私は怯えていた。

ジウさんが死ぬことにではなくて、ジウさんが人を殺すことにではなくて………。

自分勝手な私は、一人でいることに怯えていた。

今、何かがあっても、助けてくれる誰かはいない。

だから、人というのは、村や町や国を作り、それらとともに生活を営むのだろう。

だけど、私にはそんなものは似合わない。いや、本当の私を受け入れてくれる人は、この世の中に誰もいないだろう。

私は仲間外れすぎる。

“神の人形”と呼ばれる私だけど、私は神様をいつでも憎んでいる。

「はぁ………」

思わず溜息が出た。

こんなことを考えられるだけ、まだましなんだな。だって、今までは………。

いや、よしておこう。思い出したくない。

ガサッ

その時、音が聞こえた。

何の音だろ?ジウさんが帰ってきたのかな?だったら、安心だ。

思考とは逆に、私は不安を感じて、後ろを振り向いた。この不安を見事に掻き消してくれれば、私は神様をきっと好きになっただろうけど、

「ふぇ?」

やっぱり、私は神様を好きになれそうにはなかった。







俺が“討伐”を開始してから数十分が経った。

未だに、次々と盗賊達の刃が俺を襲う。

俺はそれらを軽々と躱し、悠々と捌く。

続けざまに来る攻撃を、そうやって防ぎながら、隙を見て盗賊の一人に剣を振り下ろす。

相手の剣にその軌道を阻まれるも、相手は必ず苦悶の表情を顔面に浮かべる。

そうして、それを何度も繰り返す。

どこか余裕のある動きだった。

盗賊の一人に後ろへ廻り込まれても、俺は振り向きもせず、それを躱す。

さすがに、後ろに廻り込まれたままでは危ないから、その場からは動いたが、自分でも“遊んでいる”のが分かる。

そんな訳だから、盗賊達との実力の差は、圧倒的だった。

数が多いから、相手の方に死者こそ出ていないが、顔に焦りと疲労の色が濃く出ている。

焦りの方は、大方、20人近くの人間でたった一人の小僧を捉まえられないから、といったところだろう。

しかし、まぁ、“赫の猛禽”にここまで粘ってるんだ。もうちょっと満足な表情を見せたっていいだろうに。

そして疲労の方は、相手の動きにある。こちらは必要最小限の動きしかしていないのに対し、相手は無駄の多い動き、しかも最初に見張りの人間を俺が殺しているということで、恐怖か怒りか、原因はどっちかは知らないが、必要以上の力を手に込めているのだ。それでは疲労も、溜まりに溜まる。

俺は攻撃を防ぎながら、じっと相手の隙を窺った。

そろそろ、攻勢に出たいが、今のところはまだ無理だな。実力の差ははっきりとしていても、多勢に無勢ではあまり意味はない。一人斬っている間に、その隙を狙われて、こちらが殺される、か。

