東京湾の港口。多くの船が行き交うその中に。
 とても大きな客船があった。いわゆる貴族階級と呼ばれる者しか中にはいれそうもない船。
 そこに、二人の男が現れた。一人は大きく、一人は小さい。
 二人は船の名前を確認すると、、すたすたと船に乗り込もうとする。
 目の前を通り過ぎようとした二人―――どう見ても客には見えなかったし、また客を乗せる時間でもなかった―――を、真面目な警備員が呼び止めた。
 二言三言、男たちは何事か言い合う。その最中、何か空気の抜ける音がした―――と、
バランスを崩したのか警備員がよろめいた。大男に体を預けようとする。
 大男が汚いものをどけるように手を払うと、警備員はもんどりうって倒れる。
二人は助け起こそうともせずに、中に入っていく。
 警備員は、いつまでも倒れていた。
   




   <さまようゲスト・オブ・フューチャー>

     第5話





 「う゛〜さむ・・・」

 教室で、少女は肩を震わせた。長身で、真っ黒な髪の少女。その容姿はモデル雑誌の表紙も飾れそうである。
千鳥かなめが朝早く―――少なくとも今日ほどに早く―――来るというのは珍しいことだった。
それに付き合わされた隣の少女がぼやく。

「そりゃ、2月だしね」
「でも寒いもんは寒いのよ〜・・・全く、教室の暖房くらいこの時間から入れといてもいいのに」

 ずび〜っ・・・と鼻をかむ。およそ少女らしからぬその行動に、常盤恭子は苦笑いを浮かべた。

「でも、それなら早くこなければいいだけの話なんじゃない?」

 恭子が意地悪く言う。するとかなめは何故か、顔を真っ赤にさせた。

「いや、ほらまあたまには早くくるのもいいかなって思ったりしちゃったりして別に今日が何の日だとかあいつがどうだとかそうゆうんは全く関係もなくそれはもおじちゅに私個人の趣味でございますことよ!?」
「カナちゃん、言葉が変になってるよ・・・」
「うは、うははははは・・・」

 視線を逸らし、乾いた笑いを浮かべる。恭子はそんなかなめを苦笑まじりに見ていた。

「それにしてもこの教室暑いわね〜、暖房の入れすぎよ、入れすぎ」
「さっきは入ってないって・・・」

 と二人がやりあっていると、アキトが入ってきた。

「おはよう、カナメちゃん、キョーコちゃん」
「おはよう、テンカワくん」
「おはよ・・・あの、ソースケは?」

 二人を見つけて笑いかけたアキトに、かなめは挨拶もそこそこに訊ねる。
すると、アキトは珍しく本当に困った顔をして言いよどんだ。

「えっと、それがね・・・」
「ソースケになんかあったの?」
「ん、まあ、あうべくしてあったというか自業自得というか・・」
 
 妙に歯切れが悪い。業を煮やしたかなめはPHSを取り出すとボタンを押した。
かなりの呼び出し音の後に、やっとつながる。

『こちら・・・・・・相良・・・』
「もしもし、ソースケ? あんたなにやってんのよ、今日学校でしょ」
『・・・聞いて・・・いないのか・・・・・・?』

 やけに弱々しい。まさか、とかなめが思う間もなく

『実は、風邪を引いてしまってな・・・・・・学校は・・・休む・・・』

 言われてみると、声もどこか熱っぽい。アキトはあちゃ・・・と顔をしかめた。

「それっ・・・! もしかして、私のせい・・・」
『気に・・・するな・・・・・・。今日は・・・休養に専念する・・・。何かあれば・・・テンカワに言え・・・。では、通信を終了する・・・』

 実際話をするのも辛かったのかも知れない。いつも以上に簡潔に話を済ませると、半ば一方的に電話を切ってしまった。
 だが、かなめはそのことをぶつぶつとぼやくでもなく、
心配そうにPHSを―――まるでその向こうにいる相手を見ているかのように―――見つめていた。





 話は二日前に遡る。
 第1回ドッヂボール大会がうやむやに終わってしまったあと、かなめを先頭に全員が宗介に折檻の限りを尽くした。
何しろ地雷の直撃を受けたのである、鼻の奥が痛い所ではない。恭子ですら、

