トゥアハー・デ・ダナンというのがこの潜水艦の名前らしい。
 俺はブローディアをニンジャの隣におくと、ハッチを開け、降りる。
するとすぐに一組の男女が近づいてきた。
保護とは言え、向こうにとっては得体の知れない機体に乗っていた者になる。
警戒するのはまあ、当然だろう。
 俺が黙って頭を下げると、女の人の方は厳しくしていた目を緩ませた。
 
「いきなり諸手を挙げて歓迎って訳にはいかないけど・・・。まあ、歓迎するわ。
 改めて。私がさっきM9に乗ってたメリッサ・マオ。んで」

と、隣の男ーーーまだ少年といってもいい年齢の、だが身に纏っているものは間違いなく男の、
それも歴戦の勇士を思わせるようなーーーを指さす。

 「こっちがサガラ・ソースケ」
 「テンカワ・アキトだ。よろしく」

 俺が言うとソースケはちらりと俺を見やり、

「・・・・・・思ったより若いな」

 呟いた。・・・ソースケの方が明らかに若いだろうに。
 俺が思わず苦笑していると、唐突にウィンドウが開いた。

「アキト兄ぃ、私達のこともちゃんと紹介してよぉ!」
「ああ、ごめんごめん」

 ぷぅっ、と顔をふくらませるディア。いきなり開いたウィンドウに
ーーーまあ、何もないところにいきなり現れれば驚きもするだろうがーーー
目を丸くしながらマオさんが口をひらいた。

「え、ええと・・・・・・かわいい妹さんね」
「かわいい? いや〜、本当のこと言わなくても・・・」
「いや、これは・・・」

 俺が否定しようとすると、もう一つウィンドウが開く。ブロスだ。

「僕とディアはブローディアのAIです! あ、僕ブロスっていいます。こっちの浮かれてるのはディア。
 あの、助けてくれてありがとうございました。ほら、ディアからもちゃんとお礼を・・・」
「ブ〜ロスゥ、こっちってのは何よ?」
「あ、それは言葉のアヤで」
「アヤだか鮎だかしらないわよ!」
 
 それっきり、俺達を放っておいて言い合いを始める。
俺はかぶりを振って気を取り直すと、二人についての説明をした。
 「ブローディアって、あの機体でしょ? あれのAIがこの子達なの・・・?」
 
 マオさんががく然とした目で二人を見つめる。
「信じらんない。ここまで完成された感情プログラムがあるなんて・・・」

 一方、隣の少年はムスッとした顔のままつっ立っている。それに気づいたマオさんが声をかけた。

 「あんた、これ見て驚かないの? 私たち今、すんごいもん見てんのよ」
「・・・AIが俺よりユーモアがきくのは既に知っているからな」
「・・・は?」

 何故かソースケは撫然とした声で呟いた。



    さまようゲスト・オブ・フューチャー

        第2話

 
 俺は二人に連れられて、艦長室へと向かった。さすがにあの戦闘服ではない。
ここの制服を借りている。着替えている間、ブロスとディアがなにやらマオさん達に話していたようだが、
内容までは分からなかった。

 「メリッサ・マオ、サガラ・ソースケ、保護した人物を連れてきました」

 よく通る声でマオさんがいう。すると、音もなく扉が開いた。
マオさんは入って、と指で示す。黙ってそれに従うと、部屋の中に秘書らしき少女が立っていた。
 15、6位の、ルリちゃんよりも背の高い少女だ。丁寧にお辞儀をされ、返礼する。
不思議なことに他に人はいなかった。

 「こんにちわ。私が当艦の艦長、テレサ・テスタロッサです」
「・・・・・・あなたが?」

 思わず訊き返す。確かにルリちゃんもナデシコB・Cの艦長の時はまだ16だったが、
あれはかわいかったからだけではない。そして、只優秀だったからだけでもない。
 俺の反応に、アッシュブロンドの少女は悪戯っぽく微笑んでみせた。

 「ええ。確かにみなさん驚きますが・・・。安心してください。腕は確かですから」
「そうですか・・・。あ、俺はテンカワ・アキト。パイロットです」
「テンカワ・アキト・・・。日本の方ですか?」
「いえ・・・・・・」
 
 違います、と言おうとして口をつぐむ。まさか火星生れです、なんて言える訳がない。
言ったとして、向こうはどう思うだろうか。
 何の脈絡もなく現れ。
 得体の知れない機体に乗った。
 火星人と名乗る男。
 ・・・・・・。
 明らかにこの場で射殺される。エイリアン扱いで。
 そう結論づけた俺は、

「あ、いえ、そうです」

と頷いた。
 テッサちゃんはーーー仮にも初対面の艦長に「ちゃん」付けはどうかと後でディアに言われたーーー
特に疑うでもなく、話を続ける。マオさんは片方の眉を上げてこちらを見たが、口を挟むことはなかった。