なら、もう少し、相手を攪乱して、疲れさせてからじっくりと潰すか。

「………っと」

男の刃が顔を掠め、髪を切った。

少し、油断のしすぎか。

だが、こんな奴らに傷を付けられるほど、俺は甘くない。

とはいえ、数が多いのだ。正面や背後、そして側面からも攻撃は来る。

今度は四方から同時に、6つの刃が俺を襲う。まぁ、連携攻撃としては、悪くないだろう。

俺は正確に、そして迅速に、刃の位置や軌道を、相手側の気配から読んだ。

そして、どこからの攻撃が一番少ないかを、確認するとその方向、右側へと一歩を踏み出す。

踏み出しながら、剣を剣で受け流しつつ、さらに右側へ進む。

すでに俺は、残りの5つの攻撃の軌道から逃れていた。

しかし、五本の剣が俺を介さず、地面に突き刺さっても、こちらの危機は変わらない。すぐに、攻撃が背後から繰り出さられるはずだ。

そうなる前に。

「はぁっ!!」

俺が先程受け流した剣の持ち主に向かって、直進し、突進する。

予想だにしなかったのか、相手は俺の体当たりに怯みながら後退する。

ここで、斬撃といきたいところだが………俺は蹴りを喰らわせ、相手を吹き飛ばし、距離を取った。

今、ここですべきことは危機から逃れること。

相手を本能の赴くままに、蹂躙することではない。

今の相手の攻撃で、確実に殺せると踏んでいたのだろうか。あちら側に、一瞬の隙が生まれた。

―――そろそろ攻勢に出たいが、今は少し様子を見るか。

俺は、一秒と経たない内に、どの男の間合いからも脱出できるように、飛び退った。

相手の様子をじっと見た俺は、盗賊達の顔に焦りと疲労に加え、絶望の色まで出ている。

こちらの実力との差を知って愕然としているのだろうか?だとしたら、遅すぎる。こうなる前に、逃げるか、それとも何らかの策を弄してこちらを潰せばよかったのに。

本当に馬鹿な奴らだ。

それはともかく、さて.........。そろそろかな?

俺はニヤリと口元に笑みを浮かべた。

行ける。

こちらの体力は有り余っているというほどではないにしろ、あちらほど消耗しきっているわけでもない。

あっちはあっちで、もうこちらに攻撃するつもりはないみたいだし。

いや、元気な状況で四方八方から囲んでも、こちらにかすり傷一つ負わせることが出来ないのだから、攻撃しても意味はないだろう。

何にしても、この機会は逃せない。

あいつらの攻撃に合わせて、躍ってやるのも面倒臭くなってきた。

掌も、人殺しの感触に疼いて疼いて、どうしようもない。

俺は剣を硬く握り直した。

ここで、躊躇する理由はない…………か。

なら――――。

俺は、即断すると、一気に地面を蹴った。

相手に急接近する。

演技をしてさえいなければ、奴らにはもう気力などこれぽっちも残っていないはずだ。

それほどまでに彼等には、覇気がなかった。

だから、俺には自信がたっぷりとあった。慢心と言い換えてもいい。

けど、俺のその慢心から生まれた動きについていける人間は、今目の前の敵20人近くの男たちの中には誰もいなかった。

俺は、男の一人を縦に真っ二つにした。

奴には、断末魔を上げる時間すらなかった。

遅れて、2人の男が後ろから襲い来るが………。

「遅いな」

冷静に、淡々と呟くと、振り向きながら相手の胴を切り裂く。

血が舞う。血が飛ぶ。血が降りかかる。

俺はこみ上げてくる快感に、笑みを抑えることが出来なかった。

思わず、歪んだ表情が浮かび上がる。

その笑みに恐怖を感じたのか、何人か後ろに下がったが………。

―――逃がすものかよ。

投擲用ナイフをいっぺんに数本持ち、手から放つ。

その一本一本が一人一人の急所に直撃した。

ナイフの刺さった男達の誰もが、即死した。

これで、残りは十人前後。

楽しめるのも、後十人前後、か。

少し苦しいかとも思ったが、これなら全然、余裕だ。

と油断したところに、また四方から剣が俺を狙うが。

「ふん」

その全ての剣を捌き、男の二人を俺は躊躇なく斬る。

一人は胴を両断され、一人は腹部に致命傷を負ったらしい。

人を殺したという事実が電流となって俺の身体を駆け巡った。

愉しい。全く持って愉しい。

全てを忘れられる。受け止めるべき、重さも今はない。

しかし、これじゃ麻薬と同じだな。

自分で思ったことに、俺は苦笑した。

確かに、この“娯楽”は、数日なら我慢できても、数ヶ月は我慢できそうにない。ここまで飽きない娯楽は他にはないだろう。

本当に狂っているな、人間というのは。いや、狂っているのは俺か?

