「テンカワ・アキトです。短い間ですが、よろしくお願いします」

 アキトが軽く一礼すると、拍手とともに歓声が沸き起こった。
女子達は早速品定めを始め、「結構いいじゃない」だの「85点」だのと言い合っている。

 「私、常葉恭子って言います。よろしくね、テンカワくん」

 いわれた席につくと、隣から笑顔で話しかけてきた少女いる。おさげで丸眼鏡の、頭に輪っかをつけて羽でも生やせばさぞ似合いそうな女の子だな、とアキトは思った。

「こちらこそ。よろしく、キョーコちゃん」

 にっこりと笑って手を差し出す。恭子は一瞬戸惑ったが、えへへ・・・とはにかみながら握手に応じた。

「お〜お〜。お二人さん、仲よろしいんじゃなくて?」

 後ろから黒髪の少女が冷やかす。アキトが受け取った写真と同じ顔の少女。黒髪でスタイルもよく、ファッション雑誌の表紙も飾れそうな容貌をしているーーーのだが、今は目の前の親友をからかうのに忙しいらしい。随分とニヤけた顔は親父そのものだ。

 「もう、そんなんじゃないって。カナちゃんたちの方が仲良いじゃない。席だって念願のお隣同士、だし?」

 その隣の男は熱心に本を読んでいた。三人ーーー正確には二人だがーーーの会話などそっちのけである。かなめは恭子の言葉に赤くなったものの、宗介のその態度を見て面白くなさそうに眉をひそめた。

 「ソースケェ・・・。あんた折角テンカワくんと話してるんだから、なんか言いなさいよ」

 つんつん、と肘でつつく。宗介は初めてアキトがそこにいるのに気づいたかのように顔をあげた.

 「・・・あいつらと付き合っていて気が狂わないのか?」
「ま、まあ付き合い長いしね」

 真剣に訊ねてくる宗介に、アキトは苦笑いを浮かべる。あいつらとは勿論ブロスとディアのAIコンビだ。
 二人はアルと仲良くなろうといろいろと考えているらしいーーーはなはだ不安である。

「・・・なんの話してるの?」
「さ、さあ」

 不思議そうに訊いてくる恭子に、かなめは冷や汗で答えた。





   <さ迷うゲスト・オブ・フューチャー>

     第4話





 日本についた晩。ソースケと一緒にセーフハウスに着くと、待っていたかのように電話がなった。

「俺が出る」

 出ようとした俺を制し、ソースケは素早く受話器を取った。

 「こちら相良宗介。・・・千鳥か。・・・そうだ、今帰ってきた。・・・そうか、ありがたい、では馳走になる。
・・・?ああ、一緒だ。明日から学校にも通うことになっている。・・・何?・・・いや、いい。提案する。では」

 やたらと事務的に話しているみたいだったけど、表情はころころとーーー極小さいとはいえーーー変わっていた。
ソースケにしては珍しく心を許しているようだ。
 最後に納得しかねる表情で受話器をおいたソースケは、心なしかぶすっとした目つきで俺を見た。

