ラブひな 「歌舞伎町のゴルゴ13」

第1話 「ひなた荘」

 

ドドンパQ

 

 組織が崩壊して三日目。

 昼間は東大生、夜は歌舞伎町の裏組織で働いていた俺は組織崩壊後、緊張の糸が切れて極度の疲れに悩まされていた。「歌舞伎町のゴルゴ13」と呼ばれていた俺だがやはり人の子らしい。「疲れたら温泉だよな」ってわけで俺はこの温泉街にやってきた。

 

 青山素子の体は疲れていた、なぜなら彼女は通学している高校の剣道部のエースであり、今日も部活に性を出していたのだ。彼女は京都の「神鳴流」と呼ばれる剣術道場の師範で精神修行のためにこのまち、「ひなた市」に住んでいるのである。

(帰ったら風呂に入ろう)

 彼女は「疲れたら温泉」と思っていた。

 彼女の歩いている前で明らかに道に迷っているらしきメガネの男がいた。この温泉街は古い町並みがそのまま残っているのでこういう人間を彼女は見慣れていた。彼女はそんな人間に対して自分から道案内するほどの性格ではなかったので、その男を追い抜こうとした。だがそのとき、後ろ向きの男からいきなり手刀が彼女の首筋を狙ってきた、彼女は突然の攻撃に戸惑いながらも袋に入っている竹刀でそれを止めた。男ははっとしたように気がつくと。

「いやあ、ごめんごめん…。びっくりしたでしょ」

 男はくだけた口調で素子に話しかけてきた。

(この男、できる)

 と、素子は思っていたが、男はぜんぜん気にしていないように話を続ける。

「あの、ちょっと道に迷ってて、きみ、ひなた旅館て知らないかい?」

「ひなた旅館?」

 素子は自分の住んでいる女子寮に名前が似ていると思いながらも頭の中で検索したが思い浮かばない。

「知らんな。すまない」

 素子は気の強い性格のせいか男言葉に近い口調で話す。

「そうか、ありがとう」

 そう言うと男は去っていった、彼はこれから2時間道に迷うことになる。

 

 

「ふひー、おっかしいなあ?」

 景太郎は道に迷っていた。さまざまな人に道を聞いたが自分の目的地を知る者はいない、彼は自分の記憶だけを頼りに歩いていた。秋にしては強い日差しが彼に汗を噴出させていた。

「確かこの辺だったはずなんだけどな?」

 石段を登り始めた。肩にかけたバッグが食い込んでくる、このままでは湯治で体を回復どころの話ではない。

「あっ」

 彼は石段を上り終え、記憶にあるその建物を発見した。

「ここがばあちゃんの経営している旅館…ひなた旅館か……」

 不思議なことに旅館の中は無人であった、彼のたずねてきた祖母でさえいないのである。そして彼は「管理人の間」を発見し、そこで休憩することにした。

 

 組織が崩壊して三日がたった、崩壊の原因はすべて俺にある。組織のぬれ仕事をすべて引き受けていた俺は1週間前、敵組織の幹部を殺すという任についていた。

 俺は敵が入居しているビルに向かったが待ち構えていたのか狙撃手に右腕をやられた、俺は左腕に銃を切り替えると遠距離であったが何とか狙撃手を殺した、だがもう俺は撤退するしかなかった。右腕の使えない俺は一線からはずされた、そして三日前、俺のいない組織はつぶされるしかなかった。ボスは逃亡し、仲間も散り散りになった。そして俺は付き合っていた女とも別れ、逃亡することにしたのである。単位が足りなく3年生になれるかが微妙なので東大にも行きたいがいま東京に向かうのは危険過ぎる、今度のテストでうまくやるしかない。

 

