視界を、真冬の冷たい雨が塞いでいた。

 まるで白い帳が下りたような道の中を、一台の真紅のバイクが凄まじい速さで駆け抜けていく。

 本来なら、確実に雨にバイクの足を取られてスリップしそうなコンディションの中。

 しかしそのバイクは危なげなく奔っていた。

 そのバイクに乗っていたのは一人の男性。

 全身を雨に濡らしながら、ヘルメットから靴の色まで黒で統一されたファッションの高町 恭也だった。



 「ふむ、……もう少しもって欲しかったが。……仕方ないか」



 雨に濡れながら、小さく愚痴る。

 雨の予報を知ってはいたが、時間を掛けない心算だったので傘も何も持ってきてはいなかった。

 せめてもの幸いは、注文の品を届けた後だったことか。



 (やれやれ、……【啓】を使えば気にもならなくなるのだがな。

  流石に、こんな事に使うわけにもいかんか……)



 自業自得、と思いながら、恭也はバイクのグリップを握りこみ、バイクのスピードを上げた。








とらいあんぐる ハート

〜 天の空座  運命破綻篇 〜 




  

<第一幕 / 繊月>  剣雨あめに歌えば















 「……ん?」



 丁度、山の麓付近に差し掛かった辺りで、恭也はソレを見つけた。



 (……何だ?……紫の、ゴミ袋か?)



 ヘルメット越しに目を細める。

 雨で霞んで見えにくいが、それは薄紫色をした何かで、丁度大き目のポリ袋ぐらいはあった。

 何かが入っているのか、小さく山を作って盛り上がっている。

 ソレが道の真中辺りにポツンと、見捨てられたように落ちていた。



 (ふむ、……来るときには、何もなかった筈だがな?)



 誰かが捨てていったのかと思いながら、恭也はソレを避けようと少しだけバイクの速度を落とした。

 そのまま横を通り過ぎていこうとして、



 「なぁ!?」



 その紫から覗く物に気が付いた。

 そこから覗いていたのは、小さな人の手。

 恭也は慌ててバイクから飛び降り、ソレに駆け寄った。


 近くで見ると、それは紫色をした大きな布のようだった。

 それがまるで被せるように、手の主を包んでいた。

 恭也はすぐさまそれを布ごと抱き上げ、手の主を確認する。



 「……女の子、だと?」



 目を見張った。

 その布に包まれていた手の主は、まだ年端もゆかぬ幼い少女だった。

 年の頃は十歳前後。

 恭也の末の妹である、なのはよりも年下のようだった。

 彼女を包んでいた布と同じ薄紫色の髪に、陶磁器の人形のように滑らかに整った顔立ちは今でも十分に美しい。

 しかし真冬の雨に長時間曝されていたのか、瞳を閉じたその顔色は、まるで血の気が全て失せたように真っ白になっており。

 体からも熱が失せているようで、ガタガタと体を小刻みに震わせていた。



 「おい、君!大丈夫か!?」



 腕の中で少女を揺すりながら、耳元で声を掛ける。

 だが少女はまるで反応を見せず、雨で肌に張り付いた髪が、顔を上を滑り落ちていくだけだった。



 「……ッ!」



 と、滑り落ちた髪で隠れていた耳元が露になり、恭也は僅かに顔を顰めた。

 髪の隙間から覗くその耳は、人のものより僅かに長く尖っていた。



 (人間ではないのか……。幻想種が、コチラ側に出てきて行き倒れになったのか?

  クソッ、何にしろ、これでは医者や病院はダメか)



 普通の人間ならパニックになったり、人と違う異端を忌諱するものだろう。

 しかし恭也は、経験上こういったものとの親交やら敵対やらで慣れていた。

 同時に、そういった者達について、多少なりとも看病や対応の仕方も。

 もう一度少女を抱えなおし、今度は掌を額に当てて熱を測ろうとしてみる。



 (熱は……ないのか。……むしろ完全に冷え切ってる。

  しかしこれは体温を雨に奪われたと言うより、むしろ体温を維持できないほど衰弱している感じだな)



 冷静に症状を観察しながら、しかしその実、舌打ちしたくなる気持ちを何とか抑える。

 せめてこれ以上の体温の流出を止めようと、近くに屋根の有る民家を探す。

 しかし山の入り口に程近い所で、民家など影も形も見えなかった。

 今度こそ苛立ちを隠そうともせず、恭也は舌打ちをしそうになり、



 (ん?……まてよ、この子まさか――――)



