第3話 からかう人、からかわれる獣

 

「ん、んんん」

 

まだ眠い目をこすり、冬人は起床した。

眩しすぎる日差しが、完全に目を開けることを妨げる。

止めておけばよかったのだが、目が半開きのまま、ぼくは歩いてしまった。

足元を確認せずに。

 

「わ、わわわ」

 

石か何かを踏んづけてしまったのだろう。

体勢が大きく崩れる。

その先にまっていたものは地面との熱い口づけ、ではなく柔らかい毛だった。

 

「なにやってんだよ。アブねえな」

 

呆れたようなエンの声にぼくは驚いた。

どうやらこの毛はエンのもののようだ。

 

「おはようございます。よくお休みになられましたか?冬人様」

「うん、よく眠れた」

 

エンとは対照的に、鈴をならすような優しい声。ユキだ。

ぼくはこの声が大好きである。

母親のような雰囲気があるからだろうか。

あ、だからといってエンの声が嫌いというわけではない。

朝起きたばかりのときはちょっとビックリさせられるだけだ。

 

ふと、周りを見回してみた。

まだ早い時間のためか、鎧をつけている人は皆、ぐっすり寝ている。

 

「ユキはどう?よく眠れた?」

「はい」

「エンは・・・・・・」

「バッチリだ」

 

エンは寝不足〜というオーラを全面に発しながら言う。

見張りをしていてくれたのだろう。

一睡もしてないのではないだろうか。

 

「エン」

「な、なんだよ」

「ありがとう」

「べ、別に俺はお前のために起きてたわけじゃねえぞ!

 ただなんとなく、月を見てたら朝になってただけだ!」

 

ぼくは一言もエンが一晩中起きてた、なんて言ってないのに。

ぶっきらぼうだが、これがエンなりの優しさなのだ。

 

「じゃ、さっそく顔を洗いに行こう」

 

昨日歩いているときに見かけた湖に向かって一人と2匹は歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜、よく寝た」

アリスは大きく伸びをする。

固くなった体がほぐれていく感じが心地よい。

 

皆、まだ寝ているようだ辺りはいやに静かである。

聞こえるのは小鳥のさえずり。

風で揺れる木々のこすれあう音ぐらい。

・・・・・・この集団は見張りもたてずに寝ていたのだろうか。

夜中に敵襲があったらどうするつもりだったんだろ。

なんか、この集団の行く先が見えた気がする。

 

「さてと、今日も1日頑張ろっかな、と?」

 

地を踏みしめるはずだった右足が空をきる。

私は妙な浮遊感とともに体が反転する。

天地が逆さにって、私落下してる!?

 

「あ、そっか」

 

私は思い出した。

自分が木の上で寝ていたということを。

まあ、高さ自体はたいしたことないから死ぬことはないけど。

それでも頭からいったら痛そうだ。

 

「あ〜、落ちる〜」

「朝から元気だな。君は」

 

私が行き着いた先は地面・・・・・・ではなく、栄一の腕の中。

どっからともなく現れた栄一が、ナイスキャッチしてくれたのである。

 

「ありがと、栄ちゃん」

「昨晩、寝るときは近くにいたのに今朝になって姿が消えているので驚いた。

 どこにいるかと思えば木の上にいる。なぜだ?」

「いや〜、私ってば寝相が悪くて。気づいたら木の上にいたんだよね」

「それは大変だな」

「・・・・・・」

「? どうかしたか」

 

どうやら栄ちゃんはかなりの天然キャラらしい・・・。

私は栄ちゃんに下ろしてもらう。

 

まあ実際は、その辺で寝ていると男がよってくるからだ。

初めこそ殴り飛ばして、空をきらめく星

にしていたのだが、徐々に面倒になり移動した、というわけである。

 

「では、これはそのときに置き忘れたということか」

 

栄一の持っている物、それは、

 

「鳳翼!麟牙!」

 

移動したときはかなり眠かったため置いてきてしまったのだろう。

 

「大事なものなのだろう」

「栄ちゃ〜ん、大感謝!!」

 

私は栄ちゃんの頬にお礼のキスをした。

栄ちゃんの照れる顔がみれるかと期待したのだが、残念。

黒いサングラスごしだが、栄ちゃんの目には同様の色すらない。

 

「その栄ちゃんというのは?」

「もちろん君の呼び名だよん。気に入らなかった?」

「そんなことはない。君の好きなように呼んでかまわん」

 

栄ちゃんは身をひるがえす。

ふわり、とコートが舞う。

 

「また後で会おう。もう刀を忘れるな」

 

軽く手を挙げ、栄ちゃんは去っていった。

 

「さてと、顔でも洗いにいこっかな」

 

銀色の陽射しが心地よく感じられる中、私は湖を目指して歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「お、先客がいる」

 

森にポッカリと穴をあけたような場所にある湖。

そこには冬ちゃん達がいた。

 

「冬ちゃん、おはよ」

「おはようございます」

 

冬ちゃんの側に腰を下ろし、私は顔を洗った。

冷たい水が皮膚を刺激する。

少し痛い気がするが、顔を洗わないと私は一日寝ぼけたままで、ミスが多く なるから仕方ない。

 

「おい」

 

顔を洗い終わった後、急に背後から声をかけられた。

私はそちらへ顔を向ける。

 

「てめえは確か・・・・・・」

 

そこにいたのはからかいがいのあるあの人だった。

 

「誰?君」

「は、はあ?」

「なに言ってるの。君と私は今日が初対面だよ」

「ち、違うだろ。昨日、会ったじゃねえか!」

 

おお、網にかかった。

さすが、と言うべきか。

 

「あ、もしかして新手のナンパ?困っちゃうな〜。私、好きな人がいるんだ けどな」

「な、なにを」

「でも、こんなかっこよくて、ナルシストなキュウビのお兄さんなら、1日 ぐらいいっか」

 で、どこに連れて行ってくれるの?」

「・・・・・・・・・・火山を一望できる山」

 

冬ちゃんとユキちゃんの時が凍り付いた・・・・・・気がした。

 

「わー、すてきー(棒読み)」

「俺になにいわせとんじゃー!!!」

「私の棒読みがそんなに気にくわなかったのかな?では、もう一度。

 わ〜、素敵〜。私、惚れちゃいそう(ハート)」

「なにが(ハート)だ! ってかナルシストなキュウビってなんだよ!」

「ん、まあ、エンちゃんのこと?

