「“神の人形”………」

血の色、火の色、太陽の色、葉や草の色、空の色、海の色、夜の色。その全てを詰め込んだかのような髪。

常人では考えられない色の髪。

その少女の虹色の髪という神秘性からなのか、“神”と、少女の虹色の髪という不自然さからなのか、“人形”と、その二つの単語を繋げた通称が、“神の人形”。

その“神の人形”が、ある国に殺人の道具として扱われているというのは、傭兵、裏稼業などの間ではかなり有名な噂である。

噂は興味を呼び、恐怖を起こさせる。根もあれば、葉もあった。

だが、ユニト・ラストマジックは、今この場に実在する。

そして、俺にとっては、存在の意味が違ってくる少女が、俺の目の前にいる。いや、本当は、昨日から俺の近くにいたのだ。

―――何で、気付かなかった!?

あいつの名前を聞いたとき、あいつが俺に向かって“知り合いじゃないか”って聞いたとき、あいつが盗賊に追われていたと聞いたとき、気付けたはずだ。

気付いてやれば、ユニトを傷つけることなんてなかったかもしれないのに。

なのに、何で気付けなかった!?

くそ。くそ。くそ。

………悔やんでも何も始まらない。それに、あれが本当に、“あのユニトならば”………俺は………。

俺は目の前の男を睨みつけた。

男の顔は、表情の消えたユニトに比べ、勝ち誇ったように笑っている。その顔を見て、何故か俺は苛付いた。

ふざけるな。こっちは頭を抱えたい気分なのに。

だが、ユニトの首にナイフが押し当てられているから、今は動けない。下手に動けば、ユニトを殺されるかもしれない。

今すべきことは、そうだな.........。

俺は、出来るだけ顔を動かさず、思案した。

待てよ、“殺される”………?

「……馬鹿か、お前は」

俺は男に対して、挑発的な態度をわざと取った。

もちろん、男としては切羽詰った状態だ。この状況での力関係も俺の方が上だ。

挑発を受けても、そうそう怒ったりはしない。むしろ、アテが外れたかもしれないという軽い不安を感じているだろう。

「お前はそいつを売ると言った。大金持ちになれるとか、何とか言ってな………」

ユニトは虹色の髪を持った、世にも珍しい“貴重品”だ。奴隷市場にでも行けば、必ず高く売れること間違いないだろう。だが、そこにこの男の落とし穴がある。

「あ、ああ、そうだ。それが、どうかしたのか?」

俺の言葉に返事した男の口調がわずかに震えた。

この様子なら、相手を困らせられる可能性は十分にある。行ける、な。

俺は意地悪い表情を浮かべ、男に言ってやった。

「つまり、お前は確実にそいつを殺せない。殺せば、そいつは売れなくなるからな」

その瞬間、男の目が面白いほど点になった。

「つまり、そいつは人質にならない。墓穴を掘ったな」

そう。机上の論理で考えれば、そうなる。だが、あくまでそれは机上の論理で、追い詰められた人間が同じようなことをするかどうかは、断定は出来ない。

だから、俺はこのことを直接、口で言ってやった。論理的に自分の間違いを指摘されると、人間というのは極端に弱くなる。少なくとも、反論を返すことは難しくなる。言えたとしても、それはしどろもどろなもので、お世辞にもきちんと言えることはない。

最も、この場合は少し違っていて、直接的に言ってやることで、ユニトを殺したら大金が手に入らないということを気付かせたのだ。男が気付いてなければ、ユニトが殺されるということもあったかもしれないが………。

これで、男がユニトを殺すという行為を封じられた。後は、男がどう動くかに対処すればいいだけだ。

―――そして、ユニトを、救い出す。

俺の手には思わず、力が込められていた。

珍しいな、俺がこんなに緊張しているのは。それほどまでに、ユニトに対して負い目を感じているって訳か。

全く、本当に俺らしくない。

俺は乾いた笑みを浮かべた。

男の方は、その笑みをどのように受け止めたのか知らないが、何故か俺が笑みを浮かべた瞬間、ビクッと震えた。

恐怖でも感じているのだろう。

だが、ユニトに押し付けたナイフだけはなかなか外さない。外したら殺されると本能的に分かっているのか………だとしたら、大したものだが。まあ、何にせよ、仕方がない。もう一押しだな。

