の感想

・・・やっぱり、どう見ても某「おさな妻」(注:彼女の異名)以外の何ものでも無いよーな(笑)。

まぁ、キャラの系統としてはまんまだし違和感はありませんが(爆)。

 

それはさておき、感心させられるのは原作のキャラクターをよく把握していると言う事ですね。

二次創作では割と重要な事であると思うのですが、読んでて違和感がありません。

話が面白いのとはまた別のレベルで面白さに貢献する要素だと思いますので。