「悩んでもしょうがないか……」

 そう呟くと景太郎は旅館内を歩き始めた。

「あっ、温泉」

 ここまで来たのだから入るしかないだろう。

「はー、いい湯だね……」

 景太郎は包帯が生々しい右腕を湯に入れないようにしながら湯に浸っていた。

「しかし、ばあちゃんの旅館がここまでとは……」

 彼の記憶の中ではこんな豪華とは思っていなかった。

 景太郎が右腕の傷が治るまでここにいようと思っていたとき誰かがこの風呂場に入ってきたのを感じた。

(何だよ、客はいたんじゃないか)

 だが風呂場に入ってきたのは女だった。

(なにッ)

 景太郎が少し混乱しているのにもかかわらず、彼女は風呂に入ってきた。

「いやあ、いいお湯だねー。やっぱ昼風呂はサイコーよね」

 女はお構いなしに風呂に入ってきた。

(誰だー!?もしかしてこういうエロい温泉宿になっちまったのか?)

 景太郎が不信の目で見つめていると女も気づいたらしく、そばにおいてあったメガネをかけた。

 しばし沈黙の時間が流れる。

 女はメガネを湯船に落とすと思いっきり息を吸い込み始めた。

「あのっ」

 そして………、

「キャー、誰かー」

 女はかなりの音量で叫んだ。こうなれば景太郎も逃げるしかない。

「チカン!チカン!!よー」

 景太郎は逃げ出した。こういうことは手馴れたことだ。

「くそっ、男湯と女湯間違えたか、こりゃヤバイ!」

 彼はとりあえず脱衣所に入ろうとしたが、何かにぶつかった。ぶつかったものは硬い壁なぞではなく柔らかかった。それは女の胸。

「ごっ、ごめんなさーい」

「何やあんた、見かけん顔やなあ」

「キツネ!そいつチカンよ、捕まえてー」

 景太郎は逃げ出した。

(まずい、このままつかまって警察にでも連れて行かれたならば敵組織にすぐ存在が知られてしまう)

 急いでたはずなのに前方不注意の彼はまたぶつかった。洗濯物を持った少女にぶつかった彼は時間をロスすることになる。

(くそー、何でこんなに女の子が……?)

 彼はまた走り出した、前方に注意しつつ。

「もお、何の騒ぎですか?」

 目の前の廊下からおたまを持った少女が現れた、景太郎はぶつからないようにブレーキをかけたつもりだったが、その反動で腰に巻きつけていたタオルが浮き上がる。

「ヤ……、いやああああああっ」

 少女が叫んでしまった、まあ当然の反応だろう。

 

 

「む、何だ」

 素子は帰宅後自分の部屋でしばし精神統一を兼ねた瞑想を行い、いざ温泉へ行こうと思っていたところであったが突然の叫び声が聞こえた。

「チカンか!私の剣の錆にしてくれよう!!」

 彼女は愛刀「止水」を握り締めるとさわぎの元へ向かっていった。

 彼女がたどり着いたときにはすでに賊は屋上の物干し台にいた。追い詰めた。そこにいた男は数時間前彼女に道を尋ねてきた男だった。

(わざわざチカンするために道を聞いてきたのか?馬鹿なやつめ!)

「あっ、君は」

 男が素子に気づいて声をあげた。

「フッフッフッフ、馬鹿な男め!覚悟しろ」

 みんなでじりじりと相手を追い詰める。

「ちょっ、ちょっと待て、俺はここの旅館の婆さんを……」

 弁解など聞こえなかった、いっせいに攻撃が男に向かって始まる。

 

(ぐおおお…)

 さまざまな修羅場を潜り抜けてきた景太郎だが、この連続攻撃はかなり効いた。

「旅館ですって、ここが旅館だったのはずーーーっと前の話よ、今は男子禁制の契約アパート、つまり女子寮よ!!」

「なっなっなっ」

 ガビーン、景太郎の頭の中にこのような擬音が響いた。

「どうした騒々しいな……」

 景太郎の頭がスリープしている間も周りの時間は進む。

「あっ、寮長、実はチカンが」

 煙草を吸った女性は景太郎を見た。

「ん?おまえは甥の景太郎じゃないか?」

 希望の光。

「は、はるかおばさん!」

 景太郎は彼女に助けを求めようとよろうとしたが、顎下から蹴りが入り、中を舞う。

「おばさんっていうなっていつも言ってるだろうが!!」

 浦島はるか、そろそろあせりを感じる年齢である。

 