 「それで、あの機体・・・ブローディアでしたか?
 あれに乗って、あなたは唐突にーーー文字通り突然現れました。
出来ればそれについても説明していただきたいのですが」

『説明しましょう!!』

「うわぉあっっっ!!」
「・・・どうしたの?」

 突然大声をあげた俺にみんなが注目する。ソースケは銃を構えて俺のこめかみに狙いを定めていた。

「あ、いや・・・すみません、寒気がしたので」

 両手をあげ、抵抗しないことを伝えながら、考える。
まさかあの人がここまでくるとは思えないけど・・・。油断はできない。本当に来そうだし。
 三人が説明おOさんのことなど知るはずもない。訝しげな瞳で俺を見つめる。

 「?・・・まあ、いいでしょう。それよりも、先程のことですが」

 ・・・さて・・・。どう誤魔化すか・・・。
 俺が思案していると、横からマオさんが口を挟んできた。

「あの、大佐。その事ですが」
「はい?」
「ブローディアのAIが全て語ってくれました」

 その言葉に思わずずっこける。あ、あいつら・・・。
 マオさんはーーー自分でもあまり信じてないような口調でーーー続ける。

 「なんでも、その・・・。22世紀末から来た、と言ってるんですが」

 あの二人、どうも真正直に言ったらしい。でも、普通いきなりそんなことを言われても、

「・・・・・・200年後から、ですか?」

ほうらね、疑ってる疑ってる。
 だが、ブロスとディアがーーーきっと自慢気にーーー話してしまったのなら仕方がない。
俺はため息をつくと頷いた。

 「ええ。俺は200年後から来ました。
信じられないことかも知れませんが・・・時空転移といえばわかりますかね?
 そういったものがあるんですよ。俺はその事故に巻き込まれる形でここに来たんです。
・・・繰り返しますが、敵意がある訳ではありません」

 テッサちゃんは暫く迷ったようだった。俺をじっと見つめる。
俺は全て見透かされているような感じになりながらもその目を見返した。
 やがて、テッサちゃんは微笑むと、口を開いた。

「・・・そうですか。サガラさん?」
「はっ」
「だそうですので、銃はおろしてもらっても結構ですよ」

 そう。
 ソースケは今までの間ピクリとも銃口を動かそうとはしていなかった・・・。

 「それで、メリッサと話したというAIですが・・・」

 テッサちゃんがそう言った途端、ソースケは眉をひそませる。
どうも、ソースケはブロスとディアが好きじゃないようだ。
だが、テッサちゃんの手前なのか、それ以上のことはしなかった。

「あ、呼べますけど・・・。ごうしますか?」
「お願いします」

 テッサちゃんの声と同時に、俺の両隣にウィンドウが開いた。
出てこられるのを今か今かと待っていたみたいだ。
突然空中に開いたウィンドウに、さすがのテッサちゃんも目を丸くさせている。
 それをよそに、ブロスとディアは声をあげた。

「ブロスで〜す!」
「ディアで〜す!」
「「私たち(僕たち)!!」」
「「ブローディアのAIで〜す!!」

 ウィンドウの中では少年と少女がポーズを決めている。
呆気にとられる三人などお構いなしに、ディアとブロスは会話を続けている。

 「それにしても、ここの人たち意外と親切でよかったね、アキト兄ぃ」
「うんうん。問答無用でスクラップになっちゃうのかって僕思ったよ」
「あ〜っっ!!この子、この艦の艦長〜っ!?すっご〜い、若〜い!!」
「16才位じゃない? ルリ姉も16でなったらしいし」
「なんか頭よさそうだね。ルリ姉とキャラ被ってない?」
「艦長って似てくるんじゃないの? 冷静で、頭がいいってとことかさ」
「ユリカ艦長は?」
「あれは別」

・・・・・・・・・・・・。
 二人は凄まじい勢いで話している。テッサちゃんは口をパクパクとさせながら、言葉を探したようだった。

「・・・よ、ょくできた漫才プログラムですね」
「・・・・・・いえ、地です」

 俺はーーーやはり、と言うべきだろうーーー大きくため息をつくしかなかった。



 「あのテンカワという人物・・・。信用していいのか?