「なあ、そろそろ、そいつを離してくれないか。そんなことで意地を張っても、意味ないだろう?」

俺は剣を相手に向けた。剣の届く距離ではないが、相手への威圧にはなる。

それでも、男は動かない。なら、もう一押しだ。

「それとも、何か?死ぬ方をわざわざ、選ぶとでも?まあ、それなら、それでいいが」

その瞬間、男は瞳を見開いた。殺気も、些細なものだったが、感じることができた。

余りの挑発に、男もついに痺れを切らしたか。

―――こいつの取った行動は、死か.........。

だが、男の取った行動は、俺の予想の範疇から外れていた。

ドサッ!!

「かはっ.........」

ユニトの華奢な体がその辺の木の幹に叩きつけられた。あいつの口から呻き声が漏れ、そのまま瞳を閉ざす。

今度は俺の瞳が点になったに違いない。

男はユニトを放り投げたのだ。

少なくとも、男はユニトだけは傷付けないと踏んでいただけに、俺は驚きと失念が隠せなかった。

「ユニトッ!!」

俺は声を荒げた。あの時からずっと、声を荒げることはなかったのに、こんぐらいのことで.........。

つい、歯噛みしてしまう。あの程度で、人が死ぬとは俺自身も思っていないのに。気絶しただけだというのに。

俺も相当、混乱しているな。ユニトが“あのユニト”だと気付いたからか。

だとしても、気を取られすぎだ。いつもの俺じゃない。

何故だか、そんな自分に苛付いた

「ウォォオォオッ!!」

その叫びに俺は、突っ込んでくる男のことに気が付いた。

その手には、いつの間に手にしたのか、剣が握られている。

―――こんなことにも、気付かないほど………。

男の剣が振られる。

だが、遅い。明らかに反応の遅れた俺でも、十分に避けられる攻撃だ。

いや、避ける必要もない。

俺は、男の剣の下に自分の剣を滑らせ、受け流し、そのまま男の首の付け根に剣を突き立てる。

人の死というのは、やはり、あっさりしているものだ。

男は、その転がっている仲間たちの数人と同じように、声も立てることができずに息絶えた。

こんなにもあっさりと、人は死ぬのに、何故なんだろう?

俺は気絶したユニトの顔をじっと見つめた。その寝顔は死んだように静かだった。ただ、胸の辺りが上下しているという以外、他に動きはなかった。

その顔に少しだけ、俺は安心した。

俺はユニトの傍にゆっくりと歩み寄った。

その眩しい虹色の髪を、そっと撫でる。

「せっかく、忘れようと思ったのにな.........」

俺はユニトの髪を撫でながら、誰に聞かれることもなく一人呟いた。





.........ゆらゆら.........。

何かが揺れてる。

………ゆらゆら…………ゆらゆら………。

暖かなモノの中で静かに、定期的に揺れる。

……ゆらゆら………ゆらゆら………ゆらゆら……。

だんだんと頭がハッキリしてきた。

ゆらゆら、ゆらゆら、ゆらゆら、ゆらゆら、ゆらゆら、ゆらゆら、ゆらゆら。

私は今まで寝ていたらしく、目を覚ました。

でも、まだ、夢を見てるのかな?それとも、寝ぼけてるのかな?だって、ジウさんの顔がこんな近くにあるなんて、おかしいっていうか、なんていうか.........。

「よう。起きたか」

ジウさんが語りかけてくる。

少なくとも、夢ではないみたいだけど、でも、この格好って、お姫さま抱っこってやつだよね?

うーん、いつかはされたいと無謀な夢を見てたりもしたけど………まさか、こんな所で叶うとは。でも、私はこの状況に、どう対処すればいいのかな?

っていうか、そもそも、何でこの状況になったんだろう?

確か………

―――ああ、こいつの正体を知らないんだな?知ったら驚くぜぇ。

そうだ。私、確かジウさんをあの丘で待っていたら、おじさんに偶然見つけられて、それでそのまま連れられて。

―――………こいつを奴隷市場に売れば、もの凄い金になると思うんだ。それを二人で山分けして、俺たちは一夜にして大金持ちだ。な、いいだろ?

