現在、ビラドーラ古代遺跡近辺に展開されているスクライア一族の居住地には、大小合わせて百を超える移動式住宅が設置されている。園崎玄十郎に貸与している個室テント――元は物置だが――から、一族の人間全員が一度に入れる様な大型のものまで。その最大のテントは今、負傷したバルサザール乗組員を収容する簡易野戦病院の様な有様になっているのだが、玄十郎がそこを訪れた時、テント周辺は何とも言えない緊張感で張り詰めていた。
 病院というのは大なり小なり、そういった雰囲気はある。怪我人の中には重傷の者も居るし、それは無理からぬ事だ。だが今のこのテントには、それとはまた違った様な雰囲気があった。一族の人間がテントの周りをぐるりと取り囲んでいる。その集団に近づいた玄十郎は、張り詰める緊張感の正体に気づいた。
 敵意だ。一族の人間の目には多かれ少なかれ、しかしどれもはっきりと外部から認識出来るほどの敵意が浮かんでいる。
 テントの入口には管理局の人間が二人立っている。直立不動の態勢で佇むその姿はまるで門番――と見えたが、その実、“まるで”は不要な門番そのものだった。一族の人間の敵意はその門番を通り越し、テントの中へと向けられている。門番達は居心地悪そうに自分を通り過ぎて行く敵意に身じろぎするも、しかし職務(?)を放棄する事はせず、苦い顔をして立ち続けていた。

「何だぁ、こりゃ――」

 玄十郎の傍らで、ダイゴ=ナカジマが声を上げる。
 ふん、とそれに鼻息一つで応え、玄十郎は足を進めた。

「すまん。少し、通してくれ」

 声をかけると、恰幅の良い中年女性が振り向いた。玄十郎の姿を認めた途端、瞳の敵意が霧散していく。彼等彼女等が浮かべる敵意は、家族――玄十郎がその範疇内かどうかは微妙なところであるが――へと向ける類のものでは無かったらしい。

「おや、ゲンさん。大変なんだよう、長老がね――」
「ああ、聞いている。悪いが通してくれ、俺が話をつけてこよう」

 断固とした玄十郎の口調に、頼むよ、と中年女性は道を譲った。ついでに集団に向けて「ゲンさんが通るよ、道を開けな!」と号令をかけてくれる。モーゼの十戒を思わせる様に集団が分かれ、道が出来た。敵意に塗られていた視線が、玄十郎へと向けられるその一瞬で期待へと変わる。人によっては頼もしいとも見えるだろう笑みでその視線に応えながら、玄十郎はテントの入口へと近づいた。

「通してくれい。中に用がある」
「で――出来ません。誰も通すな、と言われております」

 猛獣の如く獰猛な玄十郎の視線に気圧されながらも、門番は己の職務に忠実だった。
 やれやれ、と玄十郎はかぶりを振る。では力尽くで通らせてもらおう、そう口にする寸前、ダイゴが玄十郎の前に出る。

「通せや。俺の現地協力者という事にすれば問題無えだろ」
「し――しかし」
「いいから通せってんだ。責任は俺が取る」

 断固としたダイゴの口調に、渋々ながらも門番が道を譲る。
 乱暴にテント入口の幕をはぐって、ダイゴと玄十郎は中に入った。

「む――何だ、貴様」

 入った途端、バルサザールの艦長が声を上げて、ダイゴと、玄十郎を睨みつける。
 先刻、負傷者を運び込んだ時と変わらず、テントの中は野戦病院さながらの様相を呈している。だがベッドが整然と並べられたその奥、入口の真正面にして対角線上の端に置かれた椅子。その周囲数メートルが、明らかに異質。
 椅子の上にはスクライア一族の長老。長い髭を蓄えた小柄な老人が、椅子の上に胡坐をかいて座っている。そしてその長老に対して管理局の魔導師が二人、展開状態のデバイスを――いつでも攻撃魔法を撃てる状態で――突き付けており、バルサザール艦長が傲岸そのものといった態度で、長老を見下ろしていた。

「何だって……こっちの台詞ですよそりゃあ! 何やってんすかアンタ!」
「黙ってろ。貴様には関係の無い事だ」

 声を荒げるダイゴに対し、艦長は苛立った様に吐き捨てる。ダイゴが向ける怒りの視線も彼の眼には入らない。割り込んできた異物を見る艦長の目には苛立ちと侮蔑だけ。それは部屋に入り込んで来た蝿や蚊に対して抱く感情と、さして変わるものでは無い。
 玄十郎は何も言わない。代わりに冷ややかな目で、眼前の光景を眺めている。艦長の視線が蝿や蚊を見るものなら、玄十郎のそれは汚物を見る時のものだった。
 おい、と艦長は部下に命じて、今にも掴みかかってきそうなダイゴを押さえ付けさせる。長老に武器を突き付けている部下もそうだが、ダイゴを押さえている部下も決して無傷では無い。無理矢理に押し通れば傷が開く。ダイゴ=ナカジマはそこまで頭が回る人間という事を踏まえた上で、彼は傷ついた部下に制止を命じたのだろう。
 すみません、と言いながら管理局員は玄十郎の腕を掴んだ。ただしまるで力は入っていない、『押さえつけている』様に見えるだけ。艦長の指示に従うふりをしているだけである。それは長老にデバイスを突き付けている局員も同じ様だ。
 あの艦長、余程人望が無いらしい。笑いを噛み殺したせいか普段の三割増しで恐い顔の玄十郎に、局員が怯えた顔を見せた。
 
「さて、長老殿。悪いが私にもあまり余裕が無い。危ういところを助けて頂いた事には充分感謝しているが、それはそれ、我々の仕事にご協力願えますかな」

 慇懃無礼とはまさにこの事。
 表面だけは丁寧な物腰だが、武器を突きつけ、どちらが主導権を握っているかをこれ見よがしに見せつけてからの言葉に、誠意などというものが塵一つでもある筈が無い。

「出来ぬ。確かに、我等は古代の叡智を陽の下に戻すが宿望。されどそれを己が欲の為に使うならば、再び地の底に戻すも躊躇わぬ」
「どうせ発掘したら売り飛ばすのでしょう? なら、先に私に譲るのも変わらないじゃないですか。売れるかどうか分からないものに買い手がついたんですよ? 喜ぶべきとは思いませんか」

 何の話をしている、と玄十郎は局員に小声で訊ねてみた。返事に期待してはいなかったが、局員は小声で教えてくれた。

「この遺跡で見つかったロストロギア、自分に寄越せって言ってるんです」
「む……? 管理局の人間が、か?」
「俺達、遺失物管理部の人間なんで。ロストロギアの回収が主な仕事なんです。俺達機動二課は創設されてまだ日が浅いし、今回の事故で責任取らされるから、せめてその前にスクライア一族の発掘したロストロギア手に入れて、点数稼ぎしようって腹なんだろうと……」

 ちっ、と玄十郎は舌打ちした。園崎玄十郎が最も嫌う筋書きだ。内に居た数年、縁を切ってからの三十年で見てきた管理局の体質。上層部の腐敗、少し階級が高い人間は保身に走り、出世第一主義へと染まっていく。管理局の理念とやらは現場の下っ端くらいしか持っていない。この艦長とやらも、その例外では無いという事か。
 この遺跡で見つかったロストロギアの数はそう多くない。はっきりとした調査はまだ終わっていないが、際立って危険なものも無い。だがそれでも、長老は艦長からのロストロギア提供要請に対し、首を縦に振らなかった。
 ロストロギアを掘り出して、はいお終いでは無い。そのロストロギアがどれだけ危険なものかを徹底的に調べ上げた上で、信用出来る相手に渡すのだ。大半は管理局に預ける事になるのだが、それとて管理局の監視下にある方が自分達が持つより安全だと判断した為であり、預けたロストロギアは全て厳重な封印を施されている事を確認している。
 もし、自分達が発掘したロストロギアが悪用される事にでもなれば、一族は全力でそれを阻止するだろう。彼等はそれだけ強い意志を持って発掘作業を行なっている。信頼出来ない人間に渡す事は断じて無い。まして、己の保身の為にロストロギアを利用しようとする人間になど。

