十六夜の零

 

 

 

第一章 「剣士召喚」

 

 

 

 

気持ちの良い微風が吹く中、その場に居た全員の視線は一人の少年と少女に集中していた。 もっともその視線の内容は、主に悪意と嘲笑に彩られていたが。

周囲からの視線に居心地の悪さを感じたのか、学生服を着た17〜18才位の中肉中背の少年は、少し長めの黒髪を掻きながら周りを見渡して自分の現状を確認しようとしていた。
差し迫った危険は感じないので警戒はしていないが、何か別の意味でとんでもない事態に巻き込まれている事を、歴戦の戦士である少年の勘が伝えていた。

整ってはいるが、決して線の細さは感じさせない顔つき、力強さと好奇心を宿した眼に怯えは無い。

とりあえず、現状のままでは何も進展がなさそうなので、少年は自分を睨み付けている目の前の少女に声を掛けた。

その少女はというと非友好的な視線と表情で、心の底から少年に不満を訴えているのだが。

「あー・・・とりあえず、君って日本語話せる?」

少年が初めにそう聞いた訳は、目の前に居る少女の髪の毛の色が桃色がかったブロンドであり、また瞳の色は大きな鳶色をしており、肌も自分と同じアジア圏とは違う透き通るような白色をした、14〜15才位の小柄な美少女であった為だ。

つまり、少年と同じ日本人には見えなかったのである。

「日本語って何よ・・・それより、あんた誰よ?」

「・・・って、日本語で喋ってるじゃないか」

更に不機嫌そうな気配を増す少女を前にして、少年は何か気に触るような事を言ったかなぁ、と思いつつ改めて自分達を取り囲む人垣を見渡した後で溜息を吐いた。

「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」

「また失敗かよ!!
 さすがはゼロのルイズだな!!」

「うるさいわね!!
 ちょっと間違っただけよ!!
 私がこんな平民なんか呼び出すわけないでしょ!!」

少年は目の前の少女の名前が『ルイズ』という事を知った。 そのついでに、自分が随分と軽んじられている事も悟った。
初対面の人間に「平民」呼ばわりは無いだろう・・・と。
色々と言いたいことは有るのだが、現状の確認が取れないため黙って様子を見る事にする。

「なんだよ、間違いとかじゃなくて、何時もと同じ失敗だろ?  いいじゃないか、平民で我慢してろよ」

「うるさいわね!!  間違いって言ったら間違いなのよ、黙りなさいよ!!」

真っ赤な顔で周囲の野次に大声で反論するルイズ。

「・・・そんなに平民、平民と連呼しなくていいじゃないか。
 ま、実際平民なんだけどさ。
 というか、やっぱり日本語じゃないみたいだな」

不本意ながら、ある意味不思議現象に縁が有る少年は、少女の口の動きと自分の耳に聞こえている日本語に発音上のズレがある事に気がついていた。
それは周囲の人達から沸き起こる野次にも、同じ事が言える。

これは絶対にろくでも無い事に巻き込まれた・・・現状がそう物語っている。
早く自室に帰って宿題をして、お気に入りのアイドルの出ているドラマを見て安らかにベットで眠りたい。 もしかすると、『彼女』からの電話があったりするかもしれない。
お互いに共通の話題は少ないが、『彼女』の声を聞くだけでも明日への活力が沸いて出てくるのだ。

 

――――少年は心の底から、小市民的な自分の生活を渇望した。

 

でも、少年にとって現実は何時も残酷だった。

 

もう一度溜息を吐いた後、少年は改めて目の前で騒いでいるルイズを観察した。
学校の制服のようなものを着て、その上に黒いマントを羽織っている。

制服に黒マントという所に、過去にあった嫌な思い出が蘇ったが表情には出さなかった。
どんな過去かというと、一言で言えば貞操の危機だ。

ついでに改めて周囲の景色を観察してみる。
どう考えても日本の首都東京とは思えない、美しい草原が目に映った。
肺に満ちる澄んだ空気が、忌々しい程に美味しい。

自分の記憶が正しければ、つい先ほど腐れ縁の医者が経営する病院で、何故か気を惹きつける扉があったのでついつい足を踏み入れてしまったのだが・・・
幾ら病院内とはいえ、自分も迂闊すぎたかもしれない。
よく考えてみれば、あの医者の経営する病院なのだ、きっとろくでもないトラップがあったに違いない。
・・・現に訳の分からない連中に、的外れな因縁を付けられているんだし。