勝手に変な話をあのおじさんが喋り始めて、それで………。

――――カツラを取られて。

嫌だ。そんなの嫌だ。

ジウさんは見てない。きっと見てない。

だって、見てたら私はもう……………!!

現実逃避という逃げ道以外に、私には選択権がなかった。

「おい、大丈夫か?」

言葉をかけてくれたジウさんの方を見ると、心配げにこっちを見ていた。

無意識の内に、体を震わせていたことに、ジウさんは気付いたのだろう。でも、私は震えを止めることができなかった。

ついつい邪推してしまう。

ジウさんが心配しているのは、私という“人間”ではなく、“商品”なんじゃないかと。

そして、タチの悪いことに、そういう邪推は大抵当たるんだ。

私は、それでも逃げようとする無駄な努力はしなかった。私は、今まさに彼の腕の中にいる。逃げてもどのみち無意味だ。

ただ、私はすがるように、ジウさんの服の裾を掴んだ。そして、ジウさんの視線から離れるように、視線を逸らして瞳もぎゅっと閉じた。

「ユニト?どっか調子でも悪いのか?」

私は首をふるふると振った。

ジウさんのことを悪く思っている訳じゃない。けど………嫌な想像が頭の中を駆け巡って離れない。

私は必死になって。ジウさんの服を掴んだ。

許しを乞うているわけでも、救いを乞うているわけでもない。ただ、意味もなく、ジウさんにすがった。

ジウさんは、そんな私に対してか、大きく溜息をついた。

「心配するな。取って食いやしないから」

ジウさんの言葉に私は、何も返せなかった。

ジウさんの顔を見るのが怖かった。いや、こうして、ジウさんの腕の中にいるのだから、怖がったって仕方がないのだけど。とにかく、どうしてもジウさんの顔は見れなかった。

そんな私の内心に関わらず、ジウさんは再び大きな溜息を吐いた。

「お前、人を何人も殺したんだって?」

ジウさんの口から飛び出した思いもよらない言葉に私は固くした。

そう、私は色んな人を殺した。

その中には、老人もいた。女性もいた。私より、小さな子供もいた。この手で、この口で殺した。何人も、何十人も、何百人も。

だけど。だけど。だけど。

このことを、ジウさんが知っているってことは………。

―――やっぱり、知ってたんだ。虹色の髪も間違い無く、見られてたんだ.........。

虹色の髪を見て、殺人者と判断したのだろう。

でも、私は違うことに気付いた。

―――私、自分のことしか考えてない。

私はそのことで、ジウさんが私を売ったり、利用としたりすることだけを恐れていた。私が殺した人のことなんかこれぽっちも考えてもなかった。

いや、考えてなかったんじゃない。忘れてたんだ。

なんて、最悪な人間。

それでも、ジウさんの声は私を責め立てたりしなかった。ただ、淡々と私に語りかける。

「ま、こんなご時世だ。誰か一人でも殺さずに、生きていられる人間なんて、そう多いほうじゃないと思うがね」

ジウさんの言葉は、半ば呆れた声音が交じった口調だった。

「しかし、今からカツラつけてるなんて、将来ハゲるぞ」

ジウさんは、今までにないくらい軽い口調で、冗談を言った。

もしかしたら、私のことを気遣っているのかな?

でも、何でなんだろう?

ジウさんが私を売るとか、利用するしか想像できない。嫌な想像で塗り固められた私の頭では、ジウさんの人間性を歪めて見るしかできなかった。

だって…………今までずっと、ずっとずっと、人に裏切られて来たんだもん。いや、裏切りではない、か。ずっと恐怖を与え続けられてきたんだ。他人を簡単に信用しろって方が無理な話なんだ。

どうしようもない思いが胸の中から押し寄せてくる。

「ジウさんは、私をどうする気なんですか?」

私は、ジウさんの腕の中で起きてから、初めて口を開いた。

ジウさんがどんな表情をしたか、私には分らなかったけど、雰囲気はそんなに変わらなかった。

ジウさんは少し、黙った後、こう答えた。

「どうもしないさ。実際、奴隷市場にでも行けば、高い金にでもなるんだろうが、そんな場所とは関わり合いは持っちゃいないしな」

ジウさんは嘘は言っていないと思う。

だけど、私はその言葉をどうしても信用できなかった。だから、私はまだ瞳を閉じていた。

「関わり合いを持ったら行くんですか?」

「あんな所とは、できれば関わりたくないね」

私の問いに、ジウさんが答えを返すまで1秒もなかった。

それでも、私の不安は取り除かれない。いつまでも、私の心に巣食って冷静さを奪い去っていく。

それが、さらに私の口を滑らす。

「なら、ジウさんは、私のことをどう思います?」

罪深い私の姿を。

虹色の髪を持つ私の姿を。

“神の人形”としての、私の姿を。

ジウさんはどう見てるんですか?