「何考えてんだアンタ! 恩を仇で返そうってか!」
「黙れと言ったぞ! 一介の捜査官風情が、誰に口を利いている!」

 ダイゴの怒声に、あっさりと艦長は激発した。
 やれやれ、と玄十郎が首を振る。ロストロギアを渡さないという長老の判断は全く以って正しい。玄十郎も全面的に賛成するところだが、しかし相手が黙って引き下がるとも思えない。今はまだ提供要請というところだが、これが徴発となるのに時間はかからないだろうし、抵抗した場合にどうなるかも簡単に想像がつく。
 怪我人揃いとは言え正規の訓練を受けた管理局員と、魔法が使えるとは言っても戦闘経験も攻撃魔法も皆無のスクライア一族。どれだけ凄惨な事になるか、こちらも簡単に想像がついた。
 それに――あの少年。
 灰色の髪をした少年の事が、脳裏を過ぎる。
 地下の遺跡で、数百年の昔から眠り続けていた少年。滅びた古代文明の遺産という定義からすれば、彼も立派なロストロギアだ。危険性という面ではともかく、古代文明研究において、彼の存在がどれほどの意味と価値を持つか、考えればすぐに分かる。それこそ艦長の失態を埋め合わせてお釣りが来るどころか、立身出世思いのままという程に。
 と。
 不意に、艦長の頭上に魔法陣が浮かび上がった。玄十郎が今までに見た事の無い構成、そして一族の人間を含む知り合いの魔導師とは異なる、赤褐色の魔力光で編まれた魔法陣。
 艦長は気付いていない。ダイゴも恐らく気付いていないだろう。だがそれ以外の者達は皆気付いた。そろそろと、静かに魔法陣から距離を取る。

「ロストロギアがどんだけ危険なもんか、アンタだって知ってるだろ! それを保身の為に使おうなんて――」

 ダイゴの言葉が、止まる。
 それはダイゴ自身の意思だっただろうか。否。目の前の光景に、彼の脳髄では無く身体の方が、言葉を発する事を忘れてしまった。
 突如黙り込んだダイゴに、艦長が不審に眉を寄せる。一体なんだ、とそこで彼は初めて、自分達の周りから人が離れている事に気付いた。
 気付いた時には、既に遅く。

「――わぁあああああっ!?」

 頭上の魔法陣から――人が落ちてきた・・・・・・・
 それも、二人。
 少女と、少年。
 完全な不意打ちで落ちてきた少年少女に押し潰され、艦長はあっさりと気絶する。

「……メイ。と、セロ?」

 呆然と、玄十郎が落ちてきた二人の名を呼ぶ。
 二人とも服――少年の方はバリアジャケットだったが――はぼろぼろで、酷い怪我を負っている。ことに少年の方は酷い。四肢は歪に折れ曲がり、バリアジャケットは血塗れで元の色が分からない。一見すればまず間違い無く死んでいると思うだろうが、しかし弱々しくもはっきりとした呼吸が聞き取れ、彼がまだ生きていると教えていた。

「あ、ゲンさん」

 へとへとに疲れ果てたといった顔で、艦長を下敷きにしたまま、メイリィ=スクライアが玄十郎に気付いた。

「ただいま。……お腹減った」






魔法少女リリカルなのは偽典/Beginning heart
EpisodeⅣ【復元】






 時は僅かに遡る。

Grrrrrrr…………GruuuuAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHH!!
「ああ、もう、うるさいな……ッ!」

 咆哮は最早爆音と化して、メイリィの鼓膜だけで無く、全身を叩く。思わず愚痴が口をついた瞬間、一瞬前まで彼女の頭があったところを、銀色の魔力弾が高速で通り過ぎていった。
 吹き荒れる銀色の暴風。巻き込まれれば即座に命を刈り取られる暴力の塊を前にして、少女はただ逃げ続ける。鼻先を掠め過ぎて行く絶死に臓腑が凍りつく様な感覚を覚えながら、彼女は突如授かった力の全てを逃走に費やしていた。
 恐怖はある。脚が震える、膝が笑う。涙が目元に溜まって、今にも零れ落ちそうだ。ほんの少しでも気を抜けばその場で腰を抜かしてしまうだろうし――そう、先程までと同じ様に――、そうなった瞬間、次瞬を待たずに文字通り消し飛ぶであろう事を、メイリィ=スクライアは認識している。
 だから――逃走だ。
 紙一重で躱し、反撃に繋げる様な回避では無い。無様に惨めにみっともなく、ヒロインの可憐さとか凛々しさとかを軒並みかなぐり捨てた逃走行為。本来ならば、それすらも賞賛されて然るべき事だ。凡百の魔導師ならば、逃走に移る事すら出来ずにただ殺されるだけなのだから。
 加えて、彼女は未だ本気で・・・逃げていない。全力で・・・逃げ回ってはいるが、この場から、逃走行為には明らかに不向きな狭い地下空間から逃げ出そうとしていない時点で、彼女の目的が単なる生存に無い事は明白だった。
 
「アウロラ、チャージは?」
【現在、68%まで完了。引き続き逃げ回ってください】
「簡単に言ってくれちゃって…………っとぉ!」

 咄嗟に頭を下げる。轟、と頭上を何かが掠めていく。バリアジャケットは服の部分だけで無く、全身に防御フィールドを張るものだが、蜥蜴人間の砲撃はそれを易々と貫くだけの威力を有している。無論、非殺傷設定などというものがある筈も無い。
 鼻をつく臭いは焦げた髪か。毎日のお手入れに苦労しているのに、全く酷い話だ。
 ちらりと横目で蜥蜴を窺う。蜥蜴は明らかに苛立っていた。メイリィに流れ込む魔力のお陰か、それとも突如謎のアップデートを施されたアウロラのお陰かは不明だが、象と蟻にも等しかった力の差は多少ではあるが埋まっている。だがそれは精々、象と蟻の差が象と子犬程度に埋まったというだけ。近寄るだけで踏み潰されるし、よしんば噛み付いたとしても、象は身じろぎもするまい。
 しかしその子犬を敵と認識し、それでいて踏み潰す事に叩き潰す事も出来ない象。それが今の蜥蜴人間だ。明らかに格下の相手を敵と認識する事に屈辱を覚えるなら、それを未だ潰す事の出来ない自分に、蜥蜴人間は苛立っている。
 ――オッケー。もっとイラついてくれなくっちゃ。
 正直、メイリィが恐怖に耐え、蜥蜴人間と渡り合っていられるのは、相手が冷静さを失っていると判るからだ。ヒステリーを起こす人間を見ていると逆に自分は冷静になる、相手が蜥蜴人間であっても変わらないという事。
 もし敵が冷静沈着に、作業の如くメイリィを排除しようとしたなら、彼女は為す術も無く殺されるだろう――それだけは避けなければならない。だからこうして、彼女は徹底的に逃げ回り、時折散発的に魔力弾を放って、相手を挑発するに留めている。
 無論、これはこれで危険な賭けだ。蜥蜴人間は今のところ、ある程度威力出力を絞った砲撃を行なっている。決して手加減では無い、メイリィを見縊っている訳でも無い。そうしなければ、この地下空間が崩壊してしまうからだ。蜥蜴にどれだけの耐久力があるのかは分からないが、地下空間の天井から地表まで、数百メートルに亘って積み上げられた質量の下敷きとなれば、死ぬ事は無いにしても無事でいられるかどうかは微妙なところだろう。
 言うまでも無く、そうなればメイリィもセロもお陀仏だ。だがあまりに挑発が過ぎればどうなるか分かったものでは無い。いよいよ我慢の限界となれば、道連れ覚悟ででかい一発をかましてくるかもしれない。そうならない様、メイリィはぎりぎりで、もう少し余裕をもって回避出来る攻撃をぎりぎりの線で躱す。そう、もう少しで撃ち落とせると錯覚出来る様に。