 何かに気付いたように、少女に視線を向ける。

 少女に視線を固定したまま、ほんの一瞬目を細め、小さく呟いた。



 「第一制限・限定開放」



 とたん、恭也の瞳が一瞬にして白銀に染まった。

 それと連動するように、瞳が染まった一瞬だけ恭也の表情が苦悶に歪んだ。



 (クッ、……やはり、生物の【概念情報】は【制動情報】とは桁が違うか)



 今、恭也はその【銀眼】を通して、この少女を構成する『概念』そのものを把握しようとしていた。

 常人ならその【情報】の多さと複雑さに、発狂しかねないほどの量。

 しかし恭也はその濁流の如き【情報量】を、コンマ以下の速さで捌き尽くす。

 そして恭也は、その中から必要な【情報】を掬い上げる。



 (―――やはりな、魔力で“受肉”した『魂魄』か。魔力不足で状態を維持できなくなっている。

  ……だが、何だ?確かに質そのものは幻想種が何か混じってはいるが、内包する力が下手な精霊並だな)



 精霊とは、この“星”そのものが自らの自衛のために生み出した一種の防衛手段である。

 中には自然の運営自体を司る存在も居るが、その実態としては人間よりも強力な力を持つ超越種の事。

 故に、これら精霊の中には人間から『神』と呼称される存在も居る。


 余談だが、『真祖』と呼ばれる『吸血種』もこれに分類される。


 ともかく、そんな存在と同等の力を持つ存在など、ハッキリ言って異常も良い所なのだ。



 (己が人の事を言えた義理でもないか……。

  まぁ良い。どちらにしろ、これなら何とかなるか)



 ほんの一瞬、自嘲に似た笑みに口元を歪めるが、すぐにそれを消し、少女をそっと抱き上げる。

 しかし恭也はほんの一瞬、躊躇うように少女を見つめて



 「……すまない」



 謝罪の言葉を口に、少女の唇へ自分のそれをそっと重ねた。




















 暗い闇の底に沈んでいた意識が、そっと引き上げられるのを感じた。



 (――――な、に?)



 霧散していた意識が、徐々に元に戻っていく。

 同じく、体にも感覚が行き渡ってきた。

 今まで感じていなかった感覚が、少女の触覚を刺激する。



 (……寒、い)



 水を吸ったローブが重く体に纏わり付き、冷たく湿った感触が体温を奪っていくのが感じられた。

 意識が無かったときからか、体がガタガタと震えていたのが解った。


 ふと、自分のすぐ近くに、温かい何かが有るのが分かった。

 半ば反射的にそれに縋り付き、暖を取るように抱き寄せる。



 「……気が付いたかい?」



 遠くのような、すぐ近くのような。ハッキリしない距離感で、聴覚が誰かの声を拾った。



 (……誰?)



 茫洋とした意識で、それでも瞼を開ける。

 視点が合わず、ぼやけた視界に灰色と黒の塊が映った。



 (これは、何?……私は――――)



 自分がどうなったのか判らず、縋っていた温もりをさらに強く抱きしめる。

 何か動揺するような気配が有ったが、気にしては入られない。

 まるで幼い子供が親に縋りつくように、不安に瞳を揺らしながら映ったそれを見ていた。


 と、今まで縋っていた温もりが、そっと自分を包み込むのが分かった。



 「……安心してくれ。悪いとは思ったが、君とラインを繋いだ。

  だから少なくとも、このまま君が消える事はない」



 少女を安心させるように、温もりがそっと頭を撫でる。

 優しい、まるで体に染み入るようなテノールの主が、この温もりの正体だと何となく分かった。

 その声の言う通り、身体に何時の間にかラインが繋がれていて、上質の魔力が注がれている。

 その魔力が染み渡るように身体に馴染み、ずれたピントを合わせるように視界が明瞭になっていく。



 (……ん?)



