第4話  影、動くとき

 

 

目が覚める。

初めに見えたものは青空。

そこに浮かぶ白い雲だった。

俺の名はリュウ・ブライアン。

大金目当てに参加したナイスガイ。

自慢じゃないが王都コライアスの武術大会ではベスト4の実績をもつ。

俺が町中を歩けば、誰もが熱い視線を送ってくるのだ。

 

「おはようございます、リュウさん!」

「ああ、おはよう」

 

話しかけてきた男は昨日知り合ったアルという男。

なんでも俺のファンであるらしい。

 

「リュウさん、今日もカッコイイッスね!」

「そうか?」

「そうっス。オレ、一生ついて行くッス」

 

子分のように荷物を持ってくれたりするアル。

さらに尊敬までしてくれているとなると悪い気はしない。

邪険にあつかうのも可哀想だから今日も荷物を持ってもらうとしよう。

 

「どうしたらそんなにかっこよく、しかも強くなれるんスか?オレもリュウ さんみたいになれるッスか?」

「まあ、かっこいいのは元々だから、それは無理だろう」

「そう、スか」

「だが強くはなれる。オレの次にな」

「ホントッすか!?」

「ああ、ホント、ホント」

 

って、ホントはウソだ。

全然強くなれる見込みなどない。

まあ、こうやって上手くつかってやろう。

まったく、いいパシリを拾ったものだ。

 

「そういえば昨日のドラゴンとかの魔物達、女が倒したらしいッスよ」

「は、何を馬鹿な。女なんぞに倒せるわけないだろ」

「まあ、ドラゴンだけは女が倒した訳じゃないらしいスけど」

「ほれみろ」

 

女なんぞにドラゴンが倒せるわけがない。

そのほかの魔物を倒したのだって、きっと弱っていたところにたまたま出く わして偶然倒しただけだろう。

女は女らしく家事でもやって、おとなしくしてりゃあいいのだ。

強さは男の特権。

剣を持つのも男だけでいい。

時々、女剣士と男剣士が戦って、女の方が勝つこともある。

だが、あれは男が手を抜いてるからだ。

最近では自分が強いと勘違いする女が増えていて、実に困る。

 

「それにしても残念っすね。足さえ怪我をしていなければリュウさんがドラ ゴンを倒してたのに」

「あ、ああ。そう、だな」

 

俺は昨日の戦いには参加していない。

足を怪我していたから。

断じて怖かったからというわけではない。

 

「こうやって、こうやって、けちょんけちょんに倒してたに違いないッスの にね」

 

アルは何かを殴るかのように腕を振り回す。

と、次の瞬間だった。

 

ドサ!

 

大きな音をたて、それは地面に落ちた。

 

「あ、アル!?」

 

眼前の光景を理解するのに数秒かかった。

地に落ちている物体。

それは・・・・・・

 

「お、おいアル。おまえ、左腕がおちてるぞ」

「こうやってこうやって」

 

アルは何事もなかったかのように腕を振り回し続ける。

 

ドサ!ドサドサ!!

 

左肩だけにとどまらず、次々と胴から離れていく。

まるで人形が壊れていくかのように。

そして、最後に首が宙を舞う。

生暖かい液体が俺に降り注いだ。

 

「こ、これ、は?」

 

液体を少しなめてみる。

口の中を切ったときにする鉄の味がした。

これは、血だ。

 

「た、大変だ!」

 

俺は近くにいた人に駆け寄る。

 

「おい、きいてくれ!人が勝手に死、ん、だ・・・・・・」

 

思わず硬直してしまう。

その人もまた、胴と手足が切断されたからだ。

 

「だ、誰だ!!!」

 

俺は剣を鞘から抜いた。

自然に体がバラバラになるはずがない。

誰か、誰かが近くに潜んでいて、そいつがやったことに違いないのだ。

 

「でてこい!いるのはわかってんだ!!」

 

すっと、木の陰から2メートルはあろうかという大剣を持った一人の男が姿 を見せた。

いや、女かもしれない。

その辺はそいつが仮面をかぶっているので分からなかった。

体の方もローブみたいな黒い服を着ていて判別ができない。

 

「お前か?」

「・・・・・・」

「俺の質問に答えろ!」

 

その者は問いに答えず、片手で大剣を持ち上げた。

俺は咄嗟に剣を構える。

その者は、ゆっくり、本当にゆっくり大剣を振り下ろした。

 