「演技派だよね、あたしって! こりゃ今年の主演女優賞オスカーはイタダキかな!?」
【ノミネートされてません】

 砲撃を掻い潜りつつ、相手の限界値を見定める作業。それはメイリィの神経やら集中力やらを根こそぎ削っていく。
 彼女が逃げ回っているのは、それは勿論生存の為ではあるが、もう少し積極的な理由からだ。
 時間稼ぎ――である。
 象と子犬。数刻前の絶望的な状況より幾分かましとは言え、それでも充分以上に絶望的な状況を引っ繰り返す策。
 その切り札を場に出す為には、まだ暫くの時間がかかる。タイミングもそうだが、まず前提として、その切り札はメイリィの瞬間最大出力ではとても行使出来るものでは無い、故に少しずつ魔力を充填チャージしなければならない。
 早く、早く。
 内心の焦りを引き攣った笑みで塗り潰し、少女は逃げ回る。

GruAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHH!!!

 蜥蜴人間は最早、狙いを付ける気も無くなったらしい。癇癪を起こした様に砲撃を乱射、壁を床を天井を銀色の魔力光が片っ端から砕いていく。幸運だったのは、この地下空間の石壁にはかなりの対魔力強度があるという事か。拳で殴りつける様な直接打撃ならばともかく、純粋に魔力を叩き付ける様な攻撃に対しては相当強い。
 これを頼みにメイリィは逃げ回っている訳だが――さすがに、限界も来る。メイリィでは無く、石壁の方が。
 びしり。一発の砲弾を回避した瞬間、背後でそんな不吉な音がした。一瞬だけ振り向いて、すぐに視線を戻す。背後の壁が、着弾点を中心として蜘蛛の巣の様に罅割れていた。まずいと思った瞬間には次の砲撃が迫っている。横に飛び退くにも跳躍して躱すにも時間が足りない、振り向いたあの一瞬が致命的なロス。

「ふんぬっ!」

 上体を無理矢理仰け反らせ、仰向けに引っ繰り返りながらの回避行動。砲撃魔法の射線を下から、しかもこの至近距離で見た人間はそういないだろう。前髪が少し持っていかれた。つか鼻先が少し焦げた。腰から微妙な音がした。
 受身を取りながら床に転がる。早く立ち上がらなければ次の砲撃が来る。一秒たりと止まってはいられない、すぐさまその場を飛び退――く、その寸前。
 仰向けになっている、つまりは視線が天井へと向けられている。それ故に、それが幸運かどうかは別として、メイリィはその光景をしっかりと目撃した。
 壁の罅割れが天井にまで達し、剥がれ落ちた石板、というよりは岩塊と言った方が遥かに近い瓦礫が、自分目掛けて落ちてくる。横に転がっても間に合わない。立ち上がっても間に合わない。当然、魔法を使う暇も無い。一秒後には見事なミンチが出来上がる、走馬灯の様に過去の記憶が云々というのは無かったが、妙に肥大した感覚は落ちてくる石壁を酷くのろくさと見せている。

「ちょ――」

 声を出せたのは、奇跡というべきか。
 ただそれが、物理現象に何らかの効果を齎すなんて事は、無論なく。
 落ちてきた瓦礫に押し潰される。ヒロインにしてはあまりにも冴えないそんな最期を回避すべく――と言いたいところだったが、取り得る手段は何も無く。
 ただそれでも、メイリィ=スクライアは認識している。
 己が本作のヒロインであると、認識している。
 ヒロイン死亡、完。そんな打ち切り漫画みたいな終わりは有り得ないと、無意味に確信している。
 果たしてそれは、確信通り現実となった。

「――!」

 ぼうと眼前に、正確には頭上に、浮かび上がる赤褐色の魔法陣。
 落ちてきた瓦礫が魔法陣に接触し、光が一瞬だけ強まって、瓦礫を飲み込んでいく。
 転移魔法――その効果が発現した瞬間にメイリィは立ち上がり、その場から飛び退いた。直後、銀色の砲撃がその場を薙いでいく。残る瓦礫も魔法陣も飲み込んで。

「セロ……!」

 蜥蜴人間の背後、メイリィと蜥蜴を挟んだ丁度向かい側。
 血溜まりの中で万遍無く己の血に塗れながら、それでも壁に凭れ掛かり、上体を起こしたセロニアス=ゲイトマウス=チェズナットが、腕を上げ、メイリィを指差している。
 指先にはぼんやりと赤褐色の魔力光。今の彼にはこれが精一杯だろう。だが充分だ。
 時間稼ぎは――もう、必要無い。

【チャージ完了です、マスター】
「ぃよっしゃあ!」

 威勢良く叫んで、メイリィは愛杖を振り回す。ぶぉん、と風を切って先端が蜥蜴へと突き付けられる。
 青白い魔力光が収束を開始する。地下空間全ての魔力が渦を巻いて一点へと集う。空間の光源であるオレンジの光球すら分解され、魔力素へと還元されて吸い寄せられる。一気に薄暗くなる空間を、青白色の魔力光が淡く照らし出す。
 圧縮、圧縮、更に圧縮。弾け飛びそうな魔力の奔流を押さえ込み、力尽くで押し込める。

【謳え】

 “声”が、聞こえる。
 相棒の声、けれどそこに宿る意思は、見も知らぬ誰かのもの。
 構わない。
 元より――疑ってなんか、いない。

「其は万物に潜みし焔の源。我は万古より続きたる契約の名において、其を汝の身より剥奪せん……!」

 魔法とはプログラムである。術者の魔力によって発生させた事象を、術者が望む効果へと組み合わせるものである。これの起動には幾つかのトリガーが必要となるが、大抵の場合、デバイスによって補助が行なわれる為、撃発音声トリガーヴォイスのみで魔法は発動する。
 だが今回の場合、それだけでは足りない。デバイスの補助が追いつかず、加えて術者の技量も足りていない。魔法の発動を補助する為に、詠唱は必須だった。
 眼を閉じ、頭に流れ込む呪文をトレースして呟く。それだけで、荒れ狂う魔力が隷属していく。
 蜥蜴人間も黙ってはいない。大きく口を開き、銀色の魔力光を撃ち出す。術者の魔力を直接威力へと転換する、直射型砲撃魔法。収束型には及ばぬまでも、Sクラスを軽く超えるその一発に、如何な障壁を張ったところで、メイリィ=スクライアが耐え得る道理は無い。
 しかしそれも、メイリィ一人だけならば、だ。
 砲撃は全て、メイリィの眼前に現れた魔法陣に飲み込まれ、消え去っていく。