だけど、その問いに、ジウさんが答えることはなかった。

その沈黙が私に、更なる質問のきっかけを作る。

「ジウさんは、私のことが怖いと思いますか?」

たった一人で、たった一瞬で、十数人の人間を殺すこともできるこんな私に。

ジウさんは恐怖を感じていますか?

だけど、ジウさんの返事は、私の予想外のものだった。

「俺にとって怖い人間は、二人で十分だ。三人もいらない」

それはつまり、怖くないという意味なのだろうか?

私が悩んでいると、今度は逆にジウさんの方から質問がかかってきた。

「じゃ、今度は逆に聞こうか。お前は俺のことをどう思う?怖いと思うか?」

こんな場合、なんて答えればいいんだろう?

でも、私の場合はジウさんが怖いんじゃない。私を知っている他人が怖いんだ。

私に恨みを持っているのか、私をいい商品だと思っているのか、それを考えるのが怖いんだ。

ジウさんの問いには、とりあえず、正直に答えることにした。

「怖いです.........」

自分が誰かに操られているのかと思うほど、私の声は淡々としていた。むしろ、自由に生きることを諦めているのかもしれない。

「そうか」

ジウさんは寂しげにそれだけを呟いた。

私は揺られながら、ジウさんの顔を見ようとした。だけど、やっぱり見ることはできなかった。

しばらく経った後、ジウさんは口を開いた。

「お前は何で人を殺したんだ?」

その問いに私の体の震えは大きくなった。

何でって?冗談じゃない。

“あの人”たちは私が命令に反抗する度に、叩き、殴り、ボコボコにした。それこそ、今まで死ななかったのが奇跡なくらいなのに。

もしも、あの生活に自分の意思というものが存在したのなら、私はジウさんを、とっくのとうに信じきってる。

それほどまでに、“あの人”たちは高圧的で暴力的だった。

だから、私は人を心の底から信じない。

だけど、その言葉は唇の寸前で止められた。

「………殺したかったからです」

代わりの言葉が口から零れ落ちた。

でも、実際に何百人もの人間を殺したことに変わりがない。こんなところで、下らない愚痴なんかを言ってたって、仕方がないんだ。

ジウさんはその言葉を聞いて、その場で三度目の溜息をつき、こう呟いた。

「馬鹿。何で、“殺したかった”のかっていうことを聞いてるんだ」

「それは………」

私はそこで、口篭もってしまった。

本当のことを言いたくなかった。同情よりも、私は軽蔑されたかった。その方が、私にとって気が楽な気がした。

そうだよ。やっぱり罪を許されるより、罰をただ甘んじて受ける方が私の気質に合っている。

人の心はそっちの方が分かりやすいもん。

私は何も言わず、ぎゅっとジウさんの服を握り締めた。

だけど、ジウさんの反応は、私を責めたりも、気遣ったりもしなかった。私の不安をよそにまたポツリと漏らし始めた。

「俺が傭兵やってるのはな、人を斬ったとき、掌に口では表しにくい快感が残るからなんだよ」

私は、ジウさんの顔をそっと見た。

無表情で、ただひたすら、前を向いていた。いや、前を向いていたのではないのかもしれない。もしかしたら、私の方を見たくないのかもしれない。

話の内容からも、そういう風に感じるものがあった。

ジウさんは続ける。

「俺が殺すのは、盗賊だとか、奴隷商人、麻薬商人だとか殺してもいい奴等だ。傭兵なら、その上、そういったことを頼まれて、金も貰える。こんないい仕事は、他にはない。違うか?」

違う。違うと思う。

だって、人を殺すということは、その家族に悲しみを植えつける事に繋がるんだよ。盗賊、奴隷商人や麻薬商人だから、法に触れる存在だから、殺していいなんて、そんなの間違ってる。

でも、その思いを口に出すことは、私にはできない。人を殺した数はきっと、私の方が多いんだ。

「だけど、それが正しいとか、間違っているとかは俺には、分からない。いや、分りたくもない」

ジウさんはゆっくりと吐き出すように口に出した。

その無表情が、口を動かすたび、私の心に重い塊が圧し掛かる。

だけど―――。

「だから、お前のことをどうこう言うつもりはない。ついでに言うと、お前を売ってまでカネが欲しいわけでもない。少しは、安心したか?」

え?