いや、そんなことは関係ない。狂っているか、そうでないのかは、ましてや、それが人全体に言えることなのか、俺だけにしか言えないことなのかなど関係ない。

狂っているなら、狂っていても構わない。

今だけは、これでいいのだから。これで。

自嘲的なずれた笑みが俺の口元に浮かぶ。

その事実も、今は重くない。

かえって、そっちの方が愉しい、か。

俺が感慨に浸っている間にも、何人かが攻撃を仕掛けてくるが、あまり大したことはなかった。

むしろ、あちらの体力を無駄に浪費したいとしか思えない。

それでも、あいつらは剣を振りかぶってくる。

―――無駄だっていうのに。分からない奴らだな。

哀れみとも、蔑みともつかない感情を持ち遊びながら、相手の攻撃を見切る。

ついでに俺は剣を片手に持ち直すと、一気に3個もの首を斬り落とした。

「クッ」

笑い声が思わず漏れそうになったのを必死に堪えて、俺は顔を前に上げた。

まだ、攻撃は来る。

油断はいけないな、油断は。

俺はそう思いながらも、笑みを隠すことはしなかった。

そう笑いながら、相手の動きに合わせて攻撃を躱す。

ついでに、そいつの身体を思い切り、斬り裂いてやる。

血が一気に噴き出し、男の最後の叫び声が俺を快楽に震わせた。

ついでに近くにいた男の一人を、流れるように斬った。

俺はざっと周りを見回した。

残りは七人か。

その七人は恐怖に醜く顔を歪ませていたが、俺は男たちを逃がすつもりはなかった。

無論、相手が降参するというのなら、それはそれで構わない。剣を捨てた者を斬る気もないしな。

しかし、こいつらにはそんなつもりは毛頭にもないらしい。いや、恐怖で混乱し、この場をどう生き延びるかそれしか頭にないみたいだった。

まるで、昔の俺か。

ただ、俺と違うことは、こいつには生きるために必要な技量と気力がないということ。

そう思うと、愉しくて愉しくて仕方がない。

ガキの俺にはあったものが、大人のこいつらにはないなんてな。皮肉にも程がある。

こいつらも、こんなガキに殺されるなんて、さぞかし屈辱だろうな。

だからこそ………楽に殺してやるよ。

俺は一つに固まっている男たちに向かって、疾駆した。

男達がそれを見て身構えるが、遅い。

俺の剣が、敵に襲い掛かっていた。

それは一瞬のことだった。

ある者は心臓を、ある者は首を、ある者は肩を、刺され、断たれ、裂かれ、息絶える。

六人もの人間が、本当に、わずか一瞬の間に死んだ。

その感触に俺は大きな愉悦を感じた。

ただそれだけのこと。

残るは一人。

その最後に残った光栄な男を、俺は見た。

死を恐れ、恐怖に苦しみ、苦痛に打ちのめされた哀れな男の姿を俺はまじまじと凝視した。

男の膝はガクガクと震え、歯はカチカチと鳴り、視線はウロウロと周りへと泳いでいた。それでも男は、剣を離そうとはしなかった。

―――哀れだな。

剣を捨てれば、生き残れるものを。

「安心しろ。楽に殺してやる」

どこかの三流の悪役の決め台詞のような言葉を俺は口にした。

そのまま、流れるように相手に近付き、一思いに心臓を刺す。それだけで男は死んだ。

これで、仕事は終わり、か。

思えば、かわいそうな奴らだった。たった一人の子供に、いい20人の男達があっさりと全滅してしまうなんてな。そして弱い奴だった。

しかし……………………………………………………………………………。

「クックックック………」

笑い声が声が漏れる。

「ハッハッハハハ!!」

俺は人を殺したことのあまりの愉快さに、つい大声で笑ってしまう。血まみれた地面も、紅く染まった服や剣も、その場に横たわる多くの人間の死体も、俺には気にならず笑い続けられた。

最高の気分だった。



そうして、いつまで笑い続けただろう。

しかし、俺が笑えたのは、短い間だけだった。次第に俺の胸には重いものが圧し掛かり、表情には覇気がなくなっていった。

いつものように。

本当に麻薬だ。人と殺し合いをしている時は、何もかも忘れられるのに、人を殺し終わった後は、打って変わって暗い感情が俺の心を埋め尽くす。

「ちっ」

苛々につい舌打ちしてしまう。

勢いをなくしていた俺はその場に力なく腰を下ろした。

全く、どうしようもない男だな、俺は。

人を殺している最中は、あんなに愉しかったのに、今では、自分のやったことに震えている………か。

酒を飲んでいたわけでもない、正気の自分がやったことなのに、何故後悔なんかする?後悔して、何になる?