学習すル・・・・、大事な事デス……よ?」

 蜥蜴の背後で、セロがにこりと笑い――限界を越えたか、がくりと頭が落ち、くたりと腕が下がる。

「なーいす、セロ! ってなワケでお待たせしました! メイリィちゃんのマジック・カーニバル、すたーとぉ!」

 光が、弾けた。
 四散した光は粒子となって蜥蜴人間へと纏わりつき、濃霧の如く空間を埋め尽くしていく。
 
フロギストン・ケ――ジ!!
【Phlogiston cage.】

 撃発音声トリガーヴォイスを口にした瞬間、粒子の濃度は一気に上昇。蜥蜴の姿を完全に覆い尽くし、質量をも伴った光は蜥蜴を内包したまま宙へと浮かぶ。
 蜥蜴の頭上、そして足元から現れる帯状魔法陣が蜥蜴を包む粒子の上から巻きついて固定していく。巻きついた魔法陣の隙間を目指して粒子が内へと入り込み、更にその上から帯状魔法陣が巻き付けられていく。
 それはどこか、芋虫が繭を作る光景に似ていた――ただし繭の中に居るのは羽化に備える芋虫では無く異形の蜥蜴であるし、繭を作っているのは蝶ならぬ人間の魔導師であるが。
 帯状魔法陣が薄れていく。正八面体となった“繭”の表面がガラスの様に硬質化し、“繭”は“檻”となった。
 ぼぅ、と再びオレンジ色の光球が灯る。強引な魔力収束を終えた事で光源に使われる魔力が元の状態に戻り、地下空間の色を青白から橙色へと染め直した。
 
「ぷっ…………はぁ! な、何とかなったぁ……!」

 ごろりと大の字に寝転がり、メイリィはぜいぜいと荒い息を吐き出す。自身の魔導師ランクを遥かに超える魔法の行使、射撃魔導師のメイリィにはお世辞にも得意とは言えない高位結界魔法の行使は、彼女に残っていた魔力も体力も根こそぎに持っていった。

【ご無事ですか、マスター】
「なんとかー。ま、『今のところは』ってカンジだけれど」

 頭を持ち上げて、正八面体の結晶を見遣る。澄んだ青色のクリスタル。既に失われた、禁術に等しい古代の結界魔法。――だがそれをして尚、完全でも、完璧でも無い。
 魔力充填の為に逃げ回っていた行為を時間稼ぎと称したが、言ってしまえば、これもまた、時間稼ぎなのだ。
 いずれ、この結晶は破られる。壊される。そうしてまた、メイリィは――メイリィの周りの人間達も含めて、危機に晒される。
 最善は無い。故に選び取った次善であったけれど、しかし次善でこれなのだから、最悪など考えたくも無い。
 首が疲れたので、頭を降ろす。後頭部を軽く打ちつけたが、その痛みが気にならない程度に、彼女は疲れていた。

「これ、どれくらい保つかな」
【目算ですが、保って数日と思われます】
「結界魔法って、あまり好みじゃ無いんだけどなー。やっぱりブチ抜いたりとかぶっ壊したりとか、そーゆー派手なのが良かったな。てかさ、その手の魔法は無かったワケ? あのトカゲぶっとばせる様なやつ」
【事実だけ述べれば、攻撃魔法自体は存在します。ただし目標の対魔力強度を考えれば、効果は非常に薄いでしょう】
「閉じ込めるのが精一杯、って事かあ」

 射撃魔導師――つまりは戦闘特化の魔導師としては、酷く矜持を傷付けられる事実だった。
 バリアジャケットが解除され、相棒も魔導杖形態から待機状態のブレスレットへと戻る。ごろんと転がってうつ伏せの態勢へと移行し(アウロラが【たれ○んだの様ですね】とか言いやがった)、そのまま匍匐前進でセロの方へと向かう。
 瀕死の重傷――死んでいないのが明らかに不思議な程の――を負った少年は、四肢を投げ出し壁に凭れ掛かって座りこんでいる。先程の転移魔法による援護が最後の力だったか。まさか死んでるのか、と一瞬背筋が凍る。だが這いずって近寄るメイリィの姿を認めた途端、引き攣った顔で距離を取るセロの姿に、その不安は消し飛んだ。
 ……なんか、とても納得のいかないリアクションの結果ではあったが。

【データ検索。第97管理外世界の民間伝承“てけてけ”に酷似】
「あーそっか、そりゃあ怖くて逃げ出すよねえ……て、おい」

 脚は千切れてねえっつの。
 よっこいしょ、と親父臭い掛け声と共に、メイリィは立ち上がる。脚はがくがくと震えているが、気合と根性で何とか持たせる――つもりが、やはり駄目だった。
 相当の負荷が身体に残っていたのだろう、がくりと膝が折れ、視界の天地が曖昧になって、メイリィはふらりと倒れ込む。
 硬い、それでいて至るところに罅割れが走って鋭利な断面も覗かせる床と不本意な接触を起こすその寸前、ぼよん、と彼女の身体は、クッションの様なゼリーの様な、不思議な感触の物体に受け止められていた。

「無理、いけまセン。危ないデスよ?」

 ――人の事、言えないじゃん。
 メイリィの反言に、緩衝魔法を使ったセロが困った様に笑った。血塗れの彼が見せるその笑顔は、何ともコメントし辛い、スプラッター映画の登場人物(被害者役)の様だったが。
 ぼう、と彼等の足元に、赤褐色の魔法陣。もうすっかりお馴染みになった、転移魔法の為のもの。
 視界が赤褐色の光に覆われ、少しずつ明度が高くなって白く染まる。
 
「あー……お腹減ったぁ」
【はしたないです、マスター】
 
 ぐぎゅるるる、と腹の虫が騒いだ。
 不意に地面が消え、重力に引かれるまま二人の身体が落ちていく。ひゅっ、と思わず息を吸い込んで、そのまま吐き出せない。
 落ちる落ちる、奈落の底へと真っ逆様――と思ったその瞬間、視界を満たす光が消え去って、どこかで見た様な景色に変わる。転移した、そう気付いた時には何かを押し潰す様にして、メイリィとセロは着地する。
 いや、着地というと何か違う。転移先の座標計算を間違えたか、一瞬先に落ちたセロがメイリィの下敷きになる形となった。「ぎゃふんっ!」と今時誰も言わない様な悲鳴を上げてセロは意識を失う。ただでさえぎりぎりのところで意識を保っていたのだから、ある意味、メイリィのボディプレスが止めだった。
 更にその下、セロの身体の下にも誰かが居る様だが、角度的に見る事は出来なかった。

「……メイ。と、セロ?」

 聞きなれた声がして、メイリィはそちらへと振り向く。呆然とした顔の玄十郎が、そこに居た。
 辺りを見回せば、そこは一族の居住地の中でも最大のテントの中。ただしつい数時間前までと違い、まるで野戦病院の様にベッドが運び込まれ、整然と並べられている。
 後ろを振り向いた。小さな椅子に一族の長老が腰かけ、それに管理局の制服を着た人間がデバイスを突き付けている。
 一体なんだ、こりゃ。現状認識に常時の数倍の時間をかけ、しかし結局メイリィはその努力をあっさりと放棄した。

