フルメタル・パニック!

<わがまま娘のカプリース>

第一話


ひどく気だるい。
かなめはベッドから這い出そうとしてーーー無様に床とキスをした。

「う"!うにー・・・」

だが、まだ寝ぼけている。ボーッとしたままの頭で床に転がった。
と。
ボサボサの頭が目の前にあった。

「うにゅ〜・・・?」

それでもまだ寝ぼけている。が、それを見ているうちに、何とか状況を思い出すまでには至った。
昨日、テッサにマオ、クルツが東京に来て。
恭子とかなめ、宗介を含めた六人で遊園地に行って。
そのままなしくずしに、自分の家でお泊り会なるものをしたのである。
と、そこまで考えて、自分が寝たのは床だったことを思い出す。ベッドは恭子とテッサが使ってたような・・・。
まあ、どうでもいいことだ。夜中に寝ぼけて潜り込んだのだろう。
そう考えると、目の前にあるボサボサ頭ーーー何故か全身傷だらけだったーーーを、くしくしと撫でる。安心しきっているのか、一晩中クルツの見張りをしていて疲れたのか、宗介は全く起きる気配がない。

「ふふ・・・。か〜わい」

小さく呟くと、やっとのことで立ち上がる。未だ半分眠ったままの状態で、バスルームに入る。
冷たい水を浴びて少しずつ目を覚ますと、昨日のことを思い出して顔を赤くさせた。

(そういえば、男の子を泊めちゃったんだ・・・)

大騒ぎしただけとはいえ、泊めたのは事実である。かなめは違うことを考えて気を紛らわそうと、
髪を洗おうとする。何年間も付き合ってきた、自分の髪。そう、アッシュブロンドのーーー
と、ここで思考が停止した。
・・・・・・・・
アッシュブロンド?何故?寝ている間に悪戯でもされたのか?
と、後ろで声がする。

「カナメさ〜ん。あの、シャワー借りますね・・・」

「あ、ちょ、まだ私入って・・・」

慌てて言うが、相手も寝ぼけていたのだろう。かなめの言葉も聞かず、ドアを開けた。慌てて振り返る。
そこには。
シャワーに入るために、一糸纏わぬ姿になったーーー自分が立っていた。

「・・・・・・え?」

「・・・・・う、そ」

完全に動きが止まる。そして、

「「っっきゃぁぁぁあああぁぁっっっ!!!」」

二人の絶叫がマンション中に響き渡った。

「千鳥っっ!?」

「どうした!?」

と、男二人が同時にバスルームへ飛び込む。しかし、

「・・・・・・む?」

「おほっ・・・」

全裸になって向かい合っているかなめとテッサがいただけだった。途端に鼻の下を伸ばすクルツ。
だが、宗介は油断せずに非常事態が何かを探ろうとする。
いつものように女性が裸だという事実を頭から締め出し、ずけずけと近寄った。

「千鳥、大佐殿、大丈夫ですか?」

その言葉に我に返る二人。
だが、そのあとの反応がちがった。

「きゃっ」

と、顔を真っ赤にしてしゃがみ込むかなめ。

「あんたいつもいつも言ってるでしょ〜が!!」

と、濡れたタオルを鞭のようにしならせて宗介の目を潰すテッサ。
遠くで傍観していたクルツは呆れたように鼻で笑い、

「バッカじゃねえの、あいつ。こ〜ゆ〜のは遠くで被害にあわない様にするのがロマンってもんだ」

「ほぉう。あんたのロマンってのはそんなもんなのかい?」

マオの言葉に凍りつく。

「あ、あれ、姐さん早いね」

「黙れ、女の敵!!」

とりあえずバカ共をすまきにしている間に、二人は服をきる。二人が着終わると、やっと男たちは解放された。

「で、どうしたのよ」

マオが尋ねる。が、二人は困ったように顔を見合わせるだけである。ややあって、かなめが口を開いた。

「それについては、仮説がないわけではありませんが・・・」

「ちょっとまって」

遮ったのはテッサだった。テッサはきっとした声で、

「とりあえず、キョーコを帰してから。話はそれからよ」

その言葉にみんなは一斉に恭子をみる。
そう。
この騒ぎの中、恭子は幸せそうに爆睡していた。

恭子が帰るまでの間、かなめとテッサは始終ひそひそと話していた。その様子は明らかにおかしかったが、恭子は何も言わなかった。ただ一言、

「カナちゃん・・?何かあったら、言ってね。出来ることなら相談にのるから」

帰る間際にそう言った。かなめはそれに律儀に礼を言い、テッサはそっと目の端をぬぐっていた。

「・・・で、どうしたのよ、一体」

再度マオが訊ねる。かなめとテッサは顔を見合わせると、やがてテッサが口を開いた。

「その前に。ソー・・・相良さん、ちょっと」

「なによ、私には関係無いっての?」

「私、達、だろ」

テッサの態度に不機嫌そうに言うマオとクルツ。だがそれには答えず、テッサは宗介を外へと連れ出した。
かなめも申し訳なさそうに頭を下げると、後を追うように部屋を出ていった。