掌を見つめる。人を斬った感触にあんなにも喜んでいた俺の手は、今はただただ恐怖に震えている。あんなにも相手を嘲っていた俺の瞳は、本当の本当にわずかな涙で滲んでいた。

情けない。

俺は自分の、相手の死が怖かったんだ。

理不尽だな。殺すことに快感を感じていたはずの俺が、今はこうして力なくうなだれているなんて。

―――早く、町へ戻りたい。

人がたくさんいるところにいれば、こんな思いはしなくて済むだろうから。

人々が殺人者に向ける視線が俺には痛いかもしれないが、それでもここに一人でいるよりかはマシだ。

俺は震える手を固く握り直し、目をじっと閉じた。

―――そうだな、帰ろう。

そういや、ユニトを待たせてるんだっけな。

あいつが俺の人を殺している姿を見たらどう思うかな?

俺は自嘲交じりにそんなことを思った。

俺はゆっくりと立ち上がると、そこに放り投げていた剣を拾い上げ、ポケットから取り出した布で丁寧に血を落とす。

布が紅く染まり、その紅が徐々に深くなっていく。

その周りの静けさに俺は苦笑した。

つい先程まで、あんなに騒がしかったのが嘘のようだ。

だが、そのとき背筋に何かが走った。

―――人の気配?

ラドかユニトが俺を待ちきれず、ここに来たのだろうか?

しかし、意外に気が長い方のラドは“待ちきれない”ってことはないだろうし、ユニトは第一印象でしかないが、身の危険には敏感なように見えた。そんな二人がわざわざ来るのだろうか?

だとしたら、盗賊の生き残り?