「あ、ゲンさん。ただいま。……お腹減った」

 引き攣った顔を崩して、玄十郎が苦笑する。
 ふん、と一つ息を吐いて、玄十郎はメイリィの下からセロを引っ張り出した。だるま落としの様に、すとん、とメイリィが下へと降りる。「ぐぇ」と何か蛙が潰れた様な声が聞こえたが、セロの方に意識が行っていたせいか、メイリィの耳には入らなかった。
 【Descargo】とセロのグローブに嵌められた宝玉が光り、彼のバリアジャケットが解除された。灰髪の少年が淡いクリーム色のローブ姿へと戻るが、ローブも、肌も、白髪が混じって灰色になった髪も自身の血でべっとりと汚れ、奇妙な斑模様を描いていた。

「……随分サイケデリックな服だな。イイ趣味してんじゃねーか」

 玄十郎の後ろから、見覚えの無い若い男がひょいとセロを覗き込んで、そう呟いた。
 アンタ誰――メイリィが至極当然な疑問を口にしようとした、その時。

「貴ッッ様ぁ! 一体誰の上に乗っていると――」

 がばっ、と未だメイリィの下敷きになっていた“何か”が起き上がり、何だか意味不明な事を叫んで――

「ひゃうっ!? ――ドコ触ってんのよ!」

 瞬間的に展開された魔導杖アウロラでぶん殴られ、再び床に叩き付けられた。
 
「な、き、貴様、誰に手を上げたか、分かって――」
「誰のお尻触ったか、分からないとは言わせないッ!」

 先の若い男と同じく、見覚えの無い中年の男。一族の人間では無い事は明らかだったが、それはメイリィが手を止めるだけの理由にはなり得ない。いや、例え王様だろうと神様だろうと、メイリィは容赦しなかっただろうが。
 がん。
 ごん。
 ばきっ。
 どごっ。
 漫画の如きチープな打撃音が、野戦病院となったテントの中に響く。
 眼前で繰り広げられる凄惨な光景に、患者はベッドの上で布団を被って震え、それ以外の人間達は一箇所に纏まって怯えるしか出来ない。
 ただ一人、園崎玄十郎だけが平然とした顔でその光景を眺めていたが――その頭の中が「ああ、この後始末どうしたもんかな」という考えで一杯だった以上、現実を認識していないことに変わりは無かった。
 
「ま、待て、話し合おう、話せばわか――」
「問答無用! 痴漢抹殺!」
【申し訳ありません。諦めてください】

 轟、と魔力光の奔流が男の姿をテントの外まで吹っ飛ばし、それだけでは飽き足らんと二発、三発目が着弾。大爆発を巻き起こす。
 テントの周りに群がっていた一族の人間達も蜘蛛の子を散らす様に逃げ去り、その暴挙を止める者は誰一人居ない。
 総計十三発の砲撃魔法を叩きこんで、漸くメイリィは手を止めた。

「ぜえ、ぜえ、ぜえ……ど、どーだ、痴漢めー……」

 テントに開いた大穴から爆心地を眺め、メイリィは呟く。と、視界が一気に白濁し、地面が急に不定形の物体と化した。
 なけなしの魔力を砲撃に根こそぎつぎ込んだのだ、当然と言えば当然。そしてその当然を理解し認識する前に、メイリィ=スクライアはぶっ倒れた。









「……ふん。そういう事か」

 不愉快そうに呟いて、玄十郎は目の前に展開されていたウィンドウを閉じた。彼の周りにはまだ十数枚のウィンドウが展開されたままなので、それらに埋もれて彼の顔を外から見る事は難しい。尤も、ただでさえ目付きの悪い玄十郎の不機嫌な顔――それを見た人間がどんな反応をするのかは想像に難くない――を隠す壁とも考える事が出来るので、別段悪い事ばかりでも無いのだが。
 ぐるりと彼の周囲三百六十度を取り囲むウィンドウには、一枚として同じ画像は映し出されていない。だがそれらは全て、同じ事を示す内容でもあった。
 玄十郎のテントには、玄十郎の使っているベッドの他に、“野戦病院”から運び込んだベッドがもう一つ。そこには今、一人の少年が寝かされている。胸や四肢に取り付けられた吸盤から伸びるコードは近くの機材に繋がっており、それから得られる情報が、玄十郎の目の前に展開されたウィンドウに表示されているのである。
 灰髪の少年――セロニアス=ゲイトマウス=チェズナットは未だ目を覚ましていない。負傷と出血量を考えれば当然と言える。
 だが不思議な事に、その身体に傷痕は残っていない。正視に堪えないほど歪にへし折れた筈の四肢は原型を取り戻しているし、ぼろ布の様に引き千切れていた皮膚もその痕跡すら残っていない。どう軽めに見積もっても全治半年、後遺症を含めれば一生ものの重傷であった筈の少年の身体は、帰還から僅か数時間でほぼ完全に元通りになっていた。
 
「こんばんわ~……ゲンさん、まだ起きてます……?」
【失礼します。マイスター・園崎】

 そろりとテント入口の幕が開き、メイリィが顔を出す。彼女が目を覚ましたのはつい一時間ほど前の事だ。極限まで体力と魔力を消耗した(魔力については、最後にかなり無駄遣いしたという気がしないでもないが)彼女は起きるなり厨房へと突撃、某戦闘民族よろしく食料を片っ端から食い漁った。
 此処に顔を出したという事は、とりあえず満腹にはなったという事だろう。ぐるりと周囲に展開されるウィンドウの隙間から手を振って、まだ起きているとアピールする。……まあ、その必要も無く、メイリィは勝手にテントへ入りこんで来たのだが。
 さて、事情聴取といくか。ウィンドウを全て閉じ、軽く目頭を押さえて、玄十郎はメイリィへと視線を向ける。管理局の聴取の前に事態を把握して、口裏を合わせておかなければいけない。セロがあれだけの重傷を負ったのだ、あまり歓迎出来ない事態が起こった事は――そしてある意味、これから更に起こるだろう事は――想像に難くなかった。

「セロ――大丈夫かな」

 セロが寝かされているベッドの傍らに佇み、メイリィはセロの顔を覗き込む。寝顔は安らかではあるが、その顔は何となく、もう二度と目を覚ます事の無い死顔の様にも見える。らしくも無く少年を心配するメイリィの言葉は、そのせいもあるのだろう。

「心配無えよ。そいつは、そう簡単には死なん」

 言葉の調子が何処か突き放す様な感じになってしまった。隠し事や言いたくない事、知られたくない事がある時、玄十郎はこういった物の言い方になってしまう。それは逆説、彼が嘘を付けない人間だという事でもあり、目の前の少女はそんな人間がついた嘘を知って、黙っていてくれる様な人間でも無い。
 どういう意味、と言いたげに詰め寄ってくるメイリィ。そうなってしまえば隠し通す事は出来ない。
 説明するから離れろ、と小柄な少女の身体を押し返す。果たして少女は素直に退き、近くの椅子に腰かけた。

「ふん。……本人に許可を得ないでバラしちまうのは、気が引けるんだがな」
「いーから早く」
「分かったよ。どれ、何から説明したもんかな……」

 玄十郎の指が動き、程なく一枚のウィンドウが、メイリィの眼前に展開された。
 映し出されているのは、ベッドに寝かされたセロの姿。後ろを振り向けば同じ光景を肉眼で見る事が出来る。
 ただし現実のセロと映像の中のセロは決定的に違っている。現実の彼が安らかに、傷一つ無い身体で眠り続けているのに対し、映像の中のセロは血塗れ傷塗れ。そう、それは一族の居住地に戻ってきた時そのままの、セロの姿だった。
 映像の中のセロは血塗れの服を脱がされ、下着姿でベッドに横たわっている。バリアジャケット、またはローブに隠れて見えなかった傷が、服を脱がされた事ではっきりと分かる。どす黒く変色した傷口は塞がりきらず血が滲み、歪に折れ曲がった四肢は元通りにくっつくとは思えない。特に左脚は酷い、折れた大腿骨の先端が皮膚を突き破って露出している。
 うぇ、とメイリィが顔を顰めた。

