第2話 女剣士と少年

 

「ありゃまあ、これはずいぶんな光景だ」

 

私が全力で駆け抜けた先には、案の上、魔物がいた。

上級呪文ばかり詠唱してくるウイザ。

髪のかわりに蛇が頭に生えていて、目を合わせた者すべてを石へと変えるメ デューサ。

中身はカラッポ、鎧のみで動くという謎の騎士。

とどめが魔物のなかでもかなり恐れられているドラゴンだ。

皆、かなりのレベルの魔物である。

それなりに名のあるパーティーでも苦戦をしいられるだろう。

 

「ひえええ、命ばかりは、ぎゃあああああ!

 

と、いったふうに命乞いをしながら死んでいく者が続出している。

さっきまでの自信に満ちた表情はどこへやら。

まったくもって情けない限りだ。

 

「おっと」

 

ウイザが手を掲げると同時。

私は右へ跳躍する。

次の瞬間、私が元いた場所を中心に、大爆発が起きる。

あ、何人かが吹き飛ばされた。

 

「栄一!私はメデューサと謎の騎士とウイザを倒しちゃうから、ドラゴンを 押さえててって、あれ?」

 

周囲を見回してみる。

・・・栄一の姿が見えない。

 

「一体、どこにいっちゃったのかな?」

 

1.どこかで迷子になった。

2.突然トイレにいきたくなった。

3.めんどくさくなってここにきていない。

よくよく考えると爆音が響いたあとに栄一は走ってない気がする。

って、ことは答えは3かな?

 

「やれやれ、こまった人だなあ。と、いうことで早く迎えにいかなきゃ」

 

私は走って来た道を逆走しかけた。

 

 

ドオォォォォン!!

 

 

ドラゴンの尻尾が私の髪をかすめて地面に叩きつけられる。

地面に尻尾がかなり深くめりこんでいた。

尻尾をたどってたどって、その先にあったドラゴンの顔を見る。

 

「あははははは・・・・・・。やっぱ逃げちゃだめかな?」

 

私の問いに答えるかのようにドラゴンは炎をはいた。

鎧をも簡単に溶かしてしまうこの炎を直撃した日には即死もいいとこだ。

私は再び横に跳躍し、紙一重で炎をよける。

そして、よけつつ腰にある2本の刀の柄に手をかけた。

これはジャポンが作り出した武器、刀というものだ。

軽くて切れ味抜群な点が気に入っている。

私は右手で鳳翼。左手で麟牙を抜刀する。

 

「下手すると奥の手を使うことになるかもしれないね。

 あれは体にかかる負担が大きいから嫌なんだけどな」

 

とはいってみるものの実際かなりきつい戦いになりそうである。

 

「また、爆発上位呪文?だめだよ、そんな魔法じゃ女の子にはモテないよ」

 

呪文を詠唱中のウイザのふところに飛び込み、麟牙を一閃。

ウイザの首が胴を離れ、宙に舞う。

まずは一匹。

魔法を使用してくるうっとおしい敵を倒せたのは大きい。

すぐ側にいたメデューサに連続的に斬りかかる。

もちろん目を合わせないようにすることも忘れない。

 

キン!

 

金属が激突する音が辺りに響く。

再び一閃された麟牙は間違いなくメデューサに致命傷を与えるはずだった。

しかし、謎の騎士が持つ鋼の剣がそれを阻む。

 

「妙なコンビネーションなんか見せなくていいから」

 

私は腰を低くし、謎の騎士の左足にピンポイントで足払いをはなつ。

私の足と鎧で覆われた足。

どう考えても鎧の方が強度は上だった。

その結果・・・・・・

 

「いたたたたた!!」

 

シャレにならない激痛。

こりゃ明日には青あざが出来ているに違いない。

せっかくの美脚が台無しになってしまう。

 

「・・・・・・」

「な、なにかな?その目は」

 

魔物達が思いっきり馬鹿にした目で見てくる。

ドラゴンも謎の騎士もメデュー、って危な!

メデューサと目を合わしたらそれだけで終わり、即死だった。

そんな死に方をしたら末代までの恥。

天国にいるであろう弟にも顔向けが出来ない。

あ、私が天国に行かずに地獄に行けば会うこともないか。

 

「って、げ!」

 

ドラゴンの尻尾が真上から迫ってきた。

 

「人が考え事をしてるのに、それはないんじゃないかな、っと」

 

私の両足で謎の騎士の足をカニばさみ式にはさみ、強引に体勢を崩させる。

その後、急いで起きあがり私はドラゴンの尻尾を回避した。

そう、私は、だ。

 

ぐしゃ!!!