「それ貸して、カナちゃん・・・」

とハリセンを手にしたほどだった。

 その後、ずたぼろになった宗介を縛り上げ、全員でプールに投げ入れてようやく腹の虫も収まったクラスメートは
まだ催涙ガスが効いていたのか涙目で帰っていった。

 次の日―――つまり昨日は、全く平気な顔をして出席していたので大丈夫だと思っていたのだが・・・。

 「そう言えば・・・。相良くん、どうやって脱出したんだろう?」

 今更ながらに恭子が不思議そうに首を傾げる。

「ああ、俺が引っ張り上げたんだよ。あのままじゃあソースケでも死にかねなかったし」
「テンカワくん、よく相良くんのこと赦せたねぇ・・・」

 笑って答えたアキトに、恭子は感心して声をあげた。
 が、別に赦すも何もなく、アキトは地雷が効かなかっただけのことである。
元々訓練していたこともあったが、少し前にその効果を宗介自身から聞いて知っていたアキトは、
とっさに息を止めてその場を離れていたのだ。

 だが、その事実は髪の毛の先ほども見せずにアキトはまぁね、と小さく微笑んだ。

「大人なんだねぇ・・・」

 そうとも知らず、恭子はますます感心した様子でアキトを見上げる。

「・・・アキトくん、ソースケの具合は?」

 それまでずっと黙っていたかなめが訊ねた。今にも泣きそうな顔である。
 
「ん・・・熱だけみたいだし。朝も食べてたし、大丈夫だよ」
「で、でも・・・」

と、顔を伏せるかなめに、

「どうしたの? なんなら今日来ればいいじゃない。ソースケだってきっと喜ぶ・・・」
「そ、そうじゃなくて・・・」
「?」

 何か言い難そうにしているかなめを見て、アキトは眉をひそめる。

「テンカワくん、意外と言うかやっぱりと言うか・・・ニブイね」

と、恭子がジト目で言ってきた。

「へ? 何で急にそんなこと・・・」
「・・・今日、何日?」
「土曜日」
「そんなボケはいいから」

 冷たく返されて、慌てて思い出す。

「2月14日だけど・・・? ・・・・・・あ」
「あ、じゃないでしょ・・・」

 本当に今更気づいたように見えるアキトに、恭子は呆れた声を出していた・・・。





 キョーコちゃんが呆れた顔をして教えてくれたことによると
、どうもカナメちゃんはバレンタインのチョコは渡せない、らしい。

「どうして?」

と俺が訊ねると、

「つい一昨日に風邪を引かせた相手に平気でチョコ渡せるほど女の子は図太くないの」

と、益々呆れられた。・・・と言われても・・・俺、折檻ついでに貰ってたし・・・・・・。

 200年の時の流れはこうも女の子を変えるのか、と俺が感心していると、

「・・・キョ。キョーコ何言ってんのよ私は別に・・・そんな事・・・」
 
 頬を染めながらも、困ったような―――泣きそうな笑顔でカナメちゃんは呟いた。

「これは重症だなぁ・・・」

 う〜ん、と唸るキョーコちゃん。こういう事はいつも鈍いと言われている俺にとって
―――何故言われるのか甚だ不本意だが―――しかし悲しいことに実際―――、キョーコちゃんは何やらスペシャリストに見えた。

「ん? どうしたの、テンカワくん」
「いや、何でも」

 俺の視線に気付いたキョーコちゃんが顔をあげる。俺は慌てて首を振った。

「とりあえず・・・放課後になってから、だね・・・」

 俺の言葉に、キョーコちゃんは小さく、カナメちゃんは躊躇いがちに頷いた。





 同時刻 メリダ島基地

 「どういうことです!?」

 テッサは思わず叫んでいた。

 ここはテッサの自室である。30分前に徹夜の作業を終え、やっと睡眠をとろうかと戻ってきたのだが―――眠気はすでにすっ飛んでいた。

「あ、いや、その・・・テッサ、落ちついて?」

 我に返ってなだめるのはマオだ。予想外の大声を出されて一瞬目を瞬かていたのだが、今は必死に落ち着かせようとしている。

 「これが落ち着いていられますか!!? よもや・・・日本のバレンタインの定義がそのようなものだなんて・・・!!」

 焦燥も露わに呟く。

 部屋に戻ってきたら、いつもの様にマオが居た。いつものタンクトップ姿で、いつもの様に片手には缶ビール。
テッサはいつもの様に困った顔で注意をし、マオはいつもの様に軽く笑った。
 そう、そこまではいつものことだった。