 

「ゼッタイ、ダメ!」

 景太郎が温泉をともにした女は叫んだ。

「た、頼むよ。俺ここのオーナーの孫なんだから」

 景太郎は必死になった、せめて右腕が治るまではここに居たい。

「大体ここは女子寮なんだから、そのうえしのぶちゃんまでに変なもの見せて」

 その言葉を聞いて、しのぶと呼ばれた少女は顔を赤らめた。

「あんさん大丈夫かい?」

 関西弁の女がトリップしたしのぶを必死に起こそうとする。

「しかし、まいったな……、それより婆さんはどこにいるの?」

 景太郎は伯母のはるかに聞いた。

「いないよ」

「へっ?」

「1年以上前に世界一周旅行に行ったきりでな、たまーにFAXが来る以外なのさ」

(マジかよ!)

 景太郎は心の中で叫んだ。

「トホホホ、いや、わかりました。お騒がせさせてすいませんでした」

 景太郎はあきらめた。ここで下手にやるのはあまりよくない。

(外国にでも逃げるか……)

 いる場所がない。

「悪いねえ、景太郎。ここなら部屋代も浮くのにね、通学は大変だけど」

「ええ、そうですね」

「あんた確か今東大生だもんね」

(忘れてた……、外国逃げたら3年生になれん!!)

「ええ、まあ」

 景太郎は気のない言葉で答えた。彼にとって東大よりも大切なものがあるからだ。

「確か二年生だっけ」

「ええ、今年は単位足りるかわかりませ……「東大…?」」

「東京大学!!??」

 彼の滞在に反対していた女たちが一斉に叫んだ。

「ほんまか?」

「うそ……」

「まさかこの顔で」

「すごいです」

「トーダイってなに?うまいんか?」

 景太郎は驚いた、彼が前にいた世界では東大生といっても誰も信用しようとしなかった。

(これはチャンスや)

 関西弁の女、キツネはこの機会を最高の機会と思った、玉の輿。

「どや、みんな。ここはひとつセンセをおいてやるのは」

「異議なし」

「賛成」

「ちょっとキツネ!ここは女子寮なのよ!勝手に決めないでよ」

「何や、なる。それはちょっと酷いんとちゃうか?」

「振袖合うのも多少の縁、と言うでしょう」

「ひどいです、成瀬川先輩」

「オニや、オニババやー」

 成瀬川と呼ばれた女は周りに圧倒された。

「わかったわよ……」

 彼女はしぶしぶ了解した。

「ようこそひなた荘へ」

 景太郎は一気に決められたことに圧倒された。

「よ……よろしく」

 

 

「はあー、何か得したな。東大入っててよかったー」

 景太郎の前にいた世界ではそんなものはまったく関係なかったが、一般社会では、やはり学歴がものを言う。

 彼は部屋を出て窓の外を見た。海がよく見えた。

「いい景色だ……」 

 そう言うと彼はシャツのポケットから煙草を出し、火をつけた。紫煙が舞う。

「おまえにも見せたいなあ、メイリン……」

 彼が昔の女の名前を呟いて感傷に浸っていたとき、

「誰?メイリンって」

 急に肩を誰かにつかまれた。

「うわあーーー」

 景太郎はリラックスしていたために、反応できなかった。

「ウチの名前は紺野みつね、通称キツネや。よろしゅう」

「浦島景太郎です」

 彼はそう言うと灰皿に短くなったタバコを押し付けた。

「おう、東大生の景太郎君やな」

「いや、今年は進学できるか難しいんですけどね」

「いやいやそれでも東大生は東大生や、それより景太郎君は彼女とかおるん?」

 景太郎はちょっと戸惑った。

「いや、実は三日前ふられちゃったもんで」

 間違ってはいない、もう二度と彼女とは会えないだろう。

(もろうた)