何らかの事情で、そいつがこの場にいなかったのだとしたら、そういう事も考えられる。

―――そういうことなら………

俺は剣に手をかけた。

盗賊の生き残りなら、殺さなければならない。今は殺すのには、少し気が引けるか。

あんなに俺は人を殺すことを愉しんでいたのに………勝手だな。

俺は手にわずかな力を込め、気配のする方向に身体を向けた。敵が見えたら、すぐにしとめなければならない。

俺はしばらく待った後、何かが葉を鳴らす音を聞いた。

その葉を鳴らす音が近付いてくるのを聞きながら、俺は何があってもいいように身構えた。

不安はなかった。

恐怖もなかった。

なにせ、俺はここにいる二十人ばかしの男を、斬ったのだ。不安や恐怖を覚える方がおかしい。

だが、わずかながら、俺の掌は震えていた。

人殺しの快感を求めて震えているのか、それとも改めて感じさせられている罪悪感に震えているのか。

まあ、どうでもいい。

どちらにせよ、俺は近付いてくる、敵かもしれない気配に注意を注ぐだけだ。

ガサッ

とうとう、目の前の木の葉が揺れた。

人影が一歩を踏み出す。

俺は剣を構えなおす。

そうして、木々の陰から現われたのは、少しばかし痩せ細った男と………

「チッ」

俺は相手に感づかれないように、舌打ちをした。

痩せ細った男の前には首筋に、男のナイフが当てられた状態の…………ユニトがいた。両手首を縄のような物で縛られているらしく、自力で逃げ出すことは不可能だろう。

ユニトを一人にしたのは完全に失敗だったな。今、殺した連中の誰かが森の中をうろつくとも限らない状況で、女が何の武器も持たず一人でいたのは危険すぎた。

ユニトの表情は長く伸びすぎている前髪でよく見えないが、当然のように、口元はぶるぶると震えている。すっかり萎縮していて、小さい体がより小さく見えた。

それが、いっそう、俺の責任感と罪悪感に拍車をかける。

危険な目には逢わせないって言ったのに………くそ。

仕方がない。俺は男の一挙手一投足まで、警戒した。

この状況なら、男がどのような行為に及んでもおかしくない。

男の表情からは不思議と仲間を失った怒りと悲しみというようなものを、見受けることは出来なかった。むしろ、困惑と恐怖の色が強く出すぎている。

足もがくがくと震え、ナイフを持っている手つきもどこかおぼつかない。

まあ、ここまで酷い地獄絵図も滅多にないからな。殺した人間が一人という数だけに、余計に恐怖を覚えているのかもしれない。

しかい、これが相手なら、ユニトを傷付けずに済むかもしれない。状況の展開次第では、俺も剣を振る必要はなくなるだろう。

なら少し、交渉してみるか?場合によっては危険な賭けになるかもしれないが、やってみる価値はある。

俺は決断すると、無遠慮に口を開いた。

「初めまして。まずはその女の子を離してもらおうか」

ここで、ユニトと俺が知り合いだということを相手に示唆してしまうと、ユニトを人質にされてしまうかもしれなかったが、この際、仕方がない。

「今、この場で俺と戦っても、結果は見えてる。だったら、そいつを離して、逃げた方が得策じゃないか?」

俺は言いながら、一歩を踏み出す。

と同時に、俺は腰の投擲用のナイフも確認した。剣では、男がなにか行為に走ったとき、対処できなくなるからだ。

「ちなみにそいつを人質にしても、あまり意味はない。俺の手で殺すつもりはないが、あんたがそいつを殺せば、俺は容赦なくあんたを斬り捨てる。そいつを人質にしながら逃げても、走る速度は当然、遅くなる。あんたは、逃げ切れない」

これで選択肢は二つ。

逃げるか、ユニトを人質に取って自分が死ぬか。

恐らくは逃げてくれるだろう。万が一、ユニトを人質に取られても、策ぐらいはある。ついでに、そうなった時にかける言葉もな。

本当はこいつも殺さなければいけないのだが、それが元で善意の協力者を死なすわけにはいけない。

さあ、こいつはどうする?

俺は男の返事を待った。

男は一瞬、唇を噛み締めると、ナイフを固く握り締めた。力を込めすぎた反動か、ユニトの首にかすり傷をつけた。

「おい」

俺は低い声で呼びかける。

「そいつを道連れに、死ぬ気か?」

俺の言葉に、男は慌てた表情になり、ナイフをユニトの首筋から離す。

ここでユニトが暴れるなりしてくれれば、嬉しいんだがね。あいつの様子から見て、それを望むのは無理だろうな。

俺はもう一歩を踏み出す。これだけでも、男には、かなりの重圧になっているはずだ。

男はとうとう耐え切れず、言葉を発した。

「ま、待ってくれ。一つ話がある」

――――ほう。

この状況下で話か、さぞかし面白い話なんだろうな?

「お、俺と手を組まないか?」

今までの仲間を殺した奴と手を組みたいとは、酔狂な男だな………。

俺の中で軽蔑の感情がこみ上げてくる。

「悪いな、俺にはすでに相棒がいる」

「そうじゃない、話を最後まで聞いてくれ」

俺の断りを無視し、男は必死に懇願する。俺はとりあえず、黙って聞いておくことにした。

「………こいつを奴隷市場に売れば、もの凄い金になると思うんだ。それを二人で山分けして、俺たちは一夜にして大金持ちだ。な、いいだろ?」

ユニトを指差してそう言う男を俺は一瞥した。

何かと、思えばそんな話か。下らない。こいつには悪いが、もう話は終わりだな

「そいつがどういう風に金になるのか知らないが、全く持って興味のない話だな。もうちょっと、マシな話を聞かせろよ」

俺は呆れたように言った。

だが、男はまだ話を続ける。

「ああ、こいつの正体を知らないんだな?知ったら驚くぜぇ」

―――ユニトの正体?

俺は男の言葉に引っ掛かりを感じた。

「ダメェッ!!取らないでぇっ!!!」

そのとき、今までずっと黙っていたユニトが、堰を切ったかのように、気が狂ったかのように、急に叫びだした。今までのことが嘘のように暴れている。

「テメェ!大人しくしねぇか!!」

―――ユニト?