「そういえば、今日はバレンタインですね。・・・はい、マオ」

 テッサは紙袋の中からごそごそと小さな包みを取り出す。マオは嬉しそうにそれを受け取ると―――なぜか冷や汗を流した。

「あんた、もしかして全員分用意してんの・・・?」
「ええ。いつもお世話になってますし」

 笑顔で答えるテッサの背後には一つの紙袋―――と、10数個の段ボール箱。
中身はマオに渡したものと同じ、キャンディーの包みと「いつもありがとう」と書かれたメッセージカード。
テッサは今日、明日と休暇をもらい、<トゥアハー・デ・ダナン>のクルー全員に配ろうとしていた・・・。

「あんたって、こういうのほんっとマメよね・・・」

 半ば感心し、半ば呆れてマオは呟く。テッサは小さく微笑んだ。

「それと・・・これはマオにだけ、です」

 さらに紙袋の中を漁る。やがて、小さなオルゴールが出てきた。

「ラッピングもしないでアレですが・・・」
「へぇ、綺麗・・・。これテッサが選んだの?」
「ええ。気に入ってくれると嬉しいんですけど」

 少し照れたのか、上目使いに言ってくる。そんなテッサに、マオはがばっと抱きついた。

「あんたって・・・もう、何でこんなに可愛いのよ・・・っ!!」
「や、マオ・・・止めてください、恥ずかしいです・・・」

 酒臭いです、と言わないのがテッサの優しいところだった。

「じゃ、私からも・・・はい、テッサ」

 気の済むまでハグをすると、マオは缶ビールを手渡した。

「・・・いりませんよ、こんなの」

 ぶすっとして言うと、マオは苦笑した。

「あー違う違う。それは持ってて、って事よ。なんならテーブルにでも置いといて」

 言いながら背中に隠していた紙袋をバン! と見せた。

「こっちが本当のお返し。たまにはあんたもこういうの着てみるのもいいと思ってね」

 中から出てきたのはラフなジーパンと大きめのシャツ。
普段、マオやクルツが着ているようなものであった。

「ありがとうございます・・・。でも、私似合うかどうか・・・」
「何言ってんのよ。あんたみたいのが着るから可愛いんじゃない」

 ウィンクして手渡す。テッサはおずおずと明るい水色のバスケットボールがプリントされたシャツを身体の前に当てて見せた。

 「うんうん、似合う似合う。あんた、明日それで配ってみ。新たな魅力に男どももコーフン間違いなしよっ」

 ぐ、と力拳で力説するマオ。テッサはまさか、と苦笑する・・・が、

「新しい、魅力・・・。サガラさん、気づいてくれるでしょうか・・・?」

 小さな声で呟いた。

「びっくりするとは思うわよ」

 適切といえば適切なマオの言葉に、そうですね、と笑う


「で、あんたソースケにも渡すんでしょ、当然」
「ええ。・・・でも、何を渡せばいいのか・・・」

 困った顔をしてテッサはぼやいた。宗介の趣味が釣りと読書だということはマオから聞いて知っている。
だがどういう本を読むのかは分からないし、そもそも釣りのことなどは殆ど知らない。
かなり迷った末に、高級そうな釣竿を選んだのだが・・・。

 そのことをマオに言うと、は? という顔をされた。

「何言ってんの? 私は何のチョコにするか聞いてるんだけど」
「え・・・チョコ?」

チョコが好きなのかしら? と思っていると、

「日本ではね、バレンタインってのは女の子が好きな男の子にチョコと一緒に想いを伝える日なのよ。
まあ日本のお菓子メーカーがでっちあげたことなんだけど。・・・あれ、テッサ知らなかった?」