 視覚が戻った事で、今まで不鮮明に見えていたものがハッキリと像を結んだ。

 灰色は雲に覆われた空の色。黒の塊は人の、それも青年の顔だった。



 「大丈夫か?」



 安心させるように、穏やかな声で問いかける青年。

 その声が、先程から語りかけていた声の主だと気付いた。



 「――――――――あ、」



 同時に、青年を見た上げた瞬間、思わず気の抜けた声と共に呼吸を止めた。

 自分を見つめる二対の瞳。
 それがまるで、月光のような色彩いろを放っていた。

 かつて少女が自分の国で見上げた、包み込まれるような優しい輝き。

 それと同じその輝きに、魂すら抜かれたように見惚れていた。



 「…………?」



 そんな様子に怪訝な顔をしていた青年は、しかしすぐに何かに気付いたように少しだけ困ったように言った。



 「すまん、恐がらないで欲しい。この無表情は生まれつきなんだ。

  でも、君に危害を加えるような事はしないから」


 「―――え?あ、あの、えっと?」



 青年が何の事を言っているのか、始めは良く分からなかった。

 だがすぐに自分が何も言わないのは、青年の無表情に脅えているためだと、青年が勘違いしている事に気付いた。



 「い、いえ。これは―――」



 まさか貴方の瞳の色に見惚れていたとも言えず、返答に窮した瞬間、



 「―――え?」



 突然、青年が少女の事を抱き締めた。

 その事に自分が何かを言う間もなく、青年は自分を抱き締めたままその場から飛び退いた。



 「なにを――――!?」



 ―――ズドォンッ!!


 何をするのか、と叫ぼうとした瞬間、凄まじい轟音にその声は掻き消された。

 耳を穿ったその音の出所を探ると、今まで自分が居た所に一本の西洋剣がその場を抉って突き刺さっているのが見て取れた。



 (〜〜〜ッ!?な、何なの!!)



 あまりの展開に、思わず叫びだしそうになる。

 乱れる思考を、しかし一瞬で建て直し現状を整理、判断を下す。



 (あれは、……『宝具』ね。と言う事は、他の『サーヴァント』からの攻撃!!

  く、いくら今の私が弱っているからって、全く気付かなかったなんて!?

  ――――え?『全く気付かなかった』?)



 と、そこまでを一瞬で思考して、しかし自分のその考えに違和感を覚える。

 その違和感の答えが、すぐさま導き出される。

 思わず、自分を抱えて飛び上がった青年を注視する。



 (こ、この人、『サーヴァント』たる私が気付かなかったこの攻撃に反応したの!?

  いくら私が全『サーヴァント』中、戦闘能力が最弱の『キャスター』だったとしても、ただの人間が?そんな!!)



 驚愕に視線を上げると、青年はその銀色の瞳を飢狼のように鋭く細め闇の向こうを睨み付けていた。



 「―――ほう。……雑種ごときが、良くぞアレをかわした」



 視線の先の闇から、声が聞こえた。

 やがてその闇を押しのけるように、それが姿を現す。


 それを一言で表すなら、『金色の男』だろうか。

 逆立たせたその髪も金色なら、その身に纏うのも金色の鎧。

 美しいと言って良い顔立ちには、しかし自分以外の全てを見下すような不遜極まりない笑み。

 一見すれば、ただの悪趣味な鼻持ちならない優男だろう。

 ――だが、



 (な、……何なの、アイツは)



 思考ですら震える。
 目の前に立つその男から放たれる圧力プレッシャーによって。

 何故気付かなかったのかと、自分の感覚を疑いたくなる。

 それほどの気配を、男は隠しもせず近付いて来た。



 (――――怖い)



 それ以外の言葉が思い浮かばない。

 身を震わせ、小さく竦める。

 ただですら心身ともに弱っていたときに、彼女ですら理解できない異常事態。

 その事が、彼女からこの圧力に抗すだけの気力を奪っていた。

 そのまま恐怖の中に、溶けて消えてしまいそうになる。



 「―――何だ、お前は?」



 青年が、何かをいぶかしむように金色の男に尋ねる。

 その青年の物言いに気分を害したのか、金色の男は不快げに鼻を鳴らして言った。


 「口を慎め、雑種ごときがこのオレにそのような口をきくなど百年早い。

  ……まぁ、良いわ。おい雑種、その女と『令呪』を置いていけ。さすれば今の暴言、不問にしてやろう」


 「……何故、この子を求める?」


 「フンッ、そのような女、我には別にどうでも良いのだがな。

  ……あの男が、その『キャスター』の能力を欲しいらしい。

  まったく、この我にこんな雨の中仕事をさせるなど、不敬な奴だ」



 青年の言葉に、男は詰まらなさげに答えた。

 その言葉に、少女は青年の腕に抱かれながら自嘲の笑みを浮かべる。



 (そう、……そうよね。私に救いなんてあるはずない。

  誰かの都合で振り回されて、誰かの都合に使われて、そして、誰かの都合で捨てられる………

  まったく、どこまでいってもこんな事ばかり)



 自分を抱き締めているこの青年は、きっと自分をあの男に引き渡すだろう。

 あれほどの威圧感、同じ『サーヴァント』である自分ですらこうなのだ。

 まして、人間が抗しきれるものではない。

 誰だって、自分の命は惜しいものだ。


 弱った心に、次々と嫌な想像が浮かぶ。



 「断る」



 ―――だが、しかし。

 低く、しかし鋭い声と自分を抱く力が強まった事に、少女はハッと顔を上げる。
 あの金色の男に真正面から相対していると言うのに、青年はまるで気負された風もなく、淡々とその圧力プレッシャーを受け流していた。