 「今から千鳥の家へ夕食を食べにいく。今日はカレーだそうだ」
「分かった。いってらっしゃい」

 ぼそりと告げたソースケに、至って真面目に答える俺。すると何故か、ソースケはますます不景気な顔をした。

「・・・テンカワも来るように、とのことだ」
「俺も?」
「そうだ」

短く言われる。

「・・・いいけど、別に」

 特に断る理由もないので適当に頷くと、今度はむきになって言ってきた。

「言っておくが、千鳥の料理は旨いぞ。俺が普段食べているものと比べると、それはもう・・・」
「・・・普段、何食べてるの?」

 ふと気になって訊ねてみる。

「干し肉とトマトだ」
「・・・え、生?」
「干し肉だといっただろう」

 ・・・調理をしないで、なんだろうな、普通に答えてきたところを見ると。

「余り待たせる訳にもいかん。いくぞ」
「あ、うん」

 思わず考え込んだ俺をちらりと見ると、ソースケはいそいそと靴を履き、外に出る。。俺はま、いいか、と後を追った。




 「初めまして。テンカワ・アキト・・・くん、でいいの?」

 ドアを開けた少女はそう言って微笑む。この少女がアキトの護衛対象となる千鳥かなめだった。アキトが頷くと、中に入って、と奥へ案内する。

 部屋に入るとカレーの匂いが漂っていた。今日はろくに何も食べてなかったな、と改めて思い出す。

「改めて。よろしく、テンカワくん」

 3人が座ると、かなめがまず口を開いた。つられてアキトも微笑む。

「こちらこそ。一、二週間位だろうけど、よろしくね」

 すると、かなめは何故か驚いたような顔でアキトを見つめた。

「・・・何か変?」

 控えめに訊ねると、ふるふると首を振る。

「いや、そうじゃなくて・・・」
「?」
「変じゃない人、ミスリルにもいたんだ・・・」

 本当に関心したように呟くかなめに、思わずガクッと崩れる。

 「ソースケ、こんな人いたんなら出し惜しみしてるんじゃないわよ」
「いや、俺に言われても困るのだが」

 そんなアキトには目もくれず、二人は話を続けている。
その様子がなんとなく微笑ましくなって、アキトは思わず頬をゆるめた。

「・・・どうしたの?」
「ん、仲が良いなって思ってさ」

 そんなアキトに気づいたかなめが訊ねる。素直に答えると、かなめは真っ赤になって宗介と距離を取った。

 「あ、いや、別に付き合ってるとかそおゆうんじゃなくて・・・」
「どういうものだ?」
「あんたは黙れ」

 急にしどろもどろになったかなめにバカ真面目に訊ねーーー肘鉄を喰らう宗介。
それをみながらアキトはぽつりとーーー宗介にとっては致命的とも言える一言をーーー漏らした。

「テッサちゃんといい、両手に花だな」

 途端に、和やかだった場の雰囲気が一変した。両者が同時にーーーゆっくりとアキトに振り向く。

 かなめは獰猛なーーー笑っているのか怒っているのか分からない表情で。
 宗介は瞳に困惑と焦りと殺意とーーー藁にもすがりたい、というようなものを浮かべて。

 アキトは後ずさりながら、どこかで見たような感じがしていた。
 そう、これは非常によく似ている。誰かが某メカニっくや某会長、さらには某不幸の爆走少年に
ーーーお仕置きをされに引きずられていく時にーーー向ける瞳と、引きずってゆく者達の表情だ。

 宗介に詰め寄るかなめを見て懐かしさと情けなさを同時に感じながら、アキトは明日からの護衛を考えようとーーーもし他人がみればそれは明らかに現実逃避と呼ばれるものだったがーーーしていた。



 「ほら、お喋りはここまで。1時間目は私の授業だからそのまま始めるわよ」

 俺が質問攻めにあっていると、ほどなくチャイムが鳴った。担任の神楽坂先生は手を叩いて教室を静かにさせる。
1時間目は英語だった。

 西欧にいた間に会話程度は出来るようになっていたけど、俺にとって授業というものは本当に久しぶりだ。闘いとは違った緊張を少しばかりしながら俺は教科書を・・・。

 ・・・・・・ない。

 「そういえば、まだ教科書持ってなかった・・・」

 正確には違う。
 『隣の女子に教科書を見せてもらって肩や頬が触れ合ってキャ〜(はぁと)! ってのが転校生の常識だろうが』、
という訳の分からないことをクルツに言われて没収されたんだった。仕方なく、隣に頭を下げる。

 「あの・・・キョーコちゃん。教科書見せてもらえる? 俺まだ持ってなくてさ」
「あ、そうなんだ、ハイ」

 俺が頼むと、キョーコちゃんは微笑んで机をくっつけてくれた。
・・・たしかに、高校生の頃はこういう状況にドキドキしてた事もあったっけ・・・。
授業に集中してると顔と顔がくっつきそうになってたりして・・・って、
もうそんなことにトキメかせる年でもないんだけど。

 そんなことより、肝心の内容は・・・。

「・・・・・・分からん」

 思わず呟く。200年で英語がそんなに変わってるとは思えないし・・・。
というか、これを学んでも日常生活に約に立ちそうにもない・・・ってそもそも、話せるのと読み書きが出来るのとはちがうし・・・。