 寝耳に水のマオの台詞。

 そこで話は冒頭に戻る。

 「迂闊でした・・・。そういえば、昔沖縄にいた頃、そう言う話があったようななかったような・・・」

 三つ編みの先を口元にもっていく。自室でこの悪癖をやるのは―――本人自身気づいていなかったが―――随分と久しぶりのことだった。

「何が迂闊なの?」

 呑気に訊ねてくるマオにきっと目を向ける。

「カナメさんに決まってます! あの人のことです、『ぎ、義理なんだから勘違いしないでよねっ』とか言いながらサガラさんの家に押しかけて手作りチョコを渡すんです!・・・くっ、なんて卑怯な・・・っ!」

 日本のバレンタイン事情は知らないのに義理チョコの存在を知っているのは何故? と訊ねる勇気は今のマオにはなかった。

「じゃあ、あんたもそうすれば・・・?」

 ぼそりと呟く。何気ない―――というより、解放されたい気持ちから出た適当な言葉だったが、
テッサはコワレタ人形のようにガキコキペキ・・・と首をマオに向けると、目を大きくして近寄った。

「ひ・・・・っ!?」
「今、なんと・・・?」
「あ、あんたもそうすれば・・・って」

 もしかしなくても、私は致命的なことを口走ったのかもしれない。そうマオが思うのと、

「それです!」

 一筋の希望を得たとばかりにテッサが叫んだのは同時だった。

「幸い、私は明日から2日間休みを取ってます。今から急いで東京に向かえば今日中にはサガラさんのところに行けるはずです。カナメさんが先に渡している可能性は高いですが、それもメリダ島から来たという私の気持ちでイーブンに持ち込めます・・・・・・
 と、言うわけで、メリッサ?」

 確証のないことを考えた挙句、自信ありげに頷くのは恋する少女ゆえ、といったところか。
だがその後のマオを見る目は、歴戦の戦いをくぐり抜けた彼女をもってしてたじろがせる何かがあった。

「行きましょう、今すぐ」
「ちょ、私は関係ない・・・・」

慌てて後ずさる。が、テッサは視線を外さずに、

「艦長命令です、メリッサ・マオ少尉。あなたはこれから2日間、私の護衛を命じます」
「しょ、職権乱用、公私混同〜〜〜っ」

 何とか逃れようと必死に言葉を探す。はっきり言って、あの女の戦いの中に好き好んでいたいと思うほどマオは強くもなく、マゾでもなかった。

「・・・ニューイヤーパーティでのあなたのかくし芸、忘れたとは言わせませんよ・・・?」

 静かな声に、だがしかしマオはびくっと体を震わせる。

 ニューイヤーパーティ、要するに新年会だが、そこでマオと一部の整備班はM9の真剣白羽取りをやろうとし、
その結果M9の頭部と単分子カッターの逢瀬を果たしていた。
そのときはテッサのおかげもあって大事には至らなかったのだが・・・。

「さて、借りは返す主義でしたよね・・・・・・メリッサ?」
「お、鬼ぃ〜〜〜っっ!」

 テッサの(ある意味)最後通告に、マオは半泣きの声をあげた。





 昼休み

 俺とキョーコちゃんはカナメちゃんの席の周りに椅子を持ってくると、各々弁当を広げた。
ついでに、俺の弁当のそばにはいくつかのチョコレート。
それまでの休み時間の間に、俺は4組と8組の女の子たちからチョコをもらったのだ。
 転校生だし、温かく迎えてもらってるんだ,と少し胸が熱くなった。
・・・そのことをキョーコちゃんに言ったら何故か馬鹿にされたけど。