「実はウチな、東大生の彼氏持つの、ずっと夢だったんや」

「はあ」

 景太郎は話の脈絡がよくわからなかったので力なく答えた。

「いや、もちろんこんなこと相手の気持ちも聞かずに言うのもあれなんやけども……ウチのことどう思う?」

「いや、どうって」

 初対面なのだから答えようがない。

「ウチの胸のたかなり、聞いてみてや」

 そう言うとキツネは景太郎の手をつかみ自分の胸へ持っていった。やわらかな感触が彼の手に伝わる。

「キツネさん」

 そう言うと景太郎はキツネの頬へ左手も持っていった。

(えっ、もしかして成功。でもまだ心の準備が……)

 キツネは玉の輿を期待したが、

「イファイ、イハイ」

 景太郎はキツネの頬をつねった。

「下心丸見え」

 景太郎はそう言うと手を離した。

「なにか誤解している、僕の専行しているのは考古学ですよ、儲かるはずがない。宝を当てれば教授職、はずれれば一生安月給の講師のまま。発掘費用も今は馬鹿になりませんからねえ。はっきり言ってリスクとリターンがかみ合わない。玉の輿なんて考えないほうが身のためですよ」

「えっ、そうなんか?」

「ええ、成功するなんて百人に一人ですよ。そのかわり、ロマンはありますけれどね」

「なんで、ええ仕事につける学部選ばなかったん?」

「それは……男のロマンですよ」 

 景太郎はそう言うとまた煙草を吸い始めた、その姿は少し憂いを帯びて格好がよかった。

(この男、カッコいいんとちゃうか?)

 そう思うとキツネは部屋から去っていった。

 

 

 景太郎はタバコをふかしながら、まだ海を見ていた。

「あの……」

 後ろから声をかけられた、今度の景太郎はただぼうっとしているだけではなかったので体が反応して、くるっと後ろを向いた。

「すいません驚かしてしまいましたか?」

「いやっ、確か君は中一の?」

「ま、前原しのぶと言います」

「なんだい?」

 景太郎はこういう少女の対応は知らないのでなるべく静かに言った。

「あの……、えと、もしよかったら勉強見てもらえないかと思って……」

「え、まあいいけど」

 景太郎は中学の問題というものに少し躊躇があったが、実際は簡単な関数だったので答えることができた。

「わかったかい?」

「ありがとうございます」

 景太郎が解いたノートを渡すとしのぶはうれしそうに言った。

「あ、そうだ。これクッキー焼いたのでどうぞ」

 そのクッキーは形の微妙ないびつさを見る限り手作りのようだった。景太郎はそのうちのひとつを口に含む。懐かしい味が口の中に浮かぶ。

「あの、まずいですか?」

 しのぶが心配な顔で景太郎の顔を覗きこむ。

「いや、手作りクッキーを焼いてくれる人がいてね、その人のことを思い出してね」

「それって女の人ですか?」

「昔の話さ……」

 しのぶのこのすました顔をした男のことをいい男だと思った。

「あっ、あの……」

「なんだい?」

「先輩って呼んでいいですか?」

「まあ、そんな立派なもんじゃないけどね」

 

 

 成瀬川なるは景太郎のことを疑っていた。「チカン=東大生」という公式は彼女の中で絶対に成り立たないのである。

 彼女は自分の頭の中を完全に整理すべく、管理人の間に向かった。

「ちょっとあんた」

「なんだい」

 景太郎は窓辺でまたタバコをふかしていた。

「これ、解いてみてくれる?」

 成瀬川が取り出すは東大の過去問題集。

「いや、いきなり言われてもさ、俺の年のやつでもいい?」

「かまわないわ」

 景太郎はその言葉に安心すると世界史のページを開いた。

「問一、B。問二、C。その後@、A。これでいいかい?」

 成瀬川は答えを見ながら、肩が震えた。

「うそ、全問正解?」

「あたり前だろ、俺が受けたときの問題なんだから」

「あんたって本当に東大生なの?」

「うそついてどうすんだよ」

「じゃあさ、私も今年受験生なんだ、よかったら勉強教えてくれない?」

「かまわないけど……」

「いいのね、約束よ」

 そう言うと成瀬川は顔を少し赤らめながら部屋から出ていった。

 