「!!!!!」

 

突如、閃光が視界おおう。

何がどうなったのか分からなかった。

分かったことといえば圧倒的な力の差。

どんなに努力しようとも絶対に勝てない力の差。

そして、俺が死ぬということだ。

 

まるで神という絶対的強者と戦っているかのような感覚。

薄れゆく意識のなかでそんなことを思ったが、もうどうでもいいことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばさ、冬ちゃんてジャポンなのかな?」

 

これは非常に気になっていたこと。

名前に漢字が入ってるのだからジャポンと考えるのが普通だろう。

しかし、なんか違う気がするのだ。

ジャポンじゃなくて、人間でもなくて、もっと別の種族のような。

 

「ぼくは・・・」

「冬人様!」

 

私と冬ちゃんの後ろを歩いているユキが大声で叫ぶ。

 

「アリスさんなら大丈夫だよ、ユキ」

「しかし・・・・・・」

 

ユキが何かを求めるようにエンの方を見る。

 

「俺は反対も同意もしねえ。冬人の好きなようにしな」

 

どうやらこれから話すことはかなり重要なことであるらしい。

それにしてもユキちゃんにはまだ私は信用されてないみたいだなあ。

私は人間だから仕方ないけど、少し悲しい。

エンちゃんには信用されてるみたいだけど。

 

「ぼく、魔族なんです」

「へえ〜」

 

・・・・・・・・・場が静かになる。

今、簡単に流しちゃったけどすごい衝撃的発言じゃなかったかな?

魔族とかなんとか。

みんなの表情を見ると唖然としていた。

え〜と、どうしよう。

 

「あの、それだけ、ですか?」

「う、うん」

 

これで前言撤回できなくなったし。

でも、ま、いっか。

冬ちゃんが安堵の表情を浮かべてるから。

まじめな話、冬ちゃんにとってはかなり重要なことだっただろう。

なにしろ人間あいてに自分は魔族ということを告白するのだ。

そのことでいままでの関係が崩れ去ってもおかしくない。

 

「で、でも、なんで名前が漢字なのかな?」

「あ、それはですね。魔族には名前がないからです」

「そうなんだ」

 

そういえばうわさに聞いたことがある。

魔族は名前がないということを。

じゃあ、一体どうやってそれぞれを識別するんだという話になるが。

まあ、その辺は魔族特有のものがあるのだろう。

ん?そうすると名前は誰につけてもらったんだろ?

 

「名前はある人に付けてもらいました。エンとユキもです」

 

まるで私の心を読んだかのような一言。 

ということはエンは炎。

ユキは雪からとったというところか。

キュウビにエン、フェンリルにユキ。

なんというかまあ、単純といえば単純である。

 

「ある人・・・・、親に付けてもらったんじゃないんだね」

「はい」

 

や、ある人って。

そんな通りすがりの人に付けてもらいました的な言 い方をされると反応に困る。

 

「アリスさんは、家族とかはいるんですか?」

「ん、いたよ」

「いた、ですか?」

「弟が一人ね。6年前に死んじゃったけど」

「仲は良かったんですか?」

「それがそうでもないんだよね。どういうわけか喧嘩ばっかりしてた」

 

生傷が絶えない日々。

真剣はさすがに使わなかった・・・気がする。

でも、殴り合いは多かった。

当時12歳の女が6歳の弟となにやってたんだか、と今では思う。

 

「両親のほうは記憶にないかな。いつのまにかいなくなってた」

 

私と弟をおいて蒸発してしまった。

あんな人たちは家族などではない。

だから、私の家族は弟だけだ。

 

一瞬、会話が途切れ、私たちの間に沈黙がはしる。

盛り上がるような会話ではなかったので仕方ないだろう。

 

ふと、思ったのだが、確か勇者は魔王軍が取り返しに来るほどの者を捕らえ たといっていた。

つまり、その人物は魔族の者ということになる。

 

「もしかして、勇者に捕らえられた人って、冬ちゃんのこと?」

 

冬ちゃんはなにも答えない。

それがむしろ、私のいったことの正しさを証明している。

 

「冬ちゃん・・・」

「は、はい?」

「私は邪魔しないから」

「?」

「逃げてもいいよ」

「!」

 