 「なんだと?」


 「断ると言った。正直な話し、お前の言っている事を理解したわけでも、この子の事情を知っているわけでもない。

  だが―――」



 それだけでなく、まるで少女の怯えを消すように、力強く少女を抱き直す。



 「それでも、お前のような、この子を物の様に言う輩には渡せんよ」



 まるで宣言するように、この青年は男に向かって言い放った。

 あの、金色の『サーヴァント』の威圧感に、真正面から向き直って。


 ―――その言葉に。

 たったそれだけの根拠もないその言葉に、しかし少女から余計な力が抜けていくのが分かった。

 自分の正体を知っている者なら、―――

 いや、自分を誰よりも知っている少女自身ですら信じられない事に、それだけの事で少女はこの青年を信頼したのだ。

 未だ名前すら知らない、この青年の事を。


 ―――しかし



 「――こ、の。……無礼者がぁーーー!!!」



 青年の言葉が勘に触ったのか、金色の男が激高した声と共に、まるで配下の兵に進軍を命ずるかのように手を上げ。

 ――――そして、振り下ろした。



 (―――あれは!?)



 目を見張る。

 男が手を振り下ろした瞬間、男の背後の空間から突然様々な武器が現れ、矢のように飛び出してきた。

 剣が在った、槍が在った、矛が在った、刀が在った。

 何十、何百というそれらは、一つとして同じ物はないのに、それが何なのか『キャスター』である少女には判った。

 判って、しまった。



 (『宝、具』)



 『宝具』、『尊い幻想ノウブル・ファンタズム』とも呼ばれるそれ。

 人と云う種が扱う事の出来る最高位の神秘にして、それ単体だけで強大な力を秘めた『武器』。

 そして何より、『サーヴァント』が持つ切り札とでもいうべき武装。

 その本質としての能力は、『真名』・つまりそれの銘を呪文とすることで発動する。


 だが、目の前のこの『サーヴァント』は真名の開放こそないものの、その宝具をまるで湯水のように“矢”として撃ち出していた。

 自分と言う存在を消し飛ばして、なお有り余るほどの暴力の嵐。

 あれだけの力を前に、救いはなく、助かる術もない。

 だが、それでも



 (―――諦め、られない!!)

 「ανεμοζ!!」


 己に流れ込む魔力と周囲の大源マナを総動員し、最速の防御呪文を紡ぐ。

 本来、普通の魔術師なら数十分は掛かる大魔術を、ほぼ一瞬で展開できる『高速神言』。

 それを用いて、数十トンの衝撃にも耐えられる強力な障壁を張る。

 その障壁が少女と青年を包むように展開し、降り注ぐ宝具の雨をギリギリの所で防ぐ。



 「「何!!?」」



 その事に、青年と金色の『サーヴァント』が驚いたように少女を見た。

 恐らく、『サーヴァント』は彼女の介入が意外で、青年は少女の力に驚いたのだろう。


 ―――本来なら、少女は一度全てを諦めていた。

 このまま終わった所で、未練などなかった。

 だが、最後の最後で後悔が残ってしまった。

 必死に剣雨を防ぎながら、視線をそっと名も知らぬ青年に向ける。


 この期に及んで、自分を“信じ”させてくれた人。

 あの男の要求にも、自分を“裏切らなかった”人。



 「私が、防いでいられる間に、……速く、逃げてッ」



 声を搾り出す。

 死なせたくなかった、終わらせたくなかった。

 そんな思いが浮かぶなど、誰かを守るなんて所業がまだ出来るなど、思ってもみなかったのに。



 (フフフ、…何でこの人が私の『マスター』にならなかったのかしら?)



 自分の運命に、最後まで恨みの言葉が浮かぶ。

 しかし、それも良いと思った。

 だから彼女は、全霊を持って障壁を張り続ける。

 だが、そんな思いも虚しいと嘲笑うかのように、金色の『サーヴァント』がさらに虚空から一本の剣を引きずり出した。



 「雑種がぁ、!王である我の所業を邪魔するかぁ!!!」



 その剣を、今度は虚空から弾き出すのではなく、自らの手で撃ち出しす。

 その剣に込められた魔力が真名を開放してもいないのに、内包する力だけで辺りの大気すら軋ませる。



 (―――ダメッ、アレは防げない!!)