今、ジウさんが最後に言った言葉って、どういうこと?じゃあ、本当にジウさん、私の不安を消すために、これまでの会話を続けてたの?

………でも、ジウさん、その話の内容じゃ、余計に不安になるだけだって…………。

もしかして、意外に話し下手?

なんだか不安を呼び起こしそうにない思考ばかりが、私の頭を駆け巡った。

「とにかくだな、人を殺した奴がめそめそしてたら、話にならないって事だ。人間はもともと利己的な生物なんだし。それに、お前は………もう人を殺す気はないんだろ?」

ジウさんの言っていることは詭弁ではあるけれど、忘れろってことでもなければ、開き直れということでもなさそうだった。私には、正確な真意はわからなかったけど。

私は、ほんの少し

「………今日はやけに饒舌だな。俺らしくない」

「ジウさん」

私はジウさんと、初めて目を合わせた。

「………腕、重くありません?」

ジウさんは、私の問いにしばらく考え込んだ後、こう答えた。

「ああ重いな」

普通の女の子だったら、傷付くんだろうけど、私普通じゃないからなぁ。痛くも痒くもないや。

「一人で歩けますよ?」

「分かった」

そう言うと、ジウさんはゆっくり私を降ろしてくれた。

そういえば、私はいつから、お姫さま抱っこに憧れてたんだろ?

私は、男の人は嫌いというわけではないけれど、ひどく苦手だったのに。私を殴る人は、いつも男の人だったからな。

それに、私を“あそこ”に連れて行った人も、“あの”男の人だった。

それなのに、何でかな?

ふと、そんなことを思って私は微笑んだ。

私も一応は女の子なんだ。何か、実感はないけど。

「何が可笑しいんだ?」

ジウさんがそんな私を見て、こう言った。

私はあえて答えなかった。

お姫さま抱っこが密かな憧れだったんですなんて、答えたらジウさん、きっと困ると思うから。

私はそう思いながら、口元をもっと綻ばした。

「変な奴だな………」

私はジウさんが、未だに信用ならなかったけど、今このときだけは信用とか、疑いとか、関係ないような気がした。

だから、今は笑っていたい。

「なあ―――」

「はい?」

ジウさんが急に真面目な顔になったのを見て、私はどこか不安になった。

何を言うつもりなんだろう?

ジウさんは思いもかけない言葉を、口にした。

「俺と一緒に来ないか?」







私はこの時、知らなかった。私に出会ったことで、ジウさんの心の中でどのような変化が起きたのか………。

そして、忘れ去った大切な過去がどこにあるのかも、私は知らなかった―――――――。











後書き

こんにちは、あなたの知らない人です。

相変わらず、ラドの影が薄いです。っていうか、前回と今回一度も出てないし。見せ場は一応、用意してあるからいいんですが………。でもなあ、アレを出すと、外道とか言われちゃいそうなんですよねぇ.........。

まぁ、気にしたら、負けですね。主人公自体が外道なんだから、気にしない気にしない(笑)

ああ、しかし、ユニトは描きにくいヒロインですね。脇役(?)のラドの方がよっぽど描きやすいかもしれません。でも、しばらくは、ラドに見せ場なし。

という訳で、描きにくいヒロイン、ユニト・ラストマジックをこれからもどうぞ、温かく見守ってやってください。



では、ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。次回も見てくだされば、幸いです。



 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

どうも難儀な人生送ってきたっぽいユニトですから、そうそう人は信じられませんわなぁ。

そういう意味では、盛り上がりにはかけるものの自然な流れであったかと。

とは言え、少々間延びしている印象があるのも事実なので、そろそろ盛り上がりの一つも欲しいかなと思います。

頑張ってください。