 

少年の中での回想が終わる。

 

自業自得とはいえ、自分の身にかなりの不条理が起きた事をかみ締めながら、騒がしさを増すルイズ達の動きを冷静に観察をしていた。

「ミスタ・コルベール!!」

「なんだね。ミス・ヴァリエール」

ルイズが少年の前から駆け出し、『コルベール』と呼ぶ人物の元に向かう。

「お願いします!!  もう一度召喚させてください!!」

「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」

「どうしてですか!!」

「決まりだよ。
 二年生に進級する際、君たちは『使い魔』を召喚する。
 まあ、平民を呼び出すとは予想外だが・・・」

「ちょっと質問してもいいですか?
 『使い魔』って俺の事を言ってる?」

ルイズを諭していた黒いマントを着た頭頂が寂しい中年の男性・・・『コルベール』はいつの間にか自分達の傍に来てた少年を警戒して、ルイズとの言い争いを止めて少年を見つめる。
つい先ほどまでこの少年は二人から離れた場所に居たのだ。
少年が動いた気配どころか、足音すらコルベールは感じられなかった。

その視線に込められた圧力を受けた少年は・・・再度開きかけた口を閉ざして、天真爛漫な笑顔を浮かべる。

少年の態度を見て、表情には出さなかったがコルベールの内心に動揺が走る。
有る意味被害者でもある少年に向けた視線には、勿論殺気などは篭ってはいなかった。
しかし、良家の子女を預かる身として、何より教師として危険な人物を見逃す訳にはいかない。
そこで牽制を兼ねて、脅すつもりでこの少年の出方を見ようとたのだが・・・少年はそんなコルベールの思惑を悟った上で、特に緊張もせずに自然体を保っているのだ。
コルベールが過去に培った経験から発する視線の圧力を、笑顔で返す平民の少年など存在するとは思えない。

 

数秒間――――コルベールと笑顔の少年の間で無言のやり取りが行われる。

 

「とにかく、呼び出された『使い魔』によって今後の属性を固定したり、専門課程へと進むんだ。
 一度呼び出した『使い魔』は変更する事は出来ない。
 春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ。
 ・・・かなりイレギュラーな事態だが、彼を『使い魔』にしなさい」

「・・・俺の意思は?」

先に視線を外したのはコルベールだった。
『使い魔』と少年を呼んだ瞬間、少年の瞳の奥に彼には理解できない何か清冽な力を感じたからだ。
その力や少年の気配には、何処か人を惹きつけるものがあった。
だからと言って魅了の魔力等を受けてはいない。
コルベールの勘も、彼が教え子達に害を与える存在ではないと言っていた。

ならば、神聖な儀式を中途半端に止める訳にはいかない。

「でも!!
 平民を使い魔にするなんて聞いた事がありません!!」

「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。
 例外は認められない。
 使い魔召喚の儀式のルールは、あらゆるルールに優先する。
 彼は確かに平民かもしれないが・・・ただの平民とは違うかもしれない」

「いえ、正真正銘ただの平民です」

コルベールの必死のフォローを、少年は清々しい笑顔で自ら否定した。

 

 

――――三人の間に冷たい風が吹いた。

 

 

 

 

「ミミミミ、ミスタ・コルベール!!
 な、な、何だか清々しい笑顔で、こんな事言ってますけど!!」

「い、いや、本人はこう言っててもルールはルールだから」

額の汗を拭いつつ、更にヒートアップするルイズを懸命に宥めている。
その様子を見ながら、少年は面白そうに笑っていた。
どうせ厄介ごとに巻き込まれるなら、せいぜいかき回してやる。
禿げたおっさんは品定めをするような眼で睨んでくるし。

自分の意見をまるで聞こうとしない二人に、さり気なく嫌がらせをする少年だった。

「とにかく!!  彼を使い魔にしなければ進級は無し!!
 ミス・ヴァリエールには留年をしてもらう!!
 さっさと儀式を続けなさい!!
 それに君が召喚にどれだけの時間を掛けたと思っているんだね?
 やり直しをする時間も暇も残って無い!!」