 マオがアキト達と別れると、後ろから呼び止める声がした。立ち止まって振り向く。

「正直・・・分からないわ。少なくとも嘘を言ってるようには感じない。
かといって未来から来たってのが信じられるかって言うとそれは別の話だけど。
ま、単なるキチOイの類じゃなさそうね」
「キチ・・・。お前、言葉位少しは選べ。いくら海軍仕込みだからってな・・・」

 黒色の肌の男は呆れたような顔をして見せる。

「あ〜らベン? あんただって似たようなもんじゃないの


が、あっさりと言い返された。ベルファンガン・クルーゾーは眉をしかめ、ため息をつくと肩をすくめる。

 「ま、そういうことはどうでもいい。問題はあいつの事だ」

 そういうと、マオも顔を厳しくさせる。

「未来云々を信じるかどうかは抜きにしても、あの機体、相当なモンに違いはないからね」
「ブローディア、だったか。幸いといっていいのか、今あれはほとんどが壊れているからな。
まともなのはAI位だそうだが」
「ちょっと変わってるけどね。未来から来たってのが本当かもしれないって思うかもよ、あれは」
「ふ。マオにそこまで言わせるとはな。だが、その機体を操るテンカワ・・・」
「ホント、何者なのかしら・・・」

二人はそう呟くと、互いに考えに耽っていった。



 3時間後。

 「それで、大佐。その男はどうする積もりなのかね?」

 メリダ島の第一会議室。そこにテレサ・テスタロッサはいた。
周りには厳めしい顔の男たちーーーといっても、立体映像なのだが。
 先ほど訊ねてきた初老の男ーーー作戦部長のボーダ提督は渋い顔をしていた。

「正体不明の気の触れていそうな男などを匿ったりして・・・。お前らしくないぞ?」
「そのことについては謝ります。しかし、私にはどうしてもテンカワさんが嘘を言っているとは思えないんです」
「個人の考えだけでーーーしかも、はっきりとした根拠もないのにそういうことをするのが
一番危険なのは知っているだろう。現に、シージャック事件では二人もの隊員を死なせているのだぞ?
 今度そういうことがあったらーーー

「お願いします、おじさま。おじさまも彼を見ればきっと分かってくれます。だから・・・」

 必死になってテッサが言い募る。ボーダ提督は暫く黙っていたが、やがて口を開いた。

「テレサが初対面の男をそこまで言うとはな・・・。ふむ、ロマニー卿には私の方から言っておこう。
彼のことは私がスカウトしてきたSRTだとな」
「おじさま・・・!」
「ただし! SRTとなってもらうからには任務には参加して貰わなくてはならん。それでもいいな?」
「はい・・・!」

 嬉しそうに頷くテッサ。それを見てダーボ提督は苦笑する。それからニヤリと笑うと

 「それにしても・・・。随分とその男をかっているようだが、一目惚れでもしたのか?」
「そ、そんなことありませんっ!!」
「ムキにならなくてもよい。はっはっはっは・・・」

 会議室内に笑い声が響いた。



 俺はソースケに案内してもらって、鍛錬室に来ていた。
結構広い。いろいろな部屋があったが、俺は板張りで何もない
ーーー組手などがしやすいーーー所を選んだ。何もしていないと暇で落ち着かないーーー
というよりも、何かしていないと余計なことを考えてしまうからだった。
なにはともあれ、この環境に慣れることだ。
 ソースケは相手をしようかと言ってくれたが、体よく断る。
俺が何かしないかと疑っているようにも見える。が、今のところは大丈夫だとでも思ったのだろうか。
やがて、用が済んだら食堂に来いといって去っていった。
 衝動か。少し心が揺れる。だが、体を動かしてからでも遅くはないだろう。
 俺は心を静めると、静かに足を滑らせた。
誰もいない道場で、疾風(かぜ)を切る音だけが響く。調子は悪くない。
が、俺は漠然とした違和感を感じていた。自分ではよく分からないが・・・。
 と、そこにテッサちゃんが来た。ソースケもその後ろについてきている。
俺は動きを止めると、二人に近づいた。

 「テンカワさん、あなたのことですが・・・」

 どうやら俺の処分が決定したようだ。運が悪ければ即監禁、私刑といったところだろうが・・・。

 「あなたにはすみませんが、これからうちのSRTとして任務にあたってもらいます。
私の独断ですみません・・・」

 頭を下げる少女に、慌てて頭を上げるようにいう。

「そんな、寛大な処置をありがとうございます。こんな素性も分からないような者を信用してくれて・・・」

 そういうと、テッサちゃんは冗談っぽく微笑んだ。

 「ふふ。なら、一生懸命お願いしますよ? そうしないと、私の顔がたちません」
「善処させていただきます」

 俺も悪戯っぽく言う。
 そういえば、と彼女は呟いた。

「さっきのはカラテですか? 初めて見ましたが、綺麗なんですね」

 彼女は誉めたつもりで言ったのだろう。だが、俺はがく然とした。
俺は決してゆっくりと動いていた訳じゃない。
確かに4分から6分位の力だがーーー少なくとも常人の目にはーーー
なにが起こっているのか分からない位の速さだったのだ。
 そんな俺にさらに追い打ちをかけるようにソースケが呟いた。