「でも、どうしよっか」

 キョーコちゃんが卵焼きを頬張りながら言った。

「う〜ん・・・俺、こういうの考えるの、あんまり得意じゃないんだよな・・・」
「それはもう知ってる」
「・・・何故、そこで即答?」

 頭を抱えていると、キョーコちゃんはカナメちゃんに話を振った。

「カナちゃん・・・相良くんが風邪引いちゃったのは、カナちゃんの所為じゃないよ?
 4組と8組、皆殺ってたし・・・。てゆーか実際相良くんの自業自得なんだし」

 最後にぼそりと付け加える。い、意外とキョーコちゃんって・・・。

「でも・・・」

と、俯いていたカナメちゃんが小さく言った。

「オノDと椿くんがソースケを抱えあげてたのは事実だけど、それをジャンプキックでプールに叩き込んだのは私だし・・・」
「う、確かに・・・」

 キョーコちゃんがう゛、と詰まる。
 
 まあ、確かにあれは凄かった。鮮やかにドロップキックを決めたときのカナメちゃん、めちゃくちゃ生き生きしてたもんなぁ・・・。

「でも、そう思うんなら余計に謝んなきゃ。ね、きちんと言えば相良くんも許してくれるって」
「・・・そうかな」
「そうだよ」

 キョーコちゃんはやさしくカナメちゃんの肩に手を乗せる。

「私たちも一緒に行くから。・・・ね、テンカワくん?」
「うん、もちろん」

 振り返った二人に笑顔で答える。

「・・・・・・ありがと」

やっと、カナメちゃんは小さく笑ってくれた。





「・・・で,何であんたまでここにいんのよ」
「・・・知るか」
 
 八丈島の中継基地まできたところで、マオは改めて問いただす。視線の先にはふくれっ面のクルツ。

「テッサちゃんにバレンタインプレゼントがあるから格納庫で、って聞いてよぉ。てっきり『私のハツモノ食べ」「下ネタやめろ」

言いかけたところ、マオに靴のつま先を突っ込まれる。

「ふぁ、ふぁんふぁふぁっへふっほんへんはへえあ゛」
「ああん?」
「・・・ふぉふぇんふぁふぁい」
「・・・最初からその態度でいりゃいいのよ」

 涙目で赦しを乞うクルツを見て、マオはやっと靴を引き抜く。

「ったく、姐さんも機嫌悪ィな・・・何かあったのか?」
「別に!」
「・・・?」

 明らかに機嫌の悪い返事をするマオにクルツが眉をひそめていると、

「何をしてるんです、二人とも。早く行きますよ」

 まだ輸送機に乗っていた二人に、すでにヘリに乗り換えたテッサが声をあげている。

 二人は気のない返事をすると、テッサの隣に乗り込んだ。

「なあテッサ。何で俺まで来なきゃなんねえんだ? M9まで一緒にさ。俺、せっかく休暇だったのに・・・」
「保険です、そんなことよりも」
「俺の休暇をそんなこと扱い・・・」

 秘かに落ち込むクルツを無視し、

「今なら一八三〇時には絶対着けます。そこで、お二人に相談したいんですが・・・」

 ヘリが移動を始めると、テッサが神妙な顔で切り出した。

「チョコだけじゃインパクトに欠ける気がして・・・。他にも何かあげたいのですが、サガラさんが喜ぶ物って何でしょう」
「釣竿でいいじゃない、もう」

 投げやりにぼやくマオ。それに対しクルツは真剣な顔で、

「いい考えがある。これをプレゼントされた日にゃあ男は必ずそいつにイレ込んじまうって奴だ」
「そんな物があるんですか?}

 意気込んで身を乗り出す。クルツは顔を近づけると、耳元で囁いた。

「処女」

  ドガンッッッ!!!

 言った瞬間にマオが銃をぶっ放した。

「・・・殺すよ、次は」

 弾はクルツの頭すれすれを掠め、壁にめり込んでいる。跳弾が起きなかったのは不幸中の幸いだろう。
操縦者がその音に驚いて振り返るが、マオはいいからしっかりしてな、と前を向かせた。

「・・・ウェーバーさん、自業自得です」
「こりゃ完全に怒らせたか・・・」

 小さく睨んで言ってくるテッサに、今回ばかりは血の気を引かせてクルツが返す。さすがに悪いと思ったのだろう、

「調子の乗ったのは俺が悪かった。姐さん、テッサ、ごめん」

 素直に頭を下げる。マオは見もしなかったが、テッサはもういいですから、と頭をあげさせた。

 「実用的なものが確実っちゃ確実なんだが・・・ここはオルゴールなんてどうだ?」

 真剣モードで言ったクルツのその言葉にはマオも興味を引かれたようで、銃を玩ぶのをやめて視線を向ける。

「え、サガラさんにもですか・・・?」
「ん?」
「い、いえなんでも・・・」

 怪訝顔でこちらを見たクルツに、テッサは慌てて首を振った。

「でも・・・気に入ってくれるかどうか・・・」
「大丈夫だって。あいつは世俗を知らないだけで、興味が無い訳じゃねえ。
現に東京に来てからカナメにCD借りたりUNOやカード麻雀覚えたりしてるんだってよ」