「……ゲンさん」
「何だ」
「なんで、ぱんつ穿かせっぱなしなんですか」
「ぱんつの下は怪我してねえよ。見たけりゃ本人に頼め。続けるぞ」

 かたかたと手元のコンソールを操作すると、ウィンドウの映像にも変化が現れた。
 映像はセロの姿を延々と映したもの。それを何倍速かで早回ししているのだが、そのお陰か、変化を見つけるのは容易だった。
 同じ映像を映すウィンドウを自分の前にも開き、玄十郎はそれを注視する。
 傷口が――治っていく。
 血が止まり、皮膚が繋ぎ合わされ、骨格が元の形を取り戻す。露出した左大腿骨もそれ自体が意思を持つ様に肉の中へ戻っていく。僅か数分、実際の時間に直しても一時間弱で傷口は全て消え去り、陶磁器の様な白い肌がそこに残った。

「…………なに、これ」

 呆然と、メイリィが呟く。
 有り得ない、その言葉を飲み込んだのが分かった。
 だが映像に嘘が無い事は、振り返った先、彼女の背後で眠る少年に傷が無い事で証明されている。映像を嘘と断ずるならば彼の無事を説明出来ない。
 重傷のセロが“野戦病院”では無く、玄十郎のテントに寝かされている理由はこれだ。治癒魔法をかけた訳でも無いのにこの回復――それ以前に、ここまでの重傷を治す魔法など存在しない――、見る者が不審を抱くのは間違いないだろう。
 混乱しきった顔で、メイリィが椅子の背凭れに体重を預けた。それを一瞥し、玄十郎はウィンドウに映る映像を切り替える。

「前から変だとは思っていたんだがな。ビラドーラ遺跡が砂に埋もれたのは、少なく見積もってもおよそ五百年前だ。古代ベルカの滅亡が三百年ちょい前だから、その二世紀前には滅んでいた計算になる。……セロは多分、その当時から生きている。何らかの生命維持装置を使ってだと思っていたんだが――どうやら、違うらしい」

 メイリィの前にもう一枚ウィンドウを展開。つい先程までメイリィ達が居た、セロの眠っていた地下空間。その中央に座する三つの石棺が映し出された。

「あ、これ」
「ああ、一週間前、アウロラが記録した映像だ。この石棺の中で寝ていたのだろう? セロは。……ただの石棺だな、これは。魔法もかかっていなければ、魔導機械でも無い。生命維持には何の役にもたたん、寝心地だって最悪だろうな。単なる石の塊だ」
「つまり?」
「少しは自分で考える癖をつけろ。まあいい、とにかくセロは――む」

 不意に言葉を止めた玄十郎に、メイリィが驚いた顔を見せる。驚きというよりは呆けた顔を通り過ぎ、玄十郎の視線はその後ろへと向かっていた。
 臨時に運び込まれたベッドの上で、セロが身を起こしている。傷が癒えるのが速ければ、目覚めるのもまた速い。僅か数時間の昏睡で意識を取り戻した彼は、不思議そうに周囲を眺め回した。

「起きたか、セロ」
「……? あ、ゲンさん」

 不思議そうな顔が、いつもの没個性な微笑で塗り潰された。
 ばさりと布団をはぐり、セロがベッドから降りる。下着姿(と言うかぱんつ一丁)の彼にメイリィの鼻息が荒くなった気がするが、とりあえず気にしない事にした。
 洋服箪笥からTシャツを一枚取り出して、セロに投げ渡す。かなり体格に差があるのでぶかぶかだが(シャツの裾が腿の半ば程まである)、セロは何も言わずそれを着込み、何も言わずベッドへと戻る。ただしもう横になる事はせず、その縁に腰かけただけだったが。

「気分はどうだ?」
「えと……悪くないデス。たくさん、寝まシタ」

 実際に寝ていたのは数時間というところなのだが、言葉の通り、セロの顔からは疲れや痛みというものは感じられない。顔色もそう悪くない、此処が病院なら即退院だろう。
 ただし此処は病院では無く、そして無論、園崎玄十郎は今、この少年を外へ出す気は無かった。

「先に謝っておく。悪いが、お前さんのカラダについて、ちょいとこいつにレクチャーしていた」
「? カラダ? …………性教育、ですカ?」
「んな訳あるか」

 何の事だ、と言いたげに首を傾げ、そして少しの沈黙の後に眉を顰めてセロが口にしたのは、完全に玄十郎の意を察していないと知れる言葉だった。
 無論、即座に玄十郎は否定する。

「大体、性教育そんなもんなんざ今更この娘には必要ねえよ。不道徳が服着て歩いてる様なもんだ」
「あ、ゲンさん、その発言は見過ごせないですよー。私がえろい娘みたいじゃないですか」
「言葉なんだから、“見過ごす”のは当然だろうが。と言うかお前がえろいのは今更だろう。ベッドの下に何冊溜め込んでやがる」
「た、たった三十二冊ですよう」
【いいえ、三十四冊です】
「何の見栄だ……この前確認した時、確か二十八冊じゃなかったか? いや、と言うより、それだけ持ってりゃ充分だろ」
「充分じゃ無いですよ! てかあたしの持ってる本って巨乳モノオンリーなんですよ!? どいつもこいつもいいカラダしてやがって! 読む度になんていうか、こう、コンプレックスをぐりぐり抉られる感じなんですよ! それに耐えながら私はエロ本読んでるんです! これって実は賞賛されて然るべきじゃないですか!?」
「読まなきゃ良いだろうが」
「イメージトレーニングです!」
「効果は出てないな」

 至極どうでも良い話だった。
 話についていけないのか、それとも単に興味が無いのか、或いは言葉の壁か、話が横道にずれる原因となった筈のセロはただにこにこと笑っている。
 すまんな、ともう一度、今度は別の意味で謝って、玄十郎は(結構無理矢理に)話を戻した。

「お前さんに許可を得ないで話し始めちまったが、まだ重要なところは言っておらん。厭だってんならここで止めるが」

 えー、とメイリィが露骨に不満な声を上げるが、やはりこれは個人のプライバシー――あるいは過去に関わる以上、本人が厭だと言うのならこの話はここで終わりだ。実のところ、玄十郎も深く話す気は無かった。メイリィが、或いは玄十郎自身が納得する程度の情報を与えるだけでお茶を濁そうと考えていた。
 だが、本人が許すのならば。
 果たしてセロは、構いまセン、と言って、こくりと頷いた。

「話しテ――下サイ。メイさんニ、全部」
「そうか。……ありがとよ」

 ぷつん、とメイリィの前に未だ展開したままのウィンドウを閉じる。あれ、と意外そうな顔を向けてくるメイリィに、玄十郎は正面から向きあった。

「メイ。暫く前に話した、魔力変換資質――憶えているか?」
「魔力変換? えっと、『炎熱』とか『電気』とかの?」
「そう。意識せずに己の魔力を別の作用に変換する資質。主に『炎熱』、『電気』、『凍結』の三つ。まあ、『凍結』はかなりレアらしいがな。これらは基本的に魔導師固有の先天技能だが、一応、学習によっても習得出来る。ただこれが出来る人間というのは純粋魔力の大量放射が苦手になる傾向があるし、自分の属性が偏ってしまいがちだから、わざわざ覚える人間もそういないがな。ここまでは良いか?」