男はユニトの混乱ぶりに驚いた俺の目の前で、ユニトの髪の毛を掴んだ。

「イヤァ!!」

男は、ユニトの叫び声が木霊するのと同時に、アイツの髪の毛………いや、あれはカツラ?そのカツラらしき物をアイツの頭から取った。

「嘘だろ.........?」

俺はユニトのカツラを取られた姿を見て、呆然とした。

―――なんであいつが?

俺には、そうとしか思えなかった。

ユニトの涙に覆われた銀色の瞳が、虚ろになっているのが、痛々しい。

そうか。そうだったのか。

―――あの、私とジウさんって会ったことありません?

だけど…………。

―――……お前の名前を聞いて、聞き覚えがある名前だと思ったけど

だけど、なんで………なんであいつがここにいる。

あいつがカツラをしていたのは、あいつの頭に毛髪がない訳ではない。女としてはかなり短い髪だったが、しっかりと生えている。

――――でも。

俺は下唇を噛み締めた。

彼女の本当の髪の色は珍しい色だった。そして、俺にとっては見たことのある色だった。

淡く、儚く、寂しげで、鮮やかで、神秘的な色。

まるで世界の全てを詰め込んだかのような色。

人ではありえない色。

俺はぽつりとこう漏らした。

「“神の人形”………」



右から左へ、赤から橙へ、橙から黄へ、黄から緑へ、緑から青へ、青から藍へ、藍から紫へ。

そう。ユニト・ラストマジックの髪は虹色だった。

それは彼女が“神の人形”であるということを示していた。



――――俺はこのとき、過去と対峙しなければならないことを知っていた。









後書き



「精神的に向上心がない者は馬鹿だ」

いやぁ、学校で夏目漱石の「こころ」を読んでいる、あなたの知らない人です。うちの現文名物教師T先生が教えてくれる伏線に毎度驚かされています。最初は読むのも辛かったんですが、授業で使うということもあり、何度も読み返すうちに次第に面白くなっていきました。今度、書店でお見かけの際には買うことをオススメします。少々、古い作品ではありますが。

さて、「RAINBOW」本編ですが………。

今回、ちょっと不完全燃焼気味です。

まず、戦闘シーン。敵が弱すぎました。もうちょっと強くしてもよかったかも………。もしくは省くとか。

ジウの精神描写もなんかダメでした。上手く描ききれてないです。もうちょっと頑張れたはずなんですが。

後は、ユニトの虹色の髪ってのも、驚きが足りなかったような。

うう………こんなものを投稿していいのでしょうか?見てくださっている少ない方々に申しわけないです.........。



では、ここまで見読んでくださってありがとうございました。また、次回でお会いしましょう。っていうか、会いに来てください。









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代理人の感想

毎回だとげっぷが出ますが、一回ならばこういうくどい戦闘・・・というより虐殺シーンも悪くないのではないかと。

少なくとも今回に限ってはジウのキャラクター立てに貢献しているといっていいでしょう。

しかしこの作品は毎回戦闘シーンがあって必殺技があってというヒーロー物ではないようですし、

やはり戦闘シーンを出したり省略したり強い敵を出したりというところには注意を払う必要があるかと思われます。

それはさておき、今回は文章で一つだけどうしても見過ごせない点が。

どこかというとラストの「過去と対峙しなければならないことを知っていた」のくだりです。

話を読んでいくと今この瞬間、ユニトの髪を見た瞬間にそれを悟ったように思えますが、

そうであるなら「知っていた」という言葉は絶対に使えません。

「知った」か「悟った」のような過去形ではあっても、「知っていた」のような過去完了形ではいけないのです。

「ずっと以前から知っていた」ということになりますからね。

逆に「知っていた」という言葉のイメージの方を表現したかったのだとすると、

例えば「今にして思えば俺は過去と対峙しなければならないことを既に知っていたのだ。そう、彼女の名前を聞いたときから・・・」とか。

では、また。