「う・・・」

コルベールがルイズの我侭を正論で叩き伏せる。 実際、予定の時間よりかなりオーバーをしているのだった。 ルイズの同級生らしき学生達も、そうだそうだと野次を飛ばしている。

ルイズは諦めた表情で、隣に立つ少年を改めて観察した。
自分より頭ひとつ分位ある身長で、見た事も無い黒い服を着ている。
呼び出した時は気が動転していたので気がつかなかったが、整った顔をしている。
貴族のような豪奢な輝きではなく、何か包み込まれるような暖かい光を少年から感じた。

当の本人は不思議そうに、緊張感の無い表情でルイズの行動を見守っているだけだが。

 

「・・・・・・・・・・・・・・まあ、顔はギリギリ合格ね」

「・・・・・・・・・・・・・・そりゃどうも」

 

 

友好的な雰囲気には程遠い二人だった。
そんな二人を見守るコルベールの後頭部に大きな汗が浮かぶ。

 

 

「あんた感謝しなさいよね。
 貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」

そんな事をぼやきながら、ルイズは手に持った小さな杖を少年の前で振る。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

呪文のような言葉を唱えたあと、少年に屈めと手振りで指示をする。
面白そうにルイズの動きを見ていた少年が、苦笑をしながら中腰になるとルイズが唇を近づけてきた。

 

コルベールを含む周囲の視線が二人に集中する。

 

少年は当然のようにルイズを避けた。

 

眼をつぶっていたルイズは、そのままの勢いでこけた。

 

 

 

―――――――静寂がその場に満ちた。

 

 

 

 

 

「ななな、何避けてるのよあんたは〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

「いや、普通脈略も無くそんな事されたら避けるだろ?  というか何をするつもりなのかちゃんと説明しろ」

少年はとぼけた顔でルイズからの抗議を受け流す。

 

「平民が貴族に逆らうな〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

爆笑の渦に包まれる中、必死に少年を捕まえようとするルイズ。
そんなルイズの攻撃を、少年は軽やかな動きで避けてみせる。
風に揺れる柳のようなしなやかかつ絶妙な体術に、コルベールと一部の生徒の視線が鋭くなる。
明らかに少年の動きはただの平民とは、間違っても呼べるレベルでは無かったからだ。

数分も少年と追いかけっこをした後、元々体力が無いルイズが荒い息で地面に座り込む。
周囲もその見世物に飽きたのか、ルイズを揶揄する声が益々高まっていた。
地面から怒りの眼差しを注ぐルイズの前には、息ひとつきらしていない少年が立っている。

「おいおい、平民にも相手をされないのかよ、ルイズ!!」

「本当に何て無能なのかしら。  同じ貴族として恥ずかしいわ」

そんな構図を見ていたコルベールは、ルイズだけでは少年との間に使い魔の契約を行うのは無理だと判断した。
少年が幾ら素晴らしい体術を修めていても、所詮は平民である。
自分の魔法を使えば動きを止める事など簡単に出来るはず。

コルベールがそう判断をして動き出そうとした時、少年はルイズではなくコルベールを見ていた。

少年が軽く挙げた右腕の手の平と、その視線を向ける事によってコルベールの動きが止まる。

「!!」

決してその視線に威圧感など無かった・・・だが、コルベールはそこに不思議な圧力を感じてその足を止めた。

少年はそんなコルベールを見た後、苦笑をしながら屈んでルイズと視線を合わす。
ルイズは自分に降りかかる罵声に耐えながら、毅然とした態度で少年と眼を合わせた。
少年は正直に言うとこんな罵声の中でも、心を折らずに正面を見続けるルイズに感心をしていた。

自分に対する非礼な振る舞いに、少々意地悪をしてしまったがルイズの芯の強さに『彼女』を重ねて好ましいとも感じていたのだ。

少年の心を大きく占有している『彼女』も、芯の強い女性だった。

そんな視線を感じたのか、ルイズは顔を上げてキツイ瞳で目の前の少年を睨む。

「何よ!!」

「いや、意地悪をした事は謝るからさ機嫌を直してくれよ。
 少しは俺の立場になって考えてくれよな、いきなり訳も分からずこんな所に呼び出されて、平民呼ばわりだしさ。
 きちんと説明をしてくれれば、協力出来ることは協力するし」