「ソースケ・・・」

宗介のアパートまで来ると、テッサは小さく言った。

「聞いて欲しい事があるんだけど・・・」

その口調はテッサのものではない。声こそテッサだが、喋り方はまるでかなめのようだった。
無論、そういうことに気づく宗介ではなかったが。
テッサは続けた。

「私、誰?」

「・・・・・・は?」

「だから、私誰に見える?」

いきなり妙なことを聞いてくる。宗介は頭の中に?マークを浮かべながらも、律儀に答えた。

「はっ。あなたはテレサ・テスタロッサ大佐であります。
年齢は16才、軍事組織<ミスリル>の西太平洋戦隊『トゥアハー・デ・ダナン』の戦隊長・旗艦艦長であり、
また戦隊名ともなっている強襲揚陸潜水艦『トゥアハー・デ・ダナン』の艦長でもあります。
また、TDDの設計者でもあり・・・自分の友人、でもあります」

「違うわ」

完璧に答えたはずだったが、即座に否定される。

「は?」

「私は、かなめ。千鳥かなめよ」

「??よく分かりません。千鳥は千鳥です。あなたは間違いなくテレサーーーテッサでしょう」

「だから違うのよ!見た目はテッサだけど違うの!」

頑として言い張るテッサを前に、かぶりをふる。

「・・・大丈夫ですか、大佐?すぐにメリダ基地へ戻った方がいい。あなたは疲れているだけだ。少し休んで・・・」

「だぁかぁらっっ!!」

このまま永遠に平行線が続くかと思われたが、それは別の声で終わることとなる。

「カナメさん、急に言ってもサガラさんが混乱するだけですよ」

「テッサ・・・」

と、テッサは入ってきたかなめを見やる。
宗介はこめかみを抑えながら、この場を理解しようと懸命に努力していた。

三人はリビングに座り込む。すぐにかなめが口を開いた。

「サガラさん、ラムダ・ドライバについては知っていますね?」

その言葉に宗介はいぶかしげな表情をして、

「何故君がそのことを知っている?これはミスリルでもまだ・・・」

と問い詰めるが、

「いいから。ソースケ、黙って聞いてて。お願い」

テッサに遮られる。

宗介が不承不承頷くと、かなめは

「では、それを開発したのは・・・?」

と重ねて聞いてくる。これは機密のはずだ。言ってもいいのだろうかと悩む。が

「バニ・モラウタ・・・という人物だ」

結局、宗介は彼女達を信じることにした。
二人にふざけている様子は見えない。
そして、彼女達の真剣な顔を今までに何度も見てきた、そのカンがそう告げていた。

「そう。彼はウィスパードと呼ばれる特殊な人間でした」

かなめはさも自分がテッサであるかの様に話している。

「そのウィスパードというのは、世界でも数えるほどしかいません。私が知っているのは5人。
バニ、私の兄である、レナード・テスタロッサ、以前サガラさんたちが救出した少女、それに私とカナメさんです」

兄の名前が出た瞬間、わずかに顔をこおばらせるが、テッサは口を挟もうとはしない。
宗介はとりあえず話の内容だけを整理することに努めた。何故かなめはここまでミスリルに詳しいのだろう?
何故テッサであるように振る舞うのだろう?レナード・テスタロッサとは何者だろう?
だのと考えもしたが、頭の片隅へと追い払う。