 こくりとメイリィが頷く。その後ろで、セロも同様に頷いた。セロにとっては良く分からない話だろうが、それでも自分に関わる事だからか、聞き流している感じは無い。
 
「ただこれら三つとはまるで別に、完全に先天固有技能インヒューレントとしての変換資質を持つ人間もいる。俺が知ってる限りでは『流動』『拡散』『不活性』『汚染』とかがあるな。後天的な学習でも習得出来る資質と違って、これらは今のところ学習では身につかん。学習方法が確立してない事もあるが、それ以前に資質保持者サンプルが少なすぎるせいだな」
「じゃあ、セロもその、魔力変換資質を持ってるって事?」
「ああ。多分、『復元』だろう。魔力を直接、身体を元の状態へ戻そう・・・・・・・・とする力へと変換している。最初は『治癒』かと思ったんだが、それだと説明がつかんところが多いんでな」

 これならば、数百年の長きに亘ってセロが生きていられる事にも、説明がつく。
 恐らく、彼の身体は今の、十四~五歳相当の状態が基本と設定されているのだろう。『老化』を変化と捉え、復元力に変換された魔力がそれを阻害する。食べる必要も寝る必要も無い、リンカーコアが魔力を生み出す限り、彼の身体は不老不死に限りなく近い存在となる。
 ただ、これでも説明のつかない事は残るのだが。
 十四~五歳の状態が基本となるのなら、それ以前・・・・が有り得なくなる。『老化』が阻害されるのなら、『成長』だってその範疇外では無い筈だ。極端な話、彼は赤ん坊のままで止まっていなければおかしいのである。
 先天性技能である筈なのに、それが発現するには後天性で無ければならないという矛盾。メイリィに対する説明では省いたその部分が、玄十郎には気になっている。

「あ、じゃあセロがご飯食べられないのも――」
「そうだな。『復元』の魔力変換資質のせいだろう」
 
 食事を摂らなくても良い。しかしそれは“食べる”“食べない”を選択出来るという事では無い。食物を『復元』に邪魔な“異物”と捉え、身体が排除してしまうのだ。少し水を飲むくらいが精々、それすら摂らなくても生きていける。
 それは決して良い事では無い。真っ当な死は望めない、という事でもあるのだから。彼を殺す事は難しい。どれだけ傷を負わせても、ほんの僅かに魔力と生命が残っていれば元通りに復元されてしまう。彼を殺す為にはリンカーコアの機能を停止させるか、或いは一瞬で生命活動を停止させる――つまり“即死させる”かだ。どちらも簡単な事では無い。セロという少年が、相当の実力を持つ魔導師である事を考慮に入れれば、殆ど不可能に近いと言える。
 首を切り落とす。脳を吹き飛ばす。身体が跡形も無くなる程に消し飛ばす。一人間に行使するには明らかに度を超した過剰殺戮オーバーキルをもってしなければ、セロは殺せまい。
 ……参ったな。随分物騒な事を考えている。
 頭のどこかで『セロの殺し方』を考えている自分に気付き、玄十郎は苦笑した。
 
「まあ、これも仮説の一つであって、実際のところがどうなのかは判らん。ここの機材じゃ調べるにも限界があるしな」
 
 元々、デバイスの開発・調整用の機材だ。寧ろこれだけ判った事の方が驚きである。玄十郎本人にも予想外だった。

「あ、じゃあ、管理局に頼んで調べてもらえば――」
「駄目だ」

 メイリィの提案を、玄十郎はばっさりと切り捨てた。
 えー、とメイリィが頬を膨らませるが、こればかりは仕方ない。

「管理局なんかに連れてってみろ。珍しいサンプルとして実験動物モルモット扱いだぞ。それならまだしも、最悪、検体としてバラバラにされるな」
「ば、バラバラ!?」
「バラバラ、駄目デス」

 悲鳴の様な声を上げるメイリィに、青い顔をして首を振るセロ。少し脅かしすぎたかとは思うが、玄十郎の言葉は決して根拠の無い脅かしでは無い。
 玄十郎が管理局に居た頃――と言ってももう三十年から昔の事だが――には、特殊技能を持つ人間を調査研究という名目でバラバラに解体する事などざらだった。何百という人間の臓器やら脳髄やらが美術館の展示品さながらに飾り立てられ、陳列されていた光景を、玄十郎は良く憶えている。
 現在の管理局がどうなのかは分からないが、たかだか三十年でスタンスを変える様な組織ではあるまい。

「だからな。セロの身体については此処に居る俺達だけの秘密にしておけ。間違っても管理局の人間には知られるな」

 こくりと二人が頷く。よし、と満足気に玄十郎も頷いた。

「あー……そりゃ悪い。手遅れだわ」

 不意に、テントの中に若い男の声が響いた。
 驚いてテント入口に目を向ければ、そこには予想通り、ダイゴ=ナカジマの姿。
 計らずも盗み聞きしてしまったせいか、ばつの悪そうな顔をしている。メイリィの顔に警戒が走った。必要とあらば口封じも厭わないとばかりに、待機状態のアウロラに手をかけている。こんなところで暴れられては敵わない、玄十郎は厳しい表情で彼女を制した。

「ナカジマ」
「なんか、ヤバげな話だな。……心配すんなよゲンさん、こう見えて俺、口が固い方だから」

 飄々とした態度とは裏腹に、声音は真摯なものだった。
 何なら、血判でも用意しようか――ダイゴのその言葉に、メイリィも警戒を解いて、座り直した。

「他言無用、だ。今聞いた事も、これから聞く事も」
「わかってらあ。……っと、こっちの二人にゃ初めまして、だな。時空管理局捜査官、ダイゴ=ナカジマだ」

 にっ、と人懐っこい笑顔を見せて自己紹介し、ダイゴは手を差し出す。平板でどことなく嘘臭いセロの笑みと違い、彼のそれは人間らしい感情に満ちている。
 時空管理局捜査官という肩書きを警戒したか、メイリィとセロは一度顔を見合わせたが、やがてくすりと笑うと、差し出された手を握った。

「メイリィ=スクライア。メイって呼んで。ダイゴだから……ダイさん、って呼ばせてもらうね」
【マスター・メイリィの忠実なる・・・・僕、アウロラです。宜しく】
「おう、宜しく頼むわ、メイちゃん、アウロラ」

 握ったダイゴの手を、メイリィはぶんぶんと上下に振る。ダイゴは更に勢いを付けてぶんぶんと振る。意地になってメイリィもぶんぶんと振る。負けじとダイゴもぶんぶんと。
 ぶんぶん。
 ぶんぶん。
 ぶんぶんぶん。
 ぶんぶんぶんぶん。

「何してんだ、お前等」
 
 呆れ顔の玄十郎がそう言うまで、都合二分半、彼と彼女は握った手を振り続けていた。
 どちらからともなく手を離し、ぜいぜいと肩で息をしながらにやりと笑い合う。それは何というか、そう、河原で殴りあった後に生まれる、夕陽を背にした漢達の友情の様にも見えた。
 