 

私という目標を失った尻尾が潰したのは謎の騎士の頭部。

中身はカラといえども効いたのか謎の騎士はピクピクと痙攣を起こしている。

あれを私が食らったと仮定すると・・・・・・。

う゛、気分が悪くなってきた。

考えるのは止めておくとしよう。

 

地面にめり込んでいる尻尾めがけて鳳翼を振りおろす。

渾身の力を込めて放った上段からの斬撃は、固き鱗によってあっけなく無効 化。

あっと思ったときにはすでに遅し。

ドラゴンの尻尾が左腕に巻き付き、私の体は宙へと持ち上げられる。

それでもなんとか右手の鳳翼をメデューサに向かって投げつけた。

鳳翼の切っ先は上手い具合にメデューサの頭へ刺さり、その場で絶命する。

 

ギャオォォォォォ!!!

 

ドラゴンの咆吼が森の木々を揺らす。

仲間をやられたことに怒りを感じているのか、尻尾の締め付けが強くなり、 次の瞬間にはすごい勢いで地面へと叩きつけられた。

当然、受け身などとれるはずがない。

衝撃に息が詰まる。

 

「や、やばっ」

 

とどめだ、と言わんばかりに尻尾が私に迫る。

私は目を瞑り、死を覚悟した。

しかし・・・・・・

 

「尻尾が、こない?」

 

おそるおそる目を開けた先に見えたモノ。

 

「こ、子供?」

「大丈夫ですか?」

 

そこには12,3歳かと思われる少年が立っていた。

一体、なぜこんなところに?

あと、ドラゴンは?

頭の中が混乱してて現状がつかめない。

 

「ったく、こっちが手加減してると思って調子こいてんじゃねえぞ!」

「そちらにいきましたよ!エン!」

「わあってるよ!」

 

声のする方向を見ると、さらに分けが分からなくなった。

白銀の毛をもち姿は大きな狼、氷の支配者と言われているフェンリル。

9本の尻尾をもつ狐、世にあるすべてのモノを溶かすというキュウビ。

どちらも伝説とされる魔物で、私も絵でしか見たことがないのだが・・・。

その2匹が今、目の前にいるのだ。

しかも、ドラゴンと戦っている始末。

 

数十秒後、伝説の2匹を相手にして勝てるわけもなく、ドラゴンは地に伏し た。

 

 

 

 

 

 

 

少年は冬人、フェンリルはユキ、キュウビはエンという名前らしい。

いきなり現れた時も驚いたが、魔物に名前があるのも衝撃的だった。

 

「私はアリア・・・・・・、めんどいからアリスでいいや」

 

名前を教えてもらったのだから、こちらも教えるのが礼儀。

って、栄一に影響されすぎだろうか。

 

「あ、これ」

 

そういって冬人は鳳翼を渡してくれる。

どうやらメデューサに刺さっているのを抜き取ってくれたらしい。

私は感謝の言葉を述べてから受け取った。

キン、という音を立て、二刀は鞘に収まる。

 

ちらりと、私はドラゴンの方を見てみた。

 

「どうかしましたか?」

「いや、ドラゴン、もう死んだんだなあって思って」

 

冬人の問いに私は答える。

あれほど苦戦したドラゴンを、ものの数十秒で倒してしまったのだ。

すごいとしかいいようがない。

 

「? 死んでませんけど」

「そ、そうなの?」

「はい、気絶させただけです。だよね、エン、ユキ」

「ああ、殺しちゃいねえよ。死なねえように手加減したからよ」

「冬人様の御命令通りでございます」

 

あれで手加減とは。

私としてはかなりショックである。

 

「それよりお前、俺たちに感謝しろよ。

 俺たちがこなかったら死んでたんだからな」

「別に助けて欲しいなんて誰もいってないけど?エンちゃん

 

冬人とユキがその場で凍り付く。

エンの方もあっけにとられているようだ。

 

「て、てめ」

「冗談だよ。ジョーダン。ホントは感謝してるって。ありがと」

 

なでなで。

エンちゃんの頭をなでる。

お、これはいい毛並みだ。

 

「なでるな!!」

 

エンは跳躍し、私から間合いをとる。

 

「な、なんか変な方ですね、冬人様」

「う、うん」

 

私は差別とか区別というものが好きではない。

だから、相手が王様だろうと神だろうと関係ないのだ。

もちろん伝説の魔物に対してでも。

邪魔をするなら戦うし、からかいがいがあるならからかう。

エンはからかいがいがありそうなので、これからが楽しみだ。

 

それにしてもこの少年。

一体、何者なのだろうか?