少年からの思いがけない提案にルイズは少し驚いた顔をしたが、このままでは埒が明かない事は明白であり少しは冷静になれた事もあって、少年の要望に応えて『コントラクト・サーヴァント』について簡単に説明をした。

曰く、使い魔として主人と契約を行うもの

曰く、主人の目となり耳となるもの

曰く、主人の望む品物を見つけ運ぶもの

曰く、主人を守る存在

それらの説明を少年は一つ一つ頷きながら、真剣な表情で聞いていた。
周りの生徒達は面白そうなイベントも起きない気配なので、コルベールに許可を貰いルイズに嘲笑を投げ掛けながら空を飛んでいった。
その光景を横目に見て、一瞬だけ少年の眼差しが鋭くなったが、そのまま何も言わずにルイズの言葉に耳を傾けていた。

コルベールは少年とルイズを置いて帰る訳にはいかず、何より少年の行動に興味もあったのでその場に残っていた。

 

そして、日が落ちかけた頃にルイズの説明は終わった。

 

改めて使い魔の内容を確認したルイズは、平民の少年にこんな役は務まらないと思っていた。
むしろ、使い魔にしたところで何かに役に立つとも思えない。
両親や姉達は失望すると思うが、今回は使い魔の召喚を諦めて、留年をするしかないと覚悟をした。

 

・・・というより、もしかしたら留年をしたお仕置きで再起不能になるかもしれない。

 

覚悟を決めてしまい、何故かガクガクブルブルと震えだしたルイズを見て、ちょっと意地悪が過ぎたかと勘違いをした少年が少々慌てながら話題を替える為に質問をする。

「今更な質問だけど・・・此処は何処だ?」

「はぁ、トリステインよ。  そして、ここはかの高名なトリステイン魔法学院」

「・・・・・・・・・・・・・・ヨーロッパの何処か?」

「何処の田舎よそれ?」

突然の質問に自分を取り戻したルイズが、不思議そうに首を傾げながら返事をする。
そんなルイズを暫く眺めた後、幾つかの地名を少年が挙げる。
いまま泰然としていた少年の焦る姿を不思議に思いながら、ルイズはその地名に首を傾げるばかりだった。

やがて・・・双子の月が姿を現し、少年が無口のままその景色を眺めていた。

何だか声を掛けづらい雰囲気だが、ルイズが戸惑いながら声を掛ける。

「もう使い魔になれなんて言わないから、あんたは自分の家に帰りなさいよ」

「・・・帰れればな」

ちょっと投げ遣り気味な口調で少年がルイズに返事をする。

「えっと、もしかしてあんたってかなりの田舎の出身なわけ?
 呼び出した責任は私にあるから、旅費位ならだしてあげるわよ」

「金銭どうこうで解決すれば、問題はないんだけどなぁ・・・」

少年はほぼ正確に自分の現状を把握していた。
此処が自分の住む世界ですら無い事も、そしてルイズとの間に何らかのパスが繋がっている事も。
少年が身に付けた、その能力が様々な事を彼に教えてくれる。

 

――――――だが、帰り方までは分からない。

 

自分に起きた現象がルイズが引き起こした事ならば、同じ現象もルイズにしか起こせない可能性は高い。
そして貴族などという存在が幅を利かすこの世界で、自分一人では帰還の道を探す事は難しい事も分かる。
ついでに言えば、あの医者の悪戯でも多分ないだろう・・・もし奴が一枚噛んでるなら、今度こそきっちりかたを付けてやると心に誓っていた。

少々意識が違う事に向いてしまったが、さてどうする?
衣食住を確保しつつ、情報集めに有利な場所は何処か?