 俺の呟きを耳にしたキョーコちゃんがキョトンとした目でこっちを見る。

「あれ? テンカワくん、英語圏から来たんじゃ・・・」
「日常会話なら出来るけど、でも文字はあんまり・・・」

 エステバリスに関するマニアックな言葉なら分かるんだけど、と心の中で付け加える。
 とりあえず先生の言う事を聞いて、しっかりと基礎を・・・。

 と、そこで俺はシャーペンを動かすのを止めた。

 誰かにーーーおそらく、スコープ越しにーーー見られている。殺気は・・・まだ、ないみたいだ。でも、いつでも動けるように・・・

 次の瞬間、気配が一気に大きくなった!
 バカな、いくら何でも動きが速す・・ぎ・・・る・・・・・・。
 慌てて後ろを向いた俺の目に映ったのは、ソースケが銃を片手にカナメちゃんを押し倒しているところだった・・・。

「・・・・・・えっと。」

 どう対応しようかさすがに迷う。因みにさっきの視線は完全に消えていた。

「・・・異常はないようだ」

 ソースケは暫く窓の外に鋭く視線を投げていたが、やがて銃をしまうと、こうのたもうた。

「あんたの存在が一番異常なのよ!!!」

 そして間を置かずにカナメちゃんの突っ込みが決まり、ソースケは痛みにうずくまっていた・・・。
 それにしても、カナメちゃんのハリセン、どこから出てきたんだろう?



 「・・・いつも、こんな感じなの?」

 昼休み、4時間の授業を済ませたアキトが心なしかげっそりとした表情で訊ねた。

「そ。最近は3日に1度だけど、最初は1日に3回あったわ・・・」

 答えるかなめもどこか疲れた様子である。アキトの初めての昼食ということで、とりあえず屋上に来ていた。
アキト、宗介、かなめ、恭子、詩織、ユカである。恭子たちはパンを買いに行っていて、今は3人が場所を取っていた。

「ソースケのあの反応って、ちょっと過剰すぎるでしょ?」

 かなめの言葉にアキトは難しい顔をする。確かにこの時代の日本では過剰な反応かも知れないが・・・

「一概にそうとも言えないんだよね・・・。ソースケが反応した時、確かに誰かに見られてたから・・・」

 アキトの答えにかなめは信じられない、と首を振り、宗介はそれ見たことか、と胸を張った。

 「で、でもいきなり靴箱を爆破はやりすぎだと思わない?」
「靴箱って・・・昇降口ごと?」

 目を丸くして聞き返すアキトに、今度こそはと語調を強めるかなめ。

「自分の靴箱に髪の毛が挟んでなかったからって、いきなり」

 ところが、かなめの予想に反してアキトはすまなそうな顔をした。

「う〜ん・・・それも納得出来ちゃうんだよなぁ・・・」
「何で!?」
「ほら、靴に画鋲を入れたりするじゃない、いじめっ子とかさ。それが画鋲ならまだいいけど、
蓋を開けた瞬間に爆発するタイプの指向性爆弾だった場合、足の裏が血だらけ、ていうレベルじゃなくなっちゃうから」

 アキトの言葉にかなめはぶすっと頬をふくらませる。宗介はますます得意そうな顔をした。

 「でも、ここは日本なんだし、私の迷惑だって考えてもらいたいんだけど・・・」

 かなめの言葉に、宗介はたちまち小さくなってゆく。自覚がない訳ではなさそうだ。

 「う〜ん・・・。カナメちゃんは何か好きなスポーツとかある?」

 急に話題を変えたアキトに、かなめは怪訝そうな表情を浮かべる。

「ソフトボールとか好きだけど・・・なんでまた急に?」
「例えば、さ。最終回裏ツーアウト、3対1で負けてて、こっち1、2塁。バッターがカナメちゃんとするよね」
「・・・うん」
「で、打った。でもそれは打ち損ねで、センターとライトの真ん中あたりに浮いちゃった」
「うん」
「センターのキョーコちゃんとシオリちゃんがそれぞれ取ろうとして、ぶつかった。ボールはてんてんと転がっている。さて、カナメちゃんはどうする?」
「そりゃ走るわよ」