会話から推察するに、エンちゃんやユキちゃんを従えているように思える。

ユキちゃんなんて様付けで呼んでるし。

 

「なんか、ぼくの顔についてますか?」

「うん。目と口と鼻がついてるよ」

「よかった。それがないとぼく、困っちゃいます」

 

むむ、今の切り返しもすばらしい。

やはりただ者ではないようだ。

謎は解決するどころかますます深く、分からなくなっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「してブレインよ。わらわに用事とは?

 このような夜半に起こすほどのことじゃ。

 さぞ重要なことなのだろうのう」

 

世界で最も美しいと言われている女性の笑顔。

ドキリとさせられると同時に、背筋に冷たいものを感じる。

カルナ。それが女神である彼女の名だ。

世界各地にいる5人の王が唯一、頭を下げねばならぬ相手である。

 

「はっ。勇者シンが例の者を捕獲。

 ウキラムからコライアスに向かう、という話はご存じのこととございます」

「確かシンから魔法で連絡があったんじゃったな。

 護衛のために強者を送ってくれとかなんとか」

「本日、ウキラムを出発とのことです。

 もっとも、ドラゴンを始めとする凶悪モンスター達により、すでに30人 ほどは死んだようですが」

「ほっほっほ。魔王もかなり焦っておるようじゃの」

 

カルナ様は心底うれしそうだった。

 

魔王軍と人間軍。

いままではこうちゃく状態だったが、これからは違う。

魔王軍が滅びる日も近い。

なにしろ魔王軍の首ともいえる人物を捕らえたのだから。

 

「魔王自ら動く日も近いかの。その日が魔王軍の最後じゃ」

 

魔王が出てきたら捕らえた人物を人質とし、魔王を殺す。

出てこなくとも、魔王軍の動きは規制される。

どうころんでも人間側が有利となることは間違いない。

 

「あと、もう一つ、ご報告が」

 

これこそが本題だ。

カルナ様の機嫌が悪くなるのは目に見えているので出来れば言いたくないの だが。

 

「なんじゃ?申してみよ」

「砂漠都市ライディで目撃、そして監視されていた<神殺し>が消息不明に なったとのことです」

 

カルナ様の表情が愉快から不快へと変わっていく。

 

世間では世界最強の男を神。

そして女のことを女神と呼ぶ。

カルナ様は現在の女神。

神々は不老となり、老いで死ぬことはない。

死ぬのは戦いに敗北したときだけなのである。

 

世界は神々のもの。

世界ほしさ故に神の座につこうと戦いを挑む者も少なくない。

だがしかし、今ここに神はいないのだ。

 

すべては100年前のこと。

当時、神とされ、またカルナ様の夫であった男は、ある男との戦いに敗れ、 死んだ。

神の権利はその男に移る。

だが、その男は世界に興味はなく、今も世界を放浪している。

ただ、最強を求め、神を殺した男はいつの間にか<神殺し>と呼ばれるよう になっていたのだった。

 

「もしかして魔王軍が雇ったということは」

「そうだとしても関係ないのう」

「なぜ、ですか?」

「わらわによって息の根を止められるからじゃ!!!」

 

カルナ様が放つすさまじい殺気。

この殺気を感じるたびに私はあの光景を思い出す。

6年前の惨劇。

殺されたのは幼い子供だった。

 

「さて、わらわはもう寝る。またなにかあったら報告するのじゃぞ」

 

先ほどの殺気が嘘のような笑顔。

私は恐ろしくて、しばらくその場を動けなかった。

 

 

代理人の感想

んむむむむ。

食い入るように読む、とまでは到底いきませんが、読んでて楽しさを覚えられるレベルにはなってますね。

できるなら量ないしスピードをもっともっとSkill my heart。