「む。これならSRTとしてもやっていけるだろうな」

その言葉にテッサちゃんはほっとした顔をしていたが、俺はそれどころではなかった。
 SRTとしてやっていけるーーーSRTというのがなんなのか、この際関係ないーーー
ということは、俺はそのレベルだということなのだ。違和感の正体はきっとこれーーー
何かが原因でジャンプ前の力がなくなっているということなのだ。
 ふと、ある可能性に気付き、俺は意識を集中した。出来るようになってからもう随分としてきた、
俺の力(いろ)ーーー蒼銀の力。
 だがーーーーーーだが。
 俺を纏うものは存在せず。
 そこには怪訝そうに立っている少女と戦士がいるだけだったーーー。




    続く






   後書きじみた座談会

拓斗「はい、おひさしぶりです。今回、逃げる準備もバッチリの・・・」

かなめ「にがすかぁぁぁっっっ!!!」

拓斗「げふぅぅぅっっっ」

かなめ「あんた、一つ聞くけど、いいかしら?」

拓斗「拒否権を・・・」

宗介「・・・(ジャキッ)」

拓斗「ああっ、銃を向けないでっ」

かなめ「はっきりいうわ。私はいつでるの?」

拓斗「え、ええっ・・・。そんな、アキトが東京に行きでもしない限り、出番はありませんよ」

かなめ「で、もちろん来るんでしょ!?」

拓斗「そ、それは本人に聞いてください」

かなめ「だそうですって」

アキト「なんでっ!?」

拓斗「それじゃ、私はこれで・・・」

マオ「ねえ、問題があるんだけど、いい?」

拓斗「なんですか? 何か不都合が?」

マオ「いや、クイズよ」

拓斗「なんでしょう」

マオ「この話はどういうストーリーでしょう。
  
  1・ジャンプしたアキトがこっちの世界で活躍するいわゆるヒロイック・サーガ

  2・主役はあくまで私たち。アキトはどちらかといえば助言役。
  
  3・ソースケとアキトの間で揺れ動く少女の心を書いたテッサの恋物語」

拓斗「・・・・・・」

クルツ「ヒロイック・サーガじゃねえだろ・・・」

マオ「あんたの芸風なら3でしょうね〜」

拓斗「・・・・・・(泣)」








 後書き

 こんにちわ、お久しぶりの第二話です。アキトの力がなくなっちゃいましたね〜。
まあ、あのままじゃああの世界のパワーバランス根底からひっくりかえっちゃいますからね。
弱くなってもらいました。うう、ごめんよ〜。また強くなる機会はあるさっ(非道)。
 それはそうと、いい味出てます、ブロスとディア。あの子たちは大好きです。
その分、クルツ達の出番がなくなってるけど(苦笑)。

 出番といえば、かなめさん。いつになったら出られるのでしょう。でも、東京には行くかどうか・・・。
番外編でもあったらいくのでしょうが・・・。
まあ、この子をどう出すかは決めてるので、予想せずに待っててください。
 一応ふせ字はしましたが、作品中に不快な言葉がございましたので、ここでお詫びします。
あ、でも、説明〜の中には好きな言葉をお入れしてくださいという意味でのふせ字です。
漢字でも平仮名でもお好きなものをどうぞ(笑)。

 それでは、お礼を。

 いつもいつも代理人様、暖かい言葉とアップ、ありがとうございます。
 管理人様、折角のアキトを弱くしてしまって申し訳ございません。
・・・どうでもいいけど管理人とカリーニンって似てない?・・・いや、すみません。ほんとどうでもいいです。
 そして、ここまで読んでくれた皆様、ありがとうございます。メールをくれた皆様、めっちゃ嬉しかったです!
 これを励みに、飽きられないようにもっといい作品をお送りさせて頂きたいと思います!

 今回、Kはだまっておりました。 ただ、紙にいくつものつっこみを書いて突きつけてきました・・・。
 ま、まあ、たくさんありますが、それの言い訳などは次回に・・・逃げてません!
 後書き長すぎるんでおわらせていただくだけです!(自爆)

 で、では次回も駄文にお付き合いを・・・。

 

 

 

代理人の感想

ん〜、つまり「普通の腕利き」くらいな訳ですね。

あるいは時ナデ開始当初のアキト(つまり、黒の王子レベル)くらいか。

なんにせよ、時ナデの昂気レベルだとさすがにバランスが取れませんので、(北斗もいないしね)

これは妥当な選択かと思います。

 

 

>管理人とカリーニン

ぎゃははははははははは(爆笑)!

 

い、いかん、腹がよじれる〜〜〜。