少年の頭脳はこれからの事について真剣に悩んでいた。
トラブルには慣れていたが、今回のトラブルは過去に経験した事と質が違っていた為にこれという解決方法は直ぐに思いつかないのだ。

再度、目の前に居るルイズに『彼女』が重なる。
野次られようが、嘲笑されようが、自分のプライドを最後まで捨てなかったその姿が。
二人で駆け抜けたあの新宿での戦いを思い出す。
どんなに否定されようと『彼女』の心の優しさと強さは輝きが褪せる事など無かった。

そして、少年の鍛えられた勘が、これからの騒動を予感させている。
ここで引いておけば、時間は掛かるが何時か帰還は可能かもしれない。

 

―――しかし、そんなつまらない考えを少年は笑い飛ばした。

 

「なあ、俺からお願いするのも変かもしれないが。
 俺を使い魔として契約してみないか?」

ルイズの目が驚きに大きく開かれた。

ルイズとしては進級が掛かっているので、悪くは無い提案だった。
しかし、素早い事が取り柄の少年に使い魔が勤まるだろうかとの躊躇いもある。
何より使い魔の仕事を聞いた上で、何故今更その契約を承諾するのだろうか?

真意を問いただすルイズに、少年は真面目な顔で一言だけを返す。

「ま、ルイズを見ていると面白そうだからかな?」

 

 

 

 

 

 

――――死んで地獄で懺悔しろ。

 

 

ルイズは心の底からそう思った。
今までの自分の優しい心遣いや、悲壮な覚悟を思い知らせてやりたかった。
平民の分際でその態度といい言葉遣いといい、自分に魔法が使えれば即座に思い知らせてやれたのに。

ルイズの頭の中で少年は、刺殺されて焼殺されて凍死をして粉々になって土へと還っていた。

 

そんな冷たい殺意に目覚めつつも、ルイズは冷静に現状を整理する。

 

一旦結んだ『コントラクト・サーヴァント』は使い魔が死ぬまで有効だ。
しかし、使い魔が死んだ後では再度の召喚が可能になる。

つまり、進級をする事が出来ればこの平民=使い魔は用済み。

こちらの損失は・・・大切なファーストキスと、一時のプライドへの傷。

 

 

 

ニヤリと可愛い顔に、邪な笑みを浮かべるルイズに少年は思わず一歩後退をした。

 

 

 

「いいわよ、あんたを私の使い魔にしてあげる。
 光栄に思いなさい!!」

「ああ、はいはい光栄です」

「気安く頭を撫でるな!!」

そして、少女と少年の間に改めて契約が結ばれる。
両者合意の下とはいえ、お互いに照れは隠せなかったが。

「・・・っ!!」

不意に痛みを感じた少年が、自分の左手の甲を見るとそこに『使い魔のルーン』が刻まれていた。
特に自分の身体に害は無さそうだが、ルイズと繋がっているパスが更に強固になっている事を少年は感じた。

不思議そうにルーンを見ている少年に今まで蚊帳の外というか、会話に入れなかったコルベールが近づいていく。
少年に一言断りを入れてから、その左手に刻まれたルーンを確認する。
少年はコルベールの存在をずっと認識していたので驚いていないが、ルイズはコルベールの存在に驚いていた。
どうやら完全にその存在は意識に無かった様子だ。

そんな恩知らずな生徒の視線を受けて、月明かりに輝く額に青筋を浮かべつつコルベールは己の責務を果たす。

「珍しいルーンだが・・・契約は問題なく出来たようだね。
 では、随分と遅くなったが学院に帰ろうか?」

「はい、ミスタ・コルベール」

コルベールに続いて歩き出そうとするルイズが、思い出したかのように背後に居る少年に問いかける。

「そう言えば、あんたの名前は何て言うの?」

 

その問いに少年が苦笑をしながら返事をする。

 

「やっと聞いてくれたか・・・
 俺の名前は京也、十六夜 京也だ。
 これから宜しくな、ご主人様」

 

 

 

 

その日、魔界都市にその名を轟かせる剣士がハルケギニアに立った。

 

 

 

後書き

どうも、Benです。 ・・・・・いやぁ、お久しぶりですね。

私の事なんて皆さん忘れていると思いますが、久しぶりにSSを書いてみました。

しかもナデシコじゃなくて、クロスもの(苦笑)

ま、リハビリを兼ねて以前から考えていた作品を書いてみました。

ちなみに、主人公君は魔界都市新宿の十六夜京也(基本は小説版)です。

知っている人って居るのかな?

では、次は10月末に更新を目指して頑張ります。

 

 



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