クルツがポン、とテッサの頭に手を置いた。

「ま、最終的にモノを言うのは自分の気持ちをいかに伝えるかってことだけだし。それが上手くいきゃあなんでもいいんだよ」

と、電子音が響いた。、マオの携帯だ。

「こちらメリッサ・マオ。・・・ああ、アキト? 何よ・・・え? 何それ、どういう事・・・・・・あっそ。
ふーん、じゃあ大した事ないのね・・・? うん、分かった。ああ、待って。それとね、カナメどうしてる?
 ・・・え、そうなの? ・・・ありがと、じゃ」

 一瞬表情を強張らせ、その後一気に脱力する。カナメ、の言葉にテッサは思わず聞き耳を立てたが、内容は分からなかった。

「アキトからか。何だって?」

 その思いはクルツも同じようなものなのだろう。マオに訊ねると、マオもさっきまでの怒りは収まったのか、困った笑みで答えた。

「それがね、ソースケの奴、風邪引いて寝込んでんだって」
「へ!?」
「しかも原因がカナメらしくって。・・・テッサ、今がチャンスなんじゃない?」

 マオの言葉に、テッサは何か考え込んだ。





 結局、俺たちがカナメちゃんをソースケのアパートの前までつれてこれたのは授業が終わって2時間も立ってからだった。

 授業が終わるとすぐにマオさんに電話したけど、一方的に切られてしまった。
おまけに何故かキョーコちゃんはマオさんやテッサちゃんのことまで知ってたし・・・。
まあ、<ミスリル>がばれてないのならいいんだけど。

「ほら、カナちゃん。相良くんの見舞いもかねてるんだから。行こ?」
「・・・でも」

 目を伏せて言いよどむ。そういえば帰り道にトライデント焼きって言う謎のお好み焼きらしきものを食べたときも、カナメちゃんは口にしなかったしな・・・。

 キョーコちゃんがさらに口を開きかけたとき、後ろから声がした。

「・・・何てザマですか、カナメさん?」

 そこには、仁王立ちでカナメちゃんを睨んでいるテッサちゃんがいた。

「へ? テッサちゃん?」

 思わず声を上げた俺は全く無視された。テッサちゃんはカナメちゃんに話し続ける。


「この分なら、サガラさんは私のもののようですね」

 不敵に笑う。思わずきっと睨むカナメちゃんをふん、と一瞥すると、

「落ち込みたければいつまでも落ち込んでいて構いませんよ?
 あいにく、私には立ち直るのをわざわざ待つ義理も時間もありませんから、先に行かせて貰いますけどね?」

 おろおろとするキョーコちゃん・・・と、俺。情けないことだけど、こういうことに口を挟めば、まず間違いなく殺られることはよく知っている。

「じゃ、“ソースケ”と腕を組んで待ってますので、後ほど」

 テッサちゃんがドアを開けようとした瞬間、カナメちゃんががっとその手をつかんだ。

「そういわれると、それはそれでムカつくのよね・・・」

 ひくひくと笑いながら、ドアの向こうに先に自分を滑り込ませようとする。それをぐいぐいと押しながら、

「あら、譲ってくださったんではなかったんですか?」
「テッサよりは私のほうがソースケもましだって思ってくれるわよ」
「才色兼備の私をサガラさんが受け入れないはずがありませんが」
「言う!? 普通言う、自分で!?」
「ええ言いますよ。私、自分に自信があるもので」
「それって自意識過剰って言うのよ」
「それはカナメさんでしょう。『・・・でも』ですって(嘲笑)」
「ずるべた娘が何言ってんのよ!?」
「言いましたね!? 言ってはならないことを言いましたね!!」
「あ〜ら図星さされてテッサ困っちゃ〜う?」
「・・・・・・っ!!」
「・・・・・・っ!!」

 ギャアギャアと騒ぐ二人を呆然と見つめる。
 ・・・・・・何か、俺たちの苦労って・・・・・。
 
 何とも言えないでいると、ぽんと肩を叩いた人がいた。

「・・・マオさんも来てたんですか」
「まあね。あの子ね、あの電話の後、『仮にも私のライバルがそんななのは気に食わない』とか言ってね・・・全く、2人とも子どもなんだから」