 当然でしょ、とかなめ。

「いいの? キョーコちゃんとシオリちゃんはそれを望んでないと思うけど? 怪我してるかもしれない。それでも

「怪我を心配するのは当たり前だけど、試合が終わってからの話でしょ。試合中になんて構ってらんないわ」
「うん。まあそれが普通なんだけど。何事においても、ね」

 それでアキトの言いたいことが分かったのか、う・・・と呻く。

「まあ、ソースケもカナメちゃんを案じての行動なんだし、大目に見てやってよ」

 困ったように笑いかけるアキトに、苦笑して応えるかなめ。しかし、

「・・・本当に私の身を案じてくれてるだけなら、ね」

 かなめは誰にも聞こえないような声でーーー心底疲れた表情で呟いた。



 「へ? 男子の先生が病欠?」
「ああ。それで今日の体育は男女合同だそうだ」

 昼食後。俺が体操服にーーーこれを着るのも何年ぶりだろうーーー着替えていると、ソースケがそう言ってきた。
合同っていっても、女子の先生が男子と女子、両方みるだけだろうけど・・・。
 そんな俺の考えを見透かしたかのように、ソースケは続けた。

「競技は男女混合ドッヂボールだそうだ」
「・・・へ?」

 合同と混合って意味違うし・・・とか高校生にもなってドッヂボール・・・?
 とか思っている間に、ソースケはグラウンドに行ってしまい、結局その理由を聞くことは出来なかった・・・。



 「じゃ、チーム分けをするわよ」

 腰に手をそえて声を張り上げているのはカナメちゃんだ。彼女には不思議と人を引っ張るところがある。ある種のカリスマ・・・なのかも知れない。

 普段体育は8組と合同でやっているらしい。1クラス40人なので、合計80人にもなる。いつもは男女別だから半分らしいけど・・・。

「とりあえず、10人1チームね。そしたらAグループとBグループで別れて。A、Bでリーグ戦をして上位2チームが決勝トーナメントに進出。これでいい?」

 ・・・・・・80人をあっさりとまとめている。言い方が悪くなるけど、高校生っていうのは鵜合の衆みたいなものだ。伊達に生徒会副会長をやってる訳じゃないらしい。

 そう感心しながら隣を見ると、ソースケがいそいそと地面に何かを埋めていた。

「・・・何してるんだ?」
「対テロ用の地雷だ。殺傷力はあまりないが、その代わりに催涙ガスが同時に噴出するようになっている。踏めば相手チームなどイチコロだ」
「・・・・・・ドッヂボールのルール分かってるのか?」
「肯定だ。対戦チームを戦闘不能にする。最後まで立っていた者が勝利者。これなら俺にも分かり易い」
「・・・・・・・・・間違ってるぞ、多分」

 とりあえず俺は黙って地雷を掘り出した・・・。

 俺達がそんなやりとりをしている間にチーム分けは終わっていた。俺とキョーコちゃんが同じチーム、ソースケとカナメちゃんが同じチームだ。まあ、俺とソースケが同じチームだったらまず優勝するろうし。
 ちなみに俺達がA、ソースケ達はBだった。

 と、

「相良、勝負だ!!」

 そこに声がした。振り返ると背が小さく、瓶底眼鏡をかけた少年がソースケを睨んでいた。
 かなりできる。
 足の運びをみて、俺はそう思った。

「椿か。望むところだ、貴様もこれで俺との差というものを知るがいい」

 ソースケもふんぞり返って言い返している。マオさんの話とは違って、ソースケも結構高校生活を楽しんでるじゃないか。

「あ、椿くん。お互い頑張ろうね」

 そこにカナメちゃんがやって来た。途端に椿と呼ばれた少年はうろたえ始める。

「あ、ああ・・・お互い、頑張ろう・・・。待て、千鳥は相良と同じチームなのか?」
「うん。私じゃないとあのバカ止められないしね」
「そ、そうか・・・だとしたら、相良を負かすことは千鳥をも負かしてしまうということか!? しまった、どうすればいいんだ・・・!」