 に、してもなかなかのノリだったよエンちゃん」」

「こ・・・・・・」

「こ?」

「殺す!10回、いや20回殺す!!!」

 

エンちゃんがついにキレた。

思いっきりこちらに突っこんでくる。

まあ、怒りまかせの攻撃ほど先読みしやすいものはない。

 

私はひらりと攻撃をかわした。

 

頭に血が上ったエンちゃんがたどり着いたところ。

それは・・・・・・

 

 

ばしゃあぁぁぁぁぁぁん!

 

 

頭を冷やすにはもってこいの湖であった。

 

 

 

 

 

 

 

「わははははははは!」

 

眼前には湖の中で、めちゃくちゃに泳いでいるエンちゃんがいる。

何が彼をあんなにしてしまったのだろうか。

嘆かわしいことこの上ない。 

 

「アリスさんのせいですよ」

「ん、私、声に出してた?」

「はい。思いっきり出してました」

 

私は水辺の側に腰を下ろしていた。

隣には冬ちゃんが座っている。

冬ちゃんはエンちゃんを見ながら、何故か笑顔になっていた。

可笑しいから、というわけではなさそうだ。

微笑ましいときにする笑顔に近いかもしれない。

 

「なんか嬉しそうだね。冬ちゃん」

「そうですか?」

 

どうやら本人は自覚していなかったらしい。

 

「エンが・・・元気になったからかもしれません」

「エンちゃんが?」

 

私には何も変わってないように見えるのだが。

昨日知り合ったばかりのエンちゃんの変化なんてわかるわけないか。

でも、1週間ぐらいたったらエンちゃんのことが全部わかるかもしれない。

エンちゃん、単純そうだから。

 

「最近ちょっとしたことがありまして、人間嫌いになりかけてたんです」

「人間嫌い?」

「はい。人間は卑怯だって。姑息な手をつかわないと戦えないんだって、ぐ ちってましたし」

 

よくは分からないが、エンも魔物だ。

敵対する人間となにかあってもおかしくはない。

 

「だから正直、昨日、アリスさんがエンちゃんって呼んだとき、ヒヤッとし ました」

「私が真っ黒焦げになると思ったかな?」

「冗談抜きにそう思いました」

 

アリスの丸焼き・・・・・・。

う〜ん、自分で言うのもなんだが、まずそうだ。

ってか、私が焼かれてるんだから食べることは出来ないか。

ちょっと残念。

 

「でも、アリスさんの方が一枚上手で。

 さっきなんてエンに面白いことまで言わせたじゃないですか」

「いやあ、エンちゃんてホントからかいがいがあるんだよ」

「でも普通、キュウビをからかおうなんて考える人間はいないと思いますよ」

「じゃ、私ってば異常なんだね、きっと」

「はい。変です」

「お、言うねえ。冬ちゃん。そういうことを言う子は、こうだ!」

 

こちょこちょこちょこちょ。

生きとし生けるものすべての弱点といっても過言ではない?脇腹をくすぐっ てやる。

 

「ちょ、くすぐったいです!」

「それは当たり前だよん。くすぐってるんだし」

「はははははははは!っつ、げほ、げほっ」

 

冬ちゃんがむせたのでくすぐるのを止める。

ちょっと、やりすぎたかな?

冬ちゃんが少し睨んでくる。

 

「もう、アリスさん、ひどいです」

「あはは、ごめん、ごめん」

 

くすっと笑ってから、冬ちゃんは湖の方を見た。

私もそれにならうように湖を見る。

 

「アリスさんはいい人ですね」

 

冬ちゃんは独り言のようにつぶやく。

 

「人間がみんな、アリスさんみたいな人だったらいいんです けどね」

「ん?なんか言った?」

「い、いえ、なんでもありません」

 

冬ちゃんはぎこちなく笑いう。

そんな顔をしてるのに、なんでもないわけはないだろう。

しかし、なんとなく聞くのがためらわれた。

出会って、まだ日が浅いから私も無意識に遠慮してまってるのかもしれない。

 

「そういえばさ、冬ちゃんの首のものは何なの?」

「こ、これですか?」

 

気分と話題の転換をはかってみたのだが。

どうやら、失敗してしまったようだ。

冬ちゃんはさっき以上に、ぎこちない表情となっていた。

でも、気になったのだ。

まるで首輪のようであるそれが。

 

色は銀。装飾がかなり施されている冬ちゃんの首にあるもの。

オシャレやファッションのためのものではなさそうだが・・・。

 

「じゃ、そろそろ、戻ろうか」

「は、はい。そうですね」

 

こちらもやっぱり深く追求することがためらわれたので、ここでの話は終了。

私たちはあの武装集団に戻ることにした。

 

 

代理人の感想

何かいきなりまったりしてますねぇ・・・・いいんだろうかw

キャラ立ちにはいいかもしれないのだけれども。