「ウィスパードには特殊な能力が幾つかあります。その中の一つに、共振というものがあるんですが・・・」

「共振・・・?」

「ええ。その・・・心と心が繋がるというか、意識と意識が混ざり合うというか・・」

急に的を得なくなる説明に、再び眉をひそめる。しびれを切らしたのか、テッサが話に割り込んできた。

「とにかく!その共振ってのは、まあインターネットみたいなもんなのよ。
別に今回はそれがどうとかじゃないの。大切なのは、その後なのよ」

「その後?」

全く理解できなかったが、とりあえず訊き返す。

「そう。・・・私達にも分かんないんだけど、結果だけ言うと、私の体に<テッサ>が、
テッサの中に<私>の意識が入っちゃったのよ」

テッサは本当に結果だけを告げる。
当然、魂だの霊だのを全く理解できない宗介にこんなオカルトじみた事が理解できるはずもなくーーー

「ああもう!なんで分かんないのかな、こいつは」

「まあ、サガラさんですし・・・」

テッサが地団駄を踏み、かなめがなだめる。
かなめはしかし、宗介に振り向くと、少し潤んだ瞳でいった。

「ですがサガラさん、これは覚えておいてください。目で見える物全てが真実だとは限らないのですよ」

「蜃気楼などですね」

即答する宗介。

「いえ、・・・・いや、もういです」

かなめは疲れたように呟くと、立ち上がる。

「?どこいくのよ、テッサ」

「いえ、ちょっと飲物を・・・」

と、とことこと台所へいく。・・・いや、行こうとした。
そして。
ずるべたーん!とすっ転ぶ。

「ちょ、あんた大丈夫?あたしの体なんだから怪我しないでよねっ」

「私への心配ではないんですね・・・」

駆け寄るテッサにジト目で返すかなめ。
それを見た宗介はがくぜんとした頭で必死に思考を巡らせていた。

「千鳥・・・?」

さっきのは何だ?何もないところでかなめが転ぶなどありえない。
彼女は病気の時でさえ俺を昏倒させるほどのーーーハリセンのーーー腕の持ち主だぞ?それがまるでーーー

「・・・大佐殿のようではないか」

「だからさっきから言ってるでしょうが!!」

呟いた宗介にテッサがどこからかーーー本当にどこから持ち出したのだろうーーー持ち出したハリセンで、
宗介を張り倒す。
いつもよりも少な目にきりもみ回転しながら、宗介はまたも考えていた。
おかしい。大佐殿はどんなに怒っても決して実力行使などはしないお方だ。
おまけにこのタイミング。叩く瞬間の手首のスナップ。足の踏み込み具合。
威力こそ腕力の差があるものの、これではーーー

「千鳥か・・・?」

「こんなもので本質を理解されてる私って一体・・・」

驚きに目を見開く宗介に対し、テッサはーーー意識は<かなめ>のものだがーーーがっくりと肩を落とした。

「と、とにかく。サガラさん、理解して頂けましたか?」

そう言いながら、かなめが飲物を手渡す。宗介にはミネラルウォーター、
テッサにはドクター・ペッパー、そして自分はおしるこドリンクを片手に、ぺたんと座る。
宗介は認めざるを得なかった。つまりーーー二人は本当に入れ替わっている。

「ええ。・・・信じ難いことですが」

宗介は頷くとテッサを指さし、

「つまり・・・外見は大佐殿だが本当は<千鳥>で」

と、今度はかなめの方を向く。

「<テッサ>ですが、見た目は千鳥ということですね」

その言葉に、二人は嬉しそうに頷いた。

「よかった・・・。信じてもらえないかと思ったわ」

ホッとした様子でテッサがいう。宗介はうんうんと首を上下に動かすと、

「つまり、熊の皮を被って熊に見せかけ、神を殺す猟師のようなものだな」

「ぐっ・・・!私らはシシ神様に喧嘩でもしなきゃだめなの・・・!?」

宗介のあんまりな言い方に、テッサは握り拳をつくる。

「ま、まあ、サガラさんがなぜ宮崎アニメを知っているのかはともかく・・・」

「はっ。クルーゾー中尉が自分にレンタルを頼みまして、一緒に」

「そ、そうですか・・・」

かなめは小さく冷や汗を流した。
大の戦争屋二人が隙のない目でシシ神様をみている。
・・・・・まあ、シュールでは、ある。

「だからそれはともかく!サガラさん、本来ウィスパードのことは
存在しない事実ーーーブラック・ファクトーーーなんです。
しかし、今回の件は私とカナメさんだけではどうしようもありませんでした。
・・・このことは他言無用です。分かっているとは思いますが」

「友人として、ですね?」

「・・・はい。よろしくお願いします、サガラさん」

宗介の答に嬉しそうに微笑む。容姿はかなめだったが、
その笑みは間違いなく<テッサ>のものだった。

「はいはい、もういいでしょ。ソースケは私達のことを分かってくれたんだし。
これからどうするかを考えるべきじゃない?」

テッサが宗介とかなめの間に割って入る。例え自分の姿でも、納得し難いものがあるのだろう。
少々こめかみを引きつらせながら言う。
が、その言葉は全員をーーー言った本人も、だーーー固まらせることとなった。

「そうですよ・・・。これからどうしましょう・・・」

「む・・・」

「学校もあるのに、ほんっと、どうすんのよ、これ・・・」

3人が3様の途方にくれた表情を浮かべる。
奇跡的に宗介に理解してもらったとは言え。
事態はまったく改善してはいなかった・・・。




続く



後書き

えー・・・、そのぅ・・・。今回はなんか自分の文才のなさを痛感した回でした。こんなんで大丈夫なんだろうか、
これは・・・。もっと精進せねば!!
という訳で読み通りだったかな?かなめとテッサが入れ替わりました。さぞ読みにくかったことでしょう。
一応、文そのものは外見の人物の行動で統一し、意識は<>で区別しています・・・
本当は後書きでいいたくないんだけど、こんなことは。いやはや、なさけない。
えと、今回最も苦労したのが、「どうやって宗介に入れ替わった事実を納得させるか」ということでした。
いろいろ考えてみたんだけどねぇ。これしかないでしょう、と思いました。
ま、何言っても信じる奴じゃなさそうだし(笑)、パブロフの犬みたいなものってことで。

う、長編は後書き短めにするつもりだったのに(汗)。
今回は何か駄目駄目っぷりばかり見せてるな・・・。
と最後まで反省しつつ。
おっと。それでもこの駄文にお付き合いしてくださった皆様、本当にありがとうございます!!
それでは、次回も駄文にお付き合いを・・・。

 

代理人の感想

・・・ま〜、やっぱりこれしかないでしょう(笑)。

しかし、運動神経までも伝染すると言うのは、

ひょっとしたら神経細胞のデータごと移植されてしまってるのかもしれませんねぇ。

なんでそうなるかは謎ですが。

 

 

・・しかし、クルーゾー中尉って(汗)。