桜の季節。毎年のように夏の花の名前が読み上げられる。

「向日葵!」
例えそれが本人にとって嫌な事でも、他人からみればどこか羨ましく感じさせる間違いだ。
「あ、違った・・日向 葵!いや〜ごめんごめん。でもいい名前だな」
今年も、か…
私は毎年、始業式の終わった後の学活の時間、担任の先生に教室で名前を読み間違えられる。
初めて読み間違えられたのは、小学校の入学式での事。それから8年間、ずっと間違えられてきた。
私は全然向日葵みたいじゃないのに…。お日様から顔を背けていることしかできないのに…。向日葵みたいに皆に笑顔をあげることなんてできないのに…。

「アオー!」
「恵理ちゃん…」
私はついホッとした声で恵理ちゃんの名前を呼んでしまった。明るい声を上げながら教室に入ってきたのは親友の恵理ちゃん。今年、クラスが離れちゃってすごくショックだった。
「おい、恵理。お前の声バカでけーよ!」
「お前違うクラスだろー?何ここ来てんだよ」
陽貴君と、臣君。中1の時同じクラスになった。去年は4人でクループみたいになれたけど、今年はムードメーカーの恵理ちゃんいなくなっちゃったし、私一人ぼっちになっちゃうかなぁ…。
「いいじゃないっ私はアオのこと心配できてるんだからー。あんた達がアオ苛めるのを阻止しようとしてるのよっ!」
「何言ってんだよ…。それは俺たちの役目だろ?」
「そうそう。日向はボケてるからなー。目離なさないようにしとかないとな」
「あー!あんた達ダメよ!アオは私のなんだからー!絶対にあげないからねっ」
「…!」
びっくりした…。さっきの言葉って私を守るって言ってくれたのと同じ意味かな?でも私みたいな子、誰も守ってくれるわけないよね。恵理ちゃんが抱きついてきたのもびっくりした…。やっぱり恵理ちゃんって好きだな…。触れてると安心する。でも何かズレてるような…。


一年前の中1の一学期。恵理ちゃんと2人で帰っていた時、初めて恵理ちゃんがずるいと思った。
「アオさー、陽貴君のこと好きでしょ?」
「!?」
バレた…。バレてた…。どうしよう。どうしよう…。
「じつはさー、私も好きなんだよね」
「…」
知ってる。知ってるよ。私はいつだって絵里ちゃんの事見てる。だから恵理ちゃんの視線の先にいる人だってすぐにわかった。
私はすごく焦った。焦ってるのに、恵理ちゃんは余裕のある笑顔でこう言った。
「アオ、私たちライバルみたいになっちゃったけど、どっちかが陽貴君とくっついても、祝福しようね」
そんな…。そんな事言わないで。そんな顔して言わないで。ずるいよ。恵理ちゃんは可愛いんだよ?皆に沢山笑顔をあげることだってできるんだよ?私なんか比べものにならないのに、そんなのずるいよ…。でも、そんな笑顔で言われたら、私はこれしか答えようがない…。
「うん。そんなの当たり前だよ…」
私が一生懸命笑顔をつくってそういったら、恵理ちゃんの顔、一瞬だけ悲しい顔した。でもそれに気付くのはもう少し先のこと。
「うんっ。アオ大好き!」
恵理ちゃんを抱きとめながら私は気付いてしまった。自分が恵理ちゃんのこと、ひがんでること。ずるい…そう思ってしまったこと。
自分の心の汚さにめまいがする。
何で私は向日葵なんていわれなきゃならないんだろう…。私より恵理ちゃんの方が向日葵って感じがするのに…。
自分の全てが、恥かしく思った。


「ていあーん!」
恵理ちゃんが休み時間うちのクラスに来てイキナリ、手をあげて大声でそう言った。
「明日って創立記念日で学校休みでしょ?それでさ、4人で遊園地行かない?」
「おっいいね〜。恵理にしてはいい考えじゃん」
「そうだな…。明日は平日だし人も少ないだろうから丁度いいな」
あっやばい…!
「あ、あの…」
「ん?どうした日向。もしかして都合悪い?」
あ…。今陽貴君、暗い顔した。どうしよう…。
「あの、そうじゃなくて…。私絶叫系とかまったくダメだから私が行ったら皆楽しくないだろうし…」
「そんな事全然ないよ!私アオがいなきゃ楽しくないもん。」
恵理ちゃんがちょっとスネた顔してそう言った。
「そうそう。日向はきー使いすぎなんだよ」
「俺も絶叫系乗らないから大丈夫だよ。そういうんは理恵と臣に任せときゃいいよ」
臣君と陽貴君があきれた顔してる…。なんだか胸がすごく締め付けられた。
「ありがとう…」
皆私が気使ってるって感じてたんだ…。何か皆に失礼だったかな?あ、なんか息しにくい…。
「んじゃ、明日は遊園地ってことできまりね!」
恵理ちゃんの元気な声は、やっぱり落ち着くな…。
「あした晴れるといいなっ」
陽貴君は私に笑いかけてくれた。
やっぱり好きだな…。見てるだけでいい。陽貴君の隣には恵理ちゃんが似合う。私は遠くから見てるだけでいいんだ。
明日、なんだかいいことありそうな感じがした。