 自分はまだ良い。

 だがこのままでは、アレは確実に青年の命を奪うだろう。

 あまりの絶望感と己への歯がゆさに瞳を閉じ、歯を喰いしばる。

 そしてその凶剣の切っ先が、必死で張った障壁を濡れた紙のように容易く突き破り、自分たちの命に届こうとして



 「―――安心して良い。大丈夫だ」



 そんな、青年の穏やかな声が聞こえた。


 
―――ド、ガガガガガガッガガガ………!!!!


 最初の一撃を皮切りに、破られた場所から次々と新たに宝具の弾丸が自分たちを目指して殺到する。

 連続した轟音と、舞い散る粉塵が世界を一瞬で塗り潰した。




















 カラガラと、砂煙の向こう側で瓦礫の崩れるような音がする



 「―――ふん、殺してしまったか……。まぁ良い、あやつへはどうとでも言えるか」



 視界を塞ぐように舞う粉塵の向こうを、見下すように一瞥し、男はそのまま闇の中に消えていった。


 男が去った後に残ったものは、恐らくボロボロに吹き飛んだであろう大地と白い粉塵、そして静寂だけだった。

 と、―――



 「やれやれ、相手の生死すら確認せず殺した気でいられるとは、な。

  まぁ、この子を抱えたままで戦うわけにもいかんし、助かったと言えば助かったが……」



 粉塵の中から、呆れたようの声が響いた。

 ふと、その場所を雨水を伴なった一陣の風が、白い帳を吹き飛ばしていく。

 やがて姿を現したのは、黒衣に身を包んだ青年と、その腕の中でグッタリと体を預けている少女。

 恐らく、少女は力を使いきった上、それを破られた事で気を失ったのだろう。

 しかし、二人の姿にまるで外傷はなく、青年――恭也の佇まいはまるで揺らぎがない。

 やがて粉塵が消え、その場が露になった。


 ―――それは、異様な光景だった。

 恭也たちの周りの大地は無残にも抉れ、元の有様など想像も付かない。

 だが、恭也を中心とした半径一メートルの空間が、其処だけ何事もなかったかのように無傷だった。

 しかも、恭也の少女を抱くのとは逆の手には、何時の間にか白銀に輝く小太刀を持ち。

 その体は雨の薄闇の中に、ぼんやりと白銀の燐光を放っていた。



 「…………ふむ」



 しかし、その小太刀も燐光も、恭也が腕を一振りした瞬間まるで幻のように霧散した。

 後には何の名残もなく、ただ常と変わらぬ恭也の姿が其処には在った。



 「……もう少し、上手く捌けなんだか。……己もまだ、未熟と言う事か」



 自分の周りを眺め、呟くように言う。



 「う、……ぁ ぅ、」



 ふと、恭也の腕の中で、少女が小さく呻いた。

 恭也は少女に優しく視線を下ろし、そしてあの金色の男が消えていった方を見遣る。

 今度は鋭い、漆黒の狼のような眼差しで。



 (……狙われている子、か。何にせよ、ああいった輩を放って置くわけにもいかんしな)



 恭也はその場から踵を返すと、近くでこれまた何故か無傷の真紅のバイクに少女を乗せてバイクを押して歩き出した。

































 「何はともあれ、宿探しだな……」

















 

...... to be continue 






あとがき


 はい、第壱話でした。

 何だかいきなり『我様』出しましたが、恭也君の実力の一端と、必要単語を小出しするためにはどうしてもいきなり敵の出番が必要だったんです。

 青タイツは、このときまだ出てきていませんし、バー作どんは今出せば話がややこしくなります。

 『我様』の詰めの甘さと、偉そうな口ぶりでの秘密ポロリがピッタリでしたので彼になったんです。

 まぁ他にもキャス子さんが縮んでしまったり、様々なオリジナル要素が出てきているのですが……出来れば見捨てないでくださいね?


 あ、それと、このクロス作品に置ける魔術観の設定は、ベースとしてきのこさん設定ですが、こじつけやオリジナルで殆んど原形残さないかもしれません。



 そんな作品ですが、できれば最後まで見捨てないでくれると幸いです。では、次回。






感想代理人プロフィール

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代理人の感想

むしろいきなりロリキャスターか、と言うべきでは(笑)。

それはそれとして今回の、話の展開としてはありなんですが、

金と正面からガンをぶつけ合えるわ、あれをあっさり防ぐわ、

それだけでもうFate世界では無敵のバランスブレイカーじゃないでしょーか。

しかも中の人はうっかりしてないし(ここ重要)。