【片方は女性ですが】
地の文モノローグにツッコむな、アウロラ」

 そんな機能はつけていない。
 
「セロニアス=ゲイトマウス=チェズナット、デス。セロ、呼んで下サイ」
「ああ。宜しくな、セロ」

 こちらは優しく、さすがにもう握った手を振りまわす様な事はせずに、ダイゴはセロの手を握った。

「……そうダ、ゲンさん」

 ふと、セロが玄十郎へと向き直る。何かと思い、玄十郎がセロを見た瞬間、彼の掌の上に小さな魔法陣が現れた。
 見た事の無い構成の、赤褐色の魔法陣。それが一瞬強く光ったかと思うと霧散し、後に古ぼけた一冊の本と、罅割れた紅い宝玉が残った。
 セロ達が転移によって戻ってくる際、地下空間に置き去りとなっていたものである。無論玄十郎はそれを知らず、見たまま、本と宝玉であるという認識しか無い。

「セロ、今のは――」
「あ、そっか。ゲンさん、知らないんだ。セロ、転移魔法が凄い上手いんですよ」

 転移魔法――次元転移や物質転送などを初めとする、『違う場所へ極短時間で移動する、或いは移動させる』魔法の総称。
 見たところ、今セロが使ったのは物質取寄アポーツか。転移魔法自体はそう珍しいものでは無いが、実用レベルとなると難易度が高い。まあ、それはどの魔法にも言える事であるが。
 物質取寄の場合、『何処にある』『何を』取寄せるのか、座標と範囲の指定が難しい。余計なものまで取寄せてしまったり、或いは全く見当外れのものを取寄せてしまったりもする。それを踏まえれば、メイリィが言った「上手い」という言葉も納得だった。
 ベッドから降り、セロは玄十郎に本と宝玉を差し出す。その意味を掴めないまま、玄十郎はそれらを受け取った。

「ゲンさん――お願い、ありマス」
「お願い? ……珍しいな。お前から頼み事をされるとは思わんかったぞ」

 にやりと笑ってそう言うと、セロはくすりと、しかし妙に力無く笑って応えた。

「デバイス、作って欲しいデス。その玉と同じものヲ、新しク」
「この玉? ……ああ、もしかしたらと思ったが、やっぱりこれ、デバイスの待機状態か」

 ただ――ここまで酷く破損していては、もはや展開させるのは不可能だろう。データを吸い出すのが精一杯というところか。
 これを修復するよりは、データを元に新しく作り直した方が遥かに早い。

「基本設計、この本にありマス。それと――」

 振り返ったセロが、メイリィを見る。不意に向けられた視線に顔を赤らめて、メイリィが『なに?』と訊く。
 ゆるりと首を振って、セロは玄十郎に向き直った。

「メイリィさんのデバイスにも、データ、ありマス。時間、無いデス。早くしないト、大変な事になるデス」
「大変な事……?」

 セロの口調に、玄十郎は眉を寄せて聞き返した。

【それは――私から、説明しましょう】

 割り込んだのは、電子音によって構成される言葉。
 声はメイリィから。正確には、メイリィの手首に嵌められたブレスレットから。
 ひゃ!? とメイリィが素っ頓狂な声を上げる。
 メイリィ=スクライアのデバイス、<アウロラ>――だが、その言葉はアウロラのものでは無い。アウロラの中に居る、何か他の意思が発したもの。
 少なくともそれは、アウロラを作り出したデバイス・マイスター、園崎玄十郎の知らない“何か”であった。

「何だ――お前は」
【失礼しました。私は対広域次元災害システム<Deseo>の管制プログラム。転送されたデータに一部欠損がある為、インテリジェントデバイス<アウロラ>の人格データを借用しております】
「アウロラを……? いや、対広域次元災害システムと言ったな」
【はい。私はある次元災害に――それを生み出す存在に対処する為、作製されたプログラムです】

 次元災害。
 次元断層など、次元世界レベルでの災害を指す言葉である。かつて旧暦の時代には幾多もの次元世界がこの次元災害によって滅亡・消滅したとされ、管理局がロストロギア収集に躍起になるのも、これを引き起こしかねないという危機感からというのが本来の原因であった。
 アウロラの“口”を借りて、管制プログラムは話を続ける。
 展開についていけないメイリィとダイゴが呆けた顔をしているその横で、セロの顔から微笑が消えている事に、玄十郎は気付いた。

【次元災害の名は<ヒドゥン>。全てを凍てつかせる、時を壊す・・・・大災害です】
「<ヒドゥン>、だと……!?」
 
 その単語を耳にした瞬間、戦慄が走った。
 冗談で出てくる名前では無い。冗談でも口にして良い名前では無い。それ以前に、デバイスが冗談を口にする事など有り得ない。ならば何かの間違いであると考えるのはまったく自然な事だったが、しかし例え間違いであったとしても、その名前が出た以上は放置出来ない。
 ヒドゥン。それは数ある次元災害の中で、最悪と言われる類のもの。
 記録だけでその名を知っている園崎玄十郎をして――戦慄させる程に。

【急いでください。もう時間がありません。奴が復活するまでに・・・・・・・・・、迎え撃つ用意を整えなければ――】






Turn to the Next.






後書き:

 という訳で、第四話でした。お付き合いありがとうございました。
 今回が本作の折り返し地点になります。残りは三話(と幕間が少し)、もう少しだけ宜しくお願い致します。
 セロの身体に関してはまあこういうオチです。生命維持を全て魔力に頼っている為、魔力がある限りはほぼ不老不死としてみました。セロの殺し方は作中で玄十郎が言っている通りですね。首を斬る、脳を潰す、完全に消し飛ばす。要は首から上を如何に素早く破壊するかです。後はリンカーコアへの直接攻撃。魔力供給が滞れば死にますので、そういう意味でシャマルさんなんかは天敵と言えます。
 ヒドゥンは“倒す”では無く“拘束する”という形にしてみました。いや、どう間違ってもメイリィがヒドゥンを倒せるイメージが無かったもので。その内復活してきますので、その時こそちゃんと『人類VS大怪獣』な話になるかと。
 管理局が何だか酷い扱いですが、あくまで組織の一側面という事でご容赦下さい。ダイゴみたいな人間も居る訳ですし。
 アウロラに何だか変なのが憑いてしまいましたが、その辺は次回に。

 といったところで、本日はこの辺で。宜しければ、またお付き合いください。



おまけ:元ネタ暴露コーナー

・フロギストン・ケージ……物質燃焼に関する説の一つ「フロギストン説」から。カロリック・バスターの元ネタ「カロリック説」との繋がりからです。

・魔力変換資質『復元』……名詞では無いのですが、ちょっと解説。この魔力変換資質という設定、結構広げられるんじゃないかと前から思っていたのです。キャラとしての特色付けるのに便利じゃないか、というところからセロに持たせてみました。原作では『炎熱』『電気』『凍結』の三つでしたが、本作ではこれに加えて『流動』『拡散』『不活性』『汚染』、それに『治癒』と『復元』が存在しています。
 
・対広域次元災害システム<Deseo>……これ別に、何かの頭文字を合わせた言葉では無いです。欲求、欲望を意味するスペイン語ですね。システム開発に関わった人間が半ば冗談で付けた名前、という程度の設定です。

 今回はこんな感じで。それでは、また。








感想代理人プロフィール

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代理人の感想
距離を取るセロに思わず吹きました。
いや確かに不気味だわ、想像してみると。w

後なんてメタ、と思ったヒロイン発言だけど、どっちかというとワムウと最初にやりあった時の第二部ジョセフか、これは。w
みっともなくても、無様でも、勝利のために這い進む。
うむ、まさしく主人公(ヒロイン)。燃えるぜ。
後14歳の娘ッ子と互角に張り合うダイゴが素敵。これって鯉? もとい恋?

 

ところで、すっかり忘れてましたけど艦長生きてます?
いや、ダイゴが「ついでだから」って船の横に埋めてそうな気が(爆)。


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