 ・・・青春だなぁ。
 だのと、我ながら爺むさいことを考えているうちに、予選リーグが始まったーーーと言っても、俺が普通の高校生に負けるわけがない。しごくあっさりと決勝トーナメント行きを決めた。

 ・・・どうでもいいけど、途中からだんだんと声援の音階が高くなっていってるような気がしたんだけど、なんだったんだろう?
 それに、隣のコートで爆音や悲鳴が響くのも謎だ。そう、謎なんだ。謎と言う事になっているんだ。
・・・これも後でミスリルに報告しなければならないのかなあ・・。

 当然ーーーと言っていいのかどうかーーーBグループからはソースケのチームが出てきた。

「卑・・・卑怯者・・・」

 後ろからB2位通過の椿くんとやらが黒焦げでソースケに文句をいっている。
カナメちゃんは見て見ぬふり・・・慣れというものは恐ろしい。

「じゃ、Aの1位とBの2位、Bの1位とAの2位で準決勝ね〜」

 先生のどこか眠そうな声で、準決勝が始まった。



 「お前、相良と話していたが・・・仲間か?」
「まあ・・・その表現は間違っちゃいないね」

 チュド〜〜〜〜ン!!!

「貴様もあいつのような卑怯者か?」
「分からないけど、ソースケ程じゃないと思う」

『ソースケェェッッ!!』

「そうか・・・。見たところ、お前もかなりの強さと見た。どうだ、この際1対1で決めないか? どうせ他の奴等は戦力にならんだろう」
「・・・一応言ってはみるけど、仲間は仲間だ。戦力がどうのこうのじゃない」
「そうだな・・・。いや、悪かった。お前は相良とは違うようだ」

『あんたはいつもいつも何でそうなのよっっ!!??』

「・・・いいか? こっちは既に準備は出来ているぞ」
「・・・こっちもOKだ。他の皆には外野に行ってもらう。これでいいな?」

 スパンッッッッ!!!!!

「俺は椿一成。お前は?」
「テンカワ・アキト」
「そうか・・・行くぞっ、テンカワ!!」
「こいっ!!」

『・・・千鳥。きみは体操服なのに、どこにその武器を隠していたんだ?』

 試合はこんな状況で進んでいった。

 アキト対一成は、地力の差でアキトの勝利。最後まで正々堂々とした態度のアキトに、一成は

「負けはしたが、気持ちのいい勝負だったぜ・・・」

と、握手を求め、二人のーーー主に女生徒からのーーー人気がぐんと上がることになった。

 宗介・かなめチーム対A組2位ーーー小野寺孝太郎のチームだったーーーは孝太郎チームの悶絶死により、
宗介・かなめチームの決勝進出。最後まで頑として地雷を使い続けた宗介に、孝太郎は