 苦笑する。俺もつられて苦笑しながら二人を見た。必死になって言い合っているけど、どこか微笑ましい。

「ライバル・・・ね」

そう呟いて、微笑む。

「・・・・・・そして俺のことは全無視だしね・・・」
「よしよし・・・」

 後ろでは、忘れ去られたクルツがキョーコちゃんに慰められていた・・・。





 「ジングルベール、ジングルベール、鈴が鳴る・・・」
「それはバレンタインじゃなくてクリスマスだろうが」

 東京の片隅。小柄な男が口ずさみ、隣の大男が半眼でうめく。

「何が違うんだ? どっちも牡と牝が乳繰り合う為のイベントだろ?」

 真顔で訊ねて来る男―――まだ青年、いや少年と呼んでもよかった―――に、大男はため息をつく。

「それに・・・俺たちには関係のない話だからな」

 少年が小さく言うと、それだけで2人の雰囲気が変わった。

「すべての恋人たちと家族、それに―――」
「せべての平和ボケした奴らに」
『最高のプレゼントを』

2人同時に言う。それに少年が付け加えた。

「1日遅れのバレンタイン、だな」

2人は心底嬉しそうに呟き、笑った。



    続く





   後書きじみた座談会

 マオ「あんた、どういうこと?」

 拓斗「・・・はい?」

 マオ「これ、文化の日に書き上げてたでしょ」

 拓斗「・・・う」

 マオ「どうしてさっさと打たなかったのよ」

 拓斗「いろいろあったんですよ・・・」

 マオ「FF10するのが?」

 拓斗「ぐはぁああぁぁっっ」

 マオ「受験勉強もしないで」

 拓斗「・・・」

 マオ「・・・まあ、いいわ。あんたいじめてもメリットないし」

 拓斗「じゃあ初めからしないで下さい・・・」

 マオ「そんなことより」
 
 拓斗「私のプライドはそんなこと呼ばわりしかされないのですか・・・」

 マオ「次回はいつよ」

 拓斗「そんなこと呼ばわり、最高ですね」

 マオ「・・・・・・」





   後書き

 何か久しぶりのような気がします。上のはややフィクションです。来春が楽しみでなりません。
 ・・・・・・ごめんなさい、嘘です。
 今回の時期はずれのバレンタインネタでしたが、実は、1話で宗介が2月8日だと言ったのはこれに繋げたかったのです!

・・・ほんとっぽく聞こえましたか? まあ、ほんとはたまたまなんですけど。
でも、こういう王道系、結構好きだったりします。

 ちなみに、我らがアキトクンはあの後テッサとマオ、それに恭子から1個ずつ貰いました。
かなめは用意はしてたんですが、自分がそれどころじゃなくなりまして。
戦果は12個です(笑)。運動ができるとモテますからね・・・(遠い目)

 それでは、いつものようにお礼をば。
 代理人様、いつも大変でしょうが、これからもよろしくお願いします・・・て、これじゃあ御礼になってない(汗)。

ありがとうございます。お礼はこう!

 感想を下さる皆様、ありがとうございます。実は貰ったメールは全部とってます。何か嬉しくて・・・。
これからもぜひ、何か一言あったらお願いします。
 Kはね・・・(ため息)まあ、頑張って。

 そして、最後まで読んでくださった皆様に、感謝の意をこめて。

 それでは、次回も駄文にお付き合いを・・・。

 

 

 

代理人の個人的な感想

来春の楽しみ・・・・そうか、第二次スーパーロボット大戦αですね(違う!)?

 

それはさておき最初の部分、一瞬プロス&ゴートかと思いました。

ナデシコ関係で「男二人の凸凹コンビ」とゆーとやはり・・・ね(笑)。

 

一方で笑えたのが腹黒くなっているアキト(爆)。

あんな腹芸もできる様になったんだ(爆笑)。

それに釣られかのようにテッサはソースケが絡んで人格変わるし、メリッサは不幸(微妙に自業自得)だし、

クルツは・・・やっぱり日頃の行いが悪いからなのかなぁ(爆)。