 

「おい、浦島。食事の時間だ、早く来い」

 素子は景太郎の部屋の外で声をかけたが、反応がなかった。不思議に思った素子は障子を開けた。

 景太郎は窓辺に座って寝ていた。久々に緊張感が抜けた生活は彼の心をリラックスさせて、夢を見せていた、懐かしい思い出を。

 素子は耳元で叫んでやろうと思い、景太郎に近づいていった。昼間の奇襲のお返しというわけだ。だが、景太郎はいきなり手をあげ、何かを求めるように目の前を探っていた。

(なんだ?)

 素子は怪しい男のそぶりを見ながらその行動を観察することにした。

「か、カッカ、カ……」

 景太郎はいきなり呟き始めた。

(どうなるのだ?)

 素子はさらなる関心を持ち観察をはじめる。

カレーに肉が入ってないってどういうことだ!!

 景太郎はわけのわからない寝言を呟いた。

(なんなんだ、こいつは?)

 素子は観察を止め、わけのわからない男を起こそうとした。

「メイリン……」

 景太郎は呟いた。

(メイリン?女の名前か?)

 恋愛ごとに興味のない素子はさして気にせずさらに景太郎に近づいた。だが、景太郎は寝ていた瞳を急にかっと開くと窓の外に身を投げた

「なっ!」

 素子は驚いた、こんな動きをする人間は彼女の姉ぐらいしか知らないからだ。

「うっ、ちょっと待て、俺は今……。うわーーーー」

 完全に目の覚めた景太郎は垂直に落ちていった。

「何者なんだ、あいつは…」

 素子ははじめて男に興味を持った。

 

 

 目の前が明るくなってくる、それ現象は景太郎に頭が活動をはじめていることを理解させるが、いかんせんその頭がまだぼうっとしていた。薄目を開ける、光が強すぎて開けることができない。そのわずかから見てわかるのは誰かが彼の顔を覗きこんでいるということだ。昔もこんなことがあった気がする、その黒髪には思い出があった。彼は寝ぼけたその目で目の前の女の唇を見つけると、それにくちづけをした……、だがその行為をした瞬間体に衝撃が走る。

「デュカピッ!」

 景太郎は吹き飛んだ、その瞬間彼の頭は完全に目覚め、受身をとった。

「何をするんだ浦島ァ!!」

 そこにいたのはあの女ではなく、素子と呼ばれている女だった。彼女は唇をぬぐいながら、本気で怒っているらしくその手には真剣が握られていた。

「ちょっ、待て。今のは不可抗力で」

「なにがどうなったら、そうなるんだ!!」

 そう叫ぶと素子は剣を振り上げてきた。

「のおっ!」

 景太郎は半分寝ぼけた頭で逃げた。彼が裏社会にいたときはヤクザの相手もよくしていたが、今の時代に日本刀を使う者などいない。銃が身近にあればよかったのだが、景太郎はそういった武器をすべて捨ててきていた。

 素子は本気だった、景太郎は逃げるしか方法がなかった。だが景太郎が逃げに逃げを重ねようとしたところ、畳に足を滑らして右を下に転んだ、けがをしている右腕に激痛が走る。

「うおおーー」

 素子は攻撃をしないうちから相手が苦しみだしたことによって、攻撃の手を止めた。

「どうした?」

「いや、ちょっと右腕をけがしててね」 

 素子はけが人相手に戦う気はなかったので、刀をさやに納めた。

「ちょっと見せてみろ」

「いや、いいよ」

「いいから上着を脱いで右腕を見せろと言っているんだ」

 景太郎は言われるがままに上着を脱ぐと包帯の巻かれた右手を彼女に差し出した。

(なんだ、こいつの体は?)