「相良・・・覚えてろ・・・」

と中指を立てて復讐を誓い、両チームはーーーまあ、当然のことなのだがーーー人気が上がるということは、なかった。





 「まあ、当然こうなるわけよね・・・」

 かなめが不敵に笑う。3位決定戦(椿チームの不戦勝だった)の後、いよいよ決勝が行われることとなったのだ。

「ふっふっふっふっふ・・・。ここまで来たからには勝たせて貰うわ・・・」
「カナメちゃんってこういうノリ好きなんだね・・・」

 やっぱり、と言った風でアキトが呟く。

「ドッヂは戦争よ! そう、グラウンド上の戦争! 私達は勝たなければならないのよっ!!」

 なおもかなめは熱く叫ぶ。それに対し恭子は冷静に、

 「じゃあ、決勝の前にルールの確認だね。まず、

 爆薬を使用しないこと」
「何だと!?」

 恭子のその言葉に宗介が驚きの声をあげる。

「その2。
ガス系も不可。というか護身用含め武器の使用全面不可」
「馬鹿な!!?」

 続けられた言葉にさらに驚愕の声。

「・・・お前は確かに馬鹿だが」

 冷や汗をびっしりと流す宗介に、一成は冷たく言う。

「ドッヂボールはサバ・ゲーじゃないからね。使うのは只のボール1個。それを相手に当てていくっていう球技なんだから」

 アキトがそれに続けて言う。
 恭子はジトッとした目で宗介ーーーではなく、かなめを見た。

「カナちゃん・・・。相良くんをどついてたけど、一回も止めなかったでしょ」

 その言葉に、かなめは露骨に目を泳がせる。
 さすがはかなめの親友である。

 実は、かなめは宗介をどついていたものの、一度もその行為を止めろ、とは言わなかった。一度やる度に、「何度言ったら分かるのよ」

だの

「私の言う事が聞けないの」

だのと言うのだが、その試合の前には必ず

「ドッヂは戦争」

 と言ってはたきつけていたのだ。宗介も実際にやめろと言われていないので、殴られるのを不思議に思いながらも決してやめようとはしない。

 いろいろな意味で恐ろしい技だった。

「・・・・・・ふ」

 不意に、かなめの口元が歪んだ。その瞳に写る感情はうつむいてよくわからない。

「その通りよ。よく見破ったわ、キョーコ。さすがは私の親友とでも言うべきかしらね?」

ゆっくりと顔を上げる。

「でもねぇ? 分かっただけじゃどうにもならないのよ。いい?
 所詮この世は焼肉定食。弱ければ火に焼かれ、定食となって強者にその身を捧げるしかないのよっ!」

そして、高笑い。
まるっきり悪の女幹部である。

「さあ来なさい、キョーコ、アキトくん! せいぜいあがいて見せるがいいわっっ!!」
「・・・いつも彼女ってこんな風なの?」
「うん、大体」

 さらに高笑いを続けるかなめを見ながら、アキトと恭子は小さくぼやいた。

 しかし、かなめのハイテンションぶりは伊達ではなかった。女子とは思えない運動神経で避け、受け止め、ぶん投げる。

(彼女、本当に何者だ・・・? リョーコちゃん達とだって張り合えるんじゃないか? 只のスポーツだけなら)

 味方が次々と倒されていく中、アキトも内心舌を巻いていた。が、こっちも負けてはいない。的確に当てていき、やがて内野陣は宗介・かなめ対アキトという図式になっていた。

「く・・・さすがアキトくんね・・・。・・・ソースケ、ちょっと」

 かなめが宗介に2、3言耳打ちする。そして振りかぶってーーー横投げ(一般にドッヂボールが強そうに見える、あの投げ方である)。
 アキトは真正面からそれを受け止めると、体勢の崩れたかなめに向かってボールを投げる。

「あと1人!」

 が、そこに宗介が飛び込んだ。ボールは左肩に当たり、ワンバウンドしたところをかなめが飛びついて取る。宗介はむっつりと黙ったままだったが、

「・・・OK。よくやったわ」

かなめの小さな呟きに、口元をわずかにゆるませた。

「これで、お互い1人ずつだね」

 アキトが言うと、かなめは立ち上がる。そして、笑った。

「・・・どうかしら」
「・・・?」

 その笑みの真意を掴みかねていると、かなめは再び助走をつけて投げた(やはり横投げだった)。

「なにも変わってないじゃ・・・、っ!?」

 再度受け止めようとしたアキトだったが、慌てて回避行動に切り替える。
先程とはまるで違う、強い横回転のかかったボールは途中で軌道を変え、左肩を狙ってきたのだ。
必死になって避ける。と、

「テンカワくん、危ない!」

 恭子の叫び声が聞こえた。反射的に体を前に投げ出す。
一瞬前まで頭のあった位置を、ごうっと音をたててボールが通り過ぎていた。
思わずぞっとして外野を見ると、不敵な顔の宗介。

「! そうか・・・しまった!」

 あわてて横に転がると立ち上がるーーーと、再びしゃがみこんだ。
目の前ではサッカーのシュートの後のようなかなめがチッと舌打ちをしている。

 そう。抜きん出た運動神経をを持つ二人が内野と外野に分かれて1人を挟み撃ちにする。
 しかも、味方が投げたボールに当たっても当たったことにはならない、と言うルールを利用し、かなめは宗介の投げるボールをダイレクトに蹴り返していたのだ。そしてそれを宗介が超人的な能力で受け止め、再度投げる。