まだ短いつきあいだが私は冬ちゃんのことが気に入っている。

元々、ただなんとなく参加した仕事だし。

お金にも興味はない。

ましてやあの集団に、義理もなにもない。

様々なものを天秤にかけた場合、私の中で今、一番なのは冬ちゃんなのだ。

 

「いえ、いいです」

「なんで?自由になりたくないの?」

「2つ、理由があります。1つは言えませんけど」

「じゃあ、言える方の1つは?」

 

一瞬、間をおいてから冬ちゃんはゆっくり口をひらく。 

 

「アリスさんと・・・、もっと一緒にいたいからです」

 

心温まる冬ちゃんの一言。

まるで意中の人に告白したときみたいに顔が真っ赤になっていた。。

 

「もう、冬ちゃんったら、照れちゃって可愛いー」

 

私は冬ちゃんのことをぎゅっと抱きしめた。

 

「あ〜、お二人さん。ちょっと邪魔してわりいんだけどな。

 この先からすげえ臭いがするぜ」

 

エンちゃんの言葉の通り、すごい嫌な臭いが鼻をかすめる。

なんともいえない生臭さ。

生物がある状態になったときに発する臭い。

ある状態、それは死体だ。

 

 

 

 

 

 

 

私の眼前に広がる光景。

それはにわかに信じがたいものであった。

いままでも幾度となくひどい死体は見てきた。

だが、これらはレベルが違う。

私ですらまともに見れる光景ではない。

手や足が胴と離れているだけならまだいい。

体内の内臓という内臓が、すべてひきずりだされているものまである。

 

「生存者は・・・・・・いない、かな」

「す、すごいですね」

「冬ちゃん、無理しないほうがいいよ」

 

魔族といえども、やはりこの光景は辛いのだろう。

冬ちゃんは鼻をおさえ、軽く涙目となっている。

 

「ま、魔物がやったことでしょうか?」

「ん、どうだろうね」

 

私は割と原型をとどめている死体の側に歩み寄る。

そして腕のない肩付近を調べてみた。

何かが切り裂いたあと。

しかも相当鋭利な何か、だ。

魔物の爪というわけではなさそうだ。

そして魔物が持つ武器によるものでもない。

魔物が持つ武器はこんなに切れ味はよくないからだ。

となれば答えは一つ。

 

「これ、人間がやったみたいだね」

「そ、そうなんですか?」

「たぶん、だけどね」

 

これほどの人間をあんなにも残酷に殺せるのだ。

脳が逝ってしまっている者か、殺人慣れしている者か。

どちらにせよ普通でないことは確かだ。

 

「はやくここを離れたほうが・・・」

「あ、それは無理」

「え?」

「もうすでに観られているから」

 

私の言葉と同時に辺りの空気がピン、と張りつめる。

この状況非常にマズイ。

こちらは冬ちゃんがいる。相手の場所を特定出来ていない。

おまけにかなり強い。

エンちゃんやユキちゃんぐらいはある、と思う。

あくまでも私の予感でしかないが。

 

相手の場所を特定出来ていない以上、下手に動けない。 

私は二刀を抜刀する。

エンちゃんは戦闘態勢をとる。

ユキちゃんは背に冬ちゃんをのせる。

 

勝負は相手の一撃目。

これを防げば相手の位置が把握できる。

そうすれば冬ちゃんも逃げやすくなるだろう。 

 

ガサッ!

 

頭上の木々から異常な音が聞こえた。

明らかに自然のものではない。

私はすぐさま上へと顔を向ける。

しかしそこには人影はなく、代わりに何かが落ちてきた。

 

「ぐうっ!」

 

大量の木の葉が真上から降り注ぎ、私は視界を奪われた。

咄嗟のことに体がうまく反応出来ない。

そこを敵はねらってきた。

 

誰かの手が私の後頭部をつかみ、次の瞬間、私の頭は激しく地面に叩きつけ られた。

握力が弱くなるのを感じる。

鳳翼と麟牙は私の手から離れ、音を立てて地に落ちた。

 

 

 

 

 

 

代理人の感想

主人公死す! 

次回から主人公は冬くんにバトンタッチして魔族水戸黄門が始まります!

さらばアリス、ようこそ冬人。

 

 

勿論嘘です。

 

 

 

ところであっさり死んだ王都武術大会ベスト4の立場は。(爆)