 素子は昼間のチカン騒動で気がつかなかった、景太郎の体を見て驚いた。

 景太郎の体は均整がかなり整っていた、そして体の所々には薄いが無数の傷がついていた、そしてなにより彼女を驚かせたのは包帯を解いた右腕だった。傷口こそ小さいが縫ってあり、貫通しているその傷は強い衝撃がかかってできたことを物語っていた。

(銃創?)

 彼女は少ない知識の中からその傷が何なのか想定したが、まさか日本でそんなことはありえないだろうとたかをくくった。素子はガーゼを取り替え、その上に包帯を巻いていった。

「あの高さから落ちて何ともないとは不思議だな…」 

「いや……、まあ慣れててね。昔から衝撃には強いんだ」

「なにをやっていた?」

「なにって?」

 景太郎はとぼけた顔をして逆質問をした。

「とぼけるな、おまえの体を見る限りただ者じゃない」

「体って?」

「その鍛えられた筋肉、傷はどういうことなんだ、一般人じゃそこまでいかないぞ」

「この筋肉は、アルバイト先できつい労働やってるうちについちゃってね、傷は同棲してた女の子によく引っ掻かれたんだよ」

 景太郎は頭をかきつつ笑った。

(下手なうそだ)

 素子はそう思った、人には過去というものがある、深くかかわらないほうがいい。

 

 

「いいところだな……」

 景太郎は部屋の中で呟いた。先ほど食べた食事はおいしかったし、楽しかった。いつも女とふたりで食べていた彼にとっては家族というものを感じた瞬間だった。

「ダメだな、俺は…」

 景太郎はこの寮を出て行くことを決めた、血に汚れた自分はこの場所に似合わない。

 

 翌朝、早くに起きた景太郎は荷物を持つと寮を出ていった。

 この先どうしようか?今度の東大のテストには出なければならないので関東の温泉街でも渡り歩こう。

「ふー」 

 景太郎はため息をつきながら路面電車の駅のベンチに腰掛けた。

「おい」

 後ろから急に声をかけられた。振り向くとそこには素子が立っていた。

「素子ちゃん」

「なにをやっておるのだ?」

「いやあ、やっぱり出てくことにしたよ。女子寮に男が住みつくというのもさすがにまずいだろ」

「まあ、そうだが……。それよりこれからどうするつもりだ?」

「俺には帰るところがないんでね、どっか放浪するさ」

 二人の間に沈黙が流れる、話題が終わったからだ。

「そこにいるのは景太郎じゃないか」

 そこにはるかが現れた。

「ほう、素子と仲がよくなったのか?」

「いや、寮長、私はそんなんじゃなくて」

 素子は必死に否定した。

「あっ、はるかおば…いやはるかさん、俺やっぱり出ていきますよ。婆さんにもよろしく言っといて下さい」

「それはナシだ」

「はっ?」

「ばあちゃんからFAXがきた、大変なことになったぞ」

「え?」

 はるかは疑問符を浮かべている景太郎に書類を渡した。

「土地権利証明書?」

 彼の崩壊した組織は地上げもやっていたのでそれには見覚えがあるが、なぜここにこんなものが?

「正式な書類さ、ばあちゃんがひなた荘全部あんたにくれるってさ、管理人なれば」

「は?!」

 景太郎と素子は素っ頓狂な声を発した。

 運命が絡み合う。

 

 

 

 作者の叫び

 私は素子派です。

 ちなみにこの作品で描かれる歌舞伎町は浦沢直樹先生の「20世紀少年」がもととなっております。

 ではまた。

 

 

 

 

代理人の感想

・・・・・・・・どう見ても怪しいジャンキーにしか見えん(爆)