 アキトも本気を出せばいいのだが、只の高校の授業、しかも女子を相手に本気を出すというのはさすがに情けなかった。仮にも漆黒の戦神というプライドがある。かなめはそこまで読んでいたのだーーー尤も、漆黒の戦神という言葉は全く知らないのだがーーーまさしく絶体絶命である。

「アキト! 死ねぇぇっっ!!!」

 最早明確な殺意すらこめてかなめが足を振り上げた!
その時、


カチッ


「・・・かちっ?」

 足元でした妙な音に、思わず動きを止めようとするかなめ。だが1本足ーーーしかも勢いよく振り上げていたのだ。いつまでもその姿勢でいられるわけがない。

 バランスを崩していくかなめの向こうで、宗介が思い出したように呟いていた。

「・・・そういえば、埋めていた地雷が1つ足りないのだが、どこにいったのだろう?」


 阿鼻叫喚の地獄と化した運動場。

「これでもやりすぎじゃないって・・・?」
「ごめんなさい、俺が間違ってました・・・」

 第1回男女混合ドッヂボール大会は、宗介の1人負けということで決着がついたのだった・・・。

 続く





 後書きじみた座談会


 テッサ「・・・どういうことですか」

 拓斗「はい?」

 テッサ「あなたのお蔭で私のキャラは誤解されるわ、出番はないわ、それでもカナメさんがふらっとなってくれれば、と出番がないのも誤解されているのも我慢していたのに・・・。ヤマ無しオチ無し意味無しの、ヤオイですね!」

 拓斗「え、そんなことを言われましても・・・。というか、テッサさん、ヤオイの意味を知っていらっしゃるとは・・・」

 テッサ「矢追純○のUF●説もそう皮肉られているんですよ!!」

 拓斗「いえ、そんなウンチクいりませんよ・・・」

 テッサ「・・・とりあえず、私を出して下さい。艦長命令しちゃいますよ?」

 拓斗「私、ソナーじゃありませんし・・・」

 テッサ「・・・そうですか」

 拓斗「ええ、すみません・・・て、あれ? SRTの皆さん、どうしたんです? そんなに目を怒らせて」

 テッサ「この人が私を傷ものにしようと・・・」

 拓斗「ちょっと待って〜〜っっ!!??」

 テッサ「無理矢理押し倒されて・・・メリッサ・・・私、恐かった・・・っ」

 拓斗「だぁぁっ、違います違います〜〜っ! ・・・あ、あの、私をどこに連れていくんです? マデューカスさん、その笑顔は何ですか? どうしてハープーンの弾頭に縛られてるんです? この爆薬は・・・ウッギャァァァ・・・・・・」




   後書き

 復活しました(爆)。危うくミサイルごと星になりかけるところでした・・・。

 え〜、今回も軽目です。きっと次回も軽いでしょう。
ですがこのシリーズ、題から長編の形をしています通り、長編ぽくなるのは仕方のないこと。
先の話かも知れませんが、<わがまま〜>よりも重くなる可能性はあるわけでして・・・。
重いのはちと苦手なので、今からおなかがいたいです。まあ、なんとかなるでしょう(いや、ならんだろ)。

 と、言う訳でお礼を。

 毎回こんなに短いのに素敵な感想をつけてくださる代理人様、いつもありがとございます。私なら出来ません(自爆)。

 感想メールをくださる皆様、ありがとうございます! 
返事だけはきっちりとやっている積もりですが、もし来ていない場合、
申し訳ありませんがもう一度送ってやってください。その時は反省文と一緒にお返事をお送りします。

 kは今回パス(核爆)。

 そして、最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。これからも<わがまま〜>共々、よろしくお願い致します。

 それでは、次回も駄文にお付き合いを・・・。

 

 

 

代理人の感想

・・・ウチの高校では殺ってたな、ドッチボール(字が違う)。

何故か最後の最後に一人残ることが多かったりして、必死で避けてた様な記憶がありますね〜。

 

あの時地雷が使えれば・・・・・いや、いかんいかん(爆)