帰り道、ふと疑問に思って恵理ちゃんに聞いてみた。
「恵理ちゃん、何で陽貴君に告白しないの?」
「…」
あ、恵理ちゃん何か隠してる。すごく辛そうな顔して、下向いた。絵里ちゃんに一番似合わない格好だ。
「ま、いいじゃん?それよりアオは?何で告白しないの?」
「え!?私は…勇気ないし…」
自分が情けなく思えてきてしょうがない。目先のことばかりにとらわれて、さっきの恵理ちゃんの表情のことなんてすぐに忘れちゃっていた。
「なんでー?アオ可愛いし。告ってみなよ?」
私の顔はもう林檎のように赤かった。
「なにゆってんの〜っ」
恵理ちゃんが告れば絶対OKなのに…
そんな事考えていると恵理ちゃんはどこか遠いところを見つめながら言った。
「それよりさぁ、今年の夏休みは4人でいっぱい遊ぼうよ。私一人で寂しいから。」
振り向いて笑った恵理ちゃんは、とてもキラキラしていた。
「海に行こうよ!!スイカわりするの。花火大会の縁日も!毎日がカーニバルってくらい遊びまくろー!!」
そしてなぜかとても、もろく見えた。
私はまた気付いた。自分の汚い心。
もしかして、特定の人作っちゃうのもったいないって思ってたりする?なんか…そんな余裕…ずるいよ…

「うわー。人すくなーい!乗り物乗り放題だね!」
今日は4人で待ち合わせてから絶え間なく恵理ちゃんの元気な声が耳に届いてくる。
やっぱり4人でいるのは、楽しいな…。

「次はあれー!」
恵理ちゃんが勢いよく指差したのは観覧車。というより、指差した次の瞬間にはもう観覧車に向かって走り出していた。
陽貴君も臣君も恵理ちゃんを追って走り出した。
「あ、ねぇ!」
私は焦って3人を呼び止めた。
「さっきからゆっくりのばっかだから。いいよージェットコースターとか乗ってきて。私みてるから」
「そんなことないよー後で乗るし。観覧車はやっぱ乗っときたいし!」
「そうそう。俺らも楽しいし。これでいーの!」
3人とも優しいなぁ。やっぱ4人でいるのが一番楽しいな…
「うん。私も観覧車大好きっ」

観覧車の中で4人で何を話そうか考えていると、恵理ちゃんがとんでもない事を言い出した。
「ねぇ!じゃさ、ぐっぱで2人ずつに分かれて乗ろうよ。せっかくこんなガラ空きなんだからさーっ!!」
後で知ったことだが、これは恵理ちゃんと臣君が仕組んだことだった。最初からあの人と一緒になると決まっているとも知らずに、私はすごく焦った。
私が焦っている横で、恵理ちゃんの掛け声でぐっぱははじまっていた。
「じゃ、お先―」
恵理ちゃんは私をおいて臣君と一緒に観覧車へ乗り込んで行った。

「…」
「…」
「高いとこは平気なの?絶叫系ダメでも」
「あ、うん…」
よかった。なんとか会話続けないと。
「俺も…。気持ちいいよね。観覧車」
「うんっ…景色よく見えるしねー」
「…」
「…」
焦って、焦りまくって当たり前のことをいってしまった。これじゃ陽貴君つまんないだろうな。あ〜っでも何話せばいいかわかんないよーっ
「あの2人、どうしてっかな…」
…きっと。陽貴君だって、恵理ちゃんと乗りたかったよね…

観覧車がやっと地上について降りたら、恵理ちゃんが抱きついてきた。
「ねぇー聞いてよー。臣ったら頂上まで来た時、わざと揺すったんだよー。絶叫系よりよっぽど怖かったよ。もー!」
恵理ちゃんは臣君に文句いいながらも結構楽しかったっていう顔してた。
「うそつきー。キャーキャー騒いで大喜びしてたくせにーっ」
…やっぱり。
まだ2人はまだ何か騒いでる。理恵ちゃんたち楽しそう…。
「アオはどうだった?」
理恵ちゃんが話しかけている声も耳に入らない…。
なんか…。自分が惨めで、情けなくなる…。
「私ちょっと…。トイレ…行ってくるね。」

逃げちゃった…。でもどうしても涙、おさえられなかった。
私の周りには、明るくて、向日葵みたいな人がいっぱいなのに。私一人、中途半端な5月の向日葵は土の中にいて咲くことも出来ない…。こんな…
「あれー。日向さん?」
あ、同じクラスの子たちが3人。ほっといてほしいのにまだなにか話しかけてくる。
「日向さんもきてたんだー。1人?なわけないよね」
「うん。恵理ちゃんと陽貴君と臣君」
ああ、もう疲れちゃったなー。
「やっぱー?仲いいねー」
…そういわれたらなんか、ちょっと嬉しいかも。私って単純かも…。
「でもさーなんか…。やじゃない?恵理ちゃんと友達やってんの」
「…」
何も言えない。驚いて言葉を失った。
「男子だってどうしても恵理ちゃんの方に目がいっちゃうしさー。」
「ねー、損だよねー」
私も、思ってたけど…
「そーいえばさぁ、恵理ちゃんモテるのに彼氏つくらないじゃん?」
でも…
「惜しいんじゃない?一人に決めちゃうの。なんかせこーっ」
恵理ちゃんいってくれたもん。「アオと一緒にいると楽しい」って言ってくれたもん。
「かわいいと思っていい気なりすぎーっ」
何かの糸が切れた音がした。
「―――えっ、恵理ちゃんの悪口言わないでっ!」
「「「…!?」」」
ああ、もう止まらない。
「恵理ちゃんはっっ素直ないい子だよ!だから皆!恵理ちゃんを好きになるだけなんだよ!っ」
もう、いやだ…こんな自分、もう嫌だ…
「な…なに?へんなの…」
「そんなムキになっちゃって。バカみたい」
「いーけど?一生そうやってひきたて役やってれば?」
よかった。おさまった。あ、またやっちゃいそう…。もうこれ以上何もいわないで…。誰か止めて――!
「おまえらこそ…」
え?!と思って振り向いたら、すぐ後ろに陽貴君と臣君がいた。
「一生そうやってひがんでれば?」
クラスの子たちは2人を見て逃げていった。
「アオっ…」
後ろから恵理ちゃんの声がした。すごく泣きそうな声が聞えた。
声のした方に振り向いた瞬間、理恵ちゃんが私に抱きついてきた。あ、さっきの会話、聞いちゃったかな?恵理ちゃん、傷ついてないかな?大丈夫かな?
「うれしかったよ…アオの言葉、すっごく…」
え?クラスの子に言われたこと、ショックじゃないの?大丈夫なの?それに私は恵理ちゃんの思っているような子じゃないよ。そんなこと言わないで…私は心の中では…
「アオ…大好きだよ」
「…」
どうしよう、泣きそう。恥かしい。自分が恥かしい。
「アオ?」
「ちがう…本当は違うの。私が一番ひがんでる。」
私は手を思いっきりつっぱって、理恵ちゃんを引き剥がした。
「恵理ちゃんのことは大好きなの。本当なのに…。でも羨ましくて、心の中でいっぱいねたんでた。恵理ちゃんのこと…」
あ、恵理ちゃん泣いちゃった。どうしよう。
私まで涙でてきちゃった…。
「…そんなの、同じだよ私も」
え…?今なんて?
「アオのこと羨ましくて、ずっとねたんでたんだよ」
「えっ…?どうして恵理ちゃんが…?」
恵理ちゃんは私を包みこむような笑顔でいってくれた。
「アオは優しくて、いつもにこにこ傍にいてくれるじゃん」
あ…恵理ちゃん、そんな風に思っててくれたんだ…
「―――アオのそんなとこ、好きって思ってる男の子がいるんだよ」
え?恵理ちゃん、それただの勘違いじゃない?って聞こうと思った瞬間…
「わっ恵理!何言うっ…」
え?ちょっとまって?何で陽貴君がそんな風に顔真っ赤にしてそんなこと言うの?
「私ねぇ。本当は中1の終わりに陽貴に告ってフラれてるんだっごめんね!ずっと隠してて!」
恵理ちゃんは頬に涙の後を一筋残した、だけど綺麗な笑顔でそう言った。
「私たちしばらく絶叫系乗ってくるから2人で待っててよー!行くぞー!臣―!」
…恵理ちゃん。ありがとう。
皆少しずつ色んな想いをかかえながら、それでもいつも太陽の方を向いて、明るく、元気に一生懸命咲いてるんだ。
陽貴君が私に向き直り、言ってくれた言葉は
「えと、そういうことだから…返事聞かせて?」
今日はすごく、いいことあったな…
「あ、私も、えと…同じです…」

土の中の種も小さな芽を出して、いつか綺麗な花が咲く。

もうすぐ夏
 
向日葵の季節がくる
 

 

 

代理人の感想

短く、ベタで、落ちも読めてしまいますが。

それでも綺麗に纏まった、いい